東京高等裁判所 平成17年(行コ)46号 判決 2005年10月27日
控訴人 A株式会社
代表者代表取締役 甲
訴訟代理人弁護士 太田純
被控訴人 麹町税務署長
亀井正博
指定代理人 西村圭一
同 山崎秀利
同 浅川賢治
同 小茄子川栄治
同 加納崇
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が控訴人に対して平成14年6月26日付けでした、控訴人の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち、所得金額18億8388万8005円、納付すべき税額6億4077万8300円を超える部分及び同法人税に係る過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
(3) 被控訴人が控訴人に対して平成14年6月26日付けでした、控訴人の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち、所得金額12億9692万0390円、納付すべき税額3億8563万1600円を超える部分及び同法人税に係る過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
(4) 被控訴人が控訴人に対して平成14年6月26日付けでした、控訴人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち、所得金額20億0060万6285円、納付すべき税額5億9463万9600円を超える部分及び同法人税に係る過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
(5) 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は、被控訴人が平成14年6月26日付けでした、控訴人の平成10年4月1日から平成11年3月31日まで、同年4月1日から平成12年3月31日まで及び同年4月1日から平成13年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税についてなされた各更正(以下「本件各更正」という。)は、控訴人が設けた電波暗室(電波の反響がない空間を実現する目的で、空間を構成するすべての壁面に、シールドを設置し、シールド上に電波吸収体を設置したもの。)の減価償却額の算定に関し、被控訴人が電波暗室を「建物」に分類して耐用年数(31年)を適用した点に誤りがあり、違法である旨主張して、本件各更正のうち、電波暗室を「機械及び装置」として耐用年数を10年として減価償却額を算定した所得金額及び納付すべき税額を超える部分の取消し並びに本件各事業年度の法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)の取消しを求めた事案である。原審は、控訴人の主張を認めず請求を棄却し、控訴人が控訴した。
2 関係法令の定め、本件の前提事実及び被控訴人が主張する控訴人の法人税額等は、原判決事実及び理由「第二事案の概要」の一ないし三に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点及び当事者の主張の要旨は、次項において当審における主張を付加するほか、原判決事実及び理由「第二事案の概要」の四、五に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における主張
(控訴人の主張)
(1) 本件建物の用途等についての事実誤認、適用年数の誤り
ア 耐用年数の算定における「耐用年数の適用等に関する取扱通達」(以下「耐用年数通達」という。)1-1-1によれば、同一の減価償却資産について、その用途により異なる耐用年数が定められている場合において、減価償却資産が2以上の用途に共通して使用されているときは、その用途については、その使用目的、使用の状況等により勘案して合理的に判定するものとされ、全体として合理的に判断して使用割合のもっとも多いと見られる一つの用途に供されているものとして、その用途に係る耐用年数を適用すべきものと考えられている(一物一用途の原則)。
