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東京高等裁判所 平成17年(行コ)78号 判決 2005年9月29日

控訴人 株式会社X

被控訴人 葛飾税務署長

代理人 安部勝 山崎秀利 横島淳子 ほか3名

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して平成14年6月26日付けでした、控訴人の平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち所得金額2346万8770円、納付すべき税額733万6700円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、被控訴人が、平成12年1月25日に控訴人の代表取締役を退任したAの役員退職慰労金を控訴人の平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度分の所得金額の計算上損金の額に算入することを否認するなどして、控訴人に対し、上記事業年度分の法人税について、平成14年6月26日付け更正並びに同日付け過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定をしたため、控訴人が、被控訴人に対し、Aの役員退職慰労金は控訴人の上記事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入するべきであるのに、これを否認してされた上記更正及び過少申告加算税賦課決定は違法である旨主張して、上記更正のうち所得金額2346万8770円、納付すべき税額733万6700円を超える部分及び上記過少申告加算税賦課決定の各取消しを求める事案である。

2  原判決は、Aは、控訴人の代表取締役を辞任した後も、控訴人における地位又は職務の内容が激変し、控訴人を実質的に退職したのと同様の事情にあると認めることはできないから、Aの役員退職慰労金は、退職の事実がないのに支給された臨時的な給与であって、法人税法35条4項にいう賞与として取り扱われるべきであり、これを損金に算入することを認めることはできないとして、控訴人の請求を棄却した。

3  関係法令の定め、前提となる事実、争点、被控訴人及び控訴人の各主張は、原判決の「事実及び理由」の第二の二ないし六(原判決3頁3行目から28頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決5頁6行目の次に行を改めて次のとおり加え、これに伴い、7行目から20行目までの項目冒頭の番号「1」から「4」までを1ずつ繰り下げて「2」から「5」までに改める。

「1 控訴人は、平成12年1月26日の株主総会において、Aに対し、退職慰労金(功労加算金を含む。)として1億4784万円を支給する旨の決議をした(<証拠略>)。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の請求は、理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。当審における証拠調べの結果によっても、上記判断は左右されない。

(1)  原判決29頁15行目の「原告の取締役に就任し、」の次に「財務を担当し、」を加える。

(2)  同33頁19行目の「専務)は」を「専務)が」と改める。

(3)  同35頁19行目及び末行の各「C」をいずれも「D」と改める。

(4)  同39頁2行目の「務めていた」の次に「、商業登記簿上控訴人と本店所在地を同じにしていた」を加える。

(5)  同41頁13行目の「前記ア」を「前記(1)」と改める。

(6)  同49頁6行目の「18年余り」を「18年近く」と改め、8行目の「(2)」から10行目の「であったこと、」までを削除し、これに伴い、同行から50頁14行目までの「(3)」から「(9)」までを1ずつ繰り上げて「(2)」から「(8)」までと改める。

(7)  同50頁10行目の「りん議書の決裁の判断を行うほか」を「りん議書の形式的な決裁はともかく、実質的にその最終的判断を行うほか」と改め、19行目の「以上によれば、」の次に「Aの」を加える。

2  要するに、本件において、上記1のとおり訂正の上引用した原判決49頁3行目から50頁18行目までに記載の(1)ないし(8)(訂正前は(1)、(3)ないし(9))の各事実が認められるのであり、これらの事実を総合すれば、Aは、控訴人の代表取締役を辞任した後も、Bに控訴人の経営を任せておらず、従前と同様に、又はそれに近い程度に、自ら控訴人の経営の中心となっていたものというべきであって、そうすると、Aの地位又は職務の内容が激変し、Aが控訴人を実質的に退職したのと同様の事情にあると認めることができないから、Aの退職慰労金は賞与として扱われるべきであり、損金に算入することは認められない。

控訴人は、控訴理由書において、租税確定処分の取消しを求める訴訟において、権利発生要件である課税要件事実については、租税権者、すなわち被控訴人に立証責任があるから、Aが従前と同様又はそれに近い程度に業務を行っているというのであれば、どのような業務を行っているのかを具体的に明らかにしなければならないのに、被控訴人は、具体的事実について何ら立証を行っていないと主張する。しかし、本件においては、上記引用の(1)ないし(8)の各事実が認められるのであって、これらの事実によれば、Aが従前と同様又はそれに近い程度に業務を行っていると優に認めることができ、被控訴人の立証が不十分であるとはいえず、控訴人のこの点についての主張は採用できない。

また、控訴人は、控訴理由書において、上記引用に係る(5)((6)を訂正したもの)の、平成13年11月28日の調査の際、Aが、新規顧客の開拓やディスプレイの企画立案はAにしかできず、営業面について従前どおりAが担当しているなどと説明したとの事実について、ディスプレイは特殊な技能を必要とするものではないし、Aは、平日にもゴルフに行くなどしており、従前どおり営業を行うことは不可能であるから、Aが上記のような説明をするはずがない旨主張する。しかし、上記事実が認められることは、上記訂正の上引用した原判決の「事実認定についての補足説明」(原判決37頁13行目から48頁5行目まで)に説示するとおり、明らかである(なお、<証拠略>によれば、Aは、平成13年8月の調査の際には、同人の控訴人における担当業務について、必ずしも代表取締役辞任前と辞任後を区別せずに説明しているようにも思われるが、平成13年11月28日の調査の際には、営業面では代表取締役辞任の前後で変わりがない旨明言している事実を認めることができる。)。また、控訴人は、ディスプレイは特殊な技能を必要とするものではないから、Aが、ディスプレイの企画立案はAにしかできないなどと説明するはずがないと主張するが、原判決の認定するとおり、Aだけが商品のディスプレイの企画立案を担当してきたことは、明らかであるし、商品の販売において、ディスプレイが重要な役割を占めていることも否定できないから、Aがディスプレイについて上記の説明をしたはずがないとはいえない。さらに、Aが平日にもゴルフに行くなどしていたからといって、それだけでは、Aが営業面について従前どおりすることが不可能になったということはできず、かえって、証拠(<証拠略>、証人Eの供述)によれば、Aは、E調査官の調査の際にも、仕事で取引先に出掛けていたことを認めることができ、このことも、Aが営業を行っていたことを裏付けるものである。

さらに、控訴人は、上記引用に係る(5)の事実のうち、Bが、同人が病気等で入院しても控訴人の経営に影響はないが、Aが入院することになれば、控訴人の経営に大きな支障がある旨説明したとの事実について、Aが病気で会社経営から遠ざかっていた時期にも売上げが順調に伸びていることからみて、Bが上記のような説明をするはずがないなどと主張する。確かに、証拠(<証拠略>、控訴人代表者)によれば、Aは、平成12年12月に近視手術を受け、その後通院したことを認めることができるが、Aが上記のような病気にり患したというだけで、直ちに控訴人の売上げに影響があるとまではいえず、Bが上記説明において想定していたAの入院時の病気はより重篤なものであったと推認するのが合理的である。そうすると、Aが近視手術を受けた事実があっても、上記(5)の事実の認定は、左右されない。

その他、控訴人の主張に基づき、本件記録を精査しても、上記1の判断を左右するに足りる事情は認められない。

3  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田幸夫 綿引穣 森一岳)

〔参考〕第1審 東京地裁 平成15年(行ウ)第574号 平成17年2月4日判決

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して平成14年6月26日付けでした、原告の平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち所得金額2346万8770円、納付すべき税額733万6700円を超える部分、並びに過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一 事案の骨子

本件は、被告が、平成12年1月25日に原告の代表取締役を退任したAの役員退職慰労金1億4784万円を原告の平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度分の所得金額の計算上損金の額に算入することを否認するなどして、原告に対し、上記事業年度分の法人税について、平成14年6月26日付け更正並びに同日付け過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定をしたため、原告が、Aは原告の代表取締役を退任したことによって法人税法基本通達9―2―23に規定する「その職務又は地位が激変した」者に該当するから、Aの役員退職慰労金を原告の上記事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入するべきであるのに、これを否認してされた上記更正及び過少申告加算税賦課決定は違法である旨主張して、上記更正のうち所得金額2346万8770円、納付すべき税額733万6700円を超える部分、及び上記過少申告加算税賦課決定の各取消しを求める事案である。

二 関係法令の定め

1 法人税法22条

1項 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。

2項 (省略)

3項 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

1号 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

2号 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

3号 (省略)

4項 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。

5項 (省略)

2 法人税法35条

1項 内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

(中略)

4項 前3項に規定する賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(…(中略)…)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。

(以下省略)

3 法人税法36条

内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

4 法人税法施行令72条(なお、同条にいう「法」とは、法人税法をいう。)

