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東京高等裁判所 平成17年(ラ)531号 決定 2005年4月26日

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

第1  抗告の趣旨及び理由

抗告人は、原決定を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻すとの裁判を求め、別紙のとおり、抗告の理由を述べた。

第2  当裁判所の判断

当裁判所も、相手方の間接強制の申立ては理由があり、これを認容すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  相手方は、相手方とフランチャイズ契約を締結して複数の店舗において「つぼ八」の名称で居酒屋営業をしていた抗告人が、平成15年4月ころ、同契約を解約したにもかかわらず、他のフランチャイズチェーンの加盟店として居酒屋営業を継続したことは、契約終了後2年間は類似する営業を行ってはならないとする同契約の競業禁止条項に違反するとして、抗告人に対して、抗告人の営業の差し止めを求める訴訟(東京地方裁判所平成15年(ワ)第19620号)を提起した。

同訴訟の第1審は、平成16年4月28日、相手方の請求を認容して、抗告人は平成15年4月13日から平成17年4月12日までの間千葉県及び茨城県において居酒屋営業又はこれに類似する営業をしてはならないとする判決をし、その後、控訴審、上告審を経てこの判決が確定し、相手方は、平成17年2月21日に執行文の付与を受けた。

(2)  相手方は、抗告人が上記判決後も、居酒屋営業を継続していたことから、平成17年2月23日、債権者を相手方、債務者を抗告人として、上記の執行力ある判決正本に基づく間接強制の申立てをした。これに対し、抗告人は、同年3月1日以降は、従前「海鮮居酒屋はなの舞」として営業を行っていた店舗につき、その営業内容を海鮮レストランに変更し、看板にも「海鮮レストランはなの舞」と記載してその旨を表示し、メニューも食事中心のレストランメニューに変更した旨を主張した。

原審は、同月10日、「1 債務者は、平成15年4月13日から平成17年4月12日までの間、千葉県及び茨城県において居酒屋営業又はこれに類似する営業をしてはならない。2 本決定送達の日から7日を経過した日以降、平成17年4月12日までの間、債務者が前項の記載の義務に違反し、千葉県及び茨城県において居酒屋営業又はこれに類似する営業をしたときは、債務者は、債権者に対し、違反行為をした店舗1店につき、各1日につき金10万円の割合による金員を支払え。」とする決定をした。

2  抗告人は、原決定には、平成17年3月1日以降、抗告人が居酒屋営業又はこれに類似する営業を行っていないのに、これを行っていると認定した事実誤認がある旨を主張する。

しかしながら、原決定には、抗告人主張のような事実を認定した旨の記載はないところ、不作為を命ずる債務名義に基づく間接強制を命ずる場合において、その不作為義務に違反する債務者の行為の存在は、その要件とはなっていないものと解するのが相当である。抗告人が同年2月末日まで複数の店舗で居酒屋営業を行い、これを禁ずる不作為義務に違反する行為を行っていたことは、抗告人も自認するところであり、同年3月1日以降の同店舗における営業が、仮に、抗告人の主張するように居酒屋営業又はこれに類似する営業に当たらないとしても、間接強制の決定時に違反行為が現に存在することは、その要件ではないから、この点を判断することなく、間接強制の決定をすることに違法、不当な点はない(抗告人の主張する営業内容の変更は、看板の名称及びメニューの変更にすぎないのであり、抗告人が違反行為をするおそれが全くないともいえないし、違反行為をするおそれの消滅は、債務名義に表示された差止請求権の消滅の問題ともいい得る。)。抗告人が現に違反行為を行ったか否かは、本件間接強制の決定を債務名義として相手方が決定に定められた金銭の支払の強制執行をしようとする場合の執行文の付与を求める段階で具体的に問題とされるものというべきである。

したがって、原決定が違反行為の存在を認定したことを前提として、その事実誤認という抗告人の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ず、失当である。

3  また、抗告人は、相手方とのフランチャイズ基本契約に定められた損害賠償額は、「つぼ八」のイメージが残存する場合を想定しており、他のフランチャイズチェーンの名称である「はなの舞」を使用し、「つぼ八」のイメージを払拭した抗告人の営業形態はこの場合に当たらないから、上記基本契約における損害賠償額は参考にすべきではなく、原決定において定められた金額は過大である旨を主張する。

しかしながら、そもそも、間接強制における強制金は、「債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭」(民事執行法172条1項)であり、執行裁判所が、債務の不履行により債権者が受ける損害に限定されることなく、債務の性質、債務者の資力、不履行の状況等の諸般の事情を考慮して、債務の履行を確保するために相当と認める金額として定めるものであり、執行裁判所には広い裁量権があるというべきである。本件において問題とされる債務の内容、これによる抗告人の営業利益、抗告人の対応、その他諸般の事情を考慮すれば、原決定の定めた強制金の金額が裁量の範囲を超える過大なものであるなどといえないことは明らかであり、この点に関する抗告人の主張は、採用することができない。

4  その他、一件記録を精査しても、原決定には、これを取り消すべき違法、不当な点があるとは認められない。

5  以上によれば、本件執行抗告は理由がないというべきであり、棄却を免れない。

よって、主文のとおり決定する。

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