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東京高等裁判所 平成20年(行ケ)16号 判決 2009年5月29日

平成20年(行ケ)第16号審決取消請求事件(以下「第16号事件」という。)

平成20年(行ケ)第22号審決取消請求事件(以下「第22号事件」という。)

平成20年(行ケ)第28号審決取消請求事件(以下「第28号事件」という。)

平成20年(行ケ)第34号審決取消請求事件(以下「第34号事件」という。)

東京都港区虎ノ門1丁目20番10号

第16号事件原告

西松建設株式会社

同代表者代表取締役

國澤幹雄

大阪市浪速区敷津東1丁目2番47号

第16号事件原告

株式会社クボタ建設

同代表者代表清算人

廣瀬曜一

大阪市中央区高麗橋4丁目1番1号

第16号事件原告

東洋建設株式会社

同代表者代表取締役

赤井憲彦

上記3名訴訟代理人弁護士

寺上泰照

岩下圭一

佐藤水暁

大阪市西区西本町2丁目2番11号

第22号事件原告

株式会社錢高組

同代表者代表取締役

銭高善雄

同訴訟代理人弁護士

茅根煕和

春原誠

和田健児

大阪市天王寺区東高津町12番6号

第28号事件原告

株式会社淺沼組

同代表者代表取締役

淺沼健一

同訴訟代理人弁護士

宮代力

水戸市吉沢町311番地1

第34号事件原告

株木建設株式会社

同代表者代表取締役

株木雅浩

同訴訟代理人弁護士

西迫雄

向井千杉

富田美栄子

渡邉和之

小林幸弘

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号

第16号事件,第22号事件,第28号事件,第34号事件被告

公正取引委員会

同代表者委員長

竹島一彦

同指定代理人

南雅晴

高原慎一

秋沢陽子

山本慎

香城尚子

佐藤真紀子

齊藤彦乃

大谷美穂

山田弘

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  第16号事件原告東洋建設株式会社(以下「原告東洋建設」という。),同株式会社クボタ建設(以下「原告クボタ建設」という。),同西松建設株式会社(以下「原告西松建設」という。)

(1)  第16号事件被告(以下「被告」という。第22号事件,第28号事件,第34号事件被告についても同様である。)が,原告東洋建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第20号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  被告が,原告クボタ建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第27号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(3)  被告が,原告西松建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第34号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(4)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  第22号事件原告株式会社錢高組(以下「原告錢高組」という。)

(1)  被告が,原告錢高組に対する公正取引委員会平成14年(判)第16号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第28号事件原告株式会社淺沼組(以下「原告淺沼組」という。)

(1)  被告が,原告淺沼組に対する公正取引委員会平成14年(判)第9号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第34号事件原告株木建設株式会社(以下「原告株木建設」という。)

(1)  被告が,原告株木建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第17号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

5  被告

主文同旨。

第2事案の概要

被告は,平成13年12月14日,別紙1「被審人目録」の「被審人」欄記載の株式会社34社に対し,財団法人東京都新都市建設公社(以下「公社」という。)が発注する土木工事について,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条規定に違反し,かっ,独占禁止法7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為があったとして,独占禁止法48条の2第1項の規定に基づき,それぞれ納付命令をもって課徴金の納付を命じたところ,上記株式会社34社はいずれも同条5項に基づく審判開始の請求をしたので,被告は,独占禁止法49条2項の規定により,上記株式会社34社それぞれを被審人とする審判開始決定をし,同目録の「事件番号」欄記載の審判事件として被告に係属した。被告は,各審判手続を併合した。

被告は,平成20年7月24日,上記株式会社34社のうち徳倉建設株式会社を除く株式会社33社(以下「違反行為者ら」という。)は,後記の基本合意に基づき,公社が発注する土木工事について,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条の規定に違反し,かっ,独占禁止法7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為があったと認め,違反行為者らのうち独占禁止法7条の2第1項に規定する売上額を認めない3社を除く30社に対し,課徴金を国庫に納付することを命じる審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審決が,原告淺沼組に納付を命じた課徴金は1436万円,原告錢高組に納付を命じた課徴金は1631万円,原告株木建設に納付を命じた課徴金は1641万円,原告東洋建設に納付を命じた課徴金は1521万円,原告クボタ建設に納付を命じた課徴金は1369万円,原告西松建設に納付を命じた課徴金は329万円である。

原告らは,本件審決が認定した後記の基本合意を認める実質的証拠はないなどと主張し,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

第3本件審決が認定した事実

本件審決が認定した原告らの課徴金に係る違反行為は次のとおりである。

1  多摩地区におけるゼネコン等

(1)  多摩地区におけるゼネコン

ア 違反行為者ら及び違反行為者らに吸収合併されたゼネコン並びにその他のゼネコン

(ア) 違反行為者ら及び違反行為者らに吸収合併されたゼネコン並びに徳倉建設株式会社

違反行為者らは,それぞれ,別紙1「被審人目録」の「本店の所在地」欄に記載の場所に本店を置き,いずれも建設業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受け,国内の広い地域において総合的に建設業を営む者(以下「ゼネコン」という。)であり,東京都の区域のうち区部及び島しょ部を除く区域(以下「多摩地区」という。)においても営業所を置くなどして事業活動を行っている(以下,違反行為者ら及び徳倉建設株式会社の名称については,別紙1「被審人目録」中「被審人」欄の括弧書きのとおりに略称する。)。ただし,CKプロパティーは,もと「株式会社地崎工業」との商号であったが,平成16年4月1日に会社分割の方法により建設業に関する一切の営業を他社に譲渡し,現商号に変更したものであり,同日,建設業を廃業する旨の届出を行った。また,大木建設は,平成17年3月31日,神田大木建設株式会社に営業を譲渡した上,解散を決議し,原告クボタ建設は,平成18年8月1日,株式会社クボタ工業に営業の大半を譲渡した上,同年9月30日,解散を決議し,いずれも現在,清算手続中である。

なお,三井住友建設は,もと「三井建設株式会社」との商号であったが,平成15年4月1日にゼネコンである住友建設株式会社(以下「住友建設」という。)を吸収合併し,現商号に変更した。みらい建設グループは,もと「日東建設株式会社」との商号であったが,平成11年10月1日に大都工業株式会社を吸収合併して,「日東大都工業株式会社」に商号を変更し,さらに,平成14年4月1日,商号を現在のものに変更した。JFE工建は,もと「日本鋼管工事株式会社」との商号であったが,平成15年7月1日に商号を現在のものに変更した。青木あすなろ建設は,もと「小松建設工業株式会社」との商号であったが,平成14年10月1日に商号を「あすなろ建設株式会社」に変更した上,平成16年4月1日に株式会社青木建設を吸収合併し,現商号に変更した。不動テトラは,もと「不動建設株式会社」との商号であったが,平成18年10月1日に株式会社テトラを吸収合併し,商号を現在のものに変更した。オリエンタル白石は,もと「オリエンタル建設株式会社」との商号であったが,平成19年10月1日にゼネコンである株式会社白石(以下「白石」という。)を吸収合併した上,商号を現在のものに変更した。

違反行為者らのうち三井住友建設及びオリエンタル白石を除く31社並びに住友建設及び白石(以下「33社」といい,この33社をもって「違反行為者」ということもある。)と徳倉建設は,平成9年10月1日から平成12年9月27日までの間(以下「本件対象期間」という。)において,いずれも,公社の入札資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受け,土木工事のうち下水道工事及び一般土木工事の工種区分におけるランクがAとして格付けされていた。

(イ) その他のゼネコン

33社及び徳倉建設以外にも,別紙2「その他のゼネコン46社」記載のゼネコン46社(以下,これら46社を総称して,又はそのうちのいずれかを示す意味で「その他のゼネコン」,「その他のゼネコン46社」又は「46社」といい,各社については別紙2の「略称」欄のとおりに略称する。なお,別紙2番号41の三井建設株式会社は,三井住友建設と同一法人であるが,本件対象期間当時は33社に属する住友建設を吸収合併する前であるので,その他のゼネコンとして別紙2に重複記載し,この吸収合併前については「三井建設」と略称する。)も,本件対象期間中,公社の入札参加資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受けていた。

イ 多摩地区におけるゼネコンの事業活動の状況

本件対象期間中,33社,徳倉建設及びその他のゼネコンのほとんどは,多摩地区に営業所を置いて事業活動を行っていた。

また,これらゼネコンの多摩地区における営業所は,多摩地区において施工される公共工事のうち公社及び市町村の発注する工事を担当していた。

(2)  地元業者

公社が,本件対象期間において,33社,徳倉建設及びその他のゼネコンのうち複数の者を指名し文はこれらいずれかの者を代表者とする複数の建設共同企業体(以下「JV」という。)を指名して指名競争入札の方法により発注するAランク格付の土木工事及び共同施工方式により施工する土木工事の入札には,地元業者(ゼネコンには該当しない。)が参加することがあった。本件対象期間においてこれらの入札に参加した地元業者は,別紙3「地元業者の概要」記載の165社であり(以下,これら165社を総称して,又はそのうちいずれかを示す意味で「165社」又は「地元業者」といい,別紙3の「略称」欄のとおりに略称する。地元業者には協同組合も含まれるが,以下,協同組合も社として数える。),このうち,本件対象期間において,公社の入札参加資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受け,土木工事のうち下水道工事の工種区分におけるランクがAとして格付けされていた者は74社であった。

2  公社が発注する工事

(1)  公社の概要

公社は,東京都並びに八王子市,青梅市,町田市,福生市,羽村町及び日野町(当時の市町名)により,昭和36年7月20日に設立された財団法人であり,多摩地区に所在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建設等の都市基盤整備事業を行う者である。

(2)  公社の発注方法

ア 発注方法の概要一

公社は,原則として,土木工事を指名競争入札の方法により発注しており,予定価格が500万円以上である工事の発注に当たっては,工事の件名,概要,格付等を公示して,公社が入札参加資格を満たす者として登録している有資格者の中から入札参加希望者を募り,入札参加希望者の中から指名競争入札の参加者を指名していた。

また,共同施工方式により施工する土木工事の発注に当たっては,入札参加希望者の中からJVの構成員となるべき者を指名し,これらの者によって結成されたJVを指名競争入札の参加者としていた。

イ 事業者ランク,工事の格付及び指名業者の選定基準

(ア) 公社は,前記アの有資格者を,その事業規模等により工種区分ごとにAからEまでのいずれかのランク(以下「事業者ランク」という。)に格付けした上,格付ごとに順位(以下「格付順位」という。)を付していた。

また,公社は,発注する土木工事を,その工事の予定価格を基準とし,これに工事の技術的な難易度等を勘案して,AからEまでのランクの1社によって施工される工事(以下「単独施工工事」という。)並びにいずれもAランク(以下「AAランク」という。)の2社,Aランク及びBランク(以下「ABランク」という。)の2社又はAランク及びCランク(以下「ACランク」という。)の2社の共同施工方式により施工される工事(以下「共同施工工事」という。)に分けて格付けしていた。その際に用いる金額基準は,予定価格を「5億6000万円以上」,「3億円以上5億6000万円未満」,「2億6000万円以上3億円未満」,「1億7000万円以上2億6000万円未満」等に分類したものであり,これらの金額基準は,それぞれAAランク,ABランク,ACランク,Aランクに対応していたが,例外的に,予定価格が当該ランクの金額基準に満たない場合であっても,工事内容等を勘案して当該工事の本来のランクよりも上位のランクに格付けすることがあった。

そして,公社は,AからEまでのランクの単独施工工事について指名競争入札の参加者を指名するに当たっては,発注する工事のランクに対応ずる事業者ランクに格付けされた者の中から指名することを基本としていた。また,ABランク又はACランクに格付けした共同施工工事について指名競争入札の参加者を指名するに当たっては,事業者ランクがAである者をJVの構成員のうちの代表者(以下「JVのメイン」又は「メイン」という。)として指名し,事業者ランクがB又はCの者をJVのメイン以外のJVの構成員(以下「JVのサブ」という。)として指名することを基本としており,指名を受けたJVのメインとJVのサブにJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた。AAランクに格付けした共同施工工事については,JVのメインとJVのサブを区別せずに,事業者ランクがAの者の中から指名することを基本としており,指名を受けた者同士にJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた。

