東京高等裁判所 平成2年(行ケ)11号 判決 1994年2月23日
大阪市中央区安土町二丁目3番13号
大阪国際ビル
原告
ミノルタカメラ株式会社
代表者代表取締役
田嶋英雄
訴訟代理人弁理士
貞重和生
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官 麻生渡
指定代理人
森田允夫
同
奥村寿一
同
涌井幸一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、昭和62年審判第18194号事件について、平成元年11月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和53年4月11日、名称を「複写機における紙詰り検出装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和53年特許願第42937号)が、昭和62年7月3日に拒絶査定を受けたので、同年10月8日、これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を同年審判第18194号事件として審理したうえ、平成元年11月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月20日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
別添審決書写し記載のとおりである。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭52-13342号公報(以下「引用例1」という。)及び特開昭51-77243号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下、それぞれを「引用例発明1」、「引用例発明2」という。)に基づき当業者が容易に発明することができたものと判断し、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨、各引用例の記載事項の認定は認める。本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定につき、以下に述べるところに関連する部分(審決書7頁20行~9頁3行、9頁12~20行)を争い、その余を認める。
審決は、本願発明と引用例発明1との対比判断に際し、本願発明における「複写動作に関連して発生する基準信号」の意義を誤解したため、両発明の相違点であるところを一致点であると誤認し、その結果、誤った判断に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 本願発明は、複写機の動作に伴って搬送される複写紙の搬送路上で発生する紙詰まりを検出する装置に関する。
この種の複写機では、感光体ドラム上に原稿画像を投影して潜像を形成し、さらに、現像、転写、定着などの一連の処理を経て、複写物が形成される。複写動作の各工程は同期して作動することが必要であるから、制御装置を設け、複写開始を指令する信号に応答して、制御装置から出力される制御信号に基づいて各工程の装置が作動するよう構成されている。複写紙の搬送開始も上記制御装置から出力される制御信号に基づいて行われることはいうまでもない。
複写動作が開始されると、感光体ドラム上への画像形成処理が進行し、これと並行して複写紙も搬送機構により搬送される。この際、感光体ドラム上への画像形成処理は複写紙の紙詰まりの有無と無関係に進行するから、複写紙が搬送路上を搬送される過程で紙詰まりを生じたとき、これを放置すると、複写物が得られないだけでなく、感光体ドラムを損傷するなどの支障が生ずる。そこで、複写動作の開始後は、正確に紙詰まりの発生を検出して遅れることなく複写動作を停止させることが大きな課題となる。
本願発明は上記課題の解決を目的とするものであり、本願発明の特徴点の一つは、搬送される複写紙の紙詰まりの検出を、「複写動作に関連して発生する基準信号」に基づいてカウントを開始し、複写動作に伴って正常に搬送される複写紙の先端が検出位置を通過し終わるタイミングでカウントァップ(パルス信号のカウント終了)して所定のカウントアップ信号を出力するように、所定の数値データがセットされる第1のタイマ手段、及び、同様に「複写動作に関連して発生する基準信号」に基づいてカウントを開始し、複写動作に伴って正常に搬送される複写紙の後端が検出位置を通過し終わるタイミングでカウントアップして所定のカウントアップ信号を出力するように、所定の数値データがセットされる第2のタイマ手段を設け、これらのタイマ手段がカウントアップしたときに、それぞれ検知手段による複写紙の検知状態を判別して紙詰まり検出信号が出力されるようにして行う点にある。
2 審決は、本願発明の上記「複写動作に関連して発生する基準信号」の意義に関し、「一般に、複写機における移動部材の移動(搬送)動作は、複写動作に関連して行われるものであるから、後者(注、引用例発明1)において、搬送される複写材の後端を第1の検出手段により検出した信号、及び、搬送される複写材の先端を第2の検出手段により検出した信号は、いずれも、複写動作に関連して発生した基準信号と解することができる。」(審決書8頁1~8行)と認定し、これを前提に論を進めているが、前提とされたこの認定が既に誤りである。
