東京高等裁判所 平成18年(行コ)43号 判決 2007年6月27日
控訴人
西日本旅客鉄道株式会社
被控訴人
中央労働委員会
被控訴人補助参加人
ジェアール西日本労働組合
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,補助参加によって生じた費用を含め,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が,中労委平成11年(不再)第23号事件(初審岡山地労委平成7年(不)第1号事件)についで,平成16年12月1日付けでした命令を取り消す。
(3) 訴訟費用は第1,2審を通じて,補助参加によって生じた費用は被控訴人補助参加人ジェーアール西日本労働組合(以下「補助参加人JR西労」といい,単に「西労」ともいう。)の,その余は被控訴人の各負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件事案の概要は次のとおりである。
本件は,昭和62年4月1日のいわゆる国鉄分割民営化から約8年後に控訴人において生じた労使間の紛争である。
岡山県地方労働委員会(以下「岡山地労委」という。)は,補助参加人JR西労及びジェーアール西日本労働組合岡山地方本部(以下「西労岡山地本」という。)が平成7年3月9日に控訴人を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(岡山地労委平成7年(不)第1号事件,以下「本件初審」という。)について,上記申立てから4年を経過した後の平成11年3月25日,①控訴人岡山支社(以下「岡山支社」という。)の岡山運転区及び津山鉄道部津山西分室において,科長及び助役が補助参加人JR西労の組合員に対し,昇進,転勤等の人事権を利用して同組合からの脱退を慫慂した(平成6年12月から同7年2月の間の言動に対する評価)ことが,いずれも労働組合法7条3号所定の不当労働行為(支配介入)に当たるとし,②西労岡山地本から平成7年2月21日に申し入れられた団体交渉(以下「本件団交」又は「本件団交申入れ」という。)に応じなかったことが同条2号所定の不当労働行為(正当な理由のない団交拒否)に当たるとして,救済命令を発した(以下「本件初審命令」という。)。控訴人は,平成11年4月26日,本件初審命令のうち補助参加人JR西労らの申立てを棄却した部分を除く部分を不服として,被控訴人に対し再審査を申し立てたところ(中労委平成11年(不再)第23号事件,以下「本件再審査」という。),被控訴人は,それから更に5年半余が経過した後の平成16年12月1日,同再審査申立てを棄却するとの命令を発した(以下「本件命令」という。)。
本件は,不当労働行為とされる行為時から約10年を経た後である平成17年1月15日,控訴人が,被控訴人が発した本件命令の取消しを求めて提起した訴訟事件である。
(2) 原審は,控訴人の科長及び助役の補助参加人JR西労組合員に対する同組合からの脱退慫慂行為は労働組合法7条3号所定の不当労働行為(支配介入)に該当し,控訴人の本件団交拒否に正当な理由はないから労働組合法7条2号所定の不当労働行為(正当な理由のない団交拒否)に該当するとして,控訴人の本件請求を棄却した。
(3) そこで,控訴人が,原審の上記認定,判断を不服として,本件控訴を提起した。なお,本件訴訟において,補助参加人JR西労及び西労岡山地本が被控訴人に補助参加していたところ,西労岡山地本は補助参加の申立てを取り下げた。
2 争いのない事実等
次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」1(原判決2頁24行目から10頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決4頁3行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
「なお,平成18年に行われた補助参加人JR西労の組織改編に伴い,それまで同補助参加人中央本部の下に位置していた西労岡山地本は,補助参加人JR西労の下に位置する同中国地域本部の下に位置することになった。」
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 次項に「補足主張」を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」2及び3(原判決10頁9行目から17頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 補足主張
ア 脱退慫慂行為について
(控訴人)
Y1助役らは,労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在る者に該当しない。その理由は以下のとおりである。
(ア) Y1助役について
a 指導助役は,岡山運転区における運転操細に関する指導,運転保安設備の取扱指導,事故原因究明と対策策定及びその指導等の業務を行っているもので,他の助役の取りまとめを行う業務や他の助役に指不を与える業務は行っていない。
したがって,上記指導助役であったY1助役は,労働基準法41条の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」の規定等に該当しない者として超過勤務手当の支給対象となっていたのであり労働組合法2条1号の規定に該当する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者(以下「使用者の利益代表者」という。)に該当しないとして,組合員資格を有していた。