イ 本件建物は、延べ床面積が1万0050平方メートルの鉄骨造り一部鉄骨鉄筋コンクリート造3階建の建物であり、事務棟と全天候型作業棟から成り、全体の用途は、耐用年数省令別表第一(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)の、種類「建物」のうち、構造又は用途「金属造のもの(骨格材の肉厚が4ミリメートルを超えるものに限る。)」、細目「工場(作業場を含む。)用又は倉庫用のもの」のうち、「その他のもの」のうち、「その他のもの」に該当し、耐用年数31年が適用されたのである。本件電波暗室は、床面積の合計が311.3平方メートルにすぎないものであり、このわずかの区画に着目して本件建物全体の用途を認定することは誤りである。
ウ しかるに、原判決は、本件建物の主要な目的、用途をして「電波暗室を設置することを目的とした工場用の建物である」と認定し、本件電波暗室をその内部造作であるとして本件建物と同一の耐用年数を適用する誤りを犯した。
耐用年数省令における固定資産の耐用年数の算定は、固定資産の効用持続年数によるものとし、建物については、建築構造の違いによって5種類に分類し、各種類別に用途及び使用の状況の差異による区分を設け、その細分された建物ごとに耐用年数を算定し、さらに、その算定に当たっては、建物を構成する防水、床、外装、窓、構造体といった組成部分を骨子として個別に年数を算定し、なお、用途や使用の状況によって建物が受ける影響等を考慮したものである。そして、耐用年数通達1-2-3が、「建物の内部に施設された造作については、その造作が建物附属設備に該当する場合を除き、その造作の構造が当該建物の骨格の構造と異なっている場合においても、それを区分しないで当該建物に含めて当該建物の耐用年数を適用する」としているのは、当該用途にふさわしい内部造作として想定される一般的内部造作に関し、建物とともに償却して構わないという趣旨である。内部造作については、その建物の用途にふさわしいものであることが同一の耐用年数を適用する根拠となっているのである。しかし、本件電波暗室は、アンテナ等の性能の測定をする用途に用いられ、固有の目的を有するものであり、本件建物の効用持続には何ら機能していない。他方、本件建物はアンテナ等の性能の測定には何ら機能を果たしていないのである。本件電波暗室は固有の目的を持つ設備であり、上記のような内部造作に該当しないことは明らかである。また、資産の単位性という観点からも、独自の効用性を有するものであり、建物と別に耐用年数を決すべきである。課税という観点からすれば、本件建物と本件電波暗室との物理的な一体性は重視されるべきではない。
エ そして、本件建物全体の建築工事金額が10億7121万3000円であり、本件電波暗室の占める区画の建築工事代金はその床面積割合からすると、3320万7603円にすぎず、本件電波暗室は、設備費用がその3.47倍に当たる1億1150万5600円に及ぶものであり、その価格からしても本件建物の効用持続に便益を有するといった性質のものではないことが明らかである。建物とは別個に減価償却が予定されている附属設備であっても、建物価格を超えることはなく、これよりはるかに高額な本件電波暗室が建物と同じ会計処理を受けることは不合理である。
オ 本件電波暗室は、マイクロ波用電波吸収体を構成要素とするが、性能保証期間が10年とされ、Cによれば、電波吸収体の寿命は15年以上とされるが、機械的特性(引っ張り強度)において、経年による劣化が著しいことが明らかであり、本件建物の耐用年数とされる31年より早く劣化するものである。電波吸収体は、建物とは別個に劣化をしていくものであり、本件電波暗室の工事価格のほとんどをその費用(約1億円)が占めており、建物内壁に簡単に接着されているにすぎず、床面には接着すらされず置かれているだけのものであり、これを建物と一体として償却するのは実態にそぐわないことが明らかである。
(2) 予備的主張
ア 耐用年数省令2条4号は、開発研究の用に供されている減価償却資産で別表第八に掲げるものは同表に定める耐用年数を適用するとし、別表第八によれば、建物の全部又は一部を低温室、恒温室、無響室、電磁しゃへい室、放射性同位元素取扱室その他の特殊室にするために特に施設した内部造作又は建物附属設備であって、開発研究用のものであれば、耐用年数は5年とされている。
イ 本件電波暗室は、生産工程の一部として使用するほか、開発研究用の実験等に使用しており、仮に、建物の内部造作であるとしても、開発研究用資産として上記5年の耐用年数が適用されるべきである。控訴人においては、実験が、用途の50パーセントを占めるが、売上げとして計上していないものもあり、既存品の改良実験はほとんどなく、基礎研究のための実験、新製品の開発、製品化のために行う実験であり、本件電波暗室は、上記開発研究用のものに該当する。
