東京高等裁判所 平成19年(行コ)299号 判決 2009年5月20日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。
2(1) 本案前の申立て
被控訴人らの訴えをいずれも却下する。
(2) 本案の申立て
被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,控訴人が株式会社P1(以下「P1」という。)に対してした産業廃棄物処理施設の設置許可処分について,同許可に係る産業廃棄物処理施設の周辺に居住する被控訴人らが,同許可処分の違法を主張してその取消しを請求する訴訟である。
原判決は,被控訴人らの請求を認容したため,控訴人が控訴をした。
2 前提事実(証拠の引用のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) P1は,昭和63年3月14日に株式会社P2の商号で設立された一般廃棄物及び産業廃棄物の処理,運搬収集等の事業を目的とする株式会社であり,平成12年6月20日に商号を現在のものに変更した。
(2) P1は,原判決別紙①設置場所目録記載の土地(以下「本件予定地」という。)に産業廃棄物の最終処分場(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令7条14号ハに掲げるもの。以下「本件処分場」という。)を設置しようとし,平成10年6月8日,控訴人に対し,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)15条1項の許可の申請(以下「本件許可申請」という。)をした。
(3) 平成10年6月17日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成9年法律第85号。以下「平成9年一部改正法」という。)2条(法15条を改正し,法15条の2を新設する改正規定を含むもの)及び附則5条の規定が施行された。
(4) 控訴人は,平成11年4月27日,P1に対し,本件処分場の設置を許可しない旨の処分をした。
(5) P1は,上記(4)の不許可処分につき,厚生大臣に対し,行政不服審査請求をしたところ,厚生大臣は,平成12年3月30日付けで同不許可処分を取り消す旨の裁決をした。
(6) 平成12年10月1日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成12年法律第105号。以下「平成12年一部改正法」という。)が施行された。
(7) 控訴人は,平成13年3月1日付けで,P1に対し,本件許可申請に係る本件処分場の設置を許可する旨の処分(以下「本件許可処分」という。)をした。
(8) 本件処分場の設置計画の概要は,原判決別紙④「本件処分場概要」記載のとおりである(乙1,2,弁論の全趣旨)。
(9) 被控訴人らは,本件予定地と原判決別紙③「原告ら位置関係図」のとおりの位置関係にある肩書き住所地にそれぞれ居住している。
3 争点
(1) 本件に適用される法令の規定
(2) 被控訴人らの原告適格
(3) 本件許可処分をする際の手続の適法性
(4) 許可の基準の充足の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件に適用される法令の規定
ア 被控訴人ら
平成12年一部改正法附則4条は,産業廃棄物処理施設に関して,平成12年一部改正法1条の規定による改正後の法(以下「平成12年法」という。)15条の2第2項の規定の不適用についての経過措置の規定を置くほかは,経過措置についての規定を置いていない。このように平成12年一部改正法が,新法主義の原則を採用したのは,廃棄物の不適正な処理を防止するため,悪質な業者の排除や生活環境保全等の法目的達成の観点から,不適切な者に対する規制の強化等を行うという政策的見地に基づくものである。
したがって,平成12年一部改正法の施行後に産業廃棄物処理施設設置の許可申請についての処分を行う場合には,許可申請の時期にかかわらず,平成12年法が規定する許可要件及び手続に従って審査し,判断しなければならない。平成9年一部改正法附則5条1項の規定は,平成12年一部改正法が施行された後は,後法優先の原則により,失効したというべきである。このように解すべきであるのは,平成12年一部改正法が廃棄物の不適正な処理を防止するために規制を強化する規定について政策上経過措置を設けなかったという立法趣旨からの帰結でもある。
そうすると,本件許可処分は,平成13年3月1日にされているから,控訴人は,平成12年法が規定する許可要件及び手続に従って審査し,判断しなければならなかった。
控訴人は,平成12年一部改正法で新設された条項(法15条の2第2項を除く。)は本件許可申請についての処分に適用されるが,その余の事項については平成9年一部改正法附則5条1項の規定により平成9年一部改正法2条の規定による改正前の法(以下「平成3年法」という。)が適用されると主張するが,根拠のない独自の見解である。
イ 控訴人
平成9年一部改正法附則5条1項は,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,平成9年一部改正法2条及び附則5条の規定の施行の際,許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,なお従前の例によると規定している。平成9年一部改正法附則5条1項の規定は,その後改正されていないので,本件許可申請についての処分には依然として平成3年法が適用されることになる。
しかしながら,その後平成12年一部改正法が新法主義の原則を採用したことから,平成12年法のうち平成12年一部改正法によって新設され,又は実質的に変更された規定に限っては,上記のなお従前の例によるとされる処分についても,適用されることになる。
このように解さないと,上記のなお従前の例によるとされる処分がされることを期待していた申請者が改めて時間と費用をかけて平成9年一部改正法によって導入された生活環境影響調査をしなければならず,国民の予見可能性を著しく害するし,また,行政庁の側も,実際に遅滞なく告示,縦覧等を行うことができないから,当該申請は,結局その設置計画等の内容にかかわらず,すべて不許可とすべきことになり,実質的に見ても,不当である。
(2) 被控訴人らの原告適格について
ア 被控訴人ら
(ア) 原告適格の有無は,訴訟要件であり,訴訟の入口の段階で判断すべきものであるから,社会通念による概括的な程度のものがあれば足りると解すべきである。このように考えると,個別具体的な危険性がなくても,抽象的危険性があれば,原告適格を認めるに十分なのであるから,α台地内に居住し,地下水を生活用水,農業用水等に直接利用している者という概括的な基準に該当すれば,一律に原告適格を認めて差し支えない。
(イ) 被控訴人P3の原告適格