b Y1助役が従事していた業務は前記のとおりであって,上記業務を超えて,入事に関する業務には従事しておらず,これについて何らの権限を有していなかった。
さらに,岡山運転区社員の昇格試験に関する事項については,岡山支社人事課で試験を実施し,同支社長が最終的に合否を決定していた。現場長は,昇格試験に際して,箇所長所見を人事担当課に提出していたが,これは合否決定の際に参考程度に勘案するだけのものである。助役は,従業員の執務態度等について現場長に報告を行うが,これはあくまでも事実の報告であって,このことと報告された事実に基づいて人事に関する措置を行うこととは全く別個のことである。
助役の報告が結果的に箇所長所見に反映され,それが結果的に支社長が昇格試験の合否を判断する際の参考資料になったとしても,それをもって助役が昇格試験の合否に事実上の影響力を持つたり,一定の権限を有しているとは到底いえない。
(イ) Y2科長及びY3助役について
a Y2科長は,津山鉄道部の運輸科長であったが,運輸科長は,輸送・営業関係を担当する一応の責任者を意味する。同人は,他の助役が行っている業務を取りまとめたり,すべてが滞りなく行われているか否かを確認したり,必要に応じて他の助役に指示を与えるという業務を行っていたが,人事異動に関する業務は全く行っていなかった。
b Y3助役は,当直助役であり,他の助役の業務を取りまとめたり,他の助役に指示を与えるという業務は全く行っていない。ましてや人事異動に関する業務は行っていない。
(被控訴人)
Y1助役らは,使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在る者に該当する。その理由は以下のとおりである。
(ア) Y1助役について
Y1助役は,平成6年12月から同7年2月までの間,岡山運転区指導助役の地位に在り,X1及びX2の上司の地位に在った。岡山支社における昇格試験の2次試験は,面接の成績,箇所長所見,2次試験から昇格発令までの間の勤務成績を総合的に勘案して支社長が決定するところ,Y1助役は,岡山運転区の箇所長所見の判断材料の収集に当たる職務を担当しており,昇格試験の合否に事実上相当の影響力を有していたものである。
(イ) Y2科長及びY3助役について
Y2科長及びY3助役については,岡山支社の行う転勤の人選に関し,津山西分室で勤務している社員(助勤を含む)に関する必要な情報は,Y2科長らの提供する資料に頼らざるを得ず,このため,両名の意向が事実上反映することになる。そして,津山西分室に助勤で勤務していたX4は,Y2科長及びY3助役が,転勤に関し事実上の影響力を有する地位に在ると認識していた。
イ 団交拒否について
(控訴人)
控訴人は,本件について,西労岡山地本に対し,窓口整理で対応する旨を連絡し,西労岡山地本もこれに同意していた。それにもかかわらず,西労岡山地本は,協議予定日の前日である平成7年3月9日に不当労働行為救済申立てをした。このような不誠実な態度を示す西労岡山地本に対し,控訴人がこれ以上地労委外での交渉を試みても交渉の進展を期待できないことは明らかであった。したがって,本件窓口整理における控訴人の対応には理由があるものであって,本件は,不当労働行為(正当な理由のない団交拒否)には該当しない。
(被控訴人)
労働組合が使用者の団交拒否を不当労働行為であるとして救済申立てを行うことは当然の事理である。上記控訴人の主張は,労働組合法の定める不当労働行為制度や団体交渉制度を否定するに等しいというべきであり失当というほかはない。
第3争点に対する判断
1 当裁判所も,本件命令の取消しを求める控訴人の請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
2 争点(1)(Y1助役のX1及びX2に対する脱退慫慂行為の存否,控訴人の帰責性)について
(1) 前提事実
原判表の「事実及び理由」中の「第3争点に対する判断」1(1)(原判決17頁末行から22頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決20頁1行目の「事実上相当の」を「一定の」に改める。)。
(2) Y1助役のX1ないしX2に対する脱退慫慂行為について
ア 認定事実
前記認定事実に証拠(認定事実に付記したもの)及び弁論の全趣旨を総合し以下の事実を認める。
(ア) X1は,同人の平成7年度昇格試験の1次試験受験前日である平成6年12月7日午後6時ころ,岡山運転区に帰着後,退職した元国鉄職員であるY4に誘われて岡山運転区の近くにある喫茶店「藤」に行った。そこでY4から,15人程度一緒になって西労から脱退すればX1らが岡山運転区を動かせることになる旨の話しをされた。
(イ) X1は,その後,Y4に誘われて,平成6年12月7日午後7時ころ,Y4の自宅付近にある大衆割烹「千年」に行った。X1がY4,Y5と「千年」で飲酒しY4から西労にいたら損を,するぞなどと話しかけられていたところ,同日午後7時20分ころ,Y1助役が現れた。そして,Y1助役は,X1に対し,この場での話しを他言しないように告げた上で,1次試験については同人を推薦している,西労もつまらないし,西労組も今の状態じゃだめだからパイパンがいいんだなどといった趣旨のことを述べて,昇格試験の話しを持ち出して補助参加人JR西労を脱退する意思がないかを打診した。なお,この「千年」の飲食代金はすべてY4が支払った。
