東京高等裁判所 平成20年(ネ)1551号 判決 2008年7月24日
控訴人(附帯被控訴人)
X1 他5名
被控訴人(附帯控訴人)
Y1 他1名
主文
一 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)らと被控訴人(附帯控訴人)らとに関する部分を次のとおり変更する。
二 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X1に対し、連帯して、一五九四万八四四四円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X2に対し、連帯して、三五〇万八五九七円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X3に対し、連帯して、三五〇万八五九七円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X4に対し、連帯して、三五〇万八五九七円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X5に対し、連帯して、三五〇万八五九七円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被控訴人(附帯控訴人)らは、控訴人(附帯被控訴人)X6に対し、連帯して、三五〇万八五九七円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 控訴人(附帯被控訴人)らのその余の請求をいずれも棄却する。
九 被控訴人(附帯控訴人)らの控訴人(附帯被控訴人)らに対する各附帯控訴をいずれも棄却する。
一〇 被控訴人(附帯控訴人)らの附帯被控訴人株式会社精密○○に対する各附帯控訴をいずれも却下する。
一一 訴訟費用(附帯控訴費用を除く。)は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とし、附帯控訴費用は、被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。
一二 この判決は、二項から七項までに限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)ら
(控訴の趣旨)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは、控訴人X1に対し、連帯して、三〇〇一万五九四六円及びこれに対する平成一八年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人らは、控訴人X2に対し、連帯して、五三八万八七六二円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人らは、控訴人X3に対し、連帯して、五三八万八七六二円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人らは、控訴人X4に対し、連帯して、五三八万八七六二円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(6) 被控訴人らは、控訴人X5に対し、連帯して、五三八万八七六二円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(7) 被控訴人らは、控訴人X6に対し、連帯して、五三八万八七六二円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(8) 訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。
(9) 仮執行宣言
(附帯控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
(2) 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)ら
(控訴の趣旨に対する答弁)
(1) 本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
(附帯控訴の趣旨)
(1) 原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2) 控訴人ら及び附帯被控訴人株式会社精密○○(以下「附帯被控訴人会社」という。)の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人ら及び附帯被控訴人会社の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、A(以下「A」という。)が原動機付き自転車(所有者・附帯被控訴人会社、以下「被害車両」という。)を運転して信号機による交通整理の行われていない交差点に進入したところ、同一方向から同交差点に進入して同交差点を左折しようとした被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)運転の普通貨物自動車(所有者・被控訴人△△塗料株式会社(以下「被控訴人会社」という。)、以下「加害車両」という。)に衝突されて、肝破裂及び下大静脈損傷等の傷害を負って死亡した交通事故につき、Aの相続人である控訴人ら及び被害車両の所有者である附帯被控訴人会社が、被控訴人らに対し、自動車損害賠償保障法三条(被控訴人らに対し)、民法七〇九条(被控訴人Y1に対し)及び民法七一五条(被控訴人会社に対し)に基づき、損害賠償を求めるものである。