(イ) 公社は,工事希望票の提出者の中から指名競争入札の参加者を選定するに当たっては,以下のとおり,発注する土木工事の規模,施工・技術的難易度等を総合的に勘案していた。

a 工事の規模

公社は,前記(ア)のとおり,単独施工工事及び共同施工工事について格付けしており,規模が大きな工事については,工事希望票を提出してきた者の中から,原則として格付順位が上位の者を優先して選定していた。

b 工法レベル

公社が発注する土木工事の工法には,大きく分類すると,「シールド工法」,「推進工法」及び「開削工法」があり,公社は,これに掘削深度や施工距離を加味して,高度な施工技術が求められると判断される工事については,工事希望票を提出してきた者の中から原則として,格付順位が上位の者を優先して選定していた。また,工法(シールド工法,推進工法)の資格を必要とする工事については,当該工法の資格を有する者を選定していた。

c その他の要素

以上のほか,公社は,地元建設業者の育成を図りつつ,当該工事の技術的困難性に応じた選定を行っており,選定する事業者がどのような分類(「地元業者」,「準地元業者」,「隣接の市の業者」,「近隣の市の業者」,「多摩の地元業者」,「多摩の業者」,「多摩の格付上位業者」,「A格格付上位業者」等)に属する事業者かを総合的に勘案していた。

また,公社は,何度も工事希望票を提出しているにもかかわらず指名されていない事業者を救済する目的で,工事希望票の提出回数,指名回数及び受注回数を考慮して選定する場合があった。

さらに,公社は,事業者が,公社発注の工事を受注し施工に着手している場合には当該工事の施工が相当程度に達するまで,また,別の物件の指名競争入札の参加者として指名を受けている場合には当該入札の執行が終わるまで,指名競争入札の参加者として選定しないこととしていた。

ウ 入札参加及び指名の手続

公社は,入札参加者を募り,希望者の中から入札に参加する者を指名する方法を工事希望型指名競争入札と称している。公社は,「工事発注予定表」をもって発注する工事の件名,格付等を公示して,入札参加希望者に工事希望票を提出させ,工事希望票の提出者の中から入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者を選定していた。

公社は,入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者の選定に当たっては,単独施工工事については10社が,共同施工工事については10組のJVが,それぞれ入札に参加するように選定することを常としていた。

エ 指名後の手続の概要等

(ア) 入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者を指名した後,手続は,単独施工工事の場合には,指名した事業者に対する現場説明会,入札,落札者との契約の順に進められ,また,共同施工工事の場合には,JV結成についての説明会,入札参加者によるJV結成の届出,現場説明会,入札,落札者との契約の順に進められていた。

(イ) 公社は,入札に当たって予定価格及び最低制限価格を設定しているところ,平成13年9月以前は,予定価格を事前には公表しておらず,各入札参加者の入札価格の全部が予定価格に達しない場合には,その場で3回まで入札を行うこととしていた。また,最低制限価格を下回る価格で入札した者は失格とし,最低制限価格以上の価格で入札した者の中で最も低い価格で入札した者を落札者としていた。

なお,公社の設定する最低制限価格は,予定価格の80パーセントに相当する額であり,このことは,ゼネコンの入札担当者に広く認識されていた。

オ JVの入札価格の決定

JVを結成して公社の指名競争入札に参加する場合には,通常,JVのメインが入札価格を決定していた。

(3)  本件工事の特性

ア 公社は,本件対象期間中,Aランクの格付の単独施工工事並びにAA,AB及びACのランクの格付の共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき33社,徳倉建設及びその他のゼネコンのうちの複数の者を指名し又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注するもの(以下「公社発注の特定土木工事」という。)について,別紙4「財団法人東京都新都市建設公社発注の特定土木工事(平成9年10月1日~平成12年9月27日)」のとおり入札を実施して72物件を発注した(以下,別紙4記載の公社発注の特定土木工事については,同記載の番号により,「番号6の物件」のように特定する。)。

イ 公社が発注する工事は,各物件についてみると,規模の大小があり,工法レベルも異なり,施工・技術の難度が高いものからそうでないものまで,その難易度も一様ではなかった。

そして,公社は,公社発注の特定土木工事を発注するに当たり,発注する予定の工事について,工事の規模,工法レベル,地元建設業者の育成の必要性等を総合的に検討し,当該工事の難易度を判断した上,当該工事を施工する能力があると判断した事業者の中から,より適切な者を指名していた。

3  違反行為等

(1)  背景事情

ア 多摩地区に営業所を置くゼネコンは,以前,これらの営業所において土木工事を担当する営業責任者をメンバーとする三多摩建友会と称する組織に参加していた。同会は,昭和54年ごろに発足し,平成4年ごろまで存続していたが,被告が同年5月15日に同会の会員を含む埼玉県発注の土木工事の入札参加者に対して勧告を行った(いわゆる埼玉土曜会事件)のを機に解散した。

しかし,三多摩建友会の解散後も,旧会員らのほか,解散後に多摩地区に進出したゼネコンや多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っているゼネコンの営業担当者を含めて,恒例的に懇親会が開催されていた。また,同会の解散以前には,ゼネコン各社の営業担当者の名簿が作成されていたところ,解散後もほぼ同じ体裁の名簿が作成されていた。

イ 三多摩建友会存続当時,前記アの名簿に掲載されているゼネコンの間では,工事の入札に当たって,受注意欲を持つ者や,発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,当該受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの認識が存在しており,受注を希望する者の間の話合いが難航した場合には,同会の会長等の役員が調整に当たっていた。

同会の解散後においても,多摩地区において事業活動を行うゼネコン各社は,上記と同じ認識を有していた。

(2)  本件基本合意

ア 33社(違反行為者)は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の特定土木工事について,受注価格の低落防止を図るため

(ア) 公社からの指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員であるJVが指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該工事の施工場所との関連性が強い者若しくはJV又は当該工事についての受注の希望を表明する者若しくはJV(以下「受注希望者」という。)が1名のときは,その者を受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との関連性(以下「条件」という。)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

(イ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨合意していた(本件基本合意)。

イ 本件基本合意の内容及び具体的実施方法

(ア) 本件基本合意の対象

本件基本合意の対象は,公社発注の特定土木工事であった。

(イ) 個別物件において受注予定者を決定し受注予定者の受注に協力するまでの状況

a<1> 33社のうち受注希望者は,当該工事の発注が予測された時点,あるいは公社が入札の執行を公示(入札参加希望者を公募)した時点で,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコン又はゼネコンの多摩地区における営業担当者のうちの有力者(以下「業界の有力者」という。)に対して,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることを必要に応じてアピールしていた。

<2> 受往希望者は,アピールの方法の一つとして,地図に工事予定箇所及び近隣における自社の施工実績等を記入した資料又は予定工事に関連する設計業務等に係る資料(以下「PR紙」という。)を用いることがあった。PR紙は,特に,業界の有力者に相談する際に条件を有することをアピールするための手段として,しばしば用いられていた。

業界の有力者とは,三多摩建友会の最後の会長で,大成建設多摩営業所の所長であった大木正毅(以下「大成建設の大木」という。)のほか,大成建設土木営業本部営業担当部長の中西豊(以下「大成建設の中西」という。)及び大成建設の大木の部下であった多摩営業所の次長の松本洋一(以下「大成建設の松本」という。)並びに飛島建設多摩営業所の所長であった丸山正文(以下「飛島建設の丸山」という。)であった。

各社の担当者は,大成建設の大木に対しては,PR紙を提出したり,口頭で受注希望を表明したりして,これに対する同人の反応,すなわち,「受注活動を続けたらよい。」,「他に有力な条件を持つ者がいる。」などの示唆を踏まえて,発注される工事について受注活動を継続するか受注活動を中断するかなどの判断をしていたが,平成12年2月29日に同人が退職した後,被告が同年3月29日に町田市発注工事の入札参加者に対して立入検査を行ったことから,大成建設の中西と松本に対しては,PR紙を提出することが少なくなった。

<3> 受注希望者が他の違反行為者にアピールをした場合において,当該他の違反行為者も受注希望を表明したときは,アピールした者とアピールを受けた者との間で,いずれの者の条件が強いかについて話合いを行っていた。アピールを受けた他の違反行為者すべてが受注希望を表明しなかったときは,この段階すなわち入札指名の前の段階で,受注希望者が1社に絞り込まれていた。

b 受注希望者は,前記aのアピールに代えて,又はこれと併せて,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。この依頼は,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに入札に参加して自社の受注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に,当該入札の参加者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることにより,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。

c<1> 受注希望者は,公社の指名により入札参加者が確定した以降において,必要に応じて,相指名業者に対して,改めて,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることをアピールし,自社が受注できるよう入札での協力を依頼していた。この依頼は,現場説明会のために相指名業者がそろった際に口頭で行われたり,個別訪問又は電話により行われたりしていた。この時点で,ほかにも受注希望者がいる場合には,受注希望者の間でいずれの条件が強いかを話し合うことにより,受注予定者が決定されていた。

<2> 条件は,具体的には,ⅰ 当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること,ⅱ 自社と特別な関係にある建設コンサルタント業者(以下「ダミコン」という。)が当該工事の調査又は設計の入札に参加していること,ⅲ 当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること,ⅳ 当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置場や営業所等の施設があること,ⅴ 自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること(賃借権者であること及び施工場所の近隣の土地の所有権者であることを含む。以下同じ。)等である。

これらの条件の中では,自社が施工した工事の継続工事であることや当該工事の施工場所の地権者であることがそれ以外の条件よりも強い条件であり,その他の条件については強さの順序が明確ではなく,受注希望者間で条件の強弱について話合いが行われ,その結果,受注予定者が決められていた。

なお,当該工事について強い条件を持つJVのメインがいない場合においては,当該工事の施工場所の近くに事業所を有するなどの強い条件を持つ地元業者等とJVを結成したJVのメインが,強い条件を持っていると主張し得ることとなっていた。

<3> また,受注希望者間の話合いにおいて,受注希望者の受注希望ないし受注努力の強さなどが反映される場合があった。

<4> さらに,発注される工事について,自社に強い条件があり,他社に条件がない場合には,他社に対して直接の受注希望の表明ないし入札における協力の依頼をしなくとも,自社に強い条件があるということを他社が認識していれば,受注予定者とされていた。したがって,当該工事を受注しようとする者は,自社に強い条件があることが他の相指名業者にも明らかであると考える場合には,その相指名業者に対し入札における協力を依頼しないこともあり,他方,自社に条件があることを相指名業者に認めてもらうことが必要と判断した場合には,その条件を相指名業者に認めてもらうよう働きかけていた。

<5> なお,JVを結成して入札に参加する場合には,JVの受注への協力の依頼,受注予定者を決めるための話合いは,通常,JVのメインの間で行われていた。

d<1> 受注予定者が決定された場合には,受注予定者が他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンのうち相指名業者となった者に対して,入札価格を連絡し,連絡を受けたこれらの者は,受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,相指名業者となったこれらの者は,経験的に,発注工事と同等の過去の工事の入札結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格を比較的容易に予測し得たので,そのような価格で入札していた。

このような入札価格の連絡を受けることにより,指名を受けた違反行為者は,受注予定者を知ることもあった。

<2> 入札価格の連絡・確認方法は一様ではなく,ⅰ 受注予定者が相指名業者の入札価格を決めた上で連絡する方法,ⅱ 受注予定者が相指名業者の積算価格を問い合わせて自社の入札価格より高い価格であることを確かめ,その積算価格に基づき入札するよう依頼する方法,ⅲ 相指名業者が自社の入札価格を受注予定者に連絡し,受注予定者が異議を述べなければそのままの価格で入札する方法等がとられていた(以下,「入札価格の連絡・確認」というときは,これら等の方法によるものを指す。)。

<3> なお,JVを結成して入札に参加する場合には,入札価格の連絡・確認は,通常,JVのメイン間で行われていた。

<4> 公社は,予定価格を下回る入札がなかった場合には,入札日において3回まで入札を行っているため,受注予定者は,3回分の入札価格を連絡することがあった。

(3)  原告クボタ建設の番号6の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号6の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成10年4月23日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月25日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者3社(原告クボタ建設,奥村組及びみらい建設グループ),その他のゼネコン4社及び地元業者3社であった。

