東京高等裁判所 平成17年(ラ)1791号 決定 2005年12月09日
抗告人 A
相手方 B
主文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の本件移送申立てを却下する。
3 本件申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨及び理由は、別紙移送決定に対する即時抗告申立書(写し)記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
1 本件記録及び別件調停事件(静岡家庭裁判所浜松支部平成17年(家イ)第××号夫婦関係調整調停事件)記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 抗告人(昭和47年×月×日生)と相手方(昭和46年×月×日生)は、平成13年8月13日に婚姻し、抗告人の実家(静岡県○○市△△町××番地×)の隣家で同居を開始し、平成14年×月×日、両者の間に長男Cが出生した。
(2) 抗告人と相手方は、平成16年4月2日、長男を伴い、抗告人の肩書住所地に転居した。
(3) 相手方は、平成17年3月14日、静岡家庭裁判所浜松支部に対し、抗告人との離婚を求めて別件調停事件を申し立て、同年4月28日、同年6月9日、同年7月7日、同年8月25日の4回にわたって調停期日が実施されたが、最後の期日において、上記事件を取り下げた。
(4) 相手方は、上記調停途中の平成17年6月3日、置き手紙をし、長男を連れて実家(東京都△△区□□×丁目×番)に戻り、その後、肩書住所地に長男を連れて転居した。
(5) 抗告人は、平成17年9月7日、静岡家庭裁判所浜松支部に対し、相手方との離婚を求めて本件訴訟(同支部平成17年(家ホ)第××号事件)を提起したが、同支部は、同年10月20日、本件訴訟を東京家庭裁判所に移送するとの決定(原決定)をした。
2 人事訴訟法4条によれば、本件訴訟は、抗告人の住所地を管轄する静岡家庭裁判所浜松支部又は相手方の住所地を管轄する東京家庭裁判所の管轄に専属することになる。また、同法31条は、離婚訴訟に係る婚姻の当事者間に成年に達しない子がある場合には、同訴訟についての同法7条(遅滞を避けるため等のための移送)の規定の適用に当たっては、その子の住所又は居所を考慮しなければならないと定めるところ、これは、離婚訴訟において未成年の子がいる場合には、親権者の指定が必要となり、家庭裁判所調査官の調査が円滑かつ実効的に実施される必要性が類型的に認められることから、調査等の便宜を図り、子の利益にかなった審理が十分に行われるようにするため、離婚訴訟を移送するか否かの判断要素として、未成年の子の住所又は居所を考慮すべきことを定めたものと解することができる。なお、本件において、同法7条にいう当事者及び尋問を受けるべき証人の住所等の事情については、静岡家庭裁判所浜松支部及び東京家庭裁判所の間に有意差はないということができる。
しかるところ、上記認定事実によれば、抗告人と相手方は、平成13年8月13日に婚姻後、転居はあるものの、一貫して静岡県○○市内に同居していたものであり、相手方は、平成17年3月14日に当時の相手方及び抗告人の住所を管轄する静岡家庭裁判所浜松支部に別件調停事件を申し立てたのに、その調停の途中の同年6月3日に抗告人の同意を得ることなく長男を連れて一方的に別居した(なお、別居の原因が専ら又は主として抗告人にあることを認めるに足りる証拠はない。)もので、抗告人は、別居の3か月後の同年9月7日に本件訴訟を提起したものである。
そうすると、相手方の一方的な別居の僅か3か月後に提起された本件訴訟においては、未成年である長男の居所は東京都△△区にあるとしても、その住所は未だ静岡県○○市にあると解することができる。また、仮にその住所が既に東京都△△区にあると解した場合でも、上記別居の状況等に照らすと、長男についての親権者の決定のために抗告人の居住状況を調査すべきことも考えられ、人事訴訟法7条により本件訴訟を東京家庭裁判所に移送することは相当でないというべきである。このような事案において移送を認めることは、同法31条を根拠として同法7条の適用を求めるため特段の事情もないのに未成年者を実力で他の住所に伴うという事態を容認することにもなりかねず、相当でないからである。なお、相手方の主張によれば、現在3歳の長男は保育園に通っていて東京の生活に慣れつつあるというのであるが、そのことは、上記判断を左右するものではない。
3 以上によれば、本件訴訟を東京家庭裁判所に移送するとした原決定は不当であり、本件抗告は理由がある。
よって、原決定を取り消し、相手方の本件移送申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 南敏文 裁判官 佐藤公美 堀内明)
別紙<省略>