東京高等裁判所 平成19年(ネ)1119号 判決 2008年3月25日
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原判決主文第2項中、被控訴人X10、同X21及び同X22を除く被控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X9、同X11、同X12、同X13、同X14、同X15、同X16、同X17、同X18、同X19及び同X20に対し、別紙1認容額一覧表の各被控訴人欄に対応する認容額欄記載の金員を支払え。
3 原判決主文第2項に係る前項の被控訴人らのその余の請求を棄却する。
4 原判決主文第2項中、被控訴人X21及び同X22に関する部分並びに原判決主文第4項を取り消す。
5 前項の取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
6 その余の控訴を棄却する。
7 訴訟費用は、第1、2審を通じ、控訴人と被控訴人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12、同X13、同X14、同X15、同X16、同X17、同X18、同X19及び同X20との間に生じた費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人X21、同X22、同X23、同X24及び同X25との間に生じた分は同被控訴人らの負担とする。
8 この判決は、第2項につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 控訴人は、aカントリー倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という)を運営していた者であるが、平成14年4月1日以降、本件ゴルフ場に設置していた託児所を廃止し、キャディ職の雇用期間を1年間とし、賃金規定を変更するなどの措置を執った。本件は、キャディ職又は保育士職として本件ゴルフ場に勤務していた被控訴人らが、控訴人に対し、次の各請求をした事案である。
(1) 別紙当事者目録被控訴人番号1から17の被控訴人(以下、被控訴人の表記は被控訴人番号による)につき、控訴人との間に期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認請求及び変更前の賃金と変更後の賃金の差額分の支払請求
(2) 被控訴人18、19につき、変更前の賃金と変更後の賃金の差額分の支払請求
(3) 被控訴人20につき、控訴人によってされた解雇が無効であるとして、控訴人との間に期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認請求及び雇用契約に基づく賃金の支払請求
(4) 被控訴人21、22につき、同被控訴人らが退職するについて控訴人による違法行為があったとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求
(5) 被控訴人23から25につき、主位的に、解雇が無効であるとして、控訴人との間に期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認請求及び雇用契約に基づく賃金請求、予備的に、同被控訴人らが退職するについて控訴人による違法行為があったとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求
2 原判決は、被控訴人の請求のうち、前項(1)のうち雇用契約上の地位の確認及び賃金請求の一部、同(2)の全部、同(3)のうち雇用契約上の地位の確認及び賃金請求の一部、同(4)のうち一部の請求、同(5)の予備的請求のうち一部を認容し、その余の請求を棄却した。
控訴人は、原判決のうち、敗訴部分を不服として控訴をした。したがって、被控訴人23から25の主位的請求については、当審の審理の範囲に属しない。
第3当事者の主張
1 被控訴人らの請求原因
(1) (控訴人について)
控訴人は、東京都墨田区に本社を置き、栃木県内で本件ゴルフ場、bカントリー倶楽部、cカントリー倶楽部、dカントリー倶楽部の4箇所のゴルフ場を運営し、関東近県で十数箇所のスポーツ倶楽部の経営を行う株式会社である。控訴人の資本金は6000万円であり、その全額をe鉄道株式会社(以下「e鉄道」という)が出資している。
(2) (被控訴人らの従前の労働条件)
被控訴人らは、いずれも控訴人の従業員として、被控訴人1から22はキャディ職に、被控訴人23から25は保育士職にそれぞれ就いていた。平成14年3月31日までの被控訴人らの労働条件は次のとおりであった。
ア キャディ職の所属は本件ゴルフ場であり、雇用期間の定めはなく、退職金規程が設けられていた。賃金については、平成9年4月1日実施のキャディ給与規程(以下「旧給与規程」という)等に基づき、基本給約9万円、役職手当、家族手当、皆勤手当、荒天手当、調整手当、研修手当、正月手当等の諸手当が支払われ、ほかにラウンドに出た場合のラウンド手当、ラウンドに出ない場合のラウンド外給(後のアフレ手当)、売店勤務給があり、賞与については一般職従業員の給与規程が準用されていた。なお、基本給については、平成10年以降毎年4月に昇給が行われていた。所属ゴルフ場以外のゴルフ場で勤務する場合には、旅費規程に基づく助勤手当が支払われていた。賃金の計算期間は前月11日から当月10日までであり、当月24日に当月分として支払う定めであった。
イ 保育士職の所属は本件ゴルフ場であり、雇用期間の定めはなく、退職金規程が設けられていた。賃金については、一般職従業員の給与規程に基づき、基本給約21万円、住宅手当、資格現場手当等が支払われるほか、賞与が支払われていた。賃金の計算期間はキャディ職のそれと同じである。
(3) (被控訴人らの旧給与規程による賃金額及び賃金差額)
ア 被控訴人1から19は、旧給与規程によれば、平成14年度(平成14年4月から平成15年3月)の賃金額は、原判決別紙3賃金目録③欄に記載のとおりであり、1か月当たりの平均額は、同目録④欄に記載のとおりである。しかし、平成14年4月1日以降キャディ職に適用された給与規程(以下「新給与規程」という)に基づいて平成14年度に支給された現実の賃金は、同目録①欄に記載のとおりであり、その1か月当たりの平均額は、同目録②欄に記載のとおりであり、1か月当たりの未払賃金額は、同目録⑤欄に記載のとおりである。なお、被控訴人18は平成17年7月10日、被控訴人19は平成18年3月10日、それぞれ控訴人を退職した。
イ 被控訴人20は、旧給与規程によれば、平成14年4月1日以降も毎月31万円の賃金の支給を受けることができる。
ウ 被控訴人21が平成13年4月から平成14年3月までに得た賃金の月額平均は30万4147円、被控訴人22のそれは31万9966円である。
エ 被控訴人23が平成13年4月から平成14年3月までに得た賃金の月額平均は32万2910円、被控訴人24のそれは31万4087円、被控訴人25のそれは32万4125円である。
(4) (被控訴人21、22(退職キャディ)の損害賠償請求の原因)
ア 控訴人には、雇用契約上、従業員に対して正当な理由なく契約を遂行しがたい職場の状況を作出するような行為をあえて行ってはならない配慮義務を負っている。
イ 控訴人は、平成14年4月1日実施の労働条件の変更により、キャディ職の賃金が約3割減額されたため、キャディ職従業員の中には家計を維持していくことが困難となり、副業をしたり転職を余儀なくされる者が出ることを認識しながら、大幅な賃金減額を伴う労働条件の変更を実施したため、被控訴人21、22は、退職を余儀なくされた。また、控訴人は、労働条件の変更について十分な説明を行わず、キャディ契約書を提出しない場合には解雇となると誤信させていたことも、同被控訴人らの退職を動機付けた。
ウ 控訴人の労働条件の変更は、その内容及び手続において、使用者としての上記義務に違反するものであり、控訴人は、被控訴人21、22に対し、債務不履行又は不法行為により、退職に伴う次項の損害を賠償する義務を負う。
エ 被控訴人21、22の損害は次のとおりである。
(ア) 逸失利益 退職しなければ受けられた賃金6か月分
被控訴人21につき182万4882円(月額30万4147円)
被控訴人22につき191万9796円(月額31万9966円)
(イ) 慰謝料 各100万円
(ウ) 合計額
被控訴人21につき282万4882円
被控訴人22につき291万9796円
(5) (被控訴人23から25(保育士)の損害賠償請求の原因)
ア 使用者は、雇用契約の付随義務として労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備し、労働者の人格権を侵害しないように人事権を行使する義務を負う。使用者が、労働者に退職勧奨を行う場合、その態様が社会的相当性を逸脱した場合には違法な権利侵害となる。
イ 被控訴人23から25は、託児所の廃止に伴い、事務職への配置換えを強く希望し、キャディ職への配置換えであれば、解雇扱いをするよう要請していた。控訴人は、同被控訴人らに退職届を提出させる不当な意図の下に、事務職への配置換えが不可能であり、キャディ職への配置換えしかないとして、その人事権を恣意的に行使し、同被控訴人らの自己都合退職を強要した。控訴人の係る行為は、雇用契約上の債務不履行又は不法行為であり、控訴人は、同被控訴人らの次項の損害を賠償する義務がある。
ウ 被控訴人23から25の損害は次のとおりである。
(ア) 逸失利益 退職しなければ受けられた賃金6か月分
被控訴人23につき193万7460円(月額32万2910円)
被控訴人24につき188万4522円(月額31万4087円)
被控訴人25につき194万4750円(月額32万4125円)
(イ) 退職金差額相当分 自己都合退職と会社都合退職の差額
被控訴人23につき92万6229円
被控訴人24につき88万2690円
被控訴人25につき87万5189円
(ウ) 慰謝料 各100万円
(エ) 弁護士費用
被控訴人23につき38万6368円
被控訴人24につき37万6721円
被控訴人25につき38万1993円
(オ) 合計額
被控訴人23につき425万0057円
被控訴人24につき414万3933円
被控訴人25につき420万1932円
(6) (被控訴人1から19の請求のまとめ)
控訴人は、平成14年4月1日以降、新就業規則及び新給与規程を実施し、キャディ職の雇用期間が1年契約によるものとして取り扱い、また、新給与規程により賃金の支払をしたため、従来の給与規程による賃金との差額分の支払をしない。よって、被控訴人1から17は、控訴人に対し、それぞれ期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認を求め、被控訴人1から19は、控訴人に対し、前記(3)アのとおり、新給与規程の適用により生じた未払賃金(更正決定後の原判決別紙3賃金目録記載のとおり)の支払を求める。
(7) (被控訴人20の請求のまとめ)
控訴人は、被控訴人20に対し、平成14年3月31日、職を免ずる旨の辞令を交付したが、後記のとおり、同被控訴人は退職の意思を表明したことはなく、雇用契約上の地位があり、新就業規則及び新給与規程の効力は生じない。よって、被控訴人20は、控訴人に対し、期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認及び未払賃金(原判決別紙3賃金目録記載のとおり)の支払を求める。
(8) (被控訴人21、22の請求のまとめ)
被控訴人21、22は、控訴人に対し、前記(4)のとおり、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人21につき282万4882円、被控訴人22につき291万9796円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成14年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(9) (被控訴人23から25の請求のまとめ)
被控訴人23から25は、控訴人に対し、前記(5)のとおり、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人23につき425万0057円、被控訴人24につき414万3933円、被控訴人25につき420万1932円の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は認める。
(3) 同(3)アのうち、被控訴人1から19に平成14年度に現に支払われた賃金が被控訴人ら主張の金額であること、同ウ、エの事実は認め、その余の事実は争う。
(4) 同(4)の主張は争う。
(5) 同(5)の主張は争う。
3 控訴人の抗弁