イ 原告クボタ建設は,番号6の物件の施工場所の近隣において町田市発注の水道工事を施工した実績があること及びダミコンであるクリエイト設計が同物件の調査設計作業の入札参加者として指名されたことから,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告クボタ建設は,公社が番号6の物件の入札予定を公表した日に,大成建設の大木に対して同物件の受注を希望している旨を伝えた。

エ 原告クボタ建設は,公社が番号6の物件の入札予定を公表した後,奥村組及びみらい建設グループ並びにいずれもその他のゼネコンである池田建設,日産建設,フジタ,竹中土木及び古久根建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告クボタ建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

オ 公社が指名を行った後,原告クボタ建設は,番号6の物件の施工場所の近隣で施工実績を持つ株式会社曽根建設(以下「曽根建設」という。)とJVを組んだ。

カ 原告クボタ建設は,入札までに,指名を受けたゼネコン各社に対して,自社が番号6の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたゼネコン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。

キ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告クボタ建設・曽根建設JVが番号6の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

ク 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告クボタ建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告クボタ建設・曽根建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする3組のJVは,原告クボタ建設の依頼を受け,原告クボタ建設・曽根建設JVの入札価格を上回った。

この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告クボタ建設・曽根建設JVの入札価格のみであったので,同JVが落札金額3億0900万円で落札した。

(4)  原告株木建設の番号39の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号39の物件について,Aランクの単独施工工事として,平成11年5月27日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10社を指名して,同年6月21日に入札を実施した。

指名業者は,違反行為者5社(原告株木建設,大木建設,小田急建設,加賀田組及び冨士工),徳倉建設,その他のゼネコン2社及び地元業者2社であった。

イ 原告株木建設は,番号39の物件の施工場所の近隣において下水道工事を施工した実績があるため,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告株木建設は,平成11年4月ころに,大成建設の大木に対して,自社が番号39の物件の受注を希望している旨を伝えた。また,原告株木建設は,公社が同物件の入札予定を公表した後,大木建設,小田急建設,加賀田組及び冨士工並びにいずれもその他のゼネコンである福田組,東海興業,浅野工事及び古久根建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告株木建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,入札までに,原告株木建設は,指名を受けたゼネコン各社に対して,自社が番号39の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたゼネコン各社との間で,大木建設を通じて,入札価格の連絡・確認をした。

オ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告株木建設が番号39の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,原告株木建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告株木建設の入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,指名を受けた地元業者2社の入札価格は,原告株木建設の依頼を受け,原告株木建設の入札価格を上回った。

この結果,1回目の入札において,原告株木建設の入札価格は最低であったが,予定価格を上回ったところ,2回目の入札において,同社が落札金額2億3750万円で落札した。

(5)  原告西松建設の番号50の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号50の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成11年11月18日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年12月20日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者4社(原告西松建設,奥村組,原告錢高組及び加賀田組),その他のゼネコン3社及び地元業者3社であった。

イ 原告西松建設は,番号50の物件の工事場所の近隣に所在する学校法人玉川学園と20年来の付き合いがあったため,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告西松建設のC多摩営業所長(以下「C」という。)は,大成建設の大木から,番号50の物件の受注を希望しているかどうか確認され,自社が同物件の受注を希望している旨の返答をした。また,原告西松建設のCと奥村組のO多摩営業所副所長(以下「O」という。)は,多摩地区の営業における先輩後輩の関係にあり,公社が同物件の入札予定を公表した後,奥村組のOは,原告西松建設のCの依頼を受け,加賀田組に対して,工事希望票の提出を依頼した。

原告西松建設の依頼を受けた奥村組及び同社の依頼を受けた加賀田組は,原告西松建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告西松建設は,町田市の業者である清水重機土木株式会社(以下「清水重機土木」という。)とJVを組んだ。

オ 原告西松建設は,入札までに,指名を受けた奥村組及び加賀田組との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告西松建設・清水重機土木JVが番号50の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告西松建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告西松建設・清水重機土木JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする3組のJVの入札価格は,原告西松建設・清水重機土木JVの入札価格を上回った。

この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告西松建設・清水重機土木JVのみであったので,同JVが落札金額4500万円で落札した。

(6)  原告東洋建設の番号56の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号56の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成12年3月30日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月1日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者3社(原告東洋建設,大豊建設及び原告淺沼組),その他のゼネコン4社及び地元業者3社であった。

イ 原告東洋建設は,番号56の物件の施工場所の近隣で施工実績を持つこと及びダミコンであるアースコンサルタンツが同物件の調査設計作業の入札参加者として指名されたことから,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告東洋建設は,公社が番号56の物件の入札予定を公表した後,大豊建設に対して,自社が同物件の受注を希望している旨を伝えた上で,工事希望票の提出を依頼した。また,原告東洋建設は,その他のゼネコンである鴻池組に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けた大豊建設及び鴻池組は,原告東洋建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告東洋建設と拓栄建設はJVを組んだ。

オ 原告東洋建設は,入札までに,指名を受けた大豊建設及び原告淺沼組並びにいずれもその他のゼネコンである鴻池組及び三井建設(住友建設を吸収合併する前の三井住友建設)に対して,自社が番号56の物件の受注を希望している旨を伝え,また,大豊建設及び三井建設との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告東洋建設・拓栄建設JVが番号56の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

なお,三井建設及び大日本土木は,原告東洋建設に対し自社も同物件の受注を希望する旨を述べたものの,最終的には受注を断念した。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告東洋建設・拓栄建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする3組のJVの入札価格は,予定価格を上回った。

この結果,原告東洋建設・拓栄建設JVが落札金額3億4500万円で落札した。

(7)  原告淺沼組の番号64の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号64の物件について,Aランクの単独施工工事として,平成12年6月15日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10社を指名して,同年7月13日に入札を実施した。

指名業者は,違反行為者2社(原告淺沼組及び安藤建設),徳倉建設,その他のゼネコン5社及び地元業者2社であった。

イ 原告淺沼組は,番号64の物件の施工場所において施工した実績があることから,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告淺沼組は,公社が番号64の物件の入札予定を公表した後,安藤建設及びその他のゼネコンである大本組に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告淺沼組が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,入札までに,原告淺沼組は,指名を受けたゼネコン各社に対して,自社が番号64の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けた安藤建設並びにいずれもその他のゼネコンである太平工業,大本組,日特建設及び勝村建設との間で,入札価格の連絡・確認をした。

オ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告淺沼組が番号64の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,原告淺沼組との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告淺沼組の入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者2社の入札価格は,原告淺沼組の依頼を受け,同社の入札価格を上回った。

この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告淺沼組のみであったので,同社が落札金額2億2800万円で落札した。

(8)  原告錢高組の番号67の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号67の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成12年6月29日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年8月2日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者7社(原告錢高組,戸田建設,佐田建設,原告クボタ建設,青木あすなろ建設,冨士工及び白石),その他のゼネコン2社及び地元業者1社であった。

イ 原告錢高組は,番号67の物件の施工場所の近隣において施工実績を持つため,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告錢高組は,公社が番号67の物件の入札予定を公表した後,佐田建設,原告クボタ建設,青木あすなろ建設,冨士工及び白石並びにその他のゼネコンであるアイサワエ業,勝村建設及び村本建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告錢高組が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告錢高組は,地元業者である南王建設とJVを組んだ。

オ 原告錢高組は,入札までに,同じく受注を希望する冨士工と話し合った結果,受注予定者となることにつき了承を受け,指名を受けた冨士工並びにいずれもその他のゼネコンであるアイサワ工業及び村本建設との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告錢高組・南王建設JVが番号67の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

なお,冨士工は,前記オのとおり,自社も同物件の受注を希望する旨を述べたものの,最終的には受注を断念した。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告錢高組との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告錢高組・南王建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする1組のJVの入札価格は,原告錢高組の依頼を受け,原告錢高組・南王建設JVの入札価格を上回った。

この結果,原告錢高組・南王建設JVが落札金額3億7000万円で落札した。

第4原告らの主張

1  原告西松建設,同クボタ建設及び同東洋建設の主張

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「1 多摩地区におけるゼネコン等」及び「2 公社が発注する工事」の項に記載された事実は,原告西松建設,同クボタ建設及び同東洋建設に係る事実は認め,その余の事実は積極的に争うものではない。

(2)  しかしながら,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(2) 本件基本合意」の項に記載された本件基本合意は存在しない。本件において,本件基本合意の存在を合理的に推認することができる実質的証拠は存在しないのである。この点に関する主張の詳細は次のとおりである。

ア 本件基本合意の成立の有無を判断する前提として,<1> 受注意欲を有するゼネコンが,他のゼネコンに連絡をする方法,受注予定者を決定するなど具体的な調整時の基準が定型的ではなかったこと,<2> いかなる土木工事につき,どのゼネコンが受注予定者となるのかという受注調整の重要な要素については,何一つ決まっていないこと,<3> 受注調整のルールヘの参加者の内包及び外延のすべてを明らかにする十分な証拠がないこと,<4> 本件基本合意にどれほどの拘束性があったのか,本件基本合意に反して工事を受注した場合に,どのような制裁措置がなされるのかなどの事情を具体的に明らかにする証拠はないことを指摘できるのであり,このことに鑑みれば,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限における「意思の連絡」の存在を認定することは不可能であり,本件基本合意の存在を認めることはできない。

イ ゼネコン33社の行為態様(認識・認容)とその他のゼネコン46社の行為態様(認識・認容)には何の違いも認められないから,その他のゼネコン46社が本件基本合意の当事者でないと認定するのであれば,ゼネコン33社についても本件基本合意の当事者と認定することはできないはずであり,ゼネコン33社だけが本件基本合意の当事者であると合理的に推認させる実質的証拠はない。被告がゼネコン33社とその他のゼネコン46社とを区別した実質的根拠は,「本件対象期間中の落札・受注の有無」以外の何ものでもない。しかし,本件対象期間は,独占禁止法の規定によって課徴金の対象が違反行為の終了前の3年間に限られることから人為的に設定された期間に過ぎないのであるから,本件対象期間中の受注の有無によって本件違反行為の当事者であるか否かを区別することは,理論的にも合理性がなく,実質的証拠を欠くものである。

ウ アウトサイダーである地元業者の入札行動が競争回避的であったとする審決認定事実(常に競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することが期待できた。)を合理的に推認させる実質的証拠はない。かえって,本件において,地元業者による競争回避的状況など存在しなかったことが容易に窺えるものである。

エ 本件においては,本件審決の認定によっても,本件基本合意の当事者であるゼネコン33社は,市場全体の約4割程度の物件しか本件基本合意によって受注できていないことが明らかにされているのであって,本件基本合意によってコントロールできなかった物件が約6割程度もあるということになるが,過去の被告の先例をみても,合意当事者が市場全体の4割程度の物件しかコントロールできないのに,当該合意がその市場「全体」を「実質的に」制限したものであったなどと評価された事例は,1件も存在しない。実際の入札結果からしても,本件基本合意による競争の実質的制限は認められないのであって,本件基本合意による競争の実質的制限を認める本件審決は,実質的証拠を欠くものである。

(3)  番号6の物件(原告クボタ建設・曽根建設JV落札)について原告クボタ建設が,番号50の物件(原告西松建設・清水重機土木JV落札)について原告西松建設が,番号56の物件(原告東洋建設・拓栄建設JV落札)について原告東洋建設が,それぞれ個別的受注調整を行った事実はない。番号6の物件,番号50の物件及び番号56の物件については,いずれも競争制限効果が具体的に発生したことを立証する実質的証拠はない。