本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」とは、画像形成処理機構、すなわち、複写機を構成する各種機構の動作に基づいて発生する信号を意味する。この各種機構には、本願明細書の説明で示されているスキヤニング機構A、作像機構B、複写紙供給機構C、転写機構D、転写紙搬送機構E、定着機構F及びこれらの動作を制御する制御装置50等が含まれ、実施例では、このうちスキヤニング機構Aが使用され、同機構の動作に基づくスイッチSW1のオン信号が複写動作に関連して発生する信号として用いられている。複写紙搬送機構自体は上記機構に含まれるから、この機構の動作に基づいて発生する信号は「複写動作に関連して発生する基準信号」に該当するが、引用例発明1におけるように搬送手段により搬送される複写紙やシート原稿等の複写材(以下、両者を「複写紙等」という。)の先端あるいは後端を検出して得る信号は、その発生が複写紙等の有無に依存し、検出位置に複写紙等が到達するまでに搬送機構と複写紙等との間に滑りなどにより紙詰まりが生じると、全く発生しないか、発生しても複写動作との間に関連性のないものとなってしまうかであるから、「複写動作に関連して発生する基準信号」には含まれない。
その発生が複写紙等の有無に依存する上記信号も、複写紙等が搬送機構との間に滑り等を生ずることなく正常に搬送されて検出位置に到達したときには、見かけ上、複写動作に関連して発生するように見えるが、この見かけを根拠に、この信号を「複写動作に関連して発生する基準信号」に含まれるとすることはできない。
3 本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」の意義が上記のとおりであることは、本願発明の要旨には特に示されていないが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により明らかである。すなわち、発明の詳細な説明中には、本願発明の内容を明らかにするための実施例が二つ示されており、それらのいずれにおいても、「複写動作に関連して発生する基準信号」は、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生するものであるとされている。
(1) 実施例の一つは、複写紙検知器に対する作動指令のタイミング決定をタイマに数値データに基づいて決定したデータをプリセットして決定するものである(甲第2号証9欄25行~12欄20行、同第4号証3頁8行~4頁5行)記載のもの、以下「実施例1」という。)。
この実施例においては、まず、
「いま、前記複写機1のスキヤニング機構Aが動作を開始したものとする。すなわち、複写機1の光源2および反射鏡3a、3bが所定位置にセツトされ、原稿台4の原稿に対する露光操作を開始(第1図のスイツチSW1がオン)したものとする。
まず、タイミング制御部TCC内に、上述したようにRAM領域を用いて構成された2つのタイマTMのうち、一方の第1のタイマTM1には、給紙カセツト10a、10bの排出口位置(複写紙搬送路の始端)から複写紙検知器40-1の設置位置P1までの搬送路長に比例した第1の数値データがプリセツトされるとともに、第2のタイマTM2には、前記第1の数値データと、当該複写紙搬送路PTLに搬送される複写紙の前端から後端までの寸法に比例した第2の数値データとを加算した数値データがプリセツトされる。
いま、前記複写機1が複写動作を開始し、前記給紙カセツト10aから複写紙が複写紙搬送路TPLに搬送されたとすると、これと同時に、前記タイマTM1、TM2は、前記パルス発生器PG2から出力されるパルスを入力されて計時作動を開始する。」(甲第2号証9欄25行~10欄3行、甲第4号証3頁8~10行)
との記載から理解できるように、検知器40-1による紙詰まり検知のためのタイマTM1、TM2の計時開始は、スキャニング機構Aが動作を開始するときのスイッチSW1のオン信号によるものとされている。すなわち、タイマTM1、TM2にプリセットされる数値データがともに給紙カセットの排出口位置(複写紙搬送路の始端)からの搬送路長さに比例しており、これは、複写紙搬送路の始端から紙詰まりの検出が開始されることを意味するから、複写紙の搬送開姶に同期して、すなわち、スイッチSW1のオン信号によりタイマTM1、TM2の計時が開始されていることになるのである。
次に、検知器40-1により紙詰まりなしと判定されたときのことに関し、本願明細書には「・・・この場合には、前記論理決定回路JAMLは、紙詰り発生無しと判定し、出力ポートB、Cと接続した表示装置のソレノイドSOL、表示ランプELへの作動用信号の送出を禁止する。さらに、このとき、前記第1のタイマTM1は、つぎの第1の数値データ、すなわち、検知器40-2の配設位置P2に応じたものをプリセツトされ、前記したように、前記PG2から出力されるパルスにもとづいて計時作動を開始する。」(甲第2号証10欄37行~11欄1行、甲第4号証3頁11~13行)と記載されている。
上記「さらに、このとき」は、タイマTM1がカウントアップした時点であって、しかも紙詰まりなしと判定されたときを指し、この場合、検知器40-1より下流に配設された次の検知器40-2による複写紙の検出のため再びその配設位置に応じた次の第1の数値データがタイマTM1にプリセットされ、計時が開始されるのである。そして、再度数値データがプリセットされたタイマTM1の計時開始は、その直前にタイマTM1にプリセットされた数値データのカウントアップに引き続くものであるから、遡れば結局スイッチSW1のオン信号により計時が開始されることになる。
この場合、再度次の第1の数値データがタイマTM1にプリセットされ、次の検知器40-2による複写紙の先端の検出のための計時が開始されるのは、検知器40-1により紙詰まりなしと判定された場合であるが、このことは、計時の開始が検知器40-1により複写紙の先端が検出されることを条件としていることを意味しない。検知器40-1により紙詰まりなしと判定されたことを条件としているのは、最初の検知器40-1による検出で紙詰まりが発生したと判定されれば、複写機は警報を発し停止してしまい、次の検知器40-2で検知する意味がないからである。
