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東京高等裁判所 平成19年(行コ)11号 判決 2008年7月10日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成16年6月25日付けでした軽油引取税更正・決定処分を取り消す。

3  訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は,地方税法700条の4第1項5号に該当するのに申告書を提出しなかったとして,被控訴人が控訴人について軽油引取税に係る課税標準量,税額及び不申告加算税額を決定する処分(以下「本件処分」という。)をしたところ,控訴人が被控訴人に対し,この処分は課税要件を欠く違法なものであるとしてその取消しを求める事案である。

原審は,控訴人の請求を棄却した。

2  法令等の定め,前提事実,争点及び争点に係る当事者の主張は,原判決の該当部分について次のとおり補正するほか,その「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1 法令等の定め」,「2 前提事実」,「3 争点」及び「4 争点に係る当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  4頁5行目末尾の次に「控訴人は,平成13年7月から平成14年10月までの間,軽油引取税における特約業者又は元売業者となったことはない。また,控訴人は,製造軽油の販売について直接関係を有する事務所・事業所を有しなかった。さらに,控訴人は,平成13年7月から平成14年10月までの間における製造軽油の譲渡について,原判決別紙2に記載の申告期限までに,課税標準量及び税額等を記載した軽油引取税の申告書を提出しなかった。」を加える。

(2)  6頁10行目の「リッター」を「リットル」に改め,12行目と13行目の間に次のとおり加える。

控訴人は,P6に軽油の製造を依頼し,P6は,控訴人の依頼に応じて軽油の製造をしたものであり,控訴人とP6は軽油の製造の請負契約を締結したのである。この請負契約において,控訴人自らが原料である重油と灯油を持ち込み,出来上がった軽油を控訴人が持ち出し,P6は加工賃のみを日々受け取ることとしていたのであり,出来上がった軽油は出来上がったと同時に所有権を控訴人に取得させるとの黙示の合意があった。

なお,この黙示の合意が認められないとしても,以下に主張しているとおり,P6に持ち込まれた原料の重油及び灯油はいずれも控訴人の所有であり,重油と灯油の比率が10対6で軽油ができるというのであり,重油は1リットル当たり30円,灯油は31円であるから,軽油1リットルを製造するのに必要な材料費は,30.375円となる。これに対し,軽油1リットル当たりの加工賃は11円ないし11円50銭であり(乙23),販売価格は53円ないし55円であった(乙25)。そうすると,控訴人が1リットル当たり30.375円の材料を供給し,P6がこれに工作を加え,それによって生じた価格は22.625円ないし24.625円程度ということになって,民法246条1項本文を適用しても,工作によって生じた価格は材料の価格を著しく超えることはないから,出来上がった軽油の所有者は材料の重油と灯油の所有者である控訴人というべきことになる(なお,軽油製造に必要な硫酸,活性炭,活性白土及び消石灰は軽油の原料ではなく,材料に当たらない。)。

(3)  8頁4行目の「リッター」を「リットル」に改める。

(4)  9頁15行目の「ものである。」の次に「軽油販売先も控訴人本人が関わっていることを承知していた。」を加える。

(5)  10頁21行目と22行目の間に次のとおり加える。

イ 控訴人の主体性について

本件軽油取引は,次に述べるとおり,P1及びP7という実体のないダミー会社の名義やP2の名義を利用した仮装のものであって,これらの名義による取引は,それを実質的かつ主体的に行った者,すなわち控訴人の取引にほかならないのであり,控訴人の行為として課税要件の充足が検討されるべきである。そして,その結果,課税要件を充たすから,控訴人が納税義務者となる。