「課徴金の対象についての基本的考え方」としては,「独占禁止法7条の2第1項は,事業者が商品又は役務の対価に係る不当な取引制限をしたときは,公正取引委員会は,当該事業者に対し,実行期間における「当該商品又は役務」の売上額を基礎として算定した額の課徴金の納付を命じる旨を規定している。そして,「当該商品又は役務」とは,当該違反行為の対象とされた商品又は役務を指し,本件のような受注調整にあっては,当該事業者が,基本合意に基づいて受注予定者として決定され,受注するなど,受注調整手続に上程されることによって具体的に競争制限効果が発生するに至ったものを指すと解すべきである。そして,課徴金には当該事業者の不当な取引制限を防止するための制裁的要素があることを考慮すると,当該事業者が直接又は間接に関与した受注調整手続の結果競争制限効果が発生したことを要するというべきである。」との判断基準が示されており(東京高等裁判所平成16年2月20日判決・金融・商事判例1189号28頁),入札談合のような受注調整の場合には,被告において,個別物件ごとに具体的な競争制限効果が発生していることを裏付ける個別具体的な事実を主張立証する責任を負い,その立証がなされた個別物件に係る売上額のみが課徴金算定の対象となる旨の解釈が確立している。しかし,番号6の物件についてアウトサイダーである地元業者をメインとする3組のJVが原告クボタ建設の受注に協力したことを裏付ける実質的証拠は存在せず,番号50の物件についてアウトサイダーである地元業者をメインとする3組のJVが原告西松建設の受注に協力したことを裏付ける実質的証拠は存在せず,番号56の物件についてアウトサイダーである地元業者をメインとする3組のJVが原告東洋建設の受注に協力したことを裏付ける実質的証拠は存在しないのであり,上記各物件を課徴金の対象とすることはできない。

2  原告錢高組の主張

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「1 多摩地区におけるゼネコン等」及び「2 公社が発注する工事」の項に記載された事実は,原告錢高組に係る事実は認め,その余の事実は積極的に争うものではない。

(2)  しかしながら,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(2) 本件基本合意」の項に記載された本件基本合意は存在しない。本件において,本件基本合意の存在を合理的に推認することができる実質的証拠は存在しないのである。この点に関する主張の詳細は次のとおりである。

ア ゼネコン33社の行為態様(認識・認容)とその他のゼネコン46社の行為態様(認識・認容)には何の違いも認められないから,その他のゼネコン46社が本件基本合意の当事者でないのであれば,ゼネコン33社も本件基本合意の当事者であるとは認定できないのであって,ゼネコン33社が本件基本合意の当事者であると合理的に推認させる実質的証拠がない。

イ アウトサイダーである地元業者の入札行動が競争回避的であったとする審決認定事実(常に競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することが期待できた。)を合理的に推認させる実質的証拠はない。

ウ 本件審決の認定によっても,ゼネコン33社は市場全体の約4割程度の物件しか本件基本合意によって受注できていないものであり,6割が本件基本合意によってコントロールできていないのであって,本件基本合意により競争が実質的に制限されたことを合理的に推認させる実質的証拠はない。

(3)  番号67の物件(原告錢高組・南王建設JV落札)について原告錢高組が,個別的受注調整を行った事実はない。本件審決は,原告錢高組が各社に工事希望票の提出を依頼したこと及び原告錢高組が番号67の物件の施工場所の近隣において施工実績を持ち受注希望を有していたことをJVのメインであるゼネコン8社が認識していたことを前提として,これらの事実から直ちに原告錢高組・南王建設JVが同物件について,基本合意に基づき違反行為者6社との間で受注予定者に決定され,違反行為者6社及びその他のゼネコン2社の協力を得,さらに地元業者の協力も得て落札・受注したと認定したが,これは,証拠に基づかない推論であり,これらの事実を立証する実質的証拠はないし,競争制限効果が具体的に発生した事実を立証する実質的証拠もない。

3  原告淺沼組の主張

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「1 多摩地区におけるゼネコン等」及び「2 公社が発注する工事」の項に記載された事実は,原告淺沼組に係る事実は認め,その余の事実は積極的に争うものではない。

(2)  しかしながら,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の 「(2) 本件基本合意」の項に記載された本件基本合意は存在しない。本件において,本件基本合意の存在を合理的に推認することができる実質的証拠は存在しないのである。この点に関する主張の詳細は次のとおりである。

ア 基本合意は,相互拘束の合意であり,入札談合においては,受注調整のルールに関する合意を意味する。そして,受注調整のルールは,仮にそれがルールとして存在するのであれば,談合参加者にとって容易に適用可能な明確なものであるはずであり,そのルールは談合参加者に何らかの方法で予め周知されていなければならないが,本件審決が認定した本件基本合意は,合意の参加者が特定しておらず,参加者とそうでないものを区別する根拠が不明であり,かつ,受注調整のルールが極めて曖昧でルールとしての意味を持たず,もとより,そのルールが事業者に周知されていたという事実もない。受注予定者決定のルールは,入札談合の基礎であり,その内容が談合参加者に周知されることによって初めて入札談合の合意が成立したといえるものである。本件においては,受注予定者を決めるルールが決まっておらず,当然のことながら,受注予定者決定のルールがいつ成立したか,それが参加者に周知されて合意が成立したのはいつかなどは全く不明である。本件基本合意形成の日時,場所,合意の参加者,合意の内容等合意形成の過程を具体的に供述した証拠がないし,本件審決認定のルールでは,受注予定者が誰になるかは当事者任せで,受注調整のルールが全く決まっていない。特定の物件について受注予定者を決めたことについて33社全員が了承した事実はない。33社間の相互拘束の存在を示す証拠が存在しないことも明らかである。

個別案件の入札談合の存在を間接事実として本件基本合意が33社間に成立したと認定するのであれば,個別案件の受注調整の際に,33社間の本件基本合意に基づく受注調整であることを示す事実が存在すると考えるのが経験則である。具体的にいえば,受注調整の前に33社に属する入札参加者の了解を得るとか,受注予定者と決まったことを何らかの方法によって33社に属する入札参加者に連絡するなどの行為あると考えられる。そうでなければ,その受注調整は,33社間の基本合意とは関係なく,いわば勝手に行われたと見るほかはないから,このような事例の集積によって33社間の本件基本合意を認定するのは不合理というべきである。

入札に当たって協力してもらった者は次の機会には協力するとの暗黙の了解があったからといって,そうすべきであるとの合意が33社間あるいは約80社間に成立したことを意味するものではない。暗黙の了解が,協力しあるいは協力を受けた者相互の2社間の了解に止まる限り,その了解の数が如何に多数存在したとしても,それだけで,2社の範囲を超えて33社間あるいは約80社間の了解が成立したということはできない。33社間に本件基本合意が成立していると認定するためには,入札の前後に,何らかの方法で,2社間の合意(了解事項)が33社に属する入札参加者に周知されその了解を得ていたことを立証する必要があるというべきところ,本件ではそのような証拠はない。

イ ゼネコン33社の行為態様(認識・認容)とその他のゼネコン46社の行為態様(認識・認容)には何の違いも認められないから,その他のゼネコン46社が本件基本合意の当事者でないと認定するのであれば,ゼネコン33社についても本件基本合意の当事者と認定することはできないはずであり,ゼネコン33社だけが本件基本合意の当事者であると合理的に推認させる実質的証拠はない。本件審決が,その他のゼネコン46社について,「ゼネコン33社のうちの受注予定者が受注できるように協力したことがあるにすぎず,自社が受注意欲や関連性を有するときは他の違反行為者が協力すべきことについての相互の認識・認容までは認められない。」というのが常識に反することは明らかである。したがって,ゼネコン33社とその他のゼネコン46社との間に「協力」に関する意識の違いはないと見るのが常識であるから,存在する違いは,ゼネコン33社が落札したとの事実だけである。落札・受注という偶然の事実を根拠として本件基本合意参加者の範囲を決めざるを得ないということは,本件基本合意の存在を認定し得る証拠が存在しないことを示している。

さらに,徳倉建設については,徳倉建設が番号46の物件を落札し,また,ゼネコン33社に属する違反行為者が受注予定者となった7物件について協力したという事実が存存するにもかかわらず,本件基本合意参加者でないとされた点に特異なものがある。徳倉建設が本件基本合意の当事者でないとすると,徳倉建設が上記7物件について協力したのは本件基本合意に基づくものではなく,それと無関係に勝手に協力したものと認定したことになる。しかして,徳倉建設が行った協力行為とゼネコン33社に属する者が行った協力行為との間に何らかの違いを認めるべき証拠はないのであるから,徳倉建設が本件基本合意に基づいて協力したのでないとするのであれば,33社の行った協力行為も同様に本件基本合意に基づくものでないと認定すべきこととなり,本件の落札,受注はすべて33社間の本件基本合意に基づくものといえないから,課徴金の対象とならないとみるほかはない。

ウ 競争の実質的制限が,本件審決のいうように,「競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって市場支配をもたらすこと」であるとするのであれば,市場における大半の物件について,原告らが自由に価格を決めることができる場合でなければならない。原告らは,それを前提として,入札に際し地元業者が競争しないということを予期できる物件が大半を占めていなければ,競争の実質的制限が生ずるとはいえない。

アウトサイダーである地元業者が多く,ほとんどの物件についてアウトサイダーである地元業者が入札に参加する本件市場においては,「アウトサイダーである地元業者のすべて又はほとんどが協力するとか,競争回避行動を採る」などの特別な事情が認められなければ市場を支配することはできない。これは1社でも競争者が入札に参加すれば競争が生じるという競争入札の性質から当然導き出される結論である。しかして,かかる特別の事情の存在が立証されているのはその一部にしか過ぎない。アウトサイダーである地元業者の入札行動が競争回避的であったとする審決認定事実(常に競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することが期待できた。)を合理的に推認させる実質的証拠はない。

エ 一定の取引分野に属する物件(特定土木工事)の件数を本件審決に従って計算すると,ゼネコン33社の受注件数の割合は38.8パーセントに過ぎない上に,特定土木工事72物件にゼネコン33社あるいはそのJVの2社以上が入札参加者となっていない21物件を加えると,33社がいわゆる談合によって受注した物件は93物件のなかの28物件で30.1パーセントであり,市場支配には程遠いものというべきである。金額でみると,72物件の落札金額と21物件の落札金額との合計は,236億5217万2000円となり,33社が落札した31物件の落札額113億0911万4100円はその47.79パーセントであって,過半数に達しない。更に,番号10,11,67の各物件は競争による落札と認めるべきであるから,この落札額を差し引くと104億0320万円となり,全落札額の43パーセントに過ぎない。件数で見ても,金額で見ても,33社が談合によって落札した物件は過半に達しないから,本件一定の取引分野における価格,数量などをある程度自由に左右することができたとは到底いえず,市場支配にはほど遠いというべきである。

(3)  番号64の物件(原告淺沼組落札)について原告淺沼組が,個別的受注調整を行った事実はない。番号64の物件については,入札参加者が協力した事実はなく,個別談合は認められない。

原告淺沼組が入札参加者の一部の者に対し個別に協力を依頼した事実のあることは否定しないが,協力する旨明言した入札参加者は認められない。しかも,33社間の本件基本合意に基づきその実行としてそのような協力依頼をしたというのであれば,事前あるいは事後にその旨を33社に属する入札参加者に報告,通知するなどして了解を得るはずであるのに,そのような報告などが行われた形跡はない。上記の協力依頼は,原告淺沼組の従業員が33社の本件基本合意に基づきその実行として行ったものではなく,本件基本合意とは無関係に勝手に行ったものと見るほかはなく,番号64の物件の落札は本件基本合意の実行としての落札ではないから,課徴金の対象にならないことはいうまでもない。番号64の物件の落札をもって33社間の本件基本合意の存在を立証する間接事実の一つとすることもできない。

(4)  平成17年10月19日公正取引委員会規則第8号「公正取引委員会の審判に関する規則」31条3項は,被審人及び代理人に相手方の陳述が明らかでないときの発問権を認め,また,同規則27条2項は,審奪官の最終意見陳述の後に意見を陳述する機会を与えなければならない旨規定している。本件の審判においては,本件基本合意に関する直接証拠が存在する旨の主張は審査官によってなされておらず,もし審査官が,審判において,本件基本合意に関する直接証拠がある旨主張したのであれば,原告淺沼組は,上記規定に従って発問することにより審査官の真意を確かめ,あるいは意見に対して反論したはずである。本件審決が,審査官の主張がないにもかかわらず,直接証拠が存在することを理由として本件基本合意の成立を認定したことは,原告淺沼組に何ら反論の機会を与えないまま,原告淺沼組に不利な判断をしたことになる。これは,審判に関する規則の各条項に違反するものというべきであり,本件審決は取消しを免れない。

