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東京高等裁判所 平成17年(行コ)130号 判決 2005年11月29日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  当審において控訴人A及び控訴人Bが予備的に求めた確認の訴えを却下する。

3  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  (主位的請求)

控訴人A及び控訴人Bが,柔道整復師法12条の規定に基づく学校又は柔道整復師養成施設の教員の資格を有することを確認する。

(予備的請求)

控訴人A及び控訴人Bが柔道整復師学校養成施設指定規則(昭和47年文部省・厚生省令第2号)の別表第二の専門基礎分野欄の下欄第三号に定める者と同等以上の知識及び経験を有する者に該当する者であること,及び同別表第二の専門分野欄の下欄第二号に定める者と同等以上の知識及び経験を有する者に該当する者であることの確認を求める。

(3)  被控訴人は

ア  控訴人Aに対し,110万円及び内金100万円に対する平成16年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ  控訴人Bに対し,426万円及び内金388万円に対する平成16年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ウ  控訴人Cに対し,132万円及び内金120万円に対する平成16年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

エ  控訴人Dに対し,143万円及び内金130万円に対する平成16年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

(5)  仮執行宣言

2被控訴人主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,柔道整復師である控訴人らが,柔道整復師法(以下,昭和63年法律第72号による改正前のものを「改正前法」といい,その改正後,平成元年法律第31号による改正前のものを「昭和63年法」,「現行のものを現行法」という。)及び柔道整復師学校養成施設指定規則(昭和47年文部省・厚生省令第2号。平成元年文部省・厚生省令第5号による改正前のものを「改正前指定規則」といい,同省令による改正後,平成6年文部省・厚生省令第1号による改正前のものを「平成元年指定規則」,「現行のものを現行指定規則」という。)に基づいて発出された「柔道整復師養成施設指導要領について」と題する通知(平成元年健政発525号各都道府県知事宛厚生省健康政策局長通知。以下「本件通知」という。)が,控訴人らが主張する「柔道整復師法12条の規定に基づく学校又は柔道整復師養成施設の教員の資格」(以下「専科教員の資格」という。)なるものを一方的に剥奪し,平成元年指定規則に基づかない違法な経過措置を定めるものである旨を主張して,控訴人A及び控訴人Bが被控訴人及び厚生労働大臣に対し,上記資格を有することの確認を求めるとともに,控訴人らが被控訴人に対し,本件通知を発出した厚生省健康政策局長に故意又は過失があるとして,国家賠償法に基づき損害賠償を求めた(附帯請求は訴状送達の日の翌日から民法所定割合による遅延損害金。)事案である。原審は,控訴人らのいう専科教員資格は法的資格ないし法的地位であるとか,法的権利ないし法的に保護された利益,あるいは被控訴人及び厚生労働大臣との間の一定の法律関係が存在すると解することはできないなどとし,なお厚生労働大臣に対する本件確認の訴えは,被告適格を有しない者に対して提起された訴えである点においても不適法であるとして,確認請求をいずれも却下し,本件通知を発したことなどが違法とはいえないとして損害賠償請求をいずれも棄却したことから,控訴人らが控訴した。控訴人A及び控訴人Bは,当審において,厚生労働大臣に対する確認の訴えを取り下げ,第1の1(2)記載の予備的請求を追加した。

2  本件の関係法令及び前提事実は,原判決事実及び理由「第三事案の概要」一,二に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決21頁1行目の「昭和54年4月28日」を「昭和47年8月15日」に改める。

3  争点及び当事者の主張は,次に記載の当審における主張を付加するほか,原判決事実及び理由「第三事案の概要」三,四に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決27頁13行目の「第一事件原告ら」を「控訴人ら」に改める。

(控訴人らの主張)

(1) 争点1本件確認の訴えの法律上の争訟性の有無について(控訴人A及び控訴人B関係)

