大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成2年(行コ)82号 判決

主文

一  原判決を次のように変更する。

1  控訴人が、中労委昭和六〇年(不再)第五九号事件につき昭和六三年三月二日付けでした命令中、神奈川地方労働委員会が被控訴人に対して、

(一)  補助参加人ら組合員松岡延子を原職に復帰させること及びこれに伴う諸問題につき団体交渉を行なうことを命じた部分

(二)  同組合員長谷川智及び同松岡延子につき、得べかりし賃金相当額及びこれに対する加算額の支払を命じた部分のうち、同長谷川智が昭和六一年二月一九日以降、同松岡延子が同年三月三日以降それぞれ被控訴人から賃金として現に支給を受けた金額及びこれに対する加算額に相当する部分並びに同松岡延子につき、昭和六三年一月二〇日以降についての部分

に関する部分を取り消す。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、補助参加によって生じたものを除き、これを三分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、補助参加によって生じた費用は、これを三分し、その一を補助参加人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁五行命令の末尾に「控訴人の再審査手続は、基本的には地方労働委員会の審査手続の続審というべき性格を有するから、控訴人は、救済命令の違法性につき再審査終結の時点における事情に基づいて判断すべきである。したがって、訴訟手続において、第一審で金銭の給付判決がされた後その弁済がされたときは、控訴審において原判決を取り消すのと同様に、再審査手続中に初審命令が履行された場合には、そのことを考慮して、再審査命令で、その部分の命令を取り消すべきである。」を、同七頁一〇行目の末尾に「仮に、右原職復帰が終期のないものとすると、本件命令は、長谷川及び松岡に対して、更新不要の、期間の定めのない雇用契約上の地位を与えるものとなって、労働委員会の裁量権を著しく逸脱したものとなることからも、右のとおりに解すべきである。」をそれぞれ加え、同一〇頁四行目の「したがって」を「ナースコンパニオンとは、看護助手に対する呼称であり、その仕事は比較的単純なものである。また、保健婦助産婦看護婦法三一条、三二条によって免許のないナースコンパニオンが患者を介護することが原則的に禁止されていることや、長谷川が腕章着用のまま就労したのに対して、患者から怖いとの申出があったことから、右介護業務に従事させていなかったのであって、このことを考慮すると」に改め、同一二頁七行目の「履行済みである」の次に「(なお、右の「年五分相当額」の支払いを命じた部分は、被控訴人に対して損害賠償義務を命じるに等しく、控訴人の裁量権を逸脱した違法のものである。)」を加え、同一三頁三行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「 また、一般に、解雇事案等で中間収入が存在する場合においてバックペイを命じるときは、当該収入を控除すべきものとされているが、被控訴人が仮処分命令に基づき支払った金員も中間収入に当たるから、これを控除しなかった本件命令は違法である。」

二  原判決二六頁五行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「(3) なお、初審命令第3項が命ずるポスト・ノーティスは、同第1、2項を前提とした付随処分であるところ、本件命令発令時には同第1、2項の大半が実質的に実現されていたのであるから、本件命令において右初審命令第3項を維持したのは違法である。」

三  原判決三三頁八行目の次に行を変えて次のとおり加え、同九行目冒頭の項番号を「(三)」から「(六)」に改める。

「 被控訴人は、仮処分命令に基づき長谷川及び松岡に仮払金を支払ったが、仮処分命令に対して不服申立てをしてその取消しを受け、不当利得として右金員の返還を請求することも可能である以上、右支払によって救済命令の履行を終了したことにならないし、右仮払金は、いわゆる中間収入にも当たらない。また、被控訴人は、再審査手続において、仮処分についての異義申立権を放棄するとの主張も立証もしていない。仮に、被控訴人が仮処分命令に基づく賃金相当額の支払いをもって救済命令を履行したというのであれば、被控訴人は、再審査申立てにより初審命令の取消しを求める法律上の利益を欠くこととなるので、控訴人が被控訴人の再審査申立てを棄却したのは相当である。

なお、本件命令により賃金相当額に年五分相当額を加算して支払うよう命じたのは、本件不当労働行為の態様からみて命令発出の時点における完全な救済をするためには、賃金相当額だけでは不十分であったからであって、損害賠償を命じたのではなく、裁量権の範囲内の処置であった。

(三) 初審命令主文第1項は、長谷川、松岡の両名につき、雇止めの翌日から一年に限って原職復帰等を命じたものではなく、また、原職復帰後の私法上の雇用期間を定めたものでもない。本件は雇止め自体が不当労働行為なのであるから、それがなかった状態とすることすなわち原職に復帰させることとそれまでの間のバックペイを命じているのであって、原職復帰の際の復帰期間は、当事者間で従来の実情を尊重して決めるべき事項である。

(四) 被控訴人が長谷川及び松岡と新契約を締結し、両名を就労させたことにより、バックペイ等を命じた本件命令が違法となることはない。

右両名は、無契約状態となって職場から排除されることを防止するため、新契約を締結したのであるが、その就労内容は従来と全く別のものである上、賃金等の労働条件も従来とは異なるから、新契約による就労は、「原職復帰」とはいえないものである。右両名は、新契約の締結により原職復帰を放棄したわけではないので、依然として原職復帰の救済利益が存続し、また、被控訴人は初審命令を受け入れて履行したのではなく、これを争っているので、初審命令を維持したのである。

