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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)160号 判決 1992年3月26日

愛媛県今治市大新田町五丁目三番四三号

原告

八潮工業株式会社

右代表者代表取締役

加藤正克

右訴訟代理人弁護士

牛田利治

白波瀬文夫

内藤早苗

同弁理士

池内寛幸

佐藤公博

東京都中央区銀座二丁目三番六号

被告

大倉船舶工業株式会社

右代表者代表取締役

村上辰夫

右訴訟代理人弁護士

渡邊敏

同弁理士

菊池武胤

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が平成一年審判第一八七七号事件について平成二年四月一六日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「捲取り式ハツチカバー」とする実用新案登録第一六八一七一一号(昭和五七年六月四日特許出願、昭和五九年一二月二四日実用新案登録出願に変更、昭和六一年一〇月二二日出願公告、昭和六二年五月二八日設定登録。以下これを「本件実用新案登録」といい、本件実用新案登録に係る考案を「本件考案」という。)の権利者である。

原告は、平成元年二月二日、被告を被請求人として本件実用新案登録の無効の審判を請求し、平成一年審判第一八七七号事件として審理されたが、平成二年四月一六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決かあり、その謄本は、同年七月四日、原告に送達された。

二  本件考案の要旨

夫々のカバーバネルを、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーバネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなることを特徴とする捲取り式ハツチカバー(別紙図面一参照)

三  審決の理由の要点(審決の取消事由に関しない部分省略)

1  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

2  本件考案は、その要旨とする構成によつて、明細書に記載された「捲取り軸16の上甲板17からの高さhを低くすることができた。その結果ハッチコーミング14の高さh'の高さも低くすることができただけではなく、カバーバネルの捲取り状態におけるスペースを小さくすることができた。」(明細書第七頁第一五行ないし第一九行)、「而も上記の通りハッチコーミングの高さを低くすることにより、その重量を軽減でき、それだけ船の横載量を増加することができる実用上の利点も有する。又コーミングを低くできたことにより、荷役用クレーンの運動量も少なくすることができ、時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることができる効果も有する。

加えて、本考案ハッチカバーのカバーバネルの形状によれば、カバーバネルの捲出し状態で、カバーバネルの部分において重なるところがなく、捲出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲き出した状態で容易に行い得る利点も有し、その効果多大なものがある。」(明細書第八頁第八行ないし第二〇行)等の効果を奏するものと認められる。

3  これに対して、請求人(原告)は、本件考案は、次の(1)ないし(3)のいずれかの理由により無効にされるべきであると主張する。

(1) 本件実用新案登録出願の出願変更前の原特許出願(昭和五七年特許願第九五八〇三号)の出願当初の明細書(以下「原明細書」という。)及び図面には、中間部の断面形状に関して、「中間部は断面台形形状に形成する」という記載しかなく、その余の形状についても記載はなく、その示唆すらないから、昭和五八年六月一〇日付手続補正書(甲第五号証。書証の番号は本件訴訟において付されたものである。)による手続補正(以下「本件補正」という。)は原明細書の要旨を変更するものであり、その後の出願変更された実用新案登録出願の出願日は原特許出願の出願の日まで遡及するものとは認められず、そうであれば、本件考案は、本件出願前に国内において頭布された甲第六号証(昭和五八年特許出願公開第二一一九八六号公報)、甲第一一号証(昭和五八年実用新案出願公開第一八六九九三号公報)又は甲第一二号証(カタログ「Rolling Hatoh Cover」YASIO INDUSTRIAL CO.LTD.)に記載された考案と同一のものであると認められ、結局、本件考案は、実用新案法第三条第一項第三号の規定により実用新案登録を受けることができず、同法第三七条第一項第一号に該当し、無効となるべきものである。

(2) 本件考案は、甲第一三号証(昭和四五年特許出願公告第三九七三八号公報)の平型鉄材37と隣の平型鉄材37との間に、単に従来周知の甲第八号証(昭和三六年特許出願公告第八二二六号公報)、甲第一四号証(昭和四三年実用新案出願公告第三四七二号公報)又は甲第一五号証(米国特許第三七一二二五八号明細書)に記載されているヒンヂ連結機構を採用し、捲取式に構成したにすぎない考案であるから、本件考案は、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができず、同法第三七条第一項第一号に該当し、無効となるべきものである。

(3) 本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書には、本件考案の目的、構成及び効果が容易に実施しうる程度に記載されていないから、本件実用新案登録の出願は、実用新案法第五条第三項に規定する要件をみたしておらず、本件考案は実用新案法第三七条第一項第三号により無効となるべきものである。

4  一方、被請求人(被告)は、それらの主張に対して、原明細書及び図面には「中間部の形状を台形形状にした」という記載があり、これは膨出した形状であることは明らかであるから、本件補正は原明細書の要旨を変更するものではなく、本件実用新案登録出願の出願日は原特許出願の出願の日まで遡及するものであることは当然であり、また、本件考案は、甲号各証に記載されたものとは、構成、作用効果を異にするものであるから、甲号各証のうちの特定のものとの組合せにより、あるいは甲号各証に記載されたものの総合によつても、当業者がきわめて容易に推考することができたものではないと答弁し、更には、請求人が明細書において記載上の不備があると主張するところは、本件考案の要旨外の当業者かいかようにでも設計変更できるものであるから、明細書の記載上の不備はないものと主張している。

5  請求人の引用した証拠には、それぞれ次のものが記載されている。

甲第一五号証(米国特許第三七一二二五八号明細書、一九七三年一月二三日発行)

「閉鎖部材26A、26Bをその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、その縁に続く部分の上面を膨出した台形形状に形成し、下面にはハッチ壁に設けられた孔35に係合自在の突起29を設け、隣接する閉鎖部材の台形形状部分の端部をヒンジ連結し、ハッチ開口上を捲き上げていくようにした船舶用捲き上げ式開閉装置一(別紙図面二参照)

甲第八号証(昭和三六年実用新案出願公告第八二二六号公報)、第一四号証(昭和四三年実用新案出願公告第三四七二号公報)

「各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の縁をヒンジ連結した捲取り捲出し自在の捲取機をコーミング前端外側に有する捲取り式ハッチカバー」(甲第八号証につき別紙図面三、甲第一四号証につき別紙図面四参照)

甲第六号証(昭和五八年特許出願公開第二一一九八六号公報)、甲第一一号証(昭和五八年実用新案出願公開第一八六九九三号公報)及び甲第一二号証(カタログ「Rolling Hatoh Cover」YASIO INDUSTRIAL Co. LTD.)

