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東京高等裁判所 平成20年(行ケ)21号 判決 2010年1月29日

平成20年(行ケ)第21号審決取消請求事件(以下「第21号事件」という。)

平成20年(行ケ)第27号審決取消請求事件(以下「第27号事件」という。)

平成20年(行ケ)第33号審決取消請求事件(以下「第33号事件」という。)

平成20年(行ケ)第39号審決取消請求事件(以下「第39号事件」という。)

新潟県柏崎市新橋2番8号

第21号事件原告

株式会社植木組

同代表者代表取締役

植木義明

同訴訟代理人弁護士

西村寿男

林毅

東京都千代田区麹町一丁目6番9号

第27号事件原告

株式会社みらい建設グループ

同代表者代表取締役

折川澄夫

横浜市南区花之木町二丁目26番地

第27号事件原告

馬淵建設株式会社

同代表者代表取締役

馬淵圭包

東京都墨田区緑四丁目21番2号

第27号事件原告

坂田建設株式会社

同代表者代表取締役

井上浩

上記3名訴訟代理人弁護士

西村泰夫

町田裕紀

廣江信行

東京都新宿区西新宿四丁目32番22号

第33号事件原告

大和小田急建設株式会社(旧商号・小田急建設株式会社)

同代表者代表取締役

高村義明

同訴訟代理人弁護士

竹内淳

同訴訟復代理人弁護士

柏原智行

東京都港区芝浦一丁目2番3号

第39号事件原告

清水建設株式会社

同代表者代表取締役

宮本洋一

東京都港区芝二丁目14番5号

第39号事件原告

青木あすなろ建設株式会社

同代表者代表取締役

市木良次

上記2名訴訟代理人弁護士

川崎隆司

谷本誠治

同訴訟復代理人弁護士

川合竜太

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号

全事件被告

公正取引委員会

同代表者委員長

竹島一彦

同指定代理人

南雅晴

髙原慎一

秋沢陽子

佐藤真紀子

大谷美穂

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  第21号事件

被告が原告株式会社植木組(以下「原告植木組」という。)に対する公正取引委員会平成14年(判)第21号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

2  第27号事件

(1)  原告株式会社みらい建設グループ(以下「原告みらい建設」という。)

被告が原告みらい建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第7号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  原告馬淵建設株式会社(以下「原告馬淵建設」という。)

被告が原告馬淵建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第11号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(3)  原告坂田建設株式会社(以下「原告坂田建設」という。)

被告が原告坂田建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第15号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

3  第33号事件

被告が原告大和小田急建設株式会社(以下「原告小田急建設」という。)に対する公正取引委員会平成14年(判)第32号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

4  第39号事件

(1)  原告清水建設株式会社(以下「原告清水建設」という。)

被告が原告清水建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第2号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

(2)  原告青木あすなろ建設株式会社(以下「原告青木あすなろ建設」という。)

被告が原告青木あすなろ建設に対する公正取引委員会平成14年(判)第28号独占禁止法に基づく課徴金納付命令審判事件について,平成20年7月24日付けでした審決を取り消す。

第2事案の概要

被告は,平成13年12月14日,別紙1「被審人目録」(以下「被審人目録」という。)の「被審人」欄記載の株式会社34社に対し,財団法人東京都新都市建設公社(以下「公社」という。)が発注する土木工事について,独占禁止法7条の2第1項に規定する事実があったとして,独占禁止法48条の2第1項の規定に基づき,それぞれ納付命令をもって課徴金の納付を命じたところ,上記株式会社34社はいずれも同条5項に基づき審判手続の開始を請求したので,被告は,独占禁止法49条2項の規定により,上記株式会社34社それぞれを被審人とする審判手続を開始し,被審人目録の「事件番号」欄記載の審判事件が被告に係属した。なお,被告は各審判手続を併合した。

