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東京高等裁判所 平成18年(う)474号 判決 2006年5月30日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中、被告人Aに対しては七〇日を、同Bに対しては六五日を、同Cに対しては七五日をそれぞれその原判決の刑に算入する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人平賀睦夫(被告人A関係)及び弁護人宮嶋英世(被告人B関係)作成の各控訴趣意書並びに弁護人瓜生貞雄(被告人C関係)作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

各論旨は、いずれも量刑不当の主張であり、被告人Aを懲役一〇年に、同B及び同Cを懲役八年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで検討すると、本件は、①被告人三名が、通行人から金品を強取ないしひったくり窃取しようと企て、ほか一名ないし数名と共謀の上、平成一六年六月一一日深夜から翌一二日未明にかけてと同年七月二二日深夜、通行人四名に暴行を加えてその反抗を抑圧し、現金合計約五万八〇〇〇円及びピアス一組ほか二二点(時価合計約六万八〇二五円相当)を強取し(原判示第一の一、第一の二、第一の四(1)及び第一の四(2))、通行人一名に暴行を加え(同第一の三(1))、引き続き、同人から現金一万二〇〇〇円及び財布一個ほか一五点(時価合計約四万三五〇〇円相当)をひったくり窃取し(同第一の三(2))、②被告人A及び同Cは、通行人から金品を強取しようと企て、ほか一名と共謀の上、同年七月二二日深夜、通行人一名に暴行を加えてその反抗を抑圧し、ハンドバッグを引っ張って強取しようとしたが、別の通行人に発見されて逃走したためその目的を遂げず、その際、被害者に全治約二週間を要する両膝・両足挫創の傷害を負わせ(同第二)、③被告人Bは、ほか一名と共謀の上、同年五月一八日未明に、資材置場から普通貨物自動車一台(時価約一〇〇万円相当)を窃取し(同第三の一)、ほか三名と共謀の上、犬を盗む目的で、同月二七日深夜、ペットショップに侵入して犬四匹(販売価格合計五〇万四〇〇〇円)を窃取し(同第三の二)、ほか二名と共謀の上、同年七月二二日深夜、通行人から現金約三〇〇〇円及び財布一個ほか六点(時価合計約一万二〇〇〇円相当)をひったくり窃取し(同第三の三(1))、引き続き、同人をバッグで一回殴打する暴行を加え(同第三の三(2))、④被告人Cは、平成一七年四月二一日、自宅で覚せい剤約一・八六六グラムを所持した(同第四)、という事案であるが、本件の量刑判断に当たって考慮すべき事情として、原判決が「量刑の事情」の項において説示するところは、おおむね正当として是認できる(なお、原判決同項一四頁四行目「強取した」を「奪取した」に、同項一五頁一四行目に「うち一匹」を「少なくとも一匹」に改めるのが相当である。)。

すなわち、本件各犯行の動機、罪質、態様、結果、被告人らの果たした役割、犯行後の情状、犯罪歴等、とりわけ、①及び②の各犯行(被告人Bについては②の犯行を除く。)は、計画的かつ組織的で、その態様は人数的にも体力的にも劣る被害者らにいきなり一方的な暴行を加え、バック等を奪い取ろうとしたもので、凶暴で危険かつ執拗であること、被害者らの被った精神的、肉体的苦痛は大きく、いずれも厳しい処罰感情を示していることなどからすると、被告人三名の刑事責任は重い。

そして、被告人Aは、①及び②の各犯行を共犯者らに持ちかけ、終始主導的役割を果たした首謀者であり、同被告人に現金を要求してきていた暴力団関係者への支払分(これも同被告人の分け前と評価し得る。)を含め、最も多くの分け前を取得していること、本件当時も暴力団と密接な関係にあり、それがこれら各犯行の背景となっていることからすると、その刑事責任は他の共犯者らよりも重い。なお、所論(被告人A関係)は、被告人Aには原判示第一の二の被害者の頭部を手拳で一回殴打したとの認識はないとし、同被告人による上記暴行の存在に疑問を呈するが、同被告人が上記暴行を加えたことは関係証拠(甲七二、乙三二、三三、三八、三九等参照)から明らかである。

被告人Bは、①の各犯行で被告人Aに次いで重要な役割を果たしていること、同種の前歴を有し、この種事犯の常習性が顕著であること、③の各犯行も、計画的なもので、同被告人は、年少の共犯者を巻き込んで主導的に各犯行に及んでおり、財産的被害も相当高額に及んでいることなどからすると、その刑事責任は、②の犯行に関与していないことを考慮しても、被告人Aよりも若干軽いといえるにとどまる。