ア 原判決は,柔道整復師の免許の有無が個人の権利義務ないし法的地位に関係することは明らかであるが,専科教員については,関係法令により法的資格ないし法的地位として定められていないとした。すなわち,関係法令は,「柔道整復師免許を取得するための柔道整復師試験の受験資格の一つとして,指定養成施設等における所定の知識及び技能の修得を定めた上,それが柔道整復師を養成する施設としてふさわしいものであるか否かという観点から,養成施設等を指定するための基準を定めたもの」であり,「教員について,いかなる者が養成施設等の教員としてふさわしいかという観点から,具体的な教員の要件を定めたものというべきで」,これら法令は,「飽くまでも指定を受けるべき養成施設等に着目して,当該養成施設等に要求されるべき諸基準を定めたものであって,」これらの各規定の趣旨,目的,性質,内容,規定ぶりに照らし,その要件に該当する者に,一定の権利義務ないし法的地位を付与するものでないことは明らかであるとする。

さらに,原判決は,教員が平成元年指定規則等に定める要件に該当しない場合であっても,その法的効果としては,当該養成施設等が指定されない,あるいは指定養成施設等の指定が取り消されることがあり得るのみであって,当該教員自体の権利義務ないし法的地位に直接の変動を生じさせたり,直接的不利益を生じさせるものと解することはできないという。すなわち,原判決は,教員についての関係規定が,養成施設等の指定基準の一要素である教員の要件につき,いかなる者が養成施設等の教員としてふさわしいかという観点から定めているにすぎないことを主たる理由に法的地位としての教員資格を否認するのである。

イ しかし,関係法令が教員の要件につき養成施設等の指定基準の一要素としていかなる者が養成施設等の教員としてふさわしいかという観点から定めているとしても,柔道整復師の側からみれば,柔道整復師の中に指定養成施設等の教員として教えることができる者とできない者との差を設けていることは明らかである。すなわち,柔道整復師であっても,それだけでは教員として講義できないのに,一定の講習会の講習を修了した者であれば,一定の科目について教員として講義できるのである。しかも,この講習会は,厚生労働大臣が指定したものであり,柔道整復師専科教員講習会と銘打たれたものであり,多額の費用と時間を要するものなのである。まず,受講するためには,受講試験に合格するか会員校施設長の推薦を要し,受講料は20万円,受講には,昭和63年法以前の昭和56年では211時間であったのが,平成13年では216時間を要している。教員となるためこのような講習を要するという実態に着目すれば,指定養成施設等の教員として教えることができるということは,法的な保護を受けるべき利益を有するものということができる。

ウ また,要件を満たさない教員は解雇され,あるいは雇用されないのであり,地位に変動が生じ,直接的な不利益を受ける。教員となるために講習会を了することを要するか否かは,一般的な学歴や年齢等の採用条件と同一に論ずることはできない。個々の権利義務の変動は施設との雇用契約により決せられるとしても,このようなことは有資格者を雇用する場合すべてに当てはまることであり,このことで法的資格であることが否定されるものではない。

エ 原判決は,昭和63年法以前とその後では,関係法令で指定された養成施設等が入所資格や科目,習得期間等が大きく異なる以上,別な養成施設というべきであるから,控訴人らが改正前に事実上の地位を有していたとしても,昭和63年法後にはその地位も存在しないものであるという。しかし,そのようにいえる根拠は何ら存在しない。すなわち,専科教員が教えられる科目は削減され(医学史はできなくなった。),講習会における課程には大きな変化はないのであり(上記のとおり時間数が少し増えたほかは,科目の名称が変更されたり細分化したりしたもので,新たに設けられたのはリハビリテーション医学に限られる。),改めて講習を履修する必要は生じていない。講習内容から見ても,重点的に時間を増やした科目につき追加講習をすれば済む程度のものである。現に,本件通知により現職の専科教員には資格継続を認める解釈,運用指針が示されているのである。

以上のとおり,指定養成施設で授業することができる地位は,法的資格というほかなく,仮に,法的資格ということができないとしても,法的な保護を受けるべき利益を有するものであり,本件確認の訴えは適法である。

(2) 争点3被控訴人の国家賠償責任の有無について

ア 本件通知は,平成元年指定規則の施行の際,現に養成施設において教員として勤務しており,かつ,講習会の受講等によりその資質の向上に努めた者については,平成元年指定規則下で教員講習会を修了した者と同等以上の知識及び経験を有する者として,教員の要件を満たすという解釈,運用を示すものであるが,原判決はこれには一定の合理性があるという。