原判決は、控訴人らの請求を一部認容し(ただし、附帯被控訴人会社の請求については、全部認容した。)、その余の請求をいずれも棄却した。控訴人らは、敗訴部分を不服として、控訴を申し立て、これに対し、被控訴人らは、独立して控訴の申立てをすることはせず、控訴人らの控訴に附帯し、原判決中の被控訴人ら敗訴部分の取消しを求めて、附帯控訴した。なお、附帯被控訴人会社は、請求が全部認容されたことから、控訴の申立てをしなかった。
二 当事者の主張は、原判決の事実摘示欄のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所は、控訴人らの請求は、被控訴人らに対し、損害賠償金として、控訴人X1が一五九四万八四四四円、控訴人X2が三五〇万八五九七円、控訴人X3が三五〇万八五九七円、控訴人X4が三五〇万八五九七円、控訴人X5が三五〇万八五九七円及び控訴人X6が三五〇万八五九七円並びにこれらに対する平成一八年四月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからその限度でこれらをいずれも認容し、その余は理由がないからこれらをいずれも棄却すべきであると判断する。そして、その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、附帯被控訴人会社の損害に関する部分〔原判決の理由中三(4)〕を除く。)。
(1) 原判決一三頁五行目から一四頁一二行目までを次のとおり改める。
「(1) A分 四二三六万二四九一円
ア 逸失利益 二〇三六万二四九一円
(ア) 基礎収入 三五〇万二二〇〇円
前記認定事実のとおり、Aは、附帯被控訴人会社を経営する控訴人X1の妻として、家事を担当するかたわら、控訴人X1の相談相手になるなどしていたのであるから、その基礎収入は、平成一六年賃金センサスに基づく女子労働者学齢計の全年齢平均賃金とするのが相当である。
(イ) 生活費控除率 三〇%
(ウ) 就労可能年数に対応するライプニッツ係数八・三〇六
Aは、本件事故当時六〇歳であり、平均余命の二分の一である一一年間は就労可能であったから、ライプニッツ係数は、一一年に対応するものとする。
(エ) 計算式350万2200円×(1-0.3)×8.306=2036万2491円
イ 慰謝料 二二〇〇万円
証拠(甲一三ないし一五、一八、三五、乙三、控訴人X1、被控訴人Y1)によれば、Aは、被控訴人Y1の一方的な過失によって本件事故に遭って死亡するに至ったこと、Aは、本件事故当時、六〇歳の女性であり、控訴人X1の妻として、控訴人X2他四名の母として、また、一家の主婦として家事を担当しながら孫の面倒をみるなどする傍ら、控訴人X1が経営する附帯被控訴人会社の経営について控訴人X1の相談相手となって附帯被控訴人会社の経営を支え、その重要業務を担い、一家の支柱に準ずる立場にあったこと、被控訴人Y1は、本件事故を起こしたことにより業務上過失致死罪で略式命令請求され、平成一七年一二月一五日、罰金五〇万円の略式命令を受けたことが認められるところ、これに本件事故の事故態様等本件に現れた一切の事情を併せ考慮すると、Aの死亡慰謝料としては二二〇〇万円が相当である。
なお、控訴人らは、被控訴人Y1が本件事故直後にその通報を目撃者に任せて自らは被控訴人会社の上司に連絡を取っただけで何ら積極的な救護活動を行わなかった旨主張する。確かに、証拠(甲一一、乙三)によれば、被控訴人Y1は、自らAの緊急連絡先等を確認せず、その緊急連絡先等に連絡しなかったことが認められるが、他方、証拠(甲九、一一、一三、一四、乙三、被控訴人Y1)によれば、被控訴人Y1は、本件事故直後、本件事故場所を通りかかった男性に一一九番通報を依頼し、自らはAの側に寄って、被害車両を移動させた後、Aにけがの状況を確認しながら救急車が到着するのを待っていたところ、間もなく、通報を受けた救急車が到着してAを収容したことが認められるから、同被控訴人が何ら救護活動を行わなかったということはできない。
ウ 合計 四二三六万二四九一円」
(2) 原判決一四頁一三行目の「(2) 原告X1分 二四七四万五四九七円」を「(2) 控訴人X1分 二八二〇万六六〇五円」に、同一四行目の「ア A分の損害の相続 一七七二万〇一三七円」を「ア A分の損害の相続 二一一八万一二四五円」に、原判決一六頁二〇行目の「オ 合計 二四七四万五四九七円」を「オ 合計 二八二〇万六六〇五円」にそれぞれ改める。
