東京高等裁判所 平成2年(行ケ)181号 判決 1991年9月26日
原告
日本碍子株式会社
原告
エナジーサポート株式会社
被告
特許庁長官
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
「特許庁が昭和六三年審判一八三三一号事件について平成二年五月一四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
二 被告
主文と同旨の判決。
第二請求の原因
一 特許庁における手続きの経緯
出願人 原告ら
出願日 昭和五五年四月二日(昭和五五年実用新案登録願第四四九二九号)
考案の名称 「配電用電気機器」(その後、平成元年六月一五日付手続補正書により、「モールドコーン付口出線を有する配電用機器」と補正。)
拒絶理由通知 昭和六三年四月一二日
手続補正書提出 昭和六三年六月九日
拒絶査定 昭和六三年九月二〇日
審判請求 昭和六三年一〇月一九日(昭和六三年審判第一八三三一号事件)
審判請求理由補充書及び手続補正書提出 昭和六三年一一月一五日
拒絶理由通知 平成元年四月一八日
意見書及び手続補正書提出 平成元年六月一五日
審判請求不成立審決 平成二年五月一四日
審決謄本の送達 平成二年七月三〇日
二 審決の理由の要点
1 本願は、昭和五五年四月二日の出願であって、「モールドコーン付口出線を有する配電用機器」に関するものと認める。
2 これに対して、平成元年一〇月二六日付で、本願は、その明細書と図面の記載が不備で実用新案法五条三項及び四項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知したが、依然として右拒絶理由で指摘した不備な点は解消していない。
したがって、本願は、右の拒絶理由によって拒絶すべきものである。
三 審決の取消事由
1 審決の理由の要点1は認め、同2は争う。
本件において、右審決の理由となっている平成元年一〇月二六日付拒絶理由(以下、「本件拒絶理由」という。)は原告らに通知(以下、「本件拒絶理由通知」という。)されておらず、審決は、実用新案法一三条、同四一条が準用する特許法五〇条、同一五九条二項の規定に違背してなされたものであるから、取り消されるべきものである。
2 本件において、本件拒絶理由が原告らに通知されていないことは、次の事情から明らかである。
(一) 原告ら代理人の事務所においては、特許庁に出願した事件については特許庁への提出書類の写し及び特許庁から送付、送達された書類の写しの一切を入れ、併せて、これら書類の提出日、発送日、送達日、提出の期限が定められた通知にあってはその期限の日など当該出願の経過を記載できるようにした包装と呼ばれる袋内に収納しており、出願継続中はもちろん出願無効、権利抹消、あるいは権利消滅に至るまで一つの袋に収納して管理している。更に、各事件の経過は、経過台帳及びオフィスコンピュータに、提出した、あるいは送付、送達された書類の種類と、その提出日、送付日、送達日、発送日のいずれかを記録している。
(二) 本件審決謄本受領後、本件審判事件の包装を調査したが、該当する本件拒絶理由通知は存在せず、また、当該包装、台帳の経過欄のいずれにも同拒絶理由通知が送付された記録もなく、更に、コンピュータの経過記録にも該当する記載はない。
(三) 更に、原告ら代理人の事務所においては、特許庁を始めとして、送付されてくる書類は全て開封と同時に更に一側を切り開き、内容物が残っていないかチェックするシステムを採っている。
(四) 本件審決謄本送達後、原告ら代理人において調査したところ、平成元年一一月二一日付の特許庁から原告ら代理人宛に書類が送付された際の合送目録には、本件拒絶理由通知を意味する「S63/18331/イ」との記載があることが判明した。また、右合送目録には、併せて「U58/69515/答」’「/68175/答」と記載されており、右記載によれば、右合送目録には、本件拒絶理由通知のほか、昭和五八年実用新案登録願第六九五一五号及び昭和五八年実用新案登録願第六八一七五号の二件についての異議申立書が送付されたことになっている。
(五) そこで、本件拒絶理由通知と同時に送付されたとされる昭和五八年実用新案登録願第六九五一五号及び昭和五八年実用新案登録願第六八一七五号二件についての異議申立書のその後の処理状況を調査したところ、包装、台帳、コンピュータのいずれの経過欄の記載も誤りなく行われている。
