東京高等裁判所 平成20年(ネ)1022号 判決 2008年10月30日
東京都墨田区東駒形4丁目7番2号ツバセスP10東駒形412号
控訴人
株式会社K・モンスター
代表者代表清算人
●●●銅●●●
東京都●●●
控訴人
●●●銅●●●
東京都●●●
控訴人
●●●上●●●
千葉県●●●
控訴人
●●●本●●●
東京都●●●
控訴人
●●●角●●●
5名訴訟代理人弁護士
●●●
同
●●●
同
●●●
東京都●●●
被控訴人
●●●
訴訟代理人弁護士
荒井哲朗
同
白井晶子
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 原判決主文第1項は,被控訴人の請求の減縮により,「控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して4174万7526円及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と変更された。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が,控訴人株式会社K・モンスター(以下「控訴人会社」という。)は「ロコ・ロンドン貴金属取引」と称する取引を利用した詐欺商法を行うものであり,被控訴人は,同取引に際して控訴人会社に預けた保証金4000万円を詐取されたとして,控訴人会社の担当者である控訴人●●●角●●●(以下「控訴人●●●角」という。)につき民法709条,控訴人会社につき民法715条,その余の控訴人らにつき控訴人●●●角との共同不法行為(民法719条1項),控訴人会社の代表者である控訴人●●●上●●●(以下「控訴人●●●上」という。)及び同●●●銅●●●(以下「控訴人●●●銅」という。)については予備的に会社法429条1項をそれぞれ根拠として,連帯して,損害額4400万円(上記4000万円及び弁護士費用400万円の合計額)及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審では,控訴人らが,適式な呼出しを受けながら第1回口頭弁論期日に出頭しなかったため,被控訴人の請求をいずれも認容する欠席判決がされた。
控訴人らはこれを不服として控訴をした。なお,被控訴人は,当審において,「控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して4174万7526円(保証金損害額3794万7526円及び弁護士費用380万円の合計額)及びこれに対する平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と請求を減縮した。
2 争いのない事実等
(1) 被控訴人は,昭和●●●年●●●生まれの女性である。
(2) 控訴人会社は,「経営コンサルタント業務」,「ホームページの企画制作,運営管理及び販売」,「出版業」,「商品取引所法の適用を受ける商品取引所の商品市場(外国先物取引市場を含む)における貴金属,農産物,ゴム等の上場商品並びに商品指数の売買及び売買取引の委託,受託取次業務」,「国外商品市場における先物取引の受託等に関する法律の適用を受ける国外商品市場の先物取引並びにその委託又は委託の媒介,受託取次業務」,「投資事業組合及び匿名組合の設立企画人としての業務」,「投資事業組合財産及び匿名組合財産の運用及び管理」,「匿名組合契約の締結の媒介,取次ぎ又は代理に係る業務」,「不動産に関するコンサルタント業務」,「不動産の売買,交換,仲介,賃貸借及びその仲介並びに所有,管理及び利用」,「その他不動産に付随する業務」,「上記各号に付帯関連する一切の業務」をその目的とする株式会社であるが,その現実の業務は,「ロコ・ロンドン貴金属取引」と称する顧客との取引である。
(3) 控訴人会社は,平成19年8月1日解散し,清算手続中である。
(4) 控訴人●●●銅及び同●●●上は,被控訴人と控訴人会社が取引を行った当時,控訴人会社の代表取締役であった者である。
控訴人●●●本●●●(以下「控訴人●●●本」という。)は,控訴人会社のホームページ上に「代表者 社長」と記載され,会社案内にも「代表取締役」と記載され,被控訴人代理人に交付した名刺にも「執行役社長」と記載され,控訴人会社の発起人かつ設立時の株式の全ての割り当てを受けて2000万円を振り込んだ者であり,控訴人会社の事実上の最高責任者である(甲2の1ないし5)。
控訴人●●●角は,控訴人会社のインベスト事業部店長代理の肩書を有する従業員である。