しかし,現に養成施設において教員として勤務している者については,単に改正前指定規則の下での「講習会」を修了しただけの者よりも知識及び経験を有していることが多いであろうというのは,単なる推測にしかすぎないし,「講習会の受講等によりその資質の向上に努めたもの」については,この「講習会」について何らの定めがなく,向上に努めたことの判定者も不明であり,そのような「講習会」が実施された形跡もないのであって,本件通知は不合理で杜撰な内容というべきである。これは,平成元年指定規則の下での「教員講習会」を修了した者と同等以上の知識及び経験を有する者に当たるとの解釈,運用を誤ったものである。すなわち,前記のとおり改正の前後で講習会に変化はなく,追加講習をすれば足りるのであり,それにもかかわらず資格を一律に失うことを原則とし,現職教員につき例外を定めたことが,論理的に一貫せず,判定基準,判定者も不明なままになされるという杜撰な内容であり,合理性のないことが明らかである。

イ 柔道整復師については,昭和63年の法改正により試験の受験資格が変更され,免許を与えるものが都道府県知事から厚生大臣に改められた。この制度変更にあたり,改正前の資格を無効とせず,追加講習により知識,技術の向上に努めるようにさせることで足りるとした。これに比して,教員資格については,一律に無効となる解釈を示す本件通知は,「同等以上の知識及び経験を有する者」の解釈を誤り,合理性を欠いていることが明らかである。

ウ また,実際の運用において本件通知が遵守されていないことからも,上記は明らかである。たとえば,控訴人らと同様に,昭和56年に柔道整復師専科教員講習会の全課程を修了し,平成元年前後に専科教員を勤めたこともなく,改めて教員講習会を受講していない者を教員に採用するに当たり,教員として勤務することは可能か質問すると,厚生労働省の担当者は非常勤の教員であればかまわないとの回答をし,非常勤の教員としてその者が採用され,養成施設の指定申請に当たり,その記載をしたところ,指定申請が認められた。このことは本件通知の文言に反している。また,その者と同様の者が相当数指定養成施設で専科教員として勤務している。

エ 控訴人らは,違法な経過措置を定める本件通知によって教員の資格を失ったのであるから,精神的,財産的損害を被っており,被控訴人はこれを賠償すべき義務がある。

(3) 予備的請求について

ア 仮に,平成元年指定規則が養成施設等の指定基準として教員の条件を定めるにすぎないものであるとしても,特定人がその教員の条件を満たすのに,これに該当しないとされて損害を被った時は,その損害の賠償を求めることができる。

イ 控訴人A及び控訴人Bは,いずれも昭和56年11月21日に,改正前指定規則別表第三に規定する厚生大臣の指定した講習会である柔道整復師専科教員講習会の全課程を修了し,同別表第三の上欄の「医学史」「医事法規」「柔道整復理論 柔道整復技法」の下欄に規定する「柔道整復師教員」に該当することになった。その後,指定規則が改正になったが,前記のとおり,控訴人A及び控訴人Bは,平成元年指定規則の別表第二の専門科目に属する科目欄の下欄第二号に定める者と同等以上の知識及び経験を有する者に該当し,平成12年に改正された現行指定規則の別表第二の専門基礎分野欄の下欄第三号に定める者と同等以上の知識及び経験を有する者に該当し,さらに同別表第二の専門分野欄の下欄第二号に定める者と同等以上の知識及び経験を有する者に該当する。

ウ よって,控訴人A及び控訴人Bは,そのことの確認を求める。

(被控訴人)

(1) 争点1について

柔道整復師の養成施設等に関する関係法令は,指定に要求される基準の一つとして教員の要件を定めたにすぎないのであって,その要件に該当する者に一定の権利義務ないし法的地位を与えたものではないことは明らかであり,関係法令を検討しても控訴人A及び控訴人Bは事実上の利益を主張するにすぎないのである。