(ア) P1及びP7P29名義の各銀行口座は控訴人が管理・支配していたこと

a 本件軽油取引においては,発注者,納品者及び請求書のあて先としてP1及びP7の名義が使用され,取引代金の振込元や入金口座としてこれらの名義の銀行口座が使用された。

b P1及びP7のP29名義の銀行口座は,本件軽油取引における決済口座として使用されており,P6への加工賃の振込み,本件軽油の販売代金の振込が行われているほか,P1名義の銀行口座からは合計2500万円が引き出され,それと同時にその全額が控訴人の個人名義の銀行口座に入金され,P7名義の銀行口座からは,少なくとも3826万円が引き出し後直ちに控訴人の個人名義口座に入金されており(乙11),さらに,P7名義の銀行口座からP1の借入金の返済が行われている(乙13)。

c 控訴人名義の口座には本件軽油取引による約9500万円の入金があり,これから原料費の支払や製造委託手数料を除くと,控訴人は,本件軽油取引によって,少なくとも6700万円の利得を得ていると認められる(乙12)。

d 控訴人は,P7の口座を動かしていたのは控訴人本人であると認め(乙25),P7のカードを預かり,P7の口座から出金して報酬を受領したことを認めている(乙14)。

e 控訴人は,これらの銀行口座の入出金について,P11への貸付金の相殺であるとか,支払代行であるなどと説明するが,いずれも何ら証拠がないものであり,具体性も合理性も見出せないものであって,到底信用できるものではない。

f 以上からすれば,控訴人がP1及びP7P29名義の銀行口座を管理・支配していたものと認められる。

(イ) P1及びP7は実体を伴わないものであり,本件軽油取引を行うに当たり控訴人が利用した名義であること

a P1について

(a) P1は,控訴人が代表取締役を務めていた株式会社であり,昭和61年に控訴人が設立したが,経営が悪化し,平成13年当時は休業状態となっており(甲8,乙15,控訴人本人),平成14年12月3日休眠法人としてみなし解散の登記がされている(乙2)。

P1は,平成9年以降決算を行っておらず,税務署長への法人税の申告を行っていない。会計帳簿も存在しない。株主総会も開催されておらず,形骸化した法人格のみが残っている状態であった(乙15)。

(b) 本件軽油取引において,P1の名義及び銀行口座が使用されているが,いずれも単に名義が使用されたに止まり,P1の行為として会社の会計帳簿に記帳され,法人税等の申告が行われ,P1の役員・従業員に報酬・給与が支払われる等ということはなかった(乙15)。

(c) P1の名義については,名義貸しが行われたとされるが,控訴人が本件軽油取引を行うに当たり,控訴人の取引をP1の取引と仮装するために,その名義を利用したというべきである。

b P7について

(a) P7は,法人格はなく,P29が行っていた個人事業で使用された商号であるとされる(甲8)。平成13年12月ころより,P1に代わって本件軽油取引にP7の名義が使用されるようになった。

(b) P29は本件軽油取引には無関係であり(証人P30),P29が個人事業主であるP7が本件軽油取引に関与した事実は認められない。

(c) 控訴人は,P7は誰がやっていたのかとの質問に対し,「私がやっていました。(P7の)P26銀行P27支店の口座を動かしていたのも私です。」と回答している(乙25)。P7P29名義の銀行口座の入出金状況をみれば(乙11,13),控訴人の関与なしには説明ができないから,P7名義の取引も控訴人が行ったものと認められる。

更に詳しく述べると,P29は,自分は何もやっていない,P31という人物から口座を作ってくれと依頼され,P26銀行P27支店で口座を開設し,控訴人のP2の事務所にP31と一緒に行って開設した預金通帳を渡したと述べるに止まり,その後の預金調査や関係者の事情聴取によっても本件軽油取引への関与は全くみられなかった(証人P30)。これに対し,控訴人がP7の名義を使用して本件軽油取引に関与していたことは疑いがない。すなわち,P7P29名義の口座から合計3826万円が引き出され,直ちに控訴人名義の口座に入金されており(乙11),さらに,P7P29名義の口座からP1の借入金の返済が行われており(乙13),P7あての請求書が控訴人の会社であるP2に送られるなど,控訴人がP7及びP7P29の名義を使用し,P7の取引であると仮装して本件軽油取引を行っていたことは明らかである。