(ウ) X1は,平成6年12月末ころ,岡山運転区庁舎内において,Y1助役に対し,補助参加人JR西労からの脱退の件はなかったことにしてほしいと述べ,これに対し,Y1助役は,再考を促したが,X1はこれを拒否した。
(エ) Y1助役は,平成7年2月12日,既に同年度昇格試験の1次試験に合格し,2次試験受験後合格発表を待っていたX2を誘つて,岡山市内のレストランに行き,Y4を含む3人で会食をした。この際,Y4は,X2に対し,同人の昇格試験についてはY1助役に頼んである,本件ネクタイを着用していては昇格試験に合格しないなどといったことを述べた。また,Y1助役は,X2に対し,X1ほか脱退を考えている者が15人から20人くらいいるなどと述べたが,X2が納得していない様子を示したところ,自分の自動車から他者作成の脱退届と思われる用紙を持ってきて同人に対しこれを見せるかの素振りを示したが,X2はそれがX1ら他の者の脱退居であることを確認してはいない。さらに,Y1助役は,白紙の脱退届用紙を取り出して,構手に対し,交付し,作成要領を教示するなどしたため,同人は補助参加人JR西労からの脱退を慫慂されているものと理解した。これに対し,X2は,Y1助役に対し,X1と相談したいなどと述べて,上記白紙の脱退届用紙を受け取り持ち帰った。なお,この際の飲食代金は,すべてY1助役が支払った。
(オ) X2は,上記会食後,X1に電話を架けて補助参加人JR西労脱退の意思の有無を確認したところ,X1から脱退の意思がないことを聞き,同人の指示を受けて前記脱退届用紙を破棄した。X1から前記会食についての報告を受けた西労岡山地本岡山運転区分会委員長X5は,X2に対し,西労岡山地本を訪れるよう指示した。X2は,平成7年2月13日,午後5時30分ころ,Y1助役に対し,補助参加人JR西労から脱退しない旨伝えた。
(カ) X1も,X2同様,平成7年度の昇格試験の1次試験に合格し,2次試験を受験後合格発表を待っていた平成7年2月13日,Y1助役に誘われて,同日午前9時5分ころから同日午前9時30分ころまでの間,JR岡山駅構内のレストラン「Archer」(アーチャー)に行った(Y1助役は勤務中,X1は手待ち時間であった。)。この際,Y1助役は,X1に対し,添乗指導等の話をしたほか,2次試験に合格させてやりたい,西労にいたっていいことにはならないなどと述べた。さらに,Y1助役は,X1に対し,同日夜の飲食に誘った。なお,その際の飲食代金はすべてY1助役が支払った。
(キ) Y1助役は,平成7年2月13日午後9時ころ,X1及びX2を誘って,Y4が開店を予定していたJR岡山駅近くのスナック「カンテラハウス」に行き,Y4を含む4人で会食しながら懇談をした。その際,X1は秘かに録音をしていたとのことであるが,同人及びX2は,Y1助役は,X1及びX2に対し,この会食の存在をX5分会長に話してはならない旨告げた上で,「西労のネクタイをして面接に行った者をどうにかしてカバーしてやらなければいけない。」「ただ人間関係があるから今(西労の)ネクタイをしている。だけど大きく動く時にはそれに乗りますよということをアピールしてやらなければいけんがな。」「西労と心中しないという意志があるということを会社に言ってやらなければいけないがな,ワシらが。ただ人間関係があるから今はネクタイをしている。だけど大きく動く時には,それに乗りますよ,ということをアピールしてやらなければいけんがな。」「西労みたいにいつ自然消滅するかもわからないような組合にいたっていいことにはならない。今回は地震があったからストをできないだろうけれども,今度ストをする時までにワシが手の中におさめておいてストをするといった時にバッと出すんだ。しかも自分らだけで考えてストをする労組ならまだしも中央の言いなりで動くような,そんなどうしようもない組織に執着するようなことはないじゃないか。よく考えてみい。これは不当労働行為だというのはワシはわかってやっているんだぞ。」「20日というのは2次試験が終わる日だ。だから何べんも言うように,それまでに会社に対して忠誠を誓うような態度を示しておいたほうが有利になるんだ。」などといった発言をしたと述べ,補助参加人JR西労からの脱退の慫慂を受けたものと理解している。
(ク) X1及びX2は,Y1助役の勧めを断り,補助参加人JR西労から脱退しなかった。X1及びX2は,その後である平成7年3月25日,同年度の昇格試験に不合格となっているが,この不合格と上記脱退拒否との因果関係を明らかにする証拠はない。
イ 上記事実認定の補足説明
上記認定の根拠は,これを突きつめるとX1及びX2の記憶ないし証言に尽きるといえなくもないところがあり,そうすると客観的裏付けを有するのかという問題が残る。
(ア) そこで検討するのに,まず,平成7年2月13日のスナック「カンテラハウス」における関係者の言動については,西労岡山地本執行委員長X3作成の平成7年11月30日付け報告書(以下「本件報告書」という。)が作成されているところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件報告書は,X5分会長の指示によりX1が,上記スナックにおける会話をテープレコーダーに録音し,同年2月16日ころ,西労岡山地本事務所でX1らが上記テープを聴きながら聴き取り難い部分はX1の記憶により補完するなどしてその会話内容をまとめた書面を作成し,同書面と上記録音テープをもとにX3委員長が作成したものであることが認められる。また,上記テープは証拠として提出されていないのであるから,上記書面内容は客観的裏付けがないことになる。