タイマTM2が最初の検知器40-1による複写紙後端の検出につきカウントアップした時点における、次の検出器40-2による複写紙後端の検出のためのタイマTM2への数値データのプリセットと計時開始についての記載は、
「前記第2のタイマTM2がカウントアツプしたとき、前記したと同様に、前記論理決定回路JAMLは、入力ポートAから入力される信号と、前記タイマTM2のタイムアツプ(エンドフラグ“1”)信号とで論理決定し、その決定結果に応じて前記出力ポートB、Cへの信号送出を決定する。
いま、前記検知器40-1が複写紙の後端を検知していないとき、すなわち、複写紙が無しと判定したとすると、入力ポートAの信号は“0”で、前記論理決定回路JAMLは、紙詰り無しと判定して前記出力ポートB、Cに、前記した信号の送出を禁止する。さらに、このとき、前記第2のタイマTM2は、つぎの第1の数値データ、すなわち、前記第1のタイマTM1にプリセツトしたデータと同一数値データを、作動時間データとしてプリセツトされ、前記PG2から出力されるパルスにもとづいて計時動作を開始する。」(甲第2号証11欄2~19行、甲第4号証4頁1~3行)
であり、さらに、検知器40-3による複写紙の先端検出、後端検出のためのタイマTM1、タイマTM2への数値データのプリセットと計時開始についての記載は、
「以下、同様にして、前記第1および第2のタイマTM1、TM2には、それぞれ、複写紙検知器40-3の設定位置P3に対応した第1の数値データがプリセットされる。そして、各タイマTM1、TM2がそれぞれタイムアツプしたときに、前述したと同様にして、論理決定回路JAMLを作動させて、当該位置P3で紙詰りが発生したかどうかが判定される。」(甲第2号証11欄20~28行、甲第4号証4頁4~5行)であって、これらによるときは、これらの場合の数値データのプリセットと計時開始の意義は、前記検知器40-2による複写紙の先端及び後端の各検出のための数値データのプリセットと計時開始のものと同様である。
(2) もう一つの実施例は、複写機をプログラム制御する際に、その制御プログラムを利用して紙詰まり検出を行うものである(甲第2号証12欄29行~14欄25行、図面第7、第8図に記載のもの、以下「実施例2」という。)。
実施例2においても、本願発明の第1、第2のタイマ手段に該当するものとして、デジタル式制御装置50を構成するマイクロコンピュータ内に構成されるタイマTimer-1~8があり、これらのタイマは、複写機の作像機構、分離爪駆動機構、複写紙供給機構、転写機構、複写紙搬送機構等の画像形成処理機構に対する作動時期を制御するとともに、紙詰まりの検出のためにも用いられ、これらのタイマの計時を開始させる信号は、実施例1の場合と同じく、スキャニング機構が露光開始位置に達し、原稿の露光開始と同時にオンとされるスイッチSW1から出力される信号であることが、明らかである。
実施例2においても、例えば、Timer-6の計時開始は、Timer-4が完了し、検知器40-2が複写紙を検知したときであるとされている(第7図のステップ11~13)ことに見られるように、一部のタイマの計時開始が条件にかかっていることは事実であるが、その条件は、検知器により紙詰まりなしと判定されることであって、検知器により複写紙の先端又は後端の存否が検出されることではない。検知器により紙詰まりなしと判定されたことを条件としているのは、上流の検知器による検出で紙詰まりが発生したと判定されれば、複写機は警報を発し停止してしまい、下流の検知器で検知する意味がないからである。
4 本願発明の第1、第2のタイマ手段におけるパルス信号の計数を開始する時期を決定する「複写動作に関連して発生する基準信号」が上記のとおりのものである以上、この信号は、引用例発明1の、搬送路上に設けた複写紙等検出手段から出力される信号とは、その性質、発生源を全く異にする別異の信号であり、本願発明の第1、第2のタイマ手段と引用例発明1のタイマとは、それらのタイマに設定される時間や、時限動作を開始させる信号が異なる相違した構成のタイマであるといわなければならない。
上記構成の差異は、作用効果において次のように顕著な相違をもたらす。
本願発明の第1、第2のタイマ手段によれば、複写動作の開始時点から時間遅れなく紙詰まりの検出を開始することができ、検出不能区間が生じることがない。また、本願発明では、タイマの時限動作を開始させるための信号として、画像形成機構などから出力される複写動作に関連して発生する基準信号を使用するから、特別な信号発生手段を必要としない。
これに対し、引用例発明1においては、複写紙等の搬送路上に配置された第2検出手段より搬送方向上流で発生する紙詰まりについては、複写紙等の後端が上記第2検出手段より搬送路上流の第1検出手段を通過したことを条件としてのみ検出可能であり、また、第2検出手段では、同検出手段を通過する複写紙等の紙詰まりについてのみ検出可能で、紙詰まりの検出開始信号を出力する検出手段の配置に制約を受けて、紙詰まりの検出不能区間を生ずる。
5 以上のとおり、本願発明と引用例発明1の構成は異なり、これに基づく作用効果も相違するから、本願発明が引用例発明1、2から容易に発明をすることができたとの審決の判断が誤りであることは、明らかである。
第4 被告の反論の要点
1 原告の主張1について
複写機における紙詰まり検出の意義及び本願発明の特徴点の一つについての原告の主張1は認める。
2 同2、3について
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
