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東京高等裁判所 平成2年(行コ)64号 判決 1992年3月26日

控訴人

伊東佐智子

右訴訟代理人弁護士

前田健三

森越清彦

相馬達雄

右相馬達雄訴訟復代理人弁護士

勝俣幸洋

被控訴人

社会保険庁長官北郷勲夫

右指定代理人

松本智

村山行雄

東幸邦

高田勲

彦田秀雄

神田弘二

山崎和博

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対して、昭和六一年一〇月二日付でした船員保険法に基づく被保険者伊東博が職務外の事由により死亡したことによる遺族年金を支給する旨の処分を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

二  主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示中の第二「当事者の主張」(原判決二枚目表七行目(本誌五六二号<以下同じ>72頁下段10行目)から一〇枚目裏二行目(75頁2段24行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし原判決七枚目表一行目中「よるものして」(74頁2段7行目)とあるのを「よるものとして」と訂正する。

三  証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

当裁判所も、博の死亡は船員保険法五〇条一項三号所定の職務上の事由に因るものとは認められないと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一一枚目表九行目に「及び同山本征洋の各証言」(75頁3段15行目の(証拠略))とあるのを「、同山本征洋及び当審証人和泉己之吉の各証言」と訂正する。

二  原判決一一枚目裏三、四行目「作業終了後間もなく」(75頁3段26行目)とあるのを「午後一時か二時ころ健康診断を受診するため」と訂正する。

三  同四行目「立花に」(75頁3段27行目)とあるのを「立花をはじめ本船に残った乗組員らに」と訂正する。

四  同六行目「和泉船長を除く他の乗組員は、」(75頁3段30行目)とあるのを「和泉船長と賄係の菊地惣一郎を除く他の乗組員六名は、」と訂正する。

五  原判決一二枚目裏五行目「なっていた。」(76頁1段9行目)の後に、次のとおり付加する。「そして右開口部分の幅は、原審証人立花一之が乙第七号証の図面によって示したところから推計すると、人が一人通り抜けられる程度(すなわち駅の改札口の間隔程度)のものであった。」

六  原判決一三枚目表七行目「仮に、」(76頁2段1行目)から一〇行目「捉え難い上、」(76頁2段8行目)までを削除する。

七  原判決一三枚目裏八行目「和泉船長は下船の際に、」(76頁2段24行目)から同一四枚目表四行目「なければならない。」(76頁3段6行目)までを次のとおり訂正する。

「和泉船長は下船の際に、立花をはじめ本船に残った乗組員らに対し、後を頼むという趣旨の言葉を掛けていったのであるが、それは翌日まで本船を留守にするに際して、各乗組員が自分の職務を着実に遂行することのほか、事故が発生する等緊急の場合には自分への連絡を依頼するという一般的指示の域を出ないものであって、ことさら博に対して、船長の行うべき具体的な職務を代って遂行する等の指示、命令をしたものとは認められない。」

八  原判決一六枚目裏九行目「全く認識していないことが認められるから、」(77頁2段22~23行目)とあるのを「全く認識していないこと、また、松本は食堂を出た途端に本件開口部の近くに博のサンダルが落ちているのが見えたと証言していることからすると、」と改める。

九  原判決一九枚目裏三行目「認められる。」(78頁2段8行目)の後に、次のとおり付加する。

「本件開口部は、前述のとおり、甲板の周囲にめぐらされている手すり(ブルワーク)が錨の投入や繋船索を渡すためにその部分だけ開けられているのであるが、その開いている幅は人が一人通れる程度のもので、鎖が掛けられていなくとも両脇のブルワークにつかまることもでき、そこで船外の海面に向って小用をたしても、通常の状態であれば特に転落の危険を感ずるようなことはない(このことは、本船に乗り組んでいた原審<人証略>によって認められる。)。

したがって、博の転落の直接、最大の原因は、同人が酒に酔ったため身体の自己制御能力を減弱させていたことにあると推認するほかはない。」

一〇  原判決二〇枚目表六行目「認られる」(78頁3段2行目)を「認められる」と訂正する。

一一  原判決二一枚目表三行目「私的行動をとっていて」(78頁4段5~6行目)の次に「、その私的行動によって」を加える。

一二  原判決二一枚目裏二行目「私的行為として、」(78頁4段24行目)を「相当量の飲酒をして、酒に酔った状態で」と改める。

一三  原判決二二枚目表一行目「転落することは、」(79頁1段12行目)の次に「前認定のような開口部分の幅等の構造からみて、」を加える。

一四  原判決二二枚目裏五行目(79頁2段10行目)の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「なお、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一二ないし第一六号証によれば、博の前任者で本船の一等機関士であった太田隆司は、昭和五九年八月二四日小樽港係留中の本船船尾付近の海底で水死体となっているのを発見されたのであるが、前後の状況から前日の午後九時頃から一一時までの間に、船内見廻り中荒天による船体動揺等のため足を滑らせ誤って海中に転落したものと推定され、業務に起因する死亡と認定されたことが認められる。しかし太田の事例は、本船から海中に転落して水死したとの点においては博の場合と共通しているものの、船内見廻り中荒天による船体動揺のため足を滑らせて転落したもので、飲酒の事実はなかった等の点で前記認定の博の場合とは事案を異にし、この事例は、博の死亡の業務起因性を肯認すべき根拠とはならない。

よって控訴人の請求を棄却した原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 白石悦穂 裁判官 渡邉温)

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