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東京高等裁判所 平成17年(行コ)220号 判決 2006年6月29日

主文

1  被告の控訴に基づき,原判決中被告の敗訴部分を取り消す。

2  前項の取消しに係る部分についての原告の請求を棄却する。

3  原告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審とも,原告の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

一  原告

1  原判決を次のとおり変更する。

(1) 第1事件(東京地方裁判所平成15年(行ウ)第379号)

ア 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成9年6月1日から平成10年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス3億6924万3429円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金7億7742万8848円を下回る部分をそれぞれ取り消す。

イ 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成10年6月1日から平成11年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス53億9788万4179円を超える部分,還付所得税額等1億7598万3194円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金61億0760万1547円を下回る部分並びに平成15年3月14日付け重加算税賦課決定処分(ただし,平成16年7月30日付け重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)をそれぞれ取り消す。

ウ 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成11年6月1日から平成12年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス48億5281万4411円を超える部分,還付所得税額等1億3798万6720円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金107億5557万0423円を下回る部分並びに平成15年3月14日付け重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

エ 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,翌期へ繰り越す欠損金77億7495万7884円を下回る部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)を取り消す。

オ 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告を合併法人とする被合併法人株式会社P1の平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額マイナス1億4789万3580円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金1億6799万8855円を下回る部分をそれぞれ取り消す。

カ 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けでした原告を合併法人とする被合併法人株式会社P1の平成12年7月1日から平成13年3月29日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,所得金額0円を超える部分(ただし,平成15年9月3日付け再更正処分により一部取り消された後の部分)及び還付所得税額等9417円を下回る部分並びに平成15年3月14日付け重加算税賦課決定処分(ただし,平成15年9月3日付け重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)をそれぞれ取り消す。

(2) 第2事件(東京地方裁判所平成15年(行ウ)第614号)

被告が平成15年9月3日付けでした原告の平成12年6月1日から平成13年5月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち,還付所得税額等3億9578万4859円を下回る部分及び翌期へ繰り越す欠損金98億3691万5269円を下回る部分並びに平成15年3月14日付け重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。

2  訴訟費用は,第1,2審とも,被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第2事案の概要等

1  本件は,原告が,原告の5事業年度の法人税及び原告が吸収合併した会社の2事業年度の法人税につき,渋谷税務署長及びその事務承継者である日本橋税務署長(被告)のした法人税の更正処分,重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

原審が更正処分等の一部を取り消しその余の請求を棄却したので,双方がその敗訴部分につき控訴した。

2  「役員報酬に関する法人税法等の定め」は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1に記載されたとおりであるから(原判決の5頁16行目から6頁11行目まで),これを引用する。ただし,原判決の6頁7行目の「同条2項」を「前2項」に改める。

なお,租税特別措置法62条1項は,「法人は,その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし,法人が使途秘匿金の支出をした場合には,当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は,法人税法66条1項から3項まで,…… その他法人税に関する法令の規定にかかわらず,これらの規定により計算した法人税の額に,当該使途秘匿金の支出の額に100分の40の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」旨を,同条2項は,「前項に規定する使途秘匿金の支出とは,法人がした金銭の支出のうち,相当の理由がなく,その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。」旨を,それぞれ規定している。

また,国税通則法65条1項は,「期限内申告書が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があったときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき35条2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。」旨を規定し,同条2項は,「前項の規定に該当する場合において,同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは,同項の過少申告加算税の額は,同項の規定にかかわらず,同項の規定により計算した金額に,当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」旨を規定している。また,同法68条1項は「65条1項の規定に該当する場合において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,政令で定めるところにより,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。」旨を規定している。

3  「前提事実」は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2に記載されたとおりであるから(原判決の6頁14行目から28頁8行目まで。原判決の別紙1及び別表1ないし8を含む。),これを引用する(ここに記載された内容は,(1)当事者等,(2)満期米ドル建他社株償還特約・劣後特約付社債(EB債)関係,(3)P2不動産関係,(4)P3ローン関係,(5)21世紀P4ファンド取引関係,(6)交際費関係,(7)本件に関する課税当局の調査経過,(8)確定申告,修正申告,更正処分及び加算税賦課決定処分等の経緯,(9)課税処分の根拠の概要,である。)。

ただし,原判決の25頁5行目の「平成13年5月期再更正処分」を「平成13年5月期更正処分」に改め,同頁11行目から12行目にかけての「なお,現時点においても,裁決は出されていない。」を削る(当審係属中の平成17年10月21日に「平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の更正処分に対する審査請求を却下する。その他の原処分に対する審査請求をいずれも棄却する。」との裁決が出された。)。

なお,EB債とは「満期米ドル建て他社株償還特約及び劣後特約付き社債」を(以下,米ドルを単に「ドル」という。),EB債1とは「原告が平成10年2月27日及び同年3月6日に発行した合計1億1500万ドルのEB債」を,P3ローンとは「P3社が平成12年2月2日に25億円を期間10年・利息年11パーセントで㈱P1に貸し渡したとされる金銭消費貸借契約」を,P4ファンド取引とは「原告が平成12年1月21日にP5からその保有する投資信託であるP4ファンドの受益権を3151万9000円で購入した契約」を,いう。

4  争点及びこれに関する当事者の主張は,下記5に「当審における当事者のの補充の主張」を掲記するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の3に記載されたとおりであるから(原判決の28頁10行目から29頁19行目まで。原判決の別紙2ないし5(原判決の202頁から445頁まで)及び別表6,10-3,11ないし13を含む。),これを引用する。

5  当審における当事者の補充の主張

(1)  原告の主張

ア EB債1について

(ア) EB債1に係る取引の実体は,P5及びP5家族からの原告に対する融資ではなく,あくまでもP5及びP5家族による原告が発行したEB債1の購入である。EB債1に付された他社株償還特約は有効であり,劣後特約も有効である。

(イ) 適正利率については,EB債1に付された他社株償還特約分として7.812パーセントを上乗せすべきである。

(ウ) 仮に他社株償還特約が無効でありこれによる7.812パーセントの上乗せをすることができないとしても,原告の格付けスプレッド8.00パーセント(米国における高利回り債の利回り上乗せ分5.00パーセントと,アジア・プレミアム(0.3%),EB債1の非流動性(1.35%)及び劣後特約(1.35%)分の計3.00パーセントとを合算したもの)による加算として8パーセントの上乗せは認められるべきである。5パーセントの上乗せしか認めなかった原判決はなんら根拠のないものである。

(エ) EB債1に係る金利21.25パーセントを否認した原処分は,法律上の明確な根拠なくして市場価格を否認したものであるから,憲法84条に違反する。

(オ) 原処分庁は,原処分の課税額を具体的に確定する上で調査すべきことが必要不可欠な事実を原処分後に調査しているから,原処分は国税通則法27条に違反しており,原処分には適正手続違反という取消事由がある。

イ P3ローンについて

(ア) P64兄弟と㈱P1との間で利息を年3.2パーセントとする金額25億円の消費貸借契約が成立した事実はない。

(イ) P64兄弟から㈱P1に対しては実際に25億円が拠出されているのであるから,これに即した適正利率を認定することが必要であり,その適正利率の範囲内での支払利息はこれを㈱P1において損金として計上できるものである。その適正利率は,独立当事者間取引における金利である11パーセントと認定するのが相当であり,仮にしからずとするも,8.4095パーセントと認定するのが相当である。

(ウ) P7社は,P8及びP9に名義を貸しただけの形式的な存在ではなく,P8及びP9はもとよりP5からさえも独立した存在である。たとえ,P7社がP5の予め決定したとおりに行為していたとしても,P7社においてP10社からの配当金(7.58%分の利息)を自己に帰属させる意思があった以上,P7社をその帰属主体とみるべきであって,このことは,いわゆる法人成りをした会社を考えれば明らかである。

(エ) P8及びP9は未だP3ローンに係る㈱P1からの支払利息を現実には受け取っておらず,したがって,㈱P1から同人らに対する利益供与(寄附)は未だ行われていない。

(オ) ㈱P1は,P3ローンに係る取引について,現実の資金の動きに合致した経理処理を行っており,その原因行為たる金銭消費貸借契約の内容等についても全て帳簿上明らかにしているから,重加算税の賦課要件たる仮装又は隠ぺい行為があったとは認められないものである。

(2)  被告の主張

ア EB債1に係る取引の実体に即した適正利率は,平成10年2月27日発行分については7.905パーセント,同年3月6日発行分については7.995パーセントである。

イ P11社に対するEB債1に係る支払利息のうち上記の適正利率を超える部分の支払は措置法62条1項にいう「使途秘匿金」に当たる。

ウ 法人税法132条によりP4ファンド取引自体を否認した渋谷税務署長の処分に違法はない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,渋谷税務署長及びその事務承継者である被告のした本件各処分はいずれも適法であり,原告の本訴請求は全部棄却すべきものであると判断する。その理由は以下のとおりである。

2  争点(1)(訴えの利益の有無)について

争点(1)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1で説示するとおりであるから(原判決の29頁22行目から33頁21行目まで),これを引用する。

3  争点(2)(EB債1に係る支払利息の性質,使途秘匿金課税の可否,重加算税の賦課要件の有無及び理由付記不備の有無)について

(1)  EB債1に係る本件各処分の内容,EB債1に係る取引についての当事者双方の主張,EB債1に係る取引の実体を確定する必要性,については,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2の(1)ないし(3)に記載されたとおりであるから(原判決の33頁24行目から35頁21行目まで),これを引用する。ただし,原判決の34頁8行目から9行目にかけての「その管理支配下に置いてその事業の用に供されたこと」を「提供された金員をその管理支配下に置いてその事業の用に供したこと」に改める。