「夫々のカバーパネルをその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンジ連結した捲取り式ハッチカバー」

甲第一三号証(昭和四五年特許出願公告第三九七三八号公報)

「夫々のカバーパネルを、その捲取り側及び捲出し側に、それぞれ捲取り側には捲出し側のガスケットに係合する補強山型鉄材で保持された平型鉄材からなる張り出し縁を、捲出し側には外側面の空所内にガスケットを嵌め込んだ山形樹よりなる張り出し縁とを有するように構成し、これら張り出し縁間の中間部を台形形状に形成した開放空間を閉鎖するためのカバー装置」(別紙図面五参照)

甲第一六号証の一(八潮工業株式会社技術設計課長作成の「実験証明書」)

「本件考案の追試実験によつて甲板からカバーパネルの捲取り軸までの高さを従来のものより低くできないことを証明したもの」

6  そこで、請求人の主張する無効理由について検討する。

(一) (1)の無効理由について

請求人は、原明細書及び図面には、「中間部は断面台形形状に形成し」という記載しかなく、また実用新案登録請求の範囲の第一項、第三項及び第四項の部分は、本件補正によつて補正されたものであるから、その補正事項は原明細書の要旨を変更するものであると主張するが、原明細書には、「夫々のバネルは、その捲出し側に張り出し縁12を、又捲取り側にも張り出し縁12'を有し、これら張り出し縁12、12'間の中間部18を断面台形形状に形成してある。」(明細書第三頁第一一行ないし第一四行)という記載があり、それに対応する記載として、別紙図面一の第3図に各カバーパネル11の張り出し縁12、12'及び断面台形形状の中間部18が示されている。そして、その中間部の断面が台形形状をなしていることは膨出した形状であることを表しており、その表現は台形形状の上位概念の表すものであつて、しかも、本件補正による特許請求の範囲の中間部の形状を断面略半円形形状及び断面略矩形形状のそれぞれとする実施態様項の補正は中間部の膨出した形状の下位概念の形状を追加したものにすぎないから、結局、本件補正は、原明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであつて、原明細書の要旨を変更するものとは認められない。

してみると、本件考案に係る出願の出願日について実用新案法第九条において準用する特許法第四〇条の規定は適用されず、甲第六号証、甲第一一号証及び甲第一二号証は本件考案の出願前に出願公開等がされたものであるから、本件考案は実用新案法第三条第一項第三号の規定に該当し実用新案登録を受けることができず、無効にされるべきであるという請求人の主張は理由がない。

(二) (2)の無効理由について

本件考案と甲第一三号証、甲第一五号証、甲第八号証、甲第一四号証に記載されたものと、一括して対比すると、本件考案と右各証拠に記載されたものとは、甲第一三号証に記載されたものが、夫々のカバーパネルをその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成した点で、また甲第一五号証に記載されたものが、それぞれの閉鎖部材のその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これらの張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成し、隣接する閉鎖部材をヒンジ連結した点で、甲第八号証及び甲第一四号証に記載されたものが、従来周知の単なる連続するハッチカバーを捲取り捲出し自在とした捲取機をコーミング終端の外側に有する点で、それぞれ、本件考案と一致するが、甲第一三号証に記載されたものは、夫々のカバーパネルの捲取り側及び捲出し側に特殊な形状の張り出し縁を有するものであり、かつ、このカバーパネルは元来ヒンジ連結する構造になつていない点で、また、甲第一五号証に記載されたものは閉鎖部材の下面にはハッチ壁に設けられた孔に係合自在の突起を設け、しかも、閉鎖部材はハッチ開口上を捲き上げていくようにした点で、更に、甲第八号証及び甲第一四号証に記載されたものはカバーパネルの具体的構成を異にしている点でそれぞれ本件考案と相違し、その相違点によつては、前記の本件考案による効果を奏するものとは認められないから、たとえ、甲第一三号証に記載されたものに従来周知の甲第一五号証、甲第八号証あるいは甲第一四号証に記載されたものを適用しても、本件考案によつてもたらされるような効果を期待することができるものとは認められず、結局、本件考案は、以上の証拠に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえないものである。

(三) (3)の無効理由について

本件考案は、別紙図面一の第4図に示すとおり、<1>連結アーム部材33の長さXが比較的長く、外側に飛び出し、回転半径が大きくなること、及び<2>主ヒンジ部材21の厚さYが厚く、コンパクトな捲上げができないから、本件考案を忠実に追試しても甲板からカバーパネルの捲き取り軸までの高さを従来のものの高さより低くできないか、若しくは同程度の高さのものしかできないという点について検討すると、

これについては、被請求人も主張しているように、この連結アーム部材33及びヒンジ部材21は本件考案を構成する要件とは直接関係なく、それらは、設計に際して、本件考案の目的あるいは効果を達成できるように、いかようにも変更できるものであるから、その点をもつて、本件考案の目的、構成、効果が当業者が容易に実施しうる程度に記載されていないとはいえないものである。

6  以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠によつては本件実用新案登録を無効とすることはできない。

四  審決の取消事由

審決の本件考案の要旨の認定及び甲号各証に審決認定の技術内容が記載されていることは認めるが、原告主張の本件実用新案登録の無効理由に対する審決の判断は争う。

審決は、(1)ないし(3)の無効理由に対する判断を誤り、もつて本件実用新案登録は無効とはならないと誤つて判断したもので、違法であるから、取消しを免れない。

1  (1)の無効理由について

本件補正は原明細書の要旨を変更するもので、本件実用新案登録出願の出願日は原特特許出願の出願日まで遡及するものではないにもかかわらす、審決は本件補正は原明細書の要旨を変更するものではなく、本件実用新案登録出願の出願日は原特許出願の出願日まで遡及するものとして、原告提出の甲号各証により本件考案の新規性を否定しなかつたもので、違法である。

すなわち、原明細書の特許請求の範囲においては、カバーパネルの張り出し縁につき「中間部を断面台形形状に形成し一と記載しており、原明細書の発明の詳細な説明欄や図面にも、台形以外の断面形状については全く記載されておらす、示唆もされていなかつた。

しかるに、被告は、本件補正により、特許請求の範囲の請求項におけるカバーパネルの張り出し縁につき「中間部を膨出した形状に形成し」(第一項)と変更するとともに、「中間部の形状を断面略半円形形状に形成し」(第三項)、「中間部の形状を断面略矩形形状に形成し」(第四項)とする実施態様項を設けたものである。

右補正後の「膨出した形状」は、「略半円形形状」、「略矩形形状」などを含む広い範囲のものであつて、当初の一台形形状一とは異なるものであり、カバーパネルの断面形状が「台形一であるか広い範囲の「膨出した形状」であるかは、カバーパネルの機能に少なからぬ影響を及ぼすものであるから、右補正後の「膨出した形状」は、原明細書又は図面に記載された事項とはいえず、また、その記載から自明である事項ともいえない。

この点につき、審決は、膨出した形状は台形形状の上位概念であり、断面略半円形形状、断面略矩形形状は膨出した形状の下位概念であるから要旨変更にならないとするが、上位概念、下位概念への変更も基本的には要旨変更になるものである。

そして、原明細書に「公知の捲取り式ハツチカバーは、各カバーパネル1、1・・・・が断面コ字形状をしていた為、これらカバーパネルを捲き取つた状態で、カバーパネル1の折曲角部1の捲取り軸6からの距離が長くなり(中略)。本発明は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによつてハツチコーミングの高さも低くすることを目的としてなしたものである。一(第二頁第七行ないし第三頁第一行)、「これら張り出し縁の中間部を断面台形形状に形成されているから、公知の断面コ字形状をしたカバーパネル1の折曲角部1'に相当する部分がなく、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。一(第五頁末行ないし第六頁第四行)と記載されているように、カバーパネルの張り出し縁の中間部を従来の断面コ字形状から断面台形形状とすることにより、その目的、効果を達成する明確に記載されており、右記載に、本件考案の実用新案登録請求の範囲第一項の「膨出した形状」、同第三項の「断面略半円形形状」及び第四項の「断面略矩形形状」という概念が含まれる余地はない。

したがつて、本件補正は、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」(特許法第四一条)特許請求の範囲を増減、変更するものとはいえないから、本件補正は、原明細書の要旨を変更するものである。

そして、被告は、要旨変更となる補正後のものと同内容の記載をもつて実用新案登録請求の範囲として出願の変更をしたものであるが、このように出願変更に係る実用新案登録出願が原特許出願の最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲外の事項を要旨としている場合は、出願変更にあたつて出願の同一性がないことに帰するので、適法な出願変更の場合のように出願日の過及(実用新案法第八条第三項)は認められず、変更に係る実用新案登録出願日たる昭和五九年一二月二四日が出願日となる。