しかし,後記のとおり,この点も含めてY1助役ら同席者で反対の立場に立つ者の証言は存在しないのである。そうであれば,確かに,本件報告書は,会話内容の反訳そのものではないが,X1らによるテープ起こし作業は前記会話が行われてから約3日後というX1の記憶が新鮮なうちに行われているというのであり,その内容は具体的かつ詳細なものであるというだけでなく,それなりに当時の労使関係の有り様を考えると現実性があり,合理性があるものと認めることができる。
また,X1及びX2の各陳述書,同人らの本件初審における各供述は,要するに供述の積み重ねであり客観的裏付けに乏しいものの,上記のとおり,直接の反対証拠方法が存在するにもかかわらずこれが一切提出されていない以上,それぞれ具体的かつ詳細なものであり,その内容自体前同様に合理性があり,本件報告書の内容やそれぞれの陳述ないし供述と互いに整合するという点も指摘できるから,その細部はともかくとして,本件不当労働行為に該当する前記事実を認定するに足りるものというべきである。
(イ) これに対し,控訴人は,Y1助役は,X1及びX2に対して脱退慫慂行為を行っていない,旨主張し,この主張に沿うY1助役の陳述書及び陳述録取書,Y1助役から事情聴取した岡山支社のY6人事課長代理,Y7人事課長の労働委員会での各供述,Y8人事課長の原審での供述等が存在する。
しかし,Y1助役の陳述書ないし陳述録取書は,簡略な内容で具体性にも乏しい上,何よりも同助役は,同書面で明確に述べているように,退職して長く,自己の言動とされる事実関係について,公の席に出頭し,真偽を明らかにしようという姿勢がないのであり,現に本件初審及び本件再審査において,証人として採用され反論の機会が設けられたにもかかわらず,いずれも審判に出頭しなかったこと(当事者間に争いのない事実)等の経緯を考えると,その証拠価値には限界があり,上記認定を覆すには足りないといわざるを得ない。
なお,控訴人の入事課長らの供述等は,控訴人社内における事情聴取に基づくものにすぎず,Y1助役は前記のとおり,証人として採用されながら労働委員会に出頭せず,補助参加人らの反対尋問にさらされたものではないことなどに照らすと,上記人事課長らの供述等はX1及びX2に対する脱退慫慂行為に関する前記認定を左右するには足りない。
(ウ) また,控訴人は,控訴人における昇格の仕組み,昇格試験の実施方法(箇所長所見については,試験結果における比重が低く,また,平成7年度の昇格試験においては平成6年11月末までに各現場長から人事課に提出されるものであることなど。)からすれば,Y1助役が上記認定に係るような言動に及ぶなどはあり得ないことである旨主張する。確かに昇格の仕組み及び昇格試験の実施方法は大要で控訴人主張のとおりのものと推認されるが,そうであるとしても,その具体的な内容(合否における箇所長所見の比重等)が控訴人の従業員らに周知されていたと認めるに足りる証拠はないから,同人らに同助役が影響力を有していたであろうと推認することは直ちに不自然,不合理とはいえないし,また,そう考えると同助役らにおいては,補助参加人JR西労からの脱退を慫慂する際の説得材料の一つとして,昇格試験を利用することもあり得ないことではないといえるであろうから,控訴人における昇格の仕組み及び昇格試験の実施方法が控訴人主張のとおりであるからといって,そのことから直ちに同助役の上記脱退慫慂行為の認定を不自然,不合理として排斥することはできない。
ウ 以上のとおりであるから,Y1助役は,平成6年12月7日,同月末ころ,平成7年2月12日,同月13日,X1及びX2に対し,その所属する補助参加入JR西労からの脱退を慫慂したものと認める。
(3) Y1助役の言動に関する控訴人の帰責性
使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在る者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には,使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも,当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができる(最高裁平成18年12月8日第二小法廷判決・裁判所時報第1425号4頁)のであるから,上記Y1助役の脱退慫、慂行為について,Y1助役が上記職制上の地位に在るといえるか,使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行ったといえるかについて検討する。
ア Y1助役の地位について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,Y1助役は,組合員資格を有し,使用者の利益代表者そのものには該当しないが,平成6年12月から同7年2月までの間,岡山運転区指導助役の地位(岡山運転区所属の222名のうち,区長及び助役は合計9名にすぎない。)にあり,X1及びX2の上司の地位に在ったこと,岡山支社における昇格試験の2次試験は,面接の成績,箇所長所見,2次試験から昇格発令までの間の勤務成績を総合的に勘案して支社長が決定するところ,Y1助役は,岡山運転区の箇所長所見の判断材料の収集に当たる職務を担当していたことからすると,Y1助役は,使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在ったものということができる。