控訴人は、原審において、キャディ職である被控訴人らの請求のうち、契約上の地位確認及び未払賃金請求に関し、控訴人との間における合意による労働条件の変更の事実を主張したが、当審において、期間の定めのある雇用契約への変更の合意の抗弁を撤回し(就業規則による雇用期間の定めのある契約への変更の主張はしない)、賃金に関する労働条件変更の合意の抗弁を維持しつつ、これと選択的に、就業規則(給与規程)の変更による賃金に関する労働条件変更の抗弁を追加した。上記主張を含む控訴人の抗弁は以下のとおりである。
(1) (労働条件変更の合意)
ア 控訴人は、平成14年1月30日、本件ゴルフ場において、同ゴルフ場勤務のキャディ職及び保育士職の従業員を集め、経営(ゴルフ場部門)を合理化する必要上、同年4月1日以降、雇用契約の内容を変更する旨の説明を行った。まず、当時の社長であるA(以下「A社長」という)が全体説明として、控訴人の厳しい経営環境を説明した上、①キャディ職従業員の雇用期間を1年ごととすること、②退職金制度を廃止し、同年3月31日時点で精算すること、③現時点での在籍者はそのまま雇用を継続すること、④固定給及び各種手当てを廃止してラウンド手当主体の給与体系とし、ラウンド手当を増額し、4バック1万円、アフレ手当7330円とすること、⑤キャディ職従業員の所属を本件ゴルフ場に限定せず、控訴人の会社の所属とすること、⑥託児所を廃止すること等を告げた。その後、総務部長B(以下「B部長」という)、総務部副部長C(以下「C副部長」という)及び支配人D(以下「D支配人」という)が、従業員と個別に面談し、「キャディ職雇用制度の改定について」と題する書面(書証省略)に基づいて説明をし、質問を受けた上、キャディ契約書の用紙を配布し、同年2月15日までに提出するよう指示した。
イ 被控訴人1から19、21、22を含む36名のキャディ職従業員は、平成14年2月5日から同月15日までに間にキャディ契約書を提出した。
ウ 控訴人は、平成14年4月1日、キャディ職に関する旧給与規程(書証省略)を改め、新給与規程(書証省略)に基づきキャディ職の賃金を支給することとしたのであり、未払賃金はない。
(2) (就業規則の変更)
ア 新給与規程(書証省略)は、控訴人の経営上の必要性から旧給与規程(書証省略)を変更したものであり、その内容及び手続は合理的なものであるから、その変更内容が被控訴人らを含む従業員に不利益なものであっても、就業規則として効力を有するものである。控訴人は、原審口頭弁論期日において、就業規則の変更が有効である旨の主張をしない旨述べたが、これは、前項の労働条件の変更合意(追認の主張を含む)の主張が十分立証できると見込まれたことから述べたものであり、控訴審において主張することは何ら時機に後れたものと評価されない。
イ 就業規則が集団的労使関係を画一的に取り扱うことから、それが合理的な労働条件を定めている限り法的規範性を有することは、最高裁判例により承認されているところである。最高裁判例(最判昭和43年12月25日秋北バス事件、最判平成9年2月28日第四銀行事件等)に照らすと、労働条件の不利益変更については、①使用者側の変更の必要性の内容・程度、②労働者が被る不利益の程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯、⑥他の労働組合又は他の従業員の対応、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的な状況を総合考慮して判断されるべきである。
ウ (労働条件変更の必要性)
控訴人を含むfグループ各社は、連結決算が義務づけられた事情の下に、収益力増強等の経営体質強化をe鉄道から求められるようになった。fグループは、平成14年1月、「中期経営計画」を発表し、人員削減、有利子負債の圧縮、資産売却、不採算事業からの撤退、グループ子会社の独立採算性の徹底、賃金の平均10パーセントカット、資産の証券化等の施策を打ち出した。特にゴルフ事業を含むレジャー産業部門では、赤字店舗の閉鎖、ゴルフ事業の運営効率化が求められ、fグループの他のゴルフ場では、平成13年度中にキャディ従業員の雇用期間の有期化、退職金制度の廃止、セルフプレーの導入によるキャディ職の人員整理などが進められていた。ゴルフ場の運営における人件費の占める割合は高く、控訴人においては、特にキャディ職人件費の占める割合が全人件費の59.9パーセントに達していた。
本件ゴルフ場の収益状況をみると、平成13年度に4億8000万円余りの営業損失を生ずる状態であった。平成9年から平成13年にかけて、顧客からの収入は36.3パーセント減少した。これに対し、支出のうちの人件費は支出の4割を占め、収入の7割に上っていた。その人件費のうちキャディ職人件費は平成9年から平成13年にかけて減少せず、逆に1パーセント増加した。上記期間に、事務職人件費は17.9パーセント、清掃・設備管理費は12.1パーセント、コース管理費は27.9パーセント減少している。キャディ職人件費だけが手つかずの状態であった。
キャディ職の業務内容は定型化されたもので、実際の労働時間は5、6時間であり、ラウンドさえ終了すれば、他の業務を手伝うこともなくそのまま帰宅できた。キャディ職の業務内容に照らせば、従来の年功型賃金にはなじまず、ラウンド手当中心の賃金体系にすることが相当であった。
エ (被控訴人らの被った不利益の程度、内容の合理性)
新就業規則及び新給与規程によるキャディ職の労働条件の内容の要旨は次のとおりである。
(ア) 契約期間 平成14年4月1日から1年間
(イ) 所属・勤務地 a・c・bの3ゴルフ場
(ウ) 業務内容 キャディ職及び会社の指示する業務全般
(エ) 賃金 客付ラウンドに応じたラウンド手当を支給。1ラウンド4バックの場合1日1万円。アフレ保障1日7330円。従前支給していた基本給、諸手当のうち正月手当、時間外勤務手当、通勤手当以外は廃止する。
(オ) 年次有給休暇 従前の日数を継続する。年休取得のときは、標準報酬日額を支払う。
(カ) 昇給 原則として行わない。
(キ) 賞与 業績に応じて支給する。
(ク) 退職金制度 廃止する。退職金は平成14年3月31日時点における自己都合退職の支給率で精算する。
(ケ) 労働時間 1日8時間 年間2080時間、年間労働日260日、年間休日105日
(コ) 社会保険 健康保健、厚生年金、雇用保険は継続する。
1年ごとの雇用期間となったが、基本的には更新することが前提のものであり、被控訴人らにとって期間の定めのない契約と比較して従業員の地位の安定が脅かされたということは一切なかった。契約期間を定めたのは、さらなる労働条件の切下げもやむを得ない状況になるかもしれないことから、従業員の意向を確認するために1年間の期間雇用としたにすぎない。
賃金の額は、平均24パーセント減額される結果となったが、ラウンドに出る機会を増やしたことから、不利益の程度はある程度減殺された。さらに、前記のとおりラウンドが終了すれば帰宅できること、ラウンドがないときはキャディ業務がないにもかかわらずアフレ手当が支給されることなど、基本給を設定する賃金体系が労務の実態に合わないところを合理的に変更したというべきである。近隣ゴルフ場のキャディ職の賃金に比較しても、本件ゴルフ場のキャディ職の賃金が高額であったから、変更後の賃金額は合理的水準に落ち着いたといえる。賞与はもともと恩恵的な給付の面がありながら支給が継続され、特に平成14年夏・冬期の賞与は前年と変わらない金額が支給されており、被控訴人らにとって受忍限度を超える不利益はなかった。
退職金については、将来経営難のために支給できなくなるリスクを回避するため、制度自体を廃止したが、被控訴人らに対しては、事前に支給するという恩恵的な措置を講じたものであり、退職金制度廃止に伴う不利益はない。
オ (代償措置等)
前記の退職金の精算は、将来支給できるか不確実なものであり、そのような事態を回避するため、本来支給する時期でない時点で精算するという意味で代償措置としての位置付けができる。
キャディ職の所属を各ゴルフ場に限定せず、控訴人が運営する3ゴルフ場としたのは、ラウンドに出る機会を増やすことになり、ラウンド手当、アフレ手当を増額することと相まって、基本給等の廃止に伴う賃金減額を緩和する代償措置と評価できる。
控訴人は、被控訴人らの要望に応じて、本来雇用契約上労働者が負う職務専念義務を厳格に求めず、兼職を許容したが、これも被控訴人らの生活に配慮した代償措置の一つである。
そもそも、整理解雇をせずにキャディ職の雇用を継続したこと自体、賃金減額に対する代償措置と評価すべきである。
カ (交渉経過等)
控訴人は、前記(1)ア記載とおり、労働条件の変更内容の説明を行い、賃金額が減額となることが分かるように説明をし、個別面接において従業員の質問に対して答えた。さらに、平成14年3月20日には、新たな賃金体系を書面で告知した。被控訴人らは、平成14年4月10日、労働組合を結成したが、本件訴え提起までの間に6回の団体交渉を行い、労働条件について具体的な協議をして、労働条件の変更について説明を尽くした。
キ (他の労働組合及び従業員の対応)
被控訴人ら以外のキャディ職従業員は本件の労働条件の変更に理解を示し、63.1パーセントのキャディ職従業員がキャディ契約書を提出した。被控訴人ら以外で組織するYスポーツ労働組合は、平成14年11月23日、新たな就業規則について同意した。
ク (同種事項に関する我が国の一般状況)
平成13年ころのゴルフ場経営をめぐる経済環境としては、ゴルフ場の倒産が激増し、ゴルフ場利用者数が激減し、利用料金も大幅に減額されている厳しい状況にあった。このような中で、ゴルフ場事業における人件費は、売上の40パーセント程度にしないと赤字決算を免れないものとされていた。
ケ 以上の諸事情に照らせば、新給与規程を含む就業規則(書証省略)による労働条件の変更は、経営上の必要性に基づく合理的なものであって、控訴人と被控訴人らとの雇用契約において法的規範性を有するから、新給与規程に基づいて支給された被控訴人らの賃金は適正であり、未払賃金はない。
(3) (被控訴人20の雇用契約終了原因)
被控訴人20が平成14年2月、同年3月末日で退職する旨の口頭の申出をし、控訴人が申出に基づいて職を解く旨の辞令を交付したのであり、雇用契約は合意解約によって終了した。控訴人は、平成14年2月9日及び同月13日、被控訴人20の退職の意思を確認しており、退職願の提出を受けなかったものの、同被控訴人は、退職理由について会社都合か自己都合かを争っていたにすぎず、離職票の交付、制服の返還等について何ら異議の申出はなく、退職証明書の発行を求めたことからも退職の意思があったことは明らかである。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)のうち、平成14年1月30日に、A社長の全体説明があり、その後、従業員の個別面接があったことは認めるが、A社長の説明内容は争う。被控訴人1から19、21及び22がキャディ契約書を提出したことは認め、控訴人主張の労働条件変更の合意が成立した事実は否認する。
(2) 抗弁(2)について
ア 控訴人は、原審において、就業規則の変更が有効である旨の主張をしないとしていたのであり、当審において新たに同主張をすることは信義にもとる訴訟態度であり、訴訟の完結を遅延させるから、民事訴訟法157条により却下すべきである。
イ 控訴人は、新就業規則(書証省略)において、平成14年4月1日以降、契約期間を1年間としているが、契約期間は雇用契約において債務の要素の変更であるから契約の更改(民法513条)に当たり、就業規則の変更の理論はおよそ妥当しない。
ウ 控訴人は、労働条件変更の必要性に関し、本件ゴルフ場の収入、支出に関する立証として、控訴人が抽出・加工した資料を証拠として提出するのみで、原資料の提出をしない。したがって、控訴人が主張する経営上の数値が立証がされたとはいえない。
エ 後記の被控訴人らの受ける不利益をあえて受忍させるに足りる経営上の高度の必要性はない。
控訴人は、控訴人の営業のうちゴルフ場部門が赤字であることを根拠としているが、ある部門が赤字であるからといって当該部門の労働者のみが労働条件の不利益変更を甘受すべきいわれはない。一事業部門の収支が会社全体の収支に深刻な影響を与える場合に、会社全体の収支の改善のため全労働者の労働条件をどのように変更するかを検討するのが原則である。それ以前の問題として、赤字部門をどのようにするかが検討されなければならない。本件ゴルフ場の場合、法人会員制のグレードの高いゴルフ場として位置付けられていたという経緯を無視することはできない。
オ 本件の労働条件の変更によって、被控訴人らが被った不利益は甚大である。雇用期間が期間の定めのないものから1年の有期契約とした点は、被控訴人らの契約上の地位を不安定にするものであり、その不利益は大きい。賃金額について少なくとも平均24パーセント以上の大幅な減額となり、これは個々の被控訴人らの生活実態に照し、著しい影響を与えた。基本給については、約9万円の支給があったものが廃止され、諸手当については、役職手当(主任7000円、副主任5000円)、家族手当(配偶者8000円、子4000円)、皆勤手当(5000円)、荒天手当(1ラウンド800円)、住宅手当(上限1万3000円)、調整手当(勤続年数と勤務成績により上限2万3440円)、正月手当(日額3000円が2000円に減額)、助勤手当(1回500円)が廃止ないし減額された。その他、昇給制度の廃止、生理休暇等の無給化、退職金制度の廃止等が併せて実施されており、その不利益の程度は著しい。