本件処分場における焼却灰の飛散対策としての散水の基準は不明確であり,飛散防止ネットの規格も不明であって,不十分な計画であるといわざるを得ない。焼却灰に基準を超えるダイオキシン類が含まれるかどうかの行政庁による監視も不十分である。焼却灰は,風速及び湿度によっては,数kmの範囲にわたり飛散する。そうすると,被控訴人P3の居住地や畑に焼却灰が到達する蓋然性は高く,被控訴人P3が健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあることは明らかである。
本件予定地の地下水と被控訴人P3が水田に利用する湧水は,豊富な地下水量を有するα台地の広がりの中でつながっているところ,いったん汚染物質が本件処分場から漏出すると,豊富な地下水に乗って,汚染はα台地全体に拡散する。また,本件予定地は極めて透水性の高い砂層の上に立地しており,汚染物質の漏出があると,被控訴人P3の居住地は1年ないし4年で汚水が到達する蓋然性が高いし,被控訴人P3の水田に水を供給する水源池は5,6年で汚水が到達することが十分予想される。そして,P1の計画は安全なものであるとはいえず,経済的基盤が著しく脆弱なP1が適切な水質監視や漏水があった場合の補修を行うことは不可能である。したがって,被控訴人P3に原告適格が認められることは,明らかである。
(ウ) 被控訴人P4の原告適格
被控訴人P4が焼却灰の飛散によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けることは,被控訴人P3と同様である。
被控訴人P4は,飲料,生活及び農業のすべてに2本の井戸で週に15m3の地下水を利用している。その地下水は,同じα台地上に存在する本件予定地の地下水と同一の帯水層に属し,つながっているので,本件予定地と被控訴人P4の居住地が約3000m離れていることが原告適格を否定する理由にはならず,被控訴人P4に原告適格が認められることも,明らかである。
イ 控訴人
(ア) 即日覆土,散水,飛散防止ネット等の対策をとることとなっている本件処分場から,被控訴人P3が耕作している畑までは約500m,被控訴人P3の居住地までは約600m離れており,本件処分場からの焼却灰が飛散して行くことはない。また,被控訴人P3の水田及び湧水池は,本件処分場との間に約800mの距離がある上,間に谷もあり,周辺台地の傾斜も考慮すると,地下水汚染の影響を受けない。
また,本件処分場では,有害な浸出水が場外へ排出されない対策として,遮水シート敷設その他の遮水工の施工,漏水検知システムによる早期発見,P1による定期的な水質監視と控訴人への報告等の措置がとられるので,地下水の汚染には十分な対策がとられている。
したがって,被控訴人P3には原告適格が認められない。
(イ) 被控訴人P4の居住地は,本件処分場との間に約3000mの距離がある上,その間にいくつかの谷があり,周辺台地の傾斜も考慮すると,仮に本件処分場から浸出水が流出しても,地下水と共に被控訴人P4の居住地まで到達するおそれはない。また,地下水の汚染に対する対策は,上記(ア)のとおりである。
したがって,被控訴人P4にも原告適格は認められない。
(3) 本件許可処分をする際の手続の適法性
ア 被控訴人ら
控訴人は,本件許可処分をするに当たり適用法律を誤ったため,平成12年法15条3項の生活環境影響調査の結果を記載した書面提出の要件を考慮せず,同条4項の告示をせず,同項に規定する書類を公衆への縦覧に供することをせず,同条5項の意見聴取をしなかった。このように手続要件についての法律違反が明らかであるから,本件許可処分は,違法であり,取り消されるべきである。
控訴人は,本件においては,実質的には手続的要件を満たしていると主張するが,法の要請を満たすものでないことは,明白である。
イ 控訴人
仮に本件許可処分に当たって平成12年法が適用されるとしても,控訴人は,次のとおり,告示,縦覧及び関係者からの意見聴取と同視できる措置をとっており,平成12年法15条4項及び5項の要件を満たしている。
(ア) 控訴人は,P1に対し,指導要綱の規定に基づき,周辺住民にその産業廃棄物処理事業を説明するための説明会の開催等を行うことを指導するとともに,平成13年1月9日及び同月26日に,それぞれ市町長や行政職員を対象とした説明会及び住民説明会を開催するなど,関係者からの意見聴取を積極的に行い,本件処分場の事業計画等について十分に周知した。
(イ) 控訴人は,関係市町長に対し,指導要綱の規定に基づき事前協議書を送付し,市町が定める土地利用計画及び環境保全に関する計画への適合状況,地域の環境保全上の留意点等について意見を求めた。更に,上記(ア)のとおり,市町長等を対象とした説明会を開催し,意見聴取を積極的に行った。
(4) 許可の基準の充足の有無
P1の経理的基礎に関する当審における当事者の主張を次のとおり補足するほかは,原判決第2の3の争点(2)アからエまで(原判決4頁25行目から5頁17行目まで)についての当事者の主張(原判決別紙⑤のうち,原判決85頁1行目から105頁31行目までの部分に限る。)のとおりであるから,これを引用する。
ア 控訴人
(ア) 技術上の基準を満たしている産業廃棄物処理施設の設置者であるにもかかわらず,周辺住民が著しい被害を直接的に受けるおそれのある災害等の発生が想定される程度に経理的基礎を欠くという事態は考えられないから,経理的基礎の不存在は,自己の法律上の利益に関係のない違法(行政事件訴訟法10条1項)についての主張である。
(イ) 本件予定地に設定されている総額36億7200万円の担保権の被担保債権は,控訴人が申請者の経理的基礎を審査するための書類に記載されておらず,控訴人において知る由がなかった。法及び法に基づく命令は,貸借対照表,損益計算書,法人税納付関係の書類等一定範囲の資料に基づいてのみ許可の基準である経理的基礎の有無を判断することを求めているというべきである。なお,P1の簿外債務を考慮せずに営業開始11年目の収支を計算すると,最終的に4億8000万円の黒字となり,その収支計画に問題はないことになる。
仮に本件許可処分後に簿外債務の存在が判明し,経理的基礎が存在しないと認められる場合には,控訴人は,法15条の3第2項の規定により本件許可処分を取り消すことができるので,産業廃棄物処理の適正は確保されるのである。
(ウ) 本件予定地にP1以外の第三者を債務者とする総額18億2200万円の被担保債権のために抵当権設定登記がされていたことについては,本件許可処分時における被担保債務の残額が控訴人には分からず,また,同残額を調査する方法もないのであるから,これを経理的基礎の判断要素に入れることは相当でない。
仮に本件許可処分後に当該第三者の債務のうち設置者の負担額が判明し,経理的基礎が存在しないと認められる場合に,法15条の3第2項の規定により本件許可処分を取り消すことができるのは,上記(イ)と同様である。
イ 被控訴人ら