c P2について

(a) P2は,控訴人が設立した有限会社であり(甲8,控訴人本人),本件軽油取引が行われた当時の控訴人の勤務先であり,本件軽油取引において,控訴人への連絡先,請求書のあて先及び振込名義として使用された。また,P2の事務所がP7P29名義の預金通帳の受渡場所として使われるなど,控訴人が実際に本件軽油取引に係る連絡を行った場所として重要な役割を果たしている。しかし,いずれも連絡先等の場所として使用されたに止まり,P2が本件軽油取引において具体的な取引行為を行ったと認められる事実はない。

(b) P2は,本件軽油取引が行われた当時,法人として営業を行っており,実体があったが,P2あてに請求が行われ,P2名義でP7の銀行口座から振込みが行われたP4への運送料及びタンク料について,P2名義の銀行口座から支払が行われた事実はない。

(c) P4が発行した運送料及びタンク料の請求書のあて先は,19件中4件がP1,15件がP2となっているのに対し,支払は,P2あての15件のうち,3件がP2名で,残りはP7P29名で,P1又はP7P29の銀行口座から送金されている(乙5)。

通常,請求先と異なる振込先から入金があれば,請求元としては,これがどの請求に対する入金であるか確かめる必要があるが,本件においては,関係者からそのような説明は一切なく,P4との間では,P1,P7,P2の名義による行為がいずれも控訴人の行為であるとの了解があったとみるほかはない。P2を含め,これらの仮装された会社や商号を使用し,実際に請求書等のやり取りをし,電話連絡を行い,振込み等を行うことができたのは,控訴人以外には存在しない。

(d) P2が,運送料及びタンク料の請求書のあて先となり,控訴人及びP1への連絡先の電話番号としてP2の事務所の電話番号が,控訴人個人の携帯電話番号とともに使用されたことは,控訴人が軽油取引先と連絡を取るためであって,控訴人が本件軽油取引の主体として,これらの取引を実際に行っていたことを示すものにほかならない。控訴人がP1の仕事でもあり,P2の仕事でもあったと述べたことは(乙23),まさしく控訴人の認識として,控訴人が会社の名義という外形を利用し,自らの商売として本件軽油取引を行っていたことを表したものにほかならない。

(ウ) 控訴人に本件軽油取引を行うことについての積極的な動機及び意思並びにP1及びP7の名義を利用する意思が認められること

a 控訴人は,P1に係る多額の借入金を抱えており,本件軽油取引によって少しでも収入を得たいという意図から,これを行うこととした(乙23)。

b 控訴人は,すべて自分で分かってやっている,自分の名前で本件軽油を売った等自ら本件軽油取引に主体的に関与していたことを認め(乙23),P1及びP7という名前で自分が商売をしていたことを認めている(乙23,25)。

c 控訴人は,当初から本件軽油が不正軽油であることを認識しており(乙25),軽油引取税を脱税することにより,安価に軽油を製造・譲渡できると認識していた。

d 控訴人は,自らP5と連絡を取って本件軽油製造の段取りを行い,自ら原料となる重油と灯油を仕入れ,タンクローリーの手配を行い,自ら需要家へ積極的に売り込みを行っている。

e 控訴人は,P1及びP7名義の銀行口座を管理・支配し,控訴人名義の銀行口座に資金を移動し,少なくとも6700万円にも及び利得を得るなど,積極的に利得を確保しようとし,現に利得を得た。

(エ) 取引先が控訴人を取引の主体と認識していたこと

a P4及びP10は,P1,アポロ商事及びP2が控訴人の関与する会社及び商号であることを承知しており,本件軽油取引が控訴人本人との取引であることを十分認識していた。

b P14の担当者は,P2の事務所又は控訴人の携帯電話に連絡し,控訴人に対し,軽油購入の注文を行い,P32の専務取締役はP2の事務所に連絡し,控訴人に対して軽油購入の注文を行っていたから,控訴人が主体的に取引を行う立場にあり,P1及びP7の実質的な行為者であると考えていたことは疑いがない。