被告は,平成20年7月24日,上記株式会社34社のうち徳倉建設株式会社を除く株式会社33社は,公社が発注する土木工事について,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限行為をしたと認め,違反行為者らのうち独占禁止法7条の2第1項に規定する売上額を認めない3社を除く30社に対し,課徴金を国庫に納付することを命じる審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審決が原告らに納付を命じた課徴金の額は,原告植木組につき1549万円,原告みらい建設につき2880万円,原告馬淵窪設につき2266万円,原告坂田建設につき1459万円,原告小田急建設につき1133万円,原告清水建設につき4410万円,原告青木あすなろ建設につき1307万円であった。

原告らは,本件審決が認定した不当な取引制限を認める実質的証拠はないなどと主張し,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

第3本件審決が認定した事実

本件審決が認定した原告らの課徴金に係る違反行為は次のとおりである。

1  多摩地区におけるゼネコン等

(1)  多摩地区におけるゼネコン

ア 被審人ら及び被審人らに吸収合併されたゼネコン並びにその他のゼネコン

(ア) 被審人ら及び被審人らに吸収合併されたゼネコン並びに徳倉建設株式会社

被審人らは,それぞれ,別紙1「被審人目録」の「本店の所在地」欄記載の場所に本店を置き,いずれも建設業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受け,国内の広い地域において総合的に建設業を営む者(以下「ゼネコン」という。)であり,東京都の区域のうち区部及び島しょ部を除く区域(以下「多摩地区」という。)においても営業所を置くなどして事業活動を行っている(以下,違反行為者ら及び徳倉建設株式会社の名称については,別紙1「被審人目録」中「被審人」欄の括弧書きのとおりに略称する。)。だだし,CKプロパティーは,もと「株式会社地崎工業」との商号であったが,平成16年4月1日に会社分割の方法により建設業に関する一切の営業を他社に譲渡し,現商号に変更したものであり,同日,建設業を廃業する旨の届出を行った。また,大木建設は,平成17年3月31日,神田大木建設株式会社に営業を譲渡した上,解散を決議し,クボタ建設は,平成18年8月1日,株式会社クボタ工業に営業の大半を譲渡した上,同年9月30日,解散を決議し,いずれも現在,清算手続中である。

なお,三井住友建設は,もと「三井建設株式会社」との商号であったが,平成15年4月1日にゼネコンである住友建設株式会社(以下「住友建設」という。)を吸収合併し,現商号に変更した。原告みらい建設は,もと「日東建設株式会社」との商号であったが,平成11年10月1日に大都工業株式会社を吸収合併して,「日東大都工業株式会社」に商号を変更し,さらに,平成14年4月1日,商号を現在のものに変更した。JFE工建は,もと「日本鋼管工事株式会社」との商号であったが,平成15年7月1日に商号を現在のものに変更した。原告青木あすなろ建設は,もと「小松建設工業株式会社」との商号であったが,平成14年10月1日に商号を「あすなろ建設株式会社」に変更した上,平成16年4月1日に株式会社青木建設を吸収合併し,現商号に変更した。不動テトラは,もと「不動建設株式会社」との商号であったが,平成18年10月1日に株式会社テトラを吸収合併し,商号を現在のものに変更した。オリエンタル白石は,もと「オリエンタル建設株式会社」との商号であったが,平成19年10月1日にゼネコンである株式会社白石(以下「白石」という。)を吸収合併した上,商号を現在のものに変更した。

被審人らのうち三井住友建設及びオリエンタル白石を除く32社並びに住友建設及び白石(以下「34社」という。)は,平成9年10月1日から平成12年9月27日までの間(以下「本件対象期間」という。)において,いずれも,公社の入札資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受け,土木工事のうち下水道工事及び一般土木工事の工種区分におけるランクがAとして格付けされていた。

(イ) その他のゼネコン

34社以外にも,別紙2「その他のゼネコン46社」記載のゼネコン46社(以下,これら46社を総称して,又はそのうちのいずれかを示す意味で「その他のゼネコン」,「その他のゼネコン46社」又は「46社」といい,各社については別紙2の「略称」欄のとおりに略称する。なお,別紙2番号41の三井建設株式会社は,三井住友建設と同一法人であるが,本件対象期間当時は34社に属する住友建設を吸収合併する前であるので,その他のゼネコンとして別紙2に重複記載し,この吸収合併前については「三井建設」と略称する。)も,本件対象期間中,公社の入札参加資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受けていた。