(五) 被控訴人が長谷川及び松岡と新契約を締結し、両名を就労させたことにより、団体交渉に応諾することを命じた本件命令が違法となることはない。

前記のとおり、新契約による就労は、その内容及び労働条件において従来と異なっているため「原職復帰」とはいえないのであるから、両名が原職復帰する時点においてそれまでの期間の問題も含めた「原職復帰に伴う諸問題」についての団体交渉をすることが必要である。」

四  原判決三四頁五行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「 なお、労働委員会は、不当労働行為による不利益が回復された場合においても、過去において不当労働行為があったことを使用者側に確認させることによって、将来における不当労働行為の発生を防止する必要があるときは、ポスト・ノーティスを命じることができるのであり、本件においては、その必要があった。」

五  原判決三六頁九行目の「あるのに」の次に「、右両名は、従前の仕事ともナースコンパニオンの仕事とも異なる単純作業に就業することを命ぜられ、患者と接触する仕事を一切排除された上、各種のいやがらせが続いていて」を加え、同四〇頁四行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「 仮に、被控訴人が初審命令を履行したことにより本件命令において初審命令を維持したことが違法であると主張しているものとすれば、使用者が不当労働行為をして組合や組合員に打撃を与えた場合であっても、初審命令に従って当該行為を取り消しさえすれば、再審査で初審命令の取消しを求めることができることとなり、どのような不利益が組合や組合員に残ろうとも労働委員会からの不当労働行為の救済が与えられないこととなる。また、法律上も、行政命令による義務を履行したことを理由に、行政事件訴訟を提起し当該命令の取消しを求めることは、訴えの利益を欠いて不適法であるが、これと同様に、初審命令を履行したことを理由に、その取消しを求めて再審査請求をすることができないから、控訴人が本件命令により初審命令を維持したことは当然である。

なお、本件命令のうち仮払金相当額の支払いを命じる部分を、被控訴人主張の理由により取り消すべきであるとしても、年五分の付加金等の仮払金を超える分の支払いを命じる部分は、何ら違法ではないので、取り消すことができないものである。」

六  原判決四二頁四行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「 ところで、本件命令中の団体交渉に応諾することを命じた部分は、年次有給休暇の制度上の明確化や長谷川に対する就業規則適用上の問題点についても団体交渉をするように命じたものであるうえに、現時点においても原職復帰が実現していないのであるから、団体交渉の必要性のあることは、明白である。」

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二不当労働行為の成否について

被控訴人が、長谷川及び松岡(以下「長谷川ら」という。)の雇用関係を打ち切ったこと並びに補助参加人らの申し入れた団体交渉に応じなかったことが、不当労働行為に当たるかどうかについて検討する。

1  以下の(1)ないし(6)の事実は当事者間に争いがない。

(1)  被控訴人は、総合高津中央病院等を経営している医療法人であり、昭和五四年二月にパートタイマーの看護助手(以下これを、被控訴人が用いた名称に従い、「ナースコンパニオン」という。)の制度を発足させ、同月に三六名を採用し、以後も新規に、又は補充のためにその採用を続けていた。同制度発足に当たり、パートタイマーの定義、雇用契約、就業時間、年次有給休暇等について定めたパートタイマー就業規則を作成し、同月一九日から施行したが、同規則二五条には、雇用契約期間の更新により勤続年数が継続して一年以上になるパートタイマーに対しては、勤務状況により翌年度に六日間の年次有給休暇を与え、継続勤務期間が増加するにつれて一年につき一日の割合で年次有給休暇の日数が増加すること、年次有給休暇の有効期間は二年とすること等が定められていた。

(2)  長谷川は、昭和五四年二月一九日、松岡は、昭和五五年三月三日、それぞれ被控訴人に雇用期間を一年間とするパートタイマーとして雇用された者であり、いずれも右各雇用時から右総合高津中央病院においてナースコンパニオンとして稼働し、その後も昭和六〇年二月又は三月の各雇用期間満了時までは、毎年、右各雇用期間の終期と始期との間に間隔を置くことなく雇用契約関係を継続してきた。長谷川ら以外のナースコンパニオンも、各人のそれぞれの雇用期間の終期と始期との間に間隔を置くことなく雇用契約関係を継続してきた。

(3)  被控訴人は、昭和五六年一月二六日、川崎地域労働組合との間で労使間の基本的事項、高津中央病院支部組合員の組合活動、人事、労働条件等について協定を締結したが(以下「労使協定」という。)、その第五項には「組合員の配転、職種変更、昇格、降格、処分、解雇等労働条件の変更について組合と事前に協議し、組合の同意を得ること」と定められている。