4  原告株木建設の主張

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「1 多摩地区におけるゼネコン等」及び「2 公社が発注する工事」の項に記載された事実は,原告株木建設に係る事実は認め,その余の事実は積極的に争うものではない。

(2)  しかしながら,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(2) 本件基本合意」の項に記載された本件基本合意は存在しない。本件において,本件基本合意の存在を合理的に推認することができる実質的証拠は存在しないのである。この点に関する主張の詳細は次のとおりである。

ア ゼネコン33社の行為態様(認識・認容)とその他のゼネコン46社の行為態様(認識・認容)には何の違いも認められないから,その他のゼネコン46社が本件基本合意の当事者でないと認定するのであれば,ゼネコン33社間にも本件基本合意が存在し得ないことになるのであり,ゼネコン33社だけが本件基本合意の当事者であると合理的に推認させる実質的証拠はない。

本件審決は,原告株木建設を含むゼネコン33社による本件基本合意の存在に係る直接証拠として,上記33社の担当者の供述を摘示するが,その他のゼネコン46社のうち24社の担当者が33社の担当者と同趣旨の供述を行っており,特にフジタ,前田建設工業,鹿島建設については個別の物件の受注予定者となったとの供述が存在するのであり,本件基本合意の当事者を33社に限定し,その他のゼネコン46社は当事者でないとするならば,上記24社の担当者による同旨の供述は明らかに本件審決の認定に矛盾する証拠であり,これを排斥する積極的な理由が必要となるのである。しかるに,本件審決の認定事実に矛盾する証拠に関し,排斥する理由を明らかにしない本件審決は,実質的証拠が欠けることは明白である。

イ 本件基本合意が競争を実質的に制限するか否かは,当事者とされた33社のみの行為と競争の実質的制限の因果関係を考えるべきで,その他のゼネコン46社と徳倉建設をもって「協力者」という不可解な存在を作出して,その行為をともに競争の制限の有無の評価に包含することは誤りである。

ウ 本件審決が,本件基本合意の当事者が23社に限定されるとして摘示した間接事実について述べれば,本件審決が認定した30社の個別物件のうち,少なくとも,植木組が落札した番号2の物件,戸田建設が落札した番号29の物件及び原告淺沼組が落札した番号64の物件については,個別の受注調整を認定できる証拠はなく,又は,仮にそのような証拠があったとしても,それに相反ないし矛眉する証拠が存在する。したがって,経験則に従えば,当該個別物件については個別の受注調整を認定し得ないことは明らかであって,これらに係る事実認定が実質的証拠を欠くものであることは明らかである。また真柄建設については,同社が受注予定者とされた番号19の物件以外には指名されていないのであり,本件基本合意の要件のうち「他の違反行為者が受注意欲や関連性を有するときは自社が協力すべきこと」の要件が欠けるものであり,同社を本件基本合意の当事者とする本件審決は実質的証拠が欠けることは明らかである。

エ その他のゼネコン,地元業者というアウトサイダーの数,割合等に照らし,競争の実質的制限はなかった。アウトサイダーである地元業者の入札行動が競争回避的であったとする審決認定事実(常に競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することが期待できた。)を合理的に推認させる実質的証拠はない。

オ 本件においては,本件審決の認定によっても,本件基本合意の当事者及び協力者の割合は,全競争事業者のうち51.9パーセントないし47.9パーセントにすぎず,このような割合をもって,本件取引市場が支配されたといい得ないこと,すなわち,競争の実質的制限をもたらしていないことは明らかであるが,さらに,本件審決が本件基本合意により実質的な競争制限が具体的に生じていると認定した物件は,本件一定の取引分野の72物件中31物件(43.1パーセント)であるところ,これについて,地域住民が原告となりゼネコンを被告として提起した住民訴訟における控訴審判決により競争制限効果が否定された5件(番号2の物件,番号29の物件,番号56の物件,番号64の物件及び番号65の物件)を受注調整による落札物件から除外して,受注件数の支配率を算定すると,36.6パーセントに過ぎないことになる。しかして,本件においては,本件審決の認定によっても,当事者が市場全体の4割程度の物件しか本件基本合意によって受注できていない,換言すれば,本件基本合意によりコントロールできなかった物件が過半を超える6割程度あり,さらに,上記控訴審判決において競争制限効果が否定された物件を基準に考えれば,市場全体の36パーセントしか本件基本合意によって受注できていない(65パーセントの物件が本件基本合意によりコントロールできていない。)のであるから,このような本件基本合意が,その当該市場を「支配」し,当該市場の「競争を実質的に制限」していたなどと評価される余地はない。

(3)  番号39の物件(原告株木建設落札)については,熾烈な価格競争が行われ,原告株木建設が落札したもので,競争が制限されたことの実質的証拠はない。

番号39の物件における指名業者10社についてみれば,この中には本件基本合意の当事者とされていない5社が含まれ,特に,新栄建設業協組及び坂本工業は,原告株木建設担当者からは希望票の提出は依頼していないにもかかわらず,本件物件の入札に参加したのであって,もとより,原告株木建設は両社に対し受注調整への協力を依頼したものの承諾は得られなかったのであり,その結果,両社は,入札予定価格の100.19パーセントから101.66パーセントの間にとどまる価格にて応札するなど,両社は入札予定価格を正確に推測し,十分競争可能な価格をもって対応していたのである。他方,両社が原告株木建設の受注に協力したことを示す証拠はない。両社がアウトサイダーであることは明らかであって,番号39の物件につき競争が実施されていたことは明らかである。なお,原告株木建設は,番号39の物件を受注したことにより1438万6820円もの損失を計上したが,これはまさに原告株木建設が番号39の物件の入札に際して価格競争を行っていたことの証左である。

第5当裁判所の判断

1  本件審決が認定する原告らの課徴金に係る違反行為のうち,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「1 多摩地区におけるゼネコン等」及び「2 公社が発注する工事」の項に記載された事実は,当事者間に争いがない,又は,原告らが争うことを明らかにしないからこれを自白したものとみなす。

2  本件審決が認定する原告らの課徴金に係る違反行為のうち,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(1) 背景事情」の項に記載された事実を立証する証拠として,別紙5「背景事情に関する証拠一覧」記載の証拠があり,実質的証拠があると認められる。

3  本件基本合意について

(1)  本件審決が認定する原告らの課徴金に係る違反行為のうち,上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(2) 本件基本合意」の項において認定された本件基本合意に関する証拠関係は次のとおりである。

ア 上記認定の本件基本合意において業界の有力者として受注調整の中心的役割を担ったとされる前大成建設多摩営業所長(真柄建設東京支店営業部長)大木正毅は,本件審決認定のとおりの本件基本合意の存在と内容を認め,具体的な受注調整を行った事実を供述している。その供述証拠は次のとおりである。

・大木正毅の審査官に対する平成12年11月7日付け供述調書(査共第98号証)

・大木正毅の審査官に対する平成13年6月29日付け供述調書(査共第99号証)

・大木正毅の審査官に対する平成12年11月8日付け供述調書(査共第110号証)

イ 上記認定の本件基本合意において受注調整の役割を担ったとされる大成建設土木営業本部営業部営業担当部長中西豊及び同社多摩営業所次長松本洋一は,本件審決認定のとおりの本件基本合意の存在と内容を認める供述をしている。その供述証拠は次のとおりである。

・中西豊の審査官に対する平成12年12月21日付け供述調書(査共第289号証)

・松本洋一の審査官に対する平成12年11月29日付け供述調書(査共第201号証)

・松本洋一の審査官に対する平成13年6月22日付け供述調書(査共第231号証)

・松本洋一の審査官に対する平成13年5月31日付け供述調書(査共第323号証)

ウ 原告らにおける公社発注の特定土木工事に係る営業担当者であり,又は営業担当者であった原告株木建設東京支店多摩営業所長田中穂積,元原告淺沼組多摩営業所長A,原告クボタ建設東京支店営業部第一営業課課長(元多摩営業所長)B,原告西松建設関東支店営業部課長C,原告錢高組東京支社建築支店営業第三部次長(前多摩営業所長)D及び原告東洋建設東京支店多摩営業所長Eは,本件審決認定のとおりの本件基本合意の存在と内容を認め,具体的な受注調整を行った事実を供述している。その供述証拠は次のとおりである。

・田中穂積の審査官に対する平成13年8月23日付け供述調書(査共第3号証)

・田中穂積の審査官に対する平成13年8月24日付け供述調書(査共第67号証)

・Aの審査官に対する平成13年10月10日付け供述調書(査共第79号証)

・田中穂積の審査官に対する平成13年9月26日付け供述調書(査共第81号証)

・Bの審査官に対する平成13年5月22日付け供述調書(査共第85号証)

・Cの審査官に対する平成13年6月11日付け供述調書(査共第102号証)

・Aの審査官に対する平成13年5月9日付け供述調書(査共第113号証)

・Eの審査官に対する平成12年12月22日付け供述調書(査共第115号証)

・田中穂積の審査官に対する平成13年3月7日付け供述調書(査共第140号証)

・Cの審査官に対する平成13年6月12日付け供述調書(査共第147号証)

・Bの審査官に対する平成13年9月4日付け供述調書(査共第173号証)

・Cの審査官に対する平成13年6月11日付け供述調書(査共第177号証)

・Cの審査官に対する平成13年6月12日付け供述調書(査共第193号証)

・Dの審査官に対する平成13年6月18日付け供述調書(査共第202号証)

・Dの審査官に対する平成13年6月19日付け供述調書(査共第238号証)

・Eの審査官に対する平成13年1月11日付け供述調書(査共第292号証)

エ 公社発注の特定土木工事に入札実績のある大成建設及び原告らを除くゼネコンにおける営業担当者は,本件審決認定のとおりの本件基本合意の存在と内容を認め,具体的な受注調整を行った事実を供述している。その供述に係る証拠はいずれも審査官に対する供述調書であり,その証拠番号,作成日,供述者は,別紙6「大成建設及び原告らを除くゼネコン担当者の本件基本合意に係る供述調書目録」記載のとおりである。

オ 受注希望者が本件基本合意に基づく条件をアピールするために作成したPR紙,受注希望者が他のゼネコンに工事希望票の提出依頼をするために使用した文書,相指名業者たるゼネコンが受注希望者から入札価格の連絡を受けた際に当該入札価格を記録したメモ,本社等の上部組織向けに本件基本合意の存在と内容を説明した報告書等の本件基本合意に基づく受注調整等のために業務上作成された書面(上記書面に係る審査官作成の報告書を含む。)が存在する。その証拠番号及び証拠の標目等は別紙7「本件基本合意に係る業務上作成された書面(審査官作成の報告書を含む)目録」記載のとおりである。

カ 上記の各供述調書及び各業務上作成された書面の内容は,公社発注の特定土木工事に係る指名業者の選定,入札結果等の客観的事実と一致する(査共第328号証,査共第440号証,別紙4)。

(2)  以上によれば,本件審決が認定する本件基本合意の存在を立証する実質的証拠があるということができる。

(3)  本件基本合意に関する原告らの主張に対する検討

ア 本件基本合意に関する原告らの主張に対する検討をするに先立ち,上記「第3 本件審決が認定した事実」に摘示された事実関係に基づき,本件基本合意の実質を検討する。

イ 上記摘示の事実関係を整理すると次のとおりである。

(ア) 原告らを含む33社,徳倉建設及びその他のゼネコン46社は国内の広い地域において総合的に建設業を営む者(ゼネコン)であり,多摩地区に営業所を置くなどして事業活動を行っている。多摩地区では,ゼネコンに該当しない地元業者も事業活動を行っている。公社は,多摩地区に所在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建設等の都市基盤整備事業を行う財団法人である。

(イ) 公社は,原則として,土木工事を指名競争入札の方法により発注しており,予定価格が500万円以上である工事の発注に当たっては,公社が入札参加資格を満たす者として登録している有資格者の中から入札参加希望者を募り,入札参加希望者の中から指名競争入札の参加者を指名していた。また,共同施工方式により施工する土木工事の発注に当たっては,入札参加希望者の中からJVの構成員となるべき者を指名し,これらの者によって結成されたJVを指名競争入札の参加者としていた。