(ア) P1の簿外債務については,控訴人が本件許可処分当時その存在を知らなかったとしても,裁判所が口頭弁論終結時までに取り調べた証拠から本件許可処分当時の経理的基礎を判断することができるのは,当然である。また,控訴人は,簿外債務を除外して収支を計算すると,最終的に4億8000万円の黒字になると主張するが,現に存在する債務を除外して収支を計算すること自体無意味であり,更にその収支計算には本件処分場の建設費6億円を計上していないという誤りもある。
また,行政庁が許可処分後に当該許可処分を取り消すことができることと経理的基礎の判断要素としてどのような事情を取り上げるかということとの間には論理的な対応関係はない。
(イ) P1が抵当権設定登記の抹消のための費用を負担することになる事態は,不動産登記を見れば当然予想されることであるから,控訴人は,P1が負担すると見込まれる費用を合理的に認定して,資金計画を審査しなければならなかったというべきである。P1が上記登記の抹消のためにどの程度の費用を要するかは,行政庁の強制的な調査権限の有無とは無関係に,だれでも合理的に認定できることである。また,行政庁が申請者の経理的基礎を判断するための資料は,法令上一定のものに限定されているわけではない。
事後的に許可処分を取り消すことができることが経理的基礎を判断要素としない理由にならないことは,上記(ア)と同様である。
第3当裁判所の判断
1 法の改正の経緯
本件は,法の規定に基づいて県知事がした産業廃棄物処理施設の設置許可処分の適法性が問題になっているものであるところ,本件に関係する法の規定の改正の経緯は,次のとおりである。
(1) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び廃棄物処理施設整備緊急措置法の一部を改正する法律(平成3年法律第95号)1条の規定により法15条が改正され,産業廃棄物処理施設の設置について,従前届出制であったものが,許可制に変更された。
(2) その後,法は,次に掲げる法律の規定によりそれぞれ一部改正されたが,本件に関係する部分の改正はない。
ア 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成4年法律第105号)
イ 行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成5年法律第89号)137条
ウ 環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)14条
エ 地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律(平成6年法律第84号)38条
オ 刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)附則15条
(3) 平成9年一部改正法2条の規定により法15条が改正され,法15条の2が新設された。
平成9年一部改正法による法15条の改正は,①平成3年法の下では厚生省令に委任されていた産業廃棄物処理施設設置許可の申請書の記載事項のうち主要なものを法定し(改正後の法15条2項),②産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査結果を記載した書面を同申請書の添付書類とし(同条3項),③都道府県知事は,政令で定める産業廃棄物処理施設の設置許可申請があった場合には,一定の事項を告示し,一定の書類を公衆の縦覧に供すべきこととし(同条4項),④都道府県知事は,当該告示をしたときは,その旨を一定範囲の市町村長に通知し,当該市町村長から生活環境の保全上の見地からの意見を聴くべきこととし(同条5項),⑤当該告示があったときは,利害関係者が都道府県知事に生活環境の保全上の見地から意見書を提出することができることとした(同条6項)ものである。
平成9年一部改正法による法15条の2の規定の新設は,①平成3年法15条2項に規定されていた許可の基準を別の条とし,更に許可の基準として,産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされたものであることを追加し(改正後の法15条の2第1項),②都道府県知事は,政令で定める産業廃棄物処理施設の設置許可をする場合には,あらかじめ,上記追加された事項について,生活環境の保全に関し専門的知識を有する者の意見を聴かなければならないこととし(同条2項),③平成3年法15条3項に規定されていた事項をそのまま規定した(改正後の法15条の2第3項)ものである。
平成9年一部改正法附則5条1項の規定により,平成9年一部改正法2条の規定による法15条等の改正規定の施行前に平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,同改正規定の施行の際,許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,なお従前の例によるものとされた。
平成9年一部改正法2条(法15条を改正し,法15条の2を新設する改正規定を含むもの)及び附則5条の規定は,平成10年6月17日から施行された。
(4) その後,法は,次に掲げる法律の規定によりそれぞれ一部改正されたが,本件に関係する部分の改正はない。
ア 地方自治法等の一部を改正する法律(平成10年法律第54号)14条
イ 環境事業団法の一部を改正する法律(平成11年法律第64号)附則4条及び5条
ウ 地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)221条
(5) 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第151号)98条の規定により法7条3項4号の規定が改正された。
この改正は,法7条3項4号イ中「禁治産者若しくは準禁治産者」を「成年被後見人若しくは被保佐人」と用語を改めたものであるが,平成12年一部改正法による改正後の法15条の2第1項4号が引用する法14条3項2号イが引用する法7条3項4号イの改正である点で本件に関係する改正であるといえる。
民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律は,平成12年4月1日から施行された。
(6) 中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)1273条の規定により法の規定中の「厚生省令」及び法15条の2第1項1号の「厚生省令(産業廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)」をいずれも「環境省令」に改める改正がされた。
中央省庁等改革関係法施行法は,平成13年1月6日から施行された。