(4)  被控訴人は、昭和六〇年二月一四日ないし同月一六日の間に、松井職員課長代理を通じて、同年二月一八日に契約期間が満了する長谷川をはじめナースコンパニオン四名に対し、その後の新契約の条件として「(1)新契約は、契約期間終了の一週間後である同月二五日から昭和六一年二月一四日までを雇用期間とするパートタイマー雇用契約としたい、(2)年次有給休暇は付与しない、(3)時間給は五円上げ七五〇円とする。」との提案をした。右提案を受けたナースコンパニオンらは、新契約案によると年次有給休暇が付与されないことなどから新契約についての諾否を留保した。そこで、被控訴人は、年次有給休暇に代わる制度として、特別有給休暇を六日間付与し、未消化の有給休暇については退職慰労金名目で相当の金額の補償をするとの提案をしたところ、長谷川以外の非組合員三名は、これを了解し、新契約を締結した。

(5)  長谷川の所属する補助参加人分会は、昭和六〇年二月一八日被控訴人に対して「ナースコンパニオン新契約に伴う労働条件の変更について」を議題とする団体交渉を申し入れ、また、補助参加人らは、同月二三日、連名で右団体交渉に応じるよう申し入れたが、被控訴人は、これには応じず、団体交渉を拒否した。長谷川は、特別有給休暇を付与する旨の条件を付加した前記提案を拒否し、従前の契約期間満了日の翌日である同月一九日から就労したい旨申し出て、同日朝、就労の意思をもって被控訴人の職員課に赴いたが、就労を拒否された。

(6)  松岡の従前の雇用期間の満了日は同年三月二日であったが、同人が被控訴人から新契約の提案を受けたのは、補助参加人らが神労委に対して本件不当労働行為についての救済申立てを行った翌日の同年二月二八日であった。同人が提示を受けた新契約は、長谷川に対する、特別有給休暇を付与する旨の条件を付加した提案と同様のものであったが、松岡は、右提案を拒否し、従前の契約期間満了日の翌日から引き続き働きたい旨申し出たが、被控訴人は、新契約の不成立を理由に同人の就労を拒否した。また、弁論の全趣旨により成立を認める<書証番号略>によれば、補助参加人地連は、総評全国一般労働組合の神奈川県における組織としての組合であり、補助参加人支部は、昭和五五年一二月「川崎地域労働組合」の名称により同地域における組合及び個人を加盟者として結成された組合であって、昭和五九年一一月一〇日に補助参加人地連に加盟することを決定し、同年一二月七日にその名称を現在の名称に変更したこと、補助参加人分会は、昭和五六年一月二五日、総合高津中央病院及び中央調剤薬局の従業員により「川崎地域労働組合高津中央病院支部」の名称により結成された川崎地域労働組合に加盟する労働組合であり、川崎地域労働組合の補助参加人地連への加盟に伴い、昭和六〇年一月二八日にその名称を現在の名称に変更したこと、長谷川らは、本件不当労働行為についての救済申立てがされた当時、いずれも補助参加人分会の組合員であったことが認められる。

2  被控訴人は、補助参加人分会の代表者が不明確であり、川崎地域労働組合高津中央病院支部との同一性に疑義があること、補助参加人らの相互の組織的関係が不明確であること、ナースコンパニオンの契約更新に際しての契約条件の変更は、労働条件の変更でなく、また、契約期間満了による雇止めは解雇ではないから、労使協定上、団体交渉をすべき事由に当たらないこと等の理由により、補助参加人らの団体交渉の申入れを拒否したものであって、この団交拒否には正当な理由があったと主張する。

これらの点について検討すると、<書証番号略>によれば、被控訴人は、従来、川崎地域労働組合高津中央病院支部(執行委員長大淵百合子)と団体交渉を行ってきたが、昭和五九年夏から秋にかけて、川崎地域労働組合の内部で全国一般労働組合への加入をめぐって対立が生じ、右高津中央病院支部も大淵百合子の名ではなく、「執行委員長代行関山進」の名で被控訴人に団体交渉の申入れをしたこと、このため、被控訴人は、大淵百合子に対しその経緯の照会を行ったところ、同人は、同年一二月一日付けで、組織の決定を受けて関山進が執行委員長代行として同支部を運営している旨の回答をしたこと、川崎地域労働組合中央執行委員長上野久雄、高津中央病院支部執行委員長大淵百合子及び同執行委員長代行関山進は、三者連名で、同月一一日付文書により、被控訴人に対し、補助参加人支部と補助参加人分会が、現在の名称に変更したことと補助参加人地連と補助参加人支部の三役の氏名を通知したこと、その後、前認定のとおり、補助参加人分会は、同年二月一八日に執行委員長関山進の名で、被控訴人に団体交渉の申入れをし、次いで、補助参加人らは、同月二三日に執行委員長三者の連名で団体交渉の申入れをしたこと、右二三日の申入れにあたり、補助参加人分会では同年一月二八日の大会における役員の改選により関山進が執行委員長に選任されたことを通知したこと、これに対して、被控訴人は、従来どおり川崎地域労働組合高津中央病院支部との間で労働問題を解決する所存であるとし、大淵百合子を通じて組合の組織に関する各種の事項を回答するように求め、右団体交渉を拒否したこと、補助参加人らは、右事項については既に回答済である旨通告するとともに、団体交渉に応じるよう要求し、大淵百合子からの回答をしなかったこと、補助参加人分会の組合員は、結成当初二〇〇名を超えていたが、神労委への本件救済申立て時には一〇名に減少していたことが認められる。