法第36条(過大な役員退職給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額とする。

三 前提となる事実

本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠により容易に認めることのできる事実及び当裁判所に顕著な事実は、その旨付記しており、それ以外の事実は、当事者間に争いがない事実である。

1 原告は、平成12年3月30日、平成11年2月1日から平成12年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税につき、別紙<略>の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした(<証拠略>)。

2 被告は、原告に対し、平成14年6月26日付けで、本件事業年度分の法人税につき、所得金額1億7130万8770円、納付すべき税額5832万8200円とする更正(以下「本件更正」という。)、過少申告加算税を731万1500円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)、及び重加算税を19万6000円とする重加算税賦課決定をした。

3 原告は、平成14年8月2日、別紙<略>の「審査請求」欄記載のとおり、国税不服審判所長に審査請求をした。国税不服審判所長は、平成15年8月4日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決をした。

4 原告は、平成15年10月16日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

四 争点

本件の争点は、Aに対する役員退職慰労金を損金に算入することができるか否か、すなわち、同人が、原告の常勤の代表取締役から非常勤の取締役となり、これが「退職」に当たるといえるか否かであり、これに関連する部分を除き、原告は、その余の被告主張の課税根拠及び計算関係を争っていない。

五 被告の主張

1 本件更正及び本件賦課決定の適法性について

原告の本件事業年度分の法人税の所得金額と納付すべき税額及び過少申告加算税の額は、以下のとおり、それぞれ、1億7130万8770円、5832万8200円及び731万1500円であって、本件更正において法人税の所得金額と納付すべき税額とされた金額及び本件賦課決定による過少申告加算税の額と同額であるから、本件更正及び本件賦課決定は、いずれも適法である。

(一) 所得金額の合計額

所得金額の合計額は、次の(1)及び(2)の金額の合計から、次の(3)の金額を控除した後の金額であり、1億7130万8770円である。

(1) 申告所得金額 2183万9563円

(2) 上記(1)の申告所得金額に加算すべき金額(次のアないしウの合計額) 2億9893万8414円

ア Aの役員退職慰労金 1億4784万0000円

Aの退職慰労金1億4784万円は、後述のとおり、法人税法36条に規定する「退職した役員に対して支給する退職給与」とは認められないから、本件事業年度の所得金額の計算上損金の額には算入されない。

イ 貸倒損失 162万9207円

原告が本件事業年度においてF社という。)に対する貸倒損失として計上した3000万円のうち162万9207円は、Aが平成11年8月5日、同年9月6日及び同年10月4日にそれぞれ54万3069円ずつを簿外取引としてF社から回収したものであるから、本件事業年度の所得金額の計算上損金の額には算入されない。

ウ 損金の額に算入されない役員賞与 1億4946万9207円

上記ア及びイの各金員は、原告の取締役であるAに対する臨時的な給与であるから、法人税法35条1項の規定により、原告の本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されない。

(3) 所得金額から減算すべき金額 1億4946万9207円

上記(2)ア及びイの各金員は、原告の取締役であるAに対する臨時的な給与であるから、原告の本件事業年度の所得金額から減算する。

(二) 原告が納付すべき税額

(1) 上記(一)の所得金額の合計額(ただし、国税通則法118条1項の規定により所得金額の1000円未満の端数を切り捨てた後の金額) 1億7130万8000円

(2) 上記(1)に対する法人税額(上記(1)の金額に法人税法66条に規定する税率を乗じて計算した金額) 5834万1260円

(3) 上記(2)の法人税額から控除される所得税額等(平成15年法律第8号による改正前の法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税額) 1万3020円

(4) 原告が納付すべき法人税額(上記(2)の金額から上記(3)の金額を差し引いた残額について国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額) 5832万8200円

(5) 確定申告に係る法人税額 676万1400円

(6) 差引納付すべき法人税額(上記(4)の金額から上記(5)の金額を差し引いた残額) 5156万6800円

(三) 原告が納付すべき過少申告加算税

原告が新たに納付すべき法人税額は5156万6800円であり、このうち、原告の簿外取引に係る162万9000円に法人税法66条に規定する税率34.5パーセントを乗じた56万2000円は、国税通則法68条1項に規定する重加算税の対象となるから、これを控除し、残額5100万円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)については、原告がこれを計算の基礎としなかったことにつき同法65条4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。したがって、原告が納付すべき過少申告加算税は、同法65条1項により上記5100万円に100分の10を乗じた510万円に、同条2項により5100万円のうち期限内申告額677万4420円を超える部分の額である4423万円に100分の5を乗じた221万1500円を加えた731万1500円である。

2 退職給与の損金算入が認められる場合について

(一) 退職給与は、退職により支払われる臨時的な給与であり、退職に基因する給与という実質を持つものに限られるから、法人税法上、退職給与は、原則として現実にその法人から退職した場合、又は例えば取締役が監査役になるなどその地位又は職務の内容が激変した事実があり、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる場合に限り、損金算入が認められる。

(二) そこで、法人税基本通達9―2―23は、「法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。(2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第4号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。)になったこと。(3)分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。」と定めている。

(三) これに対し、役員の分掌変更又は改選による再任など退職の事実がないのに支給した退職給与は、臨時的な給与であるから、賞与として取り扱われる。

3 Aが原告の代表取締役を辞任したことによって原告を退職したと認めることができないことについて

(一) Aが原告の代表取締役を辞任する前の状況について

(1) Aは、昭和57年3月30日に原告の代表取締役に就任し、就任後は、Aが原告の営業を担当し、特に新規顧客の開拓、商品のディスプレイなどは専らAのみがこれを担当してきた。また、Aの妻でったGは、原告の財務を担当し、この間の平成8年3月27日から平成10年12月31日まで、Aとともに、原告の代表取締役に就任した。そして、平成12年1月25日、Aが、原告の代表取締役を辞任し、Bが、同月26日、原告の代表取締役に就任した。

(2) このように、Aは、18年余りの長きにわたり、原告の代表取締役の地位にあり、その間、業界の取引に精通し、原告の経営の中心となり、いわば原告の大黒柱として活躍してきたものと認めることができる。

(二) Aが原告の代表取締役を辞任した後の状況について

次の(1)から(4)までによれば、Aは、原告の代表取締役を辞任した後も、原告の経営の中心から身を引いたものとは到底認めることができない。

(1) Bの原告における地位、執務の内容等について

ア 調査におけるBの対応について

a E調査官は、平成13年8月9日、同月10日及び同年9月4日に、それぞれあらかじめ調査を行う旨を通告して原告の本店に臨場した。それにもかかわらず、Bは、調査に立ち会わなかった。法人税等の調査は、会社経営者にとって重大な関心事であるはずであるから、Bに原告を経営しているという認識があったのであれば、その調査に立ち会わないということは通常は考え難い。

b E調査官がBの出席を求め、その出社を確認するなどして、ようやくBは、平成13年11月28日及び平成14年2月18日の調査に応じたが、E調査官の質問に対し、原告の経営内容等についてはほとんど説明することができなかった。そうすると、Bは、経営者として当然知るべき事実を知らなかったものといわざるを得ない。

c 以上によれば、Bが原告の経営の中心にあるとは到底評価することができない。

イ Bの業務内容等について

a Bの説明によると、Bの担当業務は、請求書や売上げ日報等の確認、送り状や伝票の整理、出荷等の雑用のみであり、原告の経営にとって最も重要な営業活動はAが行い、原告にとって重要な業務である銀行からの資金調達等についてもBは関与せず、原告の経理も実質的には経理担当の従業員がこれを担当している。

b Bは、取引先等との関係においても、形式的にすら原告の代表者として振る舞っているとは認められず、大阪営業所の責任者ともあいさつを交わす程度である。

c Bは、平成13年11月28日の調査では、同人の出勤日数を週1、2回と説明していたが、平成14年2月18日の調査では、出勤日数を週4日と説明している。出勤日数が増加した理由は不明であり、そもそも出勤日数の増加があったのか否かも疑わしいが、仮に週4日出勤していたとしても、それは、Aの出勤日数と変わるところはなく、Bの業務内容は、後述するAの業務内容と比較すれば、質量ともにAのそれを下回ることはあっても上回ることはない。

ウ Bの経歴等について

原告が主張するように、BがH社において支店長として商品管理や経理を必死で覚えたとか、原告の仕事を覚えるために原告でアルバイトをしていたという事実は、認められない。BがE調査官あてに提出した平成13年11月30日付けの事情説明書(以下「本件事情説明書」という。<証拠略>)によれば、「新社長Bは、経営者として未熟な面が多々あることは否めない」と説明されている。