(6)  10頁22行目の「イ」を「ウ」に改める。

(7)  14頁1行目から15頁12行目までを次のとおり改める。

(オ) 控訴人は,課税要件明確主義に反するというがいかなる根拠に基づく主張か明らかでなく,失当である。

(カ) 控訴人は,本件軽油取引後の平成16年に法700条の22の3の罰則規定が創設されたことをもって,本件処分が同規定の遡及適用であると主張しているが,同規定は不正軽油の運搬,保管等の行為が不正軽油の製造やほ脱行為を助成し又は誘発するものであることから,これら関与者に対し秩序罰を科すものであり,同規定はそもそも課税規定ではないから,控訴人の主張は失当である。

(キ) 控訴人は,仮に本件処分が控訴人に関係するものであるとしても,控訴人はP1の第二次納税義務者に当たると主張するようであるが,第二次納税義務とは,本来の納税義務者等が地方公共団体の徴収金を滞納している場合に,主たる納税義務者等の財産に滞納処分をしてもなお徴収すべき徴収金が不足すると認められるときに,その者と一定の関係がある者に対し,第二次的にその納税義務を負わせることにより,徴税の確保ないし合理化を図ろうとする徴収手続に係る規定であり,本件において,徴収手続の適用可能性を論じることは適切ではなく,控訴人の主張は失当である。

(ク) 控訴人は,本件処分が事実関係について十分な調査を尽くさないで事実を誤認したまま,推計で行われたものと主張するようであるが,十分な調査を尽くした上で行われているから,この主張は失当である。

(ケ) 控訴人は,本件軽油取引が刑事告発されなかったことをもって,本件処分に疑問を呈しているが,刑事告発をしたか否かにより課税処分の適法性が左右されることはないから,この主張は失当である。

(8)  15頁24行目の「ならない」から「いない」までを「ならない」に改め,24行目と25行目の間に次のとおり加え,同行目の「(ア)」を「(イ)」に改める。

(ア) 上記(ア)(軽油製造依頼)について,控訴人がP6に軽油の製造を委託したことはなく,また,P6との間で,製造された軽油の所有権が原始的に控訴人に帰属する旨の合意をした事実もない。P6の軽油製造過程において,P6が控訴人の持ち込んだ材料を用いて製造を行ったかは不明であり,P6と控訴人とが結んだとされる契約が請負契約であるのかについてすら疑問が存在する。控訴人がP6と契約を結んだとしても,その契約は軽油の売買契約である可能性があり,P6はその製造した軽油の所有権を原始取得した上で,これを控訴人に譲渡した疑いがあるというべきである。

また,控訴人は,製造される軽油について,よく分からない旨供述しており(乙23),これは,主体的に軽油の製造依頼を行ったのではなく,P11らの主導の下に副次的に関わったにすぎない事実を示している。控訴人が主体的に軽油の製造依頼を行っていた事実はない。

(9)  16頁7行目末尾の次に「他方,控訴人は,どういう状態で油を持ち込んだのか分からない旨供述しているところ,一般に,自らが行った取引において自らが仕入れた商品の状態を知らずに仕入れることは考え難く,この供述は,P11らの主導の下で副次的に関わったにすぎない事実を示すものというべきであり,控訴人について(イ)の要件は充たされていない。」を加え,10行目と11行目の間に次のとおり加える。

(ウ) 上記(ウ)(原料の運搬)について

控訴人は,製造工場に原料がどのようにしてどのような状態で持ち込まれたのか知らず,製造されて引き渡された軽油が自分の持ち込んだものかどうかも知らず,それが最終的にどこに持ち出されるのかも知らなかった。控訴人は,P11らの主導の下に軽油運搬の手配及び連絡役を務めていたにすぎず,控訴人について(ウ)の要件は充たされていない。