イ 多摩地区におけるゼネコンの事業活動の状況

本件対象期間中,34社及びその他のゼネコンのほとんどは,多摩地区に営業所を置いて事業活動を行っていた。

また,これらゼネコンの多摩地区における営業所は,多摩地区において施工される公共工事のうち公社及び市町村の発注する工事を担当していた。

(2)  地元業者

公社が,本件対象期間において,34社及びその他のゼネコンのうち複数の者を指名し又はこれらいずれかの者を代表者とする複数の建設共同企業体(以下「JV」という。)を指名して指名競争入札の方法により発注するAランク格付の土木工事及び共同施工方式により施工する土木工事の入札には,地元業者(ゼネコンには該当しない。)が参加することがあった。本件対象期間においてこれらの入札に参加した地元業者は165社であり(以下,これら165社を総称して,又はそのうちいずれかを示す意味で「165社」又は「地元業者」という。地元業者には協同組合も含まれるが,以下,協同組合も1社として数える。),このうち,本件対象期間において,公社の入札参加資格を有する者として,公社から後記2(2)アの登録を受け,土木工事のうち下水道工事の工種区分におけるランクがAとして格付けされていた者は74社であった。

2  公社が発注する工事

(1)  公社の概要

公社は,東京都並びに八王子市,青梅市,町田市,福生市,羽村町及び日野町(当時の市町名)により,昭和36年7月20日に設立された財団法人であり,多摩地区に所在する市町村から委託を受けるなどして,多摩地区において公共下水道の建設等の都市基盤整備事業を行う者である。

(2)  公社の発注方法

ア 発注方法の概要

公社は,原則として,土木工事を指名競争入札の方法により発注しており,予定価格が500万円以上である工事の発注に当たっては,工事の件名,概要,格付等を公示して,公社が入札参加資格を満たす者として登録している有資格者の中から入札参加希望者を募り,入札参加希望者の中から指名競争入札の参加者を指名していた。

また,共同施工方式により施工する土木工事の発注に当たっては,入札参加希望者の中からJVの構成員となるべき者を指名し,これらの者によって結成されたJVを指名競争入札の参加者としていた。

イ 事業者ランク,工事の格付及び指名業者の選定基準

(ア) 公社は,前記アの有資格者を,その事業規模等により工種区分ごとにAからEまでのいずれかのランク(以下「事業者ランク」という。)に格付けした上,格付ごとに順位(以下「格付順位」という。)を付していた。

また,公社は,発注する土木工事を,その工事の予定価格を基準とし,これに工事の技術的な難易度等を勘案して,AからEまでのランクの1社によって施工される工事(以下「単独施工工事」という。)並びにいずれもAランク(以下「AAランク」という。)の2社,Aランク及びBランク(以下「ABランク」という。)の2社又はAランク及びCランク(以下「ACランク」という。)の2社の共同施工方式により施工される工事(以下「共同施工工事」という。)に分けて格付けしていた。その際に用いる金額基準は,予定価格を「5億6000万円以上」,「3億円以上5億6000万円未満」,「2億6000万円以上3億円未満」,「1億7000万円以上2億6000万円未満」等に分類したものであり,これらの金額基準は,それぞれAAランク,ABランク,ACランク,Aランクに対応していたが,例外的に,予定価格が当該ランクの金額基準に満たない場合であっても,工事内容等を勘案して当該工事の本来のランクよりも上位のランクに格付けすることがあった。

そして,公社は,AからEまでのランクの単独施工工事について指名競争入札の参加者を指名するに当たっては,発注する工事のランクに対応する事業者ランクに格付けされた者の中から指名することを基本としていた。また,ABランク又はACランクに格付けした共同施工工事について指名競争入札の参加者を指名するに当たっては,事業者ランクがAである者をJVの構成員のうちの代表者(以下「JVのメイン」又は「メイン」という。)として指名し,事業者ランクがB又はCの者をJVのメイン以外のJVの構成員(以下「JVのサブ」という。)として指名することを基本としており,指名を受けたJVのメインとJVのサブにJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた。AAランクに格付けした共同施工工事については,JVのメインとJVのサブを区別せずに,事業者ランクがAの者の中から指名することを基本としており,指名を受けた者同士にJVを結成させ,当該JVを指名競争入札の参加者としていた。