エ 小括

Bは、対外的に原告の代表者として振る舞うことはなく、原告の内部においても、その経営に関与せず、経理事務すら責任を持って担当しているとはいい難い状況にある。このように、客観的にも主観的にも、Bが、A及びGに代わって原告の代表取締役として原告の経営を切り盛りし得る地位にはなかったことは明らかである。

(2) Aの原告における地位、執務の内容等について

ア 原告の代表取締役を退任した後のAの業務内容等について

a Aは、原告の代表取締役を辞任した後も、それ以前と変わらずに原告の対外交渉の一切を自ら実行し、経営のためのノウハウを有し、顧客の新規開拓などの営業活動においても、原告における中心的な役割を果たし、大阪営業所の開設に当たっても、Aが責任者を選定し、同営業所の経営について主導的な役割を果たしている。

b Bの担当業務の内容及び原告の経営における役割と比較しても、Aの業務が、質量ともにBの担当業務を大きく上回っていることは明らかである。A自身も、代表取締役の辞任の前後を通じて、営業面においてAの担当業務の内容に特段の変化はない旨E調査官に説明している。

c Aの出社日数は、Bよりも多く、Aの業務量がBの業務量を下回ることはないのであるから、Aの業務量に極端な変動があったとは到底いえない。

イ 分社化計画について

Aが原告の代表取締役を辞任した理由として、調査の際に、大阪に新会社を設立してAがその代表取締役に就任する予定であったということが挙げられている。

しかし、実際には、Aは、原告の大阪営業所の経営にも力を割いているというにすぎず、大阪での分社化は実行されていない。したがって、分社化の計画は、Aの退職を根拠づけるものではない。

ウ 原告の主張に係る決裁システムについて

原告の主張に係る決裁システムがAの発案であり、同人が原告の代表取締役であった当時から万全に機能していたとすれば、Bに経営能力があるか否かは、Aの業務内容に何ら変化をもたらすものではなく、Aが原告の代表取締役を辞任した前後にAの業務内容に激変を生じることはなかったものと考えられる。

また、この決裁システムが存在していたからこそ、Aが代表取締役の辞任を決意することができたのであるとすれば、E調査官による調査において、そのような説明がされたはずである。ところが、E調査官による調査においても、本件事情説明書においても、そのような説明はされていないのである。

したがって、原告の主張に係る決裁システムの存在をもって、Aが原告を実質的に退職したことを合理的に説明するものとは到底いえない。

エ 小括

以上によれば、Aが原告の代表取締役を辞任する前後でその担当業務の内容に大きな変化がないことは明らかである。Aが原告の代表取締役を辞任した後も、原告の経営上の意思決定において中心的な役割を果たしている者は、Aであり、Bでないことは明らかである。

仮に、Aが説明するように、原告の従業員が有能であるため、役員がゴルフをして遊んでいられることが事実であるとしても、Aが代表取締役を辞任する前後において、そのような事情に変化はないはずであるから、代表取締役の辞任の前後において、Aの業務に実質的な変化は生じ得なかったものというべきである。

(3) 役員報酬の額について

以下に掲げる原告の役員に対する報酬額等に照らし、Aの原告における業務内容の分掌が激変し、原告の非常勤と同等に評価されるような立場にあったとは到底認めることができない。

ア Aが取締役として原告から支給された報酬額は、平成12年2月以降、月額210万円から100万円に半減している。

しかし、この同月以降の報酬額でも、代表取締役であったGが原告から平成10年1月から同年12月までの間に支給された報酬額である月額95万円を上回っている。これは、原告において、Aが、代表取締役の業務に匹敵する、原告の経営にとって重要な業務を行っていたことの証左である。

また、Aが取締役として原告から平成12年2月以降に支給された報酬額は、平成12年2月1日から平成13年1月31日までの事業年度(以下「平成12年度」という。)には1200万円、平成13年2月1日から平成14年1月31日までの事業年度(以下「平成13年度」という。)には1200万円、平成14年2月1日から平成15年1月31日までの事業年度(以下「平成14年度」という。)には1518万円、平成15年2月1日から平成16年1月31日までの事業年度(以下「平成15年度」という。)には1459万2000円である。

イ Bが代表取締役として原告から平成12年2月以降に支給された報酬額は、月額110万円であり、Aの報酬額の月額分とほぼ同額である。これは、原告において、Aが、代表取締役であるBと同等の業務を行っていることを示すものである。

また、Bが代表取締役として原告から支給された報酬額は、平成12年度には1320万円、平成13年度には1320万円、平成14年度には820万円、平成15年度には516万円である。

ウ これらと異なり、原告の非常勤の取締役又は監査役の報酬を見ると、非常勤の取締役D及び非常勤の監査役Iの報酬額が、本件事業年度には一人当たり84万円であり、非常勤の監査役であるJ及びKの報酬額が、平成12年度には一人当たり144万円、平成13年度には一人当たり84万円、平成14年度には一人当たり79万円、平成15年度には武義が37万5000円、久子が45万円である。

(4) 原告は、本件事業年度、平成12年度、平成13年度、平成14年度及び平成15年度の各法人税確定申告書に添付された「人件費・役員報酬手当の内訳書」の「常勤・非常勤の別」欄において、いずれもAを「常勤」と記載している。

(三) 結論

以上によれば、Aが原告の代表取締役を辞任したことをもって、原告を退職したと認めることはできない。そうすると、本件の退職慰労金は、退職に基因する給与ではなく、Aに対する臨時的な給与であるから、法人税法35条1項の規定に基づき、本件事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されないことは明らかである。

したがって、本件更正及び本件賦課決定は適法である。

六 原告の主張

1 本件更正及び本件賦課決定の違法性について

原告の本件事業年度分の法人税の所得金額及び納付すべき税額は、以下のとおりであるから、本件更正のうち、所得金額2346万8770円、納付すべき税額733万6700円を超える部分及び本件賦課決定は、違法であり、取り消されるべきである。

(一) 所得金額の合計額

所得金額の合計額は、次の(1)及び(2)の金額の合計であり、2346万8770円である。

(1) 申告所得金額 2183万9563円

(2) 上記(1)の申告所得金額に加算すべき金額 162万9207円

(二) 原告が納付すべき税額

(1) 上記(一)の所得金額の合計額 2346万8770円

(2) 原告が納付すべき法人税額(上記(1)の金額に法人税法66条に規定する税率を乗じて計算した金額について国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額) 733万6700円

2 退職給与の損金算入が認められる場合について

退職給与は、現実にその法人から退職した場合のほか、例えば、常勤取締役が非常勤取締役になるなどその地位又は職務の内容が激変した事実があり、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる場合にも、損金算入が認められるべきである。

3 Aが原告の代表取締役の辞任によって原告を退職したと認めることができることについて

(一) 原告の事業の内容について

原告は、自動車部品及び自動車用品をメーカーから仕入れ、自動車用品店等に販売することを業としている。

(二) 原告の決裁システムについて

(1) 原告では、メーカーや代理店から商品を紹介されると、仕入れ担当の従業員であるL及び営業担当の従業員であるMが商品を見て、売れそうな商品か否かを判断する。L及びMが売れそうな商品と判断した場合には、営業担当の従業員が、同業他社の商品を実際に見に行って、商品に付いているバーコードからその店の仕入価格を調べる方法により、粗利で25パーセント以上取れるかどうかを調査する。そして、原告の仕入価格に粗利を乗せた価格を同業他社の製品よりも安く押さえられるかどうか、同業他社に比べて販売力があるかどうかを検討した上で、L及びMが、メーカーや代理店が提案した仕入価格でよいか、それを値引きする必要があるか、損失が出ないかを判断してその商品の納入の可否を決め、利益が出ると判断した場合には、仕入価格や仕入数量を記載したりん議書を作成し、そのりん議書を原告の代表取締役に上げる。原告の代表取締役であったAは、現金で商品を仕入れた場合には1ないし2か月以内で、手形で商品を仕入れた場合には3か月程度で、その商品を売り切ることができるか否かを判断し、売り切ることができると判断した場合には、りん議書に決裁印を押し、直ちにその商品の仕入れに取り掛かっていた。

(2) 原告が上記(1)のような決裁システムを採用したのは、実際に商品を見て、他社製品と価格の比較調査を行い、利益率を計算するという作業を従業員に要求し、個々の従業員が算出した利益率に対する判断を尊重することによって、従業員の士気を高めるためである。この決裁システムは、Aが代表取締役に在任中に考案されたもので、Bが代表取締役に就任した後も踏襲されている。

(3) 原告の代表取締役は、りん議書を検討する際に、いつ幾らの金額を支払わなければならないかを把握しているので、りん議書に記載された金額が現実に支払われたかどうかを確認するだけで足りる。