(2) 争点3について

ア 原判決は,本件法改正及び本件指定規則改正において,教員資格をリセットしたことに合理性を認め,控訴人らが教員の要件を満たさなくなったのは,これら改正によるものであり,本件通知によるものではないこと,本件通知が現に教員として勤務している者とそうでない者とで「同等以上の知識及び経験を有する者」への該当の有無に差異を設けたことに合理性を認めたものであり,いずれも相当というべきである。

イ 平成元年指定規則は,教員の要件を満たす者として「同等以上の知識及び経験を有する者」との定めを置くことで,従前の講習会を修了した者のうち一定の者について,引き続いて教員としての要件を満たすことになる途を残しており,このような扱いには合理性が認められる。

仮に,控訴人らが実務の運用であると主張するような事情があったとしても,そのことが厚生労働省の実務が本訴における被控訴人の主張と異なる運用をしていることを示すものではないし,被控訴人の主張が誤っていることの根拠となるものでもない。

(3) 予備的請求について

控訴人らが主張する指定養成施設等の教員要件を満たす者の立場が,法的資格といえないことはもちろん,法的地位(法的権利,法的に保護された利益を含む。)といえない事実上の地位にすぎないことは明らかである。また,控訴人Aらが確認を求める「同等以上の知識及び経験を有する者」とは,その実質は,過去の事実ないし事実に基づく評価というべきであって,法律関係とはいえないものである。結局,この予備的請求も上記控訴人らの法律関係の存否に関する紛争といえないから,法律上の争訟に該当せず,また確認の利益もないので,不適法な訴えといわざるを得ない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人A及び控訴人Bが求める本件確認の訴え及び当審で追加した予備的請求にかかる訴えはいずれも不適法で却下すべきものであり,控訴人らの損害賠償請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり当審における控訴人らの主張につき判断を付加するほか,原判決事実及び理由「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  争点1(本件確認の訴えの法律上の争訟性の有無)について

控訴人A及び控訴人Bは,指定養成施設等における専科教員となる資格を有することの確認を求めているが,柔道整復師に関する関係法令は,柔道整復師免許を取得するための柔道整復師試験の受験資格の一つとして,指定養成施設等における所定の知識及び技能の修得を定めた上,養成施設が柔道整復師を養成する施設としてふさわしいものであるか否かという観点から,養成施設等を指定するための基準を定め,いかなる者が養成施設等の教員としてふさわしいかという観点から具体的な教員の要件を定めたものというべきである。これら法令は,指定を受けるべき養成施設等に着目して,当該養成施設等に要求されるべき諸基準を定め,基準の一つとして教員の要件を定めたものであり,その要件に該当する者に一定の権利義務ないし法的地位を付与するものでないことは明らかである。

上記控訴人らは,柔道整復師の側からみると,専科教員の資格を得るための講習会の参加者は,同講習会を修了することによって,指定養成施設等で教員として教えることができ,改めて講習会を受講するにも多額の費用と時間を要するのであり,講習会の内容も追加講習で足りる程度であって,その実態からすれば,控訴人らは専科教員の資格を取得し,それを奪われたことなる旨を主張する。しかしながら,控訴人らが,柔道整復師として改正前指定規則に規定する厚生大臣の指定した講習会を修了したことで,指定養成施設に要する教員要件に該当する可能性が生じ,専科教員として雇用されうる事実上の利益を得ていたというにすぎないのであり,何らかの法的資格ないし法的地位が付与され,あるいは法的権利ないし法的に保護された利益が与えられたりしていたと解することができないことは明らかである。したがって,上記控訴人らが主張するような事情によって,同控訴人らが,何らかの法的資格ないし法的地位,あるいは法的権利ないし法的に保護された利益を有するといえるものではない。

