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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)92号 判決 1992年3月16日

東京都世田谷区駒沢一丁目三番一五号

原告

キツチンハウス株式会社

右代表者代表取締役

早田康徳

右訴訟代理人弁理士

佐々木常典

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

佐伯とも子

松木禎夫

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  特許庁が、平成二年一月二五日、同庁昭和六三年審判第七三九八号事件についてした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五六年八月一日、名称を「収納家具の隙間封止具」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をしたところ、昭和六三年二月一六日、拒絶査定を受けたので、同年四月二八日、これに対する審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和六三年審判第七三九八号事件として審理した上、平成二年一月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年三月一六日、原告に送達された。

二  本願考案の要旨

収納家具の収納空間を画成する板材間に取付けられる一対の受具と、前記受具と結合する封止具本体とから成る、収納家具の隙間封止具において、前記受具及び封止具本体の一方には凹部が、他方には前記凹部と結合する凸部が、互いに前後方向に対抗するようにそれぞれ設けられ、前記凹部と凸部とはそのいずれか一方が弾性変形して着脱自在に結合するよう構成されたことを特徴とする、収納家具の隙間封止具(別紙本願考案図参照)。

三  本件審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は、前記二記載のとおりにあるものと認める。

2  一方、前置審査において平成元年一月一七日付けで通知した拒絶理由で引用した特開昭五二-一五七六八号公報(以下「引用例1」という。)には、収納家具の縦枠に取付けられる一方のブロツクと、前記ブロツクと結合する横棧とから成る收納家具の横棧部材であつて、前記横棧には凹部が、前記ブロツクには、前記凹部と結合する凸部が、互いに前後方向に対抗するようにそれぞれ設けられ、前記凹部と凸部とは、着脱自在に結合するように構成することが記載されている。

また、同じく実開昭五三-八六一三八号公報(以下「引用例2」という。)には、引出し仕切棧固定部を収納家具の側パネルに固着した引出し受棧の前部に設け、この引出し仕切棧固定部に引出し仕切棧を嵌着することが記載され、さらに、同じく実公昭五四-二一二三二号公報(以下「引用例3」という。)には、家具の幅木取付装置において、家具の支脚に装着される幅木取付具が、支脚を抱持する凹型の空間を形成する弾性材よりなり、弾性変形して結合することが記載されている。

3  そこで、本願考案と引用例1に記載のものを比較検討する。

(一) 後者の「横棧」は、引出し間の隙間封止の機能をも有するから、「隙間封止具本体」といえるし、また、後者の「ブロツク」は、前者の「受具」に対応するから、以下A及びBの点で、両者は相違するものの、他の構成においては、両者は一致するものと認める。

A 隙間封止具本体と結合する受具について、前者が、収納家具の取納空間を画成する板材間に取付けるのに比し、後者は、収納家具の縦枠に取付ける点。

B 受具及び封止具本体に設けられた凹部と凸部との結合において、前者は、そのいすれか一方が弾性変形するのに比し、後者は、そのような構成となつていない点。

(二) 相違点Aについて

収納空間を板材によつて画成する収納家具は、本願明細書に従来例として記載されているように周知である。また、隙間封止具本体は取納家具の横方向に組み込まれることから、その支持に当つて、収納家具の側部に、引用例1及び引用例2に記載のブロツクまたは引出し仕切棧固定部のような支持手段を取り付けることも周知である。そして、この支持手段の取り付けは、引用例1及び引用例2の記載から、収納家具の側部に使用される部材及びその構造に応じて適宜になされるといえる。

そうしてみると、受具を、側部に縦枠を有する引用例1の収納家具において、その縦枠に取り付けることに替えて、側部が板材である本願考案の収納家具においてその板材に取り付けることは、当業者がきわめて容易に実施できることであると認められる。

(三) 相違点Bについて

引用例3には前述したとおりの記載があり、幅木は、家具下部の目隠しとなるものであるから、一種の空間封止作用を有し、家具における隙間封止具とみることができ、本願考案のものと共通の技術であるといえる。そして、幅木は、幅木取付具を介して、支脚により支持されていて、また、支脚は、円柱形状をなし、幅木取付具の凹形空間に抱持され、その結合形態は、凸形状と凹形状のものといえるとともに、この幅木取付具は弾性変形して結合されることが明らかである。