したがつて、本件考案は、右出願日より前に国内において頒布された甲第六号証、第一一号証及び第一二号証の記載された発明等と同一となるものであるから、実用新案法第三条第一項第三号により実用新案登録を受けることができず、同法第三七条第一項第一号により無効となるものである。

2  (2)の無効理由について

本件考案は、その出願前に発行された刊行物である甲第一三号証(昭和四五年特許出願公告第三九七三八号公報)、甲第一四号証(昭和四三年実用新案出願公告第三四七二号公報)、甲第八号証(昭和三六年特許出願公告第八二二六号公報)及び甲第一五号証(米国特許第三七一二二五八号明細書)から当業者がきわめて容易になしえた考案であるにもかかわらず、審決がこれを否定し、本件考案を無効としなかつたのは違法である。

甲第一三号証の発明は、船舶のハッチカバーに関するものである(公報第一欄第三〇行ないし第三三行)。そして、別紙図面五の第10図及び第11図並びに公報の発明の群細な説明の欄(第五欄第二八行ないし第六欄第七行)の記載によれば、両図の33は屋根を形成している金属薄板、31、32は傾斜桁材であり、ハッチカバーの主要部材は、本件考案と同じく中央が膨出した台形形状となつている。そして、37は平型鉄材であり、中央が膨出した台形形状の両側に存在している。したがつて、本件考案のカバーバネルが捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、張り出し縁間の中間部を膨出した台形形状にするという構成が示されている。

また、甲第一四号証の考案のように片側に張り出し縁を有する捲取り式ハツチカバーは従来より周知である。このことは、本件考案に係る実用新案出願公告公報(甲第二号証)第二欄第二行ないし第七行からも明らかである。

甲第一五号証の発明は、船舶のハツチ構造に関する堅固な密閉蓋のための捲上げ式閉鎖機である。別紙図面二の第2図によれば、閉鎖要素26A、26Bのそれぞれの中間部は膨出した形状(台形形状)に形成され、その膨出した中間部の両側の捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンジ連結してなる構造が示されている。そして、ヒンジ連結の具体例も同第6図ないし第8図に示されている。

甲第一五号証の発明と本件考案と対比すると、甲第一五号証の発明は、ハツチカバーの上の両端部に載せる閉鎖要素であるのに対して、本件考案は、ハツチカバーである点が異なるだけで、その余の構成要件は全て同一である。

そうすると、本件考案は、捲取り式ハツチカバーの技術において、甲第一四号証によつて公知であり、かつ、本件考案の明細書及び図面で公知例として明らかにしている片側張り出し縁タイプに代えて、単に甲第一三号証の両側張り出し縁タィプを置き換えたにすぎない考案である。しかも、甲第一五号証の閉鎖要素は、ハツチカバーと隣合わせの部材であり、甲第一五号証の閉鎖要素の形状、構造をハツチカバー自体に転用することは、当業者であればきわめて容易になしうることである。加えて、捲取り軸及びハツチコーミングの高さを低くすることができるという本件考案の効果も、甲第一五号証の前記第2図及び甲第八号証の別紙図面三第4図(この場合は、本件考案の主ヒンジ21が不要であるから、本件考案の公報の第4図のように角の部分に外に飛び出す部材がない。)をみれば自明のことである。

それにもかかわらず、審決は、甲号各証の発明等は、本件考案とはカバーパネルの具体的構成を異にし、作用効果も別異のものであるとして、本件考案の進歩性を肯定したもので、誤りである。

3  (3)の無効理由について

本件考案の明細書には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、構成及び効果が記載されていない。したがつて、本件実用新案登録は、実用新案法第五条第三項の規定に違反し、同法第三七条第一項第三号により無効とされるべきものであるにもかかわらず、審決はこれを無効としなかつたもので、誤りである。

本件考案の目的、効果は、甲板からカバーパネルの捲取り軸までの高さを低くすることにある。

しかし、本件考案を忠実に追試しても、甲板からカバーパネルの捲取り軸までの高さを従来技術(たとえば甲第一四号証の考案)より低くすることは不可能である。

その理由は、<1>連結アーム部材33の長さXが長くならざるをえす、これが外側に飛び出し、回転半径が大きくなること、及び<2>主ヒンジ部材21の厚さYが必然的に厚くなり、コンパクトな捲き上げができないことによる。

<1>は、カバーパネルの開閉時(作動時)、カバーパネルが宙に浮くので、このときカバーパネルが逆折れしないようにするため、連結アームの長さを長くせざるをえないことによる。<2>は、主ヒンジ部材21の厚さYを厚くしてヵバーパネルの自重がかかつても逆折れしないようにするためである。

このことは実験証明書(甲第一六号証の一)からも明らかである。

本件考案の忠実な追試結果である実験番号1、2は、甲板上からのカバーパネルの捲取り軸の中心位置までの高さがいずれも二〇九四mmであるのに対し、同一条件の従来技術である実験番号3の甲板上からカバーパネルの捲取り軸の高さは一九四一mmであり、本件考案の方が、捲取り軸の中心位置までの高さHは高いものとなつた。このことは、捲取つたとき、本件考案の方が従来技術のものより嵩高いことを意味する。すなわち、本件考案の目的、効果を達成することができないものである。

更に、実験番号4の結果から明らかなとおり、本件考案の権利者である被告自身の実施品においては、甲板上からカバーパネルの捲取り軸の中心位置までの高さは二一〇〇mmであるのに対し、同一条件の従来技術である実験番号5の甲板上からカバーパネルの捲取り軸の中心位置までの高さは一八七五mmであり、被告ですら実際の実施(実験番号4)においては、同一条件の従来技術(実験番号5)の捲取り軸の中心位置までの高さHよりも高いものを実施しており、本件考案の目的、効果を達成できないのである。この状態は現在に至るまで継続しており、被告は、無効審判が開始されてから現在に至るまで、嵩低く捲けることを主張するのみで、何ら実証をなしえなかつた。

また、本件考案の明細書の実施例に、具体的数値を用いて、従来例と比較してどれだけ捲取り軸の中心位置までの高さHを低くできたのか、具体的効果を開示していない。本件考案は、当業者は勿論、被告自身ですらも明細書に記載したとおりの効果を運成するような実施ができない考案である。

この点について、審決は、連結アーム部材及び主ヒンジ部材は本件考案を構成する要件とは直接関係がなく、それらは設計に際して、本件考案の目的あるいは効果を達成できるようにいかようにでも変更できるものであるとして、明細書の記載不備とはいえないとする。

しかし、本件考案は、当業者は勿論、被告自身も、現在に至るまで、目的、効果を達成できていない考案なのである。現に被告は、かかる点について有効な実証活動をなしえていないのである。したがつて、審決の右判断は誤りであるといわざるを得ない。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告の主張する違法はない。

1  (1)の無効理由について

原告は、審決が、本件補正は原明細書の要旨を変更するものではないと判断し、よつて本件考案の新規性を肯定したことの誤りをいう。

明細書の要旨の変更とは、明細書を補正した結果、特許請求の範囲(実用新案登録請求の範囲)に記載した技術的事項が出願当初の明細書に記載した事項の範囲外になることをいうのであるが、その明細書に記載した事項とは、その事項を直接表現する記載が明細書にない場合であつても、出願時において当業者が出願当初の明細書に記載されている技術的内容からみて、記載してあつたと認めることができる程度に自明な事項を含むと解される。

