東京高等裁判所 平成2年(行ケ)63号 判決
一 請求の原因(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いない甲第二号証(特許願書添付の明細書)及び第九号証(手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、左記のような記載が存することが認められる(別紙図面一参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願発明は、せんべいの製造装置に関する(明細書第一頁第一四行)。
本願発明の課題は、特に玄米せんべいの製造に適し、砂糖などを全く用いずに歯ざわりの柔らかいせんべいの製造装置を提供することに存する(同第一頁末行ないし第二頁第三行)。
(二) 構成
本願発明は、右課題を解決するために、その要旨とする構成を採用したものであつて(手続補正書第二丁第五行ないし末行)、要するに、玄米などの穀物を、気密状態の上下焼型内において圧縮し焼成した後、圧縮の解放によつて焼成玄米を瞬時に膨脹させ、保型されたせんべいを得ようとするものである(明細書第一頁第一六行ないし第一八行)。
別紙図面一は、その一実施例を示すものであつて、第1図は正面図、第2図は側面図、第8図は作動回路図である(同第一一頁第一一行ないし第一六行)。なお、図において、24ないし29がリミツトスイツチ、33、33a、33b、33c、33d、が四方電磁弁、5が第一のエアーシリンダー、11が第二のエアーシリンダー、19が第三のエアーシリンダー(同第一一頁第一七行ないし第一二頁第五行)、T1(1~3)が第一のタイマ、T2(8~5)が第二のタイマである(同第六頁第一五行及び第一六行)。
(三) 作用効果
本願発明の装置は、機構が簡単かつ小形化が可能でありながら、歯ざわりが良い玄米せんべいを、能率的に多量生産することができる(同第一一頁第二行ないし第七行)。
2 一方、引用例に審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明と引用例記載の発明が審決認定の一致点及び相違点を有することは、原告も認めて争わないところである。
しかしながら、原告は、相違点(すなわち、引用例には、本願発明が要旨とする「リミツトスイツチ、タイマー、電磁弁、エアシリンダー」についての記載が存しない点)に関する審決の判断は誤りであると主張するので検討するに、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る乙第一号証(沢井善三郎監修「シーケンス自動制御便覧」株式会社オーム社昭和三九年一二月一五日発行)には、「シーケンス自動制御の回路は、リレーやタイマの組み合わせが主体となることが多いが、これに各種の検出回路、電子回路、操作機器用の接触器、電磁弁などが接続され」と記載され(1-9頁左欄第二三行ないし第二六行)、かつ、6-562頁左欄には、エアシリンダーを用いる自動装置(6-561頁右欄第八行及び第九行)に使用される、「リミツトスイツチ、マグネツトバルブ(電磁弁)、タイマ」及びリレーによつて構成されるシーケンス制御回路が図示されていることが認められる(別紙参考図を参照)。また、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る乙第二号証(石原智男ほか編集「油圧工学ハンドブツク」株式会社朝倉書店昭和四七年五月一〇日発行)には、「油圧におけるシーケンス回路は、電磁弁、リミツトスイツチ、タイマ、リレーなどを利用する電気回路構成によるものが大部分を占めており」と記載されていることが認められる(第四九一頁第七行及び第八行)。このように、自動的に作動する装置の制御手段(シーケンス制御は、そのような制御手段の一つに他ならない。)を、「リミツトスイツチ、タイマー、電磁弁」を適宜に組合わせて構成することは、本件出願前の技術常識であつたことが明らかである。
さらに、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る乙第三号証(池辺洋ほか監修「自動制御機器便覧」株式会社オーム社昭和三七年六月一五日発行)のⅦ-20頁左欄第七行以下には、「空気作動式駆動部」の得失が、油圧作動式あるいは電動式との比較において論じられていることが認められ、エアシリンダーの構成ないし作用も、本件出願前の技術常識であつたことが明らかである。
そうすると、引用例記載の発明が、前記のように「シリンダー、ステツピングリレー」を構成要素とする自動製造装置に関するものである以上、引用例記載の発明においても制御手段の構成要素として「リミツトスイツチ、タイマー、電磁弁」が使用されており、また、所望の目的に合致するならばシリンダーを「エアシリンダー」にすればよいことは、当業者ならば何らの困難もなく理解し得る当然の事項にすぎない。要するに、本願発明と引用例記載の発明の相違点は、食品の自動製造装置の構成を説明するに当たつて、当業者にとつて技術常識をなす周知慣用の技術を願書添付の明細書ないし図面に記載したか否かの差にすぎず、技術的に格別の意義を有する事項とは到底認めることができない(付言するに、本願発明の特許請求の範囲も、「エアシリンダー、リミツトスイツチ、タイマー、電磁弁」については、「作動を自動的に繰り返して連続的に製造し得るよう」構成する旨を記載しているのみであつて、これらの構成要素の組合わせについて格別に特徴を有する構成が記載されているわけではない。)。
3 以上のとおりであるから、各相違点に係る本願発明の構成は慣用技術(ないし、当業者が適宜に選択実施し得た事項)であつて、本願発明は引用例記載の発明と実質的に同一であるとした審決の認定及び判断は首肯するに十分であつて、審決には原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
上下動可能の底板を有する下焼型と、
前記下焼型に昇降自在で、下降時に下焼型に気密状に嵌合する上焼型と、
ホッパー内の原料を一定量移送する、スライド自在の供給板とを有し、
供給板は、前記上焼型の上昇時、下焼型内で焼成保形されたせんべいを押し出すと同時に、下焼型内に一定量の原料を供給し、
該作動を自動的に繰返して連続的に製造し得るよう、一連のエアーシリンダー、リミットスイッチ、タイマー、電磁弁、リレー装置を設けて構成したこと
を特徴とする、せんべいの製造装置