(2)  EB債1に係る取引の実体について

ア EB債1に係る取引の実体についても,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2(4)の「ア EB債1発行に至るまでの経緯等」(ここに記載された内容は,(ア) 原告が所有するP12株式の譲渡時に生じるキャピタル・ゲイン課税についてのP5の懸念,(イ) 原告による赤字の計上,P12株式の売却,両者の相殺,赤字計上のための支出金の関係者による収受等についての検討,(ウ) 債券発行の具体的な内容(債券の種類,金額,発行日,利率等)が決定していなかったにもかかわらず,引受人(投資家)が決まっていたこと,(エ) 発行予定の債券においては他社株償還特約の適用は実際には行わず,期限前に現金による償還をすることが予定されていたこと,(オ) 社債発行の直前においても原告が調達資金の明確かつ確固たる具体的な運用計画を持ち合わせていなかったこと,(カ) P5家族が用意できるだけの資金額がそのままEB債1の発行額となったこと,(キ) P13証券が積極的に支払利息の利率を引き上げようと目論んでいたこと,(ク) EB債1の投資家が実質的に一人である上,転売も予定されていなかったこと,(ケ) P5によるEB債1発行の最終意思決定,(コ) EB債1の発行直前でも明確かつ確固たる具体的な企業買収の予定がなかったこと,である。),同「イ EB債1の発行に係る組織群の作成」(ここに記載された内容は,(ア) SPCの各法人等の名称,(イ) P14,P15及びP16について,(ウ) P17について,(エ) P18U/Tについて,(オ) P19 U/Tについて,(カ) P20U/Tについて,(キ) P11について,(ク) EB債1に係る組織群の役割,である。),同「ウ EB債1発行後の事情」,同「エ EB債1の中途買入消却の経緯等」,同「オ EB債1の解約とEB債2の発行とが連動していること」,同「カ EB債1に係る取引の実体」,に記載されたとおりであるから(原判決の35頁23行目から92頁12行目まで),これを引用する。

ただし,原判決の43頁2行目の「平成12年(2000年)に」を「平成12年(2000年)5月期に」に改め,61頁1行目の「自分」を「P5」に改め,79頁12行目から14行目にかけての「P11は原告又はP5家族と関係のある者であって,P5家族又はその関係者が実質的に支配するものであると評価することができる。」を「P11はP5又はP5家族が実質的に支配するものであり,P11に対する真の投資家はP5又はP5家族であると推認することができ,P11は原告の支払う利息がP5又はP5家族に帰属する事実を覆い隠すための存在にすぎないものというべきである。」に改め,82頁10行目から12行目にかけての「P11は原告又はP5家族と関係のある者であって,P5家族又はその関係者が実質的に支配するものであること」を「P11はP5又はP5家族が実質的に支配するものであること」に改め,85頁17行目の「載せる」を「載せられる」に改め,86頁8行目から9行目にかけて及び87頁2行目から3行目にかけての「P5家族又はその関係者」をいずれも「P5又はP5家族」に改め,87頁21行目から23行目にかけての「P11は原告又はP5家族と関係のある者であって,P5家族又はその関係者が実質的に支配するものであること」を「P11はP5又はP5家族が実質的に支配するものであること」に改め,88頁3行目,7行目,10行目,21行目,23行目から24行目にかけての「P5家族又はその関係者」をいずれも「P5又はP5家族」に改め,89頁4行目から5行目にかけての「(P5,P5家族又はその関係者)」を「(P5又はP5家族)」に改め,91頁6行目の「P5家族又はその関係者」を「P5又はP5家族」に改める。

イ 原告は,当審において,重ねて,「EB債1に係る取引の実体は,P5及びP5家族からの原告に対する融資ではなく,あくまでもP5及びP5家族による原告が発行したEB債1の購入である。」旨,「EB債1に付された他社株償還特約は有効である(P5又はP5家族が原告を支配しているか否かと他社株償還特約が無効であるか否かとは別個の問題であり,他社株償還特約は行使される可能性があった。)。」旨,「EB債1に付された劣後特約も有効である(P5家族と原告とは実質的に同一経済主体とはいえない。原告がEB債1についていつでも任意にいかなる内容の償還又は買入消却でもできたか否かと劣後特約が無効であるか否かとは別個の問題である。)。」旨を主張する。

しかし,平成10年2月及び3月に発行されたEB債1に係る取引の実体は,P5及びP5家族からの原告に対する融資(貸付け)とこれに対する原告からのP5及びP5家族への利息の支払にほかならないものとみることができるから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,原告は,その所有するP12株式を将来売却する場合に多額の売却益が発生することに備えて,予め欠損金を発生させて蓄積しておき,その欠損金によって売却益を減少させる方法によりキャピタル・ゲイン課税を免れることを計画し,かつ,その欠損金を発生・蓄積させるために実際に原告から支出する金員(支払利息)についてはこれをP5若しくはP5家族又はこれらの者が実質的に支配する会社等の外に流出することを防止するため,EB債の発行と購入者に対する利息の支払を考案したものである。本件EB債1の発行スキームにおいては,金員を出捐するP5及びP5家族とこれを受け取る原告との間に新たに設立するなどする海外リミテッド・パートナーシップ,海外信託(ユニット・トラスト,U/T),海外法人等をことさらに介在させ,表面上はこれらの第三者が独立してEB債を購入するものとし,海外リミテッド・パートナーシップであるP14LPS,海外信託であるP20U/T及び海外法人であるP11社をしてEB債1を購入させ(その購入資金合計1億1500万ドル(約146億円)は,P5及びP5家族においてこれらの者の社債を購入しあるいはこれらの者に出資するという形で出捐する。),そして原告はこれらの者にEB債1の利息(年21.25%)を支払い,P5及びP5家族はこれらの者から社債の利息として金員の支払を受けあるいは出資に基づく配当として金員の支払を受けるものであり,原告が支出した支払利息は実質的にはP5及びP5家族の支配下に置かれるというものである。EB債1の発行スキームは,金員の真の出捐者がP5及びP5家族であること及び原告からの支払利息の真の受領者がP5及びP5家族であることを覆い隠すために考案され,実行されたものである。そして,本件EB債1には,他社株償還特約及び劣後特約が付されているものの,これらが現実に適用されることは想定されていなかったということができる。EB債1に係る取引の実体が上記のようなものである以上,原告において真にEB債1の発行によって資金を調達したものとみることができないことは明らかであり,EB債1に係る取引の実体は,P5及びP5家族からの原告に対する融資(貸付け)とこれに対する原告からのP5及びP5家族への利息の支払とみるべきものであるから,原告の上記主張は採用することができない。

(3)  EB債1に係る取引の実体に即した適正利率について

ア EB債1に係る取引の実体は,上記のとおり,独立の第三者が原告の発行する他社株償還特約及び劣後特約付きのEB債1を購入したものではなく,実質的には,P5及びP5家族が原告に対して融資(貸付け)を行ったものとみるべきである。すなわち,P14LPS及びP20U/TがEB債1を購入したとされる分については,P5及びP5家族が原告に対して合計1億0500万ドルを融資したものであり,P11社がEB債1を購入したとされる分については,P5又はP5家族が1000万ドルを融資したものとみるべきである。そうとすれば,EB債1に係る原告の支払利息については,この実体に即した範囲内においてのみすなわちP5及びP5家族からの原告に対する融資という実体に即した適正な利率の範囲内においてのみ,法人税法22条3項2号にいう「販売費,一般管理費その他の費用」に当たるものというべきであり,それを超える部分については,「販売費,一般管理費その他の費用」に当たるものということができず,原告の役員であるP5及びP5家族に対する利益の供与に当たるものというべきである。

イ そこで,貸主が原告の役員であるP5及びP5家族であるという前提に立って,その融資の適正利率について検討する。

この点について,原告は,「たとえP5及びP5家族が実質的な資金の拠出者であったとしても,適正利率は,EB債1の発行によって原告が1億1500万ドルを調達するために要する客観的な利率とすべきであり,それは年利21.25パーセントである(5.466%+8.00%(5.00%+3.00%)+7.812%)。」旨を主張し,他方,被告は,「適正利率は,EB債1の発行時のドル建て5年物スワップレートである6.005パーセントないし6.095パーセントに,1.4パーセントの信用スプレッドを加え,さらに,5年という期間を考慮して新長期プライムレートと新短期プライムレートとの差である0.5パーセントを加算した7.905パーセントないし7.995パーセントとするのが合理的である。」旨を主張する。

ウ 適正利率の算定方法

(ア) まず,前記のようなEB債1に係る取引の実体にかんがみれば,原告が主張するEB債の発行としての利率を検討することができないことは明らかである。

(イ) 被告が主張するとおり,P5及びP5家族からの原告に対する融資という実体に即した適正利率は,<ア>EB債1がドル通貨で発行されていること及び償還時期が5年後であることに徴すると,EB債1の発行時のドル建て5年物スワップレートである6.005パーセント(平成10年2月27日発行分)及び6.095パーセント(同年3月6日発行分)(乙48)をまず出発点として考えるのが相当である。<イ>そして,一般に,スプレッド貸しは,原価に一定の利益を加えたものをその対価とする方法であり,その方法自体は独立企業間の取引の対価を算定するための一般的な方法の一つとして認められていることからして,また,上記のスワップレートが東京市場における銀行間の5年間のドル資金の貸出実勢レートであり,完全なリスクフリーレートではないものの,銀行間の取引を前提とした信用ある当事者間の取引レートであることにかんがみて,上記の6.005パーセント及び6.095パーセントを基準として,さらに,借主たる原告の信用力に応じたスプレッド(①)と融資金(貸付金)の多寡や担保の有無等の個別的事情(②)とに基づく加算を行うのが相当である。

