東京高等裁判所 平成2年(行ケ)17号 判決
一 請求の原因一、二は当事者間に争いがない。
二 原告主張の本件審決の取消事由について検討する。
1 原告は、本願商標からは常に、「グリーンジヨイス」の称呼しか生じないのに、本件審決は、本願商標からは「ジヨイス」の称呼も生ずるものと誤認したと主張するが、本願商標からは、「ジヨイス」の称呼も生ずるものと認められるから、原告の主張は採用できない。
その理由は以下のとおりである。
2 本願商標は、別紙本願商標記載のとおりの構成からなるものであることは争いがなく、「GREEN JOYS」と「グリーン、ジヨイス」をそれぞれ同一の大きさ、同一の字体による文字で構成したものであり、外観上「JOYS」「ジヨイス」のみが特に目立つものではないが、前半の「GREEN」、「グリーン」と後半の「JOYS」、「ジヨイス」とは、半文字程度の間隔をあけて左右に分離、配置されていることも明らかであり、前半の「GREEN」、「グリーン」の各語と後半の「JOYS」、「ジヨイス」の各語との結合商標であることが、外観上明白である。
3 成立について当事者間に争いのない甲第七号証の一ないし三によれば、本願商標に含まれる「グリーン」の語は、英語の「GREEN」に由来する外来語で、「緑、緑色」、「草地、緑地、芝生」、「ゴルフ場のホールのまわりの芝生の部分、ゴルフコース」等を意味するものであることが認められ、特に、「緑、緑色、ゴルフのパツテインググリーン、ゴルフコース」等を意味する語として、我が国で日常広く一般に使われる語であること及び初歩的な英語の知識を有するものであれば「GREEN」を右の意味の英語であると認識できることは、当裁判所に顕著である。
他方、本願商標に含まれる「JOYS」は、成立について当事者間に争いのない甲第八号証の一ないし五により、「喜び、うれしさ、喜びの種」を意味することが認められる英語の「JOY」の複数形と認められ、また、本願商標が「GREEN JOYS」と、「グリーン ジヨイス」の文字を二段に横書きにしてなり、「JOYS」の下に対応する位置に「ジヨイス」と記載されているところからみて、本願商標に含まれる「ジヨイス」は、「JOYS」の発音を片仮名で表記したものであることは明らかである。
そして、前記甲第八号証の一ないし五によれば、「JOY」という英語は、高校学習程度の基本語とされていることが認められるけれども、「JOY」もその発音を片仮名により表記した語である「ジヨイ」も、我が国において「グリーン」の語のように日常広く一般に使われる語であることはいまだ認められず、しかも、本願商標の一部を構成するのは「JOYS」という複数形及びその発音を片仮名により表記した「ジヨイス」であるため、今日の我が国における英語の知識の普及度を考慮にいれても、「グリーン」と「ジヨイス」の語の意味、観念についての国民の理解の程度には差があり、本願商標に接した一般国民である需要者の中には、本願商標の一部である「グリーン」「GREEN」については、前記のとおり「緑、緑色、ゴルフのパツテインググリーン、ゴルフコース」の意味、観念を認識できても、「ジヨイス」「JOYS」の語からは特別の意味、観念を認識できない場合も少なくないものと認められる。
4 更に、「グリーン」という語が、「緑、緑色」と色彩を形容する意味を有する語として日常広く一般に使われることから、本願商標の指定商品中「くつ類」、「ぞうり類」、「かさ」などの商品の全体又は一部の色彩を表す語として、あるいは、商品の箱、包装、ラベル等の全体又は一部の色彩を表す語として普通に使用されるものと認められる。
したがつて、本願商標中の「グリーン」の文字は、前記のような指定商品の全体又は顕著な一部の色彩を表すもの、あるいは、同種商品の中での、細部の種類、用途別、格付等の品質の差を表す趣旨で、商品の箱、包装、ラベル等の全体又は一部に付された色彩を表すものにすぎないと認識される場合も少なくないものと認められる。
5 本願商標を一連に称呼したばあいの「グリーンジヨイス」の称呼は、六音からなり、冗長ではなく、発音も容易であるが、他方、これの前半又は後半だけを「グリーン」又は「ジヨイス」と別に称呼した場合の称呼は、いずれも三音からなり、極めて簡潔で、発音も容易である。
6 以上2ないし5に判断したことを総合すれば、本願商標は、常に、不可分のものとしてのみ認識され、一連に称呼されるものではなく、本願商標の左側の、「GREEN」、「グリーン」の文字は右4のように色彩、品質を表示するにすぎず、右側の「JOYS」、「ジヨイス」が自他商品の識別機能を果たす部分であると認識され、この文字にしたがつて、「ジヨイス」と称呼される場合も少なくないものと認められる。
よつて、本願商標は、単に「ジヨイス」の称呼をも生ずるものであるとの本件審決の認定判断に誤りはない。
7 原告は、本願発明の構成、全体の称呼及び観念の諸点に照らして、本願商標に接する需要者、取引者が本願商標をことさら「GREEN」「グリーン」と「JOYS」「ジヨイス」とに分断して認識し、「JOYS」「ジヨイス」の部分のみによつて称呼するとみるべき合理的な理由はなく、本願商標は、常に一連一体に「グリーンジヨイス」と称呼されるものである旨主張するが、右主張は前記のとおり採用できない。
8 また、原告は、本件審決の「本願商標を構成する文字中「GREEN」、「グリーン」の文字は、叙上のごとき商品の品質(色彩)を表示するにすぎないものとして認識されるに止ま」る旨の認定は誤りであると主張するが、右主張も採用できない。