(三) Bの経歴及び経営能力について

(1) Bは、平成2年3月にAD高等学校を卒業した後、CD及びビデオの販売を業とするH社(東京都<住所略>)に就職し、同社で、最初は仕入れ、販売、経理などに携わっていたが、社長に対して会社経営に関して様々な提案を行っていたところ、その経営手腕を見込まれて、入社後1年でAC店(東京都)<住所略>店長に抜擢された。Bは、店長として、その店での販売、商品の仕入れ、経理の全般について任され、全くの素人ではあったものの、必死に商品の仕入れ、販売及び経理のやり方などを習得した。

(2) Bは、平成5年、H社を退職し、東京都<住所略>にあった「N」というビデオレンタル店で約5年間店長として勤務し、その店での仕入や経理などを行っていた。

(3) Bは、Nを退職してから約1年半の間、飲食店に勤務し、その後、自動車用品の販売を業とするO社(東京都<住所略>)に就職した。O社は、Bが就職する直前まで休眠会社であり、Bは、会社経営者として、その業務を再開するために必要な準備、すなわち、必要な商品の選別、販売先の開拓、管理、経理、従業員の管理、給料の支払、経費の使い方など、店舗の運営に必要なことをすべて一人で行わなければならなかった。以前に店長として店舗の運営にかかわっていた経験は大きな助けとなったものの、店長は店舗の責任者であっても、経営者ではないため、責任の重さが異なり、Bにとっては新しい店舗の運営は非常に困難な業務であった。しかし、Bは、O社の経営を一人で行ったことによって、経営者としての利益率の計算、在庫管理の方法、適正な在庫保有期間及び同業他社との駆け引きなどを学んだ。

(4) Bは、O社で約1年間、仕入れ、販売業務及び店舗経営に携わるとともに、原告での仕事を覚えるために原告でもアルバイトをした。その後、Bは、Aに引き抜かれる形で、平成11年1月、原告に就職した。

(5) Bは、H社及びNにおいて約8年間にわたり、人気商品、又はこれから人気が出るであろうと考えられる商品を仕入れるという作業を行い、O社では実質的に一人で会社を立ち上げ、切り盛りし、経営していた。その上、O社は、原告からみて自動車用品販売という同業他社であったから、Bは、自動車用品の需要などについても十分に判断することができた。

そして、原告の決裁システムでは、利益率に関する判断は実質的には従業員が行うため、代表取締役は、従業員の判断を信頼し、商品サイトだけを検討すれば経営を誤ることはないのである。

したがって、Bの経歴と原告の決裁システムからすると、Bは、原告の代表取締役として十分な経営判断をすることができるということができる。

(四) Aが原告の代表取締役を辞任した理由について

Aは、Aの妻でもあったGが平成10年12月31日に突然死亡したことによる精神的ショック及び業務の増加により体調を崩してしまった。そのため、Aは、Gの両親、兄弟から、心身の疲労をいやすために原告の代表取締役を辞任すべきである旨の助言を受けた。原告の決裁システムの下では、原告の代表取締役は、従業員の判断を信頼し、商品サイトだけを検討すれば経営を誤ることはないから、ある程度の経営能力のある者が原告の代表取締役に就任すれば、原告の経営が傾くことはなかった。Aは、自分の後任には、Bが適任と考え、そこで、Bを1年間アルバイトという名目で自動車部品の販売等の業務経験を積ませ、原告の決裁システムなどを含む事務の引継ぎを行った上で、原告の経営は、B、M、L及びPの4人で十分に成り立つと判断して、平成12年1月25日、原告の代表取締役を辞任した。

(五) 原告の代表取締役を辞任した後のAの生活及び担当業務について

(1)ア Aは、原告の代表取締役の辞任後は、午前11時ころに出社し、午後2時ころには退社するようになり、出社している間も、応接室でゴルフ番組を見たり、雑誌を読んだりするなどし、業務には一切関与していない。Aは、午後2時に退社した後は、毎日ゴルフ練習場に通い、ラウンドも平日に頻繁に行うようになった。

イ Aは、平成12年12月、レーザーによる近視手術を受けたが、経過が思わしくなく、同月から平成13年3月まで自宅療養をし、この間は、月に10日ほど眼科に通院していた。Aは、通院する日には出社しなかった。

(2)ア Aは、原告の代表取締役を辞任する前は、対内的には経営全般に関与し、りん議書や支払伝票のチェックなどを行い、対外的には取引先の新規開拓なども行っていたが、辞任後は、業務には一切関与していない。

イ Aが大阪で活動したのは、あくまでも別会社を設立するためであり、原告の営業所を開設するためではなかった。すなわち、Aは、新会社の設立に向けて活動していたが、新規取引先が確保できず、また、景気の低迷で同業者の倒産が続く等、当時の関西地区の状況から考えて、新会社の設立を断念した。しかし、取引先が原告であれば、取引するという顧客がいたので、Bを始めとする原告の役員が話し合った結果、Aが別会社を設立しようとしていた場所を原告の大阪営業所として使用することが決まったのである。

(六) 以上によれば、Aが原告の代表取締役を辞任したことによって原告の常勤取締役から非常勤の取締役となっており、その職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情にあるというべきである。

(七) 被告の主張に対する反論等について

(1) 調査におけるBの対応について

ア Bは、平成13年8月9日及び同月10日の調査に立ち会わなかった。これは、Bが、下の娘が通園している幼稚園の役員を務め、その幼稚園で開催されるバザーの会計を務めていたため、頻繁に幼稚園に通う必要があるなどして、多忙を極めていた上、税理士からは、Aのみに話があるようだと聞かされていたので、自分は調査に同席する必要はないと考えたからである。

イ BがE調査官の質問に対してほとんど答えることができなかったのは、原告の経営内容を知らなかったからではなく、税務調査が生まれて初めてで、E調査官やその場の雰囲気に圧倒されて緊張し、どのように答えてよいのか分からなくなったためである。

なお、Bは、E調査官に対し、「社長や会長がいなくても何の問題もない。」旨発言したことはあるが、「会長に入院されたら大変なことになる。」旨発言したことはない。現に、Aが盲腸で入院したときや、眼の病気で自宅療養していたときも、原告の決裁システムのおかげで、Bは、何も心配せずに業務を行い、原告の業務は滞りなく進んでいた。また、Bは、頻繁に幼稚園に通う必要があったので、不定期にしか出社することができず、毎日出社する週もあれば、1日しか出社できない週もあった。そのため、Bは、調査の際に、「週1、2回出社する」とか、「週4日程度出勤する」と答えたのであり、供述が変遷しているわけではない。

(2) Bの業務内容等について

ア Aは、E調査官に対し、Bにつき、自動車用品業界のことを知らないから、営業等原告の対外的交渉を任せることはできないとか、簿記を知らないなどと説明したことはない。Bは、簿記の資格を有していないが、以前に簿記の資格を取ろうと思って勉強したことがあり、簿記の知識を有している。

イ 原告の経理は、Pが担当しており、Bは、原告の銀行との取引には関与していない。これは、Bが、原告の株主であるAと原告の代表取締役であるBが夫婦であるので、第三者が経理を担当した方が他の従業員に対して経理が透明となって、他の従業員からの信用が増すと考えたためである。

ウ Bは、本件の税務調査の当時、幼稚園の役員やバザーの仕事で忙しいために、現在のように週5日出社することができず、出社が不定期にならざるを得なかったにすぎない。原告の決裁システムの下では、Bの業務は、書類の確認等で足りるのである。

エ 原告の大阪営業所も、原告の決裁システムを採用しているので、Bは、大阪営業所の責任者とは書面のやりとりで足り、経営の全般について報告を受ける必要はなかった。

(3) Aの業務内容について

ア Aは、E調査官に対し、新規顧客の開拓や商品ディスプレイの企画立案はAにしかできず、Aが代表取締役を辞任する前後の原告の役員の担当業務は、営業面について特段の変化はなく、従前どおりAが原告の対外的交渉の一切を担当しているなどと説明したことはない。原告における商品のディスプレイは、メーカーのカタログなどを参考に従業員全員が行っており、Aが「自分にしかできない。」などと発言するはずがない。写真については、メーカーの写真などを提示して、「これを参考にしている。」などと話したものと考えられる。Aは、原告の代表取締役を辞任した後、ゴルフの席においてかつて原告の代表取締役をしていたときに仕事で知り合った者と顔を合わせることがあり、その場で仕事の話をすることがある。しかし、原告の通常の営業活動は、営業担当の従業員が行っている。

イ 大阪営業所は、現在でも状況が許せば別会社にする計画があり、大阪営業所の責任者は元々Aの知り合いであるから、Aが「分社化できそうかどうか」という観点からその経営状態について簡単な話を聞くことはある。