被告人Cは、①及び②の各犯行では積極的な暴行を加えておらず、主に自動車の運転手兼見張り役を担当しており、その役割は他の被告人らに比べ従属的ではあるが、不可欠で重要なものといえること、同被告人には、④の覚せい剤事犯があり、その覚せい剤は自己使用目的としては多量であり、所持形態等からして社会に拡散させる可能性もあったといわざるを得ないことなどを併せ考えると、その刑事責任は、被告人Bのそれとほぼ同等といえる。なお、所論(被告人C関係)は、被告人Cは、①及び②の各犯行に加担したことで、現金や物品等を分け前として受け取ったことはないというが、関係証拠によれば、同被告人も、その額等には差異はあるものの、現金を分け前として取得しているほか、奪取したカードで給油を受けたり、飲食をしていることは明らかである。

そうすると、②の被害者の傷害の結果は比較的軽いものにとどまったこと、被告人A及び同Bは事実関係の全てを素直に認め、同Cは、④については明確な供述をしていないものの、その余の事実関係を素直に認め、いずれも反省の態度を示していること、原判示第三の一の普通貨物自動車、同第三の二の犬四匹のうち一匹は各被害者に還付されていること、原判示第一の三(1)及び(2)の暴行・窃盗の被害者との間では、被告人三名が各五万円を支払って示談が成立していること、強盗事件については、同第一の二の被害者には、被告人Aが四万円を、被告人B及び同Cが各五万円を支払っていること、同第一の四(1)及び(2)の各被害者には、被告人B及び同Cがそれぞれ各五万円(被告人Cは他の共犯者と共により多くの金員を支払っているが、その負担分が各五万円である。)を支払っていること、同第二の強盗致傷の被害者には、被告人Cが五万円を支払っていること、被告人三名はいずれも若年であり、被告人A及び同Cには前科がないこと、被告人三名の家族等が更生に協力する旨述べていること、被告人Bは、以前交通事故で骨折した左大腿部に入れた固定ボルトが最近不具合を生じていると訴えていること、原判決後、被告人Cが財団法人法律扶助協会に五万円の贖罪寄附をしたことなど、被告人三名のために酌むべき事情を考慮しても、原判決の量刑はやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるとはいえない。

各論旨はいずれも理由がない。

なお、職権で検討すると、平成一八年法律第三六号により、原判決後、窃盗罪について、従前からの一〇年以下の懲役刑に、選択刑として五〇万円以下の罰金刑を付加する改正がなされており、原判示各罪のうち窃盗罪については、刑訴法三八三条二号にいう「刑の変更」があった場合に当たるものと解される。しかしながら、同条一号の再審事由並びに同条二号の刑の廃止及び大赦の場合については、原則として、原判決の主文を変更すべきことになるから、「判決に影響を及ぼすことが明らかである」か否かを論ずる余地はないが、「刑の変更」の場合は、その内容・趣旨、当該罪(刑の変更のあった罪)の犯情、他の罪(刑の変更のない罪)の有無・内容等の如何により、原判決の量刑について再検討することが相当と認められるときもあれば、およそ再検討の余地がないと認められるときもあり得るのであり、原判決が認定した罪の一部について「刑の変更」があった以上は、どのような場合であっても原判決を破棄するほかはないと解するのは極めて不合理である。結局、同条二号の「刑の変更」の場合については、同条所定の他の事由とは上記のような性質の相違があること、同条がいわゆる絶対的控訴理由を定めた同法三七七条及び三七八条の直後ではなく、いわゆる相対的控訴理由を定めた同法三七九条ないし三八二条の二(なお、同法三八一条の量刑不当も、実質的には他の控訴理由と同質と解される。)に引き続いて規定されていることからすると、明文はないものの、「判決に影響を及ぼすことが明らかである」ときに限って原判決破棄の理由になると解するのが相当である。そこで、被告人三名の本件各罪について検討すると、その内容は前述したとおりであり、各被告人に「刑の変更」のない強盗罪等が複数あること、各窃盗の内容もひったくりや侵入盗等であること、今回の窃盗罪についての「刑の変更」の趣旨は、被害額の少ない万引き事犯のような比較的軽い類型のものにつき、罰金刑での処罰を可能にすることにあることなどに照らすと、被告人三名のいずれについても、今回の「刑の変更」を踏まえて原判決の量刑を再検討すべき余地はおよそ存しないと認められる。したがって、被告人らにつき、同法三八三条二号の「刑の変更」の事由はあったとはいえるが、それは、判決に影響を及ぼすことが明らかとは認められないので、原判決を破棄すべき事由とはならない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却し、被告人三名に対する当審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法二一条を、被告人B及び同Cについての当審における訴訟費用の処理につき刑訴法一八一条一項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安廣文夫 裁判官 山田敏彦 前澤久美子)

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