(イ)公社は,工事希望票の提出者の中から指名競争入札の参加者を選定するに当たっては,以下のとおり,発注する土木工事の規模,施工・技術的難易度等を総合的に勘案していた。

a 工事の規模

公社は,前記(ア)のとおり,単独施工工事及び共同施工工事について格付けしており,規模が大きな工事については,工事希望票を提出してきた者の中から,原則として格付順位が上位の者を優先して選定していた。

b 工法レベル

公社が発注する土木工事の工法には,大きく分類すると,「シールド工法」,「推進工法」及び「開削工法」があり,公社は,これに掘削深度や施工距離を加味して,高度な施工技術が求められると判断される工事については,工事希望票を提出してきた者の中から,原則として,格付順位が上位の者を優先して選定していた。また,工法(シールド工法,推進工法)の資格を必要とする工事については,当該工法の資格を有する者を選定していた。

c その他の要素

以上のほか,公社は,地元建設業者の育成を図りつつ,当該工事の技術的困難性に応じた選定を行っており,選定する事業者がどのような分類(「地元業者」,「準地元業者」,「隣接の市の業者」,「近隣の市の業者」,「多摩の地元業者」,「多摩の業者」,「多摩の格付上位業者」,「A格格付上位業者」等)に属する事業者かを総合的に勘案していた。

また,公社は,何度も工事希望票を提出しているにもかかわらず指名されていない事業者を救済する目的で,工事希望票の提出回数,指名回数及び受注回数を考慮して選定する場合があった。

さらに,公社は,事業者が,公社発注の工事を受注し施工に着手している場合には当該工事の施工が相当程度に達するまで,また,別の物件の指名競争入札の参加者として指名を受けている場合には当該入札の執行が終わるまで,指名競争入札の参加者として選定しないこととしていた。

ウ 入札参加及び指名の手続

公社は,入札参加者を募り,希望者の中から入札に参加する者を指名する方法を工事希望型指名競争入札と称している。公社は,「工事発注予定表」をもって発注する工事の件名,格付等を公示して,入札参加希望者に工事希望票を提出させ,工事希望票の提出者の中から入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者を選定していた。

公社は,入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者の選定に当たっては,単独施工工事については10社が,共同施工工事については10組のJVが,それぞれ入札に参加するように選定することを常としていた。

エ 指名後の手続の概要等

(ア) 入札に参加する事業者又はJVの構成員となるべき者を指名した後,手続は,単独施工工事の場合には,指名した事業者に対する現場説明会,入札,落札者との契約の順に進められ,また,共同施工工事の場合には,JV結成についての説明会,入札参加者によるJV結成の届出,現場説明会,入札,落札者との契約の順に進められていた。

(イ) 公社は,入札に当たって予定価格及び最低制限価格を設定しているところ,平成13年9月以前は,予定価格を事前には公表しておらず,各入札参加者の入札価格の全部が予定価格に達しない場合には,その場で3回まで入札を行うこととしていた。また,最低制限価格を下回る価格で入札した者は失格とし,最低制限価格以上の価格で入札した者の中で最も低い価格で入札した者を落札者としていた。

なお,公社の設定する最低制限価格は,予定価格の80パーセントに相当する額であり,このことは,ゼネコンの入札担当者に広く認識されていた。

オ JVの入札価格の決定

JVを結成して公社の指名競争入札に参加する場合には,通常,JVのメインが入札価格を決定していた。

(3)  本件の工事の特性

ア 公社は,本件対象期間中,Aランクの格付の単独施工工事並びにAA,AB及びACのランクの格付の共同施工工事の土木工事で,入札参加者の少なくとも一部の者につき34社及びその他のゼネコンのうちの複数の者を指名し又はこれらのいずれかの者をJVのメインとする複数のJVを指名して指名競争入札の方法により発注するもの(以下「公社発注の特定土木工事」という。)について,別紙3「財団法人東京都新都市建設公社発注の特定土木工事(平成9年10月1日~平成12年9月27日)」のとおり入札を実施して72物件を発注した(以下,別紙3記載の公社発注の特定土木工事については,同記載の番号により,「番号2の物件」のように特定する。)。

