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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)251号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 原告は、相違点<1>及び<2>に対する審決の判断は誤つていると主張するので、以下、この点について判断する。

引用例に審決の理由の要点2摘示に係る記載があること、本願発明と引用発明を対比すると、審決の理由の要点3摘示のとおりの対応関係があり、同摘示に係る相違点<1>及び<2>の構成を除いて両者の構成に差異がないことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

1 相違点<1>の判断の誤り(取消事由(1))について

原告は、審決が、引用発明の小突起の形状を半球状かそれに近い形状と認定したことを非難し、右認定は誤つていると主張するので、まずこの点について判断する。

審決の理由の要点3摘示のように、本願発明も引用発明も共に、縦型穀類選別機における選別精度の向上を目的とし、そのため両者共、選別作用を営む区域に位置する螺旋羽根(本願発明)又はスパイラル翼(引用発明)の上面に凸部(本願発明)又は小突起(引用発明)を形成したものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許願書添付の明細書及び図面)、同第五号証(本願発明に係る昭和六三年一〇月二二日付け手続補正書)、同第九号証(同平成元年三月一五日付け手続補正書)及び同第四号証(引用例)によれば、両発明の選別網体の内側に設置された螺旋羽根、スパイラル翼共、従前は平板な金属板であつたため、下部の供給域から供給された穀類が大きな抵抗を受けることなく螺旋羽根又はスパイラル翼を上昇しつつ搬送され、その結果、選別域において選別網体の網目による十分なふるいにかからないまま選別作用が終了し、取出域に至つて放出されていたこと、このため選別精度が十分でなく、この点を改良する目的で両発明共、螺旋羽根又はスパイラル翼の上面に凸部又は小突起を設け、上昇搬送中の穀類に抵抗を与えることにより、穀類をよく攪拌し、選別網体に強く押し付けるなどして、選別域において、選別網体の網目により穀類を十分にふるいにかけて選別作用を行い、穀類の選別精度を向上させようとするものであることが認められる(右の選別作用における本願発明の凸部と引用発明の小突起との間に機能上の差異が認められないことは後に説示するとおりである。)。

しかして、本願発明では、前記のように、凸部の形状を半球状のものとしているところ、前掲甲第二、第五、第九号証によるも、選別作用自体との関連で、本願発明が凸部の形状として半球状を採択したことの技術的意義を見出すことはできないのであるが、穀類選別機において、選別対象である穀類等に可能な限り損傷を与えないことが第一義的要請であることに鑑みれば、本願発明において、穀類が上昇搬送される螺旋羽根上の凸部の形状を半球状とした理由は、この点にあるものと解するほかない。

他方、引用発明も穀類選別機に係るものであるから、右同様の第一義的な要請が求められるのは当然であり、引用例に特段の明示的な記載がなくても、右要請に応えるべく穀類が上昇搬送されるスパイラル翼上の小突起もやはり半球状か又はそれに近い形状に形成されているものと推認して差し支えないものというべきである。本件全証拠によるも引用発明において、かかる形状を採用することの技術的障害となる特段の事情を見出し得ない。この点について更に引用例の記載を検討するに、前掲甲第四号証(引用例)によれば、引用発明においては、スパイラル翼上に小突起(別紙図面(二)、第2図)のほか、小突起に代わるものとして小穴(同第3図)、凸条(同第4図)、溝(同第5図)等を設け、又は軟質ゴム、スポンジ等の材料からなる軟質弾性板を被着させているが(同第6図)、右軟質弾性板を用いた場合につき「軟質弾性板18を用いるときは、穀類表面に傷がつかない長所を有する」との記載があることが認められ、この記載によれば、引用発明においても穀類に傷を付けないようにすることについて考慮していることを看取することができる。