(4) 役員報酬の額について

Gが原告の代表取締役の地位にあった期間には、Aも、原告の代表取締役の地位にあったのであり、GとAが、その職務に応じて異なった額の報酬を受けていたことは、不合理なことではない。Aは、現在も、非常勤ではあるが、原告の取締役であり、会長である。したがって、Gの代表取締役当時の報酬額とAの平成12年当時の報酬額を単純に比較することには意味がない。

第三当裁判所の判断

一 前記前提となる事実に加え、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。ただし、<証拠略>及び<証拠略>中、下記の認定事実に反する部分は、他の証拠と矛盾し、又は裏付けを欠くので、採用することができない。なお、後述する事実認定に関する補足説明参照。

1 原告は、自動車部品及び自動車用品の製造販売を目的とする株式会社であり、昭和47年2月25日に設立された(設立の当時の商号は、Q社であり、その後、現在の商号に改められた。)。

原告は、以前は、自社工場において自動車部品の製造を行っていたが、その後、自動車のハンドルやカーアクセサリーなどの自動車部品、及びエンジンオイルなどの自動車用品をメーカーから仕入れ、オートバックス、オートテック、ドライバースタンド等の自動車用品店その他の小売店に販売することを業としている。

2(一) 原告の設立当時の代表取締役は、Rであり、その後、原告の代表取締役は、昭和48年2月6日、Sに、昭和57年3月30日、Aに、それぞれ交替し、同日から平成8年3月26日までがAであり、同月27日から平成10年12月31日までがAとGであり、平成11年1月1日から平成12年1月25日までがAであった。

(二) Aは、原告の代表取締役に就任してからは、原告の営業を担当し、特に新規顧客の開拓、商品のディスプレイの企画立案等は専らAのみがこれを担当してきた。Aは、18年余りにわたり、原告の代表取締役の地位にあり、その間、業界の取引に精通し、Gが原告の代表取締役に就任していた期間も含め、原告の経営の中心にあって、活躍してきた。

(三) Gは、Aの妻であり、昭和57年3月30日、Aが原告の代表取締役に就任した際に、原告の取締役に就任し、平成8年3月27日には、Gも、Aとともに、原告の代表取締役に就任した。しかし、Gは、平成10年12月31日、死去した。

(四) Aは、平成12年1月31日現在、原告の発行済株式のすべてを保有していた。

3(一) 原告の従業員(ただし、大阪営業所を除く。)は、現在10人であり、それぞれ業務(商品の受注、発注及び仕入れを担当する部署)、営業(販路を開拓する部署)及び経理のいずれかを担当しており、各担当部署ごとに従業員のための机を配置している。

(二) B<生年月日略>は、平成2年3月にAD高等学校を卒業後、東京のビデオ・CD販売店、ビデオレンタル店等で働き、次いで、飲食店で働いていた。Bは、その後、Aの支援で、平成10年ころから、「O社」という自動車用品販売会社で働くようになった。

(三) Aは、平成11年1月ころ、Bを原告の従業員にした。Bは、パートタイムということになり、当時の担当は、業務であった。なお、Bのこの当時の氏はTであったが、平成12年2月18日にAと婚姻して、氏がUとなった。

(四) Aは、平成12年1月25日、原告の代表取締役を辞任し、B(当時28歳)が、同月26日、原告の取締役及び代表取締役に就任した。

4(一) Aは、原告の代表取締役を辞任したが、取締役にとどまり、会長と呼ばれていた。Aは、病気で入通院していた時を除き、平日は、ほぼ毎日、原告の本店に出勤した。ただし、出社していた時間は数時間であった。また、対外的には、代表取締役であったときと同様に、他社と交渉して営業を行っていた。

(二) 原告は、平成12年8月1日、Aの企画と努力により、新たに大阪市に営業所を開設した。大阪営業所は、Aに報告、相談して、業務を行っていた。

(三) Bは、平成12年1月26日以降、原告の代表取締役であったが、普段は社長室にはおらず、業務の担当部署で仕事をしていた。また、同年当時、Bの出勤は、週1日から4日程度と不定期であり、出社している時間も数時間であった。Bの担当業務は、請求書や売上げ日報等の確認、送り状や伝票の整理、出荷等であった。営業は行っておらず、また、銀行取引関係の業務や、経理ないし財務には関与していなかった。なお、Bが代表取締役に就任する前に、原告でパートタイマーとして働いていた際の担当も、業務であった。

5(一) E調査官は、平成13年8月9日及び同月10日、原告の本店に臨場し、A、V税理士及びV税理士事務所の担当者の立会いの下、調査を実施し、事情を聴取したが、Bは、この調査には立ち会わなかった。

(二) Aは、上記調査の際、Aが代表取締役を辞任し、代表権のない取締役となった理由について、<1>Aが体調を崩した、<2>Gの親類からAが原告の代表取締役を退任するよう迫られた、<3>大阪に別法人として「W社」を設立し、Aがその代表取締役に就任する予定であった旨説明した。

(三) V税理士は、(一)の調査の際に、役員退職慰労金を支払うことにした理由について、<1>原告には以前から分社化計画があり、AはW社の代表取締役となる予定であった、<2>Gの死亡により原告には生命保険金の収入があった、<3>V税理士の顧問先で、代表取締役から取締役になった者に退職給与を支払って、損金として認められた事例があり、それにならった旨説明した。

6 E調査官は、平成13年9月19日、原告の大阪営業所に臨場し、同営業所の責任者の立会いの下、調査を実施し、責任者から、下記の事情を聴取した。

(一) 自分は、以前、個人や二輪車のドレスアップ部品等の販売をしていたころ、原告の取引先からAを紹介され、Aの要請により、平成12年8月1日から大阪営業所の責任者として業務を開始した。

(二) 自分は、大阪営業所の業務を開始してから今日までに、原告の本店を3回訪問したが、Bとはあいさつをする程度であり、大阪営業所の経営については専らAと話し合っていた。

7(一) E調査官は、平成13年11月28日、原告の本店に臨場し、B、A、V税理士及びV税理士事務所の担当者の立会いの下、調査を実施し、事情を聴取した。Bは、E調査官の質問に対して、ほとんど答えることがなく、AがE調査官の質問の大部分に答えていた。

(二) Bは、上記調査の際、Bが病気等で入院しても、原告の経営に影響はないが、Aが入院することになれば、原告の経営に大きな支障がある旨説明した。

(三) Aは、(一)の調査の際、原告におけるAら役員の業務について、<1>原告には即戦力の社員がいるので、役員がいなくても経営に特に支障を来さない、<2>Aは、原告が<1>のような状況にあるので、趣味のゴルフをすることができる、<3>Bは、自動車用品業界のことを知らないから、営業等原告の対外的交渉を任せることはできない、<4>新規顧客の開拓や商品ディスプレイの企画立案はAにしかできない、<5>Aが代表取締役を辞任する前後の原告の役員の担当業務は、営業面について特段の変化はなく、従前どおり、Aが原告の対外的交渉の一切を担当している、<6>原告の経理等に関する事務は、Gが取締役であった当時はGがそのすべてを担当していたが、Bが原告の代表取締役に就任してからは、経理担当の従業員がこれを担当している、<7>Aが原告の代表取締役を辞任したことによって原告を退職したのと同様の事情にあるとする根拠は、原告を分社し、大阪で別の会社を設立し、大阪でその代表取締役になる予定であったことである、<8>Bは簿記を知らない旨説明した。

8 Bは、平成13年11月30日ころ、本件事情説明書(<証拠略>)を作成して、これを被告に提出した。本件事情説明書には、次のような記載がある。

「代表取締役であったAが退任するに至った事情。

1.平成10年12月31日、Aの妻であるG(当時当社専務)は突然の病死により精神的ショックを受けたこと。

2.同役員であった、Gの両親(当時取締役)から、社長退任の要求があったこと。

3.Gの業務引継ぎ等による過労のため、高血圧症及び視覚障害による回復手術2回、盲腸の手術と1年の間に体調を大きくくずしたため療養が必要であった。

4.療養中にいろいろ考えた結果、経営を任せられる人材が育っていることもあって、Xの社長を退任し、W社を設立する計画をたてた。

以上のような理由からAは、新社長Bを中心に、営業責任者であるM、在庫管理及び取引業務責任者であるL、経理担当のPの4人の協力体制で、経営が可能であることを確信し託したものである。もちろん、新社長Bは、経営者としては未熟な面が多々あることは否めないが、前社長の信頼を受けていた3名の協力により、経営を移譲することに問題なしと社長退任を決心した。その後、社長の職務については徐々に事務の引継ぎやら新社長であるBの相談にも乗っていた。特に営業面については、退任後も助言していたことは事実であります。」