エ 適正利率

(ア) 適正利率については,まず,上記ウ(イ)<ア>のとおり,EB債1の発行時のドル建て5年物スワップレートである6.005パーセント(平成10年2月27日発行分)及び6.095パーセント(同年3月6日発行分)(乙48)を出発点として考える。

(イ) 次に,上記ウ(イ)<イ>の①の借主たる原告の信用力に応じたスプレッドについて検討するに,これについては,原告が平成10年1月29日から同年2月27日までの間P21銀行東京支店から原告の信託受益権1億円を担保として5億円を年利2.071880パーセントで借り受けた際のスプレッドが1.4パーセントであったことを考慮すると(乙49),当時の原告の信用力に応じたスプレッドは1.4パーセントと認めるのが相当である。

(ウ) 次いで,上記ウ(イ)<イ>の②の「融資金(貸付金)の多寡や担保の有無等の個別的事情」についてみると,利率を上げ得る事情としては,i 原告の貸付けを受ける金額が約146億円と極めて多額であること,ii 貸付けを受ける期間が5年であること(なお,平成16年4月当時,新短期プライムレートと3年超の新長期プライムレートとの差は0.5パーセント程度であった(乙266 )。),iii 貸付けに対する担保が提供されないこと,iv 貸主の権利に流通性がないこと,等を指摘することができ,他方,金利を下げ得る事情としては,v 貸付けを行う者が原告の株主であり役員でもあるP5及びP5家族であること,vi 貸付けの期間が5年であるとはいっても,EB債1については中途償還又は中途買入消却が予定されていたこと(現に全額中途買入消却されている。),vii さらに,担保が提供されないとはいっても,原告にはP12株式の含み益が平成9年12月ころの株価4万円を基準として計算すると2000億円以上あったのであり,しかも,P5が原告の資産や経営状態等を把握していることからその一存で中途償還ないしは中途買入消却をすることは容易にでき,したがって,それによって融資した約146億円の全額を回収することができ,貸倒れになることはまずなかったと考えられること,viii 実際にも約146億円が出捐されるに当たって原告に返済能力があるか否かが検討された形跡はないこと(原告には返済能力が十分にあった。),ix 原告にとって融資を受けた約146億円は必ずしも必要不可欠の運転資金であったわけではないこと,x 貸付金約146億円はP5及びP5家族において他から借り入れるなどしたものではなく,運用可能なものとしてP5及びP5家族が所持していた余剰資金であること,xiさらに,P5及びP5家族においては貸付けに係る権利(外形的にはEB債1)を第三者に譲渡することは当初から考えていなかったこと,等の事情を挙げることができる。これらの事情を総合考慮すると,上記の個別的事情による加算としては0.5パーセントを認めるのが相当である。

(エ) したがって,EB債1に係る取引の実体すなわちP5及びP5家族からの原告に対する融資(貸付け)という実体に即した適正利率は,7.905パーセント(6.005%+1.4%+0.5%)(平成10年2月27日発行分)及び7.995パーセント(6.095%+1.4%+0.5%)(同年3月6日発行分)と認めるのが相当である。

オ(ア) これに対し,原告は,前記イのとおり,EB債1を独立の第三者に発行することを前提として,本件において実際にEB債1の発行の段階で算定した「i リスクフリーレート(5年物米国債利回り)5.466パーセント,ii 原告の格付けスプレッド8.00パーセント(米国における高利回り債の利回り上乗せ分5.00パーセントと,アジア・プレミアム(0.3%),EB債1の非流動性(1.35%)及び劣後特約(1.35%)分の計3.00パーセントとを合算したもの),iii 他社株償還特約(オプション費用)を利率に反映した7.812パーセント,の以上合計21.278パーセント」を区切りのよい小数点以下4分の1の単位で切り捨てた年利21.25パーセントが適正利率であると主張する。

しかし,EB債1に係る取引の実体は,前記のとおり,独立の第三者が原告の発行する他社株償還特約及び劣後特約の付されたEB債1を購入するものではなく,実質的には,P5及びP5家族が原告に対して融資を行い,これに対し原告がP5及びP5家族に利息を支払うものとみるべきであるから,原告の上記主張はその前提を欠き,採用することができない。

(イ) また,原告は,当審において,重ねて,「EB債1に付された他社株償還特約分として上記の7.812パーセントを上乗せすべきである。」旨を主張する。

しかし,EB債1に係る取引の実体がP5及びP5家族からの原告に対する融資である以上,EB債1に付された他社株償還特約を考慮する理由も必要もないものであるから(そもそも,他社株償還特約の履行は予定されていなかった。乙45),原告の上記主張も採用することができない。

(ウ) さらに,原告は,当審において,重ねて,「仮に他社株償還特約が無効でありこれによる7.812パーセントの上乗せをすることができないとしても,原告の格付けスプレッド8.00パーセント(米国における高利回り債の利回り上乗せ分5.00パーセントと,アジア・プレミアム(0.3%),EB債1の非流動性(1.35%)及び劣後特約(1.35%)分の計3.00パーセントとを合算したもの)による加算として8パーセントの上乗せは認められるべきである。5パーセントの上乗せしか認めなかった原判決はなんら根拠のないものである。」旨を主張する。

しかし,EB債1に係る取引の実体はP5及びP5家族の原告に対する融資であり,P5及びP5家族が高利回り債(ハイイールド債)として投資したわけではないから,適正利率は,P5及びP5家族からの原告に対する融資として検討すべきであり,そうとすれば,米国における高利回り債の利回り上乗せ分を考慮すべきではなく,また,平成13年5月期事業年度までは原告の株主はP5とP5家族のみであり原告の役員はP5及びP5家族とP5の母であって原告はP5によって支配されている同族会社であるから,P5及びP5家族にとって原告が日本企業であるということなどは全く問題とならないことであり,したがって,アジア・プレミアムなるものを考慮する必要性もなく,ただ,非流動性についてはこれを考慮し得る余地があるとしても,これについても,P5及びP5家族は当初から融資に係る権利(外形的にはEB債1)を第三者に譲渡することは全く予定していなかったのであるから,流動性があるかないかということも,P5及びP5家族の原告に対する融資の適正利率を認定するに当たって特に考慮する必要性のないものである。なお,劣後特約についても,それは,EB債1の中途償還又は中途買入消却が予定されていたために実際には意味のない特約であり,原告の財務状況の悪化によりP5及びP5家族がEB債1の償還を受けられない事態が生ずるとは考えられないから(当事者もそのようなリスクは考えていなかった。),P5及びP5家族の原告に対する融資の適正利率を認定するに当たっては考慮する必要性のないものである。

結局のところ,上記エのとおり,原告の信用力に応じたスプレッド,融資金(貸付金)の多寡や担保の有無等の個別的事情,の両者に基づく加算として1.9パーセントを認めるのが相当であって,原告の上記主張も採用することができない。

(エ) さらに,原告は,「EB債1に係る金利21.25パーセントを否認した原処分は,法律上の明確な根拠なくして市場価格を否認したものであるから,憲法84条に違反する。」とも主張するが,EB債1に係る取引の実体が前記のようなものである以上,EB債1に係る本件各更正処分が憲法84条に違反するものでないことは明らかである。

(4)  EB債1の適正利率超過部分の法的性質について

ア 上記のとおり,EB債1の平成10年2月27日発行分については年利7.905パーセントを超える支払利息部分,同年3月6日発行分については年利7.995パーセントを超える支払利息部分は,いずれも法人税法22条3項2号の損金の額に算入すべき「販売費,一般管理費その他の費用」には当たらず,それは,以下のとおり,原告の役員であるP5及びP5家族に対する「役員報酬」とみるのが相当である。

イ P15ルート及びP22ルートについて

P15ルート及びP22ルートについての損金不算入額等は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2(6)イで説示するとおりであるから(原判決の104頁16行目から108頁22行目まで),これを引用する。

ただし,原判決の108頁13行目から22行目までを次のとおり改める。

「したがって,別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄及び別表13-2各記載のとおり,平成10年5月期事業年度につき,株主総会の決議等により報酬として支給することができる金額の限度額を超えて原告の取締役であるP5に対して支給された「不相当に高額な部分の金額」(同改正前の法人税法34条1項,同法施行令69条2号)3億1604万0194円,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度の同改正後の法人税法34条2項の役員報酬の額,それぞれ,16億8551万8553円(18億4552万6779円-8051万7497円-7949万0729円),14億7663万0624円(16億1680万8876円-7023万1617円-6994万6635円),2億8870万2052円(3億3611万4413円-4741万2361円)は,それぞれの事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入することができないこととなる。」

ウ P11ルートについて

(ア) 前記のとおり(訂正後の原判決の86頁のカ(ア)),P11社はP5又はP5家族が実質的に支配するものであり,EB債1の支払利息の受領者が購入資金の拠出者であるこれらの者であることを隠ぺいするために形式的な受取人として介在させたものにすぎないと認められるから,P11ルートにおける支払利息のうち適正利率超過部分はP5又はP5家族に対する利益供与となるものというべきである。

