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東京高等裁判所 平成2年(行コ)166号 判決 1991年4月24日

埼玉県新座市野火止一丁目九番五八号

控訴人

株式会社嶋根鋼商

右代表者代表取締役

嶋根岳雄

右訴訟代理人弁護士

武田清一

埼玉県朝霞市大字溝沼一八九〇番九

被控訴人

朝霞税務署長 桜井源寿

右指定代理人

若狭勝

杦田喜逸

三澤力男

神谷宏行

右当事者間の法人税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六三年一二月二七日付けで控訴人の昭和六一年六月二一日から昭和六二年六月二〇日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額九二九万四二一六円、納付すべき法人税額一七九万六七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を、いずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

(当事者の主張)

一  控訴人の請求原因

1  控訴人が、昭和六二年八月一一日、浦和税務署長に対してした昭和六一年六月二一日から昭和六二年六月二〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告、昭和六三年一二月一六日、被控訴人(昭和六三年七月一〇日付けで控訴人の本店所在地が朝霞税務署の管轄区域になったことによる。)に対してした修正申告、被控訴人が同月二七日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定は、別紙のとおりである。

控訴人は、平成元年二月二五日、右更正及び賦課決定を不服として審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、同年九月六日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同月二一日、控訴人に送達された。

2  しかし、本件更正は、損金に算入されない交際費等の額を過大に認定した結果、所得金額を過大に認定した違法があるから、本件更正のうち九二九万四二一六円、法人税額一七九万六七〇〇円を超える部分及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する被控訴人の認否

請求原因1の事実は認める。

三  被控訴人の主張

1  控訴人の本件事業年度の所得金額

(一) 申告所得金額 九二九万四二一六円

(二) 交際費等の損金不算入額 三二五万八〇〇〇円

(1) 控訴人は、昭和六一年九月二八日と同年一〇月一日の両日、創業二五周年記念並びに工場設備の増設及び工場社屋の落成を祝うための式典(以下「本件記念行事」という。)を開催した。

(2) 控訴人は、本件記念行事に要した交際費等の額七三三万一二八六円(以下「本件記念行事費」という。)から、控訴人が本件記念行事開催に当たり招待客から受領した祝金の合計額三二五万八〇〇〇円を控除した残額四〇七万三二八六円のみを本件記念行事に係る交際費等の額とし、これと本件記念行事費以外の交際費等の額四三〇万五四〇五円との合計額八三七万八六九一円から租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条一項所定の損金算入限度額(後述のとおり三〇〇万円)を控除した五三七万八六九一円を、本件事業年度における損金不算入額とした。

(3) しかし、次のとおり、右本件祝金相当額を交際費等の損金不算入額の計算に当たり控除することは許されない。

措置法六二条は、当該事業年度において支出する交際費等の額について、原則として、その支出額の全額を損金の額に算入しないものとし、資本金等の額が五〇〇〇万円以下の法人は、支出した交際費等の額のうち定額(本件事業年度終了の日における資本金の額が二〇〇〇万円である同年度の控訴人については、年額三〇〇万円)の損金算入を認め、当該事業年度において支出する交際費等の額が右定額を超える場合、その超える部分の金額は、損金に算入しないものとしている(同条一項)。また、同項に規定する交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「交際行為」という。)のために支出するものをいうとされている(同条三項)。

本件記念行事は、控訴人が事業に関係ある者を招待して接待、供応するために開催したものであるから、その費用全額が同条三項にいう交際費等に該当するものであり、本件祝金相当額の部分はその支出がなかったとみ得るとか、その交際費性が失われるとかの関係にあるとすべき根拠はない。

(4) よって、本件事業年度の所得金額の計算上損金不算入とすべき交際費等の額は、控訴人が損金不算入とした額より本件祝金相当額三二五万八〇〇〇円だけ多くなるから、右同額を申告所得税額に加算したものである。

(三) 右(一)の金額に右(二)の金額を加算した一二五五万二二一六円が、控訴人の所得金額である。

2  本件更正及び本件賦課決定

被控訴人は、右1(三)と同額を所得金額として本件更正を行い、それに伴い国税通則法六五条一項(ただし、昭和六二年法律第九六号改正前のもの)、一一八条の規定に基づき算出した過少申告加算税の額六万七五〇〇円を賦課決定したものである。

