東京高等裁判所 平成17年(ラ)680号 決定 2005年9月14日
抗告人(申立人)
株式会社熊本ファミリー銀行
代表者代表取締役
河口和幸
代理人弁護士
西浄聖子
被抗告人(相手方)
更生会社大洋緑化株式会社管財人
清水建夫
管財人代理
柏原晃一
同
綾克己
同
安部公己
同
渡辺昇一
同
中尾哲郎
同
野上昌樹
同
田中省二
同
嵯峨谷巌
同
鈴木康浩
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」及び「抗告理由書」(各写し)記載のとおりである。
第2 事案の概要
1 抗告人は,更生会社大洋緑化株式会社(以下「大洋緑化」という。)に対する更生担保権者であり,大洋緑化の管財人がした更生担保権の目的担保物件(以下「本件対象物件」という。)の評価額が低すぎると主張して,同管財人を相手方として,価額決定の申立て(会社更生法153条1項。以下「本件申立て」という。)をしたところ,原審裁判所が,その選任した評価人の評価に基づき,本件対象物件のうち大洋緑化所有の原決定別紙物件目録2記載の財産(以下「本件対象財産」という。)の評価を5億5982万9004円と定める決定をした(同法154条1項,2項。ただし,本件申立てのうち更生会社株式会社ワールドカントリー倶楽部の所有する原決定別紙物件目録1記載の財産(以下「本件その余財産」という。)にかかる部分は不適法として却下した。)ので,抗告人が即時抗告をした。
2 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件対象物件は,熊本県下益城郡小川町(平成17年1月15日以後周辺町との合併により「宇城市」となった。)南部に位置するゴルフ場「ワールドカントリー倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という。)の土地及び建物であり,本件対象財産は,本件対象物件のうち,大洋緑化が所有する土地及び建物である。
(2) 本件ゴルフ場は,本件対象物件及び株式会社ワールドカントリー倶楽部(以下「ワールド倶楽部」という。)が所有する土地(合計985,165m2)並びに借地96,340m2からなる18ホール,7016ヤードの施設で,株式会社ワールド小川ゴルフサービス(以下「ワールドゴルフサービス」という。)が運営を担っており,大洋緑化,ワールド倶楽部及びワールドゴルフサービスの三会社は,いずれもその管財人を同じくする同日付けの更生手続開始決定を受けている。
3 抗告人の主張は要するに,本件対象財産の鑑定評価については,原価法,取引事例比較法及び収益還元法の3方式を併用すべきであるにもかかわらず,原決定の依拠した蒲生鑑定は,原価法(積算価格),取引事例比較法(比較価格)を試算しながら,最終的な鑑定評価額においては,この2価格を考慮せず,収益還元法(収益価格)のみを採用している点で,不動産鑑定の手法を無視しており,3方式を併用して担保評価してきた金融機関に不測の損害を与えるものであり,3方式を併用した評価方法によれば,本件対象財産の評価額は,11億8000万円であるというにある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人の本件申立ては,理由がなく,評価人蒲生豊郷の平成17年3月14日付鑑定評価書(以下「蒲生鑑定」という。)に基づいて本件対象財産の価額を5億5982万9004円と定めるのが相当であると判断する。その理由は,下記2のとおり付加するほか,原決定「理由」欄の「2 別紙物件目録2記載の財産について」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2(1) 会社更生法2条10項では,更生担保権とは,更生手続開始当時更生会社の財産につき存する担保権の被担保債権であって更生手続開始前の原因に基づいて生じたもの等のうち当該担保権の目的である財産の価額が更生手続開始の時における時価であるとした場合における当該担保権によって担保された範囲のものをいうと規定されており,会社更生手続においては,更生担保権は,ここにいう「時価」としてその実質が表されるところの価値権として理解されるのである。