(六) したがって、送付された書類が封筒とともに処分される可能性は全くなく、もし平成元年一一月二一日付で本件拒絶理由通知が特許庁から原告ら代理人宛に送付されていたならば、必ずや処理されていたはずである。
(七) 更に、右合送目録と同日付で特許庁から原告ら代理人事務所宛に送付された書類の処理状況を調査したところ、同日に送付された書類は四九件存在し、いずれも誤りなく処理が行われている。
(八) 原告ら代理人は、本件拒絶理由通知を改めて本件審判事件の書類一式と共に取り寄せて確認したところ、右拒絶理由の内容は、いわゆる一般に記載不明瞭と称せられる比較的軽微なものであり、その対処の方法としては明細書の記載を補正すれば足りるものである。
本願考案は出願人にとって極めて重要な考案であって、出願人は、審査の過程から審判に至るまで、なんとか権利化を図るべく拒絶理由の通知に対しては全て応答している。
(九) したがって、もしこのような拒絶理由が出願人の元に通知されていたとするならば、それに対して応答しないはずがない。
よって、本件審判事件においては、本件拒絶理由の通知に際し、何らかの事故が発生し、拒絶理由が原告ら代理人の元に送付されなかったものと考える。
(一〇) なお、過去の原告ら代理人宛に送付された拒絶理由通知において、出願番号は原告ら代理人の代理する事件であるが、送付宛代理人名も、拒絶理由の内容も原告ら代理人の代理する事件と一切無関係のものが送付されたことがある。
(一一) したがって、本件審判事件においても、本件拒絶理由通知がいずれかに誤って送付されている虞もある。
第三請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一は認める。但し、被告は原告らに対し、平成元年一〇月二六日付の拒絶理由を通知している。同二は認める。同三のうち、二(四)、(八)及び(一〇)の事実は認めるが、その余は争う。
二 次の事情からして、被告が原告ら代理人に本件拒絶理由通知を送付していることに間違いはない。
1 特許庁における、本件拒絶理由の起案から発送の直前までの経緯は次のとおりである。
(一) 特許庁の合議体は、本件審判請求事件を審理して、本件拒絶理由通知を起案し、特許庁審判部書記課は、その通知と、その送付先である原告ら代理人の住所、氏名及び本件審判番号と、送付する書類が拒絶理由通知であることを記載した「住所票」とを、右住所票に記載されている原告ら代理人の氏名、拒絶理由通知書等の文字を窓明き部分を通して読み取ることのできる窓明き封筒に封入し(以下、「窓明き封筒」という。)、この窓明き封筒は、特許庁審査第一部方式審査第二課発送班に渡された。
(二) 同発送班では、同書記課から渡された右の窓明き封筒と、特許庁審査部から同じく同発送班に渡された別件の二件の異議申立関係の書類である昭和五八年実用新案登録願第六九五一五号に係わる実用新案登録異議答弁指令書、同異議申立書、同異議申立理由補充書、及び、昭和五八年実用新案登録願第六八一七五号に係る実用新案登録異議答弁指令書、同異議申立書、同異議申立理由補充書と、これら全ての送付書類の目録を記載した「合送目録」とを、原告ら代理人の住所、氏名を記載した一枚の封筒に封入して(以下、「書留発送封筒」という。)、発送直前までの作業を終えるのである。
この「合送目録」は、被告が原告らに対して書留郵便で送付する書類の全てを記載した総合目録であって、個々の送付書類に基づいて作成されたものであるから、送付する書類が存在しなければ合送目録に記載されることは決してない。この合送目録の作成終了後、この合送目録と右送付書類の全てを封入して、書留発送封筒を作成するのである。
(三) 右合送目録の作成について具体的に説明する。
同発送班では、合送目録の用紙の氏名欄に発送書類に記載されている原告ら代理人の氏名を手書きするとともに、発送日である平成元年一一月二一日も記載する。ついで、右合送目録用紙の目録欄第一行に、前記窓明き封筒の表の左下部分に設けられている窓部を通して見える本件審判番号「昭和六三年審判第一八三三一号」の文字を読み取って、「S63 18331」と記載し、続いて送付する書類が拒絶理由通知書である旨を表示した「拒絶理由通知書」の文字を同じく前記窓部を通して読み取り、この拒絶理由通知書に対応する処分記号である「イ」を合送目録用紙の下方部分に示されている表から拾い出して前記本件審判番号に続けて記載するのである。