カ 本件の労働条件の変更の内容について、事前に適切な説明がされず、変更後に開示されたから、手続の面からみても適正さを欠いている。被控訴人らは、キャディ契約書の提出を求められただけであり、就業規則の変更についての協議が行われたとはいいがたい。
(3) 抗弁(3)は否認する。
被控訴人20が託児所の廃止により子供を預けられなくなるのは困るという発言をしたが、これは退職の意思表示ではない。退職願の提出が就業規則上必要であるにもかかわらず、退職願が提出されなかったことからもみても、同被控訴人に退職の意思がなかったことは明らかである。
5 被控訴人らの再抗弁(抗弁(1)につき錯誤)
(1) 仮に労働条件変更の合意が認められるとしても、被控訴人1から19は、キャディ契約書の提出に当たり、労働条件の変更があっても、旧条件とほとんど変わらない賃金を受け取れること、諸手当のすべてが廃止されるものではないこと、退職金規程がなくならないことなどと誤信をしていたから、同被控訴人らの意思表示には錯誤があった。
(2) 被控訴人1から19は、キャディ契約書を提出しなければ解雇されるものと誤信してキャディ契約書を提出したものであり、同被控訴人らの意思表示には錯誤があった。
(3) 控訴人主張の労働条件変更の合意が成立していたとしても、同被控訴人らの意思表示には上記錯誤があり、同合意は無効である。
6 再抗弁に対する認否
否認し争う。
7 控訴人の再々抗弁
(1) (錯誤について重大な過失)
被控訴人ら主張の錯誤については、被控訴人らに重大な過失があったから、錯誤の主張は許されない。
(2) (追認)
控訴人が被控訴人らが所属する労働組合と新就業規則及び新給与規程を前提とする労働協約の締結をしたこと、キャディ職である被控訴人らが平成15年2月に契約更新願書及びキャディ労働契約書を提出したことは、抗弁(1)の労働条件の変更の合意を追認したことになる。
8 再々抗弁に対する認否
いずれも争う。
第4当裁判所の判断
1 争点の確認
上記の双方の主張にかんがみると、本件の争点は次のとおり整理できるので、以下、この争点に関して判断を進める。
(1) 労働条件変更の合意の有無(抗弁(1))
控訴人は、雇用期間について変更された旨の抗弁を主張しないから、差額賃金支払請求との関係では、給与規程(就業規則)変更の合意の有無が問題となる。なお、上記合意が是認された場合には、労働条件変更の合意に関する錯誤の有無(再抗弁)、上記錯誤に関する重過失の有無(再々抗弁(1))、追認(再々抗弁(2))を検討する必要がある。
(2) 変更後の新給与規程が被控訴人らを拘束するか(抗弁(2))
控訴人は、雇用期間について変更された旨の抗弁を主張しないから、請求原因の関係では、賃金に関する変更部分が争点となり、必要な限度で他の労働条件について検討する。
(3) 被控訴人20の雇用契約の終了原因の有無(抗弁(3))
(4) 被控訴人21、22の損害賠償請求の原因の有無(請求原因(4))
(5) 被控訴人23から25の損害賠償請求の原因の有無(請求原因(5))
2 労働条件変更の合意の有無(抗弁(1))
(1) 各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
ア 控訴人は、東京都墨田区に本社を置き、栃木県内で本件ゴルフ場、bカントリー倶楽部、cカントリー倶楽部、dカントリー倶楽部の4箇所のゴルフ場を運営し、関東近県で十数箇所のスポーツ倶楽部の経営を行う株式会社である。控訴人の資本金は6000万円であり、その全額をe鉄道が出資している。(争いがない)
イ 控訴人は、e鉄道から本件ゴルフ場を含む3箇所のゴルフ場の運営を委託されていたが、親会社であるe鉄道の平成14年中期経営計画「fグループ再構築プラン」の方針の下、ゴルフ事業における人件費の削減のため、キャディ職の賃金の体系及びその金額の見直しを行うこととした。控訴人は、平成14年4月以降、キャディ職について、雇用期間1年の有期雇用とする、退職金制度を廃止し、同年3月末時点で自己都合退職の支給率による精算金を支払う、賃金をラウンド手当(ラウンド手当1日1万円、アフレ手当7330万円)を中心とし、固定給及び諸手当を廃止する方針を決めた。これにより、平均24パーセントの割合による賃金の減額が生ずるものと試算された。(証拠省略)
ウ 控訴人は、平成14年1月24日付けの社報(書証省略)を従業員に回覧する措置を執った。同社報には、e鉄道の中期経営計画により、受託ゴルフ場の土地以外の諸施設を控訴人が買い取り、独立採算性をもって経営を行う予定であると記載されていた。(書証省略)
エ 控訴人は、平成14年1月30日は、本件ゴルフ場のコンペルームにキャディ職及び保育士職の従業員を集め(出席者34名、欠席者4名)、A社長が、午前7時30分ころから、事前に作成したメモ(書証省略)に基づいて数分間の説明をした。同メモは、上記社報と同様の情勢を説明した上で、退職金を平成14年3月末日で精算すること、同年4月1日以降1年ごとの契約とすること、固定給を廃止し、ラウンド手当を増額し、アフレ手当は継続すること、ゴルフ場の所属ではなく会社の所属とし、本件ゴルフ場を勤務地とすること、ラウンドの機会は増えることを内容とするものである。(証拠省略)
オ A社長の上記説明に引き続き、B部長、C副部長及びD支配人により、従業員との個別面談が行われ、B部長が、総務部作成に係る「キャディ職雇用制度の改定について」と題する書面(書証省略)に基づき説明をした上、質問を受けた。同書面は、雇用期間を平成14年4月1日から1年間とし、控訴人の所属とした上、勤務地を現在のゴルフ場とすること、賃金は、1バック1万円のラウンド手当を主体とし、アフレ手当は1日7330円とすること、基本給及び諸手当(正月手当、時間外勤務手当、通勤手当を除く)を廃止すること、年次有給休暇は継続すること、生理休暇・特別休暇は無給とすること、昇給を原則行わないこと、賞与は業績に応じて支給すること、労働時間は1日8時間、年間2080時間であること、健康保健・厚生年金・失業保険は継続することを内容とするものである。そして、B部長は、各キャディ職従業員に対し、キャディ契約書の用紙を交付して、平成14年2月15日までに同契約書を提出するよう指示した。
キャディ職従業員からは、3バック、2バックの場合のラウンド手当の額がいくらであるか、毎月の賃金がいくらになるか分からず不安である、賃金が減額になる場合アルバイトを許容して欲しい、1年契約の場合1年経過後はどうなるのか、キャディ契約書を提出しない場合には解雇となるのか自己都合退職かといった反応があった。
当日欠席した従業員に対しては、平成14年2月1日、D支配人から同様の説明が行われ、キャディ契約書の用紙が交付された。
なお、A社長の説明及び個別面接における説明はすべて口頭で行われ、キャディ契約書の用紙以外に交付された書面はなく、控訴人が試算した平均24パーセントの賃金減額という数値も示されることはなかった。(証拠省略)
カ 被控訴人ら(被控訴人20、23から25を除く)を含むキャディ職従業員36名が、平成14年2月5日から15日までの間にキャディ契約書(書証(省略)は被控訴人らに関するもの)を提出した。被控訴人20ほか1名のキャディ職従業員がキャディ契約書を提出しなかった。キャディ契約書の全文は次のとおりである。(書証省略)
「1 雇用期間
平成14年4月1日より平成15年3月31日までの1年間
ただし、会社に対し不都合な行為があった場合は、契約を解除する。
2 職務
キャディ業務の他、会社の指示による。
3 勤務時間
拘束時間 9時間00分
実働時間 8時間00分
休憩時間 60分
ただし、業務の必要により所定時間外に勤務させることがある。
4 休日
年間105日(4月1日より翌年3月31日まで)
ただし、業務の都合により休日に勤務させることがある。
5 休暇
年次有給休暇、会社の定めによる有給休暇を与える。
6 賃金
会社との契約金額とする。
7 賞与
会社の定めにより支給する。
8 服務遵守事項
就業規則、服務心得による。
9 その他就労条件
会社の定めによる。(就業規則・給与規程)
私は、株式会社Yスポーツの1年契約として上記事項を承諾し、誠実に業務を履行いたします」
キ 控訴人は、その後、新就業規則及び新給与規程を作成し、平成14年3月5日ころ、新就業規則を本件ゴルフ場事務所に備え置き、同年4月3日ころから、本件ゴルフ場キャディ控室に備え置いた。控訴人は、同年3月20日ころ、キャディラウンド手当、アフレ手当、年休保障手当、正月手当、通勤手当を記載した書面を本件ゴルフ場に掲示した。(証拠省略)
ク 被控訴人らは、平成14年4月8日、栃木県一般労働組合Yスポーツ支部(以下「被控訴人ら組合」という)を結成し、控訴人との団体交渉を重ねたが、控訴人は、新就業規則及び新給与規程が有効であるとの立場を、同組合はその効力を争う立場をそれぞれ維持した。(証拠(省略)、弁論の全趣旨)
ケ 控訴人(D支配人が代表)と被控訴人ら組合とは、平成14年9月2日、労働協約を締結したが、その内容は、「会社と組合は下記事項について合意する。(1)1年契約の契約社員の場合、就業規則上の重大な違反がなければ、その雇用契約を更新するものとする。(2)キャディは、会社に届け出ることで、他にアルバイトをすることができる。(3)キャディの休日の取り方及び交替制勤務の勤務時間の取扱いは従来通りとする。(4)1年間の変形労働時間制について、1日の所定労働時間は8時間とし、これを延長することはしない」というものである。同労働協約は、同年11月18日、控訴人によって解約された。(書証省略)
コ 被控訴人らは、平成14年11月26日、本件訴えを提起した。(記録上明らかである)
サ 被控訴人1から19は、平成15年2月7日までに、「私は、平成14年4月1日締結の労働契約の内容を認め、平成15年4月1日から1年間の契約の更新を希望する」旨記載がある契約更新願書を控訴人に提出し、さらに、同被控訴人らは、同月28日までに、新就業規則及び新給与規程に沿った内容が記載されたキャディ労働契約書を控訴人に提出した。被控訴人ら組合は、上記契約更新願書が、被控訴人らの裁判権を侵害するものであるとの申入れを行い、控訴人は、雇用継続を希望するかどうかを確認するために提出を求めるものであり、記載文言を訂正してもよい旨を回答した。(書証省略)
(2) 以上の認定事実に基づいて、控訴人が主張する労働条件の合意の成立について検討する。
たしかに、前記認定のとおり、控訴人は、平成14年1月30日、本件ゴルフ場において、キャディ職等の従業員を集め、全体説明及び個別面接における説明を通じて、キャディ職従業員の雇用について見直しをしていること、雇用期間を1年の有期契約に変更すること、ラウンド手当を中心とした給与体系とし、基本給及び諸手当の大半を廃止することなど、控訴人が意図する新就業規則及び新給与規程の大綱について口頭での説明をしたのであり、この説明は、本件ゴルフ場の収益が独立の事業体として赤字状態であり、独立採算性に移行する予定であるとの説明とあいまって、被控訴人らのキャディ職従業員にとって契約上の地位に大きな変動を生じ、賃金も減額することが予想されることを理解するに足りる内容であったといえる。そして、控訴人が1年ごとの契約期間として、毎年契約書を個別の従業員と締結する心づもりであったことも容易に推測される。
しかし、雇用契約を期間の定めのないものから1年の有期契約に変更することを始め、賃金に関する労働条件の変更、退職金制度の廃止、生理休暇・特別休暇の無給化等その内容も多岐にわたっており、数分の社長説明及び個別面談での口頭説明によって、その全体及び詳細を理解し、記憶に止めることは到底不可能といわなければならない。被控訴人らキャディ職従業員に交付されたキャディ契約書の記載内容についても、上記の労働条件の変更内容については、雇用期間が平成14年4月1日から1年間とすることが明記されているほかは、賃金について会社との契約金額とするとか、その他就労条件は会社の定めによるといった記載であって、その内容を把握できる記載ではない。3バック、2バックのラウンド手当の金額についてもキャディ契約書提出前には示されていないし、キャディ契約書の提出の意味について、キャディ職従業員から、提出しない場合どうなるかとの質問もあったが、明確な返答がされたとは認めがたく、また、キャディ契約書の提出が契約締結を意味する旨の説明がされたこともうかがわれない。したがって、労働条件の変更の合意を認定するには、労働者である被控訴人らが締結する契約内容を適切に把握するための前提となる控訴人の変更契約の申込みの内容の特定が不十分であるというほかはない。
