東京高等裁判所 平成16年(行コ)8号 判決 2004年5月19日
控訴人 甲
被控訴人 鶴見税務署長
安藤敏雄
指定代理人 宮田誠司
同 信本努
同 増渕実
同 小林健二
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が平成11年3月5日付けでした控訴人の平成7年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額314万円、納付すべき税額14万7900円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(3) 被控訴人が同日付けでした控訴人の平成8年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額307万円、納付すべき税額17万2800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(4) 被控訴人が同日付けでした控訴人の平成9年分所得税についての更正処分のうち、総所得金額561万6751円、納付すべき税額56万3600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(5) 被控訴人が同日付けでした控訴人の平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税についての決定処分のうち、納付すべき税額71万4180円を超える部分及び無申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(6) 被控訴人が平成11年3月5日付けでした控訴人の平成8年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税についての更正処分のうち、納付すべき税額71万0550円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(7) 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2 事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
1 原判決書7頁1行目の「接渉」を「折衝」に、16頁23行目の「所得」を「所得率」にそれぞれ改める。
2 控訴人の当審における補足的主張
(1) 丙係官は、原審証言の中で、控訴人から帳簿の提示がなかったと偽証しており、原判決はこの証言を採用して同事実を認定しているが、これは誤りであり、事実は、同係官が本件税務調査時に当時調査に立ち会っていた組合役員である丁より、所得税算出資料の基礎になっている元帳を持参するように提案を受けていたにもかかわらず、これを拒否したものである。
したがって、本件では推計課税の必要性はない。
(2) 本件推計課税は、次のとおり、合理性を欠いている。すなわち、ア原判決は、総収入金額が控訴人のそれの半分以上、2倍以下の同業者を抽出しているから合理的である旨判示しているが、推計の方法について規定する所得税法156条との関連性は何ひとつ説明されておらず、同条が規定する推計の最低要件をも無視しているのであり、また、イ本件同業者率は、国税局の資料によれば、本件更正処分時ではなく、その後の平成13年6月13日に特定されているという矛盾が存在する。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと考えるが、その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第6 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における補足的主張についての判断)
(1)について
控訴人は、丙係官が本件税務調査時に控訴人から丁を介して元帳を持ち帰るように提案されていたにもかかわらず、これを拒否していたのであるから、推計の必要性を欠いているのに、原判決は控訴人から必要な帳簿の提示がなかった旨事実誤認していると主張する。
しかしながら、推計の必要性を根拠付ける帳簿の不提示の対象となる帳簿等とは、控訴人の本件係争年度に係る所得税の実額を捕そくするのに十分な直接資料となり得る帳簿類を意味するものであり、本件税務調査時にこのような帳簿類が控訴人から提示されたことを認めるに足りる証拠はないから、そのような帳簿類の提示はないとして本件推計の必要性を認めた原判決の判断に誤りはない。
したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がなく、採用することはできない。
(2)について
控訴人が本件推計には合理性がないとして主張する根拠のうち、アについてみるに、被控訴人は、総収入金額が控訴人のそれのいわゆる倍半の範囲内にある比準同業者を抽出しているところ、これは、原判決が説示するとおり、控訴人の事業との事業規模の類似性の確保の上で合理的なものであり、その事業規模の類似性こそ正に所得税法156条が推計の方法として求めているところであるから、両者の関連性は十分に認められる。
したがって、その関連性についての説明がないとする控訴人の主張は理由がない。
次に、イについて検討するに、本件課税処分の適法性は、同処分によって確定された税額が総額において客観的に存在した税額を超えていなければ肯定されるものであり、税額算出の基礎となる事実は単なる攻撃防御方法にすきないのであるから、被控訴人は、本件更正処分を維持するため、同処分時の資料に拘束されることなく、その後調査した資料に基づいて課税根拠事実を主張することができるものと解される。したがって、被控訴人が本件更正処分時には存在しなかった平成13年6月13日付け同業者率の資料に基づいて本件更正処分の適法性を主張したからといって自己矛盾や瑕疵が存在することにはならない。
そうすると、この点に関する控訴人の主張も理由がなく、採用することはできない。
第4 結論
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 堀内明 裁判官 志田博文)