(7) 商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成12年法律第91号)91条の規定により法の一部改正が行われたが,本件に関係する部分の改正はない。
(8) 平成12年一部改正法1条の規定により法15条の2が改正され,更に平成12年法15条の2第1項4号が引用することになる法14条3項2号が改正された。
法15条の2の改正は,①産業廃棄物処理施設の設置許可の基準として,その産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が厚生省令で定める周辺の施設について適正な配慮がされたものであること(改正後の法15条の2第1項2号),申請者の能力が当該計画に従って当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること(同項3号),申請者が法14条3項2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと(同項4号)という要件を加え,②都道府県知事が産業廃棄物処理施設の設置によって,ごみ処理施設又は産業廃棄物処理施設の過度の集中により大気環境基準の確保が困難となると認めるときは,法15条1項の許可をしないことができる(改正後の法15条の2第2項)としたものである。
平成12年法15条の2第1項4号が引用することになる法14条3項2号の改正は,法7条3項4号に該当する者のほか,暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を産業廃棄物処理施設の設置許可の申請者の欠格事由とするものである。
平成12年一部改正法附則4条に産業廃棄物処理施設に関する経過措置が設けられ,平成12年一部改正法の施行前に旧法(なお,平成12年一部改正法附則2条は,平成12年一部改正法1条の規定による改正前の法を「旧法」というと定義している。)15条1項の規定によりされた許可の申請であって,平成12年一部改正法の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,平成12年法15条の2第2項の規定は適用しないとされた。
平成12年一部改正法附則14条は,平成9年一部改正法の一部を改正しているところ,そのうち平成9年一部改正法附則5条4項の改正規定は,平成3年法15条1項の許可(平成9年一部改正法附則5条1項の規定によりなお従前の例によりされた当該許可を含む。)に係る産業廃棄物処理施設について,平成12年一部改正法の施行期日以後初めて変更の許可を受けるまでの間に平成12年法15条の3を適用する際の読替え規定である。平成12年法15条の3第1号の読替え前の文言が実際の文言と異なっており,規定に誤記に類する明白な誤りがあるが,その趣旨とするところは,上記平成3年法15条1項の許可を受けた産業廃棄物処理施設の設置者に対しても,平成12年法15条の3の許可の取消し等に関する規定が,同条1号及び5号に該当するときを除き,そのまま適用されることを定めるものである。したがって,上記の設置者に対しても,その能力が平成12年法15条の2第1項3号に規定する厚生省令で定める基準に適合していないと認めるとき,同設置者が違反行為をしたとき等又は同設置者が平成12年法14条3項2号イからヘまでのいずれかの欠格事由に該当するに至ったときには,当該許可を取り消すことができることになる。
平成12年一部改正法は,平成12年10月1日から施行された。
なお,平成12年一部改正法により新設された平成12年法15条の2第1項2号及び3号の規定中の「厚生省令」の語も中央省庁等改革関係法施行法1273条による法の一部改正により「環境省令」に改正されることになる。
2 本件に適用される法令の規定について
(1) 本件の問題は,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,平成12年一部改正法の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分について,適用される法律が平成3年法か,平成12年法か又は平成3年法と平成12年法を重畳的に併せたものかということである。
(2) 上記1(3)のとおり,平成9年一部改正法2条の規定により法15条が改正され,法15条の2が新設されたが,平成9年一部改正法附則5条1項の規定により,同改正規定の施行前に平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,同改正規定の施行の際,許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,なお従前の例によるものとされた。
「なお従前の例による」というのは,ある事項について,新法律又は改正後の法律の規定によらず,旧法律又は改正前の法律の規定を適用しようとする際に,法律の経過規定において一般的に用いられる文言である。その意味するところは,当該法律だけでなく,その委任に基づく命令や施行命令等を含め,当該事項についての法律関係は,包括的に旧法令又は改正前の法令の規定によるということであり,したがって,法律に「なお従前の例による」とする経過措置が規定されている場合には,当該事項についての法律制度は,新法令又は改正後の法令の規定の施行直前の状態で凍結されたものとして適用されることになると解されるものである。
したがって,平成9年一部改正法2条の規定による平成3年法15条等の改正規定の施行期日(平成10年6月17日)以後であっても,都道府県知事は,同施行期日前に平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,同改正規定の施行の際,許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,平成3年法及び同施行期日直前に施行されていた命令の規定に基づいて行うこととされたのである。
(3) その後,上記1(8)のとおり,平成12年一部改正法1条の規定により法15条の2が改正され,更に平成12年法15条の2第1項4号が引用することになる法14条3項2号が改正されたが,産業廃棄物処理施設については,平成12年一部改正法附則4条の経過措置に関する規定が設けられているのみである。一方では,平成12年一部改正法は,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分についてはなお従前の例によるとした平成9年一部改正法附則5条1項を改正していない。そこで,平成12年一部改正法附則4条と平成9年一部改正法附則5条1項との関係が問題になるのである。