(エ) 上記(エ)(軽油製造委託先への指示)について

控訴人は,本件軽油を実際に運搬したP4に対して,指定された時間に行くように指示しているだけであり,軽油製造委託先とされるP5に対して指示をした事実はない。むしろ,P5又はP11らの指示どおりに運搬することをP4に連絡したにすぎず,控訴人について(エ)の要件は充たされていない。

(オ) 上記(オ)(軽油の引取り)について

控訴人は,タンクローリーの手配及びタンク使用料の支払をしたが,運搬する軽油の中身が何であるかを知らないまま,P11らの指示に従って手配及び支払をしたにすぎず,控訴人について(オ)の要件は充たされていない。

(カ) 上記(カ)(軽油製造に対する報酬の支払)について

P5に対する支払が加工賃であるとしても,控訴人は,P1の仕事でもある本件軽油取引に係る支払として支払ったにすぎない。本件軽油取引に関し控訴人名義の口座が使用されたことは事実であるが,これは,P1の名義を含めP11らに名義を貸したものであり,このことは,P7ことP29がP11らに名義を貸した事実と何ら変わりがない。

(キ) 上記(キ)(軽油購入の勧誘)について

P13に控訴人が行ったのは,P11らからあいさつに行くように指示されたためにすぎない。控訴人について(キ)の要件は充たされていない。

(ク) 上記(ク)(軽油購入の申込み受ける)について

控訴人は,P11らの主導の下に連絡役を務めていたのであるから,控訴人がその携帯電話やP2の事務所を連絡場所としていたことは当然である。

(10)  16頁11行目の「(イ)」を「(ケ)」に改め,22行目末尾の次に「なお,控訴人は,本件軽油取引の連絡を個人で行ったとの認識はあったものの,事業として本件軽油取引を行ったのは法人としてのP1又はP2であったと供述しており,控訴人自身の取引であることを自認したことはない。」を加え,23行目の「(ウ)」を「(コ)」に改める。

(11)  17頁15行目の「リッター」を「リットル」に改める。

(12)  19頁10行目と11行目の間に次のとおり加える。

ウ 納税義務者の誤認

(ア) 本件処分の前提となる事実関係は,次に述べるように,P1及びP7の名義で行われている。課税対象とされる行為は原則として名義を前提に判断されるべきであるから,本件軽油取引に係る納税義務者は控訴人ではない。

a P6に対する軽油製造委託定数料の支払は,P1又はP7名義の預金口座から送金されている(乙3)。

b P10からの重油,灯油等の買い付け代金の請求がP1又はP7あてにされ,P10に対する支払がP1又はP7名義の預金口座から送金されている(乙4)。

c P4に対する運送料及びタンク使用料の支払やP12に対する運送料の支払は,いずれもP1又はP7名義の預金口座から送金されている(乙5,6)。P4の取引の相手方がP1であった事実は,P4代表者の陳述書及びその証人尋問の結果からも明らかである。

d P10外3社からの軽油販売代金の請求がP1又はP7あてにされ,P10外3社に対する軽油買付代金の支払がP1又はP7名義の預金口座から送金されている(乙7)。P10の取引の相手方がP1であった事実は,P10代表者の陳述書(甲6)及びその証人尋問の結果からも明らかである。

e P13の専務取締役は,被控訴人担当者の事情聴取に対して,軽油の購入先はP1である旨を述べている。また,P33協同組合や,P14の担当者も,軽油の購入先はP1である旨を述べている(乙9)。

f P5に販売された重油,灯油の代金の請求者はP1又はP7であり,P5からの送金はP1又はP7名義の預金口座にされている。

(イ) 本件軽油取引に係る納税義務者を,課税対象行為の名義人であるP1又はP7ではなく,控訴人であるとするには,法人格否認の法理,実質帰属者課税の原則又は第二次納税義務者のいずれかによる必要があるが,被控訴人は必要な主張,立証をしていない。