原告は、引用例には小突起の形状につき特別の記載がないというが、明示的な記載がないからといつて、前記のような考慮が払われていないとすることができないのは当然のことであるし、また、前記の軟質弾性板を用いた場合についての記載は、前述したように、前記の考慮の存在を窺う根拠とはなり得ても、これを否定する根拠とはなり得ないものである。また、成立に争いのない甲第一〇号証は引用例の発明者と同一人による発明に係る特許公報であり、同公報には、穀粒の表面に傷を付けないようにする発明が記載されているが、同一人によるかかる発明が存在すること自体、前述したような穀粒に損傷を与えないようにする技術的課題の存在を裏付けるものであるから、かかる発明の存在は、引用発明において前記のような考慮が払われていることを推認する根拠とはなり得ても、その障害となるものではない。さらに、原告は、本願発明の凸部はスパイラル翼上面の穀類を選別中、攪拌、押付け、姿勢変更することによつて選別効率の向上を図るものであるのに対し、引用発明は動摩擦抵抗を大きくするもので、その作用効果が異なることからすると、引用発明の小突起の形状は本願発明の球状とは異なると主張するので検討する。前掲甲第二号証(本願明細書)の発明の詳細な説明の欄には、本願発明の凸部の作用として、その作用機構は必ずしも明らかではないが、原告主張のような攪拌等の前記の作用が得られる旨の記載がある。これに対し、引用発明に係る前掲甲第四号証によれば、スパイラル翼上の前記小突起等はスパイラル翼が金属平板の場合の動摩擦より大きな動摩擦を得るため設けられたものであること、その作用効果として、「スパイラル翼上面3aの動摩擦抵抗が大きいので、第8図に示す如く、該上面3aに直接接触する穀粒B1と最上方にある穀粒C1は、スパイラル翼3が2点鎖線X、Yに示す如く回転移動するに応じてB1→B2→B3、C1→C2→C3に示す如く、互いにずれを生じる。そのため、そのようなずれの小さい従来法の場合よりも、穀粒群はよく攪拌されながら上昇していくので、これによつても選別性能は高くなる。」(三頁右上欄六ないし一五行)、「スパイラル翼上面の動摩擦抵抗を大きくしてあるので、粒体は強く網に押し付けられ、又粒体群は十分長く網に当接し、更によく攪拌されるので選別性能が従来に比べ格段に向上した」(同頁左下欄一ないし四行)との記載が認められるところ、これらの記載を甲第二号証の本願明細書の前記記載と対照すれば、その文言自体はともかくとして、引用発明においても小突起による穀粒の攪拌、姿勢変更、押付けの作用が認められるところであり、他にこれを左右するに足りる証拠はないから、原告の前記主張は前提において誤つており、採用できない。

したがつて、取消事由(1)は失当である。

2 相違点<2>の判断の誤り(取消事由(2))について

本願発明においては、凸部の半径が穀類の短径の二ないし六倍程度及びその突出高さは穀類の短径の二倍以内程度と定められていることは当事者間に争いがない。本願発明において螺旋羽根上に凸部を設けたことにより、選別精度に向上がみられたとしても、その点についてはスパイラル翼上に小突起を設けた引用発明において既に示唆されているところであるから、選別時において、凸部の形状を穀類を損傷しないような半球状とした上で、選別精度のより良い形状の凸部を設けることは、実験により適宜定め得るものであるということができる。したがつて、本願発明において右のように限定された形状の凸部が顕著な効果を奏し得たものと認められない限り、この点についての進歩性を肯認することができないものというべきところ、前掲甲第二、第五、第九号証によるも、本願発明の凸部の形状を前記のように限定したことによる格別の作用効果を窺うに足りる記載は認められない。もつとも、前掲甲第二号証に記載された本願発明の実施例よれば、凸部の半径及び突出高さを各三ミリメートルとした場合と、凸部を設けない従来品の場合との選別精度を比較したところ、本願発明の実施品の方が良好な選別精度が得られたとする結果が示されているが、右実施例の凸部の大きさは、原告主張に係る本願発明の凸部の大きさである、突出高さが三・六ミリメートル以下、直径が三・六ミリメートルないし一〇・八ミリメートルとの限定値内に属しているというだけで、右限定値外の大きさを持つ凸部の場合との比較対照結果は全く示されていないのであるから、前記の実施例の結果のみから凸部の大きさを前記のように限定したことによる格別の効果を認めることができないのはいうまでもないところである。

原告は、凸部の大きさの相違が、本願発明においては穀粒の攪拌、押付け、姿勢変更の作用を生ずるのに対し、引用発明においては動摩擦抵抗の増大をもたらすにすぎないとの作用効果の相違を生ずると主張するが、両者の作用に格別の相違を見出すことができないことは前項に説示したとおりであるから、右主張も採用できない。

そうすると、結局、本願発明において、凸部の大きさを前記のように限定したことによる効果についても他と区別し得る格別の効果が得られたものと認めることはできないものといわざるを得ない。

してみると、本願発明において、凸部の大きさに前記のような限定を付したことによる格別の作用効果が明らかでない以上、本願発明における凸部と引用発明における小突起の大きさを詳細に対比して論じてみても、技術的に無意味というべきであるから、この点に関する原告主張も採用できない。

したがつて、取消事由(2)は失当である。

3 以上のとおりであるから、原告の取消事由はいずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

螺旋軸の外周に螺旋羽根を有して成り、円筒状の選別網体の内部に、同心かつ回転自在に収嵌されて穀類選別機の主要部を構成し、螺旋軸の回転により、螺旋羽根にて最下端にある掻上域から選別域を経て取出域まで穀類を上昇搬送する揚穀螺旋体において、上記螺旋羽根の選別域に存在する部分の上面に半球状凸部を形成するとともに、この半球状凸部は、その半径が穀類の短径の二~六倍程度およびその突出高さは穀類の短径の二倍以内程度としたことを特徴とする穀類選別機の揚穀螺旋体。(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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別紙図面(二)

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(他は省略)

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