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東京高等裁判所 平成2年(ラ)740号 決定 1991年2月07日

抗告人 宮川宏一郎

相手方 宮川一恵 外3名

主文

原審判を取り消す。

本件を新潟家庭裁判所長岡支部に差し戻す。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

1  抗告の趣旨

主文と同趣旨の裁判を求める。

2  抗告の理由

原審判は、抗告人には相続分はなく、本件遺産を相手方4人で分割する旨の裁判をした。

しかしながら、以下の理由により、原審判は不当である。

(1)  被相続人の生前、相手方らも相当額の贈与を受けているのに、これを全く考慮に入れていない。

(2)  抗告人が被相続人を助け、農業については主として抗告人がこれに従事し、本件不動産の維持、管理に貢献してきたにもかかわらず、これを全く考慮していない。

(3)  抗告人は、本件遺産である農地を耕作し、これを主たる生活源としてきた。

相手方らが本件農地の相続をすることは、とりもなおさず、抗告人の生活を奪うことになる。

第2当裁判所の判断

1  記録によると、次の事実が認められる。

(1)  抗告人は、弁護士を委任しないで、遺産分割の調停を申し立てた。

調停において、当初、抗告人は、遺産の不動産を抗告人が全部取得し、相手方らには代償として金銭を支払う形で遺産分割をしたいと希望し、相手方らは、それでもよいかのような意向をみせたが、その後、遺産の一定数を現実に取得したいと希望し、その取得する土地の範囲等をめぐって調停が進められた。

調停の中ごろになって、双方はそれぞれ弁護士たる代理人を委任し、遺産に対する寄与や特別受益となる贈与等について主張が交わされ、調停期日が重ねられた。

そして、最終的に、調停委員会は、次のような調停案を提示した。

<1> 相手方一恵が取得する不動産

農地及び宅地合計約9筆(その評価額は合計おおよそ451万円で、遺産全体の約18%に相当する。)

<2> 相手方タエ、同二郎及び同雄三の3名が共同で取得する不動産

農地約9筆(評価額は合計おおよそ345万円で、遺産全体の約14%に相当する。)

<3> 抗告人が取得する不動産

その他の農地及び宅地合計約24筆、建物1棟(評価額は合計おおよそ1676万円で、遺産全体の約68%に相当する。)

相手方らは委員会案を受諾したが、抗告人が調停案を受諾しなかった。このため、調停は不成立となり、審判手続に移行した。

(2)  審判手続に移行してから、原審は、1回の審問期日を開いて、当事者から資料の提出を得たのみで、関係者に対する審問等を行うことなく、期日を終え、その後原審判を告知した。

なお、調停及び審判の過程を通じて、遺産の形成、各相続人の生活状況等についての家庭裁判所調査官による調査は行われなかった。

原審判は、次のようなものである。

抗告人は、寄与分を主張するが、寄与分を定める処分の申立てをしていないから、寄与分を認めない。

抗告人は、家を新築したときにその資金を被相続人から贈与されているので、特別受益があり、相手方らには、特別受益は認められない。

そして、原審は、右特別受益に基づいて具体的相続分を算出すると、抗告人の相続分はゼロとなるので、遺産の取得分はないとした上、本件遺産を相手方らがそれぞれ取得するものとした。

2  (1) 寄与分について

上記のとおり、原審判は、抗告人は寄与分の主張をするが、寄与分を定める申立てをしていないという。

しかしながら、調停の過程で、抗告人は何度も寄与分の主張をすると述べており、抗告人代理人が提出した平成元年4月3日付け準備書面及び同年7月12日付け準備書面において、抗告人には遺産の維持、形成に対する寄与があるので、この点を考慮して分割すべきである旨を記載していることが明らかである。

そうすると、正式に寄与分を定める処分の申立てをするとの文言は用いていないけれども、右各準備書面は右の申立てをする趣旨を含むものと解する余地があるし、少なくも、原審としては、抗告人が寄与分の申立てをする趣旨かどうかを釈明すべきものと考えられる(本件において、寄与分を定める処分の申立てがあったとして、抗告人に寄与分が認められるかは、本件記録による限り明らかではないが、記録によると、抗告人は、昭和24年に中学を卒業したころから、書店に勤務するかたわら、被相続人及び相手方一恵と同居して家業の農業に従事し、昭和34年ころに結婚し、昭和49年ころからは家計もまかされて農業経営の主体となっていたものとうかがえるのであり、被相続人が次第に老齢となっていったことをも考えると、抗告人に遺産の維持等に何らかの寄与があったと認められる余地がある。いずれにせよ、原審は、この点についてほとんど調査も審理もしていないのであって、原審判は不当であるといわなければならない。)。

(2) 特別受益について

前記のとおり、原審は、抗告人には特別受益としての贈与があるとし、他方相手方らの特別受益を認める資料はないとしているところ、記録によると、相手方二郎は、刑事事件の保釈金として20万円を被相続人から出してもらったことを認めているので、右が相続分を変更すべき特別受益に当たるか審理するべきであるのに、原審判はこの点につき何ら触れるところがないし、相手方タエ、同雄三についても抗告人が被相続人から贈与を受けていると主張しているのに、ほとんど調査、審理をしないで、これらの特別受益及びその価格を確定できるものはないとしているが、その審理には不十分なところがあるといわざるをえない。

3  よって、原審判は相当でなく、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消して、本件を新潟家庭裁判所長岡支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 小林正明)

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