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東京高等裁判所 平成18年(ネ)1518号 判決 2008年7月31日

控訴人兼被控訴人(第1審原告)

同補助参加人

上記両名訴訟代理人弁護士

浅見昭一

浅見雄輔

被控訴人兼控訴人(第1審被告)

医療法人愛全会

同代表者理事長

Y1

被控訴人(第1審被告)

Y1

被控訴人(第1審被告)

Y2

上記3名訴訟代理人弁護士

神谷保夫

被控訴人(第1審被告)

群馬県

同代表者知事

大澤正明

同訴訟代理人弁護士

丸山和貴

同指定代理人

松本博崇

半田良幸

大熊諭

主文

1  被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の控訴に基づき、原判決中控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会は、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対し、20万円及びこれに対する平成16年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対するその余の出資金返還請求を棄却する。

2  控訴人兼被控訴人(第1審原告)の控訴をいずれも棄却する。

3  第1項に関する訴訟費用は、第1、2審を通じ、控訴人兼被控訴人(第1審原告)と被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会との間においては、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に生じた費用の1万分の4と被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に生じた費用の1万分の4とを被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の負担とし、その余は控訴人兼被控訴人(第1審原告)の負担とし、補助参加によって生じた費用の総費用は、第1、2審を通じ、控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人と被控訴人(第1審被告)Y1、同Y2及び同群馬県との間においては全部控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人の負担とし、控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人と被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会との間においては、控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人に生じた費用の1万分の4と被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に生じた費用の1万分の4とを被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の負担とし、その余は控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人の負担とし、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の控訴費用は控訴人兼被控訴人(第1審原告)の負担とする。

4  この判決は、第1項の(1)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人兼被控訴人(第1審原告)

(控訴の趣旨)

(1) 原判決中控訴人兼被控訴人(第1審原告)敗訴部分を取り消す。

(2) 被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会、被控訴人(第1審被告)Y1、同Y2及び同群馬県は、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対し、連帯して1億1881万1000円及びこれに対する平成16年2月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3) 被控訴人(第1審被告)Y1、同Y2及び同群馬県は、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対し、連帯して8888万円及びこれに対する平成16年2月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会及び被控訴人(第1審被告)らの負担とする。

(5) 仮執行の宣言

(控訴の趣旨に対する答弁)

(6) 被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の控訴を棄却する。

(7) 控訴費用は被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の負担とする。

2  被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会

(控訴の趣旨)

(1) 原判決中被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会敗訴部分を取り消す。

(2) 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

(3) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の負担とする。

(控訴の趣旨に対する答弁)

