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東京高等裁判所 平成18年(ネ)4302号 判決 2007年1月30日

控訴人(被告)

Y株式会社

同代表者清算人

被控訴人(原告)

X株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨

2  被控訴人

控訴棄却申立て

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は、被控訴人が、控訴人に対し、(1) スミセイ・リース株式会社(以下「スミセイ」という。)が平成2年4月2日から同年11月20日にかけて控訴人に貸し付けた合計56億9000万円の貸金債権(これら貸金債権をまとめて「本件債権」という。その内訳は原判決別紙一覧表のとおりである。)について原判決別紙物件目録記載1ないし395の土地(以下、まとめて「本件土地」といい、原判決別紙物件目録を「別紙物件目録」という。)を含む492筆の土地の控訴人持分10分の8につき極度額50億円の根抵当権(以下「従前根抵当権」という)を有しており、スミセイが平成10年9月25日有限会社ケージーアイ・ビー(以下「ケージーアイ」という。)にその残債権(元本については52億1956万0912円)を譲渡し、ケージーアイが平成16年10月28日これを被控訴人に譲渡したところ、前記根抵当権の極度額は被控訴人の前記債権譲受けに伴い20億円に変更され、(2) また、本件土地を含む前記492筆の土地については被控訴人が10分の2の持分を有して控訴人と共有していたところ、これらを分割して本件土地を控訴人が、その余の土地を被控訴人が取得するとの内容の判決が平成17年2月25日に言い渡されてその後確定しており、また、前記のとおり、控訴人が分割で取得した本件土地の持分10分の8については極度額20億円の根抵当権が既に設定されているところ、控訴人は清算会社であって本件土地以外に財産はなく、かつ、本件土地の時価は2000万円以下に低下しているため、被控訴人は、本件債権に係る各消費貸借契約証書の7条2項(以下「本件約定」という。)の定め(増担保の条項)に従い、青森地方裁判所十和田支部に仮登記仮処分決定申立事件の申立て(同庁平成17年(モ)第25号(以下、同事件を「本件仮登記仮処分事件」という。))を行い、同年6月3日に本件土地について原判決別紙登記目録(以下「別紙登記目録」という。)記載の抵当権設定仮登記を命じる仮登記仮処分決定(この決定を「本件決定」という。)を得、これに基づき同様の内容の仮登記を得たとして、仮登記に基づく本登記手続をすることを求めた事案である。

原審は、被控訴人の請求を認容した。そこで、控訴人がこれを不服として控訴した。

2  争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実

(1)  控訴人は、本件土地を含む492筆の土地の控訴人持分10分の8について、平成元年11月9日、以下の根抵当権設定登記をした。

原因 平成元年10月25日設定

極度額 50億円

債権の範囲 金銭消費貸借取引、売買取引、賃貸借取引、手形債権、小切手債権

債務者 控訴人

根抵当権者 スミセイ

(2)  本件土地の控訴人持分10分の8についての(1)の根抵当権の極度額は、平成16年10月29日受付で20億円に変更するとの登記がなされた。

(3)  控訴人は、平成5年5月25日に東京地方裁判所から破産宣告を受け、その後平成11年6月30日に費用の不足による破産廃止決定が確定し、現在清算会社である。

3  原審における当事者の主張

(1)  被控訴人の請求原因

ア 本件債権を生じさせた金銭消費貸借契約の各金銭消費貸借契約証書には本件約定、即ち次の条項があった。

「借主または連帯保証人について第4条に掲げる事実が発生しまたは発生するおそれがある等信用が悪化した場合、また前項により提供した担保についても減失、もしくは価額の値下り等のため担保が不足した場合等、貴社が債権保全のため必要と認めるときは請求によってただちに貴社の承認する担保もしくは増担保を差入れ、または連帯保証人をたてもしくはこれを追加し、または債務の一部もしくは全部を弁済します。」