(1) 本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」の意味につき、一般に、「複写」は、大きく分けて、帯電、露光、現像、転写、定着の各工程よりなるが、完成された複写を得るためには、これらの各工程の進行に同期して複写紙等を搬送することが必須であるから、「複写動作」といえば、帯電、露光、現像、転写、定着の各動作のほか、複写紙等の搬送動作が含まれる。このことは、本願出願前、当業者に自明の事項であった。
したがって、「複写動作に関連して発生する基準信号」といえば、帯電、露光、現像、転写、定着の各動作に関連して発生する信号のみならず、複写紙等の搬送動作に関連して発生する信号も含むものとして、当業者に理解されることは明らかである。
そして、複写動作が正常に行われている限り、搬送路に設けられた複写紙等の先端あるいは後端を検出する信号は、複写動作全体と密接な関連性を有するから、この検出信号が「複写動作に関連して発生する基準信号」に該当することも当然である。
従来、搬送される複写紙等を検出した検出信号を、複写機内の種々の工程の部材を駆動制御するための基準信号として用いることが周知慣用されている(乙第1号明細書1欄17行~21行、4欄19行~5欄4行、7欄1~9行、11欄20行~13欄1行、第6図参照)のは、このためであり、本来、複写動作全体と関連性を持たない信号を、複写機における各工程の部材を駆動制御するための基準信号として用いることはありえないはずである。
上記用語が通常の用法とは異なることを明らかにする記載は本願明細書中に認められず、上記用語の解釈に当たり、原告主張のように、あえて発明の詳細な説明の欄の記載を参照して、限定的に解釈すべき理由はない。
搬送される複写紙等が最初の検出器の位置に到達するまでに搬送機構ととの間に滑り等が発生した場合には、上記検出信号は発生しないか、発生したとしても複写紙等の搬送動作以外の複写動作との関連性を失った信号となるかであることは原告主張のとおりであるが、通常、このような事態が発生する頻度は、複写紙等が正常に搬送される場合に比し、十分低く、あくまで例外的なものであるから、このような場合があることを根拠に、この信号を複写動作との関連性のないものとする原告の主張は、上記周知慣用技術に係る技術分野の実情を無視するものであって、失当である。
(2) 本願明細書に記載された実施例についての原告主張も失当である。すなわち、本願明細書に原告の挙げる記載及び図面があることは認めるが、これらが原告主張の意味を有すると認めることはできない。
まず、実施例1について見る。
実施例1のタイマTM1、TM2が本願発明の第1のタイマ手段、第2のタイマ手段に対応することは、原告の挙げる記載に照らして明らかであるので、これらのカウント動作(計時作動)を開始させる基準信号について検討する。
検知器40-1による紙詰まり検知については、「いま、前記複写機1が複写動作を開始し、前記給紙カセツト10aから複写紙が複写紙搬送路TPLに搬送されたとすると、これと同時に、前記タイマTM1、TM2は、前記パルス発生器PG2から出力されるパルスを入力されて計時作動を開始する。」(甲第2号証9欄42行~10欄3行、甲第4号証3頁8~10行)との記載によれば、「基準信号」は、複写紙の複写紙搬送路への搬送開始と同時に発生するものと認められるが、この「基準信号」が具体的にどのようなものであるかは、上記記載には何も記載されておらず、これを、同記載によって明確に特定することはできない。したがって、検知器40-1による紙詰まり検知のためのタイマTM1、TM2の計時開始は、スキヤニング機構Aが動作を開始するときのスイッチSW1のオン信号によるものとされているとの原告主張は失当である。
検知器40-2、40-3による検知については、タイマTM1、TM2が次の計時作動を開始するのは、タイマのタイムアップ信号及び紙詰まりなしと判定されたことを示す入力ポートからの信号の双方に基づいてであり、そのいずれか一方だけでは「基準信号」になりえないことは、原告も認めるところであり、紙詰まりなしと判定されたことを示す信号が出力されるか否かは複写紙検知器が複写紙を検知するか否かによって決定されることを考慮すれば、この「基準信号」をもって、原告のいうように搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生するものとすることができないことは明らかである。
以上のとおりであるから、実施例1について見た場合、本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」は、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号である旨の原告主張は失当である。
次に、実施例2について見ると、複写紙検知器による複写紙先端の検知が行われるのは、Timer-1、Timer-4、Timer-6のカウントアップしたときであるから、これらのそれぞれが本願発明の第1のタイマ手段に対応する。このうち、Timer-6についていえば、Timer-6がスタートするのは、Timer-4がタイムアップし、かっ、複写紙検知器40-2が紙を検知しているときであるから、実施例1の場合と同様、Timer-4のタイムアップ信号と複写紙検知器の検知出力とで論理決定した出力が「基準信号」であると解するのが相当である。したがって、この「基準信号」は、原告のいうような搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号ではない。