控訴人は,指導助役は,他の助役の取りまとめを行う業務や他の助役に指示を与える業務はない,また,人事に関する権限はない旨主張するところ,それはそうであるとしても,Y1助役が前記認定に係る地位に在る以上,不当労働行為の存否の判断の場面では控訴人主張の上記事情はY1助役が使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在ると認めることの妨げにはならないのである。
また,控訴人は,助役の報告が結果的に昇格試験の合否の判断の参考資料になるとしても,それをもって助役が昇格試験の合否に事実上の影響力を持ったり,一定の権限を有しているとはいえない旨主張する。当時控訴人において,従業員の執務態度に関する助役の報告が昇格試験の合否に影響する度合いがどうであったかは証拠上必ずしも明らかではないが,経験則を踏まえ関係証拠に弁論の全趣旨を併せ考えてみれば,決定的な存在でないことは明らかであるが,少なくとも一定の影響力を有していることは十分に推認することができよう。したがって,ここでも不当労働行為の判断の局面では,助役が上記のような報告をする地位に在ることも上記使用者に近接する職制上の地位に在ることを裏付ける一事情とみるのが相当というべきであって,上記控訴人指摘の事情は,本件においてY1助役の地位に関する前記認定を左右する性質のものではないのである。
イ 使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行ったといえるかについて
(ア) 認定事実
前記認定事実に証拠(認定事実に付記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
a Y1助役の脱退慫慂行為がされた当時の状況
前記認定のとおり,Y1助役がX1及びX2に対し脱退慫想行為を行った時期においては,JR西労組から独立した組合である補助参加人JR西労は,スト権の確立を求め,平成4年から同5年にかけて,賃上げ,安全問題,乗務員勤務制度改正反対,ブルートレインの1人乗務反対を要求項目として,4回にわたりストライキを行ったこと,当該ストライキに対し,控訴人は,補助参加人JR西労の態度を批判したことが認められ,これらの事実によれば,控訴人は,控訴人の経営方針,業務施策に反対する補助参加人JR西労の活動を嫌悪していたことが推認できる。また,前記認定事実によれば,岡山支社は,平成4年2月ころ,岡山運転区分会のストライキ権の確立等に関する投票に関し,会議室の使用を許可しなかったり,施設外での同投票を監視するなどしていたこと,補助参加人JR西労に所属する岡山運転区勤務の組合員40名が平成3年6月から同8年11月までの間に同運転区から他の部署への転勤を不服として岡山支社に対し簡易苦情処理を申告していること,西労岡山地本は,岡山支社に対し,平成5年7月,同支社が補助参加入らの組織破壊のため人事権を濫用して転勤命令を発したとして,また,同6年2月,岡山運転区長が個人面接において補助参加人JR西労を誹謗中傷したとして,それぞれ団体交渉を申し入れていることなどが認められ,これらの事実によれば,控訴人と補助参加人JR西労及び西労岡山地本との間には様々な場面で絶えず緊張関係が生じていたことがうかがえる。
b 従業員のY1助役の権限,発言についての受け取り方
前記認定事実によれば,当時岡山運転区所属の従業員も,Y1助役の昇格試験に関する権限について,法的な観点での根拠はともかくとして,試験の合否に一定の影響力を有しているとの認識を持っており,昇格に関するY1助役の発言内容は当時の控訴人の意思に基づくものと認識していたこと,また,岡山支社における補助参加人JR西労の組合員の昇格試験の合格率はJR西労組等の他の組合員と比べて極めて低かったため,このことから補助参加人JR西労の組合員の間では同組合に所属することにより昇格試験において控訴人から差別されており,同組合に所属することは昇格試験に不利に働くと考えられており,X1及びX2も同様の認識を持つていたこと等の事情が認められる。
c Y1助役の発言内容
上記の認定,判断を踏まえると,Y1助役のX1及びX2に対する発言内容から判断すれば,Y1助役は,補助参加人JR西労に所属することが昇格において不利に働くという認識を持っていたX1及びX2に対し,上司としての立場から昇格試験の合格発表前に,補助参加人JR西労を脱退すれば利益を受けることや,逆に同組合にとどまれば昇格において不利益を被ることなどをほのめかしたということになる。
d 控訴人の対応
前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,西労岡山地本は,平成7年2月21日,岡山支社に対し,運転職場において,現場管理者による転勤,昇職,昇格を材料とした脱退強要の不当労働行為の事実が明らかになったとして,本件労働協約39条(3)号に基づき,「岡山運転区において平成7年度昇格・昇職試験を受験するにあたって『推薦してやった』『合格したければ西労ではだめだ』などと脱退を迫っている事実行為」について,同年3月2日までに団体度渉を開催するよう文書で申し入れ,Y1助役のX1及びX2に対する組合からの脱退慫慂行為問題に関し,団体交渉の開催を求めた。これに対し,岡山支社は,平成7年3月2日,上記団交申入れについて,本件労働協約39条所定の団交事項に該当しないとして,西労岡山地本に対し,口頭で団体交渉は行わないと伝えた。さらに,岡山支社は,平成7年3月10日,西労岡山地本に対し,本件団交申入れについて,「調査したが,そのような事実はない。」と文書で回答し,Y1助役のX1及びX2に対する脱退慫慂行為の存在を否定し,今日に至っている。