なお,P11社がP5又はP5家族によって実質的に支配される会社であり,P11社に対する真の資金拠出者がP5又はP5家族であって,P11社が原告の支払う利息の真の受領者がP5又はP5家族であることを覆い隠すための存在であることは,他のP15ルート及びP22ルートとの対比からしても,また,EB債1の購入資金1000万ドルを拠出した者を最もよく知り得る立場にあるP5もEB債1の発行会社である原告もP11社に対する真の拠出者を明らかにしようとしないことや,証拠上P11社とP5又はP5家族との間に介在する組織群の存否等が判然としないことからも,十分に推認できるものである。P11社のみがP5及びP5家族から切り離された独立の第三者であるとみることの方こそが不自然である。

そして,この適正利率超過部分は,P5又はP5家族のうちの誰が真の受領者であるかが不明であるという意味において使途不明金というべきものであり,また,平成11年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度においては,原告がEB債1の支払利息の真の受領者が購入資金の拠出者であるP5又はP5家族であることを隠ぺいするためにP11社を形式的な受取人として介在させ,帳簿上はこれに対して利息を支払ったものとしたのであるから,それは事実を隠ぺいし又は仮装して経理をすることにより原告の取締役であるP5又は原告の代表取締役であるP23並びに取締役であるP5,P8及びP9に対して支給された報酬の額(法人税法34条2項)に当たるものである。

(イ) そうすると,別表13-1のとおり,平成10年5月期事業年度ないし平成13年5月期事業年度において,P11社に対して前記の適正利率を超過して支払われた4123万6290円,1億6000万8226円(8051万7497円+7949万0729円),1億4017万8252円(7023万1617円+6994万6635円),4741万2361円は,それぞれの事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入することができないこととなる。

エ 原告は,「EB債1の利息の支払について現実の資金の動きに合致した経理処理を行っている以上,当該経理処理は法人税法34条2項にいう仮装経理には該当しないものであり,仮にこれが仮装経理に該当するとすれば,更正処分の対象となる取引のおよそすべてがこれに該当することになり,不合理な結果を招来することになる。」旨を主張する。

しかし,本件で事実の隠ぺい・仮装の経理ととらえているのは,組織群をことさらに介在させて,介在させた組織群を利用して利息の授受を行っていたことであるから,たとえその利息の動きに合致する経理処理が行われていたとしても,それ自体があえて作出されたものというべきであり,原告の上記主張も採用することができない。

オ その他,原告は種々の主張をするが,いずれも採用することができない。

(5)  P11社に係る使途秘匿金について

ア 措置法62条1項は,「法人は,その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし,法人が使途秘匿金の支出をした場合には,当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は,法人税法66条1項から3項まで,…… その他法人税に関する法令の規定にかかわらず,これらの規定により計算した法人税の額に,当該使途秘匿金の支出の額に100分の40の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。」旨を規定し,同条2項は,「前項に規定する使途秘匿金の支出とは,法人がした金銭の支出のうち,相当の理由がなく,その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。」旨を,それぞれ規定している。また,措置法施行令38条3項は,「法62条1項の規定を適用する場合において,法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載している場合においても,その金銭の支出がその記載された者を通じてその記載された者以外の者にされたと認められるものは,その相手方の氏名等が当該法人の帳簿書類に記載されていないものとする。」と規定している。

イ そこで,P11社に対するEB債1の支払利息のうち前記の適正利率超過部分が措置法62条1項にいう「使途秘匿金」に当たるか否かについて検討するに,P11社はいわゆるペーパーカンパニーであり,P5又はP5家族が実質的に支配する会社であって,P11社に対する真の資金拠出者はP5又はP5家族であると推認されるところ,原告がEB債1の支払利息の真の受領者が購入資金の拠出者であるP5又はP5家族であることを隠ぺいするためにP11社を形式的な受取人として介在させ,帳簿上はこれに対して利息を支払ったものとしたのであるから,少なくともP11社に対して支払った適正利率超過部分は,帳簿に記載された者(P11社)を通じてその記載された者以外の者(P5又はP5家族)に支払われたものとして,上記の「使途秘匿金」に当たるものというべきである。原告が支払の相手方(P5又はP5家族)の氏名を帳簿に記載しなかったことにつき相当の理由があったものとは認められない。

したがって,原告の使途秘匿金に対する措置法62条1項に基づく課税は適法である。

(6)  理由付記の不備の有無については,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2(8)で説示するとおりであるから(原判決の115頁11行目から120頁15行目まで),これを引用する。

ただし,原判決の118頁10行目の「P5家族又はその関係者」を「P5又はP5家族」に改め,同頁17行目冒頭の「そして,」から25行目の「ことからして,」までを「以上によれば,」に改める。

(7)  国税通則法27条違反について

原告は,「原処分庁は,原処分の課税額を具体的に確定する上で調査すべきことが必要不可欠な事実を原処分後に調査しているから,原処分は国税通則法27条に違反しており,原処分には適正手続違反という取消事由がある。」旨を主張する。

しかし,原告が指摘する甲108号証は,P24銀行グループ税務部のP25が東京国税局に宛てた「平成15年4月22日付け質問書に対するご回答-中間報告-」というものであり,この回答書が本件各処分を行う上で必要不可欠なものであったとは認められず,この回答書がなくとも渋谷税務署長は事情聴取等の十分な調査をしたといえるから,原告の上記主張も採用することができない。

4  争点(3)(法人税法132条の憲法適合性)について

争点(3)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の3で説示するとおりであるから(原判決の120頁17行目から124頁24行目まで),これを引用する。

5  争点(4)(P2不動産売買契約の否認の可否,理由付記不備の有無)について

争点(4)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の4で説示するとおりであるから(原判決の124頁末行から145頁6行目まで),これを引用する。

6  争点(5)(P3ローンに係る支払利息の性質,重加算税の賦課要件の有無,理由付記不備の有無)について

(1)  争点(5)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の5で説示するとおりであるから(原判決の145頁9行目から164頁16行目まで),これを引用する(ここに記載された内容は,(1) P3ローンに係る支払利息の性質についての当事者双方の主張,(2) P3ローンに係る取引の実体(ア P3ローンの策定の経緯等,イ P2不動産売買契約からP3スキームの計画・実行に至るまでの経緯等,ウ P64兄弟がP3ローンに資金拠出した経緯,エ P7の設立の経緯等,オ 取引の実体),(3) 平成13年8月7日以降のP3ローンのスキーム像,(4) P3ローンに係る本件各処分の適法性,(5) 所得金額の増加額,(6) 理由付記の不備の有無,である。)。

ただし,原判決の151頁24行目の「SPC1」を「SPC2」に改め,162頁6行目の「78条1号」を「78条」に改める。

(2)  原告の主張に対して

ア 原告は,当審において,重ねて,「P64兄弟と㈱P1との間で利息を年3.2パーセントとする金額25億円の消費貸借契約が成立した事実はない。」旨を主張する。

たしかに,外形的・形式的にはそのような消費貸借契約が成立した事実は認められない。

しかし,平成12年2月になされたP3ローンに係る取引の実体は,P64兄弟と㈱P1との間に利息を年3.2パーセントとする金額25億円の消費貸借契約があったものとみることができるのであるから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,㈱P1の実質的支配者であるP5は,P3ローンに係るスキームを検討の際,P64兄弟から25億円を国債の利回りより高い利率で運用することを依頼されたことから,同人らより25億円の拠出を受けて同人らに年利3.2パーセントの利息を支払うこととし(乙74),そして,㈱P1に多額の欠損金を発生させるために,この25億円を直接に㈱P1に貸し付けることをせず,両者の間に新たに設立する無用な海外法人等をことさらに介在させて,外形的には,P64兄弟が海外信託であるP26U/Tに25億円を拠出してその受益権を取得し,P26U/TがP27に委託して海外法人であるP10社の25億円の社債を購入し(利息年3.2%),次いでP10社が同じく海外法人であるP3社の25億円の社債を購入し(利息年10.78%),そして,P3社が㈱P1に25億円を年利11パーセントで貸し付け(P3ローン),これに対し,㈱P1がP3社に借入利息(年利11%)を支払い,P3社は自社の社債を持つP10社にそのうちの10.78パーセント分の利息を支払い,さらに,P10社は,そのうちの3.2パーセント分の利息を自社の社債を持つP26U/Tに支払い,残余の7.58パーセント分の利息を自社の優先株を持つ海外法人であるP7社に配当したものである。しかるところ,P26U/Tの受益権者はP64兄弟のみであることから,㈱P1が支出した支払利息(年利11%)のうちの3.2パーセント分は最終的かつ実質的にはP64兄弟に帰属したものとみ得るのであり,他方,P7社の株主はP28U/Tのみであり,P28U/Tの受益権者はP8及びP9のみであるから,結局,㈱P1が支出した支払利息(年利11%)のうちの7.58パーセント分は最終的かつ実質的にはP8及びP9の支配下に置かれることとなったのである。P3ローンに係るスキームは,㈱P1からの支払利息の一部がそれを受領する理由のないP8及びP9に実質的に帰属することを覆い隠すために考案されて実行されたものといえるのである。P3ローンに係る取引の実体が以上のようなものである以上,P64兄弟と㈱P1との間に利息を年3.2パーセントとする金額25億円の消費貸借契約があったものとみることができるのであるから,原告の上記主張は採用することができない。

