東京高等裁判所 平成19年(行コ)248号 判決 2007年10月30日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 越谷税務署長が控訴人に対し平成15年1月29日付けでした控訴人の平成12年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)のうち総所得金額1119万4737円,還付されるべき税額58万4524円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。
(3) 訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要等
1 本件は,控訴人が,勤務先会社であるA社及びその関係企業の一定の役職以上の者を会員とするAクラブという。)の会員として出資金の運用益(米国企業等への投資によるもの)の分配を受け,これを租税特別措置法所定の申告分離課税となる「株式等に係る譲渡所得等」として所得税の確定申告をしたところ,所轄税務署長が,当該運用益の分配は,A社が行った投資行為によるもので,控訴人自身の株式等の譲渡行為によるものではなく,祖税特別措置法の適用はないとして,本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたことから,控訴人がこれを不服として,本件更正処分については確定申告に係る金額を超える部分の取消しを,本件賦課決定処分についてはその金額全部の取消しをそれぞれ求めたものである。
原審は,上記分配金は,A社が米国企業へ投資したことにより得た運用益の一部であり,A社を営業者,出資者を匿名組合員とする匿名組合契約が成立し,匿名組合契約に基づく利益の分配金であると認定し,本件所得が「株式等に係る譲渡所得等」に該当せず,雑所得であって,源泉徴収税額を生じるが,控訴人が納付すべき税額は本件更正処分に係る納付すべき税額を上回るから,本件更正処分は適法であり,本件賦課決定処分もまた適法であると判断し,請求をいずれも棄却したことから,控訴人がこれを不服として控訴した。
2 争いのない事実並びに課税処分等の経緯及び所得税額等に関する当事者の主張は,原判決事実及び理由「第2 事案の概要」の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点及びこれに関する当事者の主張は,次項において当審における控訴人の主張を付加するほか,原判決事実及び理由「第2 事案の概要」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
(1) 原判決は,本件投資行為(全員の出資金を米国有望企業等に投資していた行為)を匿名組合員(本件会員)自身が行った株式等の譲渡行為と評価することはできず,本件所得は,営業者(A社)の営業に対する出資の対価としての性質を有するものと解するのが相当であるとして,本件所得は「株式等に係る譲渡所得等」に該当しないとする。
しかし,匿名組合から受ける所得は,当該事業に参加したことに基づいて受け取る所得であるところ,本件所得は,利益の有無にかかわらず分配されたものではなく,営業主の事業によって得られた所得をそのまま出資割合に応じて分配したものである。本件所得の区分もその実態に鑑み,営業者の営業内容に従って定めるべきであり,営業者の営業内容が株式の譲渡取引であった以上,本件所得は「株式等に係る譲渡所得等」に該当することは明らかである。
(2) 原判決は,匿名組合員が営業者の事業を共同して営む立場にない単なる出資者である場合の当該匿名組合員が営業者から受ける利益の分配は,当該出資行為を匿名組合員自身の事業とみることができる場合を除き,出資の対価として雑所得に該当すると解するのが相当であり,その意味で,改正通達は,所得税法の正当な解釈を示しているというべきであるという。
しかし,平成17年12月26日改正前の所得税基本通達36・37共-21(旧通達)は,匿名組合の組合員が当該組合の営業者から受ける利益の分配は,原則として,当該営業者の営業の内容に従い,事業所得又はその他の所得とされるものとし,例外的に,営業の利益の有無にかかわらず一定額又は出資額に対する一定割合により分配を受けるものに限り,貸付金の利子として事業所得又は雑所得としていたものである。課税当局は,旧通達に依拠して課税行政を行っていたものであり,旧通達は法源と同じ機能を果たし,これにより画一的事務処理が確立しており,特段の合理的な理由がないのに,通達によらない課税をすることは平等原則に反し,法的安定性及び予測可能性を覆すもので信義則上許されない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,次項に判断を付加するほか,原判決事実及び理由「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人は,本件所得は「株式等に係る譲渡所得等」に該当する旨主張するが,控訴人自身も,国税調査官の聴取に対し,「Aクラブ」の投資活動には実質上一切関与しておらず,ただ出資をしただけである旨を述べており(<証拠省略>),投資事業の主体はA社であって,控訴人を始めとする出資者は共同して当該事業を営む立場にない単なる出資者にすぎなかったものである。
したがって,控訴人が受け取った本件分配金は,A社を営業者,控訴人を出資者,匿名組合員とする匿名組合契約に基づく利益の分配と認められ,出資金を営業者であるA社が米国有望企業等に投資し,取得した株式を譲渡した行為は,控訴人ら匿名組合員が行った株式等の譲渡行為と評価することはできない。本件所得は,営業者(A社)の営業に対する出資の対価としての性質を有するものと解され,株式等の譲渡による所得といえないことが明らかである。
そして,控訴人は,旧通達は法源と同じ機能を果たし,これにより画一的事務処理が確立していたと主張するが,上記のような単なる出資者にすぎない匿名組合員が営業者がした投資による利益につき分配を受けた場合,旧通達に従った課税が確立し,画一的な事務処理がされていたことを認めるに足りる証拠はない。<証拠省略>によれば,旧通達による取扱いは理論的ではないとして,雑所得処理をしている例も多く見られたというのである。本件更正処分等が平等原則に反し法的安定性及び予測可能性を覆すものであると認めることはできず,信義則に違反するものでもないから,無効となるものではない。
3 したがって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 西田美昭 犬飼眞二 大竹昭彦)