更に、合送目録用紙の目録欄第二行及び第三行に、別件である二件の前記異議申立に関する送付書類の出願番号と処分記号とを記載する。
(四) 以上によれば、合送目録の作成時には、本件拒絶理由通知が封入された窓明き封筒が存在していたことは確実である。しかも、右合送目録の作成終了後、この合送目録と右の窓明き封筒及び別件である二件の異議申立関係の書類とを大きな封筒に封入して書留発送封筒を作成するのであるから、この書留発送封筒の中には送付すべき書類の全部が封入されていたといわざるを得ないのである。
2 右書留発送封書の発送から原告ら代理人に送付されるまでの経緯について説明する。
被告は、右書留発送封筒を原告ら代理人に送付するため、合送目録に記載の期日である平成元年一一月二一日に東京中央郵便局から書留郵便で送付した。そして、右書留発送封筒は平成元年一一月二二日に原告ら代理人に配達された。したがって、右書留発送封筒中に封入された本件拒絶理由通知は原告ら代理人に送付されている。
3 合送目録を原告ら代理人に送付する意義の第一は、被告が原告ら代理人に対してどのような書類を何時送付したかということを後日確認できるようにしておくことにあり、第二は、被告が原告ら代理人に対してどのような書類を送付したかを通知することによって、この送付書類の全てが確実に原告ら代理人に届いているかどうかの確認を、原告ら代理人が合送目録の記載事項と送付されたとする書類を照合することによって、行うことができるようにする点にある。
これを本件についていえば、原告ら代理人が受け取っている合送目録の目録欄第一行に本件拒絶理由通知の審判番号と拒絶理由通知の処分記号である「イ」が明記されているのであるから、右の照合を原告ら代理人が行うことに何等の支障もないのである。そして、原告ら代理人がその照合を行うべきことは、本件拒絶理由通知と合送目録との送付が書留郵便で行われており、その送付書類の重要性が認識されていたことに照らしても当然のことであり、また、原告ら代理人の欠くことのできない職務でもあるといわなければならない。
更に、右の照合を原告ら代理人が行うべきことは、特許庁と弁理士会との連絡協議事項を収録した「対庁協議事項集」(弁理士会配布。乙第三号証)中にも明記されているのであって、弁理士会の会員である原告代理人は当然に承知しているはずである。
三 仮に、原告ら代理人が合送目録の記載事項と送付されたとする書類との照合を怠ったとすれば、そのことによって生じた結果については原告ら代理人が負うべきである。すなわち、もし、原告ら代理人において右照合を怠ることが許されるとするならば、被告が原告ら代理人に対して合送目録を送付した意義が失われることになるばかりでなく、合送目録を送付しているにも拘らず、被告は原告ら代理人に対して、合送目録に記載されている本件拒絶理由通知を含む全ての書類が間違いなく原告ら代理人の元に届き、そして受け取ったかどうかという確認を行わなければならないことになるが、このような確認を、特段の事情のない本件審判請求事件をはじめとして、本件以外の全ての審判請求事件に亘って逐一行わなければならないこととなる。しかし、そのような確認を全件に亘って逐一行うことは、現実には到底できることでなく、不可能といってよい、原告らに不利益が生じないようにとの配慮から、被告は合送目録を作成してこれを送付書類と一緒に原告代理人に送り、この合送目録を原告ら代理人は現に受け取っているのであり、原告ら代理人が右照合を行うことに何等支障もなかったものであるから、原告ら代理人が右照合を怠ったとすれば、そのことによって生じた結果については原告ら側が負うべきである。
第四証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 原告らに対する本件拒絶理由通知の有無については当事者間に争いがあるものの、特許庁における本件実用新案登録願に関するその余の手続きの経緯が請求の原因一のとおりであること、及び、審決の理由の要点が請求の原因二のとおりであることについては当事者間に争いがない。
二 本件拒絶理由通知の有無(審決の取消事由の存否)についての判断