そうしてみると、この相違点Bは、本願考案の隙間封止具を形成する受具及び封止具本体に、引用例3に記載の前記結合形態及び弾性変形による結合の技術を単に適用することによつて、当業者がきわめて容易に実施できるところであると認められる。

4  したがつて、本願考案は、引用例1ないし引用例3に記載の事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願考案と引用例1に記載のものとの相達点Bについての判断を誤つた結果、本願考案が引用例1ないし引用例3に記載の事項に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと誤つて判断をしたものであるから取り消されなければならない。

1  本件審決は、相違点Bについて、「引用例3には、家具の幅木取付装置において、家具の支脚に装着される幅木取付具が、支脚を抱持する凹形の空間を形成する弾性材よりなり、弾性変形して結合する」ことが記載されているとした上で、「幅木は、家具下部の目隠しとなるものであるから、一種の空間封止作用を有し、家具における隙間封止具とみることができ、本願考案のものと共通の技術であるといえる。」と認定している。

しかしながら、本願考案は、家具の収納空間に関連する隙間すなわち収納家具における引出し間又は引出しと扉の間における隙間の封止具に関するものであつて、前記引出し等の間に設けられる隙間封止具本体の取付及び取外しを簡単に行えるようにすることを目的とし、その目的を達成するために、前記の本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したのであつて、このような構成としたことにより、隙間封止具本体を押し込み又は引き出すことによつて取付け又は取外して家具の据付け調整等の作業を容易に行えることができるという効果を奏するものである。

一方、引用例3に記載のものは、家具の底板の下面に取り付けた支脚によつて右底板と家具の置かれる床面との間に形成されるいわば無用の空間に関連するものであつて収納空間に関連するものではない。すなわち、引用例3は家具の底板より垂設した支脚の前部に、支脚よりもやや低寸の幅木を、簡単に取付けるようにすることを目的とし、その目的を達成するために、家具の支脚に装着される抱持片が、内向円弧状をなす軟質合成樹脂よりなる構成とし、このような構成により、抱持片を弾発作用により支脚と結合させ、家具の下部の空間の目隠しとなるようにし、かつ家具の下部の美観を向上させるようにしたものである。

このように、引用例3に記載の幅木は、本願考案におけるような目的を達成するためのものではなく、かつ、本願考案とは構成面においても、作用効果面においても全く異なるものであることは明らかである。

さらに、引用例3に記載のものにおいて、「隙間」の語、特に、本願考案における引出し間等の隙間を意味したり、示唆する語は全く見当たらないほか、その図面においても家具の下部が示されているだけで、本願考案にいう隙間部分は何ら示されていない。また、引用例3に記載のものは抱持片と支脚とが凹凸結合するというようなことも述べていないし、まして、支脚に抱持片に対応する凸部を設けるという点も何ら開示しておらず、かつ、これらの手段を本願考案にいう隙間部分の処理に適用する旨の説明又は示唆も何ら見当たらない。

以上のとおり、本願考案における隙間封止具本体と引用例3に記載の幅木とは、家具の構成部材として全く性質の異なるものであり、引用例3に記載の幅木取付装置は、引用例1とも本願考案とも何の関連もないのである。

したがつて、本件審決は、本願考案における隙間封止具の実質的な意味を十分に把握することなく、本願考案の名称に安易にとらわれて、引用例3の幅木が、本願考案にいうような意味での「家具における隙間封止具とみることができる」と誤認し、その結果、「本願考案のものと共通の技術である」との誤つた認定に至つたものである。

2  本件審決は、引用例3に関して、「そして、幅木は、幅木取付具を介して、支脚により支持されていて、また、支脚は、円柱形状をなし、幅木取付具の凹形空間に抱持され、その結合形態は、凸形状と凹形状のものといえるとともに、この幅木取付具は弾性変形して結合されることが明らかである。」と認定している。