(被控訴人の反論)
(1) 本件電波暗室は資産区分上建物であること
ア 本件電波暗室は、シールドルームの支柱である軽量鉄骨が本件建物の柱及び梁等に多数の固定ボルト及びアングルで固定され、シールドルームの床は、本件建物の床に直接銅箔やベニヤ板を貼ったものであり、そのため、シールドルームは本件建物から容易に取り外すことはできず、経済的観点からすれば、本件建物から独立して存在することは不可能な構造であり、シールド上に設置された電波吸収体とシールドルームが一体となって機能しているものであり、本件建物と不可分一体のものである。
イ 耐用年数省令を適用して減価償却を行うに当たっては、建物内部の造作であっても、当該建物と機能的・物理的に一体となって、当該建物のそれぞれの用途における使用のために客観的な便益を与えるものについては、当該建物の耐用年数を適用すべきである。本件建物のうち本件電波暗室を設置する区画は、第一電波暗室を設置するため建物基礎を掘り下げるなど、当初からこれを設置する目的で建設されたものであり、上記のとおり本件建物の一部を構成している。したがって、本件電波暗室は、独立の建物設備ではなく、内部造作というべきものであり、本件建物と機能的・物理的に一体となって、本件建物の用途における使用のために客観的な便益を与えるものであるから、本件建物の耐用年数を適用すべきである。
ウ 本件建物の用途は、耐用年数省令別表第一の種類「建物」のうち、金属造の構造のもの(骨格材の肉厚が4ミリメートルを超えるものに限る。)である工場(作業場を含む。)について、①塩素、塩酸、硫酸、硝酸その他の著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受けるもの、②塩、チリ硝石その他著しい潮解姓を有する固体を常時蔵置するためのもの、③その他のものに区分しているところ、①②に該当しないから「その他のもの」に該当するのであって、個別の区画ごとに判断するものではなく、本件建物は、本件電波暗室の設けられた区画を含め上記③の区分に該当するのである。
また、控訴人は、本件電波暗室には固有の目的があると主張するが、アンテナの機能を測定する環境を設定するためのものであるとしても、本件建物(工場)と一体となった内部造作として、工場の多様な用途に即して使用されているのであり、その機能上本件建物の用途に即したものということができる。
エ 控訴人は、本件電波暗室の性能保証期間が10年とされていることや工事費が高額であることを前提に、建物と一緒に償却すべきではないと主張するが、性能保証期間の意味するところが明らかではないばかりか、上記の判断は要した費用の多寡により影響されるものではない。耐用年数省令は、通常考えられる維持補修を加えることを前提に本来の用法用途により現に通常予定される効果を上げることができる年数である効用持続年数に基づき耐用年数を算定するものであり、製造業者が設定する性能保証期間とは考え方が異なるものであり、これと同様のものと考えることはできないものである。
(2) 予備的主張について
ア 耐用年数通達2-24-1は、耐用年数省令2条4号に規定する「開発研究」とは、 ①新規原理の発見又は新規製品の発明のための研究 ②新規製品の製造、製造工程の創設又は未利用資源の活用方法の研究 ③上記①又は②の研究を基礎とし、これら研究の成果を企業化するためのデーターの収集及び④現に企業化されている製造方法その他の生産技術の著しい改善のための研究をいうと定め、現在生産している製品の改良のためのいわゆる通常研究は、ここでいう開発研究から除外されている。そして、同2-24-2は、別表第八の開発研究用減価償却資産とは、主として開発研究のために使用されている減価償却資産をいい、他の目的のため使用されている減価償却資産で必要に応じ開発研究の用に供されているものは含まれない旨を定めている。
イ 開発研究用資産につき、その特殊事情を斜酌して耐用年数を通常より短くするのは、開発研究の奨励のほか、開発研究がリスクを負うものであり、その終了又は中止とともに廃棄されるといった不安定な状態にあることを考慮したものである。
ウ 控訴人は、顧客の注文を受けて、受注した仕様の製品の設計に着手し、試験品を作成し、本件電波暗室での性能検査を繰り返し、顧客の承認を得て、製造を開始し、また、外注により試作品、製品を製造し、本件建物において製品の組み立て、性能検査を行っている。本件調査時に、控訴人が提出した電波暗室予約表(乙9)によれば、控訴人は、本件各事業年度において、本件電波暗室の利用予約の管理のみを行い、実際の利用状況の管理を行っていない。その記事中には「実験」とあるが、現在生産している製品の改良のための「通常研究」を行ったにすぎないのである。
