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東京高等裁判所 平成2年(ネ)1468号 判決 1990年9月27日

東京都国分寺市<以下省略>

控訴人

右訴訟代理人弁護士

南惟孝

茨木茂

登記簿上の本店所在地

東京都港区<以下省略>

送達先

東京都目黒区<以下省略>

被控訴人

株式会社コスモ・アイ

右代表者代表取締役

Y1

東京都目黒区<以下省略>

被控訴人

Y1

東京都中央区<以下省略>

被控訴人

Y2

東京都江東区<以下省略>

被控訴人

Y3

東京都中野区<以下省略>

被控訴人

Y4

東京都中央区<以下省略>

被控訴人

株式会社日本通商振興協会

右代表者代表取締役

Y5

東京都中央区<以下省略>

被控訴人

Y5

右当事者間の損害賠償請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは、控訴人に対し、各自二六七一万一〇七五円及びこれに対する昭和六二年一一月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人の被控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一、第二審を通じて一五分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人らのそれぞれ負担とする。

三  この判決は、控訴人の勝訴部分につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を次のとおり変更する。

1  原控訴人らは、控訴人に対し、各自三一一四万五五九五円及びこれに対する昭和六二年一一月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被控訴人Y4、同日本通商振興協会及び同Y5

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張は、控訴人の当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであり(但し、原判決一五枚目表八行目の「(15)」を「(16)」に改め、原審被告Aに関する部分を除く。)、また、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  過失相殺について

原判決が、損害の算定につき「控訴人側にも過失があった」として過失相殺したことは、誤りである。

本件は、悪質な故意の詐欺犯罪であって、控訴人はその被害者であり、過失相殺を認めるということは、控訴人から騙取した金員を騙取者が一定の割合で留保できることを認めることにほかならない。これは、根本的に正義と公平の観念に反する。

二  慰謝料について

原判決は、慰謝料を認めなかったが、本件の実体は、原判決のいうような「経済的取引」の失敗ではなく、「経済的取引」と誤信させて金員を騙取した事案である。

控訴人がこれから先の母子家庭の生計の資としていた莫大な金員を騙取され今なお回復のめどが立っていないという事態は深刻であり、精神的損害に対する慰謝料は認められるべきである。

三  弁護士費用について

原判決は、弁護士費用相当の損害として一〇〇万円しか認めなかったが、これは、日本弁護士連合会の弁護士報酬規定に照らして低すぎる。

理由

第一被控訴人株式会社コスモ・アイ(以下「被控訴人会社」という。)、同Y1、同Y2、同Y3及び同Y4に対する請求について

一  原判決一六枚目裏四行目から同二五枚目表四行目までの説示を次のとおり改めて引用する。

1  原判決一七枚目表二行目の「被告協会」を「被控訴人会社」に改める。

2  原判決一八枚目表四行目の「原本の存在及び成立に争いのない」を「弁論の全趣旨により原本の存在とその成立が認められる」に、同五、六行目の「弁論の全趣旨により真正な成立を認める同第四九ないし第五一号証」を「成立に争いのない甲第四三ないし第四五号証、第四九ないし第五一号証」に、同一〇行目及び一一行目の各「一五社」を「約二五社」にそれぞれ改め、同一九枚目表三行目の「しかし」から同五行目までを削る。

3  原判決一九枚目表一〇行目の「しかし」から同裏一行目までを削る。

4  原判決一九枚目裏八行目の「甲第二六号証」の次に「、原審における被控訴人Y1本人尋問の結果」を加える。

5  原判決二〇枚目裏一行目の「乙第一号証」を「乙第一号証の一ないし四」に、同二行目の「乙第七号証」を「甲第二九ないし第三一号証(原本の存在も認められる。)、乙第七号証の一ないし一三」に、同三、四行目の「被告の主張する取引で市場取引確認・証明書に記載のないものがあること」を「控訴人の取引と市場取引確認・証明書の記載との対応がすべて明らかにされたとはいえないこと」にそれぞれ改める。

6  原判決二〇枚目裏八行目から同二一枚目表八行目までを次のとおり改める。

「以上の認定・説示を総合すると、本件の現物条件付保証取引は実質的に先物取引であり、被控訴人株式会社日本通商振興協会(以下「被控訴人協会」という。)がパラジウム取引を行う国内施設市場(以下「本件市場」ともいう。)を開設したことは商品取引所法八条一項に違反し、本件市場での取引は同条二項に違反するとともに公序良俗に反しており、更に、本件市場では、パラジウムについて公正な価格が形成されるとか、その流通が円滑になる等のことは全くなく、本件市場に加入した業者が一般大衆から保証金名目で金員を詐取するために本件市場を利用していたに過ぎないと認めることができる。」

7  原判決二一枚目裏二行目の「なされたことが弁論の全趣旨により認められる」を「なされたことは控訴人と被控訴人会社、同Y1、同Y2、同Y3及び同Y4との間で争いがない」に改める。

8  原判決二一枚目裏五行目の「成立に争いのない甲第三、第四号証及び第五号証」を「前掲甲第五号証、第二四号証、乙第一号証の一ないし四、成立に争いのない甲第三、第四号証、第六ないし第九号証、乙第二、第三号証」に改め、同二二枚目裏九行目から同二三枚目裏一行目までを削る。

