東京高等裁判所 平成17年(う)2637号 判決 2006年1月18日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中40日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人楠賢二作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。
第1 法令適用の誤りの主張について
所論は、要するに、原判決は、公訴事実と同一の窃盗の事実を認定した上、被告人を懲役2年6月に処したが、被告人と本件窃盗被害者は、本件当時同居して内縁関係にあった元夫婦であるから、刑法244条1項を適用ないし準用してその刑を免除すべきであるのにこれをしなかった点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。しかしながら、刑法244条1項にいう「配偶者」とは民法上婚姻の成立している者をいうのであって内縁関係は含まないと解されるし、これを本件事案に準用すべきであるとも解されないので、原判決に法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
第2 量刑不当の主張について
所論は、要するに、被告人を懲役2年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。
そこで検討すると、本件は、被告人が、4か月足らずの間に前後7回にわたり、同居する元妻が自宅の耐火金庫に保管していた現金合計725万円を窃取したという事案である。被害金額が高額に上る上、解錠業者を利用したりして金庫内から生活の面倒を見てくれていた元妻(犯行当時76歳)が大切にしていた老後の資金を盗み出し、犯行が発覚しないように紙幣の大きさに裁断した新聞紙で現金が無事であるかのように細工するなど、態様も悪質である。窃取した金を競艇や競馬などに浪費した犯行後の態様も芳しくない。離婚した被告人がホームレスをしているのを見かねて同居させた元妻の被った衝撃も大きい。元妻は老後の不安を抱えているが、使い切らなかった約30万円が返還されたほかは被告人による弁償の目途はない。
そうすると、被告人が反省していること、これまで道路交通法違反による罰金前科以外に前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、被告人を懲役2年6月に処した原判決の量刑はやむを得ないものであってこれが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中主文掲記の日数を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。