しかし、前記のとおり、引用例3における支脚は、本願考案における受具のように家具の収納空間を構成している板材間に設けたものではなく、家具の底板の下部即ち収納空間の外部空間に設けたものである。すなわち、右支脚は、本来、家具の底板が床面に直接接触しないように底板に取付けられるもので、底板を含む収納部のいわば支持部材なのである。換言すれば、右支脚は、家具のいわば基本構成部材であり、基本的には右幅木を取付けるための部材ではなく、幅木を取付けるために利用されたにすぎないのである。

引用例3の支脚は、家具の底板に対して突出して設けられているから、その意味で底板に対しては「凸形状」であるといえようが、幅木取付具に対しては、単にその凹形空間に抱持される、いわば棒にすぎないものである。本件審決における表現を借りれば、支脚は「円柱」であつて、幅木取付具における「凹」に対するものとしての「凸形状」のもの、すなわち凸部でないことは明らかである。右支脚はあくまで支脚(円柱)であり、これを利用して幅木を取付けるための幅木取付装置の考案がなされたのであるからこそ、引用例3において「支脚を抱持片間に抱持させる」との記載がなされているのである。したがつて、右支脚が本願考案における凸部に何ら相当しないことは明らかであり、本件審決が右支脚を本願考案における「凸部」と同一技術として把握し両者を同一の構成として対比しているのは誤りである。

被告は、この点に関し、「その支脚の形状からして、その結合形態において、支脚は、前記凹部に対し、凸部に相当するものであり、そのような結合において、一方が弾性変形することを、審決は引用したものである。したがつて、原告の言うような、本願考案における隙間と引用例3に記載のものにおける空間の意味が本質的に全く異なる、本願考案における隙間の封止と引用例3に記載のものにおける空間の封止とは全く目的が異なる、などの点は、いずれも、審決の認定、判断が誤りであるとする理由にはならない。」と主張している。

しかしながら、被告が本願考案と引用例3に記載のものにおける各目的等を比較の前提として考察することなく直ちに引用例3に記載のものにおける支脚が凸部に相当するものであると認定したのは、本願考案における凸部の観念を先入観として抱いたことに起因するものであつて、明らかに考察の順序を誤つたもの、すなわち論理を誤つたものといわざるを得ないのである。

3  本件審決は、「相違点Bは、本願考案の隙間封止具を形成する受具及び封止具本体に、引用例3に記載の前記結合形態及び弾性変形による結合の技術を単に適用することによつて、当業者がきわめて容易に実施できるところのものである」と認定しているが、既に述べたように、引用例3に記載のものは、本願考案とは、目的が異なるばかりでなく、構成面においても、本願考案における構成に相当するものを欠き、かつ作用効果も全く異なる別異の技術思想であり、かつ、引用例3及び引用例1の双方の技術内容からみて、引用例3の技術を引用例1に直ちに適用することは困難であるから、本件審決のいうように、本願考案における受具及び封止具本体に引用例3の技術を「単に適用する」ことはできず、かつ相違点Bを当業者が「きわめて」容易に実施できるものでもないことは明らかである。

第三  請求の原因に対する認否及び主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認め、同四の主張は争う。

二  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

本件審決において、相違点Bは、「受具及び封止具本体に設けられた凹部と凸部との結合において、前者は、そのいずれか一方が弾性変形するのに比し、後者は、そのような構成となつていない点。」と記載されているように、受具及び封止具本体に設けられた凹部と凸部との結合が、本願考案と引用例1に記載のものの両者において相違しているのではなく、その結合において、そのいずれか一方が弾性変形する構成となつているか否かが両者の相違点なのである。

そして、本件審決は、引用例3に記載の技術を、相違点Bについての判断において引用しているのであり、その判断の結論として、凹部と凸部との結合において、そのいずれか一方が弾性変形する構成を採用することが、当業者にとつてきわめて容易に実施できるところであると認定しているのである。

引用例3に記載のものは、凹部とそれに結合する支脚からなる結合であり、一方の凹部が弾性変形するものであることは、その記載から明らかである(この点について、原告は争つていない。)。

その支脚の形状からして、その結合形態において、支脚は、前記凹部に対し凸部に相当するものであり、そのような結合において、一方が弾性変形することを、本件審決は引用したものである。

したがつて、原告のいうような、本願考案における隙間と引用例3に記載のものにおける空間の意味が本質的に全く異なる、本願考案における隙間の封止と引用例3に記載のものにおける空間の封止とは全く目的が異なる、などの点は、いずれも本件審決の認定判断が誤りであるとする理由にはならない。