9(一) E調査官は、平成14年2月18日、B及びAに対して調査を実施し、同人らから、事情を聴取した。

(二) Aは、上記調査の際、<1>Aが出社する回数は、週6日から週4ないし5日に減り、仕事の内容(営業を含む全般)も、会社にいる時間も減少している、<2>Gの死亡後、Aが営業のほかに行っていた業務は、経理担当の従業員とBに引き継いだ、<3>Aは、Gが死亡したことの精神的ショック、Gの親類からの批判等によるストレスから、盲腸炎及び眼の病気になり、原告の代表取締役の執務に耐えられなくなった、<4>Gの親類の辞任要求に従い、原告の代表取締役を辞め、原告を分社し、大阪に設立する新会社の代表取締役になる予定であった、<5>大阪営業所の開設は、Aが構想を練り、基本的にAの判断で行ったが、最終的にはB、経理担当の従業員も含めて5人で決めた旨説明した。

(三) Bは、(一)の調査の際、<1>自分は、週4日程度出勤している、<2>会社で執務する時間は、午前10時ころからであり、午後2時ころには退社する、<3>日報のチェック、送り状や伝票の整理及び出荷等を行っている旨説明した。

10(一) Aが取締役として原告から支給された報酬額は、本件事業年度が2760万円、平成12年度には1200万円(月額100万円)、平成13年度も1200万円、平成14年度には1518万円、平成15年度には1459万2000円である。

(二) Bが原告から支給された報酬額は、本件事業年度が月額5万円程度であり、代表取締役となった平成12年度が1320万円(月額110万円)、平成13年度も1320万円、平成14年度には820万円、平成15年度には516万円である。

(三) 原告には、非常勤の取締役又は監査役がいる。平成8年3月27日から平成12年1月25日までは、非常勤の取締役としてC、非常勤の監査役としてIがおり、同月26日以降は、非常勤の監査役としてJ及びKがいる。

非常勤の取締役又は監査役の報酬額は、本件事業年度には、C及びIが一人当たり84万円(月額7万円)、平成12年度にはJ及びKが一人当たり144万円、平成13年度にはJ及びKが一人当たり84万円、平成14年度にはJ及びKが一人当たり79万円、平成15年度にはJが37万5000円、Kが45万円であった。

11 原告の売上高は、本件事業年度には8億4556万0358円、平成12年度には9億5157万5799円、平成13年度には10億1593万3623円、平成14年度には9億1231万0185円、平成15年度には7億8831万9818円であった。

12 原告は、本件事業年度、平成12年度、平成13年度、平成14年度及び平成15年度の各法人税確定申告書に添付された「人件費・役員報酬手当の内訳書」の「常勤・非常勤の別」欄において、いずれもAを「常勤」と記載していた。

13 原告では、メーカーや代理店から商品を紹介されると、仕入れ担当の従業員であるL及び営業担当の従業員であるMが商品を見て、売れそうな商品か否かを判断する。L及びMが売れそうな商品と判断した場合には、営業担当の従業員が、同業他社の商品を実際に見に行って、商品に付いているバーコードからその店の仕入価格を調べる方法により、粗利で25パーセント以上取れるかどうかを調査し、原告の仕入価格に粗利を乗せた価格を同業他社の製品よりも安く押さえられるかどうか、同業他社に比べて販売力があるかどうかを調べた上で、L及びMが、メーカーや代理店が提案した仕入価格でよいか、それを値引きする必要があるか、損失が出ないかを判断してその商品の納入の可否を検討し、利益が出ると判断した場合には、仕入価格や仕入数量を記載したりん議書を作成し、そのりん議書を原告の代表取締役に上げる。原告の代表取締役であったAは、現金で商品を仕入れる場合には1ないし2か月以内で、手形で商品を仕入れる場合には3か月程度で、その商品を売り切ることができるか否かを判断し、売り切ることができると判断した場合には、りん議書に決裁印を押し、直ちにその商品の仕入れに取り掛かっていた。

以上のような決裁システムは、平成になったころに採用され、現在に至るまで、原告における仕入れに関する決裁システムとして機能している。

二 事実認定についての補足説明

1 原告は、平成13年11月28日の調査の際に、AがE調査官に対して、原告における役員の業務分担について、<1>Bは、自動車用品業界のことを知らないから、営業等原告の対外的交渉を任せることはできず、<2>新規顧客の開拓や商品ディスプレイの企画立案はAにしかできず、<3>Aが代表取締役を辞任する前後の原告の役員の担当業務は、営業面について特段の変化はなく、従前どおり、Aが原告の対外的交渉の一切を担当していた旨説明したことはなく、また、平成13年11月28日の調査の際に、Bが、<4>Bが病気等で入院しても、原告の経営に影響はないが、Aが入院することになれば、原告の経営に大きな支障がある旨説明したことはない旨主張する。

これに対し、被告は、このような説明がされた旨主張し、これに沿う証拠として、<証拠略>(E調査官の陳述書)を提出している。

2(一)(1) そこで検討するに、まず、原告は、Bが、会社経営や自動車用品販売業界について知識と経験を有している旨主張している。そして、その根拠として、Bは、陳述書(<証拠略>)及び原告代表者尋問において、高校卒業後ビデオ・CDの販売店店員、ビデオレンタル店の店長等として、合計約8年間にわたり、商品の仕入れ、販売、経理等を担当し、その後休眠会社であった自動車用品販売店「O社」を約1年間実質的に一人で切り盛りして、経験を積んでいるので、原告の経営ができる旨陳述又は供述する。

(2) しかし、O社については、Bは、原告代表者尋問において、要旨、「O社は、Aに紹介され、Aから資金の提供を受けて業務を再開したものであり、Bの自宅を事務所としていた。O社には、AAという従業員がおり、同人が持っていた顧客であるAB社という会社がそのままO社の取引先となった。同社の取引先はその1社のみであり、その取引先に販売する商品は原告から仕入れた商品であった。」旨供述しているにとどまり、O社の登記簿上の役員、資本金、年商、Bが受け取っていた報酬の額、同社の税務申告等について質問されても、一切答えることができなかった。そして、O社の商業登記簿謄本(<証拠略>)によると、同社は、かつてA及びGが役員を務めていた有限会社であるが、平成3年4月以降平成12年8月まで、登記事項の変動がないことが認められる。以上を総合すると、O社が実際に営業をしており、Bがその業務に従事していたのか否かは定かではなく、かつ、いずれにせよ前記供述等によって、BがO社を一人で経営し、自動車用品の販売や会社経営に相当に精通するようになったと認めることはできず、他にそのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また、前記認定に係る、高等学校卒業後、ビデオ・CD販売店、ビデオレンタル店、飲食店等で働いたというBの経歴や、原告で約1年間パートタイムで働いたことがあるという経験程度では、Bが、これらにより、原告の従業員の中において長年自動車用品等の卸売業に従事している従業員と同程度に、自動車用品等の販売や会社経営に精通することとなったということはできない。

(3) 以上のほか、Bの当時の年齢等も総合勘案すると、Bは、原告の代表取締役に就任した当時、自動車用品等の業界や、自動車用品等販売会社の経営について十分な知識がなく、対外的交渉等を一人で行うこともできなかったと認めるのが相当である。これに対し、証拠(<証拠略>)中には、Bは原告を含む自動車用品業界について十分な知識があるとする部分があるが、上記検討したところに照らし、いずれも採用することはできない。

(二)(1) また、原告は、原告の決裁システムの下では、原告の代表取締役は、従業員の判断を信頼し、商品サイトだけを検討すれば経営を誤ることはないから、ある程度の経営能力のある者が原告の代表取締役に就任すれば、原告の経営が傾くことはない旨主張する。

(2) 前記認定事実によると、原告の決裁システムとは、要するに、原告では、仕入れ担当のL及び営業担当のMが現場で調査した結果利益が出ると判断した商品について、代表取締役が、現金で当該商品を仕入れた場合には1ないし2か月以内で、手形で商品を仕入れた場合には3か月程度で、その商品を売り切ることができるか否かを判断し、売り切ることができると判断した場合にはその商品を仕入れるというものである。

しかし、この決裁システムの下でも、これまで原告で取り扱っていなかった商品を新たに仕入れようとする場合には、原告の代表取締役は、その商品に対する消費者の需要動向やし好、小売店の需要動向等を勘案して、所定の期間内に小売店に対してその商品を売り切ることができるかどうかを判断しなければならない。また、これまで原告で取り扱っていた商品を仕入れようとする場合でも、原告の代表取締役は、その商品に対する消費者の需要動向やし好の変化、小売店の需要動向等の変化を勘案して、これまでと同様に、所定の期間内に小売店に対してその商品を売り切ることができそうかどうかを判断しなければならない。そして、これらの判断をするためには、いずれの場合も、自動車部品や自動車用品の販売に相当期間従事したという経験や会社経営に関する知識が必要であると考えられる。