(4) 控訴人兼被控訴人(第1審原告)の控訴を棄却する。

(5) 控訴費用は控訴人兼被控訴人(第1審原告)の負担とする。

3  被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。

4  被控訴人(第1審被告)群馬県

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人(第1審原告)の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、(1)(被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求及び有益費償還請求) 控訴人兼被控訴人(第1審原告)が、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対し、ア(出資金返還請求) その出資社員であったA及びBが順次死亡して退社したことにより発生した出資金返還請求権を相続等により取得したと主張して、出資金返還請求権に基づき、返還を受けるべき金員の内金4億7110万1049円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、イ(有益費償還請求) a Bが被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会を相手方として提起し、又は参加したその運営に関する一連の訴訟のために支払った弁護士費用6381万1000円が被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会にとって有益費に当たるとし、控訴人兼被控訴人(第1審原告)が上記有益費の償還請求権を相続により取得したと主張して、有益費償還請求権に基づき、6381万1000円及びこれに対する本件訴状送達の日以後の日である平成16年2月3日から支払済みまで上記の割合による遅延損害金の支払を求めると共に、b Bが被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の債務5500万円をその債権者に対して弁済したとし、控訴人兼被控訴人(第1審原告)が上記有益費の償還請求権を相続により取得したと主張して、有益費償還請求権に基づき、5500万円及びこれに対する同日から支払済みまで上記の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)(被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対する不法行為による損害賠償請求)控訴人兼被控訴人(第1審原告)が、被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対し、被控訴人(第1審被告)Y1は、被控訴人(第1審被告)Y2及び原審における訴え取下前の原審被告Fと共謀の上、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の運営に関してBや控訴人兼被控訴人(第1審原告)を排斥し、その理事長に選任又は重任された旨の登記を得るに至ったものであり、これらの一連の被控訴人(第1審被告)Y1の行為がBや控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対する不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、ア 被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会と連帯して上記(1)のイの有益費合計1億1881万1000円相当の損害金及びこれに対する同日から支払済みまで上記の割合による遅延損害金の支払を求め、イ 出資証券取戻費用、慰謝料及び本件訴訟の弁護士費用相当額の損害金8888万円及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求め、(3)(被控訴人(第1審被告)群馬県に対する請求)控訴人兼被控訴人(第1審原告)が、被控訴人(第1審被告)群馬県に対し、群馬県知事ないし被控訴人(第1審被告)群馬県の衛生環境部医務課職員は故意又は過失によりその職務上の義務を怠り、被控訴人(第1審被告)Y1の不法行為を阻止できなかったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、上記(2)のア及びイと同様の損害金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する上記(1)のアの請求を認容し、上記(1)のイの請求を棄却し、並びに被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対する上記(2)の請求並びに被控訴人(第1審被告)群馬県に対する上記(3)の請求をいずれも棄却した。控訴人兼被控訴人(第1審原告)は、原判決中上記敗訴部分を不服として控訴を提起し、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会も原判決中自己の敗訴部分を不服として控訴を提起した。控訴人兼被控訴人(第1審原告)は、当審において被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する上記(1)のイの請求の附帯請求の起算日並びに上記(2)のア及びイの請求の附帯請求の起算日を平成16年2月3日(被控訴人(第1審被告)群馬県に対する本件訴状送達の日の翌日)に一致させ、その限度まで請求を減縮した。

2  前提事実並びに争点及び争点についての当事者の主張は、次の3のとおり当審における控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の主張を追加するほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第2 事案の概要」の2から4まで(原判決5頁5行目から23頁24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決8頁6行目の「仮理事の申請」を「仮理事選任の申請」に、9頁14行目の「甲18の3」を「甲18の3、6」に、10頁12行目及び13頁15行目の各「出資金返還請求権の額」をいずれも「出資金返還請求権の価額」に、16頁2行目及び8行目の各「商法268条の2」をいずれも「会社法852条」に改める。)。

3  当審における控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の主張

(1)  被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会は、A及びBが出資して設立された持分のある医療法人社団である。出資した社員が死亡して脱退し、その相続人を被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の社員として承認しなかった場合には、死亡した社員の相続人に対して持分に応じて総資産の払戻しをすることにより出資金返還請求権を保障しなければ、財産権を侵害し、これを剥奪することになり、憲法に違反するというきわめて重大な結果をもたらすことになる。

(2)  被控訴人(第1審被告)Y1は、仮理事としての職責に反し、平成8年2月19日の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の臨時社員総会の不明確な議事録の記載を奇貨とし、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の唯一の出資社員であるBの意思を無視し、Bに反対する勢力と結託してBとその同調者を排除し、Bが死亡した後はそのことを奇貨として自らの不法な地位を確立するなど、その一連の不法行為によりBの権利を侵害したものであるから、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対する不法行為による損害賠償責任を免れない。

(3)  被控訴人(第1審被告)群馬県は、Bの申立てに基づいて被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の仮理事を選任しており、Bの意思に基づいて新理事を選任して被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の正常な運営体制を構築させることがその責務であったにもかかわらず、曖昧な指導にとどまったのであって、そのような曖昧な態度が被控訴人(第1審被告)Y1がB派を一掃する行動を助長するなどの原因となったのであるから、被控訴人(第1審被告)群馬県は、控訴人兼被控訴人(第1審原告)に対する不法行為による損害賠償責任を免れない。