さらに、引用例3に記載の技術は、幅木取付装置であるが、本願考案および引用例1に記載の技術と同じ家具の分野のものであることは明らかである。

本願考案における封止具本体が、収納空間の封止具であるとしても、相違点Bにおける審決の判断は、凹部と凸部との結合における、その結合の技術に関するものであり、その結合について、収納空間の封止具のものとして、技術を限定して判断する必要はない。二つの部材を結合する結合形態は、その形態がその用途と技術上密接な関係にない限り、その用途に限定されないとするのが通常である。引用例3に記載の結合形態にしても、その結合形態は幅木と密接な技術上の関連はなく、一つの独立した結合形態として把握することができるから、家具一般における技術手段と解して何の不都合もない。

したがつて、引用例3は、本願考案の先行技術としての適格性に欠けるものではない。

第四  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願考案について

成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる(別紙本願考案図参照)。

1  技術的課題

本考案は、いわゆるシステムキツチン等の厨房家具、洗面家具、その他の収納部を有する家具の隙間封止具に関する。

従来、かかる取納家具においては、・・・家具本体4を構成する・・・左右の側板5及び6の各前端部間に横木10及び11が、それぞれ設けられている。この横木10及び11は、・・・引出し2の前面板2aの下端面2bと扉3の上端面3aとの間に設けられた若干の隙間Sから塵埃、水、虫等が引出2内及び扉3内の各収納空間12及び13内に入り込まないようにするため設けられたもので、横木11(横木10についても同様)の前面11aは・・・収納家具の機密性を保つようになつている。

従来のかかる組立構造には、次のような問題があつた。即ち、前記横木は、木材からなり、その両端部と左右の側板5及び6とは、・・・ネジ止めし、又は、・・・木製ダボ及び接着剤を併用する等の方法により、相互に固着されている。そのため、横木の取付はネジ、工具類を使用するので極めて手間のかかる作業となつており、また、このような家具を組立完了後に、・・・ネジ止め等により固定する場合は、据付作業者は、家具本体4の前面開口部から家具本体4内に上体をまげて入れるのであるが、その際、前記横木が取外せず、邪魔になるので、前記固定作業が非常に行いにくいという問題があつた。また、従来の横木は、木製品であるため乾燥又は吸湿によつて狂いを生じ、その結果、引出しの前面板又は扉等との密着性、即ち、隙間封止部材としての機能が低下することもある。

本考案は上記の問題に鑑みて為されたもので、家具本体側に取付けられる受具と前記受具と結合する封止具本体とから成る・・・収納家具用隙間封止具を提供しようとするものである。(甲第二号証第一頁一八行ないし第四頁四行、甲第三号証)

2  構成

請求の原因二(本願考案の要旨)記載のとおりの実用新案登録請求の範囲。

3  作用効果

本願考案によれば、隙間封止具本体を家具本体側に取付られる受具に対し着脱自在に結合させる構成になつているから、封止具本体をネジ及び工具類を使用することなく、ワンタツチで家具本体に着脱して、その取付作業が至つて簡単であり、また、この隙間封止具を取付けて組立を完了した収納家具を所定の据付場所で別の家具等にネジ止め等により連結する際に、封止具本体を簡単に取外すことができるので、・・・当該作業を容易に行い得る、等の実用上の優れた効果が得られるものである。(甲第二号証第一〇頁一〇行ないし第一一頁一行)

三  取消事由1について

1  原告は、本願考案における隙間封止具本体と引用例3に記載の幅木とは、家具の構成部材として全く性質の異なるものである旨主張する。

よつて検討するに、前記のとおり、本願明細書には、本願考案の隙間封止具に関しては、「本考案は、いわゆるシステムキツチン等の厨房家具、洗面家具、その他の収納部を有する家具の隙間封止具に関する。」及び「この横木10及び11は、例えば引出し2及び扉3がそれぞれ別個に抜差し及び開閉ができるように引出し2の前面板2aの下端面2bと扉3の上端面3aとの間に設けられた若干の隙間sから塵埃、水、虫等が引出し2内及び扉3内の各収納空間12及び13内に入り込まないようにするため設けられたもの」と記載されており、右記載からすれば、本願考案の隙間封止具は、収納部を有する一般の色々な家具に用いられるものであり、該家具の隙間sを封止するもの、すなわち、家具の各部材間に生じる隙間を封ずる役目をするものであると解される。