また、複写紙検知器による複写紙後端の検知が行われるのは、Timer-5、Timer-7、Timer-8のカウントアップしたときであるから、本願発明の第2のタイマ手段に対応するものがあるとすれば、それはこれらのそれぞれであるが、これらのタイマに設定される数値データは、いずれも、複写紙のサイズに応じたものではないから、これらを本願発明の第2のタイマ手段に対応するものとすることはできない。
さらに、Timer-7が計時作動を開始するのは、Timer-5がタイムアップし、かつ、複写紙検知器40-1が紙を検知していないときであり、Timer-8が計時作動を開始するのは、Timer-7がタイムアップし、かつ、複写紙検知器40-2が紙を検知していないときであるから、前述と同様、これらのタイマの計時作動を開始させる信号は、複写紙検知出力に依存しており、原告のいうような搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号ではない。
原告は、Timer-3を含む複数のタイマの組合せで本願発明の第2のタイマ手段が構成される旨主張するが、本願発明の第2のタイマ手段は、「基準信号」に基づいてパルス信号のカウントを開始し、そのカウントアップ時、すなわち、それに設定された数値データ分のカウントを終えた時点で、複写紙後端の検知が行われるものであることは、本願発明の要旨に照らして明らかであるから、失当である。
以上のとおりであるから、実施例2について見た場合も、本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」は、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号ではなく、原告主張は理由がない。
3 同4について
本願発明の顕著な効果についての原告主張は、本願発明の構成の不当に制限的な解釈を前提とするものであり、前提において既に誤っているから、失当である。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。
第6 当裁判所の判断
1 複写機における紙詰まり検出の意義についての原告の主張については、当事者間に争いがない。
また、原告の主張するとおり、本願発明の特徴点の一つは、搬送される複写紙の紙詰まりの検出を、「複写動作に関連して発生する基準信号」に基づいてカウントを開始し、複写動作に伴って正常に搬送される複写紙の先端が検出位置を通過し終わるタイミングでカウントアップ(パルス信号のカウント終了)して所定のカウントアップ信号を出力するように、所定の数値データがセットされる第1のタイマ手段、及び、同様に「複写動作に関連して発生する基準信号」に基づいてカウントを開始し、複写動作に伴って正常に搬送される複写紙の後端が検出位置を通過し終わるタイミングでカウントアップして所定のカウントアップ信号を出力するように、所定の数値データがセットされる第2のタイマ手段を設け、これらのタイマ手段がカウントアップしたときに、それぞれ検知手段による複写紙の検知状態を判別して紙詰まり検出信号が出力されるようにして行う点にあることは、当事者間に争いがない。
2 原告は、本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」とは、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号を意味するとし、これを前提にして、審決が、引用例発明1の「搬送される複写材の後端を第1の検出手段により検出した信号、及び、搬送される複写材の先端を第2の検出手段により検出した信号は、いずれも、複写動作に関連して発生した基準信号と解することができる。」(審決書8頁4~8行)と認定したことを論難する。
そこで、本願発明の「複写動作に関連して発生する基準信号」の意義についてみると、前示本願発明の要旨には、原告の自認するとおり、その意味をより明確に規定する構成はないことが明らかであり、甲第2~第4号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明にも、これを定義する記載は特にないことが認められる。
そうとすると、上記要件の意義は、本願出願時において当業者が通常理解する技術的意味において把握すべきところ、本願発明の対象とする電子写真複写機等の複写機において、複写工程は、帯電、露光、現像、転写、定着の各工程と、これらの各工程の進行に同期して複写紙等を搬送する工程が不可欠であることは、この種複写機の機構に照らし自明というべきであるから、これら工程を受け持つ各機構の動作を総称して「複写動作」と呼ぶことは極めて自然であり、誤解の余地はないものと認められる。
このことからすると、「複写動作に関連して発生する基準信号」の意義を、本願発明の要旨中の「複写動作に関連して発生する基準信号に基いて前記パルス信号のカウントを開始し」との文脈の中で読めば、複写機本来の目的である複写動作に何らかの意味で関わりを持って発生する信号をもって、パルス信号を開始する基準となる信号としたことを意味すると理解され、これを、原告主張のように、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生する信号に限定して解釈する根拠はないことが明らかである。
そして、特開昭51-110332号公報(乙第1号証)の「電子写真複写機内で帯電器、現像器、用紙分離爪、その他種々の複写機エレメントを予じめ定めたタイミングに作動させるシーケンス制御用の信号源としては、複写用紙の通路に適宜配置された用紙検知素子によるか、あるいは・・・カム制御方式によるものがほとんどである。」(同号証明細書1欄16行~2欄3行)との記載から認められるように、搬送される複写紙等を検出した検出信号を複写機内の種々の工程の部材を駆動制御するための基準信号とすることが、本願出願前普通に行われていた技術であることからすると、複写動作に密接に関連することが明らかな搬送される複写紙等を検出して発生する検出信号を、本願発明の要旨にいう「複写動作に関連して発生する基準信号」に含めて理解すべきことは当然というべきである。
