東京高等裁判所 平成17年(う)351号 判決 2005年12月09日
主文
原判決を破棄する。
被告人Y1を罰金一〇万円に、被告人Y2及び被告人Y3をそれぞれ罰金二〇万円に処する。
被告人Y1に対し、未決勾留日数のうち、その一日を金五〇〇〇円に換算してその罰金額に満つるまでの分を、その刑に算入し、被告人Y2及び被告人Y3に対し、未決勾留日数中各二〇日を、その一日を金五〇〇〇円に換算して、それぞれその刑に算入する。
被告人Y2及び被告人Y3においてその罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用は被告人三名の連帯負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、検察官宇井稔作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人栗山れい子、同小島啓達、同内田雅敏、同虎頭昭夫及び同山本志都連名作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
一 論旨は、要するに、原判決は、本件各公訴事実について、被告人らの防衛庁立川宿舎(以下「立川宿舎」という。)・敷地への立入り行為が住居侵入罪の構成要件に該当するものであるとしながら、被告人らが立川宿舎・敷地に立ち入った行為は、法秩序全体の見地からして、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められないとして、被告人三名に無罪を言い渡したが、原判決は、本件について、違法性の有無について事実を誤認し、ひいては刑法一三〇条の解釈、適用を誤ったものであり、それらの誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れない、というのである。
そこで、原裁判所が取り調べた証拠を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、原判決が、被告人らが立川宿舎の敷地及び各棟各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入った行為は、住居侵入罪の構成要件に該当するが、法秩序全体の見地からして、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められないとの理由により、被告人らに対し無罪を言い渡したのは、刑法一三〇条の解釈、適用を誤ったものといわざるを得ず、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は全部破棄を免れない。以下、説明する。
二 構成要件該当性について
(1) 本件各公訴事実の要旨
ア 平成一六年三月一九日付け起訴状分(同年六月二五日付け訴因変更請求書により変更されたもの)
被告人Y1、被告人Y2及び被告人Y3は、共謀の上、「自衛隊のイラク派兵反対!」などと記載したビラを立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的で、管理者及び居住者の承諾を得ないで、平成一六年一月一七日午前一一時過ぎころから同日午後零時ころまでの間、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aらが管理し、Bらが居住する東京都立川市<以下省略>所在の立川宿舎の敷地に立ち入った上、同宿舎の三号棟東側階段、同棟中央階段、五号棟東側階段、六号棟東側階段及び七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入り、もって正当な理由なく人の住居に侵入したものである。
イ 平成一六年三月三一日付け追起訴状分(同年六月二五日付け訴因変更請求書により変更されたもの)
被告人Y2及び被告人Y3は、共謀の上、「ブッシュも小泉も戦場には行かない」などと記載したビラを立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的で、管理者及び居住者の承諾を得ないで、平成一六年二月二二日午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時過ぎころまでの間、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aらが管理し、Bらが居住する上記所在の立川宿舎の敷地に立ち入った上、同宿舎の三号棟西側階段、五号棟西側階段及び七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入り、もって正当な理由なく人の住居に侵入したものである。