決算報告書によれば、控訴人は販売費及び一般管理費における試験研究費を計上していない。
したがって、控訴人においては、新たな製品の製造もしくは新たな技術の発明等を目的とする試験研究が行われていることを窺わせる客観的な証拠はないのであり、耐用年数省令2条4号に規定する「開発研究」を行っているとは認められない。
仮に行っているとしても、上記のような製品の機能検査に用いられるものであり、「主として」同号の「開発研究」を行っていたと認められないことが明らかである。
第3当裁判所の判断
当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、以下に当審における控訴人の主張につき判断を付加するほか、原判決事実及び理由「第三当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決53頁18行目から20行目までを「そこで、控訴人が本件電波暗室の取得価額とした各金額について、定率法に基づき上記の耐用年数につき定められた償却率で本件各事業年度の減価償却限度額及び償却超過額を算定すると、償却超過額は、本件各更正において所得金額に加算した償却超過額と同額になる。」と改める。
2 本件電波暗室につき本件建物と同一の耐用年数とすることについて
(1) 控訴人は、耐用年数通達1-2-3が、建物の内部に施設された造作については、その造作が建物附属設備に該当する場合を除き、その造作の構造が当該建物の骨格の構造と異なっている場合であっても、当該建物に含めて当該建物の耐用年数を適用するとしているのは、当該建物の用途にふさわしい内部造作として想定される一般的内部造作に関してであり、内部造作については、その建物の用途にふさわしいものであることが同一の耐用年数を適用する根拠となっていると主張し、本件電波暗室は、電波吸収体を中心とするものであり、内部造作といえないばかりか、固有の用途があり、本件建物の用途にふさわしい内部造作ではなく、本件建物と同一の耐用年数を適用する根拠を欠いているとの趣旨の主張をする。
(2) しかし、本件電波暗室は、軽量鉄骨による支柱を建ててシールドルームを設置し、アングルが本件建物の柱と溶接固定され、軽量鉄骨がアングルとボルトにより固定され、本件建物の天井に軽量鉄骨の梁を渡し、本件建物内部の空間に軽量鉄骨と梁で囲まれたシールドルームの骨組みが作られ、その軽量鉄骨に石膏ボードが取り付けられ、その上に銅箔が接着剤で貼り付けられ、更にベニヤ板がビス止めされて作られたものであり、本件電波暗室の床となる部分には、本件建物本体のコンクリートの床に防湿ポリフィルム、ベニヤ板、銅箔、ベニヤ板が直接貼り付けられ、シールドルームの床面とされているものである。また、本件電波暗室を設置する区画は、第一電波暗室を設置するため建物基礎を掘り下げるなど、当初からこれを設置する目的で建設されたものである。本件電波暗室は、このように天井、壁、床のすべてが金属体(銅箔)で囲まれたシールドルームが作られ、これが本件建物と構造上一体となって外界からの電波をしゃ断し、同時に外界に電波が出ないようになり、内部に設置された電波吸収体が反射電波を吸収し、これらが一体となって、アンテナ等の電波指向特性等の性能測定に機能を発揮するものである。
以上のように、シールドルームは、支柱である軽量鉄骨が本件建物の柱及び梁等に多数の固定ボルト及びアングルで固定され、床が本件建物の床に直接銅箔やベニヤ板を貼ったものであり、本件建物から容易に取り外すことはできず、本件電波暗室は、経済的観点からすれば、本件建物から独立して存在することは不可能な構造であり、本件建物と不可分一体のものである。
本件電波暗室とその設置された本件建物の区画とは、アンテナ等の性能を測定するという機能の点から見ると一体不可分であって、本件建物は、アンテナ等の開発・製造のための施設であり、本件電波暗室が設置された区画はアンテナ等の性能を測定する施設であって、本件建物にその用途に即した客観的な便益が与えられたものというべきである。したがって、本件電波暗室は、本件建物から独立して存在することが経済的に不可能であり、物理的にも本件建物と一体のものであって、本件建物内の特殊な構造の区画の一部を構成しているものである。