そして、原明細書には、「上記した公知の捲取り式ハツチカバーは、各カバーパネル1、1・・・・が断面コ字形状をしていた為、これらカバーパネルを捲き取つた状態で、カバーパネル1の折曲角部1'の捲取り軸6からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸6の上甲板7からの高さHがある程度必要となつていた。」(第二頁第七行ないし第一二行)、「本発明は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによつてハツチコーミングの高さも低くすることを目的としたものである。」(第二頁第一八行ないし第三頁第一行)、「而して本発明ハツチカバーが捲取り軸16に捲取られた状態では、各力バーパネル11、11がその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12'を有し、これらは張り出し縁間の中間部を断面台形形状に形成されているから、公知の断面コ字形状をしたカバーパネル1の折曲角部1'に相当する部分がなく、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。即ち、第2図と第4図を比較して明らかなように、公知のハツチカバーの捲取り軸6から最も距離の長い位置に位置する折曲角部1'に相当する郡分が中間台形部18と張り出し縁12、12'の構成により逆に除去された形態となつたから、捲き取られたカバーパネルの捲取り軸16を中心とする径を短くすることができた一(第五頁第一七行ないし第六頁第一一行)と記載されており、第3図、第4図、第8図、第9図には、中間台形部18が図示されているが、その上辺と両斜面との間がRが付されており、図面上Rは必ずしも一定の形状ではない。そして、第3図の左から一〇番目のカバーパネル11は、半円形形状に近い形態である。

右の記載からすると、折曲角部1'に相当する部分が除去されたことと、張り出し縁間の中間部を膨出した形状にしたこととは、裏腹の関係にあるものである。即ち、折曲角部1'に相当する部分を除去すれば、当然のことながら、除去されない中間部分は、除去された部分との関係で「膨出形状」になるのである。本件考案では、張り出し縁をカバーパネルの両側に設けたことにより、折曲角郡1'に相当する部分が除去されており、除去されない中間部分は、張り出し縁12、12'との関係により、膨出することとなるのである。

したがつて、本件考案の張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成した点は、原明細書に直接的記載はないが、間接的記載があるので、原明細書から自明の事実である。

そして、実用新案登録請求の範囲第三項の「断面略半円形形状」については、「膨出形状」の一部であり、前述のカバーパネル11の中間台形部の上辺と両斜面との間についているR部の形状を変更することは適宜設計変更が可能な事項であることは自明のことである。そして、別紙図面六(これは、別紙図面一の3図の左から一〇番目のカバーパネル11を記載したものである。)の中間台形部18の上辺の両端のR部に対して図示の中心点Cから描いた半円Hを重ねると、前記R部を大きくすることにより、該中間部は略半円形形状になる。

このように、中間台形部18の上辺の両端のR部を大きくすることにより、略半円形形状になることは、当業者でなくても自明のことである。

したがつて、「断面略半円形形状」についても原明細書に記載があつたのと同視することができる。

また、「断面略矩形形状一とした点については、原明細書でも「中間部を断面台形形状一と記載していたが、「台形形状」の意義は、厳密な意味で台形に限らず、略台形も含まれるように使用される。そして、台形でも、底辺と上辺の差がこく僅かなものは、「略矩形形状」となることは当業者でなくとも自明な事項である。

したがつて、「断面略矩形形状」についても原明細書に記載があつったのと同視することができる。

以上のとおり、出願変更に係る本件実用新案登録出願は、原明細書及び図面に記載した専項の範囲内の事項を要旨とするもので、出願変更にあたつて同一性があるものであり、原告の主張は理由がない。

2  (2)の無効理由について

原告は、本件考案は、甲第一三号証ないし第一五号証及び甲第八号証からきわめて容易に考案をすることができるものではないとした審決の判断を誤りとする。

しかし、甲第一三号証の発明のハツチカバーは台形であるが、本件考案のように捲取り側及び捲出し側に張り出し縁としての機能を有する技術的手段はない。

同号証には、「傾斜桁材31、32の基部は補強山型鉄材38を伴うか又は伴わない平型鉄材37からなる。桁材31の外側面に装架された出型材39が形成する空所内にゴム又は類似のガスケツト40を嵌め込んだものからなる水封装置が設けられている。隣接するカパー区分の基部は突出部材41を形成され、この突出部材は隣接カバー区分の基部37上のガスケツト受け空所の側辺42およびガスケツトと係合する。」(公報第五欄第四四行ないし第六欄第七行)との記載があり、桁材31の外側面には、平型鉄材37と山型材39との組合せからなる雄係合部材が設けられ、桁材32の外側面には、突出部材41が形成され雌係合部を形成している。

このように、甲第一三号証の発明でば、張り出し椽はあるものの、辱ら雄雌係合のためのものであり、しかも、桁材31の外側面の山型材39は、突出部材41より、更に桁材32側まで張り出しており、本件考案の構成とは著しく異なるのである。したがつて、甲第一三号証の発明には、本件考案の捲取り側及び捲出し側に張り出し縁の構成があるとする原告の主張は理由かない。

そして、より根本的には、甲第一三号証の発明は、本件考案のように捲取り式ハツチカバーを取納するものではなく、横置きタイプのものであつて、構成が著しく異なるのであり、到底本件考案に転用することはできないものである。

甲第一四号証の別紙図面四の第5図、第6図では、ハツチカバーAの垂直部分から下方が隣のハツチカバーの方に張り出しているが、この考案の張り出し部分は、該部分を設けることにより、本件考案のように、従来の折曲角部1'に相当する部分が除去された形態にはなつておらず、本件考案の張り出し縁と機能面では全く異質のものである。甲第一四号証の考案の張り出し部分は、ハツチカバーを捲き取つた時に、カバーパネルがある程度の角度以上に曲がるのを防ぐ役割があると思われる。

原告は、甲第一四号証の考案の張り出し縁をもつて単純に片側張り出し縁タイプのものとしているか、本件考案の張り出し縁とは機能が異なるものである。

甲第一五号証の発明はハツチカバーに関するものではなく、ハツチカバーの両端部の連結要素に関するものである。

そして、連結要素26A、26Bには、本件考案と類似した構成があるが、連結要素26Bの右側の連結要素は、両端部につの膨出した形状のものが設けられており、中、間部に膨出した形状のものが設けられているものではない。このような連結要素は、第2図中にかなり有り、このことは、連結要素の膨出部か、捲き取られた連結要素の捲取り軸を中心とする径を短くすることを全く考えていないことを示している。

したがつて、甲第一五号証の発明の技術的思想には、本件考案のように、折曲角部1'を除去して、捲取り軸からの径を短くするというような技術的思想がないものである。

以上のことから、本件考案は、右甲号各証の発明等からきわめて容易に考案をすることができたとする原告の主張が理由のないことは明らかである。

3  (3)の無効理由について

原告は、実験証明書(甲第一六号の一)で証明するとおり、本件考案の目的、効果が達成されない旨主張するが、原告が主張する各実験は、カバーパネルの幄、膨出部の高さ、捲取り軸の高さ、ハツチコーミングの高さ、原告主張の連詰アーム部材の長さ、主ヒンジ部材の厚さ、あるいは、船のテツキの中心のレベルと捲取り軸の架台付近のレベルの違い(上甲板の中心のレベルの万が、舷側のレベルよりかなり高く設計されている。)等の諸条件が異なつているのを無視して、ただ数値だけを比較しているにすぎないのであり、その実験結果の信用性は乏しい。