したがって、審決が、引用例発明1の「搬送される複写材の後端を第1の検出手段により検出した信号、及び、搬送される複写材の先端を第2の検出手段により検出した信号は、いずれも、複写動作に関連して発生した基準信号と解することができる。」と認定したことは正当であり、これを論難する原告の主張は採用できない。
3 原告は、本願明細書の実施例1、2に関する記載を根拠に、「複写動作に関連して発生する基準信号」は、搬送される複写紙等の有無に依存しない画像形成処理機構の動作に基づいて発生するものであると主張する。
しかしながら、実施例1、2の「複写動作に関連して発生する基準信号」の中に、その発生が検知器により紙詰まりなしと判定されるという条件にかかるものが含まれていることは、実施例1の検知器40-2、40-3による複写紙の先端又は後端検出のためのタイマTM1、TM2の計時開始の基準信号及び実施例2の同じくTimer-6、Timer-7の計時開始の基準信号について、原告の自認するところであり、紙詰まりなしと判定されるか否かが検知位置における複写紙の検出の有無と直結していることはいうまでもないことであるから、各実施例には、「複写動作に関連して発生する基準信号」として、その発生が搬送される複写紙の有無に依存するものが含まれているといわなければならない。
原告は、検知器により紙詰まりなしと判定されたことを条件としているのは、紙詰まりなしと判定された場合にしか、次の検知をする意味がない(それまでに紙詰まりが発生したと判定されれば、複写機は警報を発し停止する)からである旨主張するが、そうだとしても、このことは、その発生が搬送される複写紙等の有無に依存する信号も、そのことの故に、「複写動作に関連して発生する基準信号」としての資格を失うわけではないことを物語るものというべきである。
4 原告は、引用例発明1におけるように搬送手段により搬送される複写紙等等の先端あるいは後端を検出して得る信号が「複写動作に関連して発生する基準信号」に含まれないと解釈すべき根拠の一つとして、このようにその発生が搬送される複写紙等の有無に依存する信号は、検出位置に非搬送材が到達するまでに搬送機構と複写紙等との間に滑りなどにより紙詰まりが生じると、全く発生しないか、発生しても複写動作との間に関連性のないものとなってしまうことを挙げる。
そして、本願明細書記載の実施例1を例にとると、「第1のタイマTM1には、給紙カセツト10a、10bの排出口位置(複写紙搬送路の始端)から複写紙検知器40-1の設置位置P1までの搬送路長に比例した第1の数値データがプリセットされ」(甲第2号証9欄33~37行)、このタイマTM1の計時開始時は、スイツチSW1のオン信号によるスキヤニング機構Aの露光操作の開始時であり、これと同時に、給紙カセツトから複写紙が複写紙搬送路に搬送される(同9欄25行~10欄3行)とされ、第1のタイマTM1がタイムアツプしたときに、検知器40-1が複写紙の先端の通過を検知していない場合、紙詰り論理決定回路JAMLが紙詰まりの発生を検知する(同11欄36~40行)のであるから、この実施例においては、複写紙搬送路の始端から紙詰まりが生じた場合にも、早期に紙詰まりが検出できることとなる。
これに対し、引用例発明1においては、「第1のタイマはシート後端を検出後シートが第2の検出手段に到達するに要する時間が設定され」(甲第5号証2頁右下欄8~10行)、このタイマの計時開始時は、「シートが給送され第1の検出手段S1を通過し終ると同時」(同2頁同欄15~16行)であり、「第1のタイマT1による所定時間内に第2の検出手段S2がシートの先端を検出しないとき出力を生ずる第1の判別手段」であるD1(同2頁左下欄13~15行)により、紙詰まりの発生を検知するのであるから、タイマT1の計時を開始させる最初のシートの後端の検出前に紙詰まりが発生した場合には、タイマの計時も開始されず、したがって、紙詰まりも検知できないことになる。
しかし、このことは、搬送路中の紙詰まり検出の対象となる範囲をどの範囲に設定するかの問題であり、前示のとおり、本願発明は、複写紙が搬送機構との間に滑り等を生ずることなく正常に搬送されて最初の検出位置に到達したときより下流の搬送路における紙詰まりの検出をも対象にしているのであって、この部分において、本願発明も、搬送される複写紙等の有無に依存する信号を「複写動作に関連して発生する基準信号」として、紙詰まりの検出に利用しているのであるから、この点において、引用例発明1との差異をいうことはできず、上記実施例に基づく原告の主張は理由がないものといわなければならない。
仮にこの点を本願発明と引用例発明1との相違点として取り上げてみても、紙詰まりを検出するためのタイマの計時開始を、搬送される複写紙等の有無に依存しない信号によることは、審決認定の引用例2の記載事項から明らかなとおり、引用例発明2において採用されている公知の技術であり、結局、本願発明が引用例発明1、2に基づいて当業者が容易に発明することができたとの審決の判断に影響を及ぼすものではない。
その他、本件全証拠を検討しても、原告の主張を根拠付ける資料は、見当たらない。
5 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)
昭和62年審判第18194号
審決
大阪府大阪市東区安土町2丁目30番地 大阪国際ビル
請求人 ミノルタカメラ株式会社
東京都港区赤坂1-11-41第1興和ビル5階
代理人弁理士 大谷幸太郎
東京都港区赤坂1丁目11番41号 第1興和ビル5階 大谷特許事務所