右認定事実によれば、補助参加人らから名称変更や役員の改選の通知があるまでは、補助参加人分会と「川崎地域労働組合高津中央病院支部」との同一性やその代表者が明確ではなく、被控訴人が補助参加人分会の交渉相手としての適格性について疑義を抱いたことに理由がなかったわけではないともいえるが、前認定の事実から明らかな、大淵百合子からは補助参加人らがした通知等と矛盾した回答又は通知がなかったことや補助参加人分会とは別個に「川崎地域労働組合高津中央病院支部」と称する組合は存在しなかったことを参酌すれば、右通知のあった後は、右の疑義が解消していたというべきであり、そうとすれば、ことさらこれらのことを取り上げ、従来どおり川崎地域労働組合高津中央病院支部との間においてのみ労使交渉に応じるとして、補助参加人らの団体交渉の申入れを拒否したことにつき、正当な理由があったということはできない。

また、前認定のとおり、ナースコンパニオンの雇用契約は、被控訴人において各雇用期間の終期と始期との間に間隔を置くことなく更新されてきており、年次有給休暇についても労働基準法三九条の規定と同様に定めていたのであって、その実態は、期間の定めのない雇用契約と異なるところがなかったというべきであるから、その労働契約の更新に際して行われる契約条件の変更は、実質的に見ると労使協定五項にいう「労働条件の変更」に当たり、また、契約期間満了による雇止めには、解雇に関する法理を類推すべきものである。そして、後記判断のとおり、被控訴人の提示した新契約は、従前の契約内容よりも労働条件が低下する内容のものであったということができる。

以上の認定及び判断によれば、補助参加人分会及び補助参加人らが「ナースコンパニオン新契約に伴う労働条件の変更について」を議題として団体交渉を申し入れたことにつき、被控訴人には、これを拒否する正当の事由があったものとは認められないから、労使協定五項に基づき、これに応じる義務があったものである。したがって、被控訴人が右団体交渉を拒否したことは、労働組合法七条二号の不当労働行為に当たるといわなければならない。

3  被控訴人は、長谷川らに対して提案した新契約は、他のナースコンパニオン全員と同一内容のものであって、不利益な取扱いではなかったのに、長谷川らが新契約の締結を拒んだので、雇用が継続されなかったに過ぎないと主張する。そして、前認定の事実によれば、長谷川らに対して提案した新契約は、他のナースコンパニオン全員に対して提案した新契約と同一内容のものであったことが明らかである。

しかしながら、被控訴人の提案した新契約によれば、従来の契約更新による方法と異なって、前契約と新契約との間に一定の日数を置くこととなるが、そのように改める業務上の必要性は特になく(成立に争いのない<書証番号略>により認める。)、また、年次有給休暇に代わる特別有給休暇の制度は、一年に限り有効であり、かつ、雇用期間に応じた日数の増加がないので、使い残した有給休暇について金銭補償がされるとしても、従前の年次有給休暇の制度に比して明らかに労働条件を低下させるものであるといわなければならない。また、新契約における労働条件には従前の労働条件とは異なる点があるのであるから、前示の労使協定によれば、組合員である長谷川らに対しては、団体交渉によって、契約条件の変更を協議した後でなければ、これを示し、応諾するように求めることができないものである。ところが、被控訴人の拒否により右の点についての団体交渉が実現しなかったのであるから、長谷川らが被控訴人の提案に同意せず、従前の労働条件の下で就労しようとしたことは、右認定の趣旨に沿った当然の行動であり、被控訴人は、これを拒否する根拠を有しなかったものというべきである。

被控訴人は、このように、協定に反して契約期間満了の二日前に突然不利な契約条件を示し、これについての労働組合からの交渉を正当の理由なく拒否したうえに、これに同意しないとして、組合員を直ちに雇止めにしたものであり、このことと前認定の経緯とに鑑みれば、被控訴人は、少数となった補助参加人分会の組合員から長谷川らを排除し、ひいては補助参加人ら組合を弱体化しようとしたものであり、また、長谷川らにつき同人らが補助参加人らの組合員であることの故に、雇止めという不利益な取扱いをしたものであることが明らかであって、これらの行為は、労働組合法七条一号、二号及び三号の不当労働行為に当たるといわなければならない。

4  そうすると、被控訴人の団体交渉の拒否には正当な理由がないとし、また、組合員である長谷川らの雇止めをもって、組合員であるが故の不利益な取扱であり、かつ、組合の運営に支配介入したことに当たるものと認定し、これらをいずれも不当労働行為に当たると判断した初審命令を維持した本件命令は、この点において正当であり、被控訴人主張の違法はない。