第3当裁判所の判断

1  控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求について

(1)  医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの。以下同じ。)41条は、「医療法人は、その業務を行うに必要な資産を有しなければならない。」と規定し、同法54条は、「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」と規定する一方、同法56条1項は、「解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。」と規定し、同条2項は、「社団たる医療法人の財産で、前項の規定により処分されないものは、清算人が総社員の同意を経、且つ、都道府県知事の認可を受けて、これを処分する。」と規定し、同条4項は、同条2項を含む「前2項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。」と規定する。上記各規定によれば、医療法は、医療法人が存続してその開設する病院等を経営する限り、医療を提供する体制の確保を図る(医療法1条)ために、医療法人の自己資本を充実させ、剰余金の利益処分を禁止しているのであり(同法54条)、それゆえに、組合員が脱退した場合にその持分の払戻しを受けることができる旨を定める民法681条及び持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社)の社員が退社した場合にその持分の払戻しを受けることができる旨を定める会社法611条のいずれも準用しないこととする一方(医療法68条1項参照)、医療法人が解散した場合については会社法664条を準用した上で(医療法68条1項)、医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する(医療法56条1項)などと規定しているのである。このように、医療法は、医療法人が存続してその開設する病院等を経営する場合と医療法人が解散した場合とを峻別し、医療法人が存続してその開設する病院等を経営する限り、医療法人の自己資本を充実させることとして、剰余金の利益処分を禁止しているのであるから、医療法人が存続してその開設する病院等を経営する限り、剰余金及びその積立金の利益処分の実質を有する行為も禁止していると解するのが相当であり、したがって、医療法人に対して出資をした社員が退社した場合に剰余金及びその積立金の全部又はその一部を払い戻す行為も禁止していると解するのが相当である。医療法人を設立しようとする者は、同法44条2項に従い、定款又は寄附行為をもって、資産及び会計に関する規定(5号)、社団たる医療法人にあっては、社員たる資格の得喪に関する規定(7号)等の同項各号所掲の事項を定めるに当たり、同法の上記の趣旨を踏まえて上記の各事項を定めなければならないというべきであるから、医療法人の定款の定めを解釈するに当たっては、医療法の上記の趣旨を踏まえてこれを行うことを要するものというべきである。

証拠(甲10、乙24の1から24の9まで、26)によれば、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の原始定款(乙24の4)は、当該医療法人の資産を基本財産とそれ以外の財産(通常財産)とに明確に区分し、これらについて内訳書を作成するなどして明確に区分して管理することとし、基本財産は原則として処分してはならない(9条)こととし、「決算の結果剰余金を生じた時は総会の決議を経てその全部又は一部を基本財産に繰り入れ若しくは新医療器、医学研究の為の書籍等買入に当てる」ことを明記した(15条)上で、「退社せる社員はその出資額に応じ払戻しを請求する事が出来る」と規定する(8条)一方、当該医療法人が解散した場合については、「本社団が解散した時の残余財産は総会の決議を経、且つ、群馬県知事の認可を得て払込出資額に応じて分配するものとする」(33条)と規定していたこと、変更後の現行の定款も、上記8条の文言を「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」とするなど、若干の文言の修正をしたほか、同旨を定めていること、上記各規定によれば、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の定款は、当該医療法人が存続して病院を経営している間は、基本財産を維持し、医療法54条が、剰余金の配当を禁止している趣旨を踏まえ、剰余金が生じたときは、これをそのまま保有しておいて出資した社員が退社した場合に払い戻すこととすることを想定せず、これを基本財産に繰り入れ、又は医療機器の整備、更新等に専ら充てることとし、その結果として、出資をした社員に対して剰余金の配当をしないことは当然のこととして、出資をした社員が退社した場合は「払戻し」という文言(現行の定款においては「返還」)を使用して出資を払い戻すことを認めるにとどめ、その社員に対して出資額に応じて払い戻すべき資産の対象から剰余金及びその積立金を除外することとする一方、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会が解散した場合には、もはや病院等を経営することがなくなる以上、剰余金及びその積立金を含め、上記の要件の下に、残余財産を出資をした社員に対して出資額に応じて分配することとするものであること、以上のとおり認めることができる。上記認定事実によれば、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対して出資をした社員が退社した場合には、退社した当該社員は、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対し、自己が出資した額の限度でその返還を請求することができるのであり、基本財産並びに剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の払戻しを請求することはできないものと解するのが相当である。被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の原始定款8条は、「退社した社員はその出資額に応じ払戻しを請求する事が出来る」と定めていたところ、変更後の現行の定款8条も、「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」と定めており、定款の文言上は基本財産並びに剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の返還ないし払戻しを定めているかのように見える部分があるが、定款の全体の定め及びその趣旨にかんがみれば、そのようなことを定めたものと解することはできないのであって、「出資額に応じ」とは、社員の出資額が格別に異なることを想定した上、退社する社員が返還ないし払戻しを請求することができる出資は当該社員が出資した額とする旨を明らかにしたものにすぎないというべきである。

