東京高等裁判所 平成18年(ネ)1980号 判決 2006年6月28日
控訴人
X株式会社
代表者代表取締役
甲野太郎
訴訟代理人弁護士
髙橋諒
被控訴人
破産者Y機工株式会社破産管財人
丙川一男
訴訟代理人弁護士
大月将幸
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,破産会社の管財人である被控訴人が,同社の4社に対する売掛代金債権の弁済金を受領した控訴人に対し,弁済金受領額合計483万5918円について不当利得として返還を求めたところ,控訴人において,抗弁として,破産会社に対する控訴人の債権を担保するため,上記各売掛代金債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)を受け,本件債権譲渡については,動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「債権譲渡特例法」という。)に基づく債権譲渡登記(以下「本件各債権譲渡登記」という。)を行っているから,控訴人は本件債権譲渡を被控訴人に対して対抗できると主張して争った事案である。
原判決は,本件各債権譲渡登記は,その債権個別事項として,譲渡された売掛代金債権と異なる原債権者及び債務者が記載されているので,本件債権譲渡についての対抗要件を具備したものということはできないとして,控訴人の抗弁を排斥し,被控訴人の請求を認容した。これに対して控訴人が控訴した。
2 前提となる事実,争点及び争点に関する双方の主張は,原判決の「事実及び理由」第2の1及び2に摘示のとおりであるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件各債権譲渡登記は,その債権個別事項として,本件債権譲渡により譲渡された売掛代金債権と異なる原債権者及び債務者が記載されていることにより,本件債権譲渡についての被控訴人に対する対抗要件の具備の効力を認めることができず,控訴人の抗弁は理由がないものと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」第3の1(ただし,原判決3頁23行目の「債権譲渡特例法」の後に「(平成16年法律第148号による改正前のもの。以下同じ。)」を,原判決4頁24行目の「債権譲渡登記規則」の後に「(平成17年法務省令第99号による改正前のもの。以下同じ。)」を加える。)及び2に説示のとおりであるから,これを引用する。
なお,控訴人は,控訴理由書において,本件債権譲渡登記においては,各債権個別事項書と一体をなす概要事項書に譲渡人がY機工株式会社(破産会社),譲受人が控訴人と記録され,Y機工株式会社の法人登記簿にも同様に記載されていること,さらに,譲渡債権が売掛金債権等でその総額が8110万円と多額であることも記録されていることから,Y機工株式会社がその売掛先に対する売掛金債権を控訴人に譲渡したことにかかる登記であること並びに債権個別事項書における原債権者及び債務者の各表示が過誤(フロッピィディスクに入力する際のコードの取り違え)による誤表示であることが,登記の記載自体から,明らかに認定されると主張する。そして,これを前提として,本件債権譲渡登記は,それ自体において,Y機工株式会社がその売掛金債権を控訴人に譲渡した事実を記録しているものであることは明白であるから,第三者に対する対抗力を失っていないと解すべきであると主張する。
しかし,譲渡に係る債権を特定するために必要な事項としての,譲渡に係る債権の「債務者」及び「債権の発生の時における債権者」(債権譲渡特例法5条1項6号,債権譲渡登記規則6条2号)は,譲渡に係る債権の特定に必須の事項であり,控訴人の指摘するように登記事項中の概要事項に,譲渡人としてY機工株式会社が記録されている事実から,譲渡に係る債権の「債権の発生の時における債権者」が当然にY機工株式会社であることが明白であるとは認められず,また,入力時の過誤により,原債権者と債務者のコードを取り違えたことが明らかであるとも認められない。よって,控訴人の上記主張は理由がない。
その余の控訴人の主張も,上記判断を左右するものではない。
2 よって,控訴人が本件債権譲渡にかかる各売掛代金債権について受領した弁済額相当額483万5918円は,被控訴人に対する関係では法律上の原因がなく,不当利得に当たるというべきであり,被控訴人の請求は理由がある。
したがって,被控訴人の請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・富越和厚,裁判官・桐ヶ谷敬三,裁判官・中山顕裕)