三原職復帰及びバックペイを命じた部分について

1  初審命令は、被控訴人の右不当労働行為につき、原職復帰等の処置をとることを命じ、本件命令は、これを維持した。このうち、初審命令主文第1項は、被控訴人に対し、補助参加人らの組合員である長谷川らを原職に復帰させること及び同人らに対する雇止めのあった日から原職に復帰させるまでの間についての賃金相当額に年五分相当額を加算して支払うことを含む、同人らを雇止めがなかったのと同様の状態に回復させる処置をとることを命じたものである。

2  被控訴人は、本件命令が、雇用契約上の地位保全及び賃金仮払いの仮処分命令の発令があったことなどの、初審命令のあった昭和六〇年一二月一三日以降に生じた事由を何ら顧慮せずに初審命令を維持したのは違法であると主張する。そこで、まず地方労働委員会の救済命令について再審査の申立てがあった場合において、控訴人は、地方労働委員会の救済命令の後に生じた事由を考慮して、同命令の変更等をすべきかどうかについて検討する。

控訴人は、申立てにより又は職権で地方労働委員会の救済命令を取り消し、承認し、若しくは変更する完全な権限をもって再審査し、又はその処分に対する再審査の申立てを却下することができるのであり(労働組合法二五条三項)、この場合においては、控訴人は、調査及び審問により事実を認定したうえで再審査についての命令をすべきものとされ(同法二七条一二項による同条一項、三項及び四項の規定の準用)、同法二六条の規定に基づき制定された中央労働委員会規則の五一条から五六条までの規定において、その詳細な手続が定められている。これらの定めを総合すれば、控訴人は、再審査についての命令をするにあたり、地方労働委員会の認定事実に拘束されることなく、独自の調査及び審問の結果によって命令時における事実を認定し、これに基づいて命令をすべきであることが明らかであるから、控訴人は、地方労働委員会の救済命令の後に生じた事情をも考慮して、救済命令を取り消し、承認し、又は変更すべきであるということができる。

3  そこで以下において、被控訴人が主張する初審命令以降に生じた事由について、検討することとする。

(期間経過により命令が履行不能となったか)

被控訴人は、初審命令主文第1項は、長谷川らの雇用契約の期間が一年間であることを前提として、長谷川については昭和六一年二月一八日までの間についての救済を、松岡については昭和六一年三月二日までの間についての救済を、それぞれ命令の対象としており、本件命令は、同期間の経過した昭和六三年三月二日にされていることから、履行不能の命令であると主張し、神労委自身が、神労委昭和六二年(不)第一〇号不当労働行為救済申立て事件において、初審命令主文第1項(2)の趣旨を雇止めの翌日から一年間に限ってバックペイ等を命じたものであるとの前提に立ち、昭和六一年七月一五日に、長谷川らに対する昭和六一年二月一九日又は同年三月三日以降の賃金相当額から同人らが現に支給を受けた金額を控除した金額等の支払いを命じたこと(この事実は、<書証番号略>により認められる。)を援用する。

しかしながら、長谷川らの雇用契約の期間が一年間と定められたことは、前認定の雇止めまでの経緯に照らし、被控訴人がその期間に限って長谷川らを雇用し、期間満了の後の雇用は全く考慮しないという趣旨によるのではないことが明らかであり、また、期間満了日である昭和六一年二月一八日又は同年三月二日以降において被控訴人の病院において長谷川らのナースコンパニオンとしての就労が不要となったことを窺わせる証拠は見当らない。そして、右原職復帰等の命令は、雇止め自体が不当労働行為であると認定され、これに対する救済として発せられたものであるから、初審命令主文第1項の趣旨は、雇止めがなかった状態の回復、すなわち原職に復帰させることとそれまでの間のバックペイを単純に命じているのであり、また、いつまでに原職復帰をさせるのかについて期限を付しているものではないことから、それぞれの雇止めの翌日から一年間に限って原職復帰やバックペイを命じたにすぎないものではないことが明らかである。また、本件命令は、その性質上、原職復帰後の私法上の雇用期間等を定めるものではないから、同期間を従前どおり一年間とするかどうか等については、初審命令主文第2項において命じる団体交渉とこれをふまえた個別の雇用契約において決すべき問題であり、同項において団体交渉に応諾することを命じたのも、右の点等を解決させるためのものというべきである。被控訴人の右主張は、採用することができない。

なお、右神労委の昭和六二年(不)第一〇号不当労働行為救済申立て事件における命令は、本件命令の発令前である昭和六一年七月一五日にされ、本件命令は、これに後れていることから、右神労委の命令と重複する部分(長谷川らに対する昭和六一年二月一九日又は同年三月三日からの賃金相当額から同人らが現に支給を受けた金額を控除した金額に年五分相当額を加算した金員の支払いを命じる部分)についての救済の利益の有無につき疑義がないではない。しかしながら、控訴人に対する再審査の申立てによっては初審命令の効力は停止せず、同命令は、依然として被控訴人に対して効力を有するところ(労働組合法二七条五項ただし書き)、神労委の右昭和六一年七月一五日の命令は初審命令に後れるものであって、初審命令の効力は右昭和六一年の命令によって左右されるものではないことから、控訴人は、右昭和六一年の命令を考慮することなく、初審命令を取り消し、承認し、又は変更することができるものであり、この点に関して救済の利益に欠けるところはないというべきである。

