東京高等裁判所 平成2年(行ケ)71号 判決 1991年3月14日
アメリカ合衆国カリフオルニヤ州 九〇五〇九
トーランス スカイバーク ドライブ 二六〇〇
原告
ハイーシエア コーボレーシヨン
右代表者
ペリー エー ルース ジユニア
右訴訟代理人弁理士
石戸元
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官 植松敏
右指定代理人通商産業技官
鈴木孝幸
同
菅生圭一
同
松木禎夫
同通商産業事務官
高野清
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和六三年審判第一四六七三号事件について平成元年一一月二四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文第一、二項同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五五年一〇月六日、名称を「二片リベツト」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和五五年特許願第一四〇三六〇号)をしたところ、昭和六三年四月一三日拒絶査定を受けたので、同年八月九日審判を請求し、昭和六三年審判第一四六七三号事件として審理された結果、平成元年一一月二四日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年一二月二七日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
シヤンク体20は軸21、ヘツド22、シヤンケ23及び螺子24をその軸に沿つて順次有し、このシヤンケ体20は円筒状のシヤンケ23を有し、前記螺子24は螺旋状で一定のピツチを有するが、その径はシヤンケ23から最も遠い端部の最大値より延長するに従つて減少し、その最大径はシヤンケ体20の径より大きくなく、螺子24をスエージすべきカラー35は内壁36と外壁37と第一と第二の端部38、39を有し、内壁36は前記両端部間を延びかつ前記螺子の少なくとも一部を受ける一定径の通路40を形成し、これによつて加工片の孔内におかれたシヤンケの螺子の少なくとも一部は加工片87、88の表面より突出し、カラー35はこの螺子24上におくと共にシヤンケを推力で孔に戻るのを阻止するように制限し、軸方向と径方向の両成分を有するスエージ設定力をシヤンケから最も遠いカラー35の端部39に作用させ、これによつてカラーの他端部を加工片に対して力を加え、前記内壁を螺子の最大径の前述の端部にスエージし、その後スエージ力を外壁に沿つて軸方向に連続的に動かして順次内壁をスエージして螺子に係合させると共に加工片に対する力を保持しこれによつて螺子を介してシヤンケ体にヘツドから離れる方向の軸方向成分を有する力を作用させるようにした二片リベツト(別紙図面一参照)。
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
2 これに対し、米国特許第二九五五五〇五号明細書(以下「第一引用例」という。)及び昭和五五年特許出願公告第二六三二五号公報(以下「第二引用例」という。)には、それぞれ次の技術的事項が記載されている。
(一) 第一引用例
(イ) 軸、ヘツド、円筒上のシヤンケ及び複数筒のリング状凹溝(circumferential grooves)をその軸に沿つて順次有するビン体と、内壁と外壁と第一、第二端部を有し、内壁は前記両端部間を延びかつ前記リング状凹溝の少なくとも一部を受ける通路を形成した、前記リング状凹溝をスエージすべきカラーからなる二片リベツト
(ロ) シヤンケから最も遠い位置から順に配列する三ケのリング状溝55、54、53のうち55が最大の頂部径と底部径を有し、隣接する54は頂部径、底部径とも55よりは小さく、53の頂部径及び底部径は54のそれよりも小さいため、カラーをリング状凹溝にスエージするときは、スエージ55、54、53の順に起きる(「第7図及び第三欄「A groove 54 has …, while still another … groove 54。with such an arrangement, … will be successively engaged in that order by the collar as it is swaged on.」)。
(ハ) リング状凹溝の最大径はシヤンケ径より大きくない(第三欄、第四欄記載の寸法例)。
(ニ) 加工片の孔内に位置させたシヤンケ体に連なるリング状凹溝にカラーを嵌装し、ヘツドがカラーに加わるスエージ用推力によつて後退しないようbucking barによる押圧を維持しつつ、アンビルを前進させてカラーの構成材料を塑性変形により前記リング状凹溝にスエージすること。
(二) 第二引用例(別紙図面二参照)