イ スミセイは、平成10年9月25日、ケージーアイに対し、本件債権を譲渡した。

ウ ケージーアイは、平成16年10月28日、被控訴人に対し、本件債権(当時の債権額は52億1956万0912円)を譲渡した。

エ 控訴人は清算会社であって本件土地以外に財産はなく、かつ、本件土地の時価は2000万円以下に低下しているため、被控訴人は控訴人に対し、本件約定に基づき、本訴状の送達をもって増担保請求を行った。

オ 被控訴人は、青森地方裁判所十和田支部に仮登記仮処分事件の申立てを行い、平成17年6月3日に、本件土地について別紙登記目録記載の抵当権設定の仮登記を命じる本件決定を得、これに基づき、同様の内容の仮登記を得た。

(2)  被控訴人の請求原因に対する控訴人の認否

ア 同アは争うことを明らかにしない。

イ 同イは不知。債権譲渡があったとしても、被控訴人主張の増担保請求権(以下「本件請求権」という。)はそれとともに移転しない。

ウ 同ウは不知。

エ 同エのうち、被控訴人は控訴人に対し、本訴状の送達をもって増担保請求を行ったとの部分は否認し、その余は不知。

オ 同オのうち、本件決定に基づき被控訴人が仮登記を得たことは認めるが、その余は否認する。

(3)  控訴人の抗弁

ア 消滅時効

(ア) 商事債権である本件債権については、控訴人の破産廃止の日(平成11年6月30日)から5年間が経過することによって消滅時効が完成した。

控訴人は、平成18年2月7日の原審の第2回口頭弁論期日において上記消滅時効を援用した。

(イ) 本件請求権についても(ア)と同様に消滅時効が完成した。

控訴人は、平成18年3月14日の原審の第3回口頭弁論期日において上記消滅時効を援用した。

イ 公序良俗違反

被控訴人の本件債権譲受けは他人の権利を譲り受けて訴訟等によってその実現を図ることを目的としていること、債権額に比較して極めて少額の代金による譲受けであることから、公序良俗に反し、無効である。

(4)  控訴人の抗弁に対する被控訴人の認否

裁判所に顕著な事実(消滅時効の援用)を除き、すべて争う。

4  当審における当事者の主張

(控訴人の主張)

(1) 被控訴人の請求原因事実について

ア 本件決定が発せられる前提として、当事者間で本件決定前に仮登記請求権が発生していることが必要である。ところで、原判決は、別紙登記目録記載のとおり、登記の原因として、「平成2年4月2日金銭消費貸借金42億5000万円のうち金3億2000万円平成17年3月17日設定」と判示した。

しかし、被控訴人が本件仮登記仮処分事件において提出した書面の中には、「平成17年3月17日設定」に関する疎明はなく、原判決においても、平成17年3月17日に抵当権設定が行われたことについての言及はない。いつ、どこで、いかなる当事者間で、いかにして抵当権が設定されたのかは不明である。

イ 原判決は、本件決定は、本件仮登記仮処分事件の申立てをもって本件請求権に基づく増担保請求がなされたと解することを前提として発せられたものと認められると判示する(原判決5頁10行目の「なお」以下から12行目まで。)が、本件仮登記仮処分事件が申立てられたのは平成17年5月31日であり、同年3月17日設定という本件仮登記の登記原因との間には齟齬がある。

ウ 原判決は、仮登記の「権利者その他の事項」の利率、損害金、権利者、債務者などがいかにして確定したかについて理由を付していない。

エ 原判決の判示するような増担保請求のみによって直ちに具体的な物権的請求権である登記請求権が成立することとなると、法の使命である予測可能性が崩壊し、社会が混乱する。

オ 仮に、百歩譲って、被控訴人のような増担保請求によって直ちに具体的な登記請求権が発生するという考え方に立っても、被控訴人が控訴人に対し、同請求の意思表示をしたことはない。

(2) 控訴人の抗弁(公序良俗違反)について

被控訴人はケージーアイが青森地方裁判所十和田支部において競売により回収すべく争訟中であった権利(被担保債権)を同社から譲り受けたが、これは弁護士法73条に違反し、公序良俗に違反する。