(2)  そこで、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求の当否について判断するに、前記引用に係る原判決摘示の前提事実によれば、Bが被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会(設立当時の名称は医療法人緑生会)の設立当時20万円を出資したこと、Bは平成13年6月14日死亡したこと、平成15年12月25日、Bの共同相続人である控訴人兼被控訴人(第1審原告)、J及びKの間で、Bの遺産全部を控訴人兼被控訴人(第1審原告)が取得する旨の遺産分割協議が成立したこと、以上の事実が認められ、これによれば、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求は、20万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(3)  控訴人兼被控訴人(第1審原告)は、Aの出資金返還請求権を相続したとして、このことも請求原因に加えて被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求をするが、Aの出資金返還請求権は、同人が死亡した昭和57年10月3日から10年が経過しており、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会が当該時効を援用することにより消滅したものというべきであるから、上記の請求原因を理由とする控訴人兼被控訴人(第1審原告)の出資金返還請求は理由がない。この点に関する判断の詳細は、原判決24頁10行目から24行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。

2  控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する有益費償還請求について

当裁判所も、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する有益費償還請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきであると判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」欄中の「第3 当裁判所の判断」の2(原判決33頁8行目から35頁19行目まで)に説示するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決33頁13行目から14行目にかけて、34頁3行目及び17行目の各「商法268条の2」をいずれも「会社法852条」に、34頁3行目、6行目及び12行目の各「代表訴訟」をいずれも「責任追及等の訴え」に、8行目の「267条1項、3項」を「847条1項、3項」に改める。)。

3  控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対する不法行為による損害賠償請求並びに被控訴人(第1審被告)群馬県に対する国家賠償法1条1項に基づく請求について

当裁判所も、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対する不法行為による損害賠償請求並びに被控訴人(第1審被告)群馬県に対する国家賠償法1条1項に基づく請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきであると判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」欄中の「第3 当裁判所の判断」の3(原判決35頁20行目から45頁9行目まで)に説示するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決35頁24行目及び43頁1行目の各「仮理事の申請」をいずれも「仮理事選任の申請」に、37頁7行目の「甲33」を「甲27の2、甲33」に、38頁3行目及び41頁10行目の各「平成10年3月26日」をいずれも「平成10年3月20日」に改める。)。

4  当審における控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の主張に対する判断

控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人は、前記第2の3のとおり主張する。

しかしながら、前記第2の3の(1)については、前記のとおり、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の定款によれば、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対して出資をした社員が退社した場合には、退社した当該社員は、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対し、自己が出資した額の返還ないし払戻しを請求することができるにとどまるのであり、剰余金及びその積立金を含む総資産について持分の払戻しを請求することはできないものと定められているのであるから、控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の上記主張は採用の限りでない。

また、前記第2の3の(2)については、被控訴人(第1審被告)Y1が不法な意図を持ってBとその同調者を排除したなどの控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はなく、控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の上記主張を採用することはできない。

さらに、前記第2の3の(3)についても、上記のとおりその前提を欠くものであり、控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の当該主張を認めるに足りる的確な証拠はなく、控訴人兼被控訴人(第1審原告)及び同補助参加人の上記主張を採用することはできない。

第4結論

以上の認定及び判断の結果によると、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求は、そのうち20万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成16年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから、その限度でこれを認容すべきであるが、その余は理由がなく、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する有益費償還請求も理由がないからこれらを棄却すべきであり、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人(第1審被告)Y1及び同Y2に対する不法行為による損害賠償請求並びに被控訴人(第1審被告)群馬県に対する国家賠償請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却すべきである。よって、被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会の控訴に基づき、原判決中、当裁判所の上記判断と符合しない控訴人兼被控訴人(第1審原告)の被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会に対する出資金返還請求に関する部分を上記の趣旨に変更し、控訴人兼被控訴人(第1審原告)の控訴をいずれも棄却することとし、なお、控訴人兼被控訴人(第1審原告)補助参加人と被控訴人(第1審被告)ら(被控訴人兼控訴人(第1審被告)医療法人愛全会を除く。)との間の補助参加によって生じた費用については、原審がその負担の裁判を脱漏したから、民事訴訟法258条4項により、控訴裁判所である当審が、補助参加によって生じた費用の総費用について第1、2審を通じてその負担の裁判をすることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 髙世三郎 西口元)

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