審決が説示しているように、連結アーム部材及び主ヒンジ部材は本件考案を構成する要件とは直接関係なく、それらは、設計に際して、本件考案の目的あるいは効果を達成できるようにいかようにも変更できるものであるから、実験証明書をもつて、本件考案の目的、効果が当業者に容易に実施しうる程度に記載されていないとはいえないのである。

また、原告は、本件考案の明細書には従来例と比較してどの位甲板から捲取り軸の中心位置までの高さを低くすることができたのか具体的に示していない旨主張する。しかし、考案とは技術的思想であり、その効果も観念的に理解できる程度のものであれば足りるのであるから、原告の主張は失当である。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決の取消事由の有無について判断する。

一  成立に争いのない甲第二号証(実用新案出願公告公報)によれは、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は以下のようなものであることを認めることができる。

1  技術的課題(目的)

本件考案は、捲取り軸及びハツチコーミングの高さを低くした新規な捲取り式ハツチカバーに関する(公報第一欄第一九行ないし第二一行)。

多数のカバーパネルをヒンヂ連結し、これを捲取り軸に捲取ることによつて格納するようにしたハツチカバーは公知である。この公知のハツチカバーは、別紙図面一の第1図及び第2図に示すとおり、断面コ字形状をし、かつ、捲出し側に張り出し縁2を有する多数のカバーパネル1、1・・・・をヒンヂ3、3・・・・によつて連結し、この一端をハツチコーミング4の一端に臨ませて固定した架台5上の捲取り軸6に運結したものである。そして多数連結したカバーパネル1、1・・・・を捲取り軸6に捲取ることによつてハツチを開放し、捲取り軸からコーミング4上にカバーパネル1、1・・・・を捲出すことによつてハツチを閉じるようにしたものである(同欄第二三行ないし第二欄第一一行)。

前記の公知の捲取り式ハツチカバーは、各カバーパネル1、1・・・・が断面コ字形状をしていたため、これらカバーパネルを捲取つた状態で、カバーパネル1の折曲角部1'の捲取り軸6からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸6の上甲板7からの高さHがある程度必要となつていた。そして、この捲取り軸6の高さに応じてハツチコーミング4の高さHも高くしなければならなかつた。その結果、カバーバネルの捲取り時において、大きい収納スベースが必要であつた。更に、公知のカバーパネルの形状が断面コ字形状をしていたため、カバーパネルの閉状態における重心位置も高くなつていた(同機一三行ないし第三欄初行)。

本件考案は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによつてハツチコーミンダの高さも低くすることを目的とするものである(同欄第二行ないし第五行)。

2  構成

本件考案においては、前記の技術的課題(目的)を達成するために本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲第一項)の構成を採用した(公報第一欄第二行ないし第七行、第三欄第八行ないし第一三行)。

以下、好ましい実施例により本件考案の詳細について説明する。

別紙図面一第3図中11、11がカバーパネルで、夫々のパネルはその捲出し側に張り出し縁12を、捲取り側に張り出し縁12'を有し、これら張り出し縁12、12'間の中間部18を膨出した形状にしてある。この膨出した中間部の形状は、図に示しているような断面台形形状に限られることなく、断面半円形形状あるいは断面矩形形状であつてもよく、また、カバーパネルはその中間部18と張り出し縁12、12'とを一枚板によつて構成してもよいし、格別の板材を用いてこれらを溶接等の手段により固着して一体化したものでもよい。そして、各カバーパネルは、各隣接するカバーパネル11、11の捲取り側及び捲出し側の張り出し縁12、12'を突き合わせてヒンヂ連結13、13をしてある。この多数ヒンヂ連結したカバーパネルは、公知のカバーパネルと同様、一端を上甲板17上に固設した架台15に支持した捲取り軸16に捲取るようにしてあり、ハツチコーミング14上に捲出すようにしてあるものである(第三欄第一五行ないし第三七行)。

3  作用効果

本件考案の構成によれば、ハツチカバーが捲取り軸16に捲き取られた状態では、各カバーパネル11、11が、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12'を有し、これら張り出し縁間の中間部を膨出した形状に形成されているから、公知の断面コ字形状をしたカバーパネル1の折曲角部1'に相当する部分がなく、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。したがつて、捲取り軸16の上甲板17からの高さhを低くすることができた。その結果、ハッチコーミング14の高さh'の高さも低くすることができただけでなく、カバーパネルの捲取り状態における格納スペースを小さくすることができた。しかも、カバーパネルの形状を中間部18の両端に張り出し縁12、12'を形成したものとした結果、捲出し水平位置におけるカバーパネルの重心位置を公知のカバーパネルより低い位置とすることができた。したがつて、ハツチコーミング及びカバーパネルの全体の重心位置を低くすることができ、それだけ船体重心も低下することができ、安全性の向上に役立ち得た大きな利点を有する。

しかも、前記のとおりハツチコーミングの高さを低くすることにより、その重量を軽減でき、それだけ船の積載量を増加することができる実用上の利点も有する。また、ハツチコーミングを低くできたことにより、荷役用クレーンの運動量も少なくすることができ、時間的損失を減少し、荷役効率を上昇させることもできる効果も有する。

加えて、本件考案のカバーパネルの形状によれば、カバーパネルの捲出し状態で、カバーパネルの部分において重なるところがなぐ、捲き出した状態で各部の点検を容易とし、塗装等の保守も捲出し状態で容易に行え得る利点も有し、その効果多大なものがある(公報第四欄第二八行ないし第六欄第四行)。

二  (1)の無効理由について

原告は、本件補正は原明細書の要旨を変更するものであるにもかかわらず、審決がこれを否定し、本件実用新案登録の出願日が原特許出願の出願日まで遡及するとして、本件考案の新規性を認めたことの誤りをいう。

1  成立に争いのない甲第四号証(原明細書及び図面)、甲第五号証(手続補正書)及び甲第七号証(本件実用新案登録願書)によると、原明細書の特許請求の範囲は「夫々のカバーパネルを、その捲取り側及び捲出し側に張り出し緑を有し、これら張り出し縁の中間部を断面台形形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなることを特徴とする捲取り式ハツチカバー」と記載されており、発明の詳細な説明の欄や図面において断面台形形状以外の形状のカバーパネルの記載は存しないこと、本件補正により、特許請求の範囲を「(1)夫々のカバーパネルを、その捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し、これら張り出し縁の中間部を膨出した形状に形成し、各隣接するカバーパネルの捲取り側及び捲出し側の張り出し縁をヒンヂ連結してなることを特徴とする捲取り式ハッチカバー、(2)上記中間部の形状を断面略台形形状に形成した特許請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハツチカバー、(3)上記中間部の形状を断面略半円形形状に形成した特許請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハッチカバー、(4)上記中間部の形状を断面略矩形形状に形成した特許請求の範囲(1)に記載の捲取り式ハッチカバー」と補正し、発明の詳細な説明欄の「断面略台形形状」とある部分を「膨出した形状」と訂正し、「図面に示した実施例では、この膨出した中間部18の形状を断面台形形状としてあるが、この形状は、必すしも断面台形形状に限られることなく、断面半円形形状、あるいは断面矩形形状であつてもよい一旨の記載を加えたものであること、被告は、昭和五九年一二月二四日付けをもつて、実用新案法第八条第一項の規定に基づき、右補正後の明細書と図面(図面目体に補正はない。)と同一内容の明細書及び図面をもつて本件実用新案登録願に出願変更したものであることを認めることかできる。

2  原告は、本件補正は、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において一特許請求の範囲を増減、変更するものとはいえないので、原明細書の要旨を変更するものであり、被告は本件補正と同内容の記載をもつて実用新案登録請求の範囲として出願の変更をしたものであるから、出願日遡及の効果は認められないと主張する。