もちろん、雇用契約において、就業規則が集団的契約関係を律する法的規範として機能しているから、すべての労働条件が書面にせよ口頭にせよ使用者と労働者との間で締結されるべきとはいえない。しかし、控訴人による平成14年1月30日における口頭説明では、当事者間の契約で合意する事項と就業規則で定めることとの峻別すら行われていないのであって、控訴人主張の口頭合意にしても、その範囲が明確であったとはいえない。しかも、キャディ契約書中の賃金に関する部分は、会社との契約によると記載があり、キャディ契約書のほかに契約書を作成することを予定するように読めるし、この点は控訴人の主張とそごするところであり、被控訴人らに誤解を与えることになる。してみると、この点においても、労働条件の変更合意の申込みに対してこれを承諾する対象の特定を欠くといわざるを得ない。
しかも、控訴人は、我が国では著名なe鉄道の100パーセント子会社であって、役員等幹部職員はe鉄道から派遣されているのであり(人証省略)、従前から就業規則、給与規程、退職金規程等を完備させていた企業であり、雇用契約及びその変更等を口頭で処理していた慣行があったこともうかがえないから、キャディ職従業員の雇用契約の内容の抜本的変更を上記のような記載内容のキャディ契約書で処理しようと意図したものとは思われない。現に、控訴人は、新就業規則及び新給与規程を作成し、これを労働基準監督署に届け出ている。
以上検討したところによれば、控訴人が、新就業規則及び新給与規程の作成過程において、従業員への説明と理解を得る目的から、平成14年1月30日の本件ゴルフ場での説明を行い、キャディ契約書の提出を求め、特に雇用契約期間を1年と変更するについては、就業規則の変更によらず、書面による承諾を得ることを意図したと理解することはできるが、平成14年4月1日以前において、控訴人と被控訴人らキャディ職従業員との間で、新賃金規程の内容に沿った口頭による労働条件の変更の合意が成立したと認めることはできない。
なお、控訴人は、控訴人と被控訴人ら組合との間の平成14年9月2日付け労働協約の締結、契約更新願書及びキャディ労働契約書の提出があったことが、上記の労働条件変更の合意があったことの証左である旨主張する。たしかに、前記労働協約の文言は前記認定のとおりであり、「1年契約の契約社員」「雇用契約を更新」といった控訴人の主張に沿う文言があったり、賃金の減額が現実化していることから、キャディ職のアルバイトを認める条項があるなど、控訴人が平成14年4月1日に変更したの労働条件を前提とする内容の記載がある。しかし、被控訴人ら組合が新就業規則及び新給与規程を認める旨の文言が明示されているわけではなく、控訴人が現に実施している労働条件の下において、組合としての要求を行うことは折衝の在り方として現実的な対応であり、控訴人が現に実施している労働条件が法的根拠がないとしても、かかる現実的要求を差し控えなければいけないという道理はない。したがって、上記労働協約の存在することをもって労働条件変更の合意があったことの根拠とすることはできない。また、契約更新願書及びキャディ労働契約書は、被控訴人らが本件訴えを提起した後に控訴人が提出を要求したものであり、前記認定のとおり、被控訴人ら組合が裁判権の侵害であるとして抗議をし、控訴人も契約更新意思の確認(継続雇用の希望聴取)であるとして、文書の文言の訂正をしてよいと返答した経緯があり、上記文書の文言の訂正が一切ないとしても、これによって、被控訴人らが、労働条件の変更を受忍したとは到底解することができず、労働条件変更の合意があったことの根拠とすることはできない。
したがって、口頭の合意により、新給与規程の内容に沿った労働条件の変更がされた旨の控訴人の主張は採用できない。
3 新給与規程が被控訴人らを拘束するか(抗弁(2))
(1) 控訴人は、新給与規程によって、被控訴人らキャディ職従業員の旧給与規程が変更され、これに基づいて支給された平成14年4月1日以降の賃金について未払がない旨主張する。被控訴人らは、控訴人のこの点の主張が時機に後れたものである旨主張するが、事案の内容及び訴訟の経過に照らして、当審において判断を加えるのが相当であるから、以下判断することとする。
(2) 就業規則の変更の効力については、一般に、次のとおりいうことができる。新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない。しかし、就業規則が労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とすることから、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。就業規則の作成又は変更は、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものである限り、その効力を生ずるものというべきである。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす場合には、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならない。この合理性の有無は、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他の関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業者の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断される(最高裁判所昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁、同裁判所昭和60年(オ)第104号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁、同裁判所平成5年(オ)第650号同8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号1008頁、同裁判所平成4年(オ)第2122号同9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁、同裁判所平成8年(オ)第1677号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。
以下、上記基準によって、新給与規程の定めが被控訴人らキャディ職従業員に係る契約関係を拘束するかどうかを検討する。
(3) 被控訴人らの被る不利益について検討する。
ア 新給与規程及び新就業規則によりキャディ職従業員の労働条件が変更された点は、次のとおりである(書証省略)
(ア) 雇用期間を1年の有期契約としたこと(新就業規則3条)
新就業規則3条は、従業員の定義規定であり、「第13条に定める所定の手続を経て期間を定めて入社した者」としており、期間の定めのないキャディ職従業員を想定していないようにも読めるが、必ずしも判然としない。この点は、控訴人が期間の定めのある雇用契約への変更の合意の抗弁を撤回したので、これ以上判断をしない。
(イ) 賃金に関する規定をラウンド手当中心に改めたこと(新給与規程2条)
新給与規程2条は、賃金(給与)を①ラウンド手当、②アフレ保障給(アフレ手当)、③時間外勤務手当、④通勤手当とし、同9条でラウンド手当を4B1万円、3B9000円、2B7500円と定める。また、アフレ手当を7330円としている。
旧給与規程2条では、給与の種類を(1)基準賃金①基本給(実績は約9万円)、②役職手当(主任7000円、副主任5000円)、③家族手当(配偶者8000円、子4000円)、(2)基準外賃金①時間外勤務手当(7.21/1000増し)、②皆勤手当(5000円)、③ラウンド手当、④荒天手当(800円)、⑤ラウンド外手当、⑥通勤手当、⑦住宅手当(上限1万3000円)、⑧調整手当、⑨研修手当としていた。その他正月手当が日額3000円支給されていたのが2000円に減額された。
(ウ) 昇給制度を廃止したこと(新給与規程15条)
旧給与規程第4章30条では、一般従業員給与規程を準用し、毎年4月に行うとしていたが、これを廃止した。従来の昇給制度の実情は記録上不明である。
(エ) 生理休暇・特別休暇を無給としたこと(新給与規程6条)
旧給与規程7条では、賃金を支払わない休暇から生理休暇及び慶弔罹災休暇を除外していた。
(オ) 退職金制度を廃止したこと(新給与規程16条)
旧就業規則50条では、退職金を支払うとし、退職金規程(書証省略)が設けられていたが、新就業規則では退職金の規定が設けられず、新給与規程16条は、キャディ職従業員の退職金は支払わない旨が明示され、平成14年3月末の時点で自己都合退職に準じた金額により退職金が精算された。なお、他の従業員については、退職金制度は存置された。
イ 上記労働条件の変更のうち、雇用期間の点について、控訴人は、本件訴訟(当審)において、期間の定めのない雇用契約の確認請求に関する変更合意の抗弁を撤回してこれを主張しないとし、また、特段の就業規則がない限り更新する扱いであって、被控訴人らにとって不利益ではない旨主張する。
しかし、抗弁として主張しないこと自体は訴訟上の問題であって、その結果、後記7(1)アのとおり被控訴人らと控訴人との関係において、期間の定めのない雇用契約が存在することが確定することになるが、新就業規則及び新給与規程が雇用契約上の法的規範として効力をもつかどうかについての検討においては、新就業規則の規定の存在を考慮せざるを得ない。また、キャディ契約書の存在を度外視して、新就業規則の存在から直ちに被控訴人らの雇用契約が期間の定めのないものに変更となったと解されるかどうか疑問がないではないが、控訴人が被控訴人ら雇用期間を有期化しようとしたことは明らかである。そして、旧就業規則に基づく期間の定めのない雇用契約の場合、雇用契約上、就業規則に解雇事由の定めがあり、使用者の解雇権に制限がある場合はもとより、解雇権の濫用の法理による制約があることから(平成15年法律第104号による労働基準法の改正により、同趣旨の18条の2が設けられている)、期間の定めのない雇用契約上の労働者の雇用継続の利益は法律上厳格にこれを守るべきものとされている。他方、有期契約の場合においては、期間満了により雇用契約が終了することになるが、更新に関する定めの存否又は事案によっては、雇用契約の締結に係る経緯や雇用形態、その他に照らして、契約終了の効力が制限される場合がある。本件では、新就業規則において、契約更新に関する定めが設けられておらず、被控訴人らに限っては、有期契約に変更されたとしても、なお雇い止めが容易に認められるとはいいがたいとしても、新就業規則の適用がある雇用契約上の労働者の地位が、一般に、かつ、制度として保障されているとはいいがたい。現に、控訴人は、労働条件の変更において、有期契約が企業経営上一定の好ましい財務上の効果が見込まれるとの意図ないし判断の下に有期契約への変更を図ったことは否定しがたく(弁論の全趣旨)、平成15年4月期が契約更新時期であることを主張して、契約更新願書及びキャディ労働契約書の提出を被控訴人らに求め、被控訴人ら組合との間の団体交渉において交渉事項となった経緯もある。したがって、雇用契約期間の定めがあることは、本件においては、労働者にとって相当程度不利な内容の変更であるといわざるを得ない。
ウ 賃金に関する事項について検討すると、前記のとおり、控訴人は、キャディ職従業員の賃金につき、平均24パーセントの減額を意図していたものである。
被控訴人1から19の平成13年度の賃金年額は別紙2賃金額検討表1①欄に、平成14年度の賃金年額は同表②欄に記載のとおりである。旧給与規程に基づく平成14年度の賃金額について、被控訴人らは同表③欄記載のとおり主張し、控訴人提出に係る乙53(省略)には同表⑥欄記載の記載がある。本件全証拠を検討しても、旧給与規程に基づいて計算した賃金額が被控訴人ら主張のとおりであることを認めるに足りる証拠は見出せず、被控訴人らの主張は乙53(省略)に記載の限度で認めるほかはない(同表⑨欄がマイナスの部分は被控訴人ら主張額の限度で認定する)。その結果は、同表⑩欄に記載のとおりであって、これによると、新給与規程の適用による賃金の減額率は23.63パーセント(被控訴人17)から29.92パーセント(被控訴人18)であり、同被控訴人ら全体の賃金合計額でみると、賃金の減額率は26.99パーセントとなる(⑫欄参照。いずれも小数点3桁以下切り捨て)。
上記の被控訴人らについての賃金減額率は、平成13年度の年収が300万円台であった同被控訴人らにとって、決して少ない率とはいえず、各家庭の事情にもよるが、家計に与える影響が大きいものと推認せざるを得ない。
エ 賃金体系として、固定給を廃止して、ラウンド手当を主体とするものに変更した点については、客付けがされなかった場合のアフレ手当があり、出勤する以上1日7330円の賃金が保障されており、アフレ手当がある限り、固定給が存置されたことと同様の機能を果たしているから、キャディを付ける客が著しく減少したとしても、そのことによってキャディ職従業員の賃金の減少に直結することにはならないので、直ちに被控訴人らにとって不利益であると断ずることはできない。
オ 昇給制度を廃止した点は、従前の昇給制度の実態が不明であり、そのことが平成14年度以降にどのように影響したかが不明であるが、一定の勤続年数を有する被控訴人らにとってはプラスの事情でないことは確かである。