1 いずれも成立に争いのない甲第一九号証(但し、「原告代理人事務所印、U2158’U4131’U4130’◎’○」とある部分を除く。)、乙第一号証、書留封筒及び住所票であることについて争いのない検乙第一号証、特許庁の封筒であることについて争いのない検乙第二号証並びに証人高橋福司の証言によれば、特許庁における拒絶理由の起案からその通知の発送までの一般的な作業手順について、次のとおりであることが認められる。
(一) 特許庁の合議体が審判請求事件を審理して拒絶理由通知書を起案すると、特許庁審判部書記課は、同通知書と、その送付先である当該事件代理人の住所、氏名及び審判番号及び送付する書類が拒絶理由通知であることを記載した「住所票」(乙第一号証)とを、右住所票に記載されている代理人の氏名、拒絶理由通知書等の文字を窓明き部分を通して読み取ることのできる窓明き封筒(検乙第一号証)に封入し、この窓明き封筒は、特許庁審査部方式審査課の発送班に渡される。
(二) 同発送班では、審判部書記課から発送を依頼された多くの発送すべき書類を送付先ごとに分類し、各送付先について、同じ日に当該送付先に発送する書類が一通の場にはこれを単体で発送するが、同じ日に同じ送付先、同じ代理人宛に二件以上の書類を発送する場合には、合送として数件の書類を一つの封筒に一緒に封入して、書留郵便にて発送する。
そして、合送として数件の書類を一緒に発送する場合には、まず、書留発送封筒に送付先の住所氏名を送付書類に基づいて記載し、次に分類され眼前にある個々の送付書類に基づいて、合送目録の用紙に送付先の氏名、発送日、送付する個々の書類の事件番号及び書類の種類を記載して、合送書類の総合目録である合送目録を作成し、この合送目録と、合送目録に記載された各事件の件数、各個別の事件ごとの送付書類の件数とを照合確認したうえで、これらを一括して同じ封筒に封入し、発送している(なお、合送目録の個々の書類の事件番号及び書類の種類の記載は略号で記載されるものである。)
(三) 右書留発送封筒の具体的な発送方法は、発送班において書留受領書を作成した後、発送日の午後に東京中央郵便局から書留郵便にて発送するものである。
2 ところで、本件拒絶理由通知がその中に含まれていたか否かは別として、平成元年一一月二一日付で「S63/18331/イ」’「U58/69515/答」’「/68175/答」と記載された合送目録が被告から原告ら代理人宛に送付され、原告ら代理人はこれを受け取ったことについては当事者間に争いがない。そして、前掲甲第一九号証、いずれも成立に争いのない甲第二〇号証の一ないし三(但し、甲第二〇号証の一については、原告第事務所印、U4131」との部分を除く。)及び甲第二四号証の一ないし三、証人国枝永司及び証人高橋福司の各証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、一つの封筒に封入された右平成元年一一月二一日付合送目録及び在中の書類が平成元年一一月二二日に原告ら代理人事務所に配達されたこと、合送目録に記載された「S63/1833/イ」、「U58/69515/答」’「/68175/答」との記載は、それぞれ「昭和六三年審判第一八三三一号事件の拒絶理由通知」、「昭和五八年実用新案登録願第六九五一五号事件の答弁指令」、「昭和五八年実用新案登録願第六八一七五号事件の答弁指令」の略号であること、右配送された書留封筒の中には、合送目録のほか、少なくとも、合送目録の「U58/69515/答」に対応する昭和五八年実用新案登録願第六九五一五号事件についての異議答弁指令書、異議申立書及び異議申立理由補充書(甲第二〇号証の一ないし三)、合送目録の「/68175/答」に対応する昭和五八年実用新案登録願第六八一七五号事件についての異議答弁指令書、異議申立書及び異議申立理由補充書(甲第二四号証の一ないし三)が同封されていたことが認められ、これらの認定に反する証拠は存在しない。
これらの事実、及び、前認定の特許庁における拒絶理由の起案からその通知の発送までの一般的な作業手順、特に特許庁審査部方式審査課の発送班においては、合送目録の作成は、分類され眼前にある個々の送付書類に基づいて、合送目録の用紙に送付先の氏名、発送日、送付する個々の書類の事件番号及び書類の種類を記載し、更に合送目録に記載された各事件の件数、各個別の事件ごとの送付書類の件数とを照合確認したうえで、これらを一括して同じ封筒に封入し、発送しているとの事実、及び、現に、平成元年一一月二一日付の合送目録には、本件拒絶理由通知の略号として「S63/18331/イ」と記載されている事実を総合勘案すれば、本件拒絶理由通知書は右合送目録作成時においては被告特許庁の審査部方式審査課発送班の元に現実に存在していたことは明白であり、特段の事情がない限り、証人高橋福司の証言のとおり、発送事務は通常の手順に従って過誤なく進められ、本件拒絶理由通知書は、他の合送書類とともに、原告ら代理人事務所宛に配送された前記書留封筒の中に封入され、平成元年一一月二二日に原告ら代理人事務所に配達されたものであると推認するのが相当である。