(イ) ヘツド、シヤンケ及びロツケ部をその軸に沿つて順次有するピン体と内壁と外壁と第一、第二端部を有し、内壁は前記両端部間を延びかつ前記ロツケ部の少なくとも一部を受ける一定径の通路を形成した、前記ロツケグループをスエージすべきカラーからなる二片リベツト(「フアースナ組立体」はこの種の二片リベツトの別称である。)
(ロ) 前記ロツケグループとして環状グループに代えて螺子(ネジ山)を選択できること(第六欄第二三行ないし第二七行目の「第4図の・・・こともできる。」という記載及び第七欄第一二行ないし第一五行の「好ましくは・・・こともできる。」という記載)及び環状グループに代えて螺子(ネジ山)を採用した場合には、カラーはネジグループにスエージされること(第八欄第三行ないし第五行の「つづいて・・・ものである。」)という記載)。
(ハ) 螺子部(ネジ山部)に対するカラーのスエージを具体的にどのような手段を用いて行なうかについて明示するところがないが、第3a図及び第4a図記載のものが、それぞれの前段階を示す第1図、第3図及び第4図(第八欄第一一行ないし第一六行の「第3a図は・・・態様を示す図、」という記載)記載のものとの比較において、カラーの外壁がテーパ状に変形を強制するような連続的な外力が作用することを示唆している。
3 そこで本願発明と第一引用例記載のものとを対比すると、まず、2(一)(ロ)の記載は、リング状凹溝の径が、「シヤンケから最も遠い端部の最大値より延長するに従つて減少」することと同義であり、またリング状凹溝の「最大径はシヤンケ体の径より大きくない」点は前記2(一)(ハ)に記載のとおりである。次に、「シヤンケを推力で孔に戻るのを阻止するように制限し、スエージ設定力をシヤンケから最も遠いカラーの端部に作用させ、これによつてカラーの他端部を加工片に対して力を加え」る点は前記2(一)(ニ)にいうbucking barとアンビルの機能そのものの言い換えにすぎない。さらに、2(一)(ロ)におけるスエージがリング状凹溝55、54、53の順に起きること及びカラーをリング状凹溝に嵌装した際にカラー内壁とリング状凹溝との間に存在した空隙部がアンビルの前進によるカラー構成材料に生じる径方向の塑性流動により充填されるという前記2(一)(ニ)の記載を考慮すれば第一引用例記載のものが、カラーの「内壁」をリング状凹溝の「最大径の端部にスエージし、その後スエージ力を(カラーの)外壁に沿つて軸方向に動かして順次内壁をスエージして」リング状凹溝に「係合させると共に加工片に対する力を保持しこれによつて」リング状凹溝を介して「シヤンケ体にヘツドから離れる方向の軸方向成分を有する力を作用させる」ことが明らかであり、またその際前記の力が「軸方向と径方向の両成分を有する」ことも自明である。そして、本願発明は、軸、ヘツド、円筒体シヤンケ、スエージ予定部をその軸に沿つて順次有するピン体と、内、外壁と第一、第二端部を有し、内壁は前記両端部間を延びかつ前記スエージ予定部の少なくとも一部を受ける通路を形成した、前記スエージ予定部をスエージすべきカラーを基本的構成素材として有する点及び本願発明が属する技術分野において前記2(一)(イ)に示すように第一引用例記載のものと一致している。
結局両者の間には、次のような三点で相違が認められる。
A 本願発明がスエージ予定部として一定ピツチの螺子を用いるのに対し、第一引用例記載のものが、複数筒のリング状凹溝を用いる点(相違点A)、
B 本願発明が、スエージ力を軸方向に「連続的に動かすことによつてスエージを連続的に発生させる効果を有するのに対し、第一引用例記載のものが、スエージ力を軸方向に連続的に作用させても、スエージ効果は前記2(一)(ロ)に示すようにリング状凹溝の配列順に段階的に起こる点(相違点B)、
C 本願発明が一定径の通路を有するのに対し、第一引用例記載のものが、一部において径を異にする通路を有する点(相違点C)。
4 相違点A、B、Cについて検討すると、まずAのスエージ予定部に螺子を用いる点及びCの一定径の通路を有するカラーは、前記2(二)(イ)によりやはり本願発明と技術分野を同じくする第二引用例記載のものにおいて開示されているところである(前記2(二)(ロ)、(イ))。そして、第二引用例記載のものもまた前記2(二)(ハ)に示すようにカラー材料に塑性流動を起こす軸方向の連続的な外力が作用するものと認められる。
次に、Bの相違すなわち、カラー材料の塑性流動が連続的に発生するという効果については、リング状凹溝と異なり、溝が連続して形成されているという螺子の基本的属性に基づくことが明らかであるから、ピツチ一定の螺子である点を含め当業者であれば充分予測できる範囲内のものと認める。したがつて、第一引用例記載のもののリング状凹溝に代えて一定のピツチの螺子を用いた点は、当業者が容易に想到できる設計上の改変と認めざるを得ないものである。
5 以上のとおり、本願発明は、当業者が第一引用例及び第二引用例記載のものをもとに容易に発明することができる程度のものとする外ないから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないものである。