イ また,原告は,当審において,重ねて,「P64兄弟から㈱P1に対しては実際に25億円が拠出されているのであるから,これに即した適正利率を認定することが必要であり,その適正利率の範囲内での支払利息はこれを㈱P1において損金として計上できるものである。その適正利率は,独立当事者間取引における金利である11パーセントと認定するのが相当であり,仮にしからずとするも,8.4095パーセントと認定するのが相当である。ただし,原告がP64兄弟からP26U/Tの受益権を購入した平成13年8月7日以降のP3ローンに係る支払利息についてはそれが損金に計上できないことを争わない。」旨を主張する。

しかし,前記アのとおり,㈱P1の実質的支配者であるP5は,P64兄弟より25億円の拠出を受けて同人らに年利3.2パーセントの利息を支払うこととし,現に㈱P1が支出した支払利息のうちの3.2パーセント分は最終的かつ実質的にはP64兄弟に帰属したとみ得ることなどから,P64兄弟から㈱P1に対する25億円の拠出こそが実質的にはまさにP64兄弟から㈱P1への約定利率3.2パーセントとする25億円の貸付けに当たるということができるのであって,このように当事者間で利率が年3.2パーセントと合意されているとみることができる以上,もはやこの約定利率を超えて適正利率を認定すべき必要性はないのであり,原告の上記主張は採用することができない(原告はもし約定利率が100パーセントと合意されたのであれば適正利率を検討することになるはずである旨を主張するが,この場合に課税庁によって約定利率が否認されれば裁判所において適正利率がいくらであるかを認定する必要性が生ずるが,P3ローンにおいては約定利率が課税庁によって否認されていない以上,それにもかかわらず裁判所が適正利率を認定する必要性はないというべきである。)。

ウ さらに,原告は,当審において,重ねて,「P7社は,P8及びP9に名義を貸しただけの形式的な存在ではなく,P8及びP9はもとよりP5からさえも独立した存在である。たとえ,P7社がP5の予め決定したとおりに行為していたとしても,P7社においてP10社からの配当金(前記7.58%分の利息)を自己に帰属させる意思があった以上,P7社をその帰属主体とみるべきであって,このことは,いわゆる法人成りをした会社を考えれば明らかである。」旨を主張する。

しかし,本件のP3ローンに係る取引においては,P7社はP5の指示によりP10社からの配当金を受け取るためだけに設立された会社であり,P28U/Tのみの出資(株主)によって設立されており,そして,このP28U/Tの受益権を持つ者はP8とP9だけであるから,そうとすれば,この配当金の実質的な帰属先はP8及びP9と認めることができ,P7社には自己に蓄積されるこの配当金(㈱P1からの支払利息の一部)を最終的に自己のものとする意思はなかったと認められるから,原告の上記主張も採用することができない。P7社に蓄積される上記配当金の問題は,それが実質的には誰に帰属するかの問題であって,P7社の法人格を否認してP8及びP9をその代替者とすることではないから,P7社を法人成りした会社になぞらえることは何ら意味のないことである。

エ さらに,原告は,当審において,重ねて,「P8及びP9は未だP3ローンに係る㈱P1からの支払利息を現実には受け取っておらず,したがって,㈱P1から同人らに対する利益供与(寄附)は未だ行われていない。」旨を主張する。

しかし,㈱P1からP3社に支払われた年利11パーセントの利息のうちの10.78パーセント分の利息がP3社からP10社に支払われ,この10.78パーセント分の利息のうちの7.58パーセント分の利息がP7社に支払われ,これが同社に保留・蓄積されているのである。そして,このP7社の出資者(株主)がP28U/Tのみであり,P28U/Tの受益権者がP8とP9のみであることを考慮すると,たとえP8及びP9が未だ実際には㈱P1が支出した支払利息の一部を受け取っておらず,これがP7社に保留・蓄積されているとしても,なお実質的にはそれがP8及びP9に帰属するものということができるものである。原告の上記主張も採用することができない。

オ 原告は,当審において,重ねて,「㈱P1は,P3ローンに係る取引について,現実の資金の動きに合致した経理処理を行っており,その原因行為たる金銭消費貸借契約の内容等についても全て帳簿上明らかにしているから,重加算税の賦課要件たる仮装又は隠ぺい行為があったとは認められないものである。」旨を主張する。

しかし,本件で事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装ととらえているのは,㈱P1に多額の欠損金を発生させることを意図して,P64兄弟と㈱P1との間に新たに設立する無用な海外法人等をことさらに介在させ,介在させた海外法人などを利用して利息の授受を行っていたことであるから,たとえその利息の動きに合致する経理処理が行われていたとしても,それ自体があえて作出されたものというべきであり,重加算税の賦課要件は十分に充足していると認められるから,原告の上記主張も採用することができない。

7  争点(6)(P4ファンド取引の否認の可否)について

(1)  渋谷税務署長によるP4ファンド取引の法人税法132条による否認とこれに対する原告の主張,法人税法132条の趣旨等は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の6の(1)(2)に記載されたとおりであるから(原判決の164頁18行目から165頁17行目まで),これを引用する。

(2)  P4ファンド取引を容認した場合にはその同族会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となるか否か

ア P4ファンド取引が法人税の負担を「減少」させる結果となること,これに対する原告の主張とそれについての判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の6の(3)のアイに記載されたとおりであるから(原判決の165頁20行目から168頁17行目まで),これを引用する。

イ P4ファンド取引が法人税の負担を「不当」に減少させる結果となること,これに対する原告の主張とそれについての判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の6の(3)のウからエ(イ)までに記載されたとおりであるから(原判決の168頁18行目から170頁2行目まで),これを引用する。

(3)  そして,上記のとおり,原告がP5から3151万9000円(取得価額1000万円と予想配当額2151万5540円との合計額)でP4ファンドの受益権を購入した行為が原告にとって損失しか生じないものであり純経済人の行為として不合理なものである以上,税務署長はこれを否認することができるものである。

この場合において,税務署長は否認したP4ファンド取引すなわち原告がP4ファンドの受益権をP5から3151万9000円で購入した行為又は計算を「通常あるべき行為又は計算」すなわち「正常な行為又は計算」に引き直して納付すべき税額を計算しなければならないものではあるが,本件P4ファンド取引については,「正常な行為又は計算」を観念し得ないものというべきであるから,税務署長はP4ファンド取引自体を否認し得るものというべきである。すなわち,たしかに,原告は,P4ファンドの予想配当金額2151万5540円から源泉所得税額及び道府県民税利子割額分(合計20パーセント)の合計430万3108円を控除した金額1721万2432円に,法人税額から控除される所得税額(原告は簡便法を使用しているので15パーセントの2分の1の7.5パーセント分)及び道府県民税利子割額分(5パーセント分)の合計268万9442円(2151万5540円×0.075+2151万5540円×0.05)を加算し,更に取得価額1000万円を加算した金額である2990万1874円以下で購入すれば損失は生じないことになるのであり,他方,P4ファンド取引がなされた平成12年1月当時において,個人が受益証券を保有している投資信託を売却した場合には仮に売却益があったとしても非課税とされていたことによると,P5も,2721万2432円以上で売却すれば損失は生じないことになるものである。しかしながら,そうであるからといって,本件において原告の「正常な行為又は計算」がこの2721万2432円以上2990万1874円以下の購入であるということはできないものというべきである。けだし,①原判決認定のとおり(原判決の17頁(5)),原告はP5からP4ファンドの受益権を平成12年1月21日(金曜日)に買い取ったものであるが,それは償還日である同月23日(日曜日)のわずか2日前であり,P4ファンドの運用による投資収益が上がることはほとんど望めない状況であって,通常そのような時期に原告の立場にある純経済人が投資収益を期待してP4ファンドの受益権を購入する行為に出ることはあり得ないものである,②しかるに原告があえてP5からP4ファンドの受益権を3151万9000円で購入したのは,専ら,原告において前記のとおり多額の欠損金を蓄積しておくことを計画していたことから自己に損失を発生させた上で取締役であるP5に課せられる前記の20パーセントの税金(源泉所得税と道府県民税利子割額)を回避させてその納付を免れさせるためであり,P4ファンド取引は,その目的において,もはや正常な節税行為の範囲を超えているものというべきである,からである。したがって,本件P4ファンド取引については「正常な行為又は計算」を観念し得ないものというべきであり,税務署長がP4ファンド取引における価格のみを否認して上記の2721万2432円以上2990万1874円以下の範囲内で原告に最も有利な価格を認定すべきであるとすることは相当でなく,税務署長はP4ファンド取引自体を否認し得るものというべきである。甲56号証には「P29が個人投資家から投資信託の償還前にその受益権を購入することにより,多くの個人投資家が節税を行っており,このような取引が税務上否認されたという話は聞いたことがない。」旨の記載があるが,P29は非同族会社であって法人税法132条1項を適用する余地がないことからすると,甲56号証も上記判断を左右するには足りないものというべきである。

(4)  以上によれば,原告は,2151万9000円,430万3108円(2151万5540円×0.2)を損金として計上することはできず,他方,2151万5540円,107万5777円(2151万5540円×0.05),161万3665円(2151万5540円×0.075)を益金として計上する必要もないことになる。そして,原告がP5に支払った代金3151万9000円と償還によって実際に受領した2721万2432円との差額430万6568円は,原告からの取締役であるP5に対する利益供与であり役員賞与というべきものであるから,法人税法35条により損金に算入することができないものである。

また,渋谷税務署長がした平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分(上記161万3665円に対する過少申告加算税)も適法である。

8  争点(7)(交際費の役員賞与該当性)について

争点(7)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の7で説示するとおりであるから(原判決の174頁12行目から23行目まで),これを引用する。