(3) 他方、建物附属設備とは、建物に固着されたもので、その建物の使用価値を増加させるもの又はその建物の維持管理上必要なものではあるが、建物と機能的・物理的に一体不可分とはいえず、建物の用途そのものに客観的な便益を与えるものではないことから、建物とは独立して耐用年数が算定されるものであり、本件電波暗室は、建物附属設備に該当するものではない。
(4) したがって、本件電波暗室は、本件建物の内部造作又はその一部であって、本件建物と機能的・物理的に一体となって、本件建物にその目的・用途に即した客観的な便益を与えるものであるから、本件電波暗室は、減価償却の点においては、本件建物に含め本件建物の耐用年数を適用すべきものである。
控訴人は、本件電波暗室が一般的な内部造作ではないことを理由に本件建物と同一の耐用年数を適用することが不当であると主張するが、建物と一体となってその便益を高めるか否かの問題であって、これに要する費用や附合された物の価格の多寡は問題ではなく、本件電波暗室の設備費用が高額であること、特に、その区画が存在する本件建物の建設費用に比して高額であることは上記判断に影響するものではない。
また、控訴人は、本件電波暗室は性能保証期間が10年であり、電波吸収体を中心とするものであり、電波吸収体の機械的特性や劣化の進行等からすれば、本件電波暗室に建物と同一の耐用年数を適用するのは不当であるとの主張をする。しかし、製造元の性能保証期間が耐用年数における効用持続期間とは異なるものであることは明らかであり、その期間が10年であることは上記判断を左右するものではない。そして、証拠(甲45)によっても、製造元であるCが行った電波吸収体の寿命試験(熱促進試験)では、その寿命(特性劣化。初期値に対し、高温加速後の劣化値が機械的特性については50パーセント以下、電波吸収特性については設計マージンである5dB以内を判定基準とする。)が15年以上であることが確認されているというのであり、効用持続期間を算定する上では、通常の補修を前提とするのであり、床に置かれているなどの点で設置状態が不安定であることを斟酌しても、その劣化が急で上記のような耐用年数を適用することが不相当であるとまでいうことはできない。
3 予備的主張について
(1) 控訴人は、本件電波暗室は、内部造作に当たるとしても、耐用年数省令2条4号の開発研究の用に供されている減価償却資産に当たると主張する。
(2) 耐用年数通達2-24-1は、耐用年数省令2条4号に規定する「開発研究」とは、次に掲げる試験研究をいうとして、 ①新規原理の発見又は新規製品の発明のための研究 ②新規製品の製造、製造工程の創設又は未利用資源の活用方法の研究 ③上記①又は②の研究を基礎とし、これら研究の成果を企業化するためのデーターの収集及び④現に企業化されている製造方法その他の生産技術の著しい改善のための研究を定めている。そして、同2-24-2は、別表第八の開発研究用減価償却資産とは、主として開発研究のために使用されている減価償却資産をいうのであるから、他の目的のため使用されている減価償却資産で必要に応じ開発研究の用に供されているものは含まれないことに留意すると定めている。開発研究用資産について通常の耐用年数より短くする(別表第八は、種類を建物及び建物附属設備、細目を内部造作とするものにつき5年とする。)のは、開発研究の奨励のほか、開発研究がリスクを負うものであり、その終了又は中止とともに廃棄されるといった不安定な状態にあることを考慮したものであり、開発研究の用に供されている資産とは、上記通達でいう試験研究に主として用いられるものに限られるというべきである。
(3) 控訴人は、顧客の注文を受けて、受注した仕様の製品の設計に着手し、試験品を作成し、本件電波暗室での性能検査を行い、製品の製造に当たっており、また、外注により試作品、製品を製造し、本件建物において製品の組み立てをし、本件電波暗室において性能検査を行っている。そして、控訴人の電波暗室の使用目的は、①製品開発のための開発実験、改良実験等の作業、②受注製品の生産に伴う製品の測定、検査等であり、その割合は、それぞれおおむね50パーセントずつになっているのであり、①は既存製品の改良実験を含んでおり、本件電波暗室は、主として上記通達でいう試験研究に主として用いられるものではないことが明らかである。本件電波暗室は、耐用年数省令2条4号の開発研究の用に供されている減価償却資産には当たらない。
4 したがって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 犬飼眞二 裁判官 高野伸)