四 審決の取消事由
第一引用例及び第二引用例には、審決認定の技術的事項が記載されていること、並びに本願発明と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点についての審決の認定はすべて認める。
しかしながら、審決は、第二引用例記載のものの技術内容を誤認した結果、相違点A、B、Cについての判断を誤り、ひいて本願発明は第一引用例及び第二引用例記載のものから当業者が容易に発明することができたものであると誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。
すなわち、相違点A、Cについて、スエージ予定部に螺子を用いる点及び一定径の通路を有するカラーは、第二引用例に開示されていることは認めるが、第二引用例記載のものは、スエージ加工している本願発明とは異なり、ブローチング加工又はマンドレル加工されているものであるから、これか本願発明と技術分野を同じくするものとはいえない。また、第二引用例記載のものは前記のような加工態様であり、削り加工であるから材料の塑性流動は起きないものである。
この点について被告は、第二引用例の第二欄第四行ないし第六行、第四欄第四一行ないし第五欄第七行及び第五欄第二二行ないし第二六行の記載、とりわけその内の「すえ込み」なる記載からして、第二引用例記載のものは、カラーをボルトのスエージ予定部にスエージ加工を行なつており、本願発明と技術分野を同じくするものである旨主張する。しかしながら、「すえ込み」が「スエージ加工」を意味するものではない。第二引用例記載のものは、カラー内面をそのすえ込み部に合わせてマンドレル加工あるいはプローチング加工しているので、単にカラーを外側から内側に向けて圧縮するだけの圧縮はめ合わせであり、これではそのすえ込み部とカラー内面の形状が一致しているので径方向の力のみが作用し、軸方向の引張り力は発生していないのである。
また、相違点Bについて、カラー材料の塑性流動が連続的に発生するという効果は、リング状凹溝と異なり、溝が連続して形成されている螺子の基本的属性に基づくものであることは認めるが、スエージ力を軸方向に連続的に動かすことによつてスエージを連続的に発生させる効果を奏させるために、リング状凹溝に代えて一定ピツチの螺子を用いることは当業者にとつて容易とはいえないものである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
原告は、第二引用例記載のものはブローチング加工又はマンドレル加工されているものであるから、これが本願発明と技術分野を同じくするとはいえないと主張する。
しかしながら、第二引用例には「単一駆動動作が工作物の孔を拡大する段階とボルトのロツクグループ部16上にカラーをすえ込みする段階とを含む(第二欄第四行ないし第六行)」、「フアースナピン10のブローチ刃が工作物のドリル孔21の中を引張られるに従つて、工作物のドリル孔は拡大され、ブローチチツブはブローチチツブによつて工作物ドリル孔21を通して引出され、引続いてブローチ刃は特殊サイズカラー24の中を通り、このカラー24が引張り工具の反力によつて工作物ライン26に対して当接保持されている間にカラーのドリル孔26をブローチ切削する。従つてブローチチツブはカラー24を通して引出され、これに続いてカラー24はロツクグループ16の上にすえ込みされる(第四欄第四一行ないし第五欄第七行)」、「マンドレル部材は工作物とカラーの中を引き抜かれてこの両者を単一動作で定寸し、この単一駆動動作の終点において、カラー部材24はすえ込みされてロツクグループ16と強く固着連接される(第五欄第二二行ないし第二六行)」との記載があり、そして右記載中の「すえ込み」に対応して、第二引用例記載のものの優先権主張の基礎となつた米国特許出願に係る米国特許第三九一五〇五二号明細書(乙第三号証)の第三欄第四七行、第三欄第六五行、及び第四欄第二二行には「Swaged」と記載されていることからして、カラーはブローチ加工又はマンドレル加工されるとともに、その後ロツクグループにすえ込み、即ち、スエージ加工されることが記載されている。したがつて、第二引用例記載のものは、カラーをボルトのスエージ予定部にスエージ加工を行なつている点で本願発明と技術分野を同じくするものである。
また、第二引用例記載のものは前記したとおりスエージ加工を行なつているので、カラーの構成材料の塑性流動が起きるものである。