一方、成立に争いのない甲第七号証によれば、引用例3の明細書には、幅木に関して、「幅木6は、支脚5の前方に嵌着連係片3を介して簡単に連係されて、家具下部の目隠しとなるとともに、幅木6の表面には余分な部材が露出しないから、外観も優美となり、」(甲第七号証第一頁第2欄一三行ないし一六行)と記載されていることが認められ、右記載からすれば、幅木は、家具の表面には余分な部材が露出しないように家具下部を目隠しするものであること、すなわち、家具の下部(家具の底板4と床との間)の隙間を封ずる役目をするものであると解される。

2  原告は、「引用例3に記載のものにおいて、「隙間」の語、特に、本願考案における引出し間等の隙間を意味したり、示唆する語は全く見当たらないほか、その図面においても家具の下部が示されているだけで、本願考案にいう隙間部分は何ら示されていない。」旨主張する。

前掲甲第七号証によれば、原告の右主張事実が認められるが、本件審決は、引用例3の幅木が家具の引出し間等の隙間を封止するものであると認定しているものでなく、家具の下部の目隠し、すなわち、家具の下部(家具の底板4と床との間)の隙間を封ずるものであつて、その意味において、「幅木」を家具における隙間封止具であると認定しているものであるから、原告の右主張は取消事由としては理由がない。

してみれば、本願考案の隙間封止具と引用例3記載の幅木とは、家具の各部材間に生じる隙間を封止する役目をするものであるという点で技術を共通するものと認められるものであり、かつ、家具本体に着脱自在に結合されている点においても技術を共通しているものと認められる。

3  したがつて、本件審決が、引用例3の「幅木は、家具下部の目隠しとなるものであるから、一種の空間封止作用を有し、家具における隙間封止具とみることができ、本願考案のものと共通の技術であるといえる。」と認定判断したことに原告主張の誤りはない。

四  取消事由2について

1  原告は、引用例3の支脚は、家具の基本構成部材であり、幅木を取り付けるために利用されているにすぎないから、本件審決が右支脚を本願考案における「凸部」と同一技術として把握し、両者を同一の構成として対比しているのは誤りである旨主張する。

前掲甲第七号証によれば、引用例3は「家具の支脚に対する幅木取付装置」に関する考案であつて、明細書の考案の詳細な説明の欄(別紙引用例3図参照)には、「矩形状をなす基片1の背面に、高さが基片1よりもやや低い、内向円弧状をなす抱持片2、2を対向状態で設けた軟質合成樹脂よりなる嵌着連係片3の基片1の上下縁を家具の底板4の前部に設けた支脚5よりもやや低寸の幅木6の背面適所に上下対向して設けたアングル状の係止突条7、7間に装着するとともに、嵌着連係片3背面の抱持片2、2内に、支脚5を抱持してあるものである。・・・幅木6の支脚5への取付に際しては、・・・嵌着連係片3の抱持片2、2の後端を、支脚5の前部に押付けて、抱持片2、2の弾発作用により、支脚5を抱持片2、2間内へ強制的に抱持させる。」(甲第七号証第一頁第1欄二九行ないし第2欄一二行)と記載されていることが認められる。

右記載によれば、「嵌着連係片3」は、基片1と抱持片2、2とからなり、抱持片2、2は内向円弧状をしているから「凹形状」と認められるものであり、かつ、弾発作用をするものであるから「弾性変形」するものであると解され、一方、「支脚5」は、引用例3の第1図、第2図(別紙引用例3図の第1図、第2図)を参照すれば、円柱状をしているものであつて、内向円弧状(凹形状)をなす抱持片2、2に抱持されるものであるから「凸形状」を構成しているものと認められる。

一般に、嵌合によつて部材間を固着するものにおいては、一方の嵌合部が「凹形状」であれば、それに対応する相手方は「凸形状」であることは必然であり、凸形状の部材あるいは凹形状の部材が弾性変形する着脱自在の結合形態は、家具に幅木を支持するためにのみ利用できるのではなく、他の部所、部材の支持にも利用できる独立した技術として把握できる結合形態であることは明らかである。