したがって、原告が主張するように、原告の代表取締役にある程度の経営能力のある者がおりさえすれば、原告を順調に経営することができるというものではないと考えられる。

そして、既に認定判断したBの自動車部品及び自動車用品の販売業並びに会社経営に関する経験と知識の程度に照らすと、Bが、自分で、商品に対する消費者の需要動向やし好、小売店の需要動向等を的確に判断して、所定の期間内にその商品を売り切ることができそうかどうかを判断することができたとは到底考え難い。

(3) したがって、原告の前記アの主張は、採用することができない。

そうすると、Aが、原告が前記決裁システムを採用していることを理由に、原告の代表取締役を辞任した後に、その決裁システムにおける上記の判断者としての役割をBに譲ったとは、およそ考え難いところであり、前記認定に係るAの代表取締役辞任後の出勤状況や原告の株式の保有状況に照らすと、Aが最終的な上記の判断を行っていると認めるのが相当である。

(三) また、平成13年8月9日及び同月10日の税務調査の際、AやV税理士が調査に立ち会ったのに、Bがこれに立ち会わなかったこと、同年11月28日の税務調査の際には、Bも立ち会ったものの、ほとんど答えることがなく、主にAが質問に答えていたことは、前記認定事実のとおりである。

これらの点も、Bが実質的に原告の経営者として、その業務を統括していたわけではないことの証左といわざるを得ない。

原告は、Bが子供の幼稚園の役員で忙しかったとか、あるいは初めての税務調査で緊張していたなどと主張するが、いずれも説得力に乏しく、これらの主張は採用することができない。

(四)(1) さらに、Aが原告の代表取締役に就任してからは、Aが原告の営業を担当し、特に新規顧客の開拓、商品のディスプレイの企画立案等は専らAのみがこれを担当してきたことは、前記認定事実のとおりである。

そうすると、新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の営業は、原告の売上げを左右する重要な業務であると考えられるから、前記認定のとおり、Aが平成12年1月31日現在原告の発行済株式のすべてを保有していたことも勘案すると、仮にAが今後原告の業務に一切関与しないというのであれば、Aは、自分に代わって新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の営業を担当する者を手当てした上で、原告の代表取締役を辞任したはずである。

(2) しかし、Bは、その陳述書(<証拠略>)及び原告代表者尋問において、原告の代表取締役の就任の前後を通じて、新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の仕事を含めて対外的な営業活動を担当しているとは全く陳述又は供述していない。さらに、平成13年11月28日及び平成14年2月18日の調査の際にも、B又はAがそのような説明をしたことをうかがわせる証拠はない。したがって、新たにAに代わって新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の営業を任せることができる適任者として、Bが原告の代表取締役に就任したものということはできない。

(3) また、証拠(<証拠略>〔原告の商業登記簿謄本〕、<証拠略>〔本件事情説明書〕、<証拠略>〔Aの陳述書〕、<証拠略>〔原告代表者の陳述書〕)を検討すると、原告の従業員の中には、Aと同様に長年自動車部品及び自動車用品の卸売業に従事している従業員が複数いることがうかがわれるが、本件全証拠を精査しても、原告の従業員の中に、新たにAに代わって新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等を任せることができる適任者がいたことを認めることはできない。さらに、Aが原告の代表取締役を辞任した後に自分に代わって新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等を担当する者を新たに原告に入社させたことをうかがわせる証拠は全くない。

(4) 以上によれば、Aが原告の代表取締役を辞任した後に原告の業務に一切関与しないというのであれば、新たにAに代わって新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等を任せることができる者が必要であるところ、そのような者がいたとは認められない。そうすると、Aは、原告の代表取締役を辞任した後も、従前と同様に、新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の営業を担当していたと認めるのが相当である。

(五)(1) 前記認定事実によると、AやV税理士は、税務調査の際、原告の代表取締役辞任の理由につき、大阪に新会社を設立して、Aが代表取締役になる予定があったことや、Aの体調不良等を挙げている。

(2) しかし、証拠(<証拠略>〔本件事情説明書〕、<証拠略>〔原告代表者の陳述書〕、原告代表者尋問)によれば、Aは、大阪において新会社を設立するために、平成12年3月ころから開業準備活動を始めたこと、しかし、新規取引先を確保することができなかったり、景気低迷等から、新会社の設立を断念し、結局、原告の大阪営業所として稼働させることにしたこと、Aが新たに大阪営業所の責任者を探して採用し、同人の監督の下、同年8月1日から大阪営業所が業務を開始したこと、現在に至るも大阪営業所は原告と別法人となっているわけではないことが認められる。

そうすると、原告の大阪営業所の開設に尽力したのはAであり、Aは、そのために一時多忙であったと推認されるが、新会社を設立して代表取締役になったわけではないし、大阪営業所には、その責任者もいるわけであるから、Aが、代表取締役の退任後、大阪営業所ないし新会社設立のために、原告における経営の中心としての役割を果たすことが困難になっていたと認めることはできない。

(3) また、Bは、その陳述書(<証拠略>)及び原告代表者尋問において、AがGの突然の死亡によって精神的ショックを受けるとともに、業務が増加したことによって体調を崩したとか、平成12年12月、レーザーによる近視手術を受け、その後の経過が思わしくなく、同月から平成13年3月まで自宅療養と通院を必要としたなどと陳述又は供述しており、<証拠略>〔本件事情説明書〕にも同様の記載がある。

しかし、他方で、上記陳述書(<証拠略>)によれば、Aは毎日ゴルフの練習をしていたというのであり、また、大阪営業所の開設に尽力していたこと等も考え合わせると、上記のような原告代表者の供述や陳述等だけでは、Aの体調が、およそ原告の代表取締役として業務を続けることが困難であるほどに不良であったと認めることはできず、他にそのような事実を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。

そうすると、Aが原告の代表取締役を辞任した平成12年1月25日当時、Aの体調が、原告の経営の中心として業務を続けることが困難であるほどに不良であり、そのため原告の業務に関与することができない状況にあったということはできない。

(六)(1) さらに、原告の役員の業務分担については、Aの陳述書(<証拠略>)、Bの陳述書(<証拠略>)及び原告代表者の供述がすべて真実であるとすれば、Aが原告の代表取締役を辞任した後は、原告の実質的所有者ともいうべきAも、その妻であるBも、原告の財務の状況についてはすべて従業員任せにし、これを全く把握、確認していなかったことになる。

しかし、Gが生きていた当時は、Gが原告の財務を担当してきたことは、前記認定のとおりであるから、大阪営業所を除いた従業員数が10人という規模の会社である原告において、Gの死亡後に、原告の実質的所有者ともいうべきAが、原告の財務の状況についてすべて従業員任せにし、これを全く把握、確認していなかったとは到底考えられない。また、Aが原告の代表取締役を辞任した後に、Aも、その妻であるBも、原告の財務の状況についてはすべて従業員任せにし、これを全く把握、確認していなかったとも到底考えられないところである。

(2) そうすると、Aは、Gが死亡した後に、Gに代わって原告の財務の状況を適宜把握していたものと推認することができる。また、Aの代表取締役辞任後も、新しい代表取締役は原告の財務には全く関与していなかったのであるから、Aが、原告の財務の状況を適宜把握していたものと推認するのが相当である。

(七)(1) さらに、既に認定判断したところからすれば、Aが原告の代表取締役を辞任した後に新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等の営業を一切担当せず、前記決裁システムにおけるりん議書についての判断も行っていなかったとすれば、原告の業務の停滞を来し、原告の売上高が相当に減少するという事態が発生するものと考えられる。

(2) ところが、前記認定事実によると、実際には、Aが原告の代表取締役に就任していた当時の原告の売上高は、本件事業年度には8億4556万0358円であるのに対し、Aが原告の代表取締役を辞任した直後である平成12年度には9億5157万5799円、平成13年度には10億1593万3623円であるというのである。したがって、原告の売上高は、Aが原告の代表取締役を務めていた本件事業年度と、Aが原告の代表取締役を退任した後の2事業年度とを対比すると、後者の方が前者よりも増えていることになる。

そうすると、原告の上記売上高の推移は、Aが、原告の代表取締役を辞任した後も、従前と同様に、新規顧客の開拓や商品のディスプレイの企画立案等を担当し、営業にいそしんでいたことを推認させるものということができる。