(5) 被控訴人は,控訴人●●●角から勧誘を受けて,平成18年8月11日,控訴人会社との間で後記の「ロコ・ロンドン貴金属取引」(以下「本件取引」という。)を行う契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同日から取引を行い,控訴人会社に対して保証金を支払った(なお,取引期間及び支払われた保証金の額については,後記のとおり争いがある。)。
本件取引は,顧客が控訴人会社に対してロンドン渡しの金の現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位とする最低取引単位当たり50万円の「預託保証金」(被控訴人との取引では1単位を50トロイオンス,最低保証金を25万円としている。)を支払ってロンドン渡しの金を売買したのと同様の(差金決済を行う)地位を取得し,任意の時点で当該地位と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行うもので,1取引単位当たり,5万円の手数料及び5パーセントの消費税が徴求される。
3 争点及び双方の主張
(1) 本件取引の仕組み
(被控訴人)
本件取引は,控訴人会社が提示する「ロンドン渡しの金の現物価格」及び「ドル為替変動」(取引通貨がドル建てであるため)を差金決済の指標とする差金決済契約である。そして,差金決済指標となる「ロンドン渡しの金」の価格は控訴人が任意に設定し,かつ為替レートも控訴人会社が任意に設定する。さらに,顧客は取引を行うことによりスワップポイントと称する金利を得ることができるが,それも控訴人会社が任意に設定するものとされている。
(控訴人ら)
本件取引は,差金決済契約であることはそのとおりであるが,取引形態としては,あくまで金又は銀を対象とする売買取引であり,取引自体が金又は銀の相場ないし為替相場の変動について勝敗を決し,財物の得喪を争う特質を有しているわけではない。
スワップポイントとは,取引の決済日までに反対売買による差金決済がない場合,決済日が自動的に1営業日延長され,以後も差金決済されるまで順次1営業日延長されるが,延長する場合に当該金の貸借により生じる金利の受け払い及びドルの売買により生じる金利の受け払いと二者間の金利の差によって生じる利益又は損失のことである。買建がある場合は1枚につき1日当たり500門の顧客から控訴人会社への支払スワップポイントが発生し,売建がある場合は1枚につき1日当たり400円の控訴人会社から顧客への受取スワップポイントが発生する。
控訴人会社は,顧客と取引をすると同時にカウンターパーティーといわれる国外の金融機関であるサクソ・バンクと同様の取引を行っており,「ロンドン渡しの金」の価格及び為替レートは,サクソ・バンクが決定する価格・レートに基づいて控訴人会社が決めている(甲2の5)。また,本件取引ガイド(甲10の1)によれば,値洗い差金及び反対売買に伴う差金を円貨に転換する為替レートは,日本の都市銀行において毎日午前10時ころ発表される対顧客電信相場に基づき対顧客電信売り相場と同買い相場の中間値である仲値を用いると明記されている。
(2) 本件取引自体の違法性
(被控訴人)
ア 本件取引は,金相場及び為替相場の変動という偶然の事情によって財物の得喪を争う行為であって,刑法上の賭博罪,常習賭博罪,賭博場等開帳図利罪に該当する。
イ 商品取引所法6条の「商品市場類似施設の開設禁止」違反の市場による取引は無効と解されるところ,控訴人会社は,金融商品に関与するいかなる許可,免許,登録をも有しない「ブラック業者」であり,私設市場すら開設することなく,自社のみを「1人市場」,「1人取引所」として「取引」を行っているのであるから,本件取引は,公序良俗に違反する違法無効なものというべきである。
ウ 本件取引は,取引所における相場による差金決済をするものではないが,相場による賭博行為等を禁止している商品取引所法329条や,証券取引法201条の趣旨に反するもので,賭博であって公序良俗に反する違法なものである。
エ 本件取引は,のみ行為とはいえないが,のみ行為を禁止した商品取引所法212条や,証券取引法129条が阻止しようとした弊害(委託者の利益の保護と公正な価格決定の形成を阻害すること)を生じさせるものであり,のみ行為と同様の利益相反状況を招来することを取引の仕組み自体として予定しているから,公序良俗に反する。
(控訴人ら)
本件取引は,金又は銀を対象とした売買取引であり,取引自体が,金又は銀の相場ないし為替相場の変動について勝敗を決し,財物の得喪を争う特質を有しているわけではない。
為替相場の変動が確実に予見し得ないものであるとしても,本件取引は金相場及び相場変動の予想それ自体を直接の目的とするものではないし,決済は顧客の選択する任意の時点で行われるのであるから,相場変動の偶然性のみをもって本件取引が賭博に当たるということはできない。