次に、スエージ力を軸方向に連続的に動かすことによつてスエージ力を連続的に発生させる効果を奏させるために、リング状凹溝に代えて一定ピツチの螺子を用いることは、当業者にとつて容易とはいえないとの原告の主張については、第二引用例記載のものは前記したとおりスエージ加工を行なうものであり、さらに原告も自認するとおり第二引用例記載のものにおけるスエージ予定部は螺子であること、及びカラー材料の塑性流動が連続的に発生するという効果は、溝が連続して形成されているという螺子の基本的属性に基づくものであることからすれば、第二引用例記載のものは、スエージを連続的に発生させる効果を奏するものであることは明白である。また、螺子として一定ピツチのものを採用することはきわめて一般的なことであり、第二引用例記載のものが前記したように本願発明と技術分野が同一であるので、第一引用例記載のものにおけるリング状凹溝に代えて第二引用例記載のものの一定ピツチの螺子を用いることは、当業者が容易に想到できたものである。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証の」、二(平成元年一〇月二日付け全文補正明細書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。
本願発明はシヤンク体とカラーよりなりカラーはシヤンク体の螺子にスエージすなわち鍛接される二片リベツトに関するものである(補正明細書第四頁第一六行ないし第一八行)。
この種二片リベツトは公知であり、第一引用例記載のものは、カラーはシヤンク体の端部にスエージされており、右端部には複数個のリング形の隆起部が有り、その直径はシヤンク体の先端の最大より減少している(別紙図面一の第19図参照)。また、米国特許第三九一五〇五三号明細書記載のものは、カラーは径は同じであるが軸方向と異なつた位置にある複数個の同径のリングと深さの異なる溝にスエージされている(同図面第20図参照)。ところで、第一引用例記載のものは、リングからリングへの係合は段階的作用であり、溝内に不連続的にロツクされるカラーの外側材の流れに豫圧を起こす欠点があつた。
本願発明は、カラーと螺子が連続的で順次係合するような螺旋を設けてその螺旋角度による傾斜面でフアスナー及び装置全体均等に豫圧することのできる機械的利点を得ることを目的とし(同第四頁第二〇行ないし第六頁第三行)、本願発明の要旨記載のとおり構成を採用したものである(同第一頁第五行ないし第二頁第一〇行)。
本願発明は前記構成を採用したことにより、シヤンク体にロツクされているカラーの取り外しが従来のものに比較して容易となり、分解された止着装置も再使用することができ、また、カラーのシヤンク体に対する係合は、リング状の隆起部に沿つて段階的である従来のもの(第一引用例記載のもの)に対し、螺旋に沿つて連続的かつ前進的であり、軸方向の引張力が大きいという作用効果を奏するものである(同第一六頁第一四行ないし第一八頁第一一行)。
2 他方、第一引用例及び第二引用例には審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。
3 原告は、相違点A、Cについて、まず、第二引用例記載のものは、スエージ加工されている本願発明とは異なり、プローチング加工又はマンドレル加工されているものであるから、これが本願発明と技術分野を同じくするものとはいえず、また、第二引用例記載のものは前記のような加工態様であり、削り加工であるから材料の塑性流動は起きない旨主張する。
しかしながら、第二引用例には、「ロツクグループをスエージすべきカラーからなる二片リベツト」、「環状グループに代えて螺子(ネジ山)を採用した場合には、カラーはネジグループにスエージされる」及び「カラーのスエージを具体的にどのような手段を用いて行うかについては明示するところがないが(中略)カラーの外壁がテーパ状に変形を強制するような連続的な外力が作用することを示唆している」旨の技術的事項が記載されていることは原告も自認しているところであり、このことからすると、第二引用例記載のものはスエージ加工されていないものであるとする前記原告の主張は矛盾かあると思われるが、なお原告の主張に沿つて検討を加える。
成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、「本発明は、広い意味でブローチボルトまたはマンドレル加工と共に用いられる自己定寸ボルトフアースナ組立体に関するものである。(第二欄第九行ないし第一一行)」「カラー24は、自己定寸手段20、200が引張り工具の単一駆動動作で引き通されたときにブローチ加工あるいはマンドレル加工されるようにボルト上の自己定寸手段20、200よりも小さい内径を有し、前記単一駆動動作が工作物の孔を拡大する段階とボルトのロツクグループ16上にカラーをすえ込みする段階とを含むことを特徴とする自己定寸フアースナ組立体。(第一欄第三七行ないし第二欄第七行)」、「工作物の孔とカラーの孔のそれぞれの拡張は、フアースナ工具がボルトの引張り部に引張り力を加えることによつて単一駆動動作で行われるごとくし、この場合前記カラー部材は駆動動作の完了時にボルトの前記グループ部に対して最終的に固着される。