(イ) 検討
a 前記認定判断によれば,Y1助役の発言は,控訴人と補助参加人JR西労及び西労岡山地本との間には労使関係にかかわる事柄に関して絶えず緊張関係が生じていたなかで,控訴人の意向に沿って上司としての立場からされた発言とみざるを得ないものが含まれているといえる。そうすると,特段の事情のない限り,上記発言は控訴人の意を体してされたと判断するのが相当である。
b そこで,上記特段の事情について検討するに,前記認定事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,Y1助役は組合員資格を有しJR西労組に所属していたこと,Y1助役のX1及びX2に対する脱退慫憑行為が行われた当時,JR西労組は組織拡大行動を展開していたことが認められる。しかし,他方,Y1助役はJR西労組の役員等の経験はなく,同組合の活動を積極的に行っていたともうかがえないことが認められ,加えて前記のとおりY1助役のX1及びX2に対する脱退慫慂行為が主に昇格試験に言及してのものであり,また,JR西労組への加入に言及していたとは認められないことなどからすれば,上記Y1助役の脱退慫慂行為はJR西労組への勧誘行為として行われたとみることは相当ではない。
c さらに,前記認定事実によれば,X1はY1助役から昇格試験の個別指導を受けるなどの間柄であり,同助役のX1及びX2に対する脱退慫慂行為のほとんどは同人らの就業時間外に控訴人の施設外の飲食店等で行われたのであり,同助役の一連の行為には同助役の個人的な善意と配慮がうかがわれる。しかし,前記のとおり,Y1助役はX1及びX2の直接の上司に当たること,Y1助役が昇格試験について一定の影響力を有する地位に在り,一般従業員もそのように認識していたこと,同脱退慫通行為が昇格試験に言及して継続的に行われたものであること等の事実をみると,Y1助役のX1及びX2に対する前記言動を個人的な関係における助言・忠告等にとどまるものであったと評価することは困難ということになる。
dそうすると,本件において,上記特段の事情があると認めることはできず,Y1助役のX1及びX2に対する補助参加人JR西労からの脱退慫慂行為は,労働組合法7条3号所定の不当労働行為(支配介入)に該当するというべきである。
3 争点(2)(Y2科長ないしY3助役のX4に対する脱退慫慂行為の存否,控訴人の帰責性)について
(1) 前提事実
原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」2(1)(原判決35頁17行目から38頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) Y2科長及びY3助役のX4に対する脱退慫慂行為について
ア 認定事実
前記認定事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
(ア) X4は,平成6年4月8日午後3時40分ころ,手待ち時間中に談話室において,Y2科長に対し,年次有給休暇(以下、「年休」という。)を取得するため,いつまで津山西分室に勤務することができるか尋ねたところ,同科長は,「条件だな」と述べた。
(イ) X4は,平成6年4月14日午後3時ころ,手待ち時間中に談話室において,Y2科長に対し,勤務に関する質問をした。その際,Y2科長は,補助参加入JR西労のネクタイを着用していたX4に対し,ネクタイを替えろなどと述べ,それは同人には同補助参加人からの脱退の慫慂にほかならないものであった。なお,X4は,勤務中も上記ネクタイを着用しているが,そのことでこれまで上司から注意されたことはなかった。
(ウ) X4は,平成6年4月19日年後9時20分ころ,手待ち時間中にY3助役に対し,年休の申請先を尋ねたところ,Y3助役は,別記Y2科長の指示に従わないX4(津山勤務の継続を希望している。)に対し,同年5月以降は,津山西分室ではなく岡山運転区に戻すことをほのめかす発言をした。
(エ) X4は,平成6年4月21日午前10時10分ころ,手待ち時間中に談話室において,Y2科長及びY3助役との間で,津山西分室における助勤の期限,年休申請等について話合いをした。その際,Y2科長は,X4に対し,「まあ,考え方を変ええや」「ネクタイ替ええ」「そりゃあネクタイ替えてくれたら,どこまででも。」などと述べ,補助参加人JR西労から脱退すれば津山西分室での助勤勤務の期間を延ばしてもよいと受け取れる発言をした。
(オ) Y2科長は,平成6年5月12日午後3時30分ころ,同入の前記意見に従わず,依然として補助参加人JR西労にとどまっているX4に対し,同月23日から岡山運転区勤務となることを伝えた。
(カ) Y2科長は,平成6年5月13日午後4時10分ころ,談話室において,手待ち時間中のX4に対し,同人の後任が決まったことを伝えた上,「末端の組合員でえれえコリがないんじゃった(強くこだわる気持ちがないことを指す)考ええ言うたが。」などと述べた。
イ 上記事実認定の補足説明
前記Y1助役の不当労働行為の認定の場合と同様の問題があるので検討する。