即ち、原告は、「本願商標においては、「GREEN JOYS」及び「グリーン ジヨイス」がそれぞれ同一の大きさ、同一の書体による文字で構成されているが、「各種靴」、「ぞうり類」、「かさ」など本願商標の指定商品の色彩を表示する場合に、色彩を表す部分の文字「GREEN」ないし「グリーン」が、本件審決において認定されたように、商標中「自他商品の識別標識としての機能を果たす部分」とされた「JOYS」ないし「ジヨイス」の前に、これと同一の大きさ、同一の書体をもつて付加表示されるということは取引の実際上、普通に行われていることではない。また、消費者及び取引業者は、本願商標の指定商品に関しては特に色彩に注意を払い、現実に商品の色彩が見られない場合にあつても、商品の包装等に色彩を明確に表示するのであつて、色彩を商標の一部とし、英語及び片仮名を二段で横書きするような方法で表示することはない。」旨主張するが、店頭販売や通信販売による需要者のための正確な品質表示、在庫管理のために、サイズ、材質、品番等とともに必要となる正確な色彩の表示が、商標と同一の大きさ、同一の書体をもつて付加表示されるということは普通に行われていることではないとしても、前記認定のとおり、「グリーン」「GREEN」が色彩を表示するものとして一般に認識されており、このように商標を構成する一部分が色彩名を含む場合、これに接した需要者、取引者が、前記4に判断した趣旨で色彩が表されているものと理解する場合があることは明らかであり、右原告の主張も採用できない。
三 よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本件請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編注〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
訴外株式会社大沢商会は、昭和五〇年六月二三日、別紙本願商標記載のとおり、横書きの「GREEN JOYS」を上に、片仮名横書きの「グリーン ジヨイス」を下にして、上下二段に表した構成の商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第二二類「はき物、その他本類に属する商品」として、商標登録出願をした(昭和五〇年商標登録願第八〇八八二号)ものであるところ、原告は同社から右商標について、商標出願により生じた権利を譲り受け、昭和五六年四月七日特許庁長官にその旨届け出たが、昭和五七年五月二五日に拒絶査定を受けたので、同年九月二七日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同年審判第一九四一一号事件として審理した上、平成元年八月一七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一〇月一六日、原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品、本願商標登録出願の日は、第一項のとおりである。
2 これに対し、拒絶査定において拒絶の理由に引用した登録第一三一七〇六五号商標(以下「引用商標」という。)は、「WM.JOYCE」の文字を横書きしてなり、第二二類「はき物、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和四八年一一月一六日に登録出願、同五二年一二月一九日設定登録、その後、昭和六三年三月二五日に商標権存続期間の更新登録がなされたものである。
3 そこで両商標の類否について判断するに、本願商標は前記構成により成るところ、前半部の「GREEN」と「グリーン」の文字が、「緑色の」の語意を有する英語とその外来語として一般に親しまれているばかりでなく、本願商標の指定商品中、たとえば、「各種靴」「ぞうり類」及び「かさ」などの商品について、その色彩を表示するものとして普通に使用されていることは、この種商品の取引の実際に徴して明らかなところである。
そして、本願商標は、「GREEN」、「グリーン」の文字と「JOYS」、「ジヨイス」の文字とが結合してなるものであるとしても、両文字が全体として、独自の意味合いをもつ一つの熟語もしくは複合語(compound word)を形成するものとも認められないから、本願商標を構成する文字中「GREEN」、「グリーン」の文字は、前叙のごとき商品の品質(色彩)を表示するにすぎないものとして認識されるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は、後半部の「JOYS」、「ジヨイス」の文字にあるものと判断するのが、取引の通念に照らし相当である。
してみれば、本願商標は、該文字に相応して単に「ジヨイス」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
4 他方、引用商標においては、その構成よりみて「WM」の文字と「JOYCE」の文字とはピリオドを介して分離されていることにより、これらの文字は常に一体のものと観察すべき事情もないばかりか、前半部の「WM」の文字は、一般に商品の種別、規格等を表すための記号、符号として、普通に採択使用されているローマ字二字の類型の一つとして理解される以外に特段の意味もないものであるから、繁忙な取引場裡においては、この部分を省略して、後半部の「JOYCE」の文字のみに着目し、これより生ずる「ジヨイス」の称呼をもつて取引にあたる場合も決して少なくないものと判断するのが相当である。
5 したがつて、本願商標と引用商標とは、その外観及び観念における類否について論ずるまでもなく、「ジヨイス」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、両者はその指定商品においても相抵触するものであるから、本願商標を商標法第四条第一項第一一号に該当するものとしてその出願を拒絶した原査定は、妥当であつて、取り消す限りでない。
なお、審判請求人(原告)は、本願商標は登録されるべきであると主張し、その理由として、引用商標の商標権者が、両商標間において出所の混同を全く生じないから、本願商標が登録されることについて同意している旨述べ、その同意書を提出しているが、わが国の法制上、当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標と同一、類似の商標であつて、その商標登録に係る指定商品と同一、類似の商品について使用するものは、当該商標権者の同意の有無にかかわらず、商標登録を受けることができないこととなつているから、同人の主張は採用できない。