(被控訴人の主張)

(1) 控訴人の上記主張(1)(請求原因事実)について

ア 同アは争う。青森地方裁判所十和田支部平成16年(ワ)第43号共有物分割請求事件(以下「別件訴訟」という。)において、平成17年2月15日に判決(以下「別件判決」という。)が言い渡され、同年3月2日に控訴人に送達され、同月16日の経過により確定したことから、その翌日である同月17日に被控訴人の増担保請求、抵当権設定登記請求(同仮登記を含む。)が可能となったものである。平成17年3月17日という日は以上のような日である。

イ 同イは争う。

ウ 同ウは争う。

エ 同エは争う。スミセイと控訴人との間の各金銭消費貸借契約証書には本件約定が記載されているから、被控訴人は控訴人に対し、増担保請求権を有している。本件のような不動産に抵当権を設定することを予定している増担保請求権は、増担保権利者が請求すれば、その増担保の請求が不相当でない限り、相手方は直ちに増担保提供義務を負担するとともに、抵当権設定登記義務(抵当権設定仮登記を含む。)を負担する。その間に、相手方による担保物件の提示、増担保請求権者による承諾、両者による担保権設定契約の内容の確定という過程は必要でない。これらが必要であれば、本件約定の意味はなくなってしまう。

オ 同オは争う。

(2) 控訴人の上記主張(2)(抗弁)について

争う。

第3当裁判所の判断

1  原審における当事者の主張のうち被控訴人の請求原因事実について

(1)  原審における被控訴人の請求原因アの事実(本件債権を生じさせた金銭消費貸借契約の各金銭消費貸借契約証書には本件約定があったこと。)は、控訴人が争うことを明らかにしないので、これを自白したものとみなす。

(2)  同イ、ウの事実(債権譲渡)は、証拠(甲1ないし395)及び弁論の全趣旨により認められる。

(3)  同エの事実(控訴人は清算会社であって本件土地以外に財産はなく、かつ、本件土地の時価は2000万円以下に低下しているため、被控訴人は控訴人に対し、本件約定に基づき、本訴状の送達をもって増担保請求を行ったこと。)について

被控訴人は、同社の増担保請求権の行使により、控訴人に対し本件土地について抵当権設定登記を求めることができるという前提で本訴を提起しており、それは増担保請求権の行使は形成権の行使であり被控訴人の一方的な意思表示により法律効果(抵当権設定契約が成立するという効果)が当然に生じることを前提としているものと解される。そこで、この点について検討することとする。

ア 前記事実、争いのない事実、証拠(甲1ないし411、乙4の1、乙4の3ないし7、乙4の8の1、2、乙4の11、12)及び弁論の全趣旨により、以下の事実が認められる。

(ア) スミセイは、控訴人に対し、平成2年4月2日から同年11月20日にかけて、原判決別紙一覧表のとおり、合計56億9000万円を貸し付けた(本件債権)。それらの貸借に当たり作成された金銭消費貸借契約証書(甲396ないし400、乙4の3ないし7)には、本件約定(第7条2項)が記載されている。

本件約定の条項は、「借主または連帯保証人について第4条に掲げる事実が発生しまたは発生するおそれがある等信用が悪化した場合、また前項により提供した担保についても減失、もしくは価額の値下り等のため担保が不足した場合等、貴社が債権保全のため必要と認めるときは請求によってただちに貴社の承認する担保もしくは増担保を差入れ、または連帯保証人をたてもしくはこれを追加し、または債務の一部もしくは全部を弁済します。」というものである。

そこで引用されている第4条は、期限の利益の喪失事由に関する条項であり、また、第7条1項は、「借主は、この契約より生じる貴社に対する一切の債務を担保するため、貴社の指定する内容の担保を提供することを約し、その詳細については別途契約するものとします。」というものである。

(イ) 控訴人は、平成元年11月9日付けで、本件土地を含む前記492筆の土地の控訴人持分10分の8につき、スミセイを根抵当権者として極度額50億円の従前根抵当権を設定した。