9  争点(8)(手続違反の有無)について

争点(8)についての当裁判所の判断は,原判決が「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の8で説示するとおりであるから(原判決の174頁25行目から178頁14行目まで),これを引用する。

10  本件各処分の適法性について

以上の検討結果により,本件各処分の適法性について検討すると,以下のとおり,本件各処分はいずれも適法であると認められる。(以下において,「別表」は原判決に添付された別表をいう。)

(1)  本件各更正処分等について

ア 平成10年5月期更正処分

(ア) 申告所得金額(別表12-1の(1)1欄) △3億6924万3429円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 支払利息の過大計上額(別表12-1の(1)2欄) 3億5727万6484円

上記金額は,原告が平成10年5月期事業年度に平成10年5月28日付けでEB債1の支払利息として7億9524万9206円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額3億5727万6484円を損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。

a 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P5家族(P5,P23,P8及びP9)に係る金額の合計額4億5636万0211円については,EB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,平成10年法律第24号による改正前の法人税法34条2項の規定により,各役員に対する役員報酬と認められる。なお,利息の計算が必要な期間が(半年毎の期間以外で)1年に満たない場合,利息は,30日の12か月からなる360日をベースにして,また1か月に満たない場合は,経過した日数をベースにして計算するものとされていることについては当事者間に争いがない(以下,同じ。)。そして,適正利率を超えて支払われた金額を当期中に支給されている各役員報酬額に加算すると,P5について,株主総会で決議された役員報酬の支給限度額を超えることになるため,同条1項及び法人税法施行令69条2号の規定により,別表13-2の「⑧限度超過額」欄の「合計」欄の金額3億1604万0194円が過大な役員報酬の額となる。

b 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1の購入金額1000万ドル分は,形式的にはP11社に支払われたものであるが,真の資金拠出者はP5又はP5家族と認められ,前記(21頁)のとおり使途不明金というべきものであるから,適正利率を超えて支払われた部分4123万6290円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。

(ウ) 課税総所得金額(別表12-1の(1)14欄) △1196万6945円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△3億6924万3429円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額3億5727万6484円を加えて算出した金額である。

(エ) 課税留保金額(別表12-1の(1)16欄) 2億9341万1000円

上記金額は,法人税法67条2項の規定により,原告の平成10年5月期修正申告書に記載された留保所得金額8億8884万0726円から,次のaの住民税額374万5540円及びbの留保控除額5億9168万3397円を控除して算出した金額(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下,同じ。)である。

a 控除される住民税額 374万5540円

上記金額は,法人税法施行令140条の規定により計算した住民税額の計算の基礎となる法人税額1809万4400円に20.7パーセントを乗じて算出した金額である。

b 留保控除額 5億9168万3397円

留保控除額は,法人税法67条3項の規定により,同項1号の金額となり,これによれば,前記(ウ)の金額△1196万6945円に同法23条の規定により算出した受取配当等の益金不算入額17億0249万0937円(平成10年5月期修正申告書記載額と同額)を加算した金額16億9052万3992円に35パーセントを乗じて算出した金額となる。

(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1の(1)18欄) 4523万6000円

上記金額は,前記(イ)bの4123万6290円に平成10年5月期修正申告書に記載されていた使途秘匿金の支出金額400万円(当事者間に争いがない。)を加えた金額であり,措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当する。

(カ) 納付すべき法人税額(別表12-1の(1)21欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(ウ)の課税総所得金額△1196万6945円に対する法人税額0円に,前記(エ)の課税留保金額について同法67条1項の規定に基づき算出した税額5218万2200円(別表12-1の(1)17欄)及び前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額1809万4400円(別表12-1の(1)19欄)を加え,さらに,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額7027万6600円(別表12-1の(1)20欄)を差し引いて算出した金額である。

(キ) 還付所得税額等(別表12-1の(1)22欄) 2億9334万0688円

上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る控除所得税額等の金額7947万4400円が前記(カ)のとおり7027万6600円に変更された結果919万7800円減少したため,平成10年5月期修正申告書に係る還付所得税額等の金額2億8414万2888円に増加額919万7800円を加えた金額である。

(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1の(1)23欄) 4億2015万2364円

上記金額は,平成10年5月期修正申告書に係る翌期繰越欠損金の金額7億7742万8848円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額3億5727万6484円を差し引いて算出した金額である。

上記の(ウ)(カ)(キ)(ク)の各金額は平成10年5月期更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。

イ 平成11年5月期再更正処分

(ア) 申告所得金額(別表12-1の(2)1欄) △53億9788万4179円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 支払利息の過大計上額(別表12-1の(2)2欄) 18億4552万6779円

上記金額は,原告が平成11年5月期事業年度に平成10年11月24日付け及び平成11年5月27日付けでEB債1の支払利息として14億8445万5937円及び14億6552万2560円を計上した金額のうち,次のa及びbの各金額の合計金額18億4552万6779円を損金の額に算入されないものとして所得金額に加算した金額である。

a 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P5家族に係る金額の合計額16億8551万8553円については,EB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬と認められ,適正利率を超えて不当に支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP5家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。

b 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1の購入金額1000万ドル分は,形式的にはP11社に支払われたものであるが,真の資金拠出者はP5又はP5家族であるから,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億6000万8226円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。

(ウ) 課税総所得金額(別表12-1の(2)14欄) △35億5235万7400円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△53億9788万4179円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額18億4552万6779円を加えて算出した金額である。

(エ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1の(2)18欄) 1億6800万8000円

上記金額は,前記(イ)bの1億6000万8226円に平成11年5月期更正処分における使途秘匿金の支出金額800万円(当事者間に争いがない。)を加えた金額であり,措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当する。

(オ) 納付すべき法人税額(別表12-1の(2)21欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(ウ)の課税総所得金額△35億5235万7400円に対する法人税額0円に,前記(エ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額6720万3200円(別表12-1の(2)19欄)を加え,さらに,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額6720万3200円(別表12-1の(2)20欄)を差し引いて算出した金額である。

(カ) 還付所得税額等(別表12-1の(2)22欄) 1億1197万9994円

上記金額は,平成11年5月期更正処分における控除所得税額等の金額320万円が前記(オ)のとおり6720万3200円に6400万3200円増加したため,平成11年5月期更正処分における還付所得税額等の金額1億7598万3194円(当事者間に争いがない。)から6400万3200円を差し引いた金額である。

(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1の(2)23欄) 39億0479万8284円

上記金額は,平成11年5月期更正処分における翌期繰越欠損金の金額61億0760万1547円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額18億4552万6779円を差し引き,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1の(1)8欄の金額と同額)を差し引いて算出した金額である。

上記の(ウ)(オ)(カ)(キ)の各金額は平成11年5月期再更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。

ウ 平成12年5月期更正処分

(ア) 申告所得金額(別表12-1の(3)1欄) △48億8652万0291円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 加算金額の合計額(別表12-1の(3)8欄) 35億7247万5672円

上記金額は,次のaないしfの合計金額である。

a 支払利息の過大計上額(別表12-1の(3)2欄) 16億1680万8876円

上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に平成11年11月26日付け及び平成12年5月26日付けでEB債1の支払利息として12億9482万0937円及び12億8956万6875円を計上した金額のうち,次の(a)及び(b)の各金額の合計金額16億1680万8876円を損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。

(a) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P5家族に係る金額の合計額14億7663万0624円については,EB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP5家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。

(b) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されている2か所のEB債1購入金額1000万ドル分は,形式的にはP11社に支払われたものであるが,真の資金拠出者はP5又はP5家族であるから,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額1億4017万8252円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。

b 寄附金の損金不算入額(別表12-1の(3)3欄) 18億8082万1153円

上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に計上した固定資産売却損23億4313万6510円のうち,P2不動産の売却金額20億3612万4627円とP2土地に係る譲渡時における価格として適正な金額17億6051万6800円並びにP2建物及び同建物に付随する什器備品の取得価額21億5650万4726円の合計金額39億1702万1526円との差額18億8089万6899円については,法人税法132条の適用により否認されたため,原告から㈱P1に対する寄附金に該当するものとして,同法37条の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の再計算をした結果,新たに算出された寄附金の損金不算入額である。

c 過大な役員報酬の損金不算入額(別表12-1の(3)4欄) 3300万円

上記金額は,当事者間に争いがない。

d 役員賞与の損金不算入額(別表12-1の(3)5欄) 1602万3535円

上記金額は,当事者間に争いがない。

e 租税公課の過大計上額(別表12-1の(3)6欄) 430万3108円

上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に計上した租税公課のうち,P4ファンド取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定により否認されたため,租税公課の過大計上額として所得金額に加算したものである。

f 有価証券等売却損の過大計上額(別表12-1の(3)7欄) 2151万9000円

上記金額は,原告が平成12年5月期事業年度に計上した有価証券等売却損のうち,P4ファンド取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定により否認されたため,有価証券等売却損の過大計上額として所得金額に加算したものである。