(13)  19頁11行目の「ウ」を「エ」に改める。

(14)  23頁10行目の「エ」を「オ」に改める。

(15)  24頁14行目の次行に次のとおり加える。

カ その他の控訴人の主張

(ア) 課税要件明確主義

課税要件明確主義の趣旨からすれば,課税要件を充足するとするための評価の対象となる事実関係は明確なものが必要となるというべきところ,本件処分は,その前提とする事実関係が説得的でない。

(イ) 地方税法の遡及適用の疑い

本件軽油取引後の平成16年に,法700条の22の3の罰則規定が創設された。控訴人は,審査請求の段階から一貫して単なる連絡役にすぎないことを主張しており,本件軽油取引の時点でこの地方税法改正が行われていたとすれば,同規定が適用されていたと考えられる。そうだとすれば,被控訴人の本件処分は,同規定を遡及適用したもので,違法である。

(ウ) 連帯納税義務者

控訴人が本件軽油取引に共同経営者として関与したものであるとするのであれば,控訴人は,P11やP19らと連帯してひとつの納税義務を負担する連帯納税義務者であるところ,本件処分は,この点を看過し,控訴人を単独の納税義務者としている。しかし,共同して製造,販売をした者の中のひとりのみに対して課税をすることを許容する税法上の規定は存在しない。控訴人の財産が滞納処分で執行されても,控訴人は,P11らに対する求償権を保証されないという不当な結果を生じさせるものであり,租税法律主義の趣旨を逸脱する。この点においても,本件処分は違法である。

(エ) 調査方法の不備,刑事告発等との整合性

本件処分は,事実誤認と思い込みにより適切な調査がされないまま,不十分な調査に基づき,収集すべき証拠をそろえないままされた不当な処分である。

本件は,被控訴人らの主張によれば,3億5000万円もの脱税事件であるにもかかわらず,刑事告発が行われておらず,重加算税も課されていないのは,税務調査の過程で不十分な調査しか行わなかったためであるとの疑いが強く,この点からも課税要件が充足しているとは認められないというべきである。

第3当裁判所の判断

1  法700条の4第1項5号は,①特約業者及び元売業者以外の者が,②軽油の製造をして,当該製造に係る軽油を他の者に譲渡するという要件を充足することによって,当該軽油を譲渡した特約業者及び元売業者以外の者が納税義務を負担する旨規定している。本件では①について争いはないが,②について,控訴人が軽油の製造をして,当該製造に係る軽油を他の者に譲渡したといえるのか否かが争点となっている。以下,この点について検討する。

2  被控訴人は,平成13年7月1日から平成14年10月31日までの間に,控訴人が軽油の製造をした旨を主張しているので,まず,このことが認められるかについて検討する。

(1)  軽油引取税は,消費税の一種であって,軽油の引取りで当該引取りに係る軽油の現実の納入を伴うものを課税要件(引取課税方式),引取り数量を課税標準とし,元売業者又は特約業者からの引取りの時点において,その引取りを行う者を納税義務者とした上,徴税手続の簡素化を図るために元売業者又は特約業者を特別徴収義務者とした仕組みの税制である。軽油の流通過程は,元売業者が輸入した原油を精製して製造したものが特約業者を経て消費者に譲渡されて消費されるのが通例であるから,主に特約業者の手を離れる時点において課税して消費者に転嫁するのが合理的である。そこで,上記のような仕組みが採用されたのであるが,他方において,上記流通過程から外れた軽油が消費されるに至る場合も存在するため,公平課税の見地から,それらも広く捕捉する必要性を認め,数種のみなす課税が定められている。その1つが,特約業者及び元売業者以外の者が軽油を製造して他の者に譲渡した場合を引取りとみなして課税するものである(法700条の4第1項5号)。