カ 生理休暇・特別休暇を無給としたことは、労働者にとって一般的に不利益であることは明らかであり、上記の賃金額減額の一因となっていると推認できる。
キ 退職金制度の廃止については、退職金の賃金の後払いであるという性格の側面に着目すれば、平成14年3月末時点での精算(前払い)がされた点においては、その限度で被控訴人らに有利な措置ではあるが、賃金体系において、退職金に引き当てられるべき賃金部分が毎月支払われる賃金に加算されない限り、将来的には実質的な賃金の切り下げと評価されることになる。
ク 控訴人は、本件ゴルフ場のキャディ職従業員の旧給与規程による賃金が近隣のゴルフ場のキャディ職の賃金水準に較べて高額であり、新給与規程による賃金が合理的水準に落ち着いたことを指摘し、被控訴人らの被る不利益は受忍限度を超えない旨主張する。
たしかに、書証省略によれば、控訴人が調査したところ、近隣5箇所のゴルフ場のキャディ職の年間賃金が205万3000円から300万円という結果が得られたことが認められ、前記のとおり被控訴人らキャディ職従業員の平成13年度の年間賃金が約297万円から約399万円(別紙2賃金額検討表1①欄)、平成14年度に支給された年間賃金が約209万円から約288万円(同表②欄)であるから、上記調査結果に照らすと、本件ゴルフ場のキャディ職の賃金水準が近隣ゴルフ場のそれに比較して高かったこと、新給与規程による賃金水準が近隣ゴルフ場に劣るものでないということができるが、賃金の減額が与える労働者の影響は上記のとおりであって、控訴人が指摘するこの点は、賃金という雇用契約における労働者の重要な権利について不利益に変更することの高度の必要性を減ずる根拠とはならず、減額がやむを得ないとした場合において、被控訴人らがこれを受忍できる程度のものであるかどうかを検討する一事情である。
(4) 代償措置等について本件証拠を検討しても、上記の労働条件の変更において、特に賃金の減額に伴う不利益を代償するための措置が執られたと認めるに足りる証拠はない。
控訴人は、将来支払うことができるかどうか不確実な退職金を精算したことが代償措置としての意味を持つ旨主張するが、前示のとおり、退職金に引き当てられる費用を賃金に上乗せすることがないのであるから、実質的な賃金の引き下げであり、平成14年3月末時点で算定される退職金額を将来の退職時に支払うということに較べれば評価はできるが、退職金の精算は退職金制度の廃止に伴う当然の措置というべきであって、これの代償措置と評価することはできない。
また、控訴人は、キャディ職従業員の所属を本件ゴルフ場に限定しないこととしたことが、ラウンドに出る機会を増やすことになる旨主張するが、従前の助勤手当を廃止することが伴っており、代償措置としての意味を持つと評価することはできない。なお、キャディの客付率は平成13年度64.5パーセントから平成14年度72.9パーセントに上昇していること(書証省略)は稼働状況の変化として指摘することができる。
さらに、控訴人は、兼職を許容した点を主張するが、キャディ職従業員の兼職については、従前から寛容な取扱いをしており(人証省略)、就業規則の規定上明文化したわけではなく、平成14年9月2日の被控訴人ら組合との労働協約において明文化されたものの、同労働協約は控訴人によって破棄されており、代償措置として評価することはできない。
控訴人は、整理解雇をしなかったことを評価すべきである旨主張するが、本件ゴルフ場において、キャディ職従業員が過員であるとまで明白に認めるに足りる証拠はなく、控訴人が人員整理に代えて個々のキャディ職従業員の賃金減額をするとの説明も行っていない。
(5) 就業規則・給与規定変更についての控訴人の経営上の必要性について検討する。
ア 各項掲記の証拠によれば、次の各事実が認められる。
(ア) 控訴人は、本件ゴルフ場を含む3箇所のゴルフ場の管理運営をe鉄道から受託するほか、他から1箇所のゴルフ場の管理運営を受託し、その他13箇所のスポーツ施設を経営していた。e鉄道との管理運営委託契約においては、ゴルフ場の売上金はe鉄道に帰属することとし、ゴルフ場運営にかかわる実費に630万円を加算した金額を運営管理委託料としてe鉄道から控訴人に支払われることとしていた。管理運営に関する上記契約は、1年ごとの更新を予定し、当事者双方が3か月の予告期間をもって解約できる定めとなっていた。e鉄道と控訴人は、平成12年1月20日、上記委託契約の運営管理委託料について、賞与引当金、退職給与引当金、貸倒引当金を控訴人の負担とする旨の合意をした。控訴人の平成13年度(平成14年2月末決算)損益計算書上の営業収入として28億4999万1880円(スポーツ受託料10億2428万9327円、ゴルフ受託料18億2570万2553円)、営業費用28億5250万2043円を計上し、営業損失を251万0163円、営業外損益を加えた税引後の利益として1059万8029円としていた。ゴルフ場の管理運営に係る費用の実費は運営管理委託料として支払がされることとなっていたため、控訴人にゴルフ場事業における損益が帰属することはなく、e鉄道にすべての損益が帰属する仕組みとなっていた。(書証省略)
(イ) 控訴人の平成13年4月時点における役員及び従業員の員数は、全体が348人(役員6人を含む)、ゴルフ場関係が211人、スポーツクラブ関係が122人、本社関係が15人となっていた。本件ゴルフ場の従業員数は64人であり、その内訳は役員1人、事務職15人、プロ・研修生3人、キャディ職41人(平成14年4月時点では36人)、保育士職4人(平成14年4月時点では0人)であった。本件ゴルフ場における事務職は、平成5年4月時点で24人であったのが上記の15人まで減少した。平成5年4月時点のキャディ職は49人であった。(書証省略)
(ウ) 控訴人のゴルフ場の管理運営はその実費が運営管理委託料として支払われるため、控訴人の損益としては赤字となることはないが、本件ゴルフ場を単独の事業体ととらえてその収益を検討すると、次のとおりとなる。なお、これは、控訴人が本件訴訟のために作成した資料に基づく数値であり、被控訴人らにおいて、その信憑性を争っているものであることに留意する必要がある。損益欄は、減価償却費を控除する前の数値であり、費用には一定の本社経費も繰り入れられているものと推測される。(書証省略)
平成8年度 平成13年度
来場者数 25,148人 20,959人
収入 712,700千円 415,077千円
費用 907,077千円 721,107千円
うち人件費 331,064千円 297,050千円
損益 -194,377千円 -306,030千円
費用/収入 127.3% 173.7%
人件費/収入 46.5% 71.6%
人件費/総費用 36.5% 41.2%
キャディフィ収入 106,406千円 87,931千円
キャディ人件費 180,761千円 177,997千円
(エ) fグループでは、平成9年度及び平成10年度において連結決算上赤字となり、連結決算によりグループ全体の評価が重要視されるようになったため、グループ各社の収益力の強化を図ることとし、平成14年1月には、中期経営計画「fグループ再構築プラン」が発表され、人員削減、有利子負債の圧縮、資産売却、不採算事業からの撤退、グループ子会社の独立採算性の徹底、賃金の平均10パーセントカット、資産の証券化等を行うとの指針が出された。特にレジャー部門については、不採算部門として強く合理化が求められ、平成14年1月24日付けの控訴人の社報では、土地を除く営業資産を控訴人が買い取り、独立採算制へ移行することが公表された。(書証省略)
(オ) 控訴人は、本件ゴルフ場の顧客からの収入の減少にかんがみ、経費の節減に務め、清掃・設備管理費、コース管理費等を削減し、さらに事務職の人員は、退職や出向元への帰参の後補充をしないなどして削減した。集客のためにも従業員による顧客獲得活動に取り組み、グリーンフィの値下げ等を行うなどの経営努力を行った。(書証省略)
(カ) 控訴人は、キャディ職従業員の賃金制度を検討した過程で、本件ゴルフ場のキャディ職の賃金が近隣ゴルフ場のキャディ職の賃金に較べて高額であり、新給与規程に基づく賃金でも近隣ゴルフ場の賃金水準を上回るものであると認識していた。また、本件ゴルフ場の事務職の中には、キャディ職の業務が事務職の業務に較べて人員削減による労働強化がされにくく、その上、賃金水準が事務職に較べて高いという不満を持つ者もあった。控訴人が平成13年度におけるキャディ職4名と事務職4名との賃金の実情を調査したところ、キャディ職の1時間当たりの賃金額が2214円から2344円、事務職のそれが1229円から1503円という結果が出た。これはタイムカードによる実労働時間を基準に割り出したものであり、キャディ職の年間実労働時間が約1500時間以下であるのに較べて、事務職のそれが約2000時間程度であることによる影響が大きい。(書証省略)
(キ) 本件ゴルフ場は平成3年に開業したものであり、法人会員制の高級ゴルフ場との位置づけで、キャディ付きのプレーのみを認めてきた。そのため、控訴人は、キャディに対する研修も当初から充実した体制をとり、託児所を設けるなどキャディ職従業員を確保するための福利厚生にも意を用いた。しかし、景気の後退による経済情勢に加えて、ゴルフ場の過剰供給・過当競争などから、我が国におけるゴルフ場入場者の激減、ゴルフ会員権の価格暴落等からゴルフ場経営に著しい困難が生じ、平成10年以降倒産するゴルフ場が急増した。(書証(省略)、弁論の全趣旨)
イ 控訴人は、本件の労働条件の変更の必要性について、控訴人における会計上の収支が黒字であったとしても、本件ゴルフ場を単独の事業体とみた場合、入場者からの収入に対して費用が過大で赤字の状態であって、委託会社であるe鉄道が連結決算等の事情からグループ内における不採算部門の合理化の必要に迫られ、独立採算制への移行を控訴人に提案したなどの事情を主張する。
たしかに、控訴人が提出する書証(省略)に基づく経営数値によれば、本件ゴルフ場の収入の減少は平成8年度から平成13年度にかけて4割以上減少し、減価償却前の収支における赤字額を増大させており、本件ゴルフ場が単独の企業体であれば到底事業継続が不可能な状態にあったことは明らかである。また、我が国におけるゴルフ場経営が景気の後退などに伴い一般的に困難になっている事情にあることは前記のとおりである。そして、控訴人がe鉄道の完全子会社であり、その事業継続に要する費用の全額がe鉄道に帰属する契約関係となっていたのであるから、本件ゴルフ場の人件費削減の必要性については、その削減割合が微細である場合には受託契約関係の合理的な存続のために、当該部門に限定した経営上の高度の必要性を検討することで足りる場合のあることは否定しがたい。しかし、その削減割合が微細とはいえない場合は、損益が帰属するe鉄道における経営上の高度の必要性を併せ検討すべきである。本件においては、後記のとおり、従業員の賃金削減の割合は微細とはいえないのであるから、前記のとおり、平成9年度、10年度において連結決算上の営業収支の赤字が生じたことが認められるのみであって、それ以上に企業グループ自体の存立に影響を与えるほどの差し迫った事情があったことの主張立証はない。本件ゴルフ場自体の収支も平成8年度において既に2億円弱の赤字状態にあったのであり、平成13年度の営業損失が拡大しているとはいえ、必ずしもグループ全体の存立に差し迫った影響を与える事態ではなく、あるいはグループから除外すべきところなおグループ内に止めるべき事情があるなどの重大な事態があるわけでもないと評価せざるを得ない。したがって、不採算部門である本件ゴルフ場の経営を立て直す必要性が一応肯定でき、控訴人が入場者の確保に努力するほか経費節減に務めてきた経緯があるとしても、キャディ職従業員の人件費削減のための施策は法人会員制ゴルフ倶楽部としての経営改革をにらみながらの漸進的、段階的に対処することも可能であり、キャディ職従業員の賃金額を一気に従前額の約4分の3に減少させるまでの必要性があったかについては疑問とせざるを得ない。
なお、前記第4の2(1)ウ、エに認定のとおり、控訴人は、平成14年1月24日付け社報及び同月30日の説明会において、控訴人が、同年4月以降、ゴルフ場施設を買い取り、独立採算制に移行する旨の説明を行っている。上記の独立採算制を採った場合、控訴人の経営はそれまでの営業実績に照らして極めて厳しい状況に立ち至ることになるが、結局独立採算制に移行することはなかったのであり(人証省略)、上記の社報及び説明が実行可能な計画として立案されたものであることも疑わしい。平成14年度の本件ゴルフ場の営業実績は、減価償却前の営業収支で1億6616万円の赤字であった(書証省略)。
ウ 控訴人は、本件ゴルフ場における事務職従業員の人員削減に伴う労働強化及び事務職の賃金水準について指摘し、キャディ職従業員の労働条件の変更の必要性及び合理性を主張する。
