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東京高等裁判所 平成19年(行ケ)10号 判決 2007年7月30日

原告

A野太郎

同訴訟代理人弁護士

谷合周三

被告

同代表者法務大臣

長勢甚遠

裁定をした行政庁

公害等調整委員会

同指定代理人

永谷典雄

他7名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

公害等調整委員会が原告に対し、公調委平成一七年(フ)第三号・平成一八年(フ)第一号徳島県阿南市横見町内の砂利採取計画不認可処分及び農地転用不許可処分に対する取消裁定申請事件につき、平成一九年二月二日付けでした裁定のうち、主文第二項を取り消す。

第二事案の概要

本件は、砂利採取業者である原告が、農地において砂利採取を行うことを計画し、徳島県知事に対し、砂利採取計画の認可申請及び砂利採取のための農地転用許可申請をしたが、それぞれ不認可処分、不許可処分を受けたため、公害等調整委員会(公調委)に対し、上記各処分の取消しを求めて裁定を申請したところ、公調委が、上記不認可処分を取り消したが、上記不許可処分の取消しを求める裁定申請については、公調委に管轄がないとして却下したので、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

(1)  原告は、徳島県阿南市横見町長岡後の農地において砂利採取を行うことを計画し、徳島県知事に対し、平成一五年一一月一〇日、別紙物件目録一記載の土地につき、砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画の認可申請(本件認可申請)をするとともに、同日、同土地及び同土地への砂利搬入路として使用するため、同目録二記載の土地につき、平成一六年一月一三日、砂利搬入路の追加として、同目録三記載の土地、建設残土置地として使用するため、同目録四記載の土地につき、いずれも農地法五条一項に基づく農地一時転用許可申請(本件許可申請)をした。徳島県知事は、同年三月三日、本件認可申請を認可しない処分(前の不認可処分)を、同月一五日、本件許可申請を許可しない処分(前の不許可処分)をした。

(2)  原告が、これを不服として、平成一六年四月三〇日、公調委に対し、前の不認可処分の取消しを求めて裁定申請をしたところ、公調委は、平成一七年五月一九日、前の不認可処分を違法と判断して取り消す裁定をした。

(3)  ところが、徳島県知事からその権限の委任を受けた徳島県南部総合県民局長は、平成一七年六月一五日付けで、本件認可申請に対する再度の不認可処分(本件不認可処分)をしたため、原告は、これを違法として、その取消しを求めて公調委に裁定申請をした。

(4)  また、徳島県南部総合県民局長は、平成一八年一月一二日、前の不許可処分を取り消し、同月一六日、あらためて本件許可申請を許可しない処分(本件不許可処分)をした。本件不許可処分は、原告が、農地法五条の規定に違反し、許可を受けることなく、無断で農地に土砂を違法堆積しているばかりか、農地法八三条の二の規定に基づく原状回復命令にも従わず違法状態を継続しており、農地法五条二項三号に規定する「申請にかかる農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な信用があると認められないこと」に該当し、「申請にかかる農地のすべてを当該申請に係る用途に供することが確実と認められない」との理由でされたものである。

原告は、これを違法として、その取消しを求めて、公調委に対し、裁定申請(本件裁定申請)をした。

(5)  公調委は、平成一九年二月二日、本件不許可処分を取り消したが、本件裁定申請については、農地法八五条六項所定の「不服の理由が鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」に該当せず、不適法であるとしてこれを却下した(本件裁定)。

二  争点及び当事者の主張

本件の争点は、本件不許可処分に対する不服の理由が、農地法八五条六項所定の「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」に当たるか否かである。

(原告の主張)

本件不許可処分に対する不服の理由は、農地法八五条六項所定の「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」に当たると解すべきである。