公社は,入札参加者を募り,希望者の中から入札に参加する者を指名する方法を主事希望型指名競争入札と称している。公社は,「工事発注予定表」をもって発注する工事の件名,格付等を公示して,入札参加希望者に工事希望票を提出させ,工事希望票の提出者の中から入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者を選定していた。

公社は,入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者の選定に当たっては,単独施工工事については10社が,共同施工工事については10組のJVが,それぞれ入札に参加するように選定することを常としていた。

(ウ) 公社は,前記(イ)の有資格者を,その事業規模等により工種区分ごとにAからEまでのいずれかのランク(事業者ランク)に格付けした上,格付ごとに順位(格付順位)を付していた。33社,徳倉建設及びその他のゼネコン46社はいずれも有資格者であり,Aランクに格付けされていた。地元業者のうち,Aランクに格付けされていたのは74社であった。また,公社は,発注する土木工事を,その工事の予定価格を基準とし,これに工事の技術的な難易度等を勘案して,AからEまでのランクの1社によって施工される工事(単独施工工事)並びにいずれもAランク(AAランク)の2社,Aランク及びBランク(ABランク)の2社又はAランク及びCランク(ACランク)の2社の共同施工方式により施工される工事(共同施工工事)に分けて格付けしていた。

(エ) 公社は,上記(ウ)のとおり,単独施工工事及び共同施工工事について格付けしており,規模が大きい工事については,工事希望票を提出してきた者の中から,原則として格付順位が上位の者を優先して選定していた。公社は,高度な施工技術が求められると判断される工事については,工事希望票を提出してきた者の中から,原則として,格付順位が上位の者を優先して選定していた。

(オ) 公社は,本件対象期間中,Aランクの格付の単独施工工事並びにAA,AB及びACのランクの格付の共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき33社,徳倉建設及びその他のゼネコンのうちの複数の者を指名し又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注するもの(公社発注の特定土木工事)について,別紙4のとおり入札を実施して72物件発注した。

(カ) 33社(違反行為者)は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の特定土木工事について,受注価格の低落防止を図るため

a 公社からの指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員であるJVが指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該工事の施工場所との関連性が強い者若しくはJV又は当該工事についての受注の希望を表明する者若しくはJV(受注希望者)が1名のときは,その者を受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との関連性(条件)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

b 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨合意していた(本件基本合意)。

(キ) 本件基本合意の対象は,公社発注の特定土木工事であった。

(ク) 33社のうち受注希望者は,当該工事の発注が予測された時点,あるいは公社が入札の執行を公示(入札参加希望者を公募)した時点で,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコン又はゼネコンの多摩地区における営業担当者のうちの有力者(業界の有力者)に対して,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることを必要に応じてアピールしていた。

(ケ) 受注希望者が他の違反行為者にアピールをした場合において,当該他の違反行為者も受注希望を表明したときは,アピールした者とアピールを受けた者との間で,いずれの者の条件が強いかについて話合いを行っていた。アピールを受けた他の違反行為者すべてが受注希望を表明しなかったときは,この段階すなわち入札指名の前の段階で,受注希望者が1社に絞り込まれていた。

(コ) 受注希望者は,上記(ク)のアピールに代えて,又はこれと併せて,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。この依頼は,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに入札に参加して自社の受注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に,当該入札の参加者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることにより,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。

(サ) 受注希望者は,公社の指名により入札参加者が確定した以降において,必要に応じて,相指名業者に対して,改めて,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることをアピールし,自社が受注できるよう入札での協力を依頼していた。この依頼は,現場説明会のために相指名業者がそろった際に口頭で行われたり,個別訪問又は電話により行われたりしていた。この時点で,ほかにも受注希望者がいる場合には,受注希望者の間でいずれの条件が強いかを話し合うことにより,受注予定者が決定されていた。

(シ) 条件は,具体的には,ⅰ 当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること,ⅱ 自社と特別な関係にあるダミコンが当該工事の調査又は設計の入札に参加していること,ⅲ 当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること,ⅳ 当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置場や営業所等の施設があること,ⅴ 自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること等である。

(ス) なお,JVを結成して入札に参加する場合には,JVの受注への協力の依頼,受注予定者を決めるための話合いは,通常,JVのメインの間で行われていた。

(セ) 受注予定者が決定された場合には,受注予定者が他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンのうち相指名業者となった者に対して,入札価格を連絡し,連絡を受けたこれらの者は,受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,相指名業者となったこれらの者は,経験的に,発注工事と同等の過去の工事の入札結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格を比較的容易に予測し得たので,そのような価格で入札していた。

(ソ) なお,JVを結成して入札に参加する場合には,入札価格の連絡・確認は,通常,JVのメイン間で行われていた。

(タ) 公社は,予定価格を下回る入札がなかった場合には,入札日において3回まで入札を行っているため,受注予定者は,3回分の入札価格を連絡することがあった。

ウ 前項で整理したところに基づき,別紙4「財団法人東京都新都市建設公社発注の特定土木工事(平成9年10月1日~平成12年9月27日)」を参照して検討すると,<1> 公社は,予定価格が一定額以上の土木工事の発注に当たっては,工事希望型指名競争入札と称する方法により,あらかじめ工事発注予定表をもって発注する工事の件名,格付等を公示して,入札参加希望者に工事希望票を提出させ,工事希望票の提出者の中から入札参加事業者又はJVの構成員となるべき者を選定しているところ,これは,真に受注意欲のある事業者を指名業者に選定し,真に受注意欲のある事業者の間で競争入札を実施することを企図したものと理解される,<2> 公社は,規模が大きい工事や,高度な施工技術が求められると判断する工事については,工事希望票を提出した者の中から,原則として,格付順位が上位の者を優先して選定することとしているが,これは規模が大きい工事や,高度な施工技術が求められると判断される工事について,格付順位が高く事業規模等の優る事業者の間で価格競争が行われることを企図したものと理解できる,<3> 公社は,単独施工工事については10社が,共同施工工事については10組のJVが,それぞれ入札に参加するように選定することを常としており,規模が大きい工事や高度な施工技術が求められると判断される工事については格付順位の上の者を優先してその10社又は10組のJVのメインとなるべき者に選定することになるが,これは,規模が大きい工事や高度な施工技術が求められると判断ざれる工事については,真に受注意欲のある格付順位が高く事業規模等の優る10社の事業者の間で価格競争が行われ,又は真に受注意欲のある格付順位が高く事業規模等の優る事業者をメインとする10組のJVの問で価格競争が行われることを企図したものと理解できる,<4> 一方,33社は,本件基本合意に基づき,公社発注の特定土木工事のうちそれぞれ自社が条件を有すると判断ずる工事について受注価格の低落防止を図るため,自社が有する条件を提示するなどして自社が受注予定者であることの認識を得,又は,受注希望者間の話し合いにより受注希望者のうち1社が受注予定者となり,受注意欲のないゼネコンに工事希望票の提出を依頼して公社から指名業者の選定(JVの構成員となるべき者の指名を含む。)を得させ,その結果,入札に参加する10社(10組のJVのメイン)のうち概ね7社ないし9社をゼネコンが占め(これは,上記のとおり,規模が大きい工事や高度な施工技術が求められると判断される工事は原則として格付順位が上位の者が優先して選定されることによると考えられる。),そのうち真に受注意欲のあるゼネコンは受注予定者である1社だけに過ぎないという状況を作出し,受注予定者は相指名業者となったゼネコンとの間で自社の入札価格が最も低い入札価格となるように連絡を取り合い,相指名業者となったゼネコンはその連絡に応じた入札価格をもって入札し,もって,受注予定者が希望する受注価格で落札して公社の発注を得ることを実現したものである,<5> この本件基本合意に基づく個別的受注調整を評価すると,上記のとおり,公社は,工事希望型指名競争入札と称する方法により,単独施工工事については10社を入札に参加させ,共同施工工事については10組のJVを入札に参加させ,真に受注意欲のある格付順位が高い事業規模等の優れた事業者の問で価格競争が行われることを企図しているのに,33社が受注予定者となった物件においては,本件基本合意に基づく受注調整により,格付順位が高く事業規模等の優るゼネコンの間の価格競争は消失し,実質的評価としては,本件基本合意により受注予定者となったゼネコン1社とゼネコンに比して事業規模が小さく,価格競争力の劣る地元業者1社ないし3社との競争となったものと評価すべき状況を作出したこととなる,<6> また,公社が7社ないし9社のゼネコンを指名業者に選定し,JVの構成員となるべき者に指名するのは,地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れたゼネコン同士の適正な競争を企図しているものということができるところ,そのようなゼネコン同士の競争は一切失われることになる,<7> そうすると,公社発注の特定土木工事のうち33社がそれぞれ受注予定者となった物件の入札について33社がそれぞれ行った本件基本合意に基づく個別的受注調整は当該入札の競争を実質的に制限するものであることは明らかといわなければならない。

エ 以下,原告らの主張に沿って検討する。

(ア) 原告らを含む33社(違反行為者)とその他のゼネコン46社及び徳倉建設との間に証拠の違いはなく,その他のゼネコン46社及び徳倉建設が本件基本合意の当事者であることが認められないなら,原告らを含む33社についても本件基本合意が存在することを立証する実質的証拠は存在しないこととなる旨の主張(原告西松建設,同クボタ建設及び同東洋建設の主張(2)イ,原告錢高組の主張(2)ア,原告淺沼組の主張(2)イ,原告株木建設の主張(2)ア,イ)について

33社(違反行為者)の間に本件基本合意が存在することに関して,これを立証する実質的証拠があることは前記のとおりである。

本件審決は,<1> 33社については,上記各証拠により,「自社が受注意欲や関連性を有するときは他の違反行為者が協力すべきこと」及び「他の違反行為者が受注意欲や関連性を有するときは自社が協力すべきこと」を相互に認識・認容していることが認められるから,本件基本合意の存在が認められるのであり,<2> その他のゼネコン46社については,受注予定者とされた違反行為者からの協力依頼に応じて受注予定者の受注に協力しているのは一部の者のみであって,本件対象期間中における公社発注の特定土木工事に関し,本件基本合意に基づいて落札・受注したと認められる物件はなく,「自社が受注意欲や関連性を有するときは他の違反行為者が協力すべきこと」についての相互の認識・認容があったと認めるに足りる証拠はなく,本件基本合意の当事者であるとまでは認められないのであり,<3> 徳倉建設については,本件対象期間中に同社が落札・受注した公社発注の特定土木工事は番号46の物件のみであるところ,同物件につき他の違反行為者は入札に参加していないから,同社が本件基本合意に基づいて同物件の受注予定者に決定され,他の違反行為者の協力を得て同物件を受注したとは認められないのであって,同社について,自社が受注意欲や関連性を有するときは他の違反行為者が協力すべきことについての相互の認識・認容があったと認めるに足りる証拠はなく,本件基本合意の当事者であるとまでは認められないとしているのであり(本件審決がその「理由」欄の1において引用する審決案140頁15行目から144頁1行目まで),本件審決の上記理由説示は合理的でその論理に誤りはなく,本件審決がその他のゼネコン46社及び徳倉建設は本件基本合意の当事者であるとまでは認められないとしたことによって,本件基本合意の存在を立証する実質的証拠が認められる33社(違反行為者)についてその存在を立証する実質的証拠を欠くことになるとはいえない。よって,上記主張は失当である。

(イ) アウトサイダーである地元業者が入札に参加する事実をとらえて,本件基本合意により競争が実質的に制限されることを争う主張(原告西松建設,同クボタ建設及び同東洋建設の主張(2)ウ,原告錢高組の主張(2)イ,原告淺沼組の主張(2)ウ,原告株木建設の主張(2)エ)について