変更出願が適法に行われ、実用新案法第八条第三項の規定する出願日の遡及効が認められるためには、変更出願にかかる考案の構成が原特許出願の最初に添付した明細書及び図面に記載されているか、その記載事項から当業者に自明であることを必要とするところ、原明細書には断面台形形状のカバーパネル以外の形状のカバーパネルが記載されていないことは前述のとおりであり、中間部を膨出した形状は断面台形形状の上位概念に当たることは当事者間に争いがない。

そこで、カバーパネルの形状を断面台形形状以外の中間部を膨出した形状とすることが原明細書及び図面の記載事項から当業者に自明であるかについて検討する。

前掲甲第四号証によれば、原明細書には、次の記載があることが認めることができる。

「多数のカバーパネルをヒンヂ連結し、これを捲取り軸に捲取ることによつて格納するようにしたハツチカバーは公知である。(略)公知の捲取り式ハツチカバーは、各カバーパネル1、1・・・・が断面コ字形状をしていた為、これらカバーパネルを捲取つた状態で、カバーパネル1の折曲角部1'の捲取り軸6からの距離が長くなり、それだけ捲取り軸6の上甲板7からの高さHかある程度必要になつていた。そしてこの捲取り軸6の高さHの高さに応じてハッチコーミング4の高さH'も高くしなければならなかつた。更に公知のカバーパネルの形状が前記したとなり断面コ字形状をしていた為、カバーパネルの閉状態における重心位置も高くなつていた。

本発明は、カバーパネルの断面形状に工夫をし、捲取り軸の上甲板からの高さを低くすることを可能とし、それによつてハツチコーミングの高さも低くすることを目的としてなしたものである。」(第一頁第一四行ないし第三頁初行)

「図中11、11・・・・が本発明の特徴をなすカバーパネルで、夫々のパネルは、その捲出し側に張り出し縁12を、又捲取り側にも張り出し縁12'を有し、これら張り出し縁12、12'間の中間部18を断面台形形状にしてある。そしてこれら各カバーパネルは、各隣接するカバーパネル11、11の捲取り側及び捲出し側の張り出し縁12、12'を突き合わせてヒンヂ連結13、13してある。そしてこの多数のヒンジ連結したカバーパネルは、公知のカバーパネル同様、一端を上甲板17上に固設した架台15に支持した捲取り軸16に捲取るようにしてあり、同様にハツチコーミング14上に捲出すようにしてある」(同第三頁第一〇行ないし第四頁第二行)

「本発明ハツチカバーが捲取り軸16に捲取られた状態では、各カバーパネル11、11がその捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12'を有し、これら張り出し縁間の中間部を断面台形形状に形放されているから、公知の断面コ字形状をしたカバーパネル1の折曲角部1'に相当する部分がなく、捲取り軸16からの距離を短くすることができた。即ち、第2図と第4図を比較して明らかなように、公知のハツチカバーの捲取り軸6から最も距離の長い位置に位置する前記折曲角部1'に相当する部分が中間台形部18と張り出し縁12、12'の構成により逆に除去された形態となつたから、捲取られたカバーパネルの捲取り軸16を中心とする径を短くすることができた」(同第五頁第一七行ないし第六頁第一一行)

そこで、まず、中間部を「膨出した形状」とした点について判断する。

前記の原明細書の記載からすると、原明細書におけるカバーパネルは、捲取り側及び捲出し側に張り出し縁12、12'を有し、これら張り出し縁間の中間部を断面台形形状に構成されているもの、すなわち張り出し縁12、12'を平面とすれは、その中間部の台形形状部分はその平面に対して一方向に突出して膨らんだ形状になり、中間部の断面台形形状の部分は張り出し縁12、12'に対して「膨出した形状」になつているものである。

そして、原明細書及び図面に記載された前記技術的事項は、カバーパネルの捲出し側及び捲取り側の双方に張り出し縁を設け(これによつて中間部が膨出した形状になる)、膨出した中間部の形状を、その上辺部が下辺部よりも短くなるような形状のものとして、従来から公知の断面コ字形状のカバーパネルの折曲角部を取り除くことにより、捲取り軸に捲取つた場合の捲取り軸の中心からの距離を短くすることにあるものであり、当業者であれば、断面台形形状のものもそのような効果を果たす膨出した形状のものとして採用されていたものと理解することができるのであるから、カバーパネルを中間部が膨出した形状の構成とすればよく、必ずしも断面台形形状のものに限らないことは原明細書及び図面の記載事項から自明ということができる。

したがつて、中間部の断面形状は、台形形状にしなければならないものでなく、台形形状以外の形状であつても、張り出し緑を設け(これにより膨出部分がパネルの中央に寄ることになる。)、従来のパネルの断面コ字形状の折曲角部を取り除き、その新たな折曲角部その他中間部の捲取り軸からの距離が最も長い位置にある部分(矩形形状の場合では折曲角部、半円形形状の場合ではその外周の中心点)が従前の断面コ字形状のパネルの折曲角部よりカバーパネルの中心側に寄つた形状のものであれば差し支えないことは原明細書及び図面の記載から自明のこととして予測することができる。

そして、断面台形形状のものは、従前の断面コ字形状のパネルの折曲角部を除去するについてその角部を直線状に除去したものであるのに対し、断面略半円形形状のものはその角部を曲線状に除去したものであつて、その角部を直線状に除去するか曲線状に除去するかは、カバーパネルの強度等に影響はあつても、捲取り軸からの距離を短くするという観点からは技術的に格別の意味のある相違ではない。

以上のことからすれば、当業者には、原明細書及び図面の記載から、カバーパネルの中間部の断面形状を「略半円形形状」とすることは自明のこととして予測できるものである。

以上述べたことは、中間部が断面略矩形形状のものにもそのままあてはまる。すなわち、断面略矩形形状は、正確には長方形あるいは正方形のような矩形とはいえないが、対向する辺の長さがほぼ等しく、長方形や正方形に近い形をいうものである。徒来の断面コ字形状(これは矩形である)の折曲角部を除去する方法として両側に張り出し縁を設ければ、それだけで膨出部分がカバーパネルの中央に寄り、新たな折曲角部の位置は捲取り軸に近づくものである。したがつて、中間部の形状を「略矩形形状」としても(折曲角部は正確には直角をなさない。)、捲取り軸からの距離を短くすることができることは明白であり、断面を台形形状のものとするか、略矩形形状のもの(台形形状でも上辺と下辺の長さの差がわずかなものは、略矩形形状のものとなる。)とするか技術的に格別の差異があるものではない。

以上のことからすれば、当業者には、原明細書及び図面の記載から、カバーパネルの中間部の断面形状を「略矩形形状」とすることは自明のこととして予測できるものである。

以上のことからすると、捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を設けたカバーパネルの中間部の断面形状を「膨出した形状」、「略半円形形状」又は「略矩形形状」のものとすることは、原明細書及び図面に直接の記載はないが、当業者が原明細書及び図面に記載された技術内容からみて、これらに記載されていたと認めることができる程度に自明な事項であるということができる。

したがつて、本件補正は原明細書及び図面に記載された事項の範囲内で特許請求の範囲を増加、変更するものであり、原明細書の要旨を変更するものではないというべきである。

そして、前述のとおり、本件実用新案登録出願への出願の変更は、本件補正後の明細書及び図面の記載と同一の内容(すなわち、原明細書及び図面の記載と同一の内容)をもつてされたものであるから、本件実用新案登録出願の出願日は原特許出願の出願日に遡るものである。