3 原告らは、原告ら代理人事務所の執務の態勢、過去における被告からの送付書類の誤送の実例等を根拠として、本件拒絶理由通知書が原告らに送付された事実を否定する(取消事由2(一)ないし(一一))
そこで検討するに、原告ら主張の取消事由2(四)の事実については当事者間に争いがなく、前掲甲第二〇号証の一ないし三、第二四号証の一ないし三、いずれも成立に争いのない甲第一六号証の一、二、第一七号証の一、二、第一八号証の一、二、第二一号証、第二二号証、第二三号証の一、二、第二五号証、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証の一、二(但し、「原告代理人事務所印、手書き」の部分は除く。)、第二九ないし第七七号証の各一ないし四(但し、各号証の各一については「原告代理人事務所印、手書き」の部分は除く。)、及び、証人国枝永司の証言によれば、原告ら主張の取消事由2(一)ないし(三)の事実、同(五)及び同(七)の事実が認められる。これらの事実は、原告ら代理人事務所における発送または配送された出願関係書類の一般的取扱い、本件審決受領後における同事務所の本件拒絶理由通知に関する調査状況、合送目録に記載された他の二つの書類を含め平成二年一一月二一日付で同事務所に特許庁から配達された書類についての処理状況等であって、いずれも、それ自体としては、同事務所に本件拒絶理由通知が配送されなかったことを直接裏付けるものではなく、たかだか、もし、前記書留郵便開封の際同郵便中に本件拒絶理由通知が同封されていないことを開封者が確認しているならば、その確認自体は開封者の主観的認識にとどまるが、これらの諸事実は、右開封者の主観的認識の正確性を裏付け、右開封者の認識と相俟って、前記2(二)の推認を覆すに足りる事情となり得るにすぎないものというべきである。しかし、証人国枝永司の証言によれば、前記書留郵便を開封した原告ら代理人事務所の事務員がうっかりして合送目録と同封の書類と対照することを忘れ、本件拒絶理由通知の存在または不存在をいずれも確認しておらず、主観においてすらその不存在を認識していないことが認められるのであるから、かかる事実関係の下にあっては、前記諸事実をもって前記2(二)の推認を覆すには不充分な事情といわざるを得ない(もとより、かように対照確認を怠った事実が直ちに前記書留郵便中に本件拒絶理由通知が同封されていなかったことを示すものでないことはいうまでもないことである。)。そうであれば、本件拒絶理由通知が平成元年一一月二二日に原告ら代理人事務所に配達されたものであると認めざるを得ない。また、原告らが主張する取消事由2(一〇)の事実は当事者間に争いがないが、いずれも成立に争いのない甲第七九号証(但し、「原告代理人事務所印、欄外手書き」の部分は除く。)、第八〇号証(但し、「原告代理人事務所印、上部手書き」の部分は除く。)及び証人高橋福司の証言によれば、これらの誤送の原因はいずれも事件の出願番号の誤記もしくは誤読に基づく誤送であって、それぞれに誤送の生じた原因ははっきりしているうえ、いずれも、原告ら代理人事務所に配送されており、これらに過誤の態様は、原告らの主張に係る本件拒絶理由通知書が原告らに送付されなかった旨の過誤の態様とは明らかにその態様を異にするものであるから、右過誤の存在をもって、本件拒絶理由通知書が平成元年一一月二二日に原告ら代理人事務所に配達されたものであるとの前記認定を覆すこともできない。
4 以上によれば、原告らの主張にかかる取消事由は理由がない。
三 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、第九三条一項本文の規定を摘用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)