(3) 原判決一六頁二一行目の「(3) 原告X2他四名分 各四五四万四〇二七円」を「(3) 控訴人X2他四名分 各五二三万六二四九円」に、同二二行目の「ア A分の損害の相続 各三五四万四〇二七円」を「ア A分の損害の相続 各四二三万六二四九円」に、原判決一七頁五行目の「ウ 合計 各四五四万四〇二七円]を「ウ 合計 各五二三万六二四九円」にそれぞれ改める。
(4) 原判決一八頁一行目の「原告X1」から七行目末尾までを「控訴人X1の損害賠償請求権二八二〇万六六〇五円に対する遅延損害金は、一〇八万三六五九円(計算式2820万6605円×0.05×199/366+2820万6605円×0.05×82/365=108万3659円)であるところ、Aの治療費及び文書料三五二万五三六〇円のうち元本に充当されるのは、二四四万一七〇一円(計算式352万5360円-108万3659円=244万1701円)であるから、充当後の損害賠償請求権の元本は、二五七六万四九〇四円(計算式2820万6605円-244万1701円=2576万4904円)となる。」に改め、二四行目の「原告X1」から一九頁三行目末尾までを「控訴人X1の上記充当後の損害賠償請求権残元本二五七六万四九〇四円に対する遅延損害金は、一三八万三五四〇円(計算式2576万4904円×0.05×392/365=138万3540円)であるところ、自賠責保険金二四六〇万円の二分の一である一二三〇万円のうち元本に充当されるのは、一〇九一万六四六〇円(計算式1230万円-138万3540円=1091万6460円)であるから、充当後の損害賠償請求権の元本は、一四八四万八四四四円(計算式2576万4904円-1091万6460円=1484万8444円)となる。」に改める。
(5) 原判決一九頁六行目の「原告X2他四名」から一一行目末尾までを「控訴人X2他四名の各損害賠償請求権五二三万六二四九円に対する遅延損害金は、四八万二三四八円(計算式523万6249円×0.05×199/366+523万6249×0.05×474/365=48万2348円)であるところ、自賠責保険金二四六〇万円の一〇分の一である二四六万円のうち元本に充当されるのは、一九七万七六五二円(計算式246万円-48万2348円=197万7652円)であるから、充当後の損害賠償請求権の元本は、それぞれ三二五万八五九七円(計算式523万6249円-197万7652円=325万8597円)となる。」に改める。
二 ところで、本件は、本件事故による傷害によって死亡したAの相続人である控訴人らのAの死亡に係る人的損害の賠償を求める各請求と本件事故によって物的損害を被った附帯被控訴人会社の損害賠償請求の併合事件であり、通常の共同訴訟である。附帯控訴は、控訴に附帯しその手続の中で審理されるものであるから、附帯控訴を提起するには、控訴が既に提起されていて、かつ、現に係属することが必要と解される。これを被控訴人らの附帯被控訴人会社に対する本件各附帯控訴についてみるに、附帯被控訴人会社が原判決に対して控訴の申立てをせず、被控訴人らも附帯被控訴人会社に対し独立して控訴の申立てをしなかったことは、当裁判所に顕著である。そして、通常の共同訴訟の場合において、共同訴訟人の一人の訴訟行為又はこれに対する相手方の訴訟行為及びその一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさないから(民事訴訟法三九条)、原判決中、被控訴人らと附帯被控訴人会社とに関する部分については、被控訴人ら及び附帯被控訴人会社のいずれからも控訴の申立てはなく、その部分は確定して既判力が生じたもので、控訴人らの各控訴の申立てにより、原判決中控訴人らと被控訴人らとに関する部分のみが当審に移審係属し、被控訴人らと附帯被控訴人会社とに関する部分については移審の効力が生じておらず、被控訴人らは附帯被控訴人会社に対して附帯控訴を申し立てることはできないものというべきである。したがって、被控訴人らの附帯被控訴人会社に対する本件各附帯控訴は不適法であるから、いずれも却下を免れない。
三 結論
以上によると、控訴人らの各請求は、控訴人X1については、一五九四万八四四四円及びこれに対する本件事故後である平成一八年四月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、控訴人X2、同X3、同X4、同X5及び同X6については、それぞれ三五〇万八五九七円及びこれに対する上記平成一八年四月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し、その余は理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。当裁判所の上記判断と符合しない原判決を本件各控訴に基づいて上記のとおり変更することとし、被控訴人らの控訴人らに対する各附帯控訴は、理由がないからいずれもこれを棄却し、附帯被控訴人会社に対する各附帯控訴は不適法であるから、いずれもこれを却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉等 髙世三郎 西口元)