砂利採取業を農地において行おうとする場合には、農地を農業以外の用途に利用することとなるので、必然的に砂利採取業の実施が農地法の目的(土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もって耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ること)と衝突することになるから、砂利採取業実施のための農地転用許可申請がされた場合には、砂利採取業と対象農地における農業との調整を図ることが必要不可欠となる。したがって、砂利採取のための農地転用許可申請に対する不許可処分は、対象農地における農業を保護するために、砂利採取のための農地転用を許可しないこととなるから、当該不許可処分に対する不服の理由も、農地法の趣旨目的と「砂利採取業との調整に関するもの」とならざるを得ない。

以上のとおり、農地法八五条六項は、砂利採取のための農地転用申請に対する不許可処分に対する不服申立ては、「砂利採取業との調整に関するもの」として、被告における裁定申請手続において紛争解決を図ることとした趣旨と解すべきである。

本件裁定は、砂利採取のための農地転用許可申請に対する不許可処分の場合であっても、争点が、公調委が専門性を有する土地利用調整の見地からの判断事項であるときに限って被告の管轄になるとの解釈を採っているが、判断基準が抽象的で、不明確であり、砂利採取認可不認可と農地転用許可不許可とが統一的に判断されないことになるほか、争点が複数の場合に申請者が二重の手続負担を強いられるなど極めて不合理であって、管轄を必要以上に限定的なものにしている。

原告は、本件裁定申請を行うに当たって、事前に公調委に管轄の有無を問い合わせ、管轄があるとの判断を得て行っているものである。また、本件裁定申請事件については、本件不認可処分に対する裁定申請事件が併合されたことにより、本案審理を進めていたのであるから、その審理の経過からみても、被告に管轄があると判断されるべきである。

なお、過去にも公調委において、鉱業法、採石法、砂利採取法以外の法律に基づく処分に対する取消裁定申請事件が審理され、公調委が専門性を有する土地利用調整の見地からの判断事項か否かにかかわらず、本案の判断を行った事例がある。

(被告の主張)

本件不許可処分に対する不服の理由は、農地法八五条六項所定の「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」に当たらないと解すべきである。

本件不許可処分は、原告が、農地法五条の規定に違反し、許可を受けることなく、無断で農地に土砂を違法堆積しているばかりか、農地法八三条の二の規定に基づく原状回復命令にも従わず違法状態を継続しており、農地法五条二項三号に規定する「申請にかかる農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な信用があると認められないこと」に該当し、申請にかかる農地のすべてを当該申請に係る用途に供することが確実と認められないとの理由でされたものである。そして、本件不許可処分に対する不服の理由も、この点の判断に根拠がないというものである。

しかし、このような不服の理由に対する判断は、農地法固有の解釈・適用の問題にすぎない(したがって、このような理由による不服の申立ては、行政不服審査法に基づく不服申立手続によるべきである。)。

昭和二六年に設置された土地調整委員会は、専門性を有する中立的な準司法機関として発足し、昭和四七年になって、総理府に設置されていた中央公害審査会と統合され、新たに公調委が設置されることとなった。土地利用調整制度における公調委の役割は、専門性に基づき「鉱業・採石業又は砂利採取業」と「一般公益又は農業、林業その他の産業」との調整を図ることであって、公調委は、その役割を担うゆえに、制度上も専門的性格を付与されている。

したがって、公調委が行う不服裁定は、本来的に専門性が必要となる事案が対象になると解すべきところ、農地法八五条六項所定の「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」とは、不服の理由が、鉱業等の特有の形態での土地利用と農業での土地利用との利益衝突から発生する専門的・技術的な問題を争点とする場合をいうものと解すべきである。このように解しても、判断基準が不明確であるとはいえない。また、これにより砂利採取認可不認可と農地転用許可不許可とが統一的に判断されないことになるとしても、それは、それぞれの法律に基づいて判断される以上当然のことである。

原告は、農地法八五条六項は、砂利採取のための農地転用申請に対する不許可処分に対する不服申立ては、「砂利採取業との調整に関するもの」として、公調委における裁定申請手続において紛争解決を図ることとした趣旨と解すべきであると主張するが、このような解釈は、同項の文理や趣旨に反した解釈であって許されない。