(仮処分決定及び同決定に基づく措置の影響)

横浜地方裁判所川崎支部が、昭和六〇年一二月二六日、長谷川らの申請に基づき、一年間の雇用契約上の地位保全及び一年間の賃金仮払い(長谷川につき、昭和六〇年二月一九日から昭和六一年二月一八日まで毎月二八日限り金九万九〇八六円、松岡につき、昭和六〇年三月三日から昭和六一年三月二日まで毎月二八日限り金九万八一六〇円)を内容とする仮処分決定をしたことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に<書証番号略>及び証人増元方、同長谷川智の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、右仮処分決定に対して仮処分異議、起訴命令の申立て等の法的手続をとらず、長谷川らに対し、それぞれ昭和六〇年一二月分までの賃金相当額を支払ったこと、長谷川らは右金員を生活費として費消したこと、被控訴人は、昭和六〇年一二月二七日付で、長谷川に対しては昭和六一年二月一八日までの、松岡に対しては昭和六一年三月二日までの各仮就労を命じる内容証明郵便による通知をし、また、補助参加人分会からの長谷川らの労働条件に関する団体交渉申入れに対し、昭和六一年一月七日、書面により昭和五九年の雇用契約書の内容と同一の労働条件であるとの回答をしたこと、長谷川らは、右通知に基づき、昭和六一年一月九日からナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所において就労し、同日以降右通知による期日まで賃金の仮払いを受けたことが認められる。

被控訴人は、以上の事実を前提として、仮処分に基づき長谷川らを現実に原職復帰させ、また賃金を支払ったので、右復帰の日以降については、原職復帰とバックペイについては、ともに救済利益が消滅したので、この点を斟酌し、初審命令を取消すか修正すべきであったと主張する。

しかしながら、仮処分命令と救済命令とは、その目的自体において必ずしも同一のものではないばかりではなく、性質及び効力をも異にするものであって、それぞれの要件を満たす限り、別個に発令され、併存が可能であるから、仮処分命令に基づいて、地位保全や金銭の仮払いがされているときでも、労働委員会としては、救済命令制度の趣旨に照らして必要があると認める限り、仮処分命令と同一の内容の救済措置を講ずることを妨げられるものではないというべきである。そして、仮処分命令に基づく支払いは、本案判決が出るまでの暫定的な仮払いに過ぎないから、右仮払いが確定的な債務の弁済となったというような特別の事情のない限り、これをもって中間収入又はこれに準じた確定的な支払いに該当すると解することはできない。そして、本件に表れた証拠によっては、本件命令の発令時までに、被控訴人が右仮処分命令に対する異議申立権を放棄したとか、仮処分命令に基づく金銭の仮払いを確定的な債務の弁済とする趣旨の合意が成立したなどの事情があったものと認めることができず、却って、前示<書証番号略>によれば、長谷川らは仮就労を命ぜられたに止まっているうえに、受領した賃金も仮払いとして授受されているに過ぎないことが認められる。そうとすれば、右仮処分命令及びこれについての被控訴人の履行の事実によっては、本件命令が維持した初審命令主文第1項に係る救済の必要性は、原職復帰とバックペイのいずれについても消滅したと解することができない。

なお、初審命令主文1項は、賃金相当額の五パーセントの金員の支払いをも付加して命じているところ、右金員の法律的性格は、支払いが遅延したことによる民事上の損害賠償ではなく、不当労働行為と認定された雇止めによる賃金不払行為の組合活動一般に対する侵害的効果を除去するため、右雇止めによる賃金不払行為がなかったのと同じ事実上の状態を回復させるという趣旨を有しており(最高裁判所平成二年三月六日第三小法廷判決、判例時報一三五七号一四四頁参照)、原状回復の一態様として神労委が裁量によりその支払いを命じたものというべきであるから、これをもって、違法な処分であるということはできない。

(新契約の成立による影響)

<書証番号略>及び証人増元方、同長谷川智の各証言によれば、長谷川は昭和六一年二月一八日に同年二月一九日からの、松岡は同年三月一日に同年三月三日からの新たな雇用契約を締結し、右契約に従ってナースコンパニオンとして従来と同一の就労場所で、同一の賃金で就労し、その労働に対する対価として賃金の支払いを受けたこと、その後も、長谷川らは、各契約期間満了の際、期間一年の同旨の契約を締結し、各契約内容に従って右と同様に就労し、賃金の支払いを受けたこと(ただし、松岡については、昭和六三年一月一九日まで)が認められる。

被控訴人は、右新契約によって原職復帰が実現し、かつこれに伴う賃金を支払ったので、新契約が行われた日以降については、原職復帰とバックペイのいずれについても、救済利益は消滅したと主張する。