(3) 取引経過と控訴人らの責任
(被控訴人)
ア 取引経過
(ア) 控訴人●●●角は,平成18年8月11日,被控訴人に対し,海外市場において貴金属の取引をすれば高い利息・利益を得ることができる,「利息が少ない銀行に預けるよりよい配当がつくし,早くお金が貯まる」などと勧誘し,被控訴人をそのように誤信させて,控訴人会社との間で本件契約を締結させ,300万円を交付させた。
(イ) 控訴人●●●角は,同月20日,被控訴人に対し,「もっと追加した方がよい。今はそのときだ。待ってもらっている状態だから。」と述べたため,被控訴人は控訴人会社に立替をしてもらっているような気持ちになり,同月22日に310万円を,さらに同年9月6日に1000万円を控訴人●●●角に手渡した。
(ウ) 控訴人●●●角は,同年9月末ころ,被控訴人に対して追加投資の勧誘をし,被控訴人は同年10月4日に900万円を控訴人●●●角に手渡した。
(エ) 控訴人●●●角は,同月19日ころ,被控訴人に対して追加投資の勧誘をし,180万円を交付させた。
(オ) 被控訴人は,同月26日,控訴人●●●角に対し,950万円を手渡した。
(カ) 被控訴人は,同年12月15日ころ,控訴人●●●角から,「お小遣いよ」と言って30万円を手渡された。
(キ) 控訴人●●●角は,平成19年1月6日,電話で被控訴人に対し,「今すぐ入れられるだけでいいから入れて。店長に言って押さえておいてもらうから。」と述べて,被控訴人に330万円を交付させた。
(ク) 控訴人●●●角は,同月16日,被控訴人の預金口座に715万2474円を送金し,被控訴人に乙10号証に署名押印させ,「配当も入っているから追加して。」と述べて,被控訴人に350万円を交付させ,同月18日に250万円,同年2月7日に100万円を交付させた。
(ケ) 控訴人●●●角は,同年5月初めころ,被控訴人に対し電話で,「もっと増やせないか。」と連絡し,20万円を交付させた。
(コ) 控訴人●●●角は,同月17日,被控訴人に対し,「お小遣い」と言って150万円を交付した。
イ 控訴人らの責任
(ア) 主位的主張
以上のとおり,控訴人●●●角は,被控訴人に合計4690万円を交付させ,他方被控訴人は合計895万2474円の交付を受けた。なお,乙2号証は取引の一部のみしか記載されていない。
控訴人会社は,上記(2)のとおりそもそも違法な行為を業として行うものであるから,被控訴人に対して,従業員である控訴人●●●角が行った違法な営業行為によって被控訴人が被った損害を賠償する責任がある(民法709条,715条)。
控訴人●●●銅,同●●●上及び同●●●本は,金融商品取引に藉口して業として金銭を騙取するための控訴人会社を設立し,代表取締役あるいは取締役としてその運営に積極的,主体的に関与したから,控訴人●●●角と連帯して賠償をすべき共同不法行為責任を負う(民法719条1項)。
(イ) 予備的主張
控訴人●●●銅及び同●●●上は,控訴人会社の代表取締役として控訴人会社の営業が適法なものとなるように業務を執行すべきであったのにあえてこれをせず,違法な商法を行ったから,会社法429条1項の責任を負う。
(控訴人ら)
控訴人会社は,平成18年8月11日,被控訴人と本件契約を締結し,平成19年1月16日までの間,別紙総勘定元帳記載のとおりの取引を行い,受領した保証金の合計は3600万円であり,同日時点における保証金残高715万2474円を被控訴人名義の銀行口座に振り込み送金の方法により返還した。
(4) 示談ないし和解合意の成立
(控訴人ら)
被控訴人は,控訴人会社に対し,本件契約に基づく取引が平成19年1月16日をもって全部決済されて終了したこと及び同取引に関し相互に債権債務のないことを確認する旨の取引完了確認書(乙10)を交付している。これにより,被控訴人と控訴人らとの間には,本件契約に基づく取引に関し示談ないし和解合意が成立した。
(被控訴人)
控訴人は,被控訴人●●●角にせかされ,内容を確認しないまま乙10号証に署名・捺印したものであって,乙10号証により損害賠償請求権を放棄する意思はなかった。
(5) 損害額
(被控訴人)
ア 未返還交付金 3794万7526円
イ 弁護士費用 380万円
(控訴人ら)
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)及び(2)について