(ウ) 減算金額の合計額(別表12-1の(3)13欄) 3952万2637円

上記金額は,次のaないしdの合計金額である。

a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表12-1の(3)9欄) 1531万7655円

上記金額は,当事者間に争いがない。

b 受取配当金の過大計上額(別表12-1の(3)10欄) 2151万5540円

上記金額は,P4ファンド取引について,原告の法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められることから,法人税法132条の規定により否認されたため,平成12年5月期確定申告書においてP4ファンド取引として原告が計上した受取配当金については,受取配当金の過大計上額として所得金額から減算したものである。

c 損金の額に算入した道府県民税利子割額の過大計上額(別表12-1の(3)11欄) 107万5777円

上記金額は,P4ファンド取引として,前記bと同様に,法人税法132条の規定により否認されたため,平成12年5月期確定申告書において損金の額に算入した道府県民税利子割額107万5777円について,過大計上額として所得金額から減算したものである。

d 法人税額から控除される所得税額の過大計上額(別表12-1の(3)12欄) 161万3665円

上記金額は,P4ファンド取引として,前記bと同様に,法人税法132条の規定により否認されたため,平成12年5月期確定申告書において法人税額から控除される所得税額として計上していた161万3665円については,法人税額から控除される所得税額の過大計上額として所得金額から減算したものである。

(エ) 課税総所得金額(別表12-1の(3)14欄) △13億5356万7256円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△48億8652万0291円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計35億7247万5672円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計3952万2637円を差し引いて算出した金額である。

(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-1の(3)18欄) 1億4417万8000円

上記金額は,前記(イ)a(b)の1億4017万8252円に平成12年5月期確定申告書に記載された使途秘匿金の支出金額400万円(当事者間に争いがない。)を加えた金額であり,措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当する。

(カ) 納付すべき法人税額(別表12-1の(3)21欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(エ)の課税総所得金額△13億5356万7256円に対する法人税額0円に,前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額5767万1200円(別表12-1の(3)19欄)を加え,さらに,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額5767万1200円(別表12-1の(3)20欄)を差し引いて算出した金額である。

(キ) 還付所得税額等(別表12-1の(3)22欄) 8030万1855円

上記金額は,平成12年5月期確定申告書に記載された還付所得税額等の金額1億3798万6720円から,平成12年5月期確定申告書に記載された控除所得税額等の金額160万円が前記(カ)のとおり5767万1200円に5607万1200円増加したため,5607万1200円を差し引き,また,同確定申告書において計上していたP4ファンドに係る所得税額161万3665円を差し引いた金額である。

(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-1の(3)23欄) 50億5352万0005円

上記金額は,平成12年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額107億8927万6303円から前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計35億7247万5672円(別表12-1の(3)8欄)を差し引き,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計3952万2637円(別表12-1の(3)13欄)を加え,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1の(1)8欄の金額と同額)及び平成11年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額18億4552万6779円(別表12-1の(2)8欄の金額と同額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。

上記の(エ)(カ)(キ)(ク)の各金額は平成12年5月期更正処分の金額といずれも同額か又は上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。

エ 平成13年5月期再更正処分

(ア) 申告所得金額(別表12-2の(4)1欄) 0円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 加算金額の合計額(別表12-2の(4)13欄) 6億1808万4961円

上記金額は,次のaないしfの合計金額である。

a 支払利息の過大計上額(別表12-2の(4)2欄) 3億6882万2632円

上記金額は,原告が平成13年5月期事業年度に平成12年8月17日付け,同年9月7日付け及び同月28日付けでEB債1の支払利息として計上した金額1億2265万0572円,1億8587万3218円,1億5202万0020円及び7601万0009円並びに平成13年5月31日付けでP3ローンの支払利息として計上した金額4746万5753円(別表6-1の③欄)のうち,次の(a)ないし(c)の各金額の合計金額3億6882万2632円を損金の額に算入しないものとして所得金額に加算した金額である。

(a) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち,P5家族に係る金額の合計額2億8870万2052円については,EB債1の発行とその利払を利用して行われた役員に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,適正利率を超えて支払われた金額(別表13-1の⑦欄)は仮装・隠ぺいしてP5家族に利益供与がされ,各役員に報酬が支払われたというべきであるから,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬に該当する。

(b) 別表13-1の「⑦不当に高額な金額」欄のうち「役員又は受益者の氏名」欄が「不明」と記載されているEB債1購入金額1000万ドル分は,形式的にはP11社に支払われたものであるが,真の資金拠出者はP5又はP5家族であるから,適正利率を超えて不当に高額に支払われた金額4741万2361円は,法人税法22条3項に規定する損金の額に算入されない。

(c) 別表6-2の「③支払利息の過大計上」欄の3270万8219円は,P3ローンの仕組みとその利払を利用して行われた,役員であるP8及びP9に対する利益の供与であり,法人税法34条3項の規定により,各役員に対する役員報酬の額と認められ,同条2項に規定する損金の額に算入しない報酬の額に該当する。

b 過大な役員報酬の損金不算入額(別表12-2の(4)4欄) 3300万円

上記金額は,当事者間に争いがない。

c 役員賞与の損金不算入額(別表12-2の(4)5欄) 2815万1087円

上記金額は,当事者間に争いがない。

d 未払金取崩役員賞与(別表12-2の(4)6欄) 2万9672円

上記金額は,当事者間に争いがない。

e 雑損失の過大計上額(別表12-2の(4)8欄) 3808万1570円

上記金額は,当事者間に争いがない。

f 受贈益計上漏れ(別表12-2の(4)10欄) 1億5000万円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(ウ) 減算金額の合計額(別表12-2の(4)24欄) 6億1808万4961円

上記金額は,次のaないしdの合計額である。

a 交際費等の損金不算入額の過大計上額(別表12-2の(4)14欄) 1133万7835円

上記金額は,当事者間に争いがない。

b 前期否認損金計上役員賞与認容(別表12-2の(4)15欄) 2万9672円

上記金額は,当事者間に争いがない。

c 事業税の損金算入額(別表12-2の(4)22欄) 344万2400円

上記金額は,平成13年3月期更正処分及び平成13年3月期再更正処分によって新たに納付すべきことになる事業税の金額である。

d 欠損金の当期控除額(別表12-2の(4)23欄) 6億0327万5054円

上記金額は,前記(イ)の金額6億1808万4961円から前記(ウ)のaないしcの合計金額1480万9907円を差し引いた金額を欠損金の当期控除額として所得金額から減算した金額である。

(エ) 課税総所得金額(別表12-2の(4)25欄) 0円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額の合計6億1808万4961円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額の合計6億1808万4961円を差し引いて算出した金額である。

(オ) 使途秘匿金の支出額(別表12-2の(4)27欄) 4741万2000円

上記金額は,前記(イ)a(b)の金額であり,措置法62条2項に規定する使途秘匿金の支出に該当する。

(カ) 納付すべき法人税額(別表12-2の(4)30欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(エ)の課税総所得金額0円に対する法人税額0円に,前記(オ)の使途秘匿金の支出について措置法62条1項の規定に基づき算出した税額1896万4800円(別表12-2の(4)28欄)を加え,さらに,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額1896万4800円(別表12-2の(4)29欄)を差し引いて算出した金額である。

(キ) 還付所得税額等(別表12-2の(4)31欄) 3億7682万0059円

上記金額は,平成13年5月期確定申告書における控除所得税額等の金額0円が前記(カ)のとおり1896万4800円に増加したため,平成13年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額3億9578万4859円(当事者間に争いがない。)から当該増加額1896万4800円を差し引いた金額である。

(ク) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-2の(4)32欄) 37億6948万4619円

上記金額は,平成13年5月期確定申告書における翌期繰越欠損金の金額101億0851万5971円から前記(ウ)dの欠損金の当期控除額6億0327万5054円(別表12-2の(4)23欄)を差し引き,さらに,平成10年5月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額3億5727万6484円(別表12-1の(1)8欄の金額と同額),平成11年5月期再更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額18億4552万6779円(別表12-1の(2)8欄の金額と同額)及び平成12年5月期事業年度の所得金額の再計算に伴い減少する控除未済欠損金額35億3295万3035円(別表12-1の(3)8欄の金額から同13欄の金額を差し引いた金額)をそれぞれ差し引いて算出した金額である。

上記の(エ)(カ)(キ)(ク)の各金額は平成13年5月期再更正処分の金額といずれも同額か又は上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。

オ 平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)

(ア) 申告所得金額(別表12-2の(5)1欄) 0円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 課税総所得金額(別表12-2の(5)25欄) 0円

原告は平成14年5月期事業年度の所得金額について争うことはできないから,課税総所得金額は,被告の主張するとおり,0円となる。

この金額は,原告の平成14年5月期再更正処分後の繰越欠損金控除前の所得金額が14億2630万4740円であり,平成14年5月期確定申告書の繰越欠損金控除前の所得金額18億3106万0899円を下回ったことから,14億2630万4740円を所得金額とし,これから,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金の37億6948万4619円のうちの14億2630万4740円を当期控除額として控除したものである。

(ウ) 納付すべき法人税額(別表12-2の(5)30欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(イ)の課税総所得金額0円に対する法人税額である。

(エ) 還付所得税額等(別表12-2の(5)31欄) 1億8987万0850円

上記金額は,平成14年5月期確定申告書における還付所得税額等の金額である(当事者間に争いがない。)。

(オ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表12-2の(5)32欄) 23億9830万2091円

原告は平成14年5月期事業年度の所得金額について争うことはできないから,上記金額は,平成13年5月期事業年度の翌期繰越欠損金37億6948万4619円を前提として,この金額から前記(イ)の当期控除額14億2630万4740円を控除した残額である23億4317万9879円に,原告が平成13年12月1日に吸収合併したP30の翌期繰越欠損金5512万2212円(当事者間に争いがない。)を加えた金額である。

上記の(イ)(ウ)(エ)(オ)の各金額は平成14年5月期更正処分(ただし,平成14年5月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の金額といずれも同額か又は上回る(翌期へ繰り越す欠損金は下回る)金額であるから,当該処分は適法である。