(八) 以上を総合すると、Aは、原告の代表取締役の辞任後も従前と同様に、あるいはそれに近い程度に原告の業務に従事していたものと認めるのが相当である。証拠(<証拠略>)中には、Aが原告の代表取締役の辞任後には原告の業務にほとんど従事していなかったとする部分があるが、いずれも的確な裏付けを欠いており、既に検討してきたところに照らし、採用することはできない。

3 以上の検討結果に照らすと、Aや原告代表者が、税務調査の際に、原告におけるAら役員の業務について、前記1<1>から<4>までのとおり説明したことは十分あり得るものと考えられる。このことに証拠(<証拠略>)を加えて考えれば、前記1<1>から<4>までのような説明がされ、かつ、説明に係る事実が存在したと認めることができる。

以上によれば、原告の前記1の主張は、採用することができない。

三1 文言の通常の意味及び前記関係法令の定めに照らすと、法人税法上、「退職給与」は、退職により支払われる臨時的な給与をいうと考えられるから、退職に基因する給与という実質を持つものに限られると解すべきである。

したがって、法人税法上、役員に対する退職給与は、現実にその法人から退職した場合、又は例えば常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になるとか、取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になるなどその地位又は職務の内容が激変した事実があり、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる場合の給与に限って、真正な「退職給与」であると認め、法人税法22条により損金の額に算入するのが相当である。

これと異なり、役員の分掌変更又は改選による再任等の場合に、上記のような実質的な退職の事実がないのに、役員に対して退職給与名目の金員を支給したときは、これは損金となる上記の「退職給与」ではなく、臨時的な給与にすぎないということになる。したがって、このような場合は、上記金員は、法人税法35条4項にいう役員に対する「賞与」に該当するから、同条1項により、法人の所得の計算上損金の額に算入することができないというべきである。

2(一) これを本件について見るに、前記認定事実及び前記事実認定についての補足説明を総合すると、(1)Aは、昭和57年3月30日に原告の代表取締役に就任してからは、原告の営業を担当し、特に新規顧客の開拓、商品のディスプレイの企画立案等は専らAのみがこれを担当してきており、18年余りにわたり原告の代表取締役の地位にあった間、業界の取引に精通し、原告の経営の中心にあって、活躍してきたこと、(2)平成12年1月31日現在原告の発行済みの全株式を保有していたのはAであり、同人は、原告の実質的所有者であったこと、(3)Aが原告の代表取締役を辞任したのを受けてAに代わって原告の代表取締役に就任したBは、原告の業務である自動車用品等の販売に精通しておらず、自動車用品等の販売業界や会社経営についての十分な知識はなかったこと、(4)Bは、代表取締役就任後も、不定期に出勤し、社長室ではなく、業務の机で仕事をし、担当業務は請求書や売上げ日報の確認、送り状や伝票の整理等であって、営業は行っておらず、銀行取引関係の業務や経理、財務にも関与しておらず、Aが原告の代表取締役を辞任する前に行っていた業務をほとんど何も行っていないこと、(5)Bは、平成13年11月28日及び平成14年2月18日に、E調査官による調査に立ち会ったが、原告の経営内容等についてほとんど説明することができず、平成13年8月9日、同月10日及び同年9月4日にそれぞれ行われたE調査官による調査には立ち会うことすらせず、Aがこれら調査の際の説明、回答に当たっていたこと、(6)E調査官による平成13年11月28日の調査の際、Aは、新規顧客の開拓や商品ディスプレイの企画立案はAにしかできず、Aが代表取締役を辞任する前後の原告の役員の担当業務は、営業面について特段の変化はなく、従前どおり、Aが原告の対外的交渉の一切を担当している旨説明し、Bも、Bが病気等で入院しても、原告の経営に影響はないが、Aが入院することになれば、原告の経営に大きな支障がある旨説明していたこと、(7)Aは、原告の代表取締役辞任後も、ほぼ週5日、原告の本店に出勤し、商品仕入れのりん議書の決裁の判断を行うほか、従前のように、新規顧客の開拓等の営業を担当していたこと、(8)原告の大阪営業所が平成12年8月1日に開業したが、この大阪営業所の開設に尽力したのはAであり、その後、大阪営業所は、Aに報告・相談して業務を行っていたこと、(9)原告の売上高は、Aが原告の代表取締役に就任していた最後の年である本件事業年度よりも、Aが原告の代表取締役を辞任した直後である平成12年度及びその翌年の平成13年度の方が多く、Aの代表取締役辞任により、原告の営業が停滞したわけではないことが認められる。

(二) 以上によれば、原告の代表取締役辞任により、BがAに代わって原告の経営を任せられている者であるとはいうことはできない。むしろ、Aは、原告の代表取締役を辞任した後も、常勤の取締役であって、原告の経営権を握ったまま、実際上は、従前と同様又はそれに近い程度に、従前原告の代表取締役として行っていた業務を行っており、原告の経営の中心となっていたと認めるのが相当である。

(三) もっとも、証拠(<証拠略>)によれば、原告の代表取締役を辞任した当時、Aは体調が不良であり、辞任後は近視の手術を受けたり、数か月間通院したことがうかがわれないではない。また、Aが原告の大阪営業所の開設に尽力したことは、前示のとおりである。そうすると、仮に上記の体調不良等が真実であるとすれば、Aは、原告の代表取締役を辞任した後には、その辞任前と全く同じに原告の代表取締役としての業務を行っていたわではない可能性がある。

しかし、そうであるとしても、既に認定判断したAの代表取締役辞任後の業務内容、原告における立場等に照らすと、この程度の事実をもって、Aの原告の代表取締役としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情にあるとまで認めることはできない。

(四)(1) また、Aが原告から支給される取締役としての報酬額は、Aが原告の代表取締役を辞任した前後で、月額平均230万円(本件事業年度の原告の報酬年額2760万円の12分の1)から月額100万円(平成12年度の原告の報酬年額1200万円の12分の1)に半減している。

(2) しかし、前記認定事実によると、(1)原告の他の非常勤の役員の報酬は、月額7万円あるいは月額10数万円にすぎないこと、(2)Aが平成12年2月18日に婚姻したBが原告から支給される役員報酬の額は、月額110万円(平成12年度のBの報酬年額1320万円の12分の1)であり、AとBの報酬月額を合計すると、月額210万円になること、(3)Bは、原告の代表取締役にふさわしい仕事はしていないのに、従前月額5万円程度であった報酬の20倍もの報酬を支払われていること、(4)Bに対する報酬は、その後、減額され、平成14年度及び平成15年度には、Aに対する報酬の半額ないしそれ以下になっていることが認められる。

さらに、V税理士は、平成13年8月9日及び同月10日の調査の際に、Aが原告の代表取締役を辞任した際に役員退職慰労金を支払うことにした理由の一つとして、Gの死亡により原告には生命保険金の収入があったことや、V税理士の顧問先で代表取締役から取締役になった者に退職給与を支払って、損金として認められた事例があり、それにならったことを挙げて説明していることは、前記認定のとおりである。

(3) 以上によると、Aとしては、代表取締役の辞任により、原告の経営の中心から外れて、非常勤の役員となるというつもりは毛頭なく、単に従前の報酬をAと妻のBとに分割して受領するつもりであり、かつ、原告に多額の益金は発生しそうであったため、退職給与の形で、Aへの給付を行ったものであると認めるのが相当である。そうすると、Aに対する役員報酬の額が、Aが原告の代表取締役を辞任した前後で半減していることは、前記(二)の認定判断を左右するものではないというべきである。

3 以上によれば、Aが平成12年1月25日に原告の代表取締役を辞任したことにより、Aの地位又は職務の内容が激変し、Aが原告を実質的に退職したのと同様の事情にあると認めることはできない。そうすると、前記1に判示したところに照らすと、Aの役員退職慰労金は、退職の事実がないのに支給された臨時的な給与であるから、法人税法35条4項にいう賞与として取り扱われるべきである。したがって、Aの役員退職慰労金を損金に算入することを認めることはできない。

四 本件更正及び本件賦課決定の適法性について

以上によれば、原告の本件事業年度に係る法人税の所得金額は1億7130万8770円、納付すべき税額は5832万8200円、過少申告加算税の額は731万1500円であって、本件更正において、所得金額及び納付すべき税額とされた金額並びに本件賦課決定において過少申告加算税の額とされた金額と同額であると認めることができる。そして、他に本件更正及び本件賦課決定に違法があることをうかがわせる事情は見当たらない。

したがって、本件更正及び本件賦課決定は、いずれも適法であるというべきである。

五 結論

よって、本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野博之 鈴木正紀 馬場俊宏)

本件事業年度に係る課税の経緯<略>

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