(第三欄第一六行ないし第二一行)」、「第1図のフアースナは、多種類の引張り工具のいずれか、例えばHuck Model 353引張り工具またはその同等品を用いて、単駆動動作で締付け最終的緊定状態に置くことができる(第四欄第三六行ないし第四〇行」、「フアースナピン10のブローチ刃20が工作物のドリル孔21の中を引張られるに従つて、工作物のドリル孔は拡大され、ブローチチツブはブローチチツブによつて工作物ドリル孔21を通して引出され、引続いてブローチ刃は特殊サイズカラー24の中を通り、このカラー24が引張り工具の反力によつて工作物ライン26に対して当接保持されている間にカラーのドリル孔23をブローチ切削する。従つてブローチチツブはカラー24を通して引出され、これに続いてカラー24はロツクグループ16の上にすえ込みされる。(第四欄第四一行ないし第五欄第七行)」、「マンドレル部材は工作物とカラーの中を引き抜かれてこの両者を単一動作で定寸し、この単一駆動動作の終点において、カラー部材24はすえ込みされてロツクグループ16と強く固着連接される。(第五欄第二二行ないし第二六行)」と記載されていることが認められる。右記載に前記2で認定した第二引用例に記載の技術的事項並びに第1図ないし第4a図(別紙図面二参照)を併せ考えると、第二引用例記載のものは、自己定寸フアースナ組立体に関するものであり、工作物及びカラーをブローチング加工又はマンドレル加工をして孔を拡大させ、シヤンクを工作物の孔に通し、その後螺子状のロツクグループ部にカラーをすえ込み、すなわち「スエージ」してロツクグループと強く固着連接するものであることが認められる。
したがつて、第二引用例記載のものも、シヤンク体とカラーよりなりカラーはシヤンク体の螺子にスエージすなわち鍛接されるものである本願発明と技術分野を同じくするものであり、そして、第二引用例記載のものもまた、カラー材料に塑性流動を起こす軸方向の連続的な外力が作用しているものであるとした審決の判断に誤りはない。
原告は、第二引用例に記載されている「すえ込み」なる文言の意味は、単なる圧縮はめ合わせによる“締まりばめ”にすぎず、これを「スエージ加工」とする根拠はない、と主張する。
しかしながら、第二引用例の第3a図、第4a図(別紙図面二参照)をみれば、第二引用例には、カラーの外壁かテーパ状に変形を強制するような連続的な外力が作用していることが示唆されており(このことは前記2で認定したとおり当事者間に争いがない)、このことからして、第二引用例記載のものは、「スエージ加工」されていることが明らかである。さらに右点に関し、成立に争いのない乙第三号証によれば、第二引用例の優先権主張の基礎となつた米国特許出願に係る米国特許第三九一五〇五二号明細書の第三欄第四七行、第三欄第六五行、第四欄第二二行には「swaged」と記載されていることが認められ、これが第二引用例に記載された「すえ込み」に対応することは明らかである。
したがつて、第二引用例記載のものも、本願発明と同様、スエージ加工されているものであり、これに反する原告の主張は採用し得ない。
原告は、第二引用例記載のものは、ブローチング加工あるいはマンドレル加工されているものであつて、スエージ加工されているものではないと主張するが、工作物やカラーへのブローチング加工あるいはマンドレル加工は、これらのものに設けられている孔を拡大するための加工であつて、ロツクグループにカラーを圧接させるための工程であるスエージ加工の前段階での加工工程であり、ブローチング加工あるいはマンドレル加工されるものであるからスエージ加工はされないというものではない。
次に、原告は、相違点Bについて、カラー材料の塑性流動が連続的に発生するという効果は、溝が連続して形成されているという螺子の基本的属性に基づくものであることは認めるが、スエージ力を軸方向に連続的に動かすことによつてスエージを連続的に発生させる効果を奏させるために、リング状凹溝に代えて螺子を用いることは当業者にとつて容易とはいえない旨主張する。
しかしながら、溝が連続して形成されている螺子にあつては、スエージ力を軸方向に連続的に作用させた場合、スエージ効果は連続的に発生するということは当業者であれば容易に理解し得る技術常識である。してみると、スエージを連続的に発生させるという効果を奏させるために、第一引用例に記載のリング状凹溝に代えて第二引用例に記載の螺子を用い、本願発明のように構成することは当業者であれば容易に想到し得ることであるといわざるを得ない。
したがつて、相違点Bについての審決の判断にも誤りはない。
4 以上のとおり、相違点A、B、Cについての審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の附与については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項の各規定を適用して主文のとおり判決すを。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 岩田嘉彦)
別紙図面一
<省略>
別紙図面二
<省略>