(2) 蒲生鑑定は,本件ゴルフ場の土地・建物全体について,原価法による積算価格を44億2000万円,取引事例比較法による試算価格を4億6300万円ないし48億円,収益還元法(そのうちのいわゆるDCF法)による収益価格を7億円と試算した上,①本件ゴルフ場のような預託金会員制ゴルフ場経営は,ゴルフ会員権価格が右肩上がりの情勢にあるときには,預託金返還請求を受けることがないことを前提として,ゴルフ場造成のための莫大な費用を,集めた預託金で回収するという開発スキームによって成り立っていたが,バブル崩壊後の会員権価格の急落により,それまで弁済不要と考えられていた預託金の償還請求問題が大きな社会問題となり,近年,預託金返還の軽減や免除を受けるためにゴルフ場を民事再生法等の企業再建手続に委ねる例が後を絶たないことに如実に現れているように,上記のようなゴルフ場開発スキーム自体がもはや破綻するに至ったため,このような開発スキームによって造成された工事費用をもとに算出した積算価格は,客観的な経済価値を把握する手法として適格性を具備していないと考えるのが相当であり,また,②取引事例比較法による試算については,本件ゴルフ場と同一需給圏内の取引から収集することができた6事例は,取引事情の正常性・正常補正可能性の見地からすると,経営が順調である求人情報誌の名前を冠したゴルフ場でその宣伝効果等に着目していると推測することも可能な事例,地元有力企業の経営が傾いたがため売却されたが企業支援の側面が含まれる場合も考えられる事例,ゴルフ場の施設保有会社と運営会社という関連会社間の取引の事例など,いずれも個別的な事情を内包する可能性については枚挙にいとまがなく,その買主・売主間の事情が様々であって,これらの各取引に内包される事情を把握して,適切に補正した上で運用することがかなり困難であるため,参考価格としての域をでることはないと結論づけられ,加えて,③ゴルフ場のような用途限定のあることによって市場性の劣る不動産については,積算価格が高額に求められたとしても,収益性に見合わない場合は,市場において需要者を見出すことは困難であるから,収益価格を重視しなければならないとされる考え方が合理的である,などの理由を総合して,最も説得力を有し妥当な結論へ導く評価手法は,収益還元法(そのうちのいわゆるDCF法)による収益価格以外には見出しがたいものと思料されるとして,本件ゴルフ場全体の評価額を,収益還元法(そのうちのいわゆるDCF法)による収益価格である7億円と結論づけ,そのうち大洋緑化所有分の本件対象財産への割り付け分を,5億5982万9004円と評価したものであって,ここに至る蒲生鑑定の判断には明らかに不合理的な点は何ら認められず,その鑑定評価は正当なものというべきである。
(3) 抗告人は,社団法人日本不動産鑑定協会作成の「会社更生法に係る不動産の鑑定評価上の留意事項」(抗告人・被抗告人の双方は,蒲生評価人に対し,この「留意事項」に準拠して本件の評価を行うように要請をしたことが一件記録上明らかである。)において,「会社財産の時価の評定に関連する本鑑定評価においては,原則として,原価法,取引事例比較法及び収益還元法を適用して,積算価格,比準価格及び収益価格を求め,これらの試算価格を関連づけて鑑定評価額を決定する。」とされているのであり,最終的には積算価格,比準価格を考慮しておらず収益価格のみで鑑定評価額を決定しているに等しい蒲生鑑定は,上記のような不動産鑑定の手法を無視するものであると同時に実際の取引市場を完全に無視したものであるなどと主張するが,原価法については,上記留意事項6(1)B③において,「過去において先行きに対する楽観的な期待又は不特定多数からのコスト負担のない資金の募集が可能であった業種では,収益性を著しく超える多額の投資がなされた経緯あるものがあり,「耐用年数に基づく方法」による減価修正のみによる積算価額が全く無力となっているものが多い。」と指摘されているのであり,かつ,取引事例比較法については,同留意事項6(1)Cにおいて,「複合不動産を主体とするので,実務的に,取引事例比較法を適用することが困難な事態も予想される。」と指摘されているのであって,これらの指摘は,いずれも,蒲生鑑定の考え方とその基礎を同じくするものと解されるところであり,そうしてみると,抗告人の主張は,理由がなく,採用することができない。
(4) 抗告人は,上記(3)の点以外にも蒲生鑑定を不当とする事由をるる主張するが,いずれも,蒲生鑑定の根拠とする上記(2)の判断の合理性及び相当性を左右するものであるとまでは解されず,採用の限りではない。
3 以上によれば,原決定は,相当であり,本件抗告は,理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・雛形要松,裁判官・都築弘,裁判官・中島肇)
別紙
即時抗告申立書<省略>
抗告理由書<省略>
建物を除いた評価額の査定<省略>