(2) 原判決は、本件各公訴事実に記載された事実関係、すなわち、被告人らが、各公訴事実記載のとおり、前記各ビラを立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的で、管理者及び居住者の承諾を得ないで同宿舎の各室玄関前まで立ち入ったことは、証拠上優に認められる(ただし、平成一六年三月一九日付け起訴に係る公訴事実中、被告人らが立ち入った時間帯については、「午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時過ぎころまで」と認定すべきである。)とした上で(さらに、原判決は、その九頁以降において、「自衛隊のイラク派遣に反対するビラの投函行動について」、「平成一六年一月一七日のビラ投函行動の状況について」、「前記ビラ投函行動後の状況及び平成一六年二月二二日のビラ投函行動の状況について」の表題の下、具体的に被告人らの各行為を認定している。また、以上によれば、原判決は、被告人らの本件各立入り行為が関係被告人間の共謀によることも認定しているものと解される。)、被告人らの立ち入った箇所が刑法一三〇条前段にいう「住居」に該当し、被告人らの各立入り行為は、居住者及び管理者の意思に反するものであるから「侵入」に該当するので、被告人らの各立入り行為は住居侵入罪の構成要件に該当すると結論付けている。
(3) 本件で被告人らが立ち入った場所が刑法一三〇条にいう「住居」等に該当するか否かについて
原判決は、「住居」とは「人の起臥寝食に使用される場所」を指し、立川宿舎の各居室がこれに当たるとした上で、その敷地及び共用階段につき、外界と各居室を結ぶ道などとして同宿舎の居住者らの日常生活上不可欠なものといえ、また、専ら同人らやその関係者らの用に供されていると推認できることからすれば、宿舎居室と一体をなして「住居」に該当すると評価すべきであるとしたが、弁護人は、原審以来、被告人らが立ち入った場所は、「住居」に該当しないと主張している。当裁判所は、被告人らが立ち入った場所は、人の「住居」には該当せず、「人の看守する邸宅」に該当すると解するので、以下説明する。
ア 原裁判所で取り調べられた証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 立川宿舎及びその敷地の形状等
立川宿舎の敷地は、約二万平方メートルの広さがあり、L字形をしている。細長い南北部分の東側及び北方の東西部分の北側がいずれも歩道のない一般道路に面し、南北部分の西側並びに北方の東西部分の西側及び南側は自衛隊東立川駐屯地に接している。南北部分敷地内の南方には、空き地に接して南から順に一号棟ないし八号棟として、鉄筋四階建ての集合住宅建物(各階六戸)が、それぞれ間に通路を挟んで建てられており、八号棟の北方は空き地である。また、その空き地の更に北方の東西部分には、東西に並んで東から順に九号棟、一〇号棟として、同様の集合住宅建物(ただし、いずれも五階建てで、一〇号棟は各階八戸である。)が建てられている(原判決別紙一[甲二六四添付の「現場見取図二」の写し]参照)。
一号棟の敷地とその南の空き地との境には鉄製フェンス(高さ一・五三メートル)が設置されている。一号棟ないし八号棟の敷地と東側道路との境には、一号棟の敷地の南端から一号棟東側付近までは鉄製フェンスが設置され、その北に一号棟北側通路への出入口となる約七・一メートルの開放部分(ただし、通路の幅はこれよりも狭い。)があり、さらにその北から八号棟北側通路への出入口(この開放部分の幅は四・一メートル)までは、各号棟北側通路への出入口となる約五ないし九メートルの開放部分を除いて金網フェンスが設置されている。八号棟の敷地とその北の空き地との境には木製杭(杭の間には鉄線四本が張られている。)が設置されている。一号棟ないし八号棟の敷地の西側は自衛隊東立川駐屯地と接しており、その境には、門扉のある通用門一箇所があるほかは、鉄製フェンス(高さ一・八五メートル、一部高さ二・一メートル)が設置されている。以上のように、一号棟ないし八号棟の敷地は、出入口となる開放部分を除いて鉄製フェンス、金網フェンス等により囲繞されている。なお、九号棟及び一〇号棟の敷地の周囲も道路への出入口のほかは鉄製フェンス、金網フェンス等により囲繞されている。そして、敷地内には、各号棟ごとに自動車の駐車スペースと自転車置場が設けられている。
各集合住宅建物には、それぞれ、東側階段、中央階段及び西側階段につながる門扉等のない三箇所の出入口(ただし、一〇号棟は四箇所)があり、その一階各出入口の階段下に集合郵便受けが設置されている。
(イ) 禁上事項表示板・禁止事項表示物
上記のとおり、各号棟の敷地は出入口を除いて鉄製フェンス、金網フェンス等で囲繞されているが、その開口部のすぐ左又は右の各フェンスに、いずれもA3判大(横長)の用紙に、縦書きで、
「宿舎地域内の禁止事項
一 関係者以外、地域内に立ち入ること
一 ビラ貼り・配り等の宣伝活動
一 露天(土地の占有)等による物品販売及び押し売り
一 車両の駐車
一 その他、人に迷惑をかける行為
管理者」
と印刷されてビニールカバーがかけられた禁止事項表示板が設置されていた(平成一五年一二月一八日夜に設置された。)。
また、各集合住宅建物の出入口内にある掲示板又は集合郵便受けの上部の壁等には、A4判大の黄色又は白色の用紙に、上記禁止事項表示板と同じ内容を記載した禁止事項表示物(一部はビニールカバーがかけられている。)が掲示されていた(平成一五年一二月一九日から二四日までの間に掲示。ただし、平成一六年二月三日の実況見分時には、一号棟及び九号棟の各入り口並びに三号棟の中央入り口、四号棟の東側入り口、五号棟の西側入り口、八号棟の西側入り口にはこの掲示が存しなかった。)。