たしかに、職種間の賃金水準の設定は労務管理上重要な意味を持つものと考えられ、事務職の中にキャディ職の賃金が高額であるとの不満があることも前記のとおりであるが、賃金水準は需要供給の市場原理によって定まる性格を基本的に有するものであり、職種に応じた賃金水準もこれによって形成されるものと考えられる。控訴人において、本件ゴルフ場の開設に当たり、法人会員の顧客要求に沿うサービス面を含む業務適性のあるキャディ職の人材確保のため賃金水準を定めたもので、当時他のゴルフ場に較べて破格に高額な賃金水準を設定したとも考えにくい。そして、その後、高級ゴルフクラブの内容と企業イメージを保つため、賃金水準を維持してきたものと推認できる。事務職については人員削減により労働が強化されているのに較べて、キャディ職従業員がその職務の性質上人員削減による労働密度の強化が図りにくいところがあり、かつ、キャディ部門の人員構成比の高いことを考慮に入れても、本件ゴルフ場における職種間の賃金格差が、前示した意味における経営上差し迫った影響のある課題であったとまで認めるには足りないといわざるを得ず、したがって、キャディ職につき約4分の1の賃金の削減を必要とする事情とは考えられない。
エ 前記認定のとおり、キャディフィ収入を上回るキャディ職人件費を支出している逆ざや現象の実態がある。しかし、本件ゴルフ場は、キャディ付きのプレーのみを許容していたことから、キャディ職人件費をキャディフィで賄うかグリーンフィで賄うかなど賃金体系と料金体系を総合した経営問題を厳密に検討していなかった経緯があり、こうした点からの近隣のゴルフ場における経営・財務状況を調査して比較検討した上での控訴人の改善策に関する主張のない、また、近隣ゴルフ場におけるキャディフィの実情とキャディ職人件費の相互関係を示す適切な証拠の見当たらない本件にあっては、キャディフィとキャディ職人件費の逆ざや現象があることの一事をもって直ちにキャディ職従業員の人件費を削減する根拠とすることはできない。
(6) 新就業規則及び新給与規程の設定に当たり、控訴人が本件ゴルフ場のキャディ職従業員に説明を行った経緯については前記のとおりである。たしかに、控訴人は、控訴人の独立採算性への移行を前提として人件費の削減の必要性を訴え、キャディ職の賃金体系変更の概要を口頭で説明し、キャディ契約書の提出によってその反応を確認し、その上で新就業規則及び新給与規程の設置を実行したものであり、一応事前に従業員に対する説明とその了解の手続を履践している。
しかし、本件ゴルフ場を含め控訴人には労働組合がなく、各キャディ職従業員が各自で検討するほかないのであるから、賃金の約4分の1の減額、雇用期間の有期化といった重大な労働条件の変更を実行しようとするには、十分な検討資料と検討時間を与える必要があるというべきである。平成14年1月30日における控訴人の説明は、内容的にみると簡略であり、正確に労働条件変更の必要性及び変更の内容が周知されなければならないが、口頭説明によってはこれが十分に理解されたとはいいがたい。また、控訴人において平均24パーセントの賃金の減額になることを試算しながら、これを従業員に告げないで、従業員が自ら試算すれば足りるという扱いも口頭説明の在り方としてはややずさんであるといわざるを得ない。ラウンド手当4バック1万円を前提とすれば、1か月22日勤務しすべてラウンド手当を受給したとして1か月22万円の給与になることは容易に試算できることであるが、その程度の口頭説明で足りるとするのは適切ではない。さらに、キャディ契約書の提出まで約2週間の考慮期間を設定したが、事柄の重大性にかんがみると果たして十分な期間であったかやや疑問が残り、キャディ契約書の提出が賃金減額を含めた労働条件変更の同意であると理解した控訴人の取扱いにも問題がある。キャディ契約書は、前記のとおり平成14年4月1日以降1年間の雇用契約となることが明記してあるだけで、賃金については「会社との契約金額とする」と記載されただけであり、賃金の減額について同意することは何ら明記されていない。実際、キャディ契約書の提出が雇用継続の前提であるかのように理解したキャディ職従業員もおり、控訴人がキャディ契約書を提出したキャディ職従業員のすべてが労働条件の変更について納得したと判断したとすれば、早計にすぎる。
したがって、新就業規則及び新給与規程の改訂の手続には問題があったといわざるを得ない。
(7) その他の事情について検討する。
控訴人は、被控訴人ら以外のキャディ職従業員が労働条件の変更に理解を示し、63.1パーセントのキャディ職従業員がキャディ契約書を提出し、Yスポーツ労働組合が新就業規則及び新給与規程に同意した旨主張する。
たしかに、書証(省略)によれば、Yスポーツ労働組合が平成14年11月23日、新就業規則及び新給与規程に同意をしたことが認められる。しかし、本件ゴルフ場の平成13年4月時点でのキャディ職従業員は41人であり、本件訴訟を提起したキャディ職従業員は24人であって(そのうち2名が訴えを取り下げた)、本件ゴルフ場に限っていえば半数以上のキャディ職従業員が訴えを提起してまで反対の立場を維持しており、キャディ契約書の提出が賃金の減額まで承認したことにならないことは前示のとおりであって、控訴人が賃金減額を含むキャディ職従業員の同意を取り付けた員数は必ずしも多数とはいえない。
(8) 以上検討したところに基づいて、新給与規程の被控訴人らに対する効力について判断する。
たしかに、ゴルフ場経営をとりまく経済環境は厳しく、安易な経営がゴルフ場を経営する企業の破綻を招く原因となることは明らかであって、本件ゴルフ場もその環境の中にあることは間違いがない。fグループにおいて、平成14年に中期経営計画を策定し、不採算部門の合理化を含めた検討を行ったことは当然のことであって、これに異論を挟む余地はない。
しかし、fグループにおけるレジャー部門の位置づけ、不採算部門の処理方針の詳細について十分な資料の提出がない以上、不採算部門の合理化という一般的な必要性が肯定されるに止まる。現に、平成14年度の本件ゴルフ場の収支実績は改善されたとはいえ、減価償却前の損益でなお1億6000万円余りの損失が残る状態であり、少なくとも本件ゴルフ場に係る控訴人の中長期的な経営計画など責任のある見通しを示すなど合理的な説明が必要である。平成8年時点における損益も赤字状態であり、控訴人において経営努力を重ねたといいながら、長年赤字状態を放置していたのであり、キャディ職従業員も応分の負担をするべきであるとはいえ、約4分の1の賃金減額という急激かつ大きな不利益を受忍させる高度の必要性があるとすることは困難である。新給与規程による本件ゴルフ場のキャディ職の賃金が近隣ゴルフ場の賃金水準程度であったとしても、上記判断を左右するものではない。
また、賃金減額に対する代償措置があると評価することはできず、かえって、退職金制度の廃止、雇用期間の有期化等労働者にとって不利益な労働条件の変更が併せて実施されており、この点でも過酷な変更内容となっていると評価せざるを得ない。さらに、新給与規程の制定過程をみても、前記のとおり不十分さがうかがわれ、また、大半の従業員が新給与規程に同意し、一部の者のみがこれに反対している状態であるとも認められない。
以上の諸点にかんがみると、新給与規程による労働条件の変更は、その全体について、被控訴人らキャディ職従業員が受忍すべきであるとするまでの経営上の高度の必要性があるとは認めがたく、その手続を含めて合理的であるともいいがたいから、新給与規程は被控訴人らキャディ職従業員との関係において、雇用契約上の法的規範としての効力がないといわざるを得ない。したがって、被控訴人1から19は、控訴人に対し、平成14年1月以降においても、旧給与規程に基づく賃金の請求権がある。
4 被控訴人20の雇用契約の終了原因の有無(抗弁(3))
(1) 証拠(省略)、によれば、次の事実が認められる。
ア 被控訴人20は、平成13年8月9日出産し、産後休暇を経て平成14年8月8日までの予定で育児休業を取得し、その後、子どもを平日は保育園に、土日・祭日は本件ゴルフ場の託児所に預けて、キャディ職の仕事に復帰することを予定していたが、同年1月30日の説明会に出席して託児所が廃止となることを聞き、キャディとしての勤務の継続に困難を覚え、控訴人のキャディ職の労働条件の変更についても納得がいかないところがあって、指示されたキャディ契約書の提出を留保していた。
イ 本件ゴルフ場のE課長は、被控訴人20からキャディ契約書の提出がないので、平成14年2月9日、同被控訴人に電話したところ、同被控訴人から、託児所が廃止となり子供を預けられないため勤務の継続が困難であるとの話を聞き、退職の意思の表明と理解し、その旨上司に報告した。
ウ 被控訴人20は、平成14年2月10日、労働基準監督署に電話して、控訴人に対する対処について相談し、よく話し合いをすること及び退職願は提出しないことの助言を受けた。
エ 本件ゴルフ場のF副部長は、D支配人の指示を受けて、平成14年2月13日、被控訴人20に電話をして、自己都合による退職願の提出を要請したが、同被控訴人が応じないので、同日、D支配人も同席して本件ゴルフ場で同被控訴人と面談した。同被控訴人は、自己都合退職ではなく、解雇であるから退職願を出す筋合いではなく、失業保険の扱いも異なる旨を主張し、D支配人らは、雇用保険等及び年休なども継続するから解雇ではないと説明したが、同被控訴人は納得せず、退職願の提出については物別れに終わった。
オ D支配人は、平成14年2月15日までに被控訴人20の退職届の提出がなかったことから、退職の辞令を作成するように本社へ要請し、控訴人は、同年3月31日、同被控訴人に「職を解く」と記載された辞令書を交付した(退職願が提出されている場合には、「願により職を解く」と記載された辞令書が交付されるのが通常の取扱である)。被控訴人20は、辞令書の交付を受けた後、支給されていた制服を返還し、個人用ロッカーの整理をして退社した。
カ 被控訴人20の雇用保険被保険者離職証明書(離職票、書証(省略))の離職理由欄(事業主記入欄)に「4 労働者の判断によるもの」「(2) 労働者の個人的な事情による離職」の項が選択され、具体的事情記載欄に「平成14年4月1日より、1年間の契約社員とし、賃金形態の変更となることを提示したが、契約せず離職」と記入されていたが、同被控訴人から異議が出て、「4 労働者の判断によるもの」「(1) 職場における事情による離職」のうち「① 労働条件に係る重大な問題(賃金低下、その他)があったと労働者が判断したため」の項の選択に変更された。上記記入欄には「解雇」の選択欄もあったが、同被控訴人は同欄を選択することは主張しなかった。控訴人が同被控訴人に発行した平成14年5月24日付け退職証明書(書証省略)の退職事由欄には、「自己都合」との記載があったが、同被控訴人から異議は出されなかった。
(2) 乙2(省略)(E作成の報告書)には、平成14年2月9日、被控訴人20に電話したところ、退職する旨の意思表示があった旨の記載があり、証人Eの供述にもこれに沿う部分がある。しかし、その後の経緯及び同被控訴人本人の尋問結果に照らしても、退職の意思表示がその時点であったと認定するには足りない。すなわち、D支配人及びF副部長が、同月13日、被控訴人20と面談した際、同控訴人が自己都合退職ではなく、解雇である旨主張し、D支配人が解雇するのではない旨を説明した事実があり、このことは、同被控訴人が自らの意思で退職する意思がないことを明確にしたというべきであって、同月9日の電話において勤務の継続が困難である旨の表明をしたとしても、退職の意思までを表明したと解することはできず、電話をしたE課長の理解が正しくなかったといわざるを得ない。そもそも、E課長の電話の用件はキャディ契約書の提出の確認を目的としていたものであって、そのような機会の会話だけで、退職という重大な事実について会社が従業員の意思確認をしたとすることはできない。なお、旧就業規則22条は、従業員の退職について、1か月以前に社長あての退職願を提出する定めとなっていた。
控訴人は、同被控訴人が、辞令書の交付、制服の返還に応じ、離職票の離職理由欄の記載について異議を述べた際に「解雇」を選択しなかったこと、退職証明書の退職事由の記載に異議を述べなかったことを根拠に同被控訴人が退職の意思があった旨主張する。しかし、退職の意思があっただけでは、退職の合意の事実を認定できないのはいうまでもないが、企業組織内において、従業員が、その意に反する会社の行動に実力で抵抗することがまれであることを考慮すれば、上記の事情から退職意思の存在を推認することもできない。
(3) したがって、被控訴人20が退職の意思を表示し、これに従って雇用契約の合意解除が成立した旨の控訴人の主張は採用することができない。
5 被控訴人21、22の損害賠償請求の原因(請求原因(4))
(1) 証拠(省略)によれば、次の各事実が認められる。
ア 被控訴人21は、平成10年1月から、被控訴人22は、開場当時から、それぞれ本件ゴルフ場に勤務していたキャディ職従業員である。
イ 被控訴人21は、キャディ契約書を提出して平成14年4月1日以降も勤務を続けていた。
同被控訴人は、同年9月21日、退職願を提出し、G副主任に対し、退職理由として、収入が下がり生活が苦しいこと、キャディ職は続けたいが将来に不安があること、病院の託児施設で保育士(正社員)として採用の内定が得られたことを告げた。同被控訴人は、同年10月15日退職した。