よって、右各処分はいずれも適法である。

四  控訴人の認否

1  被控訴人の主張1(一)の事実は認める。

同(二)の(1)、(2)の各事実は認め、(3)のうち控訴人が本件事業年度終了の日における資本金の額が二〇〇〇万円の法人であること、本件記念行事は、控訴人が事業に関係ある者を招待して接待、供応するために開催したものであることは認めるが、被控訴人の主張は争う。

同(三)は争う。

2  同2は争う。

五  控訴人の主張

1  措置法六二条三項によれば、交際費等とは交際行為のために支出するものであるところ、この「支出する」とは、交際費等の支出を抑制するという法の趣旨に鑑み、実質的に負担したものをいうと解するのが相当である。したがって、社会的に一個とみなされる交際行為ごとに関係者全員についてその実質的負担を検討し、二重課税のごとき不当な結果をきたさないようにすることが肝要である。

2  これを本件についてみると、本件記念行事は、主客が一緒になって祝賀し懇親するもので、全体が一個の祝賀行為を形成するものである。ここにおける交際行為は、右祝賀行為自体であって、一個の行為である。

また、本件のような祝金は、行事の参加者が持参することが社会慣行によって事実上義務づけられており、主催者側も、行事費の予算に祝金による収入を事実上見込んでいることが少なくない。したがって、その経済的効果は、個々の招待客が主観的に費用の一部負担の意思を有しているか否かにかかわらず、実質的には行事費用の一部負担ないし補填にほかならない。この意味において、本件祝金は、税務上行事費の一部負担として扱われている行事の会費又は協賛金と異なるところはない。

そうだとすると、主催者の実質的負担に帰する記念行事費(交際費)の額は、主催者が支払った記念行事費の額から祝金の額を控除した額である。

3  祝金は主催者の収益(雑収入)として計上すべきものではなく、交際費の費目の中で、その控除項目として経理処理されるのが妥当であり、祝金を交際費等の額から控除せず収益とすることは、社会全体にとって、交際費の二重課税の結果となる。

ところで、交際費等の損金不算入の規定(措置法六二条)は、交際費等の支出抑制という政策的見地から、本来課税すべきでない交際費等に相当する金額を課税対象としているのであるから、不当に課税強化の結果を来さないよう解釈、運用すべきものである。政策目的達成のためでありさえすれば、その余の点は顧みる必要がないというのは、右規定の解釈として妥当なものとはいいがたい。右規定の趣旨は、冗費を節約して企業所得の内部留保による資本蓄積の促進を図るというものであるが、この立法趣旨は、祝金を支出する側において交際費等として損金不算入とすることによって、充分達せられるのであって(他方、主催者側においては、祝金の額だけ交際費等が節減される結果、内部留保が増加することになる。)、二重課税のような不当な結果を来す解釈は、回避すべきである。

(証拠関係)

本件記録中の原審の書証目録の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1の事実及び被控訴人の主張1(一)(申告所得金額)の事実は当事者間に争いがない。

二  交際費等の損金不算入額について

1  被控訴人の主張1(二)の(1)、(2)の各事実、本件記念行事は、控訴人が事業に関係ある者を招待して接待、供応するために開催したものであること、控訴人が本件事業年度終了の日における資本金の額が二〇〇〇万円の法人であることは、当事者間に争いがない。

そうすると、本件記念行事費は措置法六二条に定める交際費等に該当し得るものであるところ、控訴人は、これを前提にした上で、本件祝金(祝賀会的な記念行事等が会費制や協賛の形で行なわれる場合の会費、協賛金と異なり、いわゆる祝金は招待客等から任意に支出する金員を指すものと解されるので、以下「祝金」というときは、右のような金員をいう。)相当額を交際費等の損金不算入額の計算に当たり控除すべきである旨主張するので、以下、交際費等の損金不算入制度の趣旨とともに右主張につき検討する。

(一)  措置法六二条は、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用を「交際費等」として(同条三項)、昭和五七年四月一日から平成三年三月三一日までの間に開始する事業年度において支出する交際費等の額について、原則として、その支出額の全額を損金の額に算入しないものとしたうえ、資本金等の額が五〇〇〇万円以下の法人は、支出した交際費等の額のうち定額(控訴人のように当該事業年度終了の日における資本金の額が一〇〇〇万円超五〇〇〇万円以下の法人については、年額三〇〇万円)の損金算入を認め、当該事業年度において支出する交際費等の額が右定額を超える場合、その超える部分の金額は、損金に算入しないものとしている(同条一項)。