したがつて、引用例3の支脚が、家具の基本構成部材であり、同引用例の考案もそれを幅木の取付けに利用しているにすぎないとしても、右支脚は、嵌合によつて部材間を固着する場合の一方の「凸形状」を構成しているから、本願考案における「凸部」と同一技術として把握し得るので、原告の右主張は理由がない。

2  原告は、「本件審決が本願考案と引用例3に記載のものにおける各目的等を比較の前提として考察することなく、直ちに引用例3に記載のものにおける支脚が凸部に相当するものであると認定したのは、本願考案における凸部の観念を先入観として抱いたことに起因するものであつて、明らかに考察の順序を誤つたもの、すなわち、論理を誤つたものといわざるを得ない」旨主張する。

しかしながら、本件審決は、本願考案と引用例1に記載のものとは、「受具及び封止具本体に設けられた凹部と凸部との結合において、前者は、そのいずれか一方が弾性変形するのに対し、後者は、そのような構成となつていない点」(相違点B)において相違すると認定したものであつて、受具及び封止具本体に設けられた凹部と凸部との結合が、本願考案と引用例1に記載のものにおいて相違しているとするものではなく、その結合において、そのいずれか一方が弾性変形する構成となつているか否かが両者の相違点であると認定したものである。そして、本件審決は、右相違点についての判断において、引用例3に記載のものが、前記のとおり、凹凸結合において、一方の凹部が弾性変形するものであるから、この技術を引用したものであつて、本願考案と引用例3に記載のものにおける目的の相違等は、本件審決の取消しの事由とはなり得ない。

したがつて、原告の右主張は理由がない。

3  原告は、「本願考案の結合形態が「凸部と凹部」とで構成されているのに対して、本件審決は、引用例3に記載のものの結合形態を「凸形状と凹形状のものといえる」と認定しているものであり、この引用例3の結合形態の認定は、本願考案との対比の面で極めて曖昧であるうえ、本願考案におけるような「凸部と凹部」とによる結合形態とどのように関係するのかも明らかにされていない。また、本件審決中には、「凸形状と凹形状」の結合形態が、「凸部と凹部」の結合形態と同じものであるということを示した記載も、また、これを裏付けるような明確な記載も何ら見当たらない。」旨主張する。

しかしながら、「形状」とは、「かたち、ありさま、状態」を意味するものである(岩波書店「広辞苑」第三版七三五頁)から、「凸形状」は凸の「かたち、ありさま、状態」のものを指すと解されるものであり、「凸部」は凸の「かたち」をした部分を指すと解されるものであつて、「凸形状と凸部」とに実質上の意味において何ら相違はない。

4  してみれば、本件審決が、引用例3の「支脚は、円柱形状をなし、幅木取付具の凹形空間に抱持され、その結合形態は、凸形状と凹形状のものといえる」と認定したことに原告主張の誤りはない。

五  取消事由3について

1  原告は、引用例3に記載のものは、本願考案とは、目的、構成及び作用効果も全く異なる別異な技術思想である旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、本願考案と引用例3は、いずれも家具の隙間を封止する役目をするものであり、かつ家具本体に着脱自在に結合させる点においても技術を共通しているものであつて、その意味において目的、構成を同じくするものである。また、本願考案と引用例3に記載のものとは、結合形態が同じ構成を有するものであるから、その結合形態に基づく作用効果についても、格別差異はないものと解される。

してみれば、本願考案と引用例3記載のものとは、家具に生じた隙間を封止する役目をする部材の結合に関して、その目的、構成、作用効果に格別差異を生じるものとは解されず、原告の右主張は理由がない。

2  したがつて、本件審決が、「この相違点Bは、本願考案の隙間封止具を形成する受具及び封止具本体に、引用例3に記載の前記結合形態及び弾性変形による結合の技術を単に適用することによつて、当業者がきわめて容易に実施できるところであると認められる。」と判断したことに原告主張の誤りはない。

六  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙 本願考案図

<省略>

別紙 引用例3図

<省略>

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