カ ㈱P1の平成12年6月期更正処分

(ア) 申告所得金額(別表10-3の(6)1欄) △1億4789万3580円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 支払利息の過大計上額(別表10-3の(6)2欄) 7891万5068円

上記金額は,㈱P1が平成12年6月期事業年度にP3ローンの支払利息として計上した金額1億1904万1095円(別表6-1の①欄)のうち,P3ローンの仕組みの中でP7社に支払われた金額7891万5068円(別表6-2の①欄)は,㈱P1からP3ローンの仕組みとその利払を利用して行われた原告の役員であるP8及びP9に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいしてP8及びP9に利益供与がされたものであることから,P8及びP9に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。

しかし,当該金額は,平成12年6月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。

(ウ) 課税総所得金額(別表10-3の(6)10欄) △6897万8512円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額△1億4789万3580円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額7891万5068円を加えて算出した金額である。

(エ) 納付すべき法人税額(別表10-3の(6)13欄) 0円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づく前記(ウ)の課税総所得金額△6897万8512円に対する法人税額である。

(オ) 還付所得税額等(別表10-3の(6)14欄) 1万1394円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(カ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3の(6)15欄) 8908万3787円

上記金額は,平成12年6月期確定申告書に記載された翌期繰越欠損金の金額1億6799万8855円から前記(イ)の金額7891万5068円を差し引いて算出した金額である。

上記の(ウ)(エ)(オ)(カ)の各金額は平成12年6月期更正処分の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。

キ ㈱P1の平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)

(ア) 申告所得金額(別表10-3の(7)1欄) 0円

上記金額は,当事者間に争いがない。

(イ) 加算金額の合計額(別表10-3の(7)5欄) 2億5811万1525円

上記金額は,次のaないしcの金額の合計金額である。

a 支払利息の過大計上額(別表10-3の(7)2欄) 3166万9863円

上記金額は,㈱P1が平成13年3月期事業年度にP3ローンの支払利息として計上した金額2億0267万2073円(別表6-1の②欄)のうち,P3ローンの仕組みの中でP7社に支払われることとなる金額1億4121万6438円(別表6-2の②欄)は,㈱P1から,P3ローンの仕組みとその利払を利用して行われた原告の役員であるP8及びP9に対する利益の供与であり,支払利息の名目を借りて,海外の法人及び信託を介在させることで真の受益者を隠し,仮装・隠ぺいして各役員に利益供与がされたものであることから,P8及びP9に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められる。

しかし,当該金額のうち3166万9863円は,平成13年3月期事業年度において未払となっているため,法人税法施行令78条により損金の金額に算入できず,支払われていない金額を所得金額に加算したものである。

b 寄附金の損金不算入額(別表10-3の(7)3欄) 1億8685万7642円

上記金額は,前記aのP7社に支払われることとなる金額1億4121万6438円はP8及びP9に対する法人税法37条に規定する寄附金と認められるから,未払である3166万9863円を差し引いた金額1億0954万6575円及び平成12年6月期事業年度で未払となっていたが平成13年3月事業年度で支払われた金額7891万5068円を合計し,法人税法37条2項の規定に基づき寄附金の損金算入限度額の計算をした結果,発生した寄附金の損金不算入額として所得金額に加算したものである。

c 欠損金の当期控除額(別表10-3の(7)4欄) 3958万4020円

上記金額は,平成13年3月期修正申告書に記載された1億2866万7807円から,平成12年6月期更正処分において翌期へ繰り越す欠損金として算出された金額8908万3787円(別表10-3の(6)15欄)を差し引いた金額を,欠損金の当期控除額として所得金額に加算した金額である。

(ウ) 減算金額の合計額(別表10-3の(7)9欄) 2億2180万3074円

上記金額は,次のaないしcの合計金額である。

a 未払寄附金認定損(別表10-3の(7)6欄) 7891万5068円

上記金額は,平成12年6月期更正処分において,㈱P1からP8及びP9に対する寄附金に該当すると認定した金額のうち,平成12年6月期事業年度に未払であった金額を平成13年3月期事業年度に支払ったため,当該金額を所得金額から減算したものである。

b 営業権譲渡収入の過大計上額(別表10-3の(7)7欄) 1億4285万7143円

上記金額は,当事者間に争いがない。

c 雑損失計上漏れ(別表10-3の(7)8欄) 3万0863円

上記金額は,㈱P1が消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の処理に当たり,前記bにより仮受消費税等の額としていた714万2857円から,課税売上割合が低下することにより生じる㈱P1が還付を受けるべき消費税等の額691万2600円及び繰延消費税額等19万9394円を差し引いた金額を所得金額から減算した金額である。

(エ) 課税総所得金額(別表10-3の(7)10欄) 3630万8451円

上記金額は,前記(ア)の申告所得金額0円に前記(イ)の所得金額に加算すべき金額2億5811万1525円を加え,前記(ウ)の所得金額から減算すべき金額2億2180万3074円を差し引いて算出した金額である。

(オ) 納付すべき法人税額(別表10-3の(7)13欄) 1040万2900円

上記金額は,法人税法66条の規定に基づき前記(エ)の課税総所得金額3630万8000円に同条規定の税率を乗じて算出した金額の合計額1041万2400円(別表10-3の(7)11欄)から,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除されるべき所得税額等の金額9417円(別表10-3の(7)12欄)を差し引いて算出した金額である。

(カ) 還付所得税額等(別表10-3の(7)14欄) 0円

(キ) 翌期へ繰り越す欠損金(別表10-3の(7)15欄) 0円

上記金額は,㈱P1の平成13年3月期修正申告書における翌期繰越欠損金の金額3933万1048円に前記(イ)cの欠損金の当期控除額3958万4020円(別表10-3の(7)4欄)を加え,さらに,平成12年6月期更正処分に伴い減少する控除未済欠損金額7891万5068円(別表10-3の(6)5欄と同額)を差し引いて算出した金額である。

上記の(エ)(オ)(カ)(キ)の各金額は平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)の金額といずれも同額であるから,当該処分は適法である。

(2)  本件各重加算税賦課決定処分等について

ア 本件各重加算税賦課決定処分等の根拠について

原告の次の行為は,通則法68条1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

(ア) EB債1について

原告は,EB債1の利息の支払につき,海外パートナーシップ,海外信託,海外法人等を介在させて,これらの者がEB債1の購入者であるように装い,P5及びP5家族が真の資金拠出者であることを隠し,P5及びP5家族に対する利息の支払を隠ぺいし,海外の投資家に対して利息を支払っているかのように仮装したものである。

(イ) P3ローンについて

㈱P1及び原告は,P3ローンに係る取引に関し,無用な海外法人等を介在させ,P8及びP9への実質的な利益供与を隠ぺいしたものである。

イ 本件各重加算税賦課決定処分等の適法性について

(ア) 平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について

平成11年5月期再更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①8欄から④8欄を差し引いた金額)2919万7828円に対する加算税は,通則法68条1項の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額2919万円(別表11の⑥9欄)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額1021万6500円(同別表の⑥10欄)となるから,これと同額でした平成11年5月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成11年5月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は適法である。

(イ) 平成12年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について

平成12年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①13欄から④13欄を差し引いた金額)5768万4800円に対する加算税は,P4ファンド取引に係る法人税額から控除される所得税額161万3665円の部分に対する過少申告加算税と残額5607万1135円の部分に対する重加算税とになり,5607万1135円に対する重加算税は,通則法68条1項の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額5607万円(別表11の④16欄)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額1962万4500円(同別表の④17欄)となるから,これと同額でした平成12年5月期重加算税賦課決定処分は適法である。

(ウ) 平成13年5月期重加算税賦課決定処分の適法性について

平成13年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①20欄から④20欄を差し引いた金額)1896万4800円に対する加算税は,通則法68条1項の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額1896万円(別表11の④21欄)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額663万6000円(同別表の④22欄)となるから,これと同額でした平成13年5月期重加算税賦課決定処分は適法である。

(エ) ㈱P1の平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)の適法性について

平成13年3月期更正処分(ただし,平成13年3月期再更正処分により一部取り消された後の部分)により新たに納付すべきこととなった税額(別表11の⑤30欄から①30欄を差し引いた金額)1040万2900円に対する重加算税の額は,通則法68条1項の規定に基づいて算出した重加算税の基礎となる税額1040万円(別表11の⑤32欄)に対して100分の35の割合を乗じて算出した重加算税額364万円(同別表の⑤33欄)となるから,これと同額でした平成13年3月期重加算税賦課決定処分(ただし,平成13年3月期重加算税変更決定処分により一部取り消された後の部分)は適法である。

(3)  平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分について

平成12年5月期更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(還付所得税額等の減少額である別表11の①13欄から④13欄を差し引いた金額)5768万4800円のうち重加算税賦課決定処分の対象とされる部分以外のP4ファンド取引に係る法人税額から控除される所得税額161万3665円の部分に対する加算税は,過少申告加算税の基礎となる税額161万円(別表11の④14欄)に対して100分の10の割合を乗じて算出した過少申告加算税額に同法65条2項に規定する金額を超える部分に相当する税額1万円に対して100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税額を加算した16万1500円(同別表の④15欄)となるから,これと同額でした平成12年5月期過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

第4結論

よって,本件各処分はいずれも適法であり,本件各処分の一部を違法として取り消した原判決は相当でないので,被告の控訴に基づきこれを取り消すこととし,取消しに係る部分についての原告の請求を棄却し,原告の控訴は理由がないのでこれを棄却するととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 氣賀澤耕一 裁判官 岡崎克彦)

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