(ウ) 立川宿舎の管理状況
立川宿舎は、防衛庁の職員及びその家族が居住するための宿舎で、一号棟から八号棟は、ほとんど全居室に居住者が入居していた状態であった。その管理については、国家公務員宿舎法、同法施行令等に根拠となる規定があり、立川宿舎の敷地及び五号棟から八号棟が陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長、一号棟から四号棟が航空自衛隊第一補給処立川支処長の管理となっている。
立川宿舎においては、平成一五年一一月半ばから下旬にかけてころ以降、二人が一組になって、自衛隊の車両でゆっくりと巡察しながら走るという警備を一日三回位行うようになった。
同年一二月一三日ころ、後に述べるように、「a団」と称する団体のビラが投函された際、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aの職務を補佐する同業務隊厚生科長のBは、航空自衛隊第一補給処立川支処長を補佐する同支処業務課長のCら他の管理担当者と連絡をとった上、それぞれの管理部分ごとに分担するなどして、前記禁止事項表示板を道路から各棟への通路への出入口のわきのフェンスに設置し、前記禁止事項表示物を各号棟の各出入口に掲示し、警察に被害届を提出し、各居住者に対し、自衛隊のイラク復興支援に関して反自衛隊的内容のビラを投入又は配布している者を見かけた場合は直ちに一一〇番通報するとともに東立川駐屯地、立川分屯基地に連絡するように求める内容の依頼文書を配布した(甲三七六、三七七)。なお、航空自衛隊が管理する一号棟から四号棟については、上記依頼文書の配布と共に、各棟に一人ずつ置いている宿舎の連絡員を通じて、居住者に対し、不審者を発見したら警察あるいは自衛隊の当直に連絡を入れるよう連絡した。このような依頼を受けて、居住者から部隊に連絡がなされたこともあった。
その後、平成一六年一月一七日及び同年二月二二日にもa団のビラが投函されたが(本件各公訴事実の際のもの)、その際には、前回と同様、いずれも警察に対し被害届が提出されている。また、同月一六日ころ、各居住者に対し、各管理権者名で、宿舎の安全対策について居住者の協力を呼びかける宿舎だよりが配布された(甲三七六に添付のものが東立川駐屯地業務隊長名のものである。)。
イ 以上の事実関係を基に、立川宿舎の敷地及び各集合住宅建物の各階段一階出入口から四階の各室玄関前までの階段等の通路(以下「建物共用部分」という。)が刑法一三〇条にいう「住居」等に当たるか否かについて、検討するに、一号棟ないし八号棟の敷地は、その周囲を、一般道路から出入りする通路のための各開口部(出入口)を除き、鉄製フェンス又は金網フェンス等で囲繞されており、上記各開口部には門扉等の設備はないが、出入口から入る通路は各集合住宅建物に関係のある者のみが通行の用に供することを許された通路であって、もちろん通り抜けのできる通路ではない。そうすると、上記敷地は、隣接の土地又は道路と明確に区画され、道路との開口部を除いてはフェンス等で囲繞されているから、住居である各号棟の各居室に付属し、主として居住者の利用に供されるために区画された場所というべきである。敷地のみならず建物共用部分についても、同様の場所であると解するのが相当である。そして、その敷地は、陸上自衛隊東立川駐屯地業務部長が現に管理しており、建物共用部分については、各集合住宅建物の管理権者(一号棟から四号棟までは、航空自衛隊第一補給処立川支処長、五号棟から八号棟までは陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長)が現にこれを管理している。したがって、一号棟ないし八号棟の敷地及び建物共用部分は、集合住宅建物である一号棟ないし八号棟の囲繞地あるいは集合住宅建物の各居室に付属する共用の通路部分として、刑法一三〇条にいう「人の看守する邸宅」に該当するものと解される。
すなわち、各集合住宅建物のうち各居住者の居室については、現に人の起臥寝食の場所として日常使用されている建造物であるから、刑法一三〇条の「住居」に該当することが明らかである。「邸宅」に関しては、大審院昭和七年四月二一日判決(刑集一一巻六号四〇六頁)において、邸宅とは、人の住居の用に供せられる家屋に付属し、主として住居者の利用に供せられるべき区画された場所をいうと定義されているところであるが、その法解釈を示す前提となった事案と併せてみてみると、少なくとも集合住宅建物に関しては、その囲繞地及び建物共用部分を「邸宅」と解するのが相当と考えられる(最高裁第一小法廷昭和三二年四月四日判決・刑集一一巻四号一三二七頁参照)。ただし、以上のうち、建物共用部分については、集合住宅建物の建造物の一部であり、住居の一部に当たるとする解釈もないではないが(広島高等裁判所昭和五一年四月一日判決・高刑集二九巻二号二四〇頁、名古屋地方裁判所平成七年一〇月三一日判決・判例時報一五五二号一五三頁)、やはり集合住宅建物の共用部分であることなどにかんがみると、敷地と同様に解することが相当と考えられる(広島高等裁判所昭和六三年一二月一五日判決・判例タイムズ七〇九号二六九頁参照)。