したがつて、原特許出願の出願日以降に刊行された刊行物であること当事者間に争いのない甲第六号証、甲第一一号証及び甲第一二号証の各刊行物に基づき本件考案の新規性欠如を理由にその無効をいう原告の主張は理由がなぐ、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

二  (2)の無効理由について

原告は、本件考案は原特許出願の出願前に公知となつた甲第一三号証ないし第一五号証及び甲第八号証から当業者がきわめて容易に考案をすることができたにもかかわらず、審決が本件考案を無効と判断しなかつたことの違法をいう。

成立に争いのない甲第一四号証(実用新案出願公告公報)によれば、昭和四三年実用新案出願公告第三四七二号公報は、名称を「巻取式ハツチカバー閉塞装置」とする考案に係るものであるが、これに「夫々のハツチカバーを断面コ字形状に形成し、その巻取り側に張り出し縁を有し、一つのハツチカバーの張り出し縁がこれと巻取り側において隣接する他のハツチカバーの断面コ字形状に膨出した形状部内部において重なるようにヒンジ連結した巻取り式ハツチカバー」(別紙図面四参照)が記載されているものと認めることができる。

これによれば、甲第一四号証のハツチカバーのカバーパネルは、まさに本件考案に係る明細書において、従来技術で公知の「断面コ字形状をし、且つ捲出し側に張り出し縁2を有するカバーパネル」(公報第二欄第二行ないし第四行)と記載されているものと同一のものであると認められる。

本件考案は、この公知のカバーパネルの形状を改良して捲取り時に捲取り軸からの距離を短くし、もつて捲取り軸の上甲板からの距離を短くする等の目的を達成しようとしたものであり、甲第一四号証の考案には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を開示し又は示唆するものは存しない。

次に、成立に争いのない甲第一三号証(特許出願公告公報)によれば、昭和四五年特許出願公告第三九七三八号公報の発明は、名称を「開放空間を閉鎖するためのカパー装置」とする発明に係るものであるが(別紙図面五参照)、一般にこれらのカバー区分は艙口縁材又は類似物の一端に設けられた場所に垂直に立てて格納されるのが常であるが、その格納場所の長さが短くてすみ、また、カバー区分がその上に置かれる貨物を支持しうるよう頑丈に造る必要があるとの知見に基づくものであること(同第一欄末行ないし第二欄第一九行)が認められ、また、公報の発明の詳細な説明の欄には、一実施例の説明として「第8ないし11図に示す変形実施例では、各函形構造区分は頑丈な傾斜桁材とこれに比して強さの少ない垂直桁材を備える代わりに対称な一対の傾斜桁材からなつている。(中略)傾斜桁材31、32の基部は補強山型鉄材38を伴うか又は伴わない平型鉄材37からなる。桁材31の外側面に装架された山型材39が形成する空所内にゴム又は類似のガスケツト40を嵌め込んだものからなる水封装置が設けられている。隣接するカバー区分の基部は突出部材41を形成され、この突出部材は隣接カバー区分の基部37上のガスケツト受け空所の側辺42およびガスケツトと係合する。」(第五欄第二八行ないし第六欄第七行)、「又変形しに実施例によると、各函形区分は反対方向に傾いた二個の端桁材を備えている。このような配設によつて、函形構造を特色とするこの発明のカバー区分は容易に相互に嵌合することができ、それ故格納位置で比較的少い空間を占めることが明らかであろう。他方において、それらの特殊な構造により、これらの区分は船舶上、鉄道車両および類似物上のあらゆる要求に充分に応じる強さをもつている。」(第三欄一三行ないし第二一行)と記載されていることが認められる。

甲第一三号証の発明の実施例のカバーパネルは断面台形形状をなしており、また、台形形状の底辺の左右の端部よりそれぞれ平型鉄材が伸びているので、一見すると本件考案のカバーパネルの構成と同一又は類似と見えなくもない。

しかし、前認定の明細書の記載からすると、甲第一三号証の発明のカバーパネルは、捲取り式のものではなく、各区分は分離されて重ねられて収納されるものであり、台形形状にしたのも、その形状自体に意味があるのではなく、収納するとき、各区分を重ねれば、容易に嵌合して嵩張らなくするように中空状のものとするところにその技術的意味があるのであり、本件考案のように、捲取り軸からの距離を短くするという技術的思想はない。

また、平型鉄材37は補強山型鉄材38、山型材39'、ガスケツト40、側辺42と協同して水封装置を構成するという機能を果たすものであり、本件考案の張り出し縁(張り出し縁をカバーパネルの両側に設けることは即ちその形状がどのようなものであれ膨出部分の幅を短くし、その膨出部分の折曲角部等の捲取り軸からの距離を短くするという効果がある。)のように、捲取り軸に捲取つた場合において捲取り軸からの距離を短くするという機能は有していないものであることは明らかである。

また、甲第一三号証の発明のカバーパネルは収納時に区分されるもので、平型鉄材37の端部でヒンジ連結されるものではない。

以上のことからすると、甲第一三号証の発明は、実施例に本件考案のカバーパネルの中間部の形状と同じ断面台形形状のカバーパネルが示されているというにすぎず、本件考案の技術的課題(目的)、構成、作用効果のいずれも開示し又は示唆するところのものはないというべきである。

また、成立に争いのない甲第一五号証(米国特許明細書)によれば、米国特許第三七一二二五八号明細書(一九七三年一月二三日発行)は、名称を「特に船舶用の堅固な密閉蓋のための巻き上げ式閉鎖機」とする均一な閉鎖要素の連結体からなるハツチ閉鎖機の発明に係るものであるが(別紙図面二参照)、これには「デツキDにおける昇降ハツチ4は、ハツチの壁1に囲まれており、また蓋21によつて被覆される。蓋は端の閉鎖要素(最終エレメント)3がもたらす力によつて巻き上げられる。このためこの端の要素は各々の端部にドラム4を有し、ドラムが左方向あるいは右方向に向かつて番号5又は6で示されるように索条又は鎖によつて要素3とともに可動となつている。ドラム4はしつかりと固定され、かつそれ自体は連結要素26を作動させ、かつ位置決めするための一枚の剛性の多角形板37を有する。そして、これらの連結要素の一つは各々の閉鎖要素2のそれぞれの端部にしつかりと固定される。これらの要素のうちいくつかは第2図に示されており、多角形板37上に巻き上げられる。個々の要素26が有する突起29及び多角形板37の突起もまたそのような要素の窪み30に適合することに気付くであろう。これらの突起群と窪み群との係合によつて各々の連結要素26は巻き上げられるとき適切な位置に置かれる。」(第二欄初行ないし第二一行)、「5図を参照すると、ハツチ壁1の頂部の構造物1は、ハツチが閉じられるとき、連結要素群26の突起29を受容する穴Aを有する。それによつてこれらの要素及び間接的に閉鎖要素2を左右の側部への移動あるいは置き換えを防止し固定する。」(第二欄第三九行ないし第四四行)と記載されていることが認められる。

別紙図面二の第2図のとおり、連結要素26は中間に略台形形状で左側に傾斜した形状の突起29を中央に一つ設けたものと両端にそれぞれ設けたものとがあり、いずれのものも下部右側には突起29が嵌合する窪み30が設けられており、それぞれ連結要素はその両端で回転ボルト28により隣接する連結要素と連結されている。そして、突起29が中央に一つ設けられたものは捲取り側及び捲出し側に張り出し縁を有し中間部が膨出する形状に形成された本件考案のカバーパネルの形状に類似している。

