東京高等裁判所 平成2年(行コ)61号 判決 1991年3月14日
東京都豊島区西池袋五丁目二一番六号
控訴人
株式会社システム商事
右代表者代表取締役
松岡喜久枝
右訴訟代理人弁護士
土方邦男
東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号
被控訴人
豊島税務署長 槇總一郎
右指定代理人
藤宗和香
山田昭
遠藤家弘
梅津恭男
右当事者間の法人税重加算税賦課決定処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し、昭和五九年一二月二六日付でなした控訴人の昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五七年六月期」という。)、同年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度(以下昭和五八年六月期」という。)及び同年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五九年六月期」といい、昭和五七年六月期ないし昭和五九年六月期を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税に係る重加算税の賦課決定(以下「本件処分」という。)を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、原判決の事実摘示(「事実及び理由」の「第二 事案の概要」及び「第三 争点」)のとおりであるから、これを引用する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、失当であって棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示(「事実及び理由」の「第四 争点に対する判断」)と同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決八枚目裏一行目の「石田が」から同7行目末尾までを「石田の手元には本件振込金受取証が存在し、同人は、これをも参考にして甲一五ないし一七の各仕訳票を起票したものと推認される。この点につき、控訴人は、当審において、甲一八の一ないし三(大庭の東洋信託銀行の普通預金の通帳の写し)を提出し、石田は、同書証の記載のうち、五七年一月三〇日付けの二九二一万三二一九円の払出しの記載及びこれをユニバックへ送金した旨の書込みの記載に基づいて現実の支払日を特定し、かつ、右金額と本件請求書における請求の合計額との差額八〇〇円を振込料と認めて、これにつき甲一六の仕訳票を起票したとの推論を主張する。しかしながら、右甲一八の一ないし三は、甲一五ないし一七の各仕訳票の起票に関して重要な参考資料であるにもかかわらず、原審においてのみならず、本件における税務調査、不服審査等の機会においても提出されなかったことが弁論の全趣旨によって明らかであるうえに、前示乙二一、二三や石田証言にもその存在についての言及がなく、また、右甲一八の二、三の上になされている書込みの内容やチェックの位置及び五七年七月三一日の払出し金額直下に区分のためと思われる横線があることからすると、右甲一八の一ないし三は、専ら大庭の法人税申告のために利用され、右書込み等も専らその申告のために行われたものである可能性が濃く、これを考慮すると、その体裁や内容及び本件請求書との対比から石田がこれを参酌して甲一五ないし一七を作成したものと推認することは困難である。そして、前示乙二一、二三、青山、石田両証言によれば、石田は、右各仕訳票を起票する前に、青山を通じて木村に本件請求書についての支払いの有無を確認したところ、大庭からの借入金で本件支払いを賄ったものと処理するように指示されたことが認められる。」に、同一二行目の「仮に、」から同九枚目表八行目の「甲一五ないし一七」までを「前示認定の事実によれば、右各仕訳票と甲一五ないし一七の各仕訳票のいずれが先に起票されたかにかかわりなく、石田は、これらの一方を起票したあとに他方を起票することにより、本件仕入れ等を二重に計上する結果となることを認識しながら、これら」に、同一一行目の「考えられず」を「考えられないところである。このことと、甲一九の一ないし三により認められる、木村が大庭や控訴人の金銭の出入りを充分に把握していたこと、前認定の事実により明らかなように、控訴人の取引においては、本件仕入れは、唯一の仕入れであるうえに、その金額が全取引中に占める割合は、極めて大きいものであったこと、乙三及び証人青山の証言によって認められる、富士信用組合との取引において、控訴人には月額一五〇万円程度の粗利益が見込まれていたところ、昭和五七年六月期の総売上高は四一〇〇万円余りであり、これによる真実の所得金額は一九四五万二九五三円であったのに、二重計上があったために確定申告では九七六万〇二六六円の欠損が計上され、しかも、控訴人の借入金が過大に計上された結果、大庭についても架空の計算が行われたこと、右の真実の数字と二重計上による数字との間の隔差は、売上規模が右の程度である控訴人にとってはあまりにも著しいものであり、その売上規模を知っていた青山及び木村にとっては、右欠損額はたやすく看過することのできる数値ではなかったと考えられることを総合すれば」にそれぞれ改める。
(二) 原判決九枚目裏七行目の「否定しがたいが」から同一〇枚目表七行目の末尾までを「否定しがたく、また、既に触れたように、石田は、甲一五ないし一七の各仕訳票を起票する前に、青山を通じて木村に本件請求書に関する支払いの有無を確認し、これに基づいて、本件振込金受取証(甲一)と本件請求書(甲四の1ないし5)の相互関連性を把握しないままに起票した可能性も全く考えられないわけではない。また石田からの本件請求書に関する支払いの有無の問い合わせに対し、木村は、本件振込金受取証についての支払いとは別に、本件請求書についても支払いがあったのかどうかの疑問があることに思い及ばず、単純に右受取証に係る資金源泉の問い合わせがあったものと理解して、大庭からの借入金で支払いを行った旨回答し、石田がこれを問い合わせに対する的確な回答であると誤認した結果、二重計上がされたことも考えられないわけではない。しかしながら、たとえ、石田が右相互関連性を把握していなかったために、又は、木村が石田からの質問を取り違えて回答したために二重計上がされたとしても、前示青山証言によれば、青山会計事務所では、控訴人のように帳簿を作成していない依頼者の税務処理にあたっては、原始証拠に基づき仕訳票を作成し、その過程で領収証と請求書との突合はできるかぎり行うが、時間的に間にあわないときは、突合をすることなく、領収証と請求書とのいずれからでも仕訳をする場合があること、領収書から仕訳をする場合は、現金で支払ったものとして処理し、また、請求書から仕訳をする場合は、依頼者に支払いの事実を電話照会等により確かめ、支払いの事実はあるが依頼者手持ちの資金からの支払いに関する原始証拠がないときは、資金源泉を確認することなく、第三者からの借入金により支払ったものとして仕訳をすること、控訴人に関しては、かねてより右借入金の借入先を大庭として処理することが方針とされ、石田は、この処理方式に基づき、本件振込金受取証と本件請求書の相互関連をチェックすることなく、それぞれの書面に基づいて仕訳票(甲一二、一三、一五ないし一七)を起票したことが窺われるところである。このような経理の処理においては、同一の仕入れが二重に計上される可能性が極めて高いことは明らかであり、本件仕入れの二重計上も石田が右の方法による経理の処理を実行した結果生じたものといわなければならない。そして、右のような処理をするにつき、練達の税理士である青山は、仕入れや支払いを二重に計上するおそれがあることを十分に予見していたものであることが明らかであり、それにもかかわらず、同人は、納税の申告に関して時間的制約があることなどから、このような処理を許容し、右方針のもとに経理の処理を行っていたものであり、また、控訴人は、青色申告法人でありながら日常整えるべき帳簿書類を一切作成せず、申告期限の間際になって、右のような経理処理をする青山事務所にその経理処理及び申告手続一切を任せていたのである。そうすると、控訴人は、右のような二重の計上がなされ、その結果誤った決算が行われて申告の内容をも誤ることを未必的には容認して、いたものというべきであり、このような場合に、予想された二重の計上とこれによる誤った申告があったときは、国税通則法六八条一項にいう隠ぺい又は仮装があったものというべきであるから、この点からいっても、前示二重計上につき、控訴人は、隠ぺい又は仮装の責を免れることができない。」に改める。
二 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 小川克介 裁判官 南敏文)