ウ ここで、後記の当裁判所の自判に当たって、訴因等変更の手続きなどが必要であるか否かについて、説明しておきたい。本件各公訴事実においては、上記のとおり、被告人らが立川宿舎の敷地に立ち入った上、各宿舎の各階段を一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入ったとの事実が記載され、「もって正当な理由なく人の住居に侵入したものである。」と主張されており、原判決も、この事実関係が認められるとした上で、それが人の住居に侵入したとの構成要件に該当するとしている。そこで、原裁判所の審理経過をみるに、検察官は、原審第一回公判において、弁護人からの公訴事実のうちどの部分が住居に当たるのかという求釈明に対し、「『敷地』及び『各室玄関前』はいずれも刑法一三〇条にいう住居であり、また、『敷地』及び『階段部分』は別個独立ではなく一体と考えている。」旨の釈明をし、検察官は、弁護人からの、敷地や階段・通路部分について「邸宅」や「建造物」であると主張しない趣旨なのか明らかにされたいという求釈明(平成一六年四月二七日付け起訴状に対する求釈明書第一の三及び第二の三)に対しては釈明をしておらず、原裁判所も、これについて釈明を求めないとしていた。そうすると、「住居」と「人の看守する邸宅」とは、いずれも同一条文内に列挙されているところ、公訴事実、原判決が認定した事実及び後記当審認定事実との間で被告人らが立ち入った場所の事実関係に相違はないのであるから、そこで「住居」であるのか、「人の看守する邸宅」であるのかは、同一条文内の侵入の対象となる場所についての当てはめの違いに過ぎない(しかも、この点に関しては、上記のとおり、これまでの高等裁判所、地方裁判所の判例上も争いがあったところであって、起訴検察官及び原裁判所が、被告人らの立ち入った場所を「住居」として捉えたこともやむを得ない面がある。)。加えて、立川宿舎敷地及び建物共用部分の管理に関しては、原審第一回公判において、検察官は、弁護人から本件各公訴事実の被害者に関して釈明を求められて(上記求釈明書第一の四及び第二の四)、居住者に対する住居権の侵害のほか住居を管理する管理権者に対する管理権の侵害であると釈明したほか、いずれの公訴事実についても、変更後の訴因において、居住者に加えて、「陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aらが管理し」と記載して(訴因変更許可後、弁護人の釈明に答えて、A以外の管理者としては、航空自衛隊第一補給処立川支処長Dがいると釈明した。)、管理権者を具体的に主張し、その管理関係については、陸上自衛隊及び航空自衛隊の関係者(B及びC)の証人尋問もなされているとの原審における審理経過(または、検察官は、論告において、弁護人らのそれまでの主張にかんがみ、仮定的に、敷地等が邸宅であるとしても、人の看守するとの要件を満たしている旨主張していた。)にも照らすと、被告人らが立ち入った場所につき、これを人の看守する邸宅と認めることについて、被告人らの防御上、不意打ちになるともいえない(なお、原審において、弁護人は、第一回公判における公訴棄却の主張中において立川宿舎及び建物共用部分が「邸宅」に当たるとの主張をし、当審においても、弁護人は、答弁書において、上記の「邸宅」に関して判示する大審院、最高裁、広島高裁判例を引用して、原判決が立川宿舎敷地及び建物共用部分を「住居」に当たるとした解釈を論難していたところである。)。したがって、後記自判に際して、後記のとおり認定することにつき、訴因等変更の手続きなどは要しないというべきである。
(4) 被告人らの各行為が刑法一三〇条前段にいう「侵入」に該当するか否かについて
原判決は、立川宿舎への「侵入」とは、同宿舎の居住者及び管理者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるとした上で、被告人らは、定型的に他人の住居への立入りが許容されている者に当たらず、また、立川宿舎の関係者ではなく、同宿舎内に立ち入ることにつき、居住者及び管理者いずれの承諾も得ていないから、被告人らの各立入り行為は、居住者及び管理者の意思に反するというべきであり、「侵入」に該当すると認められるとした。当裁判所は、立川宿舎の敷地及び建物共用部分を「人の看守する邸宅」と解するので、「侵入」に該当するためには、管理権者の意思に反した立入りであることが認められればよいことになるが、結論において、被告人らの各立入り行為を「侵入」と認めた原判断は、正当と考えられる。弁護人は、原審、当審を通じ、被告人らの立川宿舎敷地及び建物共用部分への各立入りは「侵入」には当たらないと主張しているので、以下、説明する。
ア 原裁判所で取り調べられた関係証拠によれば、被告人らの本件各立入り行為及びこれに至る経緯等として、以下の事実が認められる。
(ア) まず、a団は、昭和四七年、自衛隊の米軍立川基地移駐に当たって結成され、これに対する反対運動を行い、さらに反戦平和運動全般を行い、示威運動、駅頭情宣活動、駐屯地等に対する申入れ活動等を行っている団体である。そして、被告人三名は、いずれも、a団の構成員として活動していたものである。