ウ 被控訴人22は、キャディ契約書を提出して平成14年4月1日以降も勤務を続けていたが、同月22日、夫が交通事故により頭部強打による傷害を受けて入院し、医師から脳内出血のおそれがあるとの説明を受けた。
同被控訴人は、同月24日、同月分の給料の振込額(手取額)を確認したところ、10万7708円であり、前年の4月分の給料21万2308円に較べて大きく減額していることに落胆した。
同被控訴人は、同月25日、夫の事故についてG副主任に報告し、夫が整体治療院の経営を続けられず、減額された賃金では生活ができないので、整体士の認定書を持っているので、整体の仕事をすることにしたい旨を伝えた。被控訴人は、同月30日、退職願を控訴人に提出し、同年5月31日付けで退職した。
(2) 被控訴人らは、新給与規程による賃金の減額が雇用契約上の債務不履行又は同被控訴人らに対する不法行為に当たる旨主張する。
しかし、新給与規程による平成14年度における賃金の減額の程度は、前記のとおり、被控訴人1から19について約27パーセントであり、被控訴人21、22のほかに退職したキャディ職従業員があったものの、被控訴人らを含めてなお本件ゴルフ場及び控訴人運営に係るゴルフ場で勤務を継続したキャディ職従業員がいたことに照らしても、上記の程度の賃金の減額が一般的に退職を余儀なくさせるほどの賃金の減額と認めることはできない。また、被控訴人21については、保育士の資格があり、正社員としての就職の内定があったこと、被控訴人22については、夫の交通事故による受傷と整体治療院の経営が困難になったこと、同被控訴人が整体士の認定書を有し、整体治療院の仕事をする条件があったことが、それぞれ退職の大きな動機となっていたと認められ、新給与規程による賃金の減額が退職の動機の一部となっていることは否定できないが、そのことが決定的な理由となっていたとはいえない。
したがって、賃金減額が上記被控訴人らを退職に追い込んだことを前提とする被控訴人ら主張の債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
6 被控訴人23から25の損害賠償請求の原因(請求原因(5))
(1) 証拠(省略)によれば、次の各事実が認められる。
ア 控訴人は、平成3年の開場の時点において、キャディ職従業員を確保するため、託児所を設置し、保育士6名を採用し配属した。託児数は最も多い時期で24名を数えたが、キャディ職従業員の子が成長するなどの事情から減少した。控訴人は、平成13年4月以降、一般の保育園の休みの日のみ託児所を開き、それ以外の日は閉鎖して、保育士職従業員を事務職業務の手伝いをさせた。
イ 控訴人は、e鉄道の中期経営計画の一環としての独立採算制移行を前提として、平成14年4月1日以降の託児所の廃止を決め、同年1月30日、本件ゴルフ場において、A社長がその説明を行い、B部長らが保育士職従業員と個別に面談した。同日の面談では、託児所廃止に伴う保育士職従業員の処遇について会社の確定的方針はなかった。
ウ D支配人は、平成14年2月1日、保育士職従業員から個別に希望を聞いたところ、被控訴人24、25は事務職を希望し、被控訴人23は考慮中であるとして希望を述べなかった。
エ 控訴人は、その後、事務職従業員の充足状況等を勘案し、保育士職従業員について事務職への配置換えを認めず、キャディ職への配置のみを認める方針を決め、D支配人が、平成14年2月9日、保育士職従業員にその旨を個別に伝えた。保育士職の被控訴人らは、D支配人に対し、事務職への配置換えをするよう再考を促し、D支配人が本社にその旨を取り次いだが、本社の方針は変わらなかった。
オ 控訴人は、保育士職の被控訴人らに対し、退職願の提出を促し、同被控訴人らは、本意ではないものの、平成14年3月3日、それぞれ、示された退職願のひな形の「一身上の都合により」との文言を「今般託児所の閉鎖にともないキャディ職への移動提示を受けましたが」と書き換えて退職願(書証省略)を提出し、同月末日退職した。
カ 被控訴人23は昭和31年生まれ、被控訴人24は昭和34年生まれ、被控訴人25は昭和25年生まれである。
(2) 被控訴人らは、控訴人が、被控訴人23から25に対して社会的相当性を逸脱した態様により退職を勧奨したことが、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たる旨主張する。
しかし、前記のとおり本件ゴルフ場の収支が長期間にわたる多大な損失を発生させており、その損益が委託会社であるe鉄道に帰属していたとしても、ゴルフ場の管理運営のための費用の節減が必要であることは是認でき、子どもを持つキャディ職従業員にとって労働環境としての意味があるとしても、託児所がキャディ職従業員の獲得の目的で設置されたという位置付けが社会経済情勢の変動、特にキャディ職に対する需給関係の変動によって従前同様の位置付けを既に失っており、平成13年4月以降の平日における託児所の閉鎖、平成14年4月1日以降の託児所の廃止は、経営上の必要があり、合理性を有するものである。
上記被控訴人らは、いずれも保育士の資格を持ち、保育士職として採用されたものであり、本件ゴルフ場の他の業務に就く適性が一般的にあるわけではない。保育士職従業員が、平成13年4月以降、託児所閉鎖の日に事務職の業務に就いていた経緯があるものの、平成14年1月30日の個別面接において、事務職の業務について自信がない旨の表明があったとおりである(書証省略)。したがって、同被控訴人らが控訴人における雇用継続を希望するとすれば、託児所が設置されている控訴人の施設が他にないから、他の職種への転換をする以外になく、同被控訴人らは極めて厳しい立場に立ち至ったことになる。
控訴人は、平成14年2月9日、事務職への転換を認めず、キャディ職への転換のみを認める方針を伝え、保育士職従業員へ考慮を促したが、控訴人における事務職及びキャディ職従業員の充足状況を勘案して決定したものであり、保育士職として雇用契約を締結した被控訴人らに事務職業務への就労を求める権利が当然にあるわけでないことも併せ考えると、キャディ職への転換のみを認めるとの控訴人の決定は保育士職業務の廃止に伴う代替措置の提案として社会的相当性を欠いているとまで認めることはできない。
そして、このような状況の下において、控訴人が、キャディ職への転換を受け入れない被控訴人らに対して、退職願の提出を促したことが、社会的相当性を逸脱したものと評価することはできず、控訴人において退職を強要する意図で行った措置であると認めることもできない。
したがって、被控訴人らの上記主張は採用できず、債務不履行及び不法行為のに基づく損害賠償請求は理由がない。
7 被控訴人らの請求に関する判断
(1) 被控訴人1から19について
ア 地位確認請求について
控訴人は、当審において、雇用期間について期間の定めのある雇用契約への変更の合意の抗弁は撤回し、就業規則による同旨の契約変更の抗弁はそもそも主張していないが、新就業規則上被控訴人らの雇用期間が有期化されたとの疑義があり、これまでの控訴人の被控訴人ら及び被控訴人ら組合に対する対応において雇用期間が1年となったことを主張していた経緯に照らせば、被控訴人1から17について期間の定めのない雇用契約上の地位があることの確認を求める利益を肯定することができ、また、同請求は理由がある。
イ 差額賃金支払請求について
(ア) 被控訴人1から19の賃金差額分の支払を求める請求については、旧給与規程に基づいた平成14年度の賃金額が、前記第4の3(3)ウで検討したとおりであるから、別紙2賃金額検討表1⑪「裁判所認定に基づく差額賃金」欄の金額(別紙3賃金額検討表2①欄の金額)を基礎として、1か月当たりの未払賃金額の平均額を求めると、別紙3賃金額検討表2②欄記載のとおりとなることは計算上明らかである。そして、平成15年度以降についても、毎月同程度の差額賃金が発生するものと推認することができるから、当審口頭弁論終結時までに支払期が到来した未払賃金額の合計額は、同表⑥欄記載のとおりの金額となる(被控訴人18は平成17年7月10日、被控訴人19は平成18年3月10日退職しているので、それぞれ平成18年7月24日、平成18年3月24日に支払期が到来する未払賃金の支払を求める限度で理由がある)。
(イ) 被控訴人1から17の当審口頭弁論終結後に支払期が到来する平成19年11月分以降の分については、本件判決確定の日までの分を将来請求の必要があるものと認める。
(ウ) そうすると、被控訴人1から17の未払賃金請求は、当審口頭弁論終結時において弁済期の到来した別紙3賃金額検討表2⑥欄記載の金額及び平成19年11月1日から本件判決確定まで、毎月24日限り、同表②「当審認定の1か月当たりの未払賃金」欄記載の金員の支払を求める限度で理由があり、これを超える部分は理由がない。
被控訴人18及び19の未払賃金請求は、同表⑥欄記載の金額の限度で理由があり、これを超える部分は理由がない。
(2) 被控訴人20について
ア 地位確認請求について
被控訴人20は、平成14年4月1日以降も控訴人との間で期間の定めのない雇用契約上の地位にあると認められるから、その確認を求める請求は理由がある。
イ 差額賃金支払請求について
(ア) 前記第4の4(1)アで認定したとおり、被控訴人20は、平成13年8月9日出産し、産後休暇後平成14年8月8日までの予定で育児休業を取得していたもので、その後育児休業の取得を撤回したなど特別の事情が認められないから、同被控訴人は、控訴人に対し、平成14年8月9日から本件判決確定の日まで、次項で認定する月額の賃金債権を有する。
(イ) 甲77(省略)によれば、被控訴人20が平成4年9月から本件ゴルフ場に勤務していたことが認められ、同被控訴人が育児休業が終了して就労した場合、同被控訴人が、別紙2賃金額検討表1⑩欄「旧給与規程による平成14年度の賃金額(裁判所認定)」欄記載の金額の平均金額である月額30万9520円の賃金を得ることができたものと推認することができる。
(ウ) したがって、同被控訴人の未払賃金の請求は、当審口頭弁論終結時において弁済期が到来した1921万0209円(309,520円×(2/31+62月)=19,210,209円、平成14年8月支払分は同月8日及び9日の2日分である)及び平成19年11月1日から本件判決確定まで、毎月24日限り、30万9520円の支払を求める限度で理由があり、これを超える部分は理由がない。
(3) 被控訴人21、22について
前記5に説示したとおり、同被控訴人ら主張の債務不履行及び不法行為が認められないので、同被控訴人らの請求はいずれも理由がない。
(4) 被控訴人23から25について
前記6に説示したとおり、同被控訴人ら主張の債務不履行及び不法行為が認められないので、同被控訴人らの請求はいずれも理由がない。
第5結論
以上の次第であるから、原判決主文第2項中、被控訴人1から9、11から20の未払賃金の請求を認容した部分は、当裁判所の上記判断と異なる限度で不当であるから、原判決の当該部分を変更し(本判決主文第1項から第3項)、原判決主文第2項中、被控訴人21及び22の請求を認容した部分並びに原判決主文第4項の被控訴人23から25の予備的請求を認容した部分は不当であるから取り消した上、その請求を棄却することとし(本判決主文第4項及び第5項)、原判決主文第1項の被控訴人1から17及び20の雇用契約上の地位の確認請求を認容した部分並びに原判決主文第2項中被控訴人10の未払賃金の支払請求を認容した部分は相当であるから、当該部分に関する控訴人の控訴を棄却することとし(本判決主文6項)、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 稲田龍樹 裁判官 浅香紀久雄 裁判官 髙野輝久)
当事者目録
控訴人 株式会社Yスポーツ
同代表者代表取締役 H
同訴訟代理人弁護士 友田和昭
同 吉村総一
同 河本毅
同 福吉貞人
同 鎌田豊彦
同 尾畑亜紀子
被控訴人 X1(被控訴人番号1)
被控訴人 X2(被控訴人番号2)
被控訴人 X3(被控訴人番号3)
被控訴人 X4(被控訴人番号4)
被控訴人 X5(被控訴人番号5)
被控訴人 X6(被控訴人番号6)
被控訴人 X7(被控訴人番号7)
被控訴人 X8(被控訴人番号8)
被控訴人 X9(被控訴人番号9)
被控訴人 X10(被控訴人番号10)
被控訴人 X11(被控訴人番号11)
被控訴人 X12(被控訴人番号12)
被控訴人 X13(被控訴人番号13)
被控訴人 X14(被控訴人番号14)
被控訴人 X15(被控訴人番号15)
被控訴人 X16(被控訴人番号16)
被控訴人 X17(被控訴人番号17)
被控訴人 X18(被控訴人番号18)
被控訴人 X19(被控訴人番号19)
被控訴人 X20(被控訴人番号20)
被控訴人 X21(被控訴人番号21)
被控訴人 X22(被控訴人番号22)
被控訴人 X23(被控訴人番号23)
被控訴人 X24(被控訴人番号24)
被控訴人 X25(被控訴人番号25)
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 佐々木新一
同 田中浩介
同 斉藤耕平
同 柳重雄
同 野本夏生
同 斎田求