(ウ) スミセイは、平成10年9月25日に、ケージーアイに本件債権(残債権。元本は52億1956万0912円。)を譲渡し、ケージーアイは、平成16年10月28日にこれを被控訴人に譲渡した。根抵当権の極度額は、ケージーアイの被控訴人への前記債権譲渡に伴い、20億円に変更された。

(エ) 本件土地を含む前記492筆の土地については控訴人が10分の8の持分を、被控訴人が10分の2の持分を有して共有していたところ、被控訴人を原告とする別件訴訟において別件判決が平成17年2月25日言い渡された。別件判決は、被控訴人の求めた請求の趣旨のとおり、本件土地について控訴人が単独所有権を取得し、その余の土地(以下「被控訴人取得地」という。)を被控訴人が単独所有権を取得する(主文1項)と共に、同判決の確定した時は、控訴人は被控訴人に対し、被控訴人取得地の持分10分の8について同判決確定の日の共有物分割を原因とする共有持分全部移転の登記手続をすべきことを(主文2項)、同じく同判決の確定したときは、控訴人は被控訴人に対し、本件土地の被控訴人の持分10分の2について、同判決確定の日の共有物分割を原因として、被控訴人から控訴人への共有持分全部移転の登記手続をすべきことを(主文3項)、それぞれ命じた内容であり、同判決は同年3月16日の経過により確定した。なお、別件訴訟において、控訴人(同訴訟の被告)を代表したのは特別代理人であるHであった。

(オ) 控訴人が分割で取得した本件土地のうちその持分10分の8については極度額20億円の従前根抵当権が既に設定されているところ、分割前に被控訴人が有していた持分10分の2については担保権の設定登記はなく、控訴人は清算会社であって、かつて破産宣告を受けその後費用の不足による破産廃止決定が確定したもので、本件土地以外に財産は見当たらず、かつ、本件土地の時価は実際にはかなり低下している。平成17年3月ないし5月当時も現在も、被控訴人の譲渡を受けた債権元本52億1956万0912円に対し、控訴人が被控訴人に対して提供している担保は不足している。

(カ) 被控訴人は、平成17年5月31日、青森地方裁判所十和田支部に本件仮登記仮処分事件の申立てを行った。同申立書(乙4の1)には、「申立の理由」のまとめとして、本件土地につき「増担保を請求する予定であるが、相手方がこれらの事情を知ると、本件各土地を処分する可能性が大であるので、申立人は、申立人の順位保全のために本申立に及ぶ次第である。」と記載されていた。同裁判所は、同年6月3日、同申立てを認容して本件決定を行った。

(キ) 被控訴人は、平成17年6月14日受付をもって、控訴人のために、本件土地について別件判決主文3項のとおりの共有持分全部移転登記をするとともに、同日受付をもって、本件土地について、上記仮登記仮処分決定に基づいて抵当権設定仮登記をした。

イ 以上の事実に基づき判断する。

(ア) 被控訴人は、スミセイと控訴人との間の各金銭消費貸借契約証書には、本件約定が記載されており、被控訴人は控訴人に対し増担保請求権(本件請求権)を有していること、本件のような不動産に抵当権を設定することを予定している増担保請求権(本件請求権)は、増担保権利者が請求(形成権の行使)すれば、その増担保の請求が不相当でない限り、相手方は直ちに増担保提供義務を負担するとともに、抵当権設定登記義務を負担すること、その過程に、相手方による担保物件の提示、増担保請求権者による承諾、両者による担保権設定契約の内容の確定という過程は必要でないこと、これらが必要であれば、本件約定の意味はなくなってしまうこと、などと主張する。