a団は、平成一五年六月にいわゆる有事関連三法が成立し、次いで同年八月のいわゆるイラク人道復興支援特別措置法の成立により、自衛隊のイラク派遣が迫ってきたことから、これに反対する活動として、駅頭情宣活動やデモを積極的に行うようになった。そして、自衛官及びその家族に向けて、同年一〇月中ころ、同年一一月の終わりころ及び同年一二月一三日ころと月一回のペースで、「イラクへの派兵が、何をもたらすというのか?」(平成一五年一〇月)「殺すのも・殺されるのもイヤだと言おう」(同年一一月)「イラクへ行くな、自衛隊! 戦争では何も解決しない」(同年一二月)などの表題のもとに、自衛隊のイラク派遣に反対し、かつ、自衛官に対しイラクへの派兵に反対するよう促し、自衛官のためのホットラインの存在を知らせる内容のビラを立川宿舎の各集合住宅建物の一階集合郵便受け又は各室玄関ドア新聞受けに投函していた。
(イ) これに対する立川宿舎の管理権者の対応は、(3)ア(イ)(ウ)に記載したとおりである。
(ウ) 以上のような経緯を経て、被告人三名は、a団の上記活動の一環として、「自衛隊のイラク派兵反対! いっしょに考え、反対の声をあげよう!」との表題のビラ立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函することを計画し、平成一六年一月一七日午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時ころまでの間、立川宿舎敷地に上記三名とも立ち入った上、分担して、立川宿舎の三号棟東側階段、同棟中央階段、五号棟東側階段、六号棟東側階段及び七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入り、各室玄関ドア新聞受けにビラを投函した。その際、被告人Y1は、五号棟東階段を上る途中、同棟四階五四一号室の居住者Eから、同階段に面した各居室新聞受けに投函していたビラを回収するように強く求められたため、しぶしぶこれを回収し、同階段下出入口まで降りたときに、上記Eからさらに掲示板に掲示されていた前記禁止事項表示物を指し示されて注意を受けたが、Eと別れてからは、隣の棟でビラの投函を続け、その日のビラの投函が終わった後、このように立川宿舎の居住者から注意を受けたことを他の被告人二名に伝えた。また、同日午後一一時五〇分前ころ、三号棟四階の三四一号室の居住者Fは、自室の玄関ドア新聞受けにビラを入れられたことに気付き、同棟東側階段を一階まで下りて、同棟中央階段出入口から出てきた被告人Y3に対し、同棟東側階段出入口の禁止事項表示物を示して、禁止事項なのでビラの投函を止めるように注意をしたところ、同被告人は、「ああそうですか。」と答えただけで立ち去り、四号棟わきにいた被告人Y2と立ち話しをしていた。その注意の前後に、Fは、一一〇番通報した。
(エ) 次に、被告人三名は、「ブッシュも小泉も戦場には行かない」との表題のビラを同様に投函することを計画し、同年二月二二日、上記三名とも立川宿舎敷地内に立ち入り、同日午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時過ぎころまでの間、被告人Y3及び被告人Y2の両名が、分担して、立川宿舎の三号棟西側階段、五号棟西側階段及び七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入り、各室玄関ドア新聞受けにビラを投函した。
イ そこで検討するに、刑法一三〇条前段にいう「侵入」とは、他人の看守する邸宅に、建造物等に、管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきところ、これまで述べた事実関係、すなわち、立川宿舎の当時の管理状況及び被告人らの立入りの目的などに照らすと、被告人らの立川宿舎敷地及び各号棟建物共用部分への各立入り行為は、その管理権者である陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長及び航空自衛隊第一補給処立川支処長の意思に反するものであることが明らかである(管理権者らの承諾を得ていないことはもちろんである。)。このことは、禁止事項表示板・禁止事項表示物の設置・掲示の前からそうであったとうかがわれるところであるが、上記管理権者らが、被告人らにおいてビラ投函のために立川宿舎敷地及び建物共用部分に立ち入ることを拒絶する意思であることは、禁止事項表示板・禁止事項表示物の設置・掲示により外部的に一層明確に示されることになったものというべきである。そうすると、被告人らが平成一六年一月一七日及び同年二月二二日にそれぞれ立川宿舎敷地及び各棟建物共用部分に立ち入った行為は、刑法一三〇条前段にいう「侵入」に該当し、もちろん、それは同条にいう正当の理由のない立入りということになる。なお、立川宿舎の敷地が囲繞されているなどの外形自体から、そこに立川宿舎に関係のない者の立入りを許さない趣旨は外観上明らかというべきであるところ、出入口フェンスわきに設置された禁止事項表示板及び階段出入口に掲示された禁止事項表示物は、容易に認識することができるよう設置・掲示されていたこと(したがって、本件各立入り当時、これらに気が付かなかった旨をいう被告人らの原審公判供述は、にわかに措信できない。)などにも照らすと、被告人らには違法性の意識の可能性はなく故意を欠くとの主張も到底採用できない。