行政処分は,特段の経過措置が定められない限り,処分時の法律を適用するのが原則であるところ,平成12年一部改正法附則4条は,「旧法15条1項」の規定によりされた許可の申請であって,平成12年一部改正法の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,平成12年法15条の2第2項の規定は適用しないとのみ定めているのであるから,これを裏から見ると,「旧法15条1項」の規定によりされた許可の申請についての処分については,平成12年法15条の2第2項以外の平成12年法の規定はすべて適用すること(いわゆる新法主義)を明らかにしているものということができる。そして,平成12年一部改正法附則2条は,平成12年一部改正法1条の規定による改正前の法を「旧法」と定義し,この定義は,平成12年一部改正法附則3条及び4条においても妥当することを明らかにしているところ,ここでいう「旧法」には平成12年一部改正法1条の規定による改正直前の法(以下「平成9年法」という。)のみならず,平成9年一部改正法による改正前の平成3年法も含まれると解するのが相当である。このことは,平成12年一部改正法附則3条の規定に照らし明らかであるといわなければならない。すなわち,平成3年法及び平成9年法は,法15条1項の許可を受けた者から当該許可に係る産業廃棄物処理施設を譲り受ける等した者は当該許可を受けた者の地位を当然に承継するとした上,その旨の届出義務を課していたところ(法15条の4において準用する法9条の5),平成12年法は,法15条1項の許可を受けた者から産業廃棄物処理施設を譲り受けようとする場合は都道府県知事の許可を受けること等を義務付けることにした。そして,平成12年一部改正法附則3条は,平成12年一部改正法の施行前に産業廃棄物処理施設の設置許可を受けた者から当該許可に係る産業廃棄物処理施設を譲り受けるなどしてその地位を承継した者であって届出をしていないものについては,なお従前の例によるとして,平成12年法9条の5から9条の7までの規定を適用せず,平成12年法の規定に基づく都道府県知事の許可等を要しないこととしたものである。この趣旨からすると,平成12年一部改正法附則3条の「旧法第9条の5第1項又は第2項(中略)の規定により旧法第8条第1項又は第15条第1項の許可を受けた者の地位を承継した者であって・・・」にいう旧法には,当然平成9年法のみならず,平成3年法も含まれると解釈されるというべきである(平成3年法15条1項の許可を受けた者についてだけは新法主義を採り,都道府県知事の許可を要するとする趣旨の規定であるとは考えられない。)。したがって,平成12年一部改正法附則4条の「旧法」も当然同様に解釈されることになる。
そうすると,平成12年一部改正法附則4条は,平成3年法及び平成9年法の15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分については,平成12年法15条の2第2項以外の平成12年法の規定をすべて適用すること(新法主義)を明らかにするものと解釈される。そして,平成9年一部改正法附則5条1項の規定は,特に改正がされていないが,平成12年一部改正法附則4条に抵触する限度でその効力を失うことになると解される。
(4) 上記(3)のような解釈は,以下のとおり,平成12年一部改正法の立法趣旨にも沿うものであるということができる。
ア(ア) 厚生省生活衛生局水道環境部長通知(平成12年9月28日生衛発1469号)には,平成12年一部改正法の立法趣旨について,我が国においては,いわゆる循環型社会を実現するため,廃棄物の減量化を促進し,安全で適正に廃棄物を処理することができるような体制を整備することが大きな課題とされている一方,廃棄物を取り巻く状況としては,適正に処理するために必要な施設の整備が進まず,悪質な不法投棄等の不適正処分が増大するなど深刻な状況となっていること,このような状況を踏まえ,廃棄物について適正な処理体制を整備し,不適正な処分を防止するため,種々の措置を講ずるとともに,周辺の公共施設等の整備と連携して産業廃棄物の処理施設の整備を促進することとしたものであるとの記載がある。
(イ) 厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知(平成12年9月28日衛環78号。乙52)によれば,同課長は,各都道府県・各政令市廃棄物行政主管部(局)長あてに,平成12年一部改正法の経過措置に関し,次のような通知を発し,平成12年一部改正法及びその関連命令の施行について,留意事項を示し,その運用に遺憾なきを期されたいとしていることが認められる。
「 廃棄物の不適正な処分を防止するために規制を強化するものについては,政策上経過措置を設けていないこと。したがって,改正法施行前になされた許可の申請等について,施行の際に許可又は不許可の処分がされていない場合には,改めて改正後の法による許可の手続が必要となることから,新たな申請書,添付書類等を求めるものであること。
なお,改正法施行前に許可の申請がなされたものについては,焼却施設の過度の集中によって,大気環境基準の確保が困難となると認めるときに設置の許可をしないことができるとする規定は適用しないものとしたこと。」
(ウ) また,廃棄物処理法研究会編集の書籍「Q&A 廃棄物処理法改正のポイント」(甲11,196)には,「改正法の施行後に許可を行う場合には,申請時期を問わず,改正後の廃棄物処理法の許可要件や手続に従って審査,判断されることになります。この場合必要に応じて申請書類等について補正を求められることになります。」,「従来の基準に従って設置許可を申請し,施設設備の準備をしている者であって悪質な業者,不適切な者でないものについては,法令を遵守していた利益を保護する必要があるので,廃棄物処理施設の設置許可に当たって,改正前に許可申請されたものについては,過度の集中立地に関する規制については適用しないものとするなど必要な経過措置が設けられています。」との記述がある。
(エ) これらの記述において,平成9年一部改正法附則5条1項によりなお従前の例によることとされた平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分に関する言及が全くされていないこと及び平成12年一部改正法の立案をした厚生省が地方公共団体等に対して平成12年一部改正法の説明をした際に当該申請についての処分をする際に適用される法令に関して特段の説明をしたことを認める証拠もないことにかんがみると,平成12年一部改正法の立案当局としては,法改正の趣旨を実現するため,都道府県知事において審査中のすべての申請についての処分について,いわゆる新法主義を採ろうと考えていたことを推認することができる。