ちなみに、本件裁定申請事件については、被告の管轄があることが前提となっていたことはなく、管轄の有無は手続当初から審理の対象になっていた。

以上のとおり、本件裁定申請は、農地法八五条六項に照らして不適法であるから、これを却下した本件裁定に違法な点はない。

なお、原告主張の公調委の過去の裁定事例は、公調委が専門性を活用して裁定した事例であって、本件とは事案を異にする。

第三争点に対する判断

一  公調委は、土地利用に関して「鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益又は農業、林業その他の産業との調整を図る」(公害等調整委員会設置法三条)等の任務を有し、その任務達成のために、鉱業法その他の法律及び鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(土地利用調整手続法)の定めるところにより不服の裁定を行うこととされている(同法四条三号)。公調委は、国家行政組織法三条に基づく行政委員会として設置され、従来、土地調整委員会が所掌していた事務を引き継ぎ、土地調整委員会が土地利用調整に関する職務遂行のために備えていた専門性もこれを引き継いだ。公調委は、土地調整委員会と同様に、土地利用の調整を図ることを目的とし、その目的を達成するために必要な専門性・技術性及び独立性を有する準司法機関である(乙一、二)。

公調委による土地利用に関する裁定又は裁定申請の却下決定に対する不服の訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とされ(土地利用調整手続法五七条)、裁定委員会の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときに裁判所を拘束し、当事者は一定の場合に新しい証拠の提出を制限されることとされている(いわゆる実質的証拠法則、同法五二、五三条)。このような審級制、証拠の提出制限及び実質的証拠法則が設けられたのは、公調委の専門性・技術性のある判断事項について、専門的な知識や経験を有する公調委の認定判断を尊重する趣旨によるものと解される。

そうすると、上記のような公調委の判断の専門性・技術性は、土地利用調整制度においては、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益や他産業との間の土地利用の調整について判断する点にあると考えられるから、土地利用調整手続法一条二号に列挙されたイ、ロ、リを除く各項目所定の法条に基づく処分に関して、「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」について公調委に裁定申請することができることとされているのは、これらの処分に係る不服申立てのうち、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益や他産業との間の土地利用の調整が判断の対象となる場合であると解すべきである。

そこで、本件裁定について検討すると、本件不許可処分の理由は、原告が、農地法五条の規定に違反し、許可を受けることなく、無断で農地に土砂を違法堆積しているばかりか、農地法八三条の二の規定に基づく原状回復命令にも従わず違法状態を継続しており、農地法五条二項三号に規定する「申請にかかる農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な信用があると認められないこと」に該当し、「申請にかかる農地のすべてを当該申請に係る用途に供することが確実と認められない」ためというものであって、これは、前記のような公調委が専門性を有する土地利用調整に関わる判断事項ではなく、農地法固有の判断事項というべきである。

原告は、砂利採取のための農地転用許可申請に対する不許可処分は、対象農地における農業を保護するために、砂利採取のための農地転用を許可しないこととなるから、当該不許可処分に対する不服の理由も、農地法の趣旨目的と砂利採取業との調整に関するものであると主張するが、原告の指摘する局面は、農業での土地利用と砂利採取業特有の形態での土地利用の利益の衝突から発生する専門的・技術的問題を争点としたものとは到底いえないから、原告の主張を採用することはできない。

したがって、本件不許可処分に対する不服の理由は、公調委が裁定すべき事項には当たらず、本件裁定申請は、農地法八五条六項所定の「鉱業、採石業又は砂利採取業との調整に関するもの」には該当しないというべきである。

なお、本件裁定申請事件においては、本案前の主張として管轄の有無は当初から問題とされており(甲一)、公調委の過去の裁定事例は上記結論を左右しない。

二  よって、本件裁定申請を不適法として却下した本件裁定は相当である。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮なほみ 裁判官 土屋文昭 市川多美子)

<以下省略>

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