このみなす課税は,製造して,その製造に係る軽油を他の者に譲渡する行為を課税要件(移出課税方式),譲渡数量を課税標準とし,譲渡の時点において,元売業者及び特約業者以外の者(製造者)を納税義務者とするものであるところ,その「譲渡」とは,有償たると無償たるとを問わず,当事者間の契約によって所有権を他人に移転することをいうものと解される。ところで,法700条の4第1項5号は,課税要件を定めるものであるほか,これによる軽油引取税の納税義務違反に対しては罰則が設けられており(法700条の14第1項5号,700条の28第2項,第4項),法700条の4第1項5号の「軽油の製造をして」は犯罪構成要件でもあるから,厳格な解釈を旨としなければならないところ,「譲渡」の前段階である「製造」とは,文言どおり,社会通念に従い材料又は原料に物理的若くは化学的な変化を与え,操作を加えることにより,軽油を造り出し,造られた軽油の所有権を原始的に取得することを意味すると解すべきである。なぜならば,所有権移転を伴う「譲渡」をするには軽油の所有権が帰属していなければならないし(犯罪構成要件の観点からしても,所有権の帰属を問題としなければ「製造」も「譲渡」もその概念を画することができない。),所有権の原始取得をすることが「製造」の通常の用語例に合致するからである(例えば,法699条の2第2項においても,物を造り出し,造り出された物の所有権を原始的に取得することの意味で「製造」との文言が使用されている。)。さらに,平成16年法律第17号による改正後の法700条の4の2第1項が「第700条の22の2第1項第1号又は第2号の規定に違反して道府県知事の承認を受けないで製造された軽油について,第700条の3第4項又は前条第1項第5号の規定により軽油引取税を納付する義務を負う者(以下本条において「納税義務者」という。)が特定できないとき又はその所在が明らかでないときは,当該軽油の製造を行つた者・・(中略)・・は,当該納税義務者と連帯して当該軽油引取税に係る地方団体の徴収金を納付する義務を負う。」と規定し,「軽油の製造を行つた者」が納税義務者と連帯して軽油引取税を納付する義務(補完的納税義務)を負うこととされていることとの関係でも,「製造」について上のように解することで全体として整合的な解釈をすることができるのである。すなわち,そこでいう「軽油の製造を行つた者」は,「軽油の製造をして」これを他の者に譲渡等した者(納税義務者)とは別の立場の者であるところ,納税義務者が特定できず,又はその所在が明らかではないときは,これと連帯して徴収金の納付義務を負うことになる。そうすると,「軽油の製造をし」た納税義務者とは別異な存在である「軽油の製造を行った者」は実際上軽油の製造を行ったがその所有権を取得しない者であり,この者をして軽油の製造をし,その所有権を原始取得した者が納税義務者であるとすることによって両者が初めて区別されることになる。ところが「製造」について所有権の取得を問題としないこととすると,いずれも「軽油の製造」の主体であって,その区別をすることが困難となってしまうのである(「軽油の製造を行った者」は,多くの場合,他の者の委託を受けて軽油を実際に製造した者〔受託製造者〕であると考えられるから,委託を受けて製造したか否かによって区別をすることを考える余地がないではない。しかし,どのような行為があれば委託があったというのか一義的に明確とはいえないから,委託をした者と委託をされた者との区別で両者を明確に線引することが可能かはそもそも疑問がある上,条文の文言上委託があることは何ら要件とされていないにもかかわらず,解釈で新たな要件を加えることが租税法律主義の見地から妥当かの問題がある。それに,この補完的納税義務の導入がダミー会社を仮装して納税を逃れようとする悪質な行為を防ごうとするものであるところ,委託の有無を要件に加えるとなると,委託があるかどうかが新たな立証事項となりそれがあるか否かが不明な場合には補完的納税義務を課することが不能となってしまい,立法の目的を大幅に減殺することになる。これらにかんがみれば,委託を受けて製造したか否かによって区別をするとの考えを採ることはできない。)。

(2)  本件において被控訴人は,控訴人がP6に委託して軽油を製造した,出来上がった軽油は出来上がったと同時にその所有権を控訴人に取得させるとの黙示の合意があったと主張し,これに対し,控訴人は,P6に製造を委託したことはなく,P6との間で製造された軽油の所有権が原始的に控訴人に帰属する旨の合意をした事実もないと争っているから,具体的には,P6によって製造された軽油を控訴人が原始取得したと認められるか否かが問題となる。