イ 加えて,仮に上記(3)の解釈を採らず,平成12年一部改正法附則4条の旧法を平成12年一部改正法施行直前の平成9年法のみを指すと解すると,同条と平成9年一部改正法附則5条1項の規定とは抵触しないことになって,同項の規定はなおその効力を失わないことになる。そうすると,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分については,平成3年法及び平成10年6月17日(平成3年法15条等の改正規定の施行期日)直前に施行されていた命令が適用されることになる(なお,後記(6)イのように,控訴人が主張する平成3年法と平成12年法を重畳的に併せた規定が適用されるという主張は,採用できないことが明らかである。)。上記1の法の改正の経緯からすると,平成9年一部改正法と平成12年一部改正法は,産業廃棄物処理施設の周辺地域の生活環境の保全を図ることをその主要な目的の一つとしていることが明らかであるが,もしも平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分について,適用される法令が平成3年法及び平成10年6月17日直前に施行されていた命令であるとすると,上記目的を持つ平成12年一部改正法の施行後においても,依然として,当該産業廃棄物処理施設の周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされたものであること並びに申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画に従って当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,かつ,継続して行うに足りる基準に適合することを許可の要件とせず,緩やかな許可基準に基づき,また,周辺地域の生活環境の保全の確保にとって不可欠な手続である告示,縦覧,関係市町村長等からの意見聴取等をしないまま審査及び判断をし,平成3年法及び平成10年6月17日直前に施行されていた命令の要件さえ満たす申請であれば,これを許可しなければならないことになる。平成12年一部改正法の立法目的からすると,そのような事態が生ずることを立法者において意図していたと見ることは困難である。
なお,後記のように,現在,環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課は,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分について平成3年法及び平成10年6月17日直前に施行されていた命令のみが適用されるという見解を採っていないが,これは,そのような見解を採ることは,平成12年一部改正法の趣旨を大きく損ない,立法者の意思に反することになると法律を所管する行政当局においても認識していることをうかがわせるものである。
ウ 以上によれば,平成12年一部改正法施行後は,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分についても平成12年法(15条の2第2項を除く。)を適用するという解釈は,立法者の意思に沿うものであるということができる。
(5) なお,控訴人は,上記(3)のような解釈をすると,なお従前の例によるとされた処分の申請をした者に負担をかけ,国民の予見可能性を著しく害するし,また,行政庁の側も遅滞なく告示,縦覧等を行うことができないと主張する。
しかしながら,平成12年一部改正法が新法主義を採ったときに,平成12年一部改正法施行前に申請をした者に対しても,申請者の能力(命令により経理的基礎をも含むものとされた。)が産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画に従って当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合することが要件とされるなど,かなりの追加的な負担が生ずることは既に織り込み済みであり(上記環境整備課長通知でも,申請者に「新たな申請書,添付書類等を求める」としている。),また,告示,縦覧等は,平成12年一部改正法の施行後遅滞なく行えば足りることは明らかであるから,この点も上記(3)の解釈を左右するようなものではない。
(6) これに対し,控訴人は,平成9年一部改正法附則5条1項の規定がなおそのまま効力を有することを前提にして,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分については,原則としてなお従前の例によるが,平成12年法のうち平成12年一部改正法によって新設され,又は実質的に変更された規定に限っては,当該処分についても適用されると主張し,千葉県環境生活部長の照会に対する環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長の回答(乙78の1,2)も,同旨である。しかしながら,以下の点に照らし,この主張を採用することはできないというべきである。
ア 上記(3)のとおり,平成9年一部改正法附則5条1項の規定は,平成12年一部改正法附則4条に抵触する限度でその効力を失うことになるというべきであるから,控訴人の立論はその前提を欠くものである。
イ また,仮に平成9年一部改正法附則5条1項の規定がなおそのまま効力を有するという見解に立ったとしても,以下のとおり,平成3年法と平成12年法を重畳的に併せた規定を適用するという控訴人の主張は,採り得ないものである。
(ア) まず,控訴人の主張のように解するのは,文理上困難である。
「なお従前の例による」という文言の一般的な用いられ方は上記(2)のとおりであって,経過措置を規定しようとする事項についての法律制度が新法令又は改正後の法令の規定の施行直前の状態で凍結されたものとして適用されるものであるから,その凍結された状態を変更し,規範内容を控訴人主張のようなものにしようとする場合には,なお従前の例によると規定した当該条項の改正(この場合,一定の場合を除き,なお従前の例によるとしたり,なお従前の例によるとする本文の後にただし書を付加する等の改正をした立法例がある。)が必要である。本件では,そのような改正がされていないのである。
(イ) 平成12年一部改正法は,法15条の2第1項2号を改正し,産業廃棄物処理施設の設置許可の基準として,平成9年一部改正法が新設した産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされたものであることに加え,新たに,それらの計画が厚生省令で定める周辺の施設について適正な配慮がされたものであることも必要であるとした。
控訴人の主張のように解すると,平成3年法15条1項の規定によりされた申請の許可の基準としては,産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全については適正な配慮をする必要がないが,周辺の施設については適正な配慮をする必要があるという誠に奇妙な規範が生ずることになる。このような不当な結果を避けるために,平成12年一部改正法は,周辺地域の生活環境保全についての適正な配慮については平成9年法を実質的に改正するものではないとして,平成12年法15条の2第1項2号が全面的に適用されないと解するのは,平成12年一部改正法附則4条に明白に反する恣意的な解釈であるといわざるを得ない。