(ア) 平成6年4月21日の談話室におけるX4とY2科長の会話については,X3委員長作成の平成7年11月30日付け反訳書(以下「本件反訳書」という。),が作成されているところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件反訳書は,X4から相談を受けた西労岡山地本津山支部のX6書記長の指示によりX4が上記談話室における会話をテープレコーダーに録音し,その後,西労岡山地本においてX3委員長らが録音反訳書を作成したものであることがうかがわれ,前述したY1助役の場合と同様に,Y2科長及びY3助役についても反対証拠の提出がないのであるから,その内容が具体的かつ詳細なものであることのほか,当時の労使関係の状況に照らし,現実性があり,合理性もあるというべきであるから,上記認定の根拠となる証拠価値を有するものと認める。
また,X4の本件初審における供述は,それぞれ具体的かつ詳細なものであり,その内容自体も合理性を有するものと評価できる。
(イ) これに対し,控訴人は,Y2科長及びY3助役は,X4に対して脱退慫通行為を行っていない旨主張し,この主張に沿うY2科長及びY3助役の各陳述録取書,同入らから事情聴取した岡山支社のY9部長の労働委員会における供述,Y8人事課長の原審での供述等が存在する。
しかし,Y2科長及びY3助役の各陳述録取書は,Y1助役のそれと同一の理由で上記認定の反対証拠としては採用することができない。
また,控訴人の部長らの供述等も,前記Y1助役の場合について述べたと同様の問題があるから,X4に対する脱退慫慂行為に関する前記認定を左右するものとは認められない。
(ウ) また,控訴人は,控訴人における助勤の仕組み,制度(津山鉄道部側には助勤を決定する権限がないことなど。)からすれば,上記認定に係るようなY2科長及びY3助役の言動はあり得ない旨主張する。この点も,既にY1助役について説示したとおりであり,助勤の仕組み及び制度が控訴人主張のとおりであるとしても,一般の社員において,Y2科長らが事実上の影響力を有していると考えることは不自然ではないし,また,Y2科長らにおいては,補助参加人JR西労からの脱退を慫慂する際の説得材料の一つとして,X4の勤務場所の話しを持ち出すことはあり得ることといえるから,控訴人における助勤のしくみ,制度が控訴人主張のとおりであるからといって,Y2科長らの前記認定に係る言動が不自然,不合理であるということはできず,同人らの言動に関する前記認定は左右されるものではない。
ウ 以上によれ,ば,Y2科長及びY3助役は,X4に対し,その所属する補助参加人JR西労からの脱退を慫慂したものと認める
(3) Y2科長及びY3助役の言動に関する控訴人の帰責性
Y2科長及びY3助役の脱退慫慂行為について,両名が使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在るといえるか,使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行ったといえるかについて検討する。
ア Y2科長及びY3助役の地位について
前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,平成6年4月当時,Y2科長は津山鉄道部の運輸科長兼津山西分室の管理者であり組合員資格がなく,また,Y3助役は,津山西分室の当直助役であり,いずれも,津山西分室に助動の形で勤務していたX4の上司の地位に在った(津山西分室所属の96名のうち,科長及び助役は4名にすぎない。)こと,また,Y2科長及びY3助役は,岡山支社の行う転勤者の人選につき,津山西分室勤務の社員(助勤を含む)の健康状態,勤務態度等について具体的事実を把握するなどの職務に当たっており,同分室勤務の社員の転勤に関し事実上の影響力を有する地位に在ったことが認められるから,両名は,本件の不当労働行為の存否の判断の上では,使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在ったものと認めるのが相当である。
控訴人は,Y2科長は人事異動に関する業務を行っておらず,また,Y3助役は当直助役であり,人事異動に関する業務も他の助役に指示を与えるなどの業務も行っていない旨主張するところ,Y2科長及びY3助役が前記認定に係る地位に在る以上,両名が直接には人事異動に関する業務に携わっていないなどの事情があるとしても,前同様にそれらは上記両名が使用者の利益代表者に近接する職制上の地位に在ると判断することの相当性の妨げになるものではない。
イ 使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行ったといえるかについて
(ア) 認定事実
前記認定事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
a Y2科長及びY3助役の脱退慫慂行為がされた当時の状況
前記のとおり,Y2科長及びY3助役がX4に対し所属する補助参加人JR西労からの脱退慫通行為を行った当時,控訴人は,同社の経営方針,業務施策に反対する補助参加入JR西労を嫌惡していたこと,転勤等を巡って岡山支社と補助参加人らとの間で対立があり,両者の間には様々な場面で絶えず緊張関係が生じていた。
また,前記認定のとおり,平成5年度の岡山支社における昇格試験の主要組合別の合格率は,補助参加人JR西労が10.5%であるのに対し,JR西労組は71.0%,国労西日本は54.5%と,補助参加人JR西労の組合員の合格率を大幅に上回っている。
これらの事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,補助参加人JR西労に所属する組合員は,同組合に所属している限り,転勤においても控訴人から差別されるおそれがあるのではないかとの認識を有していたことが推認される。
