東京高等裁判所 平成2年(ネ)2399号 判決 1990年11月27日
控訴人 舘野信義
舘野安男
右二名訴訟代理人弁護士 須黒延佳
被控訴人 今井運壤開発株式会社
右代表者代表取締役 今井梅治
右訴訟代理人弁護士 塚越幸彌
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
理由
一 被控訴人から訴外会社に対し右目録(一)の(一)、(二)、(五)ないし(八)記載の各約束手形が振出されたこと、及び訴外会社から被控訴人に右目録(二)の(一)ないし(八)記載の各約束手形が振出されたことは当事者間に争いがなく、≪証拠≫並びに被控訴人代表者の尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。
1 訴外会社は、従前から被控訴人との間で手形の交換をしており、被控訴人から手形の振出を受け、これを他に裏書して使用する一方、被控訴人に対し訴外会社振出の同額の手形を交付し、右被控訴人振出手形の支払期日までに右訴外会社振出手形を決済し、被控訴人は、支払を受けた右金員により右被控訴人振出手形を決済していた。
2 被控訴人は、右のような取引の延長として、訴外会社に対し、昭和五九年六月七日から同年一〇月四日までの間に前後五回にわたり、右目録(一)記載の約束手形八通額面合計金二一〇〇万円を振出し、その見返りとして、訴外会社振出の右目録(二)記載の約束手形九通額面合計金二一〇〇万円の交付を受け、これを所持していた。
訴外会社は、被控訴人から振出を受けた右約束手形八通については、他に裏書していた。
3 訴外会社は、同年一〇月三一日、手形不渡を出し、倒産した。被控訴人は、右目録(二)記載の約束手形のうち、支払期日が同日となつている(一)ないし(三)の各約束手形を取立に出していたところ、いずれも不渡となつた。被控訴人代表者は、同年一一月一日、取立の委任をしていた銀行から右各約束手形が不渡になつた旨の連絡を受け、直ちに訴外会社に電話をかけ、代表者の舘野義和に対し、「うちの方も困るので、至急払つてくれ。」と、被控訴人振出にかかる右約束手形八通の決済資金二一〇〇万円の支払を要求した。そして、同月四日には、訴外会社に赴き、右義和、同人の父親である控訴人信義らと話合い、同人らから「何としても返済する。借用書を書く。」旨の約束を得、同月八日、訴外会社が被控訴人から金二一〇〇万円を、弁済期限昭和六一年一〇月三〇日、利息年六分の定めにより借り受けた旨の借用書(甲第一号証)が作成された。その際、右義和、同人の弟である控訴人安男、右義和の妻喜代が、翌九日には控訴人信義が、訴外会社の右債務につきそれぞれ連帯保証をし、右借用書に署名押印した。
なお、右借用書の作成日は、右目録(二)の各約束手形の中で最初に到来する支払期日が昭和五九年一〇月三一日であるため、同日付けとされた。
4 被控訴人は、目録(一)の約束手形八通については、いずれも各支払期日に各手形金を支払い、決済した。
5 訴外会社においては、右倒産後、いわゆる私的整理が行われ、昭和六〇年三月、整理を終えた整理代理人弁護士須黒延佳から被控訴人に対し、配当の連絡がなされたが、これによると、被控訴人の訴外会社に対する債権額は金二一〇〇万円とされていた。
二 控訴人らは、右借用書の作成及び連帯保証は、被控訴人から、金融機関の融資を得るために必要と懇願されて、訴外会社及び控訴人らの債務を仮装するためにしたものであり、通謀虚偽表示として無効である旨主張し、証人舘野義和の証言中にはこれに沿う部分がある。
しかしながら、被控訴人が金融機関の融資を得るために、なぜ、既に倒産している訴外会社及びその役員をしている控訴人らの債務を仮装する必要があるのか、その合理的な理由を見出し難い。前記のとおり、訴外会社は、私的整理の際の配当通知においても、被控訴人の債権額は金二一〇〇万円であることを承認しているものであり、更に、証人舘野義和の証言によると、右借用書の作成及び連帯保証については、前記整理代理人の須黒延佳弁護士も控訴人らから相談に与かり、その承諾の下にこれを行つたというのであつて、そうだとすると、虚偽の契約が締結されたものとはたやすく考え難く、万一あり得たとしても、事後のために別途、仮装を証する書面等が用意されるのが通常であるところ、このような書面が作成された形跡はない。以上によると、証人舘野義和の前記証言部分は採用できず、他に控訴人らの右主張を認めるに足りる証拠はない。
三 右認定事実によると、従前から被控訴人と訴外会社との間でいわゆる融通手形の交換がなされており、右目録(一)の各約束手形と右目録(二)の各約束手形との交換もその一環として行われたものであるから、右各約束手形は、各自がそれぞれの振出したものを自己の負担において決済し、相手方には負担を負わせないとの約束の下に交換されたものと認められる。しかるところ、訴外会社は、前記借用書を作成した昭和五九年一一月八日当時において、被控訴人から振出を受けた右目録(一)記載の各約束手形については支払を受けていたのに対し、訴外会社の振出した右目録(二)記載の各約束手形については、(一)ないし(三)の各手形を不渡とし、その余の手形も倒産により支払不能の状態となつていたのであるから、前記の融通手形交換の約束の趣旨に従えば、既に不渡となつた手形については即時に、今後支払期日の到来する手形については遅くとも支払期日の都度、その手形額面に相当する金額を被控訴人に支払う義務を免れない立場にあつたものというべきである(被控訴人は、この関係を不当利得によるものと構成しているが、互いに決済する合意の下に融通手形を交換したとの事実が被控訴人から主張され、その点を控訴人も実質的には争つていない本件訴訟の経過に徴すれば、右に判示したような融通手形交換の趣旨から控訴人の支払義務を認めることは妨げないと考える。)。
控訴人らは、融通手形の交換について右のような義務が生じることはない旨主張するが、独自の見解であつて、理由がない。
そして、訴外会社は、被控訴人の要求に応じ、同年一一月八日、右の支払義務が既に発生した部分及び将来発生することが確実な分も含めて目録(二)記載の約束手形の額面金額合計に相当する金二一〇〇万円の支払債務を目的として準消費貸借契約を締結し、控訴人安男は同日に、控訴人信義は同月九日に、それぞれ右準消費貸借契約上の訴外会社の債務を連帯保証したものと認められる。
四 以上によると、被控訴人の本件請求は理由があるので、認容すべきである。
よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却する
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 坂井満)