(ウ) また,控訴人主張のように解すると,平成3年法と平成12年法が重畳的に適用されてされた許可がはたして平成9年一部改正法附則5条1項の規定によりなお従前の例によりされた許可といえるかどうか疑義が生ずることになり,そうすると,同条2項から4項までの適用があるのかないのかが不明確になり,この点についても妥当を欠くというべきである。
(エ) さらに,控訴人主張のようになお従前の例による場合に例外を設けることとするときは,政省令等の下位法令についてまで考えると,平成3年法15条等の改正規定の施行期日(平成10年6月17日)以後に改正された政省令等が平成12年一部改正法の施行に伴って更に改正されたような場合には,解釈の枠を超える矛盾が生じかねない。
(7) 以上によれば,平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,平成12年一部改正法の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分について適用される法律は,平成3年法ではなく,平成12年法(15条の2第2項を除く。)であるというべきである。
3 被控訴人らの原告適格について
(1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以上につき,最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
(2) 上記(1)の見地に立って,被控訴人らが本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア 平成12年法は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としている(1条)。そして,平成12年法は,①産業廃棄物処理施設の設置については,都道府県知事の許可を受けることを要することとし(15条1項),②その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令(本件許可処分時)で定める周辺の施設について適正な配慮がされたものであることをその許可の基準とし(15条の2第1項2号),③申請書に当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならず(15条3項),④都道府県知事は,政令で定める産業廃棄物処理施設(本件処分場は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令7条の2,7条14号により,これに該当する。)について当該許可の申請があった場合には,平成12年法15条2項1号から4号までに掲げる事項,申請年月日及び縦覧場所を告示するとともに,同項の申請書及び同条3項の書類を公衆の縦覧に供しなければならず(15条4項),更に当該告示をした旨を当該産業廃棄物処理施設の設置に関し生活環境の保全上関係がある市町村の長に通知し,当該市町村長の生活環境の保全上の見地からの意見を聴かなければならず(15条5項),⑤当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関係を有する者は,都道府県知事に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出することができ(15条6項),⑥都道府県知事は,当該許可をする場合には,あらかじめ平成12年法15条の2第1項2号に掲げる事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならず(15条の2第3項),当該許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することができる(15条の2第4項)と定めている。
これらによれば,産業廃棄物処理施設の設置の許可に関する平成12年法の規定は,本件処分場のような産業廃棄物処理施設の設置によって,当該産業廃棄物処理施設の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものであると解される。
イ 産業廃棄物処理施設の設置の許可申請に対して,平成12年法又はその関連法令に違反した違法な許可がされた場合には,当該産業廃棄物処理施設の設置場所と一定の地理的関係にある周辺地域に居住する者は,当該産業廃棄物処理施設からの人体に有害な汚染物質の継続した排出により,生命又は身体に対する重大な危害を含め,その健康又は生活環境に係る著しい被害を被ることにもなりかねないものである。上記の平成12年法の趣旨及び目的にかんがみれば,産業廃棄物処理施設の設置許可に関する平成12年法は,当該産業廃棄物処理施設の周辺地域に居住する住民に対し,違法な産業廃棄物処理施設の設置に起因する人体に有害な物質の排出によってその健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものであると解されるところ,その被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものであるといわざるを得ない。
ウ したがって,本件処分場の周辺に居住する住民のうち本件処分場が設置されることにより人体に有害な物質の排出による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,本件処分場の設置許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するというべきである。
(3) 証拠(甲3,28,29,31,33から36まで,39,121,123,139,143,157から161まで,166,167,172,197,202,203,205,206,210,220から222まで,233,乙2,3,59,70,71,原審証人P5,原審被控訴人P4本人,原審被控訴人P3本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。
ア 本件処分場で処分される産業廃棄物から排出されることが予想される有害物質の種類は,原判決別紙⑥の1「処理工程と処理水目標値及び処理水の水質」の「埋立廃棄物(焼却灰及びばいじん主体)よりの浸出水に含まれる状態」欄に「含まれる」又は「含まれる可能性有り」との記載がある同別紙「項目」欄記載の有害物質のとおりである。これらは,一般に人体に摂取すると急性又は慢性の各種中毒症状を引き起こすほか,発がん性,生殖毒性等を有するものと考えられている。なお,ダイオキシン類が多量に含まれる飛煤については,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条の4第5号ワに掲げる特定有害産業廃棄物として,本件処分場の受入品目から除外されている。