b 社員のY2科長及びY3助役の権限,発言についての受け取り方
前記認定事実によれば,津山西分室勤務の社員(助勤を含む)は,転勤に関し,Y2科長及びY3助役が事実上の影響力を持っているとの認識を有しており,X4も同様の認識であった。
c Y2科長及びY3助役の発言内容
前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,X4は,住居が津山市にある関係で津山西分室での勤務を希望していたところ,平成6年3月25日から助勤により同分室で勤務していたものの,助勤が解かれれば岡山運転区に戻らざるを得ない立場に置かれていたこと,Y2科長及びY3助役は,前記のとおり,補助参加人JR西労に所属することが転勤において不利に働くという認識を持つており,かつ,住居の関係で津山西分室に転勤したいと願っていたX4に対し,同組合を脱退すれば転勤について利益を受け,逆に同組合にとどまれば転勤に不利になることをほのめかし,同組合からの脱退を慫慂したことが認められる。
d 当該行為の行われた時間,場所等
前記認定事実及び証拠によれば,Y2科長ないしY3助役は,勤務時間ではないものの事実上拘束時間である手待ち時間中のX4に対し,控訴人の施設である津山西分室談話室において,補助参加人JR西労からの脱退を慫慂する発言を行ったこと,また,Y2科長とY3助役のX4に対する脱退慫慂行為は近接した時期に行われており,Y2科長の平成6年4月21日のX4に対する脱退慫慂行為はY3助役同席の下行われたことが認められる。
e 控訴人の対応前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,西労岡山地本は,平成7年2月21日,岡山支社に対し,連転職場において,現場管理者による転勤を材料とした組合脱退強要の不当労働行為の事実が明らかになったとして,本件労働協約39条(3)号に基づき,「津山西分室在勤者でEC転換教育修了者及び岡山運転区兼務者に対し『津山に残りたければ脱退せよ』『ネクタイを替えなければ』などと言いつつ転勤をほのめかし,脱退を迫っている事実行為」について,同年3月2日までに団体交渉を開催するよう文書で申し入れた。これに対し,岡山支社は,平成7年3月2日,西労岡山地本に対し,本件団交は本件労働協約39条所定の団交事項に該当しないとして,ロ頭で団交は行わないと伝えた。さらに,岡山支社は,同月10日,西労岡山地本に対し,本件団交申入れについて,「調査したが,そのような事実はない。」と文書で回答し,Y2科長及びY3助役のX4に対する脱退慫慂行為の存在を否定し,今日に至っていることが認められる。
(イ) 検討
a 前記認定判断によれば,Y2科長及びY3助役の発言は,控訴人と補助参加人JR西労及び西労岡山地本との間には労使関係にかかわる事柄をめぐって絶えず緊張関係が生じていたなかで,控訴人の意向に沿って上司としての立場からされた発言と評価せざるを得ないものが含まれているといえる。そうすると特段の事情のない限り,上記発言は控訴人の意を体してされたと判断するのが相当である。
b そこで上記特段の事情について検討するに,前記認定事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,Y3助役は組合員資格を有し,JR西労組に所属していたこと,Y2科長及びY3助役のX4に対する脱退慫慂行為が行われた当時,JR西労組は組織拡大行動を展開していたことが認められる。しかし,他方,Y2科長は津山西分室の管理者で組合員資格を有しないこと,Y3助役もJR西労組の役員等の経験はなく,組合活動を積極的に行っていたこともうかがえないことからするとY2科長及びY3助役の脱退慫通行為はJR西労組への勧誘行為として行われたとみることは相当ではない。また,Y2科長及びY3助役がX4と個人的に懇意にしていた事情も認めるに足りる証拠はないことからすれば,Y2科長及びY3助役のX4に対する上記言動を個人的な関係における助言・忠告等であったと解することは困難である。
c そうすると,本件において,上記特段の事情を認めることはできず,Y2科長及びY3助役のX4に対する補助参加人JR西労からの脱退慫慂行為は,労働組合法7条3号所定の不当労働行為(支配介入)に該当するというべきである。
4 争点(3)(本件団交拒否の正当な理由の存否)について
(1) 次項に「補足判断」を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3争点に対する判断」3(原判決49頁1行目から55頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 補足判断
控訴人は,平成7年3月9日,西労岡山地本が不当労働行為救済申立てをしたことにより当事者間で交渉の進展が期待できないことが明らかであったから,本件団交拒否には正当な理由があった旨主張する。しかし,前記認定,のとおり,控訴人は,上記救済申立て前の同月2日に,西労岡山地本に対し,ロ頭で団交を行わない旨伝えているところであり,上記救済申立てが団交拒否の主たる理由であるとは考え難い。また,労働者側の不当労働行為救済申立てが使用者側の団交拒否の正当な理由になるとも解し難い。控訴人の上記主張は採用することができない。
5 結論
以上によれば,控訴人の請求は理由がなく棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所 第15民事部