ウ これに対して、弁護人は、被告人らの各行為が「侵入」に該当しないとして種々の主張をするが、いずれも採用できないものである。以下いくつかの点について説明を加える。
(ア) 弁護人は、原判決が「侵入」とは、宿舎の居住者及び管理者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるとした上で、本件の被告人らの各立入り行為につき、「侵入」に当たるとしているが、その解釈からすると、立川宿舎の集合郵便受けや各室玄関ドアポストに商業的宣伝ビラ等を投函する投函者や、立川宿舎の敷地内を通行している付近の小中学校に通う児童、生徒らも、住居侵入罪の「侵入」に該当する違法行為を犯していることになる、このような結論を生ずる解釈は誤りであるとの主張をしている(答弁書四四頁三項(2))。
しかし、いずれの場合についても、個々的に、管理権者の意思に反した立入りと認められるかどうかにより、「侵入」に当たるか否かが決せられるべきものであるから、ここで他の事例につき判断することは相当でないが、禁止事項表示板・表示物の記載文言からすると、少なくとも商業的宣伝ビラ等を投函するための立入りはこれを許さない趣旨と解される(原審証人Bも同旨を証言している。)。
(イ) 弁護人は、刑法一三〇条前段における「侵入」とは、住居の事実上の平穏を侵害する態様による立入り行為であり、被告人らの行為は、住居の事実上の平穏を侵害しておらず、住居侵入罪の「侵入」に該当しない旨主張する(答弁書四四頁三項(3))。
しかし、住居侵入等の罪の保護法益として、住居等の事実上の平穏が挙げられるとしても、侵入行為が外見上静かに行われただけで、直ちにそれが「侵入」に当たらないと解すべきものではない。実際にも、本件の一月一七日の侵入に当たっては、居住者からビラの回収を求められ、また、禁止事項だから止めるように注意されるなどして、現実にも平穏な状況であったとは言い難い。よって、弁護人の主張は採用できない。
(ウ) 弁護人は、原判決が立川宿舎の敷地及び通路部分を「住居」と解するのであれば、立川宿舎に管理者が置かれていたとしても、立川宿舎の居住者の事実上の平穏あるいは居住権が保護法益とされるべきであり、管理者の管理権をあえて問題とすべきではなかった、そして、居住者の中に、一人でも被告人らの立入り行為について黙示的であれ承諾の意思を有していれば、被告人らの立入り行為は、住居侵入罪の「侵入」の構成要件に該当しないと解すべきである旨主張する(答弁書四六頁四項及び五項)。
しかし、当裁判所は、すでに述べたとおり、立川宿舎の敷地及び各棟建物共用部分を「邸宅」に当たると解するから、むしろ、その管理権者の意思のみを問題とすれば足りるものである。なお、証拠上、立川宿舎の居住者の中に、被告人らの敷地及び建物共用部分への立入りを承諾していた者がいるとはうかがわれないところである。
(5) 以上のとおりであって、被告人らの各立入り行為は、刑法一三〇条前段にいう人の看守する邸宅に侵入する行為に該当すると認められる。
三 いわゆる可罰的違法性について
(1) 原判決は、被告人らの各行為について構成要件該当性を認めながら、その各行為は、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められないと判断しており、これはいわゆる可罰的違法性がないとの判断を示したものというべきところ、検察官の論旨はこの点の原判断を論難するものである。当裁判所は、被告人らの各立入り行為はいわゆる可罰的違法性を欠くものではなく、原判断を是認することができないと考えるので、以下、説明する。
(2) 検察官の論旨は、原判決がいわゆる可罰的違法性を否定する根拠として掲げたいくつかの考慮要素についての判断を論難しているので、順次これをみることとする。
ア 動機を正当なものとしてこれを本件各犯行の違法性を否定する根拠とした原判決の判断が誤りであるとする点について
原判決は、被告人らが立川宿舎に立ち入った動機について、「立ち入り行為という手段の是非は別に論ずるとしても、ビラを届けることで自衛隊のイラク派遣に関するa団の見解を自衛官らに直接伝えるという動機自体は、a団の政治的意見の表明という正当なものである」旨判示し、さらに、結論部分において、「被告人らが立川宿舎に立ち入った動機は正当なものといえ」とし、これに加えて、「被告人らによるビラの投函自体は、憲法二一条一項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹を成すものとして、同法二二条一項により保障されると解される営業活動の一類型である商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められている」とも述べている。
しかしながら、表現の自由が尊重されるべきことはそのとおりであるにしても、そのために直ちに他人の権利を侵害してよいことにはならないことはもとよりである。本件のビラの投函行為は、自衛官に対しイラク派遣命令を拒否するよう促す、いわゆる自衛官工作の意味を持つものであることは、ビラの文面からも明らかであるが、ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、これを投函するために、管理権者の意思に反して邸宅、建造物等に立ち入ってよいということにはならないのである。つまり、検察官の所論が主張するように、何人も、他人が管理する場所に無断で侵入して勝手に自己の政治的意見等を発表する権利はないというべきである。したがって、本件各立入り行為について刑法一三〇条を適用してこれを処罰しても憲法二一条に違反するということにもならないと解される。