上記イ及びウにおいて説示したとおり,公社は,工事希望型指名競争入札と称する方法により,単独施工工事についてはゼネコンを含む10社を入札に参加させ,共同施工工事についてはゼネコンをメインとするJVを含む10組のJVを入札に参加させ,真に受注意欲のある格付順位が高く事業規模の優る10社の事業者(このような事業者をメインとする10組のJV)の間で価格競争が行われることを企図しているものであるのに,本件基本合意に基づき,違反行為者である受注希望者は,受注意欲のないゼネコンに工事希望票の提出を依頼して公社から指名業者の選定(JVの構成員となるべき者の指名を含む。)を得させ,その結果,入札に参加する10社(10組のJVのメイン)のうち概ね7社ないし9社をゼネコンが占めることとなり,入札に参加する7社ないし9社のゼネコンの間では,受注希望者が自社の有する条件を提示するなどして受注予定者であることの認識を得,又は,受注希望者間の話し合いにより受注希望者のうち1社が受注予定者となり,上記受注調整により,実質的評価としては,地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れたゼネコン同士の競争は一切失われ,受注予定者となったゼネコン1社(受注予定者となったゼネコンをメインとする1組のJV)と価格競争力の劣る地元業者1社ないし3社(地元業者をメインとする1組ないし3組のJV)との競争と評価すべき状況を作出しているのであるから,このような状況を作出したこと自体をもって競争を実質的に制限しているのであり,アウトサイダーである地元業者が入札に参加しているからといって競争の実質的制限が生じていないことにはならない。

原告らは,アウトサイダーである地元業者が1社でも入札に参加すれば競争が実質的に制限されることはない旨の主張をするが,公社発注の特定土木工事が利益率の高い工事である等の事情があって企業規模の大小にかかわらず自由な価格設定(入札価格の決定)ができるのが一般であったとの事実があるのであれば格別,そのような事実があったと認めるに足りる証拠はなく,むしろ公社発注の特定土木工事を予定価格以下で入札するために厳しい見積もりをした旨の供述証拠が複数存在するのであり,したがって,上記のとおり,価格競争力のあるゼネコン同士の競争が回避きれてゼネコン1社と価格競争力の劣る地元業者1社ないし3社との競争と評価すべき状況を作出したことは,競争を実質的に制限したものというべきである。

よって,上記主張は失当である。

(ウ) 違反行為者が本件基本合意に基づく受注調整により落札した物件の件数ないし落札金額の合計と公社発注の特定土木工事の全体の件数ないし落札金額の合計等とを対比して,本件基本合意による競争の実質的制限は認められないとする主張(原告西松窪設,同クボタ建設及び同東洋建設の主張(2)エ,原告錢高組の主張(2)ウ,原告淺沼組の主張(2)エ,原告株木建設の主張(2)オ)について

上記イ及びウにおいて説示したとおり,本件基本合意は公社発注の特定土木工事のうち違反行為者が受注意欲を有し,又は関連性を有すると判断する物件について,受注調整をして違反行為者が落札することを目的とするものであり,公社発注の特定土木工事の全部について違反行為者が落札することを目的としたり,公社発注の特定土木工事について違反行為者が違反行為者以外の業者と比較して相対的に多くの物件を落札することを目的としたものではないから,上記主張は立論の前提を欠くものであり,失当である。

(エ) 本件基本合意の内容等が不定ないしあいまいであるとする主張(原告西松建設,同クボタ建設及び同東洋建設の主張(2)ア,原告淺沼組の主張(2)ア)について

本件基本合意の内容は上記摘示の本件審決認定のとおりであり,違反行為者が本件基本合意に基づいて受注調整を行うについて十分な内容を有するものであって,上記主張は失当である。

(オ) 植木組,戸田建設,原告淺沼組及び真柄建設に関して本件基本合意の当事者であると認める実質的証拠がない旨の主張(原告株木建設の主張(2)ウ)について

植木組,戸田建設,原告淺沼組及び真柄建設に関して本件基本合意の当事者であることを認める実質的証拠があることは上記のとおりであり,上記主張は失当である。

(カ) 本件審決が本件基本合意を立証する直接証拠があるとした点に関する手続の違法をいう主張(原告淺沼組の主張(4))について

審査官が証拠提出にあたって証拠申出書によって明らかにした立証趣旨と本件審決が当該証拠を用いて認定した事実との間に齟齬はなく,上記主張は前提を欠くものであって,失当である。

4  原告クボタ建設の番号6の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(3) 原告クボタ建設の番号6の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告クボタ建設の番号6の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

原告クボタ建設東京支店営業部第一営業課課長(元多摩営業所長)Bは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を供述し(同人の審査官に対する平成13年5月22日付け(査共第85号証)及び同年9月4日付け(査共第173号証)各供述調書),原告クボタ建設による個別的受注調整の相手となった池田建設多摩営業所長F(同人の審査官に対する平成13年3月28日付け供述調書(査共第103号)),奥村組多摩営業所長G(同人の審査官に対する平成13年9月18日付け供述調書(査共第137号証)),元古久根建設多摩営業所長H(同人の審査官に対する平成13年9月30日付け供述調書(査共第151号証)),竹中土木多摩営業所長東寛治(同人の審査官に対する平成13年4月25日付け供述調書(査共第184号証))及び日東大都工業株式会社(現・みらい建設グループ)土木営業本部第二営業部次長(元多摩営業所長)J(同人の審査官に対する平成13年5月15日付け供述調書(査共第349号証))は,上記Bの供述に沿う個別的受注調整の事実を供述している。更に,池田建設及び古久根建設には,原告クボタ建設による個別的受注調整の事実を業務上記録した文書が存在する(査共第316号証,査共第319号証)。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告クボタ建設は,番号6の物件について競争が実質的に制限されたことを立証する実質的な証拠はない旨主張する。番号6の物件については,公社は,公募に応じて工事希望票を提出した入ランクの事業者の中から別紙4の「指名業者名」欄記載のとおりゼネコン7社と地元業者3社を指名業者に選定し,これら10社の事業者をメインとするJVを入札に参加させているのであるから,受注意欲のあるゼネコン7社と地元業者3社をメインとする10組のJVのそれぞれが,自己のJVが番号6物件を落札し,施工して利潤を得ることを目指して入札価格を決めるなどして,10組のJVの間で適正な競争が行われることを企図しているものであるし,なかんずく,メインとなるべきAランクの事業者10社中7社ついてゼネコンを指名業者として選定しているのは,ゼネコンは地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れているのであるから,そのような価格競争力の優れた事業者(ゼネコン)同士の適正な競争を企図しているものということができる。しかし,原告クボタ建設による受注調整の結果,メインとなるべきAランクの指名業者として選定された7社のゼネコンのうち,受注意欲のある事業者は原告クボタ建設のみであり,他の6社は工事希望票を提出しているものの実際には受注意欲はなく,原告クボタ建設の入札価格より高い入札価格をもって入札することをあらかじめ決め,実際にそのとおりに入札しているのであって,公社が企図した上記の10社のAランクの事業者をメインとする10組のJVによる適正な競争,なかんずく,価格競争力の優れた7社のゼネコンをメインとする7組のJVによる適正な競争は失われ,番号6の物件については,原告クボタ建設をメインとし曽根建設をサブとするJVとゼネコンに比して価格競争力の劣る地元業者をメインとする3組のJVとの間の競争となったのであって,入札の結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告クボタ建設をメインとし曽根建設をサブとするJVの入札価格だけであったのであり,落札率は99.45パーセント(予定価格3億1071万4000円/落札価格3億0900万円。別紙4参照。)であるから,原告クボタ建設よる本件基本合意に基づく受注調整の結果,番号6の物件の競争が実質的に制限されたものであることは明らかであり,原告クボタ建設の上記主張は理由がない。

5  原告株木建設の番号39の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(4) 原告株木建設の番号39の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告株木建設の番号39の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

原告株木建設東京支店多摩営業所長田中穂積は,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を供述し(同人の審査官に対する平成13年8月24日付け(査共第67号証)及び同年3月8日付け(査共第141号証)各供述調書),原告株木建設による個別的受注調整の相手となった大木建設多摩営業所課長K(同人の審査官に対する平成13年9月4日付け供述調書(査共第5号証)),冨士工多摩支店次長L(同人の審査官に対する平成13年5月31日付け(査共第6号証)及び平成12年12月7日付け(査共第354号証)各供述調書),元古久根建設多摩営業所長H(同人の審査官に対する平成13年5月17日付け供述調書(査共第56号証)),前加賀田組多摩営業所長笠原三司(同人の審査官に対する平成13年9月27日付け供述調書(査共第72号証)),小田急建設営業本部多摩営業所長M(同人の審査官に対する平成12年12月21日付け供述調書(査共第176号証))及び元浅野工事東京支店多摩営業所長N(同人の審査官に対する平成13年4月27日付け供述調書(査共第365号証)は,上記田中穂積の供述に沿う個別的受注調整の事実を供述している。更に,冨士工及び小田急建設には,原告株木建設による個別的受注調整の事実を業務上記録した文書が存在する(査共第341号証,査共第344号証)。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告株木建設は,番号39の物件については,熾烈な価格競争が行われ,原告株木建設が落札したものも,競争が制限されたことの実質的な証拠はない旨主張する。しかし,番号39の物件について,原告株木建設がゼネコンに対し直接又は大木建設を通じて受注調整を行い,3回分の入札価格を連絡するまでしていて,それに従って原告株木建設以外のゼネコンは入札をし,その結果原告株木建設が2回目の入札で落札した事実は上記(1)に摘示した証拠が明白に示すところであり,原告株木建設の上記主張はその前提を誤っているといわなければならない。そして,物件39の物件については,公社は,公募に応じて工事希望票を提出したAランクの事業者の中から別紙4の「指名業者名」欄記載のとおりゼネコン8社と地元業者2社を指名業者に選定し,これら10社の事業者に入札に参加させているのであるから,受注意欲のあるゼネコン8社と地元業者2社のそれぞれが,自己が番号39の物件を落札し,施工して利潤を得ることを目指して入札価格を決めるなどして,10社の間で適正な競争が行われることを企図しているものであるし,なかんずく,Aランクの事業者10社中8社についてゼネコンを指名業者として選定しているのは,ゼネコンは地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れているのであるから,そのような価格競争力の優れた事業者(ゼネコン)同士の適正な競争を図っているものということができる。しかし,原告株木建設による受注調整の結果,Aランクの指名業者として選定された8社のゼネコンのうち,受注意欲のある事業者は原告株木建設のみであり,他の7社は工事希望票を提出しているものの実際には受注意欲はなく(前加賀田組多摩営業所長笠原三司の言葉を借りれば,「お付き合いで工事希望票を出した無気力物件」ということであった。),原告株木建設の入札価格より高い入札価格をもって入札することをあらかじめ決め,実際にそのとおりに入札しているのであって,公社が企図した上記の10社のAランクの事業者による適正な競争,なかんずく,価格競争力の優れた8社のゼネコンによる適正な競争は失われ,番号39の物件については,原告株木建設とゼネコンに比して価格競争力の劣る地元業者2社との間の競争となったのであって,1回目の入札では予定価格を下回る入札はなく,2回目の入札により原告株木建設が落札し,落札率は99.77パーセント(予定価格2億3804万6000円/落札価格2債3750万円。別紙4参照。)であるから,原告株木建設による本件基本合意に基づく受注調整の結果,番号39の物件の競争が実質的に制限されたものであることは明らかであり,原告株木建設の上記主張は理由がない。

6  原告西松建設の番号50の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(5) 原告西松建設の番号50の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告西松建設の番号50の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