しかし、前認定の明細書の記載からすると、甲第一五号証の発明の連結要素は、ドラム4が移動しながら連結要素、したがつてそれと一体となつた閉鎖要素を捲き上げられるようにするため、連結要素の突起29がそれと重なり合う他の連結要素の窪み30に係合するように、また、ハツチを閉じたとき、突起29がハツチ壁の穴Aに嵌合して移動等を防止するよう構成したものであり、連結要素の構成に、捲き上げた場合ドラム4の軸の中心からの距離を短くするという技術的思想は存在しない。

そして、連結要素は閉鎖要素(ハツチカバー)に取り付けられるものではあるが、本件考案のカバーパネルに相当する閉鎖要素自体とは機能が異なるものである。

したがつて、甲第一五号証の発明も本件考案の技術的課題(目的)、構成、作用効果を開示し又は示唆するものではないというべきである。

また、成立に争いのない甲第八号証(特許出願公告公報)によれば、昭和三六年特許出願公告第八二二六号公報は、名称を「船艙蓋気密装置」とする発明に係るものであるが(別紙図面三参照)、その発明の詳細な説明の欄には、「本発明において船艙蓋を開けるには中空弾性体内の圧縮空気を抜いて弾性体の上部を凹入部9より脱出させ、ついで第1図中角形軸を時計針方向へ回転すれば、連結杆4、4が角形軸に巻かれるに伴つて船艙蓋は同図中右方へ移動し、角形軸面の凸部13へ船艙蓋が被冠する様に次々に巻着される角形軸面へ船艙蓋が一周り巻きつけば、次の船艙蓋は最初に巻かれた船艙蓋上へ重なり(第4図の状態)順次その状態で重ねられつつ巻きつけられるので、船艙蓋が匣条に構成されているに拘らず、格納容積を著しく縮少し得るのである。」(公報第一頁左欄下から第三行ないし右欄第八行)と記載され、第3図及び第4図には断面台形形状で、接触部は弾性体12を設け、連結杆3により連結された船艙蓋が記載されていることが認められる。

甲第八号証には断面台形形状のカバーパネルが示されているが、カバーパネルを台形形状に構成したことに技術的意義があるものではなく、台形形状のような匣状のカバーパネルでも、中空状にして捲取り時に重なり合うように構成すれば、格納容積を縮小できるというところにその技術的意義があるにすぎないものである。

一方、本件考案は、カバーパネルの捲取り側及び捲出し側にそれぞれ張り出し縁を設け(張り出し縁をカバーパネルの両側に設けることにより膨出部分の幅を短くし、その膨出部分の折曲角部等の捲取り軸からの距離を短くするという効果がある。)、もつて、捲取り軸に捲取つたときの捲取り軸からの距離を短くすることを目的としているのであるから、甲第八号証の発明には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を開示し又は示唆するものはないというべきである。

以上のとおり、以上の甲号各証の発明等は、いずれも本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を開示し又は示唆するものではないので、本件考案は、当業者が以上の甲号各証の発明等からきわめて容易に考案をすることができたものと認めることはできない。

したがつて、審決が、以上の甲号各証の発明等は本件考案とはカバーパネルの具体的構成を異にし、作用効果も異なるとして、これらのものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないと判断したことに誤りはない。

三  (3)の無効理由について

原告は、本件考案の明細書には、当業者が容易に実施することができる程度に、その考案の目的、構成及び効果が記載されていないにもかかわらず、審決がこれが記載されていると判断したことの誤りをいう。

原告の主張は、本件考案を忠実に追試しても、<1>連結アーム部材33の長さXが長くならざるを得ずこれが外側に飛び出し、回転半径が大きくなること、<2>主ヒンジ部材21の厚さYが必然的に厚くなり、コンパクトな捲き上げができないので、甲板からカバーパネルの捲取り軸までの高さを低くするという本件考案の目的は達成できないもので、このことは甲第一六号証の一(実験証明書)からも明らかであるとするものである。

しかし、従来の断面コ字形状のカバーパネルを本件考案のように両側に張り出し縁を設けて中間を膨出した形状のものにし、更には中間の膨出部分の形状を断面台形形状あるいは略半円形形状のものとすれば、それによつて、捲取り軸からの距離が短くなることは乙第一号証の理論証明書によるまでもなく、幾何学上極めて明らかなことである。

原告も、右の理論自体は否定せず、それを実施するについて前記<1>、<2>の障害があるとするものである。

前掲甲第二号証によれば、本件明細書には、前記一2認定の好ましい実施例の説明として、「第5図に示した33が、捲取ドラム34とカバーパネルの主ヒンヂ21とを連結したアームで、上記主ヒンヂ21と同様な構造からなつている。」(公報第四欄第一八行ないし第二一行)と記載され、別紙図面一の第4図及び第5図にはカバーパネルが捲取り軸に捲き取られた状態において、連結アーム33の端部がカバーパネルの各隣接する張り出し縁のヒンヂ連結部より外側に突出した構成が図示されていることが認められ、この状態においては、連結アーム33の端部が外側に突出した部分だけ捲取り軸を軸芯とするカバーパネルの回転半径は大きくなることが明らかである。

そして、本件考案の要旨とする実用新案登録請求の範囲には、捲取ドラムとカバーパネルとを連結する連結アームについての記載はないが、本件考案の構成からみてこれを実施するに当たつては、連結アームを設けることを必要とすることは当業者に自明の技術的事項である。

しかしながら、右実施例の捲取り状態を示す側面図である第4図と従来技術である公知の捲取り式ハツチカバーの捲取り状態を示す側面図である第2図を対比すれば明らかなように、右実施例記載のものの甲板から捲取り軸までの距離は前記突出部分を含めてもなお公知の捲取り式ハツチカバーのそれよりも短くなつていることが認められるから、右実施例においても本件考案の所期の作用効果を奏し得るものというべきである。のみならず、当業者であれば、前記連結アームはその端部を外側に突出させなければならないものではなく、設計に際して本件考案の目的を達成できるように適宜変更し得ることは容易に理解できる事項というべきであるから、この点をもつて本件考案の明細書には当業者が容易に実施できる程度に考案の目的、構成及び効果が記載されていないとはいえない。

また、主ヒンジ部材21が必然的に厚くなるとの点も、主ヒンジの厚さをどの程度にするかは、カバーパネルの自重等によつて決定される設計事項であつて、本件考案のカバーパネルの主ヒンジ部材が公知の断面コ字形状のカバーパネルのそれに比して当然に厚くなることの根拠は見出し難く、原告の主張は理由がない。

さらに、原告は、明細書の実施例に具体的数値を用いて従来例と比較して、どれだけ捲取り軸の中心位置までの高さHを低くできたのか具体的な効果を開示していないことを指摘する。

しかし、明細書には、考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を当葉者が容易に実施できる程度に記載すれば足るのであつて、これが可能である以上は、必ずしも、実施例を示したり、また、その効果を具体的な数値をもつて示すことは必要ではない。

本件考案は、前記一で認定したとおり、その技術的課題(目的)、構成及び作用効果が明確に記載されており、この構成によりその作用効果が達成できるものと認められるのであるから、明細書の記載の不備はないというべきである。

よつて、この点についての原告の主張も理由がない。

四  以上のとおり、本件考案の無効をいう原告の主張はいずれも理由はなく、本件考案を無効としなかつた審決の認定判断は正当であり、審決に、原告の主張する違法はない。

第三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由かないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面一

<省略>

<省略>

別紙図面二

<省略>

<省略>

別紙図面三

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別紙図面四

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別紙図面五

<省略>

別紙図面六

<省略>

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