(1) 争いのない事実等,証拠(甲9,10の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件取引は,顧客が控訴人会社に対してロンドン渡しの金の現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位とする最低取引単位当たり50万円の「預託保証金」(被控訴人との取引では1単位を50トロイオンス,最低保証金を25万円としている。)を支払ってロンドン渡しの金を売買したのと同様の(差金決済を行う)地位を取得し,任意の時点で当該地位と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行う取引であり,金の現物を買主である顧客に交付することは当初から予定されておらず,控訴人会社も市場との間で金を購入するわけでもない。そして,本件取引は,取引通貨が米国ドル(以下単に「ドル」という。)建てで行われるため,差金決済においてはドルの為替レートにより円換算されることになる。
イ 本件取引においては,取引の決済日までに反対売買による差金決済がない場合,決済日が自動的に1営業日延長され,以後も差金決済されるまで順次1営業日延長されるが,延長する場合に当該金の貸借により生じる金利の受け払い及びドルの売買により生じる金利の受け払いと二者間の金利の差によって生じる利益又は損失をスワップポイントといい,買建がある場合は1枚につき1日当たり500円の顧客から控訴人会社への支払スワップポイントが発生し,売建がある場合は1枚につき1日当たり400円の控訴人会社から顧客への受取スワップポイントが発生する。
ウ 控訴人らは,「ロンドン渡しの金」の価格及び為替レートは,国外の金融機関であるサクソ・バンクが決定する価格・レートに基づいて控訴人会社が決めている,本件取引ガイド(甲10の1)によれば,値洗い差金及び反対売買に伴う差金を円貨に転換する為替レートは,日本の都市銀行において毎日午前10時ころ発表される対顧客電信相場に基づき対顧客電信売り相場と同買い相場の中間値である仲値を用いると明記されていると主張している。
(2) 本件取引の内容が以上のとおりであることを前提にその違法性を検討する。本件取引は,控訴人会社が提示する「ロンドン渡しの金の現物価格」及び「ドル為替変動」を差金決済の指標とする差金決済契約である。売買差金の額は,顧客が買ったあるいは売ったとされる「ロンドン渡しの金の現物価格」を「ドルの為替レート」によって換算した額と顧客がその後に売ったあるいは買ったとされる「ロンドン渡しの金の現物価格」を「ドルの為替レート」によって換算した額との差額によって算出されるものであるし,「ロンドン渡しの金の現物価格」も「ドルの為替レート」も,控訴人会社及び顧客には予見することができないものであり,また,その意思によって自由に支配することができないものであるから,本件取引は,偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり,賭博行為に該当する。
そして,全証拠によっても,本件取引の違法性を阻却する事由を認めることはできない。
2 争点(3)について
(1) 証拠(甲3,4の1,2,甲6,乙1,9)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被控訴人は,昭和●●●年生まれの女性で,●●●の普通高校を卒業後洋裁店に勤務し,●●●で結婚したが,●●●年に夫と死別しその後は保育園の調理師として勤務し,本件契約当時は年収300万円,相続財産の預貯金が4500万円位あった。被控訴人は,控訴人会社からの勧誘を受けるまで,先物取引の経験はもちろん株取引の経験もなかった。
イ 控訴人●●●角は,平成18年8月11日,被控訴人に対し,海外市場において貴金属の取引をすれば高い利息・利益を得ることができる,「利息が少ない銀行に預けるよりよい配当がつくし,早くお金が貯まる」などと勧誘し,被控訴人をそのように誤信させて,控訴人会社との間で本件契約を締結させ,300万円を交付させた。
ウ 控訴人●●●角は,同月20日,被控訴人に対し,「もっと追加した方がよい。今はそのときだ。待ってもらっている状態だから。」と述べたため,被控訴人は控訴人会社に立替をしてもらっているような気持ちになり,同月22日に310万円を,さらに同年9月6日に1000万円を控訴人●●●角に手渡した。
エ 控訴人●●●角は,同年9月末ころ,被控訴人に対して追加投資の勧誘をし,被控訴人は同年10月4日に900万円を控訴人●●●角に手渡した。
オ 控訴人●●●角は,同月19日ころ,被控訴人に対して追加投資の勧誘をし,180万円を交付させ,同月26日,950万円を交付させた。
カ 被控訴人は,同年12月15日ころ,控訴人●●●角から,「お小遣いよ」と言って30万円を手渡された。
キ 控訴人●●●角は,平成19年1月6日,電話で被控訴人に対し,「今すぐ入れられるだけでいいから入れて。店長に言って押さえておいてもらうから。」と述べて,被控訴人に330万円を交付させた。