また,上記控訴人らは,本件通知において,現職の専科教員に対して専科教員の資格の継続を認めざるを得なかったのは,本件改正前の専科教員有資格者に法的資格又は法的保護を受けるべき利益が存在するからであるとか,実務の運用は本件通知とは異なる旨を主張する。しかしながら,本件通知は,平成元年指定規則の施行の際,現に養成施設において教員として勤務しており,かつ,講習会の受講等によりその資質の向上に努めた者については,平成元年指定規則別表第二専門科目に属する科目の項に規定する「これと同等以上の知識及び経験を有する者」として,平成元年指定規則別表第二専門科目に属する科目の教員の要件を満たすという解釈,運用を示したものであるが,後記のとおり上記解釈,運用には一定の合理性があり,現に指定養成施設等の教員の地位にある者について,教員の地位にない者とは異なる取扱いをすることには理由があり,本件指定規則改正前に教員要件を満たす可能性のあった上記講習修了者がすべて同じ扱いを受けられるものではなく,その者に主張の専科教員の資格ないし法的保護を受けるべき利益の存在を認めたといえるものではない。また,主張のような非常勤の教員に選任され,指定養成施設等が運営されているとの事実があったとしても,非常勤に選任された者が何らかの資格者として上記扱いを受けたことを意味するものではなく,そのことが本件通知が誤っていることや,上記控訴人らの主張の根拠となるものではない。したがって,上記控訴人らの主張は採用することができない。

3  予備的請求について

控訴人A及び控訴人Bは,予備的に,平成元年指定規則,現行指定規則で定める養成施設の教員として教授するに適当と認められる者に該当することの確認を求めている。しかし,主張の指定養成施設等に求められる教員要件を満たす者であることは,前記のとおり,法的資格や法的権利,法的に保護された利益といえない事実上の地位にすぎないのであり,その確認を求める訴えは,本件確認の訴えと同様に,上記控訴人らの権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ということはできないから,法律上の争訟に該当しない不適法な訴えであることが明らかである。

4  争点3(被控訴人の国家賠償責任の有無)について

判示の事実(引用によるもの)によれば,本件法改正及びこれに伴う本件指定規則改正は,柔道整復師の資質の向上と養成教育のより一層の充実を図るために行われ,柔道整復師試験の受験資格が変わり(高等学校卒業者とし,指定養成施設等における必要な知識及び技能の修得を3年とした。),養成施設等の指定基準における教育科目・授業時間数が充実され,教育水準が高められ,これに伴い,指定養成施設等の指定基準は大幅に変更されたが,指定養成施設等の指定に関する経過措置は設けられず,そのため,既存の指定養成施設等についても,平成元年指定規則による新たな指定基準に基づき,再度,指定を受け直すこととなり,指定基準のうちの教員の部分についても,新たに厚生大臣が指定した「教員講習会」を受講することが要件とされたのである。控訴人らは,指定養成施設等の教員の条件につき追加講習を受けることを促すだけで足りるかの主張をするが,それでは上記の改正の趣旨に添うことにはならない。したがって,上記教員の部分につき,平成元年指定規則別表第二専門科目に属する科目の項に規定する「これと同等以上の知識及び経験を有する者」についても,上記のような改正の趣旨に従って解釈されるべきである。そうすると,本件通知は,新たに指定養成施設等の教育科目・授業時間数が充実されたことに伴い,改正前指定規則別表第三に規定する「講習会」を修了した者であっても,新たに厚生大臣の指定した「教員講習会」を受講しなければならないことを原則としながらも,現に養成施設において勤務している教員であって講習会の受講等によりその資質の向上に努めた者については,平成元年指定規則別表第二専門科目に属する科目の項に規定する「教員講習会」を受講した者であってそれぞれの科目に応じ相当の経験を有するものと同等以上の知識及び経験を有するものと解釈できるとしたものであって,これは現に教員であることが一定の知識,技能を有することを前提とするものであり,さらに資質の向上に努めていることを要件に加えたものであって,上記改正の趣旨に沿うものというべきであり,上記の原則の取扱いともども,相当の理由があり不合理ということはできない。また,控訴人らが,不利益を受けたと主張する点は事実上の不利益をいうにすぎないものであり,これが生じたのは本件法改正及びこれに伴う本件指定規則改正によるものであり,本件通知によるものではなく,本件通知が示す内容は上記改正の趣旨に照らし相当であり,厚生省健康政策局長が各都道府県知事に宛て本件通知を発したことが,同局長の職務上の義務に違反したといえないばかりか,控訴人らの権利や利益を何ら侵害しないことが明らかである。

5  したがって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,予備的請求は不適法であるから却下し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 犬飼眞二 裁判官 小池喜彦)

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