同 伊須慎一郎
同 青木努
同 長田淳
同 横山佳純
同 須藤博
同 沼尻隆一
同 水口匠
同 笹山尚人
以上
別紙1 認容額一覧表
被控訴人番号・氏名
認容額
1
X1
(1)589万4727円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万7981円
2
X2
(1)593万4123円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万8569円
3
X3
(1)595万1409円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万8827円
4
X4
(1)593万9952円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万8656円
5
X5
(1)557万0380円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万3140円
6
X6
(1)593万0572円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万8516円
7
X7
(1)583万2082円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万7046円
8
X8
(1)588万5347円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万7841円
9
X9
(1)552万2542円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万2426円
10
X10
(1)633万0495円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、9万4485円
11
X11
(1)586万9200円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万7600円
12
X12
(1)570万3375円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万5125円
13
X13
(1)539万0083円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万0449円
14
X14
(1)564万3879円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、8万4237円
15
X15
(1)502万9489円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、7万5067円
16
X16
(1)474万9630円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、7万0890円
17
X17
(1)447万1513円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、6万6739円
18
X18
298万6880円
19
X19
410万3424円
20
X20
(1)1921万0209円
(2)平成19年11月1日から本判決確定の日まで、毎月24日限り、30万9520円
別紙2 賃金額検討表1
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
番号
被控訴人名
平成13年実績(乙38)
実際に支給された平成14年度の賃金額(争いがない)
旧賃金規程による平成14年度の賃金額(被控訴人ら主張)
被控訴人ら主張に基づく差額賃金
被控訴人ら主張額に基づく減額率
旧給与規程による平成14年度の賃金額(乙53記載)
乙53に基づく差額賃金
乙53に基づく減額率
被控訴人ら主張額-乙53の額<4>-<7>
旧給与規程による平成14年度の賃金額(裁判所認定)
裁判所認定に基づく差額賃金
賃金の減額率
1
X1
3,792,100
2,868,186
4,024,590
1,156,404
28.73%
3,923,960
1,055,774
26.90%
100,630
3,923,960
1,055,774
26.90%
2
X2
3,794,970
2,825,281
4,009,810
1,184,529
29.54%
3,888,110
1,062,829
27.33%
121,700
3,888,110
1,062,829
27.33%
3
X3
3,842,580
2,854,235
3,992,280
1,138,045
28.50%
3,920,160
1,065,925
27.19%
72,120
3,920,160
1,065,925
27.19%
4
X4
3,702,590
2,667,847
3,868,970
1,201,123
31.04%
3,731,730
1,063,883
28.50%
137,240
3,731,730
1,063,883
28.50%
5
X5
3,781,060
2,883,141
4,004,960
1,121,819
28.01%
3,880,830
997,689
25.70%
124,130
3,880,830
997,689
25.70%
6
X6
3,792,060
2,880,407
4,054,445
1,174,038
28.95%
3,942,610
1,062,203
26.94%
111,835
3,942,610
1,062,203
26.94%
7
X7
3,642,410
2,735,008
3,923,223
1,188,215
30.28%
3,779,560
1,044,552
27.63%
143,663
3,779,560
1,044,552
27.63%
8
X8
3,482,868
2,589,054
3,741,040
1,151,986
30.79%
3,643,150
1,054,096
28.93%
97,890
3,643,150
1,054,096
28.93%
9
X9
3,693,660
2,802,548
3,905,370
1,102,822
28.23%
3,791,670
989,122
26.08%
113,700
3,791,670
989,122
26.08%
10
X10
3,993,880
2,854,978
3,988,800
1,133,822
28.42%
4,005,930
1,150,952
28.73%
-17,130
3,988,800
1,133,822
28.42%
11
X11
3,648,900
2,615,505
3,837,900
1,222,395
31.85%
3,666,710
1,051,205
28.66%
171,190
3,666,710
1,051,205
28.66%
12
X12
3,646,870
2,731,262
3,852,984
1,121,722
29.11%
3,752,770
1,021,508
27.22%
100,214
3,752,770
1,021,508
27.22%
13
X13
3,289,203
2,574,074
3,539,470
965,396
27.27%
3,603,453
1,029,379
28.56%
-63,983
3,539,470
965,396
27.27%
14
X14
3,700,720
2,685,618
3,858,735
1,173,117
30.40%
3,696,470
1,010,852
27.34%
162,265
3,696,470
1,010,852
27.34%
15
X15
3,455,892
2,739,311
3,727,390
988,079
26.50%
3,640,120
900,809
24.74%
87,270
3,640,120
900,809
24.74%
16
X16
3,602,690
2,729,770
3,709,790
980,020
26.41%
3,580,460
850,690
23.75%
129,330
3,580,460
850,690
23.75%
17
X17
2,975,460
2,587,896
3,465,900
878,004
25.33%
3,388,770
800,874
23.63%
77,130
3,388,770
800,874
23.63%
18
X18
3,540,810
2,098,545
3,417,910
1,319,365
38.60%
2,994,613
896,068
29.92%
423,297
2,994,613
896,068
29.92%
19
X19
3,650,370
2,794,699
3,911,870
1,117,171
28.55%
3,820,560
1,025,861
26.85%
91,310
3,820,560
1,025,861
26.85%
合計額
69,029,093
51,517,365
72,835,437
21,318,072
29.26%
70,651,636
19,134,271
27.08%
2,183,801
70,570,523
19,053,158
26.99%
別紙3 賃金額検討表2
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
番号
被控訴人名
裁判所認定に基づく差額賃金
当審認定の1か月当たりの未払賃金額①÷12
原審認定の1か月当たりの未払賃金
原審と当審の差額③-②
平成18年9月分までの未払賃金合計額
平成19年10月分までの未払賃金合計額
被控訴人らが請求する平成18年9月分までの未払賃金合計額
被控訴人らがが請求する平成18年10月1日以降の1か月当たりの未払賃金
1
X1
1,055,774
87,981
96,367
8,386
4,750,974
5,894,727
5,203,818
125,678
2
X2
1,062,829
88,569
98,711
10,142
4,782,726
5,934,123
5,330,381
126,808
3
X3
1,065,925
88,827
94,837
6,010
4,796,658
5,951,409
5,121,203
128,276
4
X4
1,063,883
88,656
100,094
11,438
4,787,424
5,939,952
5,405,054
144,822
5
X5
997,689
83,140
93,485
10,345
4,489,560
5,570,380
5,048,186
124,873
6
X6
1,062,203
88,516
97,837
9,321
4,779,864
5,930,572
5,283,171
118,429
7
X7
1,044,552
87,046
99,018
11,972
4,700,484
5,832,082
5,346,968
118,609
8
X8
1,054,096
87,841
95,999
8,158
4,743,414
5,885,347
5,183,937
123,276
9
X9
989,122
82,426
91,902
9,476
4,451,004
5,522,542
4,962,699
121,317
10
X10
1,133,822
94,485
94,485
0
5,102,190
6,330,495
5,102,199
132,335
11
X11
1,051,205
87,600
101,866
14,266
4,730,400
5,869,200
5,500,778
123,275
12
X12
1,021,508
85,125
93,477
8,352
4,596,750
5,703,375
5,047,749
116,739
13
X13
965,396
80,449
80,450
1
4,344,246
5,390,083
4,344,282
128,970
14
X14
1,010,852
84,237
97,760
13,523
4,548,798
5,643,879
5,279,027
123,706
15
X15
900,809
75,067
82,340
7,273
4,053,618
5,029,489
4,446,356
92,282
16
X16
850,690
70,890
81,668
10,778
3,828,060
4,749,630
4,410,090
106,215
17
X17
800,874
66,739
73,167
6,428
3,603,906
4,471,513
3,951,018
103,389
18
X18
896,068
74,672
109,947
35,275
2,986,880
2,986,880
4,353,905
139,719
19
X19
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