代理人弁理士 貞重和生
昭和53年特許願第42937号「複写機における紙詰り検出装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年8月1日出願公告、特公昭60- 33270)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、昭和53年4月11日の出願であつて、その発明の要旨は、昭和57年3月16日、昭和58年11月22日、昭和61年6月6日、及び昭和62年11月5日付けの手続補正書により補正された明細書、並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、
「(1) 複写紙搬送路の検出位置において複写紙の有無を検出する複写紙検知手段と、
使用される複写紙のサイズを識別する手段と、複写紙を搬送する搬送機構を駆動する駆動モータの回転速度に対応したパルス間隔を有するパルス信号を発生する発生手段と、
複写動作に関連して発生する基準信号に基いて前記パルス信号のカウントを開始し、複写動作に伴つて正常に搬送される複写紙の先端が上記検出位置を通過し終るタイミングでカウントアツプして所定のカウントアツプ信号を出力するように所定の数値データが設定される第1のタイマ手段、及び複写動作に関連して発生する基準信号に基いて前記パルス信号のカウントを開始し、複写動作に伴つて正常に搬送される複写紙の後端が上記検出位置を通過し終るタイミングでカウントアツプして所定のカウントアツプ信号を出力するように所定の数値データが設定される第2のタイマ手段と、
上記識別された複写紙のサイズに対応して上記第2のタイマ手段に設定する数値データを変更するための手段と、
上記第1と第2タイマのそれぞれのカウントアツプ時に上記検知手段による複写紙の検知状態を判別し、上記第1のタイマ手段のカウントアツプ時に上記検知手段が複写紙を検知していないとき、あるいは上記第2のタイマ手段のカウントアツプ時に上記検知手段が複写紙を検知しているときに、紙詰り検出信号を発生する制御手段とを有することを特徴とする複写機における紙詰り検出装置.」にあるものと認める。
これに対して、原査定の拒絶の理由である特許異議の決定の理由に引用された甲第1号証である特開昭52-13342号公報(引用例1)には、複写機における移動部材(複写材(シート原稿等)、或いは被複写材(感光紙等)等)のジヤムを検出する装置が記載され(1頁右下欄10行~2頁左下欄4行)、特に、第1~3図及びその説明には、そのような移動部材のジヤムを検出する装置の例として、複写材の移動系路の入口に設けられた複写材検出用の第1の検出手段と、複写材の移動系路の出口付近に設けられた複写材検出用の第2の検出手段と、複写動作に伴つて正常に搬送される複写材の後端を第1の検出手段が検出することにより時限動作を開始すると共に、該後端検出後、複写材の先端が第2の検出手段に到達するに要する時間が設定される第1のタイマと、複写動作に伴つて正常に搬送される複写材の先端を第2の検出手段が検出することにより時限動作を開始すると共に、該先端検出後、複写材の後端が第2の検出手段に到達するに要する時間が設定される第2のタイマと、第1のタイマに設定された時間内に第2の検出手段が複写材の先端を検出しないとき出力を生ずる第1の判別手段と、第2のタイマに設定された時間内に第2の検出手段が複写材の後端を検出しないとき、即ち、複写材を検出しているとき出力を生ずる第2の判別手段と、第1もしくは第2の判別手段の出力によりジヤム信号を発生する手段とを備え、更に、上記第1及び第2のタイマは、その具体的構造として充放電回路を利用すると共に、上記第2のタイマに設定される時間を決定する充放電回路に含まれる調節抵抗VR3は、複写材の長さに応じて例えば複写材の大きさを表示するボタンに応じて可変である(7頁左上欄7~11行)ように構成された複写材のジヤム検出装置が記載され、同じく甲第2号証である特開昭51-77243号公報(引用例2)には、その20頁左上欄6行~21頁左上欄13行、19頁左下欄9~12行、及び12頁右下欄15行~15頁左上欄12行に、転写紙(複写紙)の搬送通路内の特定位置に設けられた紙検出装置と、感光ドラムの回転と同期したクロツクパルスを発生するクロツクパルス発生器221と、原稿台反転位置でリセツトされると共に、クロツクパルス発生器の出力をカウントするクロツクパルスカウンタ231と、該カウンタの出力を受けて、該カウンタがクロツクパルスを4個カウントした時出力パルス4CP信号を発生するゲート235と、該カウンタがクロツクパルスを6個カウントした時出力パルス6CP信号を発生するゲート236と、該カウンタがクロツクパルスを10個カウントした時出力パルス10CP信号を発生するゲート237と、使用される転写紙のサイズがB5、A4、B4のうちのいずれであるかを自動的に判断するコピーサイズ信号発生回路と、該コピーサイズ信号発生回路の出力信号に基づき上記4CP信号、6CP信号、10CP信号のうちから転写紙のサイズに対応する信号を選択して出力するゲート350と、該ゲート350の出力信号が得られた時点において上記紙検出装置の検出状態を判別して、該紙検出装置が転写紙を検出していないときにはジヤム発生信号JAMを出力するフリツプフロツプ回路とを備えた複写機における転写紙(複写紙)のジヤム検出装置が記載され、特に、上記4CP信号、6CP信号、及び10CP信号の発生するタイミングは、それぞれ転写紙がB4、A4、及びB5のサイズである場合に、原稿台が反転した時点から上記の紙検出装置まで転写紙が正常に搬送されて到達するに要する時間に対応したものである(20頁右下欄4~11行)ことが記載されているものと認める.