ク 控訴人●●●角は,同月16日,被控訴人の預金口座に715万2474円を送金し,被控訴人に乙10号証に署名押印させ,「配当も入っているから追加して。」と述べて,被控訴人に350万円を交付させ,同月18日に250万円,同年2月7日に100万円を交付させた。
ケ 控訴人●●●角は,同年5月初めころ,被控訴人に対し電話で,「もっと増やせないか。」と連絡し,20万円を交付させた。
コ 控訴人●●●角は,同月17日,被控訴人に対し,「お小遣い」と言って150万円を交付した。
サ 以上のとおり,控訴人●●●角は,被控訴人に合計4690万円を交付させ,他方,被控訴人は合計895万2474円の交付を受けた。
シ なお,乙4ないし7号証には,控訴人●●●角が,平成18年8月11日に被控訴人に対して本件取引の仕組みを説明し,被控訴人が本件取引の仕組みを理解したかのような記載があるが,甲6号証に照らして採用することができない。また,控訴人らは,別紙総勘定元帳のとおりの取引が行われたとして,証拠(乙2の1の1ないし14の2,乙3)を提出するが,上記認定の事実に加え,別紙総勘定元帳によれば,被控訴人がほぼ毎日しかも1日に複数の取引を行ったことを示す記載があるが,これを裏付ける証拠はないし,それまで株取引すら未経験の被控訴人がそのような取引を自らの意思で行ったとは考え難いことに照らして,別紙総勘定元帳は実際の取引を反映したものと認めることはできない。
(2) 上記1のとおり,本件取引は賭博に該当し違法なものであるから,仮に被控訴人が本件取引の仕組みやリスクを理解して本件取引を行ったとしても,被控訴人を顧客として本件取引に勧誘してこれに引き入れた点において,その勧誘行為を行った控訴人●●●角はもとより,控訴人●●●銅,同●●●上及び同●●●本も意思の連絡があったと認められるので民法719条1項の共同不法行為責任を負うというべきであり,控訴人会社も民法715条の使用者責任を負う。
そして,上記(1)認定のとおり,被控訴人は,違法な本件取引について,控訴人●●●角から十分に取引の仕組みを説明されず,十分にその仕組みを理解しないまま,控訴人●●●角に言われるままに金員を交付していることが認められるから,被控訴人に賭博行為と知って加担したなどの不法原因があるということもできない。
3 争点(4)について
控訴人らは,被控訴人は控訴人会社に対し,本件契約に基づく取引が平成19年1月16日をもって全部決済されて終了したこと,同取引に関し相互に債権債務のないことを確認する旨の取引完了確認書(乙10)を交付したことにより,示談ないし和解合意が成立した旨主張する。
乙10号証には,「取引完了確認書 今回の御取引を平成19年1月16日に終了いたしました。取引内容に相違ありません。今後一切の異議申し立ては致しません。相互に債権債務のない事を確認する。」との記載があり,被控訴人の署名及び捺印がある。
しかしながら,被控訴人は,平成19年1月16日に書類に署名・捺印したことはあるが,控訴人●●●角にせかされ内容も確認しないまま署名捺印したと陳述している上(甲6),前記認定のとおり,被控訴人と控訴人●●●角とは,同年1月16日以後も同年5月17日まで金員のやりとりを繰り返しており,被控訴人と控訴人会社の取引が継続していたと認められること,同年1月16日当時,被控訴人と控訴人会社との間で,本件取引に関して紛争が生じていたとの事情は窺われず,双方の間で和解の合意をして,債権債務のないことを確認する必要性があったとは認められないことからすると,乙10号証によって,被控訴人と控訴人会社の取引が終了し,和解の合意が成立したと認めることはできないというべきである。
4 争点(5)について
(1) 上記2のとおり,被控訴人は合計4690万円を控訴人●●●角に交付したが,他方合計895万2474円の交付を受けたから,差し引き3794万7526円の損失を被ったことになる。
(2) 被控訴人が本件訴訟を追行するために負担した弁護士費用については,事案の性質,認容額などから,380万円が本件と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。
(3) したがって,以上の合計4174万7526円及び平成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は,理由がある。
5 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとするが,当審における被控訴人の請求の減縮にともない,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 房村精一 裁判官 窪木稔 裁判官 脇博人)