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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)19号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(当初明細書)、甲第三号証(昭和六三年七月一九日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本願発明は、ポリカーボネート溶液から操作過程中の不純物を除去するに必要とする水及び種々のPH水溶液と、該ポリカーボネート溶液との密接な接触操作から得られる乳濁液の各相を完全に分離する改良方法に関するものである(当初明細書第二頁第一一行ないし第一五行)。

高い熱安定性、透明性や色などの光学的特性、物理的・機械的特性を有するポリカーボネートを得るためには、重合体からの不純物を除去することが必要であるが、それは通常水性相の重合分離後に粗製反応生成物から得られたポリカーボネートの有機溶液を不純物の種類によつて決められるPH条件の下において、該溶液を水及び水溶液と密接に接触させて精製することによつて行われ、精製操作の効率は、相間の密接な混合の程度によるほか、主として各一回の洗浄段階で二相間で達成され得る分離度合に依存する。有機溶剤中のポリカーボネート溶液の高粘性、結果として非常に安定な分解液の形成を伴う効果的な洗浄を達成するために必要な二相の相互分散の程度を考慮に入れると、有機相と乳濁液を形成する水相との間の効果的な分離を達成するために、後者を液―液遠心分離機において得られるごとき非常に強い重力に供することが必要であつた。しかし、遠心分離機を使用して精製操作をするには遠心分離機の技術的な複雑さやポリカーボネート溶液の特性に関して多数の障害を有し問題があつた(同第二頁第一六行ないし第六頁第一四行)。

本願発明は、遠心分離をすることなく相の完全分離を達成することを目的とし(同第六頁第一九行ないし第七頁第二行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(手続補正書第三頁第三行ないし第一一行)。

本願発明は、前記構成を採用したことにより、装置の建築又はその操作が簡単となり、かつ〇・二ないし五〇の範囲にある重量比を示す乳濁液、あるいは非常に大きい見掛粘度を有する乳濁液に対しても有効に分離することができるという作用効果を奏するものである(当初明細書第七頁第二〇行ないし第一一頁第一〇行)。

2 引用例には審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

3一致点の認定について

原告は、本願発明も引用例記載の発明も、ともに水との接触角が四〇度以下である繊維層を用いる点で同じである、とした審決の認定は誤りである、と主張する。

引用例記載の発明は、濾材層として水との接触角が四〇度以下であるものを用いることは前記2で認定したとおりである。

一方、前掲甲第三号証によれば、本願発明の必須要件項である特許請求の範囲第1項には前記本願発明の要旨のとおりの構成が記載されていることが認められ、右事実によれば、本願発明では濾材層と水の接触角について限定されておらず、接触角が四〇度以下の濾材層を排除しているものではないから、この点で両者に差異はない。

このことは、本願発明における繊維層には水との接触角が四〇度以下であるガラスウール、ガラス繊維、木綿繊維等が含まれている(この点は当事者間に争いがない)ことからも明らかである。

したがつて、本願発明も引用例記載の発明も、ともに「水との接触角が四〇度以下である繊維層を用いる点で同じである」とした審決の認定に誤りはない。

4 相違点に対する判断について

繊維層の厚さについて引用例記載の発明には具体的に一〇cm(一〇〇mm)と示されていることは当事者間に争いがなく、右数値は本願発明において規定する繊維層の厚さ一〇~五〇〇mmの数値範囲に包含されるので、引用例には本願発明の規定する繊維層の厚さについて開示されているものと認められる。

そして、一般に油水分離技術において、見掛密度〇・二~〇・七g/cc程度の繊維層を用いること、及び空間速度〇・〇一~二cm/秒程度で通過させることは本件出願前周知の技術であることは当事者間に争いのない事実であることからして、これら技術を有機ポリカーボネート溶液の精製における油水分離に適用し、本願発明のように構成することは当業者にとつて格別困難なことであるとは認められない。

したがつて、引用例に記載の技術及び本件出願前周知の技術から、相違点に記載の本願発明の構成を得ることに格別困難性はないとした審決の判断に誤りはない。

原告は、本願発明は、繊維層の厚さ、見掛密度、及び空間速度について数値の特定範囲を設定し、しかもその三者を組み合わせることによつて引用例記載の発明のように操作を六回ないし二五回繰り返して始めて精製を完了するのとは異なり、一回の操作で不純物を除去し得、そのために連続的精製が可能になるという予期し得ない格別の作用効果を奏するのである、と主張する。

なるほど、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例に示された実施例1ないし4においては、繊維層を通過させ分離する水溶液層を除去する操作を六回ないし二五回繰り返すことによつて精製を完了していることが認められるが、引用例には、「実施例中純水は比較的伝導度が一~二μΩ-1cm-1のものを使用し、精製完了時点は水溶液層の比電気伝導度が純水に近い二μΩ-1cm-1となる点とした(第四欄第四五行ないし第五欄第三行)。」と記載されているように精製されて得られるポリカーボネートはきわめて純粋なものであることが認められる。

他方、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、種々の繊維を使用して乳濁液を精製した実施例の結果が別紙のとおり示されていることが認められ、それによれば分離後有機相中水含有量の重量パーセンテイジが示されているが、引用例記載の発明との比較において問題とすべきことは、分離後の有機相中に含まれている水の純度の対比であり、この点の数値が実施例からは明らかでない本願発明において、一回の精製をしただけで、多数回精製を繰り返した引用例記載の発明と同様の効果が得られると認定することはできず、原告の前記主張は採用し得ない。

5 以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明についての一致点及び相違点に対する審決の認定、判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

乳濁液は濾過材の層を通過し、二層に分離した各相を濾過層の先において連続的に除去し、該工程において乳濁液は空間速度〇・〇一~二cm/秒で、厚さ一〇~五〇〇mm、見掛密度〇・二~〇・七g/ccの繊維層を通過することを特徴とする、有機ポリカーボネート溶液の精製工程を使用し、工程不純物を中に含有する水と有機溶剤に溶解したポリカーボネートの有機相とから成る乳濁液の連続的分離方法

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