そこで、本願発明(前者)と、引用例1に記載のもの(後者)とを比較すると、前者では、ジヤム検出の対象となる移動部材が複写紙であり、一方、後者では、移動部材として、複写材の外に被複写材(感光紙等)も考慮しているから、この移動部材に関しては両者は一致している。又、前者における「複写紙検知手段」と後者における「複写材検出用の第2の検出手段」とは、いずれも、2つのタイマのそれぞれの時限動作が満了した時点で複写紙を検知しているか否かが判別されてジヤム検出を行うようにしている点で一致している.次に、後者におけるタイマの時限動作を開始させる制御動作について検討すると、一般に、複写機における移動部材の移動(搬送)動作は、複写動作に関連して行われるものであるから、後者において、搬送される複写材の後端を第1の検出手段により検出した信号、及び、搬送される複写材の先端を第2の検出手段により検出した信号は、いずれも、複写動作に関連して発生した基準信号と解することができる.従つて、後者において、上記第1或いは第2の検出手段により検出した信号に基づいて第1或いは第2のタイマの時限動作を開始させることは、複写動作に関連して発生した基準信号に基いて第1或いは第2のタイマの時限動作を開始させることと解することができるので、前者の「第1のタイマ手段」と後者の「第1のタイマ」とは、複写動作に関連して発生する基準信号に基づいて時限動作が開始されると共に、正常に搬送される複写紙の先端が複写紙検知手段に到達するまでの時間が設定される点で一致し、又、前者の「第2のタイマ手段」と後者の「第2のタイマ」とは、複写動作に関連して発生する基準信号に基づいて時限動作が開始されると共に、正常に搬送される複写紙の後端が複写紙検知手段に到達するまでの時間が設定される点で一致している.更に、前者における「識別された複写紙のサイズに対応して第2のタイマ手段に設定する数値データを変更する手段」、及び「複写紙検知手段の検知状態を判別して紙詰り検出信号を発生する手段」は、それぞれ後者における「調節抵抗VR3」、及び「第1及び第2の判別手段、並びに両判別手段の出力によりジヤム信号を発生する手段」に一致しているから、結局、両者は、複写紙搬送路に設けられた複写紙検知手段と、複写動作に関連して発生する基準信号に基づいて時限動作を開始し、複写動作に伴つて正常に搬送される複写紙の先端が複写紙検知手段に到達するまでの時間が設定される第1のタイマ手段と、複写動作に関連して発生する基準信号に基づいて時限動作を開始し、複写動作に伴つて正常に搬送される複写紙の後端が複写紙検知手段に到達するまでの時間が設定される第2のタイマ手段と、識別された複写紙のサイズに対応して第2のタイマ手段に設定する時間を変更する手段と、第1と第2のタイマ手段のそれぞれの時限動作の満了時に複写紙検知手段による複写紙の検知状態を判別し、第1のタイマ手段の時限動作満了時に複写紙検知手段が複写紙を検知していないとき、或いは、第2のタイマ手段の時限動作満了時に複写紙検知手段が複写紙を検知しているときに、ジヤム検出信号を発生する制御手段とを備えた複写機のジヤム検出装置である点で一致し、次の<1>及び<2>の点で相違するものと認められる。
<1>前者は、複写紙のサイズを識別する手段を有するのに対し、後者は、そのような手段を有していない.
<2>前者は、複写紙搬送用駆動モータの回転速度に対応したパルス間隔を有するパルス信号を発生する手段を備え、第1及び第2のタイマ手段は、該パルス信号を設定された数値だけカウントすることにより時限動作を行うものであるのに対し、後者は、そのようなパルス信号発生手段を備えておらず、かつ、その第1及び第2のタイマは、充放電回路により時間が設定される。
これらの相違点について検討すると、<1>について、引用例2を参照すると、該引用例に記載されているジヤム検出装置は、複写紙のサイズに応じてタイマの設定時間を自動的に変更するために、複写紙のサイズを識別するコピーサイズ信号発生回路を備えているのであるから、移動部材のサイズを表示するボタンに応じて設定時間の変更されるタイマを用いている後者のジヤム検出装置においても、引用例2のコピーサイズ信号発生回路に対応する手段を設けることにより、移動部材のサイズに応じてタイマの設定時間を自動的に変更するようにすることは、当業者が容易に為しえた構成の変更と認められる.<2>について、後者におけるジヤム検出装置は、充放電回路により時間が設定されるタイマを用いているが、このようなタイマに代え、引用例2のジヤム検出装置において用いられているパルスカウンタを利用したタイマを採用することは、当業者が容易に為しえた設計の変更と認められる。そして、引用例2に記載のものにおいては、感光ドラムの回転と同期したパルスを発生するクロツクパルス発生器の出力をカウントしているが、一般に、複写紙は、感光ドラムの周速と一致した速度で搬送される(例えば、引用例2の5頁右下欄7~11行参照)から、上記クロツクパルス発生器の出力は、複写紙の搬送速度に同期しているものと解することができる。従つて、前者において複写紙搬送用駆動モータの回転速度に同期したパルス信号を発生する手段を設けている点にも、格別技術上の創意は認められない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よつて、結論のとおり審決する。
平成1年11月16日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)