しかしながら、<書証番号略>及び証人長谷川智の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、長谷川らは、提案された新契約の労働条件には不明確の点もあるが、前年の雇止めの経緯もあったことから、とりあえず被控訴人から示された条件により就労するとの意思のもとに、新契約を締結したのであって、これによって労働委員会に対する救済の申立てを撤回したり、その利益を放棄したものではなかったこと、長谷川らの新契約による賃金は、同期の他のナースコンパニオンと比べて時給にして二〇円安かったが、これについては被控訴人からその理由の告知がなかったこと、契約書では職務、雇用期間、勤務時間、休憩時間及び給与の事項以外は、パートタイマー就業規則に従うと定められていたが、被控訴人は、同規則を昭和六〇年一月一六日に改正し、年次有給休暇の定めを廃止していたこと、被控訴人は、労働基準監督署からのこの点に関する是正勧告にもかかわらず、雇用契約書によるかぎり、年次有給休暇を与えていなかったこと、長谷川らの賃金明細書には、従前とは異なって、年次有給休暇の残日数が零と記載されていたほか、年次有給休暇の残日数を記載する欄がなくなっていて、長谷川らが休暇をとった場合、年次有給休暇の範囲内では、事実上そのことを理由とする賃金カットをしない取扱をしていたこと、長谷川らは、従前の労働内容と異なり包帯巻き等の単調な作業のみに従事させらたことがあり、また、他のナースコンパニオンと異なり患者との接触を断たれていたことが認められる。右認定の事実によれば、長谷川らは、制度としての年次有給休暇を保証されていないうえに、賃金その他の労働条件や職場における処遇の実際は、従前とは異なっていることが明らかである。これらの点に、被控訴人が初審命令において不当労働行為を認定されたことを不服として再審査を申立て、さらに本訴を提起していることから明らかなとおり、被控訴人が初審命令に服する趣旨において新契約を提示したものではないことを総合すると、長谷川らの新契約による就労をもって原職に復帰したものと認めることはできないから、原職復帰に関する限り、被控訴人の主張に理由がない。

もっとも、長谷川らは新契約による就労により賃金を得ており、当該収入は雇止めによって従前の就労から解放されたことにより可能となった新たな就労により得たものと考えられるところ、前認定のとおり、新契約による就労は、従前の就労と同一条件のものではないにしても、被控訴人を雇用主とし、従前と同じ職場における同じ職種による就労であって、労務の性質及び内容も同質のものであり、また、右就労による賃金は、法律上返還の請求を受ける可能性のないものであるから、雇止めによる経済上の不利益は、その限度において償われたものと認めるべきである。そこで、右就労による賃金収入の控除を全く不問にして、バックペイとしてその既に償われた部分までの支払いを命じることは、合理性を欠くものであり、実害の回復以上のものを被控訴人に命ずるものであって救済の範囲を逸脱するものというべきである(最高裁判所昭和五二年二月二三日大法廷判決、民集第三一巻第一号九三頁参照)。控訴人は、本件命令において、右収入の控除を不要とすることにつき特段の具体的な理由を示すことなく、初審命令を維持しているが、本件に表れた各証拠を検討しても、これを不要とする理由を見い出すことができない。そして、新契約による就労は、被控訴人を雇用主として、従前と同じ職場における同じ職種による就労であり、労務の性質及び内容も同質のものであることや、前示のとおり、神労委が補助参加人らの申立てに基づき昭和六二年(不)第一〇号不当労働行為救済申立て事件において賃金相当額から長谷川らが被控訴人から現に支給を受けた金額を控除した金額等の支払いを命じる救済命令を発令していることをも斟酌すると、長谷川らが新契約により受領した賃金の全額とこれに対する加算額に相当する額を救済の対象から除外するのが相当である。そうであるとすれば、この点について初審命令を維持した本件命令は、結局において、控訴人に認められた裁量権の合理的な行使の限度を超えた違法のものといわなければならない。

(松岡の退職)

松岡が昭和六三年一月一九日付けをもって自己都合により被控訴人を退職したことは、当事者間に争いがない。

前示判断のとおり、控訴人は、再審査に当たっては、再審査の命令を発令するまでに生じた事実に基づきこれをすべきであるところ、控訴人が再審査の申立てを棄却することは、労働組合法二五条三項にいう地方労働委員会の処分を承認することであって、地方労働委員会の救済命令が再審査の命令時においてなお効力を有することを確認することとなるから、再審査の命令の発令時における事実関係によれば初審命令の内容を維持することができない場合は、これを取り消し、又は変更すべきである。そして、右の事実によれば、松岡については、右退職によって就労が客観的にあり得なくなったので、原職復帰及び退職した後のバックペイの救済利益は消滅したことが明らかであり、また、<書証番号略>によれば、被控訴人及び補助参加人らは、本件命令発令の前日である昭和六三年三月一日に松岡の右退職の事実を控訴人に上申しており、控訴人が右事実を把握していたことが認められるから、控訴人は、本件命令を発令するに当たり、原職復帰及びバックペイを命じた初審命令を変更すべきであり、これをそのまま維持したのは違法であるといわなければならない。