イ 被告人らの各立入り行為の態様が相当性の範囲を逸脱していないとした原判決の判断が誤りであるとする点について
原判決は、要するに、①被告人らの各立入り行為の態様自体は、立川宿舎の正常な管理及びその居住者の日常生活にほとんど実害をもたらさない、穏当なものといえる、②被告人らの本件各立入り行為が居住者のプライバシーを侵害する程度は相当に低いものとみるべきである、③被告人らがことさらに居住者、管理者からの反対を無視して各立入り行為に及んだとはいえない、との理由を挙げて、本件各立入り行為の態様について、相当性の範囲を逸脱したものとはいえない、と述べる。
しかしながら、平成一五年一二月の自衛隊イラク派遣の閣議決定以降、さらには、同年一二月一三日ころになされたa団関係者による立川宿舎へのビラの投函を受けて、これを防止するためなどに防衛庁の宿舎管理者らが様々の対策を取り、禁止事項表示板・表示物を設置・掲示し、居住者にも注意を喚起したことは、前述のとおりであること、いずれの場合にあっても、被告人らは、立川宿舎の敷地に立ち入った上、各号棟の階段を一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入って、各室玄関ドア新聞受けにビラを投函したこと、また、平成一六年一月一七日においては、被告人らが、居住者らからのビラの回収の指示及びビラ投函が禁止されていることの抗議等を受けながら、その日、その居住者の目の届かないところで、引き続きビラの投函を続行し、居住者からこのような抗議等を受けた事実を被告人三名とも認識するに至っていたのに、さらに、同年二月二二日にも、同じ行為を繰り返していることなどに照らすと、上記①ないし③の判断は是認できない。
なお、原判決は、③の点につき、投函したビラにa団の連絡先が明記されているにもかかわらず、平成一六年一月一七日に至るまで、それらの配布につき、a団やその構成員に対して、自衛隊ないし防衛庁関係者や警察からの連絡、接触が一切なかったから、被告人らがビラ投函のための立入り行為が許されないとの認識を持ちがたい状況であったとしているが、この点は先ちに述べたとおり、前記禁止事項表示板・表示物によって立川宿舎への関係者以外の立入禁止の意思は明確に示されており、ビラに記載された連絡先に直接連絡して禁止の意思を告知すべきものであったとまではいえない。
ウ 被告人らが立川宿舎に立ち入ったことにより生じた法益の侵害は極めて軽微なものというべきであるとした原判決の判断が誤りであるとする点について
原判決は、立川宿舎関係者の被害感情が強いことを考慮しても、被告人らが同宿舎に立ち入ったことにより生じた居住者及び管理者の法益の侵害は極めて軽微なものであると述べているが、この点も是認できない。
すなわち、原判決は、被告人らが居住者及び管理者の意思に反して立川宿舎に立ち入った結果、「居住者、管理者ら立川宿舎関係者のうち、少なからぬ者が、ビラの内容が自衛官らに不安を与えるなどとして、ビラの投函に不快感を抱くに至ったと思料される。」などとした上で、法益の侵害は極めて軽微なものであるとするものであるが、この点は、必ずしも首尾一貫しない判断と思われる。被告人らの本件各立入り行為の目的・態様、これに対して居住者らがとった対応及び受けた不快感が上記のとおりあったことのほか、a団関係者によるビラ投函のための立川宿舎敷地等への立入りが本件に先立つ平成一五年一〇月から月一回のスペースで反復して行われていて、これに対して管理権者らが上記のとおりの措置をとっていたことなどの事情にも照らすと、被告人らの本件各立入り行為によって生じた管理権者らの法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできない。
エ 以上によれば、検察官の所論は、いずれの点でも理由があり、前記のとおり邸宅侵入罪の構成要件に該当する被告人らの各立入り行為が、いわゆる可罰的違法性を欠くとして違法性が阻却されるとはいえない。
してみると、本件各行為がいわゆる可罰的違法性を欠くとして各被告人に対し無罪を言い渡した原判断には、刑法一三〇条の解釈、適用の誤りがあるといわざるを得ず、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は、全部破棄を免れない。
論旨は上記の限度で理由がある。
四 結論(破棄自判)
よって、刑訴法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書を適用して、各被告事件について更に判決する。
(公訴棄却の主張について)