(3)  この点,甲第3号証(被控訴人による弁明書)には,茨城県庁からの通報資料から,控訴人が原料をP6に供給して軽油の製造を委託したことが確認できたとの記載があり,また,乙第23号証(P5の刑事公判における控訴人の証人尋問調書)には,P5の刑事事件公判廷での証人尋問において,P6の石油精製工場に重油と灯油を持ち込み,1リットル当たりいくらという加工賃を払って軽油に加工してもらう取引をP5とした旨を控訴人が供述したとの記載部分がある(乙第1号証にも同旨の記載部分がある。)。

しかし,同調書に記載された控訴人の供述はこの取引の具体的な内容をほとんど説明しておらず,P6の石油精製工場で製造された軽油を控訴人が原始取得することを直接認めるに足りるだけの中身があるものとはいえない。

これによって,被控訴人が主張している軽油の所有権の取得に係る黙示の合意を認めることはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。むしろ,同調書によれば,持ち込んだ重油と灯油の合計量と同量の軽油を持ち帰るという取引であったとされていることに加え,乙第28号証(P5の刑事事件第一審判決)によれば,P6の石油精製工場においては,同時期に複数の者から重油及び灯油の持ち込みを受け入れていた可能性があるものの,それらの重油等を分別管理できるだけの施設があったとは必ずしも認められない(十分に判然とはしないものの,むしろ原料貯蔵タンクは1基しかなかった可能性が強い。)上,同工場での軽油製造には相当程度の時間が必要であると認められるのに(同判決によれば,概要,重油と灯油の混合油に硫酸を加えてかくはんし,硫酸ピッチを沈殿させ,混合輸送に活性炭,活性白土及び消石灰を加えて拡販し,ろ過をするという工程を経て製造されていたものと認められる。),被控訴人が控訴人とP6の取引であると主張しているP1名義での取引に係るタンクローリーの運転手は,重油10キロリットルと灯油6キロリットルを同工場に搬入し下ろし終わると,すぐに軽油16キロリットルの荷積みをしていた旨を公判廷で証言していることが認められる(別途,乙第23号証によれば,控訴人は,同工場から持ち帰る軽油は控訴人の持ち込んだ原料を加工したものなのか,他の顧客の持ち込んだ原料を加工したものなのか分からないと公判廷で証言したことが認められる。)。

これらによれば,P6は,あらかじめ重油等の原料を加工して軽油を製造しておき,その中から,新たに原料である重油と灯油を持ち込んだ顧客に対してその合計量と同量の軽油を引き換えに渡し,これとともに1リットル当たりいくらとして定めた金額を加工賃と称して取得するという取引をしていた可能性が高いといわざるを得ない。その場合,特段の事情がない限り,P6が製造した軽油はひとまずはP6の所有物となると考えられるところ,この特段の事情を認めるに足りる証拠はない(なお,被控訴人は,民法246条により控訴人が軽油の所有権を原始取得するなどと主張しているが,これは別段の合意がない場合の規定であり,説示したような取引であったとすればこの規定の適用の余地はないのであって,いずれにしてもこの点がこの特段の事情に当たることはない。)。そうだとすると,控訴人がP6と軽油製造に関わる取引をしていたとしても,製造された軽油を控訴人が原始取得したと認めることは困難であるから,控訴人が軽油を製造したとは認められない。

(4)  結局のところ,その余の点を検討するまでもなく,控訴人が軽油の製造をして,当該製造に係る軽油を他の者に譲渡したということはできない。

3  まとめ

以上の次第で,本件処分は課税要件を欠く違法なものといわざるを得ないから,取消しを免れない。

第4結論

よって,これと異なる原判決は不当であるからこれを取り消すこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 園部秀穗 裁判官 小海隆則)

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