関係規定の改正経緯や成立に争いのない乙第一号証によって認められる税制改正要綱等の内容を総合すると、企業会計上は経費である交際費等を損金に算入しないこととするこの制度は、冗費、乱費を防止して企業所得の内部留保による資本蓄積の促進を図る等のため、昭和二九年に政策的に設けられたものであるが、その後も、交際費等の支出が抑制されず、年々増加し続けている状況及びこれに対する厳しい社会的批判に鑑み、段階的に損金不算入枠を拡大する方向で改正がなされ、昭和五七年の改正において、現行のように原則として全額を損金不算入とするものとなったことが認められる。このような改正の趣旨やその内容に照らせば、右制度は、現在、政策的見地から交際費等の支出自体の抑制に、その目的の重点が置かれている課税の特例であるということができる。

(二)  控訴人は、主催者による本件記念行事の開催と、招待客が行事に出席する行為は、一個の交際行為である旨主張する。

そこで検討するに、本件のような記念行事等に招待客が出席することは、招待客の立場からみれば、一つの交際行為であり、その際支出する祝金は、自らの交際行為にかかる交際費等に当たる費用ということができる。そして、主催者の記念行事費もまた交際費であり、その支出と招待客の祝金の支出は、主催者と招待客が同一の機会にそれぞれの交際行為を行い、各々が自己の交際行為の費用を支出したという関係にある。したがって、両者は同一の機会になされ密接な関係にはあるものの、両者をもって一個の交際行為とみなければならないものではない。

(三)  次に控訴人は、本件祝金は、慣行上持参することが義務付けられており、その実質は会費、協賛金と異ならないとし、一個の交際行為につき、実質的に主催者と招待客が費用を分担する関係にある旨主張する。

しかし、祝金は、主催者が記念行事を行なうについて実際上役立つとしても、法的には招待客の全部又は一部が、自らの交際行為の目的に従い、任意に金員を支出するものであって、費用分担の合意に基づく会費、協賛金とはその性格を異にする。実際上も、主催者は、祝金の有無や金額の多寡にかかわらず、記念行事費全額の支出を免れず、招待客と費用を分担する関係にはない。主催者にとってはその支出した記念行事費は、全体として一個の交際行為の費用であるから、そのうち祝金に相当する部分のみが、交際費性を欠くものということはできない(なお、右祝金は、主催者にとっては収益として、会計処理上益金の額に算入すべきものである(法人税法二二条二項)。)。

(四)  そして、右祝金の授受は、社会的儀礼ないし慣行として一般的に行われ予想しうることであるにもかかわらず、措置法六二条の規定には、記念行事費の一部負担とはみられない祝金のような金員について、記念行事費から控除すべき特別の定めは置かれていない。これによれば、同条の定める交際費等の額とは、主催者が交際行為に要した費用の全額をいうものと解するのが相当である。

右のように解することは、交際費等の損金不算入制度の趣旨・目的にも叶うものである。控訴人は、右制度の目的は、行事費の一部として祝金を負担しているものとしての招待客側の祝金の支出に課税すれば達成される旨主張するが、単に資本蓄積の促進に止まらず、交際費等の支出自体の抑制という制度目的からみれば、祝金の受領による主催者の負担の軽減は、結果として行事費をはじめとする交際費等の額の減少よりも、より多額の支出に繋がりやすいことは、右制度の再三にわたる改正の経緯に徴しても容易に推測されるところであるから、この点からも、控訴人の主張を肯認することはできない。

なお、祝金相当額部分の損金算入を認めないと、右祝金については主催者と招待客双方において課税の対象とされることになるが、右に順次述べたところからすれば、この点をもって右部分の損金不算入についての前記判断を左右することはできない。

(五)  そうすると、祝金相当額を交際費等の損金不算入額の計算に当たり控除すべきであるとする控訴人の主張は理由がない。

2  以上によれば、本件記念行事費及びその他の交際費等の合計額一一六三万六六九一円のうち損金算入限度額三〇〇万円を超える八六三万六六九一円が、控訴人の本件事業年度の所得金額の計算上損金不算入とすべき交際費等の金額となるから、本件祝金相当額三二五万八〇〇〇円を申告所得金額に加算すべきことになり、所得金額は、一二五五万二二一六円となる。

三  よって、右と同額を控訴人の本件事業年度の所得金額として行った本件更正と、これに基づき関係規定を適用してした本件賦課決定は、いずれも適法である。

四  以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行訴法七条、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 塩谷雄 裁判官 松津節子)

本件課税処分の経緯

<省略>

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