弁護人は、①本件各起訴状において被告人らが侵入したとされる「防衛庁宿舎の敷地」及び「防衛庁宿舎の通路部分」は、「住居」ではなく、「邸宅」及び「建造物」に該当するものであり、これらの「邸宅」及び「建造物」が刑法一三〇条前段の構成要件に該当するためには、「人の看守する」ことが必要であるが、本件各起訴状には、看守者の記載が欠落しているので、各起訴状記載の公訴事実では、刑法一三〇条前段の構成要件に該当しない、よって、刑訴法三三九条一項二号に従い、裁判所は公訴棄却の決定をすべきである(公訴事実に対する弁護人意見二(1)。もっとも、この主張は、弁護人の冒頭陳述書及び弁論要旨では主張されていないので、事実上撤回されたものとも解されるが、念のため判断する。)、②本件各公訴提起は、表現の自由を極めて強度かつ広汎に侵害するだけでなく、a団に対する弾圧を目的とするものであるから、憲法二一条に違反して違憲かつ違法といわざるをえず、公訴提起における検察官の裁量の枠を逸脱したものとして、公訴権の濫用に当たる、よって、裁判所は、刑訴法三三八条四号により、公訴棄却の判決を下すべきである、と主張する。
しかし、①については、検察官は、侵入の対象となる場所を「住居」であるとの主張に基づき事実記載しているものであり、それを前提にした場合、構成要件の要素を欠落していることにはならないから、刑訴法三三九条一項二号にいう「起訴状に記載された事実が真実であっても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき」に該当するものではないことが明らかである。ちなみに、検察官は平成一六年六月二五日付け各訴因変更請求書において、「陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aらが管理」する立川宿舎の敷地、階段などと記載して、それらにつき管理権者が管理していることを具体的に主張したところである。②については、被告人らの本件各立入り行為の違法性が阻却されるものでないことは既に述べたとおりであり、また、証拠を検討しても、本件各公訴の提起が、被告人らの表現行為の抑圧あるいは被告人らの所属団体の活動を抑制もしくは停止させることを目的とするものとは認められないところであり、それが憲法二一条に違反するものとはいえず、もちろん、本件各公訴提起につき検察官の職務犯罪を構成するような極限的な訴追裁量権の逸脱があるとは認められない。よって、弁護人の公訴権濫用の主張は採用できない。以上のとおりであって、本件各公訴提起について、公訴棄却の決定、判決をすべきものとは認められない。
(罪となるべき事実)
第一 被告人Y1、同Y2及び同Y3は、共謀の上、「自衛官・ご家族の皆さんへ、自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」などと記載したビラを、防衛庁職員が居住する防衛庁立川宿舎各室玄関ドア新聞受けに投函する目的で、平成一六年一月一七日午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時ころまでの間、管理者の承諾を得ないで、陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長Aが管理する東京都立川市<以下省略>所在の同宿舎敷地に、上記三名とも立ち入った上、さらに、航空自衛隊第一補給処立川支処長Dが管理する同宿舎三号棟東側階段及び同棟中央階段並びに上記陸上自衛隊東立川駐屯地業務隊長が管理する五号棟東側階段、六号棟東側階段及び七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入り
第二 被告人Y2及び同Y3は、共謀の上、「ブッシュも小泉も戦場には行かない」などと記載したビラを前同様に投函する目的で、同年二月二二日午前一一時三〇分過ぎころから同日午後零時過ぎころまでの間、管理者の承諾を得ないで、前記立川宿舎の敷地に、上記二名とも立ち入った上、さらに、前記三号棟西側階段、前記五号棟西側階段及び前記七号棟西側階段の各階段一階出入口から四階の各室玄関前まで立ち入りもって、いずれも正当な理由なく人の看守する邸宅に侵入したものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人三名の判示第一の各行為及び被告人Y2及び被告人Y3の判示の第二の各行為は、いずれも刑法六〇条、一三〇条前段に該当するので、各罪について所定刑中罰金刑を選択し、被告人Y1についてはその所定金額の範囲内で、被告人Y2及び被告人Y3については、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内でそれぞれ処断することとし、被告人Y1を罰金一〇万円に、被告人Y2及び被告人Y3をいずれも罰金二〇万円に処し、同法二一条を適用して、被告人Y1に対し、未決勾留日数のうち、その一日を金五〇〇〇円に換算してその罰金額に満つるまでの分を、その刑に算入し、被告人Y2及び被告人Y3に対し、未決勾留日数中各二〇日を、その一日を金五〇〇〇円に換算して、それぞれその刑に算入し、被告人Y2及び被告人Y3においてその罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告人三名に連帯して負担させることとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川武隆 裁判官 鹿野伸二 小川賢司)