9  原判決二三枚目裏四行目から同二四枚目表四行目までを次のとおり改める。

「以上認定・説示した本件市場の不公正さ、本件市場での取引の公序良俗違反性、顧客からの保証金を専ら会社の経費にあてる等の被控訴人会社の実態及び被控訴人会社と控訴人との取引の態様を総合すると、被控訴人Y1、同Y2、同Y3及び同Y4は、自ら又は他の者をして、控訴人に対し、本件市場での取引が危険であるにもかかわらず、これを故意に隠し、本件市場での取引が安全かつ極めて有利な取引であるかのように装って、商品取引の十分な知識も経験もない控訴人をその旨誤信させたうえ、本件市場での取引に引き込み、更に判断材料を与えないまま、利益が出るとか、大きな損が生じるとか言って取引を拡大させ、控訴人から保証金名目で金員を騙取したものであり、右被控訴人らの詐欺的行為は、被控訴人会社の営業方針に基づく組織ぐるみの違法行為と認めるのが相当であるから、右控訴人会社ほか四名の被控訴人らは、控訴人との取引全体について共同不法行為責任を負うと解すべきである。」

10  原判決二四枚目表八行目から同枚目裏二行目までの「2」の項を次のとおり改める。

前記認定の被控訴人らの不法行為により控訴人が精神的損害を被ったであろうことは容易に想像できるが、財産的損害に伴う精神的損害は右財産的損害の賠償によって一応慰謝されるものと考えられるし、控訴人にも全く落ち度がなかったとは言い難いことも考慮すれば、本件において財産的損害のほかに精神的損害の賠償まで認めるのが相当であるとは解されない。」

11  原判決二四枚目裏三行目から同一〇行目までの「3」の項を次のとおり改める。

「前記認定の被控訴人らの不法行為の内容及び態様に照らせば、控訴人にも落ち度は認められるものの、損害の公平な分担をはかるとの趣旨からみて過失相殺すべき事案であるとは到底認められない。」

12  原判決二五枚目表三行目の「一〇〇万円について」を「、弁護士費用三〇〇万円を」に改める。

二  以上の事実によると、被控訴人会社、同Y1、同Y2、同Y3及び同Y4は、控訴人に対して、各自、不法行為による損害賠償金三六〇〇万〇三五二円及びこれに対する不法行為の日以後である昭和六〇年九月一日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合により遅延損害金の支払義務を負うと解されるところ、控訴人が昭和六二年一一月二日にBから和解金として一三二〇万円の支払いを受けたことを自認しているから、これを昭和六〇年九月一日から昭和六二年一一月二日までに発生した遅延損害金三九一万〇七二三円と元本九二八万九二七七円に充当すると、残損害賠償金二六七一万一〇七五円及びこれに対する昭和六二年一一月三日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。

第二被控訴人協会及び被控訴人Y5に対する請求について

一  請求原因1(一)及び(二)の事実は控訴人と被控訴人協会及び被控訴人Y5との間に争いがなく、同1(三)の事実は弁論の全趣旨により認める。

二  請求原因2(一)については、前記第一で認定・説示したとおりである(請求原因2(一)(1)の事実は控訴人と被控訴人協会及び被控訴人Y5との間でも争いがない。)。

三  請求原因2(二)については、前記第一で認定・説示したとおりである(但し、請求原因2(二)(1)ないし(16)で控訴人が主張するようにパラジウム取引委託契約が締結され、保証金の交付、保証金代用有価証券としての株券の交付及び株券の売却とその代金の保証金への組み入れがあったことは弁論の全趣旨により認める。)。

四  請求原因3(四)について

すでに認定・説示した本件市場の不公正さ、本件市場での取引の公序良俗違反性、被控訴人会社と控訴人との取引の実態に、成立に争いがない丙第一ないし第四号証及び原審における被控訴人Y5本人尋問の結果によると、被控訴人Y5は、商品取引を取り扱ったり、金やプラチナの私設市場の開設・運営に関与したりした経験を有し、昭和五九年当時すでに関与した私設市場に加盟する業者の顧客から損害賠償を求める訴えを提起されて応訴中であったこと、更に被控訴人会社以外にも本件市場に加盟する業者をめぐる損害賠償訴訟が何件か継続していることが認められること及び被控訴人Y5の被控訴人協会での地位等を併せ考慮すると、被控訴人協会及び被控訴人Y5は、本件市場に加盟する被控訴人会社ら業者が顧客から保証金名目で金員を騙取する目的で本件市場での取引を利用していることを認識しながら、これを放置して本件市場の運営を継続し、被控訴人会社の顧客である控訴人に対して損害を与えたと認めるのが相当であるから、被控訴人協会及び被控訴人Y5の右不法行為は控訴人に生じた損害と相当因果関係をもち、被控訴人協会及び被控訴人Y5は、他の被控訴人らと共同不法行為責任を負うと解すべきである。

四  請求原因4については、前記第一で認定したとおりである。

五  以上の事実によると、被控訴人協会及び被控訴人Y5は、控訴人に対して、各自、控訴人が和解金として受領したことを自認する金額を控除した残損害賠償金二六七一万一〇七五円及びこれに対する昭和六二年一一月三日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払い義務を負うことになる。

第三結論

以上のとおり、控訴人の請求は、被控訴人ら各自に対し、損害賠償金二六七一万一〇七五円及びこれに対する昭和六二年一一月三日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 裁判官 小林正明)

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