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東京高等裁判所 平成17年(行コ)47号 判決 2005年8月31日

控訴人 A株式会社

同代表者代表取締役 乙

同訴訟代理人弁護士 宮武敏夫

同 井上康一

被控訴人 神田税務署長

瀬川福美

同指定代理人 藤沢裕介

同 山崎秀利

同 岩﨑廣海

同 川上昌

同 多田英里

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成13年1月31日付けでした控訴人の平成9年1月1日から同年12月31日まで及び平成10年1月1日から同年12月31日までの各事業年度分の法人税の各更正処分のうち、原判決別表各「確定申告」欄記載の所得金額及び納付すべき税額を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、栄養補助食品等の輸入販売業を営む控訴人が、平成9、10年度の各法人税の申告(青色申告)にあたり、控訴人製品について優秀な販売実績を達成した個人事業主(DS)を、控訴人の米国親会社であるB(以下「米国親会社」という。)が設定した報酬基準に従って、Cという名称の海外旅行に招待し、それに要した費用(以下「本件旅行費用」という。)を損金として計上したのに対し、被控訴人は、本件旅行費用は、租税特別措置法61条の4第3項の交際費等に該当するとして、各年度について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたので、本件旅行費用の交際費等該当性を争って、上記各処分の取消しを求めている事案である。

原審は、本件旅行費用の支出は、租税特別措置法61条の4第3項、同1項に規定する交際費等に該当すると判断し、法人税法22条1項の損金には該当しないことを前提として法人税額を算出して行った控訴人の本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であるとして控訴人の請求を棄却した。

2  法令の定め、通達の規定、前提事実及び当事者の主張

原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし5項(原判決2頁11行目から17頁21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決4頁3行目の「前提事実」の次に「((1)ないし(3)は争いがなく、(4)は記録上明らかである。)」を加える。)。

3  控訴人の当審における主張

Cは、DSが自らの努力の成果として勝ち取った現物報酬であり、その経済的利益の給付とDSの業績との間には明確な対価関係がある上、その給付が控訴人の法的義務となっている。本件旅行費用の支出の目的は、控訴人がDSに対して負う法的義務に基づき、DSの役務と業績に対する対価を支払うということにあり、そこに接待、慰安等の目的が入り込む余地はない。したがって、本件旅行費用の支出は、その目的が接待等のためであるとの要件を満たしておらず、措置法61条の4第3項に規定する交際費等には該当しない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の当審における証拠調べの結果を考慮しても、被控訴人のした本件各処分はいずれも適法であり、その取消しを求める控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。

その理由は、2項に控訴人の当審における主張に対する判断を補足するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決29頁16行目の「場合あっても」を「場合であっても」に、30頁13行目の「該当するもの扱われることなく」を「該当するとされることなく」に改める。)。

2  控訴人の当審における主張について

控訴人は、Cは、DSが自らの努力によって獲得した現物報酬であり、その経済的利益の給付とDSの業績との間に明確な対価関係がある上、給付が控訴人の法的義務となっているから、本件旅行費用の支出の目的は、DSの業績に対する対価を支払うことにあり、接待、慰安等の目的が介在する余地はないと主張する。

まず、本件支出の相手方が、控訴人製品を多量に購入、販売し、その販売実績等が控訴人の定める一定の基準に達したDSと呼ばれる控訴人の事業関係者であることは当事者間に争いがないところ、本件旅行費用は、専ら上記のような一定の業績良好なDSを海外旅行に招待するための費用であって、その行為の態様自体はDSの歓心を買うための典型的な接待、慰安行為であるということができる。

ところで、いわゆる連鎖販売取引を行っている控訴人の業態からみれば、DSの販売実績が向上することはとりもなおさず控訴人製品の販売高の増加、控訴人の増収、増益に資するものであるから、控訴人の設けたCは、控訴人の定める他の報酬プログラム(控訴人が定める基準に従って一定の要件を満たした場合に控訴人から現金又は控訴人製品を獲得できるというもの。)と同様に、控訴人の利益増大に一定の貢献のあったDSを慰安・接待することにより、販売促進効果を図るものであるとともに、DSの貢献に対する対価的な側面が認められないわけではない。

しかしながら、控訴人の行う連鎖販売取引という業態においては、控訴人とDSとの間に雇用関係は存在せず、DSは、特約店の従業員などとは異なり、あくまで個人事業家であり、その収入の源泉はDSが控訴人から購入した製品を再販売することによって獲得する差益にあると考えられる。したがって、控訴人の定める報酬プログラムにより獲得できる現金等のロイヤリティについても、DSの労働や役務の対価として支払われる賃金・報酬等とはその性質を異にするものである。控訴人が約束した一定の基準に従い、控訴人製品を大量に購入した一定の範囲のDSに対して支払われる現金等のロイヤリティも、その経済的実態に着目すれば、購入した製品の値引を後日遡って行い、これをDSに償還するという性質のものとみることができる。それ故、DSの役務等と控訴人の支払う報酬(現金と製品)とは厳密な意味での対価関係には立ってはおらず、その対価性は希薄であり、本質的なものではないといわざるを得ない。また、本件のCも、上記のような控訴人とDSの関係に照らしてみれば、DSの役務等との対価性は一層希薄であり、その本質は顧客であるDSを接待、慰安することにあるといわざるを得ないものである。

控訴人の上記主張は採用できない。

なお、控訴人が当審で提出した甲38(鑑定意見書)には、CのようにDSの役務・業績との対価性が認められ、これがDSとの契約に基づき義務的に支出されている場合には、交際費等には該当しないと解すべきだとする見解が示されている。しかし、経済的利益の給付と役務、業績との間の対価関係の程度やその実態、控訴人とDSの身分関係等を考慮することなく、対価関係が認められ、かつ、それが義務的に支出されてさえいれば、当然に交際費等への該当性が否定されるとする点は、形式的に過ぎ不合理であって、その根拠も十分説明されているとは言い難い。したがって、上記鑑定意見書の見解を採用することはできない。

3  以上によれば、控訴人の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 赤塚信雄 裁判官 小林崇 裁判官 古久保正人)

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