東京高等裁判所 平成2年(ラ)406号 判決
一 抗告人は、「原決定を取り消す。相手方は、別紙製品目録記載の使い捨てカイロを製造し、販売してはならない。相手方の右使い捨てカイロの完成品及び半完成品に対する占有を解き、物件所在地を管轄する他方裁判所執行官に保管を命ずる。この場合、執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。」との裁判を求めた。
本件抗告の理由は、別紙一及び二記載のとおりである。
二 当裁判所は、一件記録中の当事者双方の主張及び疎明を検討した結果、別紙製品目録一記載の使い捨てカイロは現在製造販売されていないこと、同目録二の一及び二の二記載の使い捨てカイロは本件特許発明の技術的範囲に属しないものであると認定、判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか原決定の(当裁判所の判断)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(当裁判所の判断)二2、3及び三を次のとおり訂正する。
「2 本件特許発明の前記特許請求の範囲の記載に照らすと、本件特許発明は「鉄の微粉末」と「塩化物と水を含ませた活性炭」に「二酸化マンガン、酸化第二銅、四三酸化鉄のうちの一種または二種以上を適宜混合」するものである。
そして、本件明細書(本件特許発明の出願公告公報)の発明の詳細な説明には、「次に述べる実施例1~6まで全部に共通して使われている物質は、<1>塩化物<2>水<3>活性炭そして主剤としての<4>鉄粉である。この組合せにより発熱実験を行つたが、発熱開始までの時間がかかるので四三酸化鉄等の酸化物を酸化助剤・酸化促進剤として使用した。」(同公報第二欄第二三行ないし第三欄第六行)、その結果「1 塩化物を減らし、酸化物を増していくと発熱開始までの時間が短かくなり、且保存期間(密封して)も短かくなる。2 酸化物を減らし、塩化物を増していくと発熱開始までの時間が長くなり、且保存期間も長くなる。全く酸化物を助剤として入れないと、その保存期間は長年月となる。
3 酸化物は酸化数が多いと発熱反応が早い。」(同公報第三欄第一〇行ないし第一七行)と記載され、かつ「次に本発明に係る発熱体の酸化剤の実施例を示す」(同公報第三欄第一八行、第一九行)として、四三酸化鉄、二酸化マンガン、酸化第二銅の一種又は二種以上を含む実施例1ないし6の酸化剤が示され(同公報第三欄第二〇行ないし第四欄第二三行)、「これらの酸化剤を、主剤である鉄の微粉末と混合し大気中の酸素を通過し得る一つの袋に入れる。」(同公報第四欄第二四行ないし第二六行)と記載されていることが認められる。
右記載事項によれば、本件特許発明の特許請求の範囲にいう二酸化マンガン、酸化第二銅、四三酸化鉄は、主剤である鉄の微粉末とは別個の酸化助剤・酸化促進剤として使用されるものというべきである。
このことは、本件特許出願の出願公告に対する異議申立てについて、特許庁審判官は、本件出願当時発熱組成物として、<1>鉄粉・Nacl・活性炭・水よりなり、Naclは水に溶解して活性炭に吸収させて使用するもの、<2>鉄と反応助剤とを主成分とし、水と酸素の存在下で発熱する発熱組成物にマンガン・銅・クロム及びそれらの化合物の少なくとも一種を含有させるもの、<3>鉄粉一〇〇重量部と硫酸鉄塩類一~三〇重量部からなり、かつ鉄粉のうち五重量%以上は粒径が九九一μ以下であることを特徴とする水及び酸素と接触して発熱するもの等が公知であることを認めながら、これらの公知技術を記載した刊行物は、「本願発明の発熱体を構成する構成要件の一部を個別的には開示するが、本願発明の発熱体の構成要件の全部をそなえるところのものはない。(中略)これに対して、本願発明の発熱体は、先に示した構成要件の全部を必須要件とするものであり、このような必須の構成要件を組み合わせたことにより、各甲号証の記載からは予想することのできないところの、本願明細書に記載されたとおりの格別の効果を奏し得ている」(疎乙第二号証第四頁第六行ないし第五頁第二行)としてその進歩性を認めていることからも明らかである。
3 したがつて、本件特許発明は、二酸化マンガン、酸化第二銅、四三酸化鉄のうち一種ないし二種以上の酸化物を、主剤である鉄粉とは別個に、酸化助剤・酸化促進剤として発熱組成物中に混合することをその技術的範囲とするものである。
三 これに対し、別紙製品目録二の一及び二の二記載の使い捨てカイロは、鉄粉・木粉・活性炭・バーミキユライト・食塩を混合し、これに水を添加しながらさらに混合したものを通気性のある内袋に入れ、さらに非通気性の外袋で密封した発熱体であつて、右鉄粉の外に、添加剤として酸化鉄類を発熱体中に混合しているとは認められない。また、原材料である鉄粉が製造工程又は製造後使用前に自然に酸化したとしても、これをもつて「二酸化マンガン、酸化第二銅、四三酸化鉄のうち一種ないし二種以上を適宜混合」するものということはできない。
したがつて、別紙製品目録二の一及び二の二記載の使い捨てカイロは、本件特許発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
抗告人の前記主張は、本件特許発明の技術的範囲についての解釈を誤つた結果、酸化鉄類を添加剤として発熱体に混合するものでなくとも、発熱体中に酸化鉄類が検出されれば本件特許発明を侵害することになるとするものであつて、到底採用することができない。」
三 よつて、本件仮処分申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却する。