原告西松建設関東支店営業部課長Cは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を供述し(同人の審査官に対する平成13年6月11日付け供述調書(査共第177号証)),原告西松建設による個別的受注調整の相手となった前加賀田組多摩営業所長笠原三司(同人の審査官に対する平成13年9月27日付け供述調書(査共第72号証),奥村組多摩営業所長G(同人の審査官に対する平成13年9月18日付け供述調書(査共第137号証))及び同副所長O(同人の審査官に対する平成13年6月29日付け供述調書(査共第86号証))は,上記Cの供述に沿う個別的受注調整の事実を供述している。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告西松建設は,番号50の物件について競争が実質的に制限されたことを立証する実質的な証拠はない旨主張する。番号50の物件については,公社は,公募に応じて工事希望票を提出したAランクの事業者の中から別紙4の指名業者名」欄記載のとおりゼネコン7社と地元業者3社を指名業者に選定し,これら10社の事業者をメインとするJVを入札に参加させているのであるから,受注意欲のあるゼネコン7社と地元業者3社をメインとする10組のJVのそれぞれが,自己のJVが番号50の物件を落札し,施工して利潤を得ることを目指して入札価格を決めるなどして,10組のJVの間で適正な競争が行われることを企図しているものであるし,なかんずく,メインとなるべきAランクの事業者10社中7社についてゼネコンを指名業者として選定しているのは,ゼネコンは地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れているのであるから,そのような価格競争力の優れた事業者(ゼネコン)同士の適正な競争を図っているものというごとができる。しかし,原告西松建設による受注調整の結果,メインとなるべきAランクの指名業者として選定された7社のゼネコンのうち,受注意欲のある事業者は原告西松建設のみであり,他の6社は工事希望票を提出しているものの実際には受注意欲はなく,原告西松建設の入札価格より高い入札価格をもって入札することをあらかじめ決め,実際にそのとおりに入札しているのであって,公社が企図した上記の10社のAランクの事業者をメインとする10組のJVによる適正な競争,なかんずく,価格競争力の優れた7社のゼネコンをメインとする7組のJVによる適正な競争は失われ,番号50の物件については,原告西松建設をメインとし清水重機土木をサブとするJVとゼネコンに比して価格競争力の劣る地元業者をメインとする3組のJVとの間の競争となったのであって,入札の結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告西松建設をメインとし清水重機土木をサブとするJVの入札価格だけであったのであり,落札率は98.99パーセント(予定価格4546万1000円/落札価格4500万円。別紙4参照。)であるから,原告西松建設による本件基本合意に基づく受注調整の結果,番号50の物件の競争が実質的に制限されたものであることは明らかであり,原告西松建設の上記主張は理由がない。

7  原告東洋建設の番号56の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(6) 原告東洋建設の番号56の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告東洋建設の番号56の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

上記摘示の事実において入札予定の公表から入札に至るまで原告東洋建設による個別的受注調整に従って行動したとされる大豊建設多摩営業所長Pは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を具体的に供述し(同人の審査官に対する平成13年6月5日付け供述調書(査共第164号証)),受注希望を表明したが結局条件面で強い原告東洋建設の個別的受注調整に従ったとされる三井建設八王子営業所長Qは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を詳細かつ具体的に供述する(同人の審査官に対する平成13年6月7日付け供述調書(査共第156号証))。上記両者のほかに原告東洋建設の個別的受注調整の相手となったとされる鴻池組東京本店立川営業所長R(同人の審査官に対する平成13年7月5日付け供述調書(査共第63号証)),原告淺沼組多摩営業所長A(同人の審査官に対する平成13年5月9日付け供述調書(査共第113号証))及び大日本土木東京支店立川営業所長S(同人の審査官に対する平成13年5月22日付け供述調書(査共第208号証))は,上記摘示の個別的受注調整の事実に沿う供述をする。原告東洋建設東京支店多摩営業所長Eは,本件基本合意の存在と内容を認めている(同人の審査官に対する平成12年12月22日付け(査共第115号証)及び平成13年1月11日付け(査共第292号証)各供述調書)。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告東洋建設は,番号56の物件について競争が実質的に制限されたことを立証する実質的な証拠はない旨主張する。番号56の物件については,公社は,公募に応じて工事希望票を提出したAランクの事業者の中から別紙4の「指名業者名」欄記載のとおりゼネコン7社と地元業者3社を指名業者に選定し,これら10社の事業者をメインとするJVを入札に参加させているのであるから,受注意欲のあるゼネコン7社と地元業者3社をメインとする10組のJVのそれぞれが,自己のJVが番号56の物件を落札し,施工して利潤を得ることを目指して入札価格を決めるなどして,10組のJVの間で適正な競争が行われることを企図しているものであるし,なかんずく,メインとなるべきAランクの事業者10社中7社についてゼネコンを指名業者として選定しているのは,ゼネコンは地元業者より企業規模が大きいな価格競争力に優れているのであるから,そのような価格競争力の優れた事業者(ゼネコン)同士の適正な競争を図っているものということができる。しかし,原告東洋建設による受注調整の結果,メインとなるべきAランクの指名業者として選定された7社のゼネコンのうち,受注意欲のある事業者は原告東洋建設のみであり,他の6社は工事希望票を提出しているものの実際には受注意欲はなく,原告東洋建設の入札価格より高い入札価格をもって入札することをあらかじめ決め,実際にそのとおりに入札しているのであって,公社が企図した上記の10社のAランクの事業者をメインとする10組のJVによる適正な競争,なかんずく,価格競争力の優れた7社のゼネコンをメインとする7組のJVによる適正な競争は失われ,番号56の物件については,原告東洋建設をメインとし拓栄建設をサブとするJVとゼネコンに比して価格競争力の劣る地元業者をメインとする3組のJVとの間の競争となったのであって,入札の結果,地元業者をメインとする3組のJVはいずれも入札価格が予定価格を上回り,原告東洋建設をメインとし拓栄建設をサブとするJVが落札したのであり,落札率は,98.07パーセント(予定価格3億5180万5000円/落札価格3億4500万円。別紙4参照。)であるから,原告東洋建設による本件基本合意に基づく受注調整の結果,番号56の物件の競争が実質的に制限されたものであることは明らかであり,原告東洋建設の上記主張は理由がない。

8  原告淺沼組の番号64の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(7) 原告淺沼組の番号64の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告淺沼組の番号64の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

上記摘示の事実において入札予定の公表から入札に至るまで原告淺沼組による個別的受注調整に従って行動したとされる大本組東京支店多摩営業所長Tは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を詳細かつ具体的に供述し(同人の審査官に対する平成13年10月3日付け(査共第62号証)及び平成12年11月14日付け(査共第204号証)各供述調書),同じく入札予定の公表から入札に至るまで原告淺沼組による個別的受注調整に従って行動したとされる安藤建設東京土木支店多摩土木営業所長Uは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を詳細かつ具体的に供述する(同人の審査官に対する平成13年6月14日付け供述調書(査共第78号証))。両者のほかに原告淺沼組の個別的受注調整の相手となった日特建設東京支店営業部部長V(同人の審査官に対する平成13年6月26日付け供述調書(査共第89号証),太平工業東京支店第一営業部マネージャーW(同人の審査官に対する平成13年3月28日付け供述調書(査共第244号証))及び勝村建設東京本店多摩営業所長AA(同人の審査官に対する平成13年3月7日付け供述調書(査共第366号証)は,上記摘示の個別的受注調整の事実に沿う供述をする。原告淺沼組多摩営業所長Aは,概括的ながら,上記摘示の個別的受注調整の事実を認める供述をする(同人の審査官に対する平成13年5月9日付け供述調書(査共第113号証)。更に,大本組には,原告淺沼組による個別的受注調整の事実を業務上記録した文書が存在する(査共第361号証)。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告淺沼組は,番号64の物件について,入札参加者が協力した事実はなく,個別談合は認められない旨主張する。しかし,上記のとおり,番号64の物件について原告淺沼組による受注調整の相手方となったとされるゼネコン各社の担当者は,いずれも原告淺沼組から入札価格を提示した受注調整を受け,それに従って原告淺沼組よりも高い入札価格(日特建設東京支店営業部長Vの言葉を借りれば「原告淺沼組の邪魔にならない価格」)をもって入札した旨供述しているのであり,それを裏付ける業務上作成された文書も存在しており,その結果淺沼組が1回目の入札で落札しているのであるから,原告淺沼組の上記主張は理由がない。

9  原告錢高組の番号67の物件に係る個別的受注調整について

(1)  上記「第3 本件審決が認定した事実」の「3 違反行為等」の「(8) 原告錢高組の番号67の物件に係る個別的受注調整」の項に摘示された原告錢高組の番号67の物件に係る個別的受注調整の事実に関する証拠関係は次のとおりである。

原告錢高組東京支社建築支店営業第三部次長(前多摩営業所長)Dは,上記摘示のとおりの個別的受注調整の事実を供述し(同人の審査官に対する平成13年6月19日付け(査共第196号証),同月18日付け(査共第202号証),同月19日付け(査共第238号証),及び同年3月28日付け(査共第351号証)各供述調書),受注希望を表明したが結局条件面で強い原告錢高組による個別的受注調整に従ったとされる冨士工多摩支店次長L(同人の審査官に対する平成13年5月31日付け(査共第6号証)及び平成12年12月7日付け(査共第354号証)各供述調書),原告錢高組による個別的受注調整の相手となった原告クボタ建設東京支店営業部第一営業課課長(元多摩営業所長)B(同人の審査官に対する平成13年5月22日付け供述調書(査共第85号証)),アイサワ工業東京支店多摩営業所長AB(同人の審査官に対する平成13年3月15日付け供述調書(査共第241号証))及び同社多摩営業所事務担当AC(同人の審査官に対する平成13年3月8日付け供述調書(査共第364号証))は,上記Dの供述に沿う個別的受注調整の事実を供述している。更に,原告錢高組,勝村建設及びアイサワ工業には,原告錢高組による個別的受注調整の事実を業務上記録した文書が存在する(査共第318号証,査共第332号証及び上記査共第364号証。)。一方,上記摘示の個別的受注調整の事実を否定する内容の証拠又は明らかに食い違う内容の証拠はない。

(2)  以上によれば,上記摘示の個別的受注調整の事実を立証する実質的な証拠があると認められる。

(3)  原告錢高組は,番号67の物件について競争が実質的に制限されたことを立証する実質的な証拠はない旨主張する。番号67の物件については,公社は,公募に応じて工事希望票を提出したAランクの事業者の中から別紙4の「指名業者名」欄記載のとおりゼネコン9社と地元業者1社を指名業者に選定し,これら10社の事業者をメインとするJVを入札に参加させているのであるから,受注意欲のあるゼネコン9社と地元業者1社をメインとする10組のJVのそれぞれが,自己のJVが番号67の物件を落札し,施工して利潤を得ることを目指して入札価格を決めるなどして,10組のJVの間で適正な競争が行われることを企図しているものであるし,なかんずく,メインとなるべきAランクの事業者10社中9社についてゼネコンを指名業者として選定しているのは,ゼネコンは地元業者より企業規模が大きいなど価格競争力に優れているのであるから,そのような価格競争力の優れた事業者(ゼネコン)同士の適正な競争を図っているものということができる。しかし,原告錢高組による受注調整の結果,メインとなるべきAランクの指名業者として選定された9社のゼネコンのうち,受注意欲のある事業者は原告錢高組のみであり,他の8社は工事希望票を提出しているものの実際には受注意欲はなく,原告錢高組の入札価格より高い入札価格をもって入札することをあらかじめ決め,実際にそのとおりに入札しているのであって,公社が企図した上記の10社のAランクの事業者をメインとする10組のJVによる適正な競争,なかんずく,価格競争力の優れた9社のゼネコンをメインとする9組のJVによる適正な競争は失われ,番号67の物件については,原告錢高組をメインとし南王建設をサブとするJVとゼネコンに比して価格競争力の劣る地元業者をメインとする1組のJVとの間の競争となったのであって,入札の結果,原告錢高組以外のメインのゼネコン及びメインの地元業者の入札価格は原告錢高組・南至建設JVの入札価格を上回り,原告錢高組・南王建設JVが落札したのであり,落札率は,88.48パーセント(予定価格4億1816万6000円/落札価格3億7000万円。別紙4参照。)であるから,原告錢高組による本件基本合意に基づく受注調整の結果,番号67の物件の競争が実質的に制限されたものであることは明らかであり,原告錢高組の上記主張は理由がない。

10  結論

以上の認定及び判断の結果によれば,本件基本合意の存在,本件基本合意により競争が実質的に制限されること,原告らによる個別的受注調整の存在及び原告らによる個別的受注調整の結果として競争が実質的に制限されたことについて,いずれも実質的証拠があることを認めることができるのであり,本件審決の取消しを求める原告らの請求は理由がない。

よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 杉山正己 裁判官 西口元 裁判官 田川直之 裁判官 山口信恭)

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