イ 本件予定地付近の地層構成は,原判決別紙⑦「地層構成図」記載のとおりであり,第1砂質土(Ds1)層は標高約32mないし51mに分布している透水層で,地下水を豊富に含み,その水位は本件予定地の台地部で約38mないし39m,本件予定地の谷部で約35mないし37mである。
本件予定地は,α台地と呼ばれる洪積台地内のβ川によって開析された沖積低地に向かう谷の部分にある。α台地は,標高が最高56mであって,周囲を急崖に囲まれ,台地面の高度は全体として南側が高く,北西側に傾き,また,北東に向かって緩やかに低くなるように傾斜している。概ね原判決別紙③「原告ら位置関係図」記載の赤線囲み枠内がα台地である。α台地全体の平均的な地層構成は,上記本件予定地付近の地質とほぼ同様である。
本件予定地周辺の豊富な地下水を保有する第1砂質土(Ds1)層は,上記「原告ら位置関係図」の赤線囲み枠内のα台地内においてはほぼ同一の地層(帯水層)を形成している。
ウ 被控訴人P4は,上記「原告ら位置関係図」の赤線囲み枠内のα台地の肩書き住所地に居住し,同所でカーネーションの栽培事業を行っており,2本の井戸からくみ上げた地下水を飲料を含む生活用水及び農業用水として利用している。
被控訴人P3は,同赤線囲み枠内のα台地上の肩書き住所地に居住し,本件予定地付近で水田耕作を行い,同水田近くの湧水(これは,α台地内の地下水が湧水したものである。)を配水管で送水し利用している。被控訴人P3は,同湧水を飲料水として日常的に飲み,同水田で収穫した米を家族で消費している。
(4) 本件許可処分についての控訴人の審査に違法があり,本件処分場の水処理施設や遮水工が十分に機能せず,本件処分場からの浸出水が,本件処分場外に漏れ出す事態が発生した場合には,本件予定地周囲の地下水が人体に有害な物質を含む浸出水により汚染されることになるところ,この汚染水は,上記のとおり共通の第1砂質土(Ds1)層を有する上記「原告ら位置関係図」の赤線囲み枠内のα台地全体に拡散する可能性がある。そうすると,本件処分場から人体に有害な物質を含有する浸出水が許容限度を超えて継続的に排出された場合には,α台地内に居住し,地下水を生活用水,農業用水等に直接利用している者は,その健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるということができるから,これらの者は,本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。
上記(3)ウの被控訴人らの地下水の利用状況にかんがみると,本件処分場から人体に有害な物質を含む浸出水が継続的に排出された場合には,被控訴人らは,その健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがある者であるということができるから,その余の点について判断するまでもなく,本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。
4 本件許可処分をする際の手続の適法性について
上記2のとおり,控訴人が本件許可処分をするに当たっては,平成12年法が適用されるから,控訴人は,①平成12年法15条2項の申請書の添付書類として必要である産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類が提出されていない場合には,これに対する措置をとらなければならず(同条3項),②産業廃棄物処理施設(本件処分場)について法15条1項の許可の申請があった場合には,遅滞なく(これは,平成3年法15条1項の許可の申請である場合には,平成12年一部改正法施行後遅滞なくという意味になると解される。),平成12年法15条2項1号から4号までに掲げる事項,申請年月日及び縦覧場所を告示するとともに,同項の申請書及び同条3項の書類を当該告示の日から1箇月間公衆の縦覧に供しなければならず(同条4項。なお,これは,当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関係を有する者に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出する機会を与えるためである(同条6項)。),③同条4項の規定による告示をしたときは,遅滞なく,その旨を当該産業廃棄物処理施設の設置に関し生活環境の保全上関係がある市町村の長に通知し,期間を指定して当該市町村長の生活環境の保全上の見地からの意見を聴かなければならず(同条5項),④あらかじめ,平成12年法15条の2第1項2号に掲げる事項について,生活環境の保全に関し環境省令(本件許可処分時)で定める事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならなかった(平成12年法15条の2第3項)のである。
控訴人は,本件許可処分をするに当たり,平成12年法が全面的に適用されるとは考えておらず,平成9年一部改正法により導入された平成12年法15条3項から5項まで及び15条の2第3項の規定の適用はないと考えていたのであるから,これらの規定が定める措置をいずれもとっていないことは,明らかである(原審証人P6(第1回))。控訴人は,指導要綱の規定に基づいて説明会や意見聴取を行ったので平成12年法15条4項及び5項の要件を実質的には満たしていると主張するが,都道府県知事が同条4項及び5項の手続を履行することの生活環境の保全上の見地からの重要性にかんがみると,控訴人の主張する説明会や意見聴取をもって同条4項及び5項の要件を満たす告示,縦覧及び意見聴取と同視することは困難である。
上記3(2)のとおり,都道府県知事が上記各規定に基づく措置をとることは,本件処分場のような産業廃棄物処理施設の設置によって,当該産業廃棄物処理施設の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生することを防止し,良好な生活環境を保全することを確保するために不可欠な手続として定められたものである。これらの手続の経由は,都道府県知事が行う法15条1項の許可の適正のためには,極めて重大な意義を有するものであるから,これらをいずれも経ないでされた本件許可処分には,これらの手続を経ることを要求した法の趣旨に反する重大な瑕疵があるというべきであって,違法なものとして,本件許可処分は,取消しを免れない。
5 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件許可処分は取り消すべきであり,被控訴人らの請求には理由がある。本件許可処分を取り消した原判決は,その結論においては正当であるということができるから,本件控訴は理由がなく,棄却を免れない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大坪丘 裁判官 宇田川基 裁判官 尾島明)