(イ) そこで、本件約定の効力について検討する。

a 本件約定は、前記のとおり、場合を例示して、貴社(債権者)が債権保全のため必要と認めることを要件として、債務者(控訴人)は債権者の「請求によってただちに貴社の承認する担保もしくは増担保を差入れ、または連帯保証人をたてもしくはこれを追加し、または債務の一部もしくは全部を弁済」することを約定したものであるから、要件が具備したときに、債権者が債務者に対し、同項に挙げられた行為をするように求めて交渉をする根拠となるものであり、かつ、債権者の請求する行為に応ずることが債務者にとって可能であるのに債務者がこれに応じないときは、債務不履行となり、期限の利益喪失の事由(第4条①号)に該当すると解されるから、本件約定の意味がないということはできない。

b 同項に挙げられた行為の直接的実現の可否、その法的構成についてみる。

本件約定は、前項のとおり、要件が具備したときは、「請求によって直ちに貴社の承認する担保もしくは増担保を差入れ、または連帯保証をたてもしくはこれを追加し、または債務の一部もしくは全部を弁済します。」と規定されており、債務者がなすべき行為として「担保もしくは増担保を差入れ」(以下「増担保等の設定」という。)、または「連帯保証をたてもしくはこれを追加し」(以下「連帯保証の追加」という。)または「債務の一部もしくは全部を弁済」(以下「債務の弁済」という。)するというように、多様な行為が掲げられており、債務の弁済のような広義の担保権の設定とは異質なものや、連帯保証の追加や第三者の所有物への増担保の設定など、債権者と債務者の合意のみでは実現できない行為を含むことは明らかである。

本件で問題となる債務者(控訴人)の所有物への増担保等の設定に限局しても、本件約定はもとより、契約証書のどこにも、具体的な増担保等の対象となる物件、設定すべき担保の種類、内容などの設定される増担保等を特定する事項については何ら定められていない。また、本件証拠上、被控訴人が主張するように、当事者間において、本件の増担保として特定の不動産に抵当権を設定することが予定されていたと認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件約定のような、具体的な増担保等の対象となる物件、設定すべき担保の種類、内容等設定される増担保等を特定する事項が何ら定められていない状況で、本件約定をもって、債権者が増担保等の対象となる物件、担保の種類、内容を特定して一方的に増担保等の設定を請求する意思表示をするのみで、その請求が不相当でない限り、そのとおりの内容の増担保等が設定される形成権を債権者に与えたものと解することはできない。

本件約定を含む契約がされてから15年以上を経る間に、控訴人に破産宣告がされた後費用不足により破産廃止となり、現在では控訴人の所有する不動産で担保余力のある物は、共有物分割によって、担保権の対象となっていない部分を含み控訴人の単独所有となった本件土地のみであることが明らかとなっているもので、増担保等の対象となる物件は本件土地の外にはなく、債務者は当初の契約と同じで、被担保債権は当初の契約の根抵当権の被担保債権の一部であり、担保の種類も、元の契約では根抵当権であったが、債務者である控訴人の破産により元本が確定していることから、抵当権とするというように、設定される増担保等の内容が特定できるとしても、上記の判断は左右されるものではない。

そうすると、被控訴人が本件約定によって形成権としての増担保請求権を有していることを前提として、その増担保請求権の行使により、本件土地に被控訴人主張のとおりの抵当権が設定されたことを理由とする本件請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

c なお、当裁判所は、本件約定は前記aに認定したような法的意味ばかりではなく、本件で問題となる債務者(控訴人)の所有物への増担保等に限って考えたとき、所定の要件が具備した場合に、その段階での債務者の財産状況、当初の契約の被担保債権の残存状況に応じ、債権者が増担保等の設定を求める物件、担保権の種類、被担保債権の内容等必要な事項を具体的に特定して、担保権設定応諾の意思表示を請求することが可能であり、その請求の認容判決が確定することを条件とする担保権設定登記手続(請求権保全の仮登記が先行しておれば、その仮登記に基づく本登記手続)を請求することもできると解する余地があると考え、被控訴人に対し、その法的構成を検討することを当審第1回口頭弁論期日において求めたが、被控訴人は、このような法的構成に基づく申立て、主張をしなかった。

2  よって、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり、これと結論を異にする原判決は失当であるから取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 犬飼眞二 窪木稔)

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