東京高等裁判所 平成20年(ラ)622号 決定 2008年7月04日
抗告人(債務者)
A
相手方(債権者)
B
未成年者
C
主文
原決定主文第2項を次のとおり変更する。
「債務者(抗告人)が原決定送達の日から7日以内に前項記載の債務を履行しないときは,債務者(抗告人)は債権者(相手方)に対し,上記期間経過の翌日から履行済みまで1日あたり金3万円の割合による金員を支払え。」
理由
第1抗告の趣旨
本件抗告の趣旨は,別紙「執行抗告申立書」の「第1 執行抗告の趣旨」に記載のとおりである。
第2事案の概要
1 本件は,相手方(債権者)が抗告人(債務者)に対し,子の監護に関する処分(子の引渡し)申立事件及び子の監護者指定申立事件についてされた「未成年者の監護者を相手方と指定する。抗告人は相手方に対し未成年者を引き渡せ。」との審判(債務名義)に基づき,強制執行(懈怠1日につき10万円を支払う旨の間接強制)を求めている事案である。
2 原審は,執行開始の要件も含め間接強制発令の要件を充たすとして,相手方の申立てをすべて認容する決定をしたところ,抗告人が即時抗告を申し立てた。本件抗告の理由は,別紙「執行抗告申立書」の「第2 抗告の理由」及び「執行抗告理由補充書」に記載のとおりである。
第3当裁判所の判断
1 本件の事実関係は,原決定の「理由」欄の2記載のとおりであるからこれを引用する。ただし,原決定3頁7行目末尾に「抗告人(債務者)は,同決定に対し,最高裁判所に特別抗告をしたが,同裁判所は,平成20年4月11日,同抗告を棄却する旨の決定をした。」を加える。
2 抗告人は,抗告人自身は未成年者を相手方に引き渡すことに異議がなく,そのように未成年者を説得し,相手方において未成年者を任意に同行できるよう未成年者を相手方に引き渡しているが,未成年者は相手方との生活を拒絶し,相手方と行動を共にしないとして,未成年者の立場や心身への影響を考慮すると,本件は間接強制になじまないと主張する。
しかしながら,本件債務名義は,親の監護権の行使に対する妨害排除請求権に基づき「未成年者を引き渡す」旨を抗告人(債務者)に命じるものであって,妨害の態様に応じて種々の作為義務が想定されるものの,実行について第三者の協力が必要でそれが容易に得られる見込みがないとか,債務者の意思を抑圧したのでは本来の権利が実現できない等,間接強制ではその目的を達することができない事情は認められない。そうすると,本件債務名義の命じた義務が間接強制になじまないということはできず,抗告人の主張は理由がない。なお,抗告人の主張を,既に本件の債務を履行し債務が消滅したとの主張と解しても,これは,請求異議の事由として主張すべきことであって,執行抗告の理由にはならないから,主張自体失当である。
3 次に抗告人は,原審が定めた1日10万円という金額は過大であると主張する。
執行裁判所は,民事執行法172条1項の「債務の履行を確保するために相当と認める一定の額」を定めるについては広い裁量を有しており,殊に,債務の内容が,債務者の意思のみによって容易に履行され得るものであれば,その額が相当高額となっても,やむを得ないということができる。しかしながら,記録によれば,本件においては,未成年者が相手方の下に行くことについて拒否的な態度をとっている面があることが認められ,未成年者の態度が抗告人に影響されているところがあるとしても,既に10歳という未成年者の年齢から考えると,本件債務名義の命じる義務は,その性質が上記2のようなものであることをしんしゃくしても,抗告人がその意思だけで履行するのは困難な面があるものであることは否定できない。そのような抗告人の債務の内容等に照らすと,原審の定めた上記金額は著しく過大であるといわざるを得ず,抗告人の主張はその点で理由がある。そして,本件記録に現れた一切の事情に照らすと同金額は1日3万円と定めるのが相当である。
第4結論
よって,これと結論を異にする原決定主文第2項を変更することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鈴木健太 裁判官 福島節男 内藤正之)