この点につき、控訴人は、本件命令の履行として、被控訴人は松岡に関する限りその退職時まで履行すれば足りると主張し、また、補助参加人らは、松岡の右退職により、初審命令は法律上当然に効力を欠くに至り、被控訴人が再審査の利益を欠くと主張する。しかし、前述のとおり、再審査の申立てを棄却することは、初審命令が再審査の命令時においてなお効力を有することを確認することとなるから、松岡の任意退職により初審命令の一部が法律上の存在意義を失ったとしても、外見上の初審命令の拘束力を解くために、控訴人は、初審命令を変更すべきであり、被控訴人には、再審査の申立ての利益があるものということができる。

4  以上によれば、控訴人が初審命令主文第1項のうち、被控訴人に対して、松岡について原職復帰を命じた部分並びに長谷川らについて新契約を締結した日から同人らが現に支給を受けた金額に年五分相当額を加算した額を支払うように命じた部分及び松岡について退職日の翌日から賃金相当額に年五分相当額を加算した額を支払うように命じた部分を維持した部分は、いずれも、その裁量権の範囲を逸脱する違法があるから取消しを免れないが、その余の点については、何らの違法もないというべきである。

四団体交渉に応諾することを命じた部分について

本件命令が維持した初審命令主文第2項は、「被申立人は、申立人組合員長谷川智及び松岡延子に係る原職復帰に伴う諸問題につき、申立人組合と誠意ある団体交渉を行わなければならない。」というのであり、被控訴人は、右の部分は、長谷川らの原職復帰が履行期の経過又は松岡の退職により履行不能となったり、長谷川らが被控訴人との新契約の締結により原職復帰を果たしたことから、まったく無意義であると主張する。

しかしながら、前認定及び判断のとおり、長谷川らに対する原職復帰は、本件命令時までに実施されていないし、また、本件命令が初審命令主文第1項のすべてを維持したことにつき違法の部分があるとしても、なお、その重要な部分である長谷川の原職復帰を命じたことは適法であるところ、長谷川の原職復帰に当たり、復職後の賃金改定、次期以降の労働契約の更新等に関して契約の内容を明確にする必要があることが明らかである。そうすると、被控訴人に長谷川の原職復帰に伴う諸問題について補助参加人らと誠実に協議させる必要があるので、初審命令主文第2項については、長谷川の原職復帰に伴う諸問題の協議に関する限り、救済の必要性を欠くことはないというべきである。

ところで、右主文第2項は、松岡に係る原職復帰に伴う諸問題についても団体交渉をすべきことを命じているが、前認定及び判断のとおり、松岡が退職したことにより、同人の原職復帰が不能となったので、同人の原職復帰に伴う諸問題の協議は、これを行う必要のないことが明らかである。そうすると、本件命令が右主文第2項のうち松岡に係る原職復帰に伴う諸問題についても団体交渉をすべきことを命じた部分を維持したことは、その裁量権の範囲を逸脱する違法のものといわなければならない。

五ポスト・ノーティスについて

被控訴人は、本件命令が維持した初審命令主文第3項のポスト・ノーティスの命令は、被控訴人に対し、「誓約書」という題で、文中に「ここに深く反省する」とか「誓約します」の文言を入れた文の掲示を義務付けているが、これは、被控訴人に対し、その意に反する反省や誓約の意思表示を過料、刑罰の制裁の下に強制するものであって、憲法一九条で保障された思想・良心の自由を侵害すると主張する。しかしながら、右のポスト・ノーティスの命令が、労働委員会において被控訴人の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させることによって、労使関係の歪みを是正するとともに、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかであって、右掲示文に用いられている反省等の文言は、被控訴人において、同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するに過ぎないものであり、被控訴人に対して反省等の意思の表明を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解されるから、これらの文言を含むポスト・ノーティスを命じることは、憲法一九条に違反しない(前掲最高裁判所平成二年三月六日第三小法廷判決参照)。

そして、誓約書(1)及び(2)でいう不当労働行為のあったことは、先に認定、判断したとおりであり、その後の長谷川らの新契約に基づく就労や松岡の退職による事情の変更を考慮しても、なお、被控訴人に右誓約文の掲示を命じることは必要であり、本件事案に鑑みると、本件命令において、初審命令が命じた右誓約文の内容によるポスト・ノーティスの命令を維持することは、控訴人に認められた裁量権の範囲を逸脱するものではないというべきである。

六結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求は、本件命令のうち、(1)初審命令主文第1項のうち被控訴人に対して松岡についての原職復帰を命じる部分並びに長谷川らが新契約を締結した日から同人らが現に支給を受けた金額に年五分相当額を加算して支払うように命じる部分及び松岡に退職日の翌日から賃金相当額に年五分相当額を加算して支払うように命じる部分並びに(2)同第2項のうち被控訴人に対して松岡に係る原職復帰に伴う諸問題についても団体交渉をすべきことを命じる部分についての再審査の申立てを棄却した部分の取消しを求める限度において理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は、失当であって棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条、九二条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小川克介 裁判官南敏文 裁判長裁判官橘勝治は、転補につき署名捺印することができない。裁判官小川克介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!