東京高等裁判所 平成19年(行コ)416号 判決 2008年9月10日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 平成18年7月31日付け国土交通省告示第901号で告示された処分行政庁による狭山都市計画α駅西口地区第一種市街地再開発事業の施行規程及び事業計画の認可を取り消す。
第2事案の概要
1 本件事案の概要は,次のとおり補正し,後記2のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁末行の「原告ら」の次に次のように加える。
「(なお,第1審原告Aは平成▲年▲月▲日に死亡し,第1審原告B,同C,同D及び同E並びに亡Fの子であるG,H及びIが亡Aの相続人としてその訴訟手続を承継した。以下,原判決中「原告ら」とあるのは「控訴人ら」と読み替える。)」
(2) 原判決3頁末行の「記載のとおり」の次に次のように加える。
「(ただし,別紙1枚目(原判決23頁)16行目の「ただし書の規程」を「ただし書の規定」に,同2枚目(同24頁)19行目の「施行地区の一」を「施行地区の位置」に,同5枚目(同27頁)4行目の「1階区」を「1街区」にそれぞれ改める。)」
(3) 原判決5頁14行目の「給付等の希望」を「給付等を希望」に改める。
2 当審における控訴人らの主張
(1) 処分行政庁による本件認可は,次のとおり,裁量権の逸脱又は濫用があるから,違法である。すなわち,①本件再開発事業は,その施行地区に隣接する新都市機能ゾーンの整備事業と一体として検討すべきものである。例えば,本件再開発事業においては11階建ての住宅を建設して高層化を図りながら,新都市機能ゾーンにおいては戸建て住宅を建設することとされているが,これは不合理の極みである。しかし,処分行政庁は,当然考慮すべき本件再開発事業と新都市機能ゾーンの整備事業との整合性を考慮せずに本件認可をした。②本件再開発事業においては,現在の中央公民館を取り壊し,その近傍に公民館の機能を有する公益施設を新設することとされているが,これを是認した処分行政庁の判断が合理的であることを基礎付ける前提事実は存在しない。③本件再開発事業においては,狭山市が保留床譲受けの対価として67億5000万円を負担することとされているが,これは,狭山市民に著しい負担増を強いるものであり,社会通念上,合理性がない。
(2) 本件再開発事業は,「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」(都市再開発法1条)を図るものではないから,許されない。このような本件再開発事業により,控訴人らは,これまでの生活基盤が失われ,愛着を持って暮らしてきた現在地での生活を放棄せざるを得なくなって,生活権を侵害される。したがって,本件認可は違法である。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの本件請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁23行目の「意見書の提出した者」を「意見書を提出した者」に改める。
(2) 原判決13頁末行の「意見書の採否に係る」を「その意見を採択すべきであると認めるときは」に改める。
(3) 原判決15頁6行目の「規程」を「規定」に改める。
(4) 原判決17頁6行目及び22行目の各「本件開発事業」を「本件再開発事業」に改め,24行目末尾に次のように加える。
「控訴人らは,①本件再開発事業の施行地区では高層化を図りながら,同地区に隣接する新都市機能ゾーンにおいては戸建て住宅を建設することとされており,これは不合理である,②既存の中央公民館を取り壊して,その近傍に公民館の機能を有する公益施設を新設することは不合理である旨主張する。しかし,①新都市機能ゾーンの整備事業においては,α駅西口地区整備事業の1つとして,同事業の中心となる本件再開発事業を支援・促進するため,本件再開発事業の施行地区内の土地の所有者で他に転出することを希望する者等に対する代替地として宅地を整備することとされているが(甲13,14,23,29),新都市機能ゾーンの整備事業は,本件再開発事業とは異なり,都市再開発法に基づく市街地再開発事業ではないから,必ずしも土地の高度利用を図る必要はなく,戸建て住宅の建設が予定されていても不合理であるとはいえない。また,②本件再開発事業においては,施行地区内に公民館を含む公益施設を設置することとされているが,これは,多くの狭山市民が利用しているα駅前に需要の高い公民館等を含む公益施設を設置することにより,市民サービスの向上を図り,中心市街地の活性化を促進することを目的とするものであるから(甲13),不合理であるとはいえない。控訴人らの上記主張は採用することができない。」
(5) 原判決18頁24行目から25行目にかけての「上記割賦制度」を「都市再生機構の各種割賦制度(甲7の10条)」に改める。
(6) 原判決19頁21行目から22行目にかけての「その支払についても割賦等の方法が採られていたのであり」を「その支払についても都市再生機構の分担金割賦制度の活用等により年度ごとの支出の平準化と長期的な財政収支の均衡を図ることとされており(甲14,20,21)」に,23行目の「そして」から25行目の「併せ考慮すると」までを次のようにそれぞれ改める。
「控訴人らは,狭山市が保留床譲受代金67億5000万円を負担することは合理性がない旨主張する。しかし,狭山市が負担する上記保留床譲受代金は都市再生機構が保留床(駐車場,駐輪場及び公益施設)の整備に要した原価に基づき算定したものであり(甲8,11),その支払は都市再生機構の割賦制度を活用して割賦の方法によることが予定されており(甲7,11),狭山市は上記保留床を行政財産として取得しこれを公用又は狭山市民等の公共用に供するものであることを考慮すると,狭山市が67億5000万円で上記保留床を取得することに合理性がないとはいえない。したがって」
(7) 原判決21頁2行目末尾に次のように加える。
「控訴人らは,本件再開発事業は「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」(都市再開発法1条)を図るものではないから違法である旨主張する。しかし,証拠(甲2,12~14,24,29,乙12の1)によれば,α駅西口地区は,駅前広場がなく,また,車道と歩道が区分されておらず,バス,タクシー,一般車両,歩行者等が狭い道路を混然となって利用しており,交通安全上問題であったため,駅前広場及び都市計画道路を整備することによりα駅前の交通環境の改善を図るとともに,α駅西口地区に商業施設,公益施設,住宅棟(地上11階建て),公共駐車場・駐輪場,市民広場等を整備することにより狭山市の中枢拠点にふさわしい中心市街地の形成を図ることを目的として,本件再開発事業が計画されたものであると認めることができる。したがって,本件再開発事業は「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」を図るものであるということができる。」
2 以上によれば,控訴人らの本件請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川善則 裁判官 菊池洋一 裁判官 德増誠一)