イ 公社が発注する工事は,各物件についてみると,規模の大小があり,工法レベルも異なり,施工・技術の難度が高いものからそうでないものまで,その難易度も一様ではなかった。

そして,公社は,公社発注の特定土木工事を発注するに当たり,発注する予定の工事について,工事の規模,工法レベル,地元建設業者の育成の必要性等を総合的に検討し,当該工事の難易度を判断した上,当該工事を施工する能力があると判断した事業者の中から,より適切な者を指名していた。

3  違反行為等

(1)  背景事情

ア 多摩地区に営業所を置くゼネコンは,以前,これらの営業所において土木工事を担当する営業責任者をメンバーとする三多摩建友会と称する組織に参加していた。同会は,昭和54年ころに発足し,平成4年ころまで存続していたが,被告が同年5月15日に同会の会員を含む埼玉県発注の土木工事の入札参加者に対して勧告を行ったいわゆる埼玉土曜会事件を機に解散した。

しかし,三多摩建友会の解散後も,旧会員らのほか,解散後に多摩地区に進出したゼネコンや多摩地区に営業所を置かずに事業活動を行っているゼネコンの営業担当者を含めて,恒例的に懇親会が開催されていた。また,同会の解散以前には,ゼネコン各社の営業担当者の名簿が作成されていたところ,解散後もほぼ同じ体裁の名簿が作成されていた。

イ 三多摩建友会存続当時,前記アの名簿に掲載されているゼネコンの間では,工事の入札に当たって,受注意欲を持つ者や,発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,当該受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの認識が存在しており,受注を希望する者の間の話合いが難航した場合には,同会の会長等の役員が調整に当たっていた。

同会の解散後においても,多摩地区において事業活動を行うゼネコン各社は,上記と同じ認識を有していた。

(2)  本件基本合意

ア 本件基本合意

34社のうち徳倉建設を除く33社(以下「33社」又は「違反行為者」という。)は,遅くとも平成9年10月1日以降,公社発注の特定土木工事について,受注価格の低落防止を図るため

(ア) 公社からの指名競争入札の参加者として指名を受けた場合(自社が構成員であるJVが指名を受けた場合を含む。)には,当該工事若しくは当該工事の施工場所との関連性が強い者若しくはJV又は当該工事についての受注の希望を表明する者若しくはJV(以下「受注希望者」という。)が1名のときは,その者を受注予定者とし,受注希望者が複数のときは,それぞれの者の当該工事又は当該工事の施工場所との関連性(以下「条件」という。)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

(イ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する

旨合意していた(本件基本合意)。

イ 本件基本合意の内容及び具体的実施方法

(ア) 本件基本合意の対象

本件基本合意の対象は,公社発注の特定土木工事であった。

(イ) 個別物件において受注予定者を決定し受注予定者の受注に協力するまでの状況

a① 33社のうち受注希望者は,当該工事の発注が予測された時点,あるいは公社が入札の執行を公示(入札参加希望者を公募)した時点で,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコン又はゼネコンの多摩地区における営業担当者のうちの有力者(以下「業界の有力者」という。)に対して,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることを必要に応じてアピールしていた。

② 受注希望者は,アピールの方法の一つとして,地図に工事予定箇所及び近隣における自社の施工実績等を記入した資料又は予定工事に関連する設計業務等に係る資料(以下「PR紙」という。)を用いることがあった。PR紙は,特に,業界の有力者に相談する際に条件を有することをアピールするための手段として,しばしば用いられていた。

業界の有力者とは,三多摩建友会の最後の会長で,大成建設多摩営業所の所長であった大木正毅(以下「大成建設の大木」という。)のほか,大成建設土木営業本部営業担当部長の中西豊(以下「大成建設の中西」という。)及び大成建設の大木の部下であった多摩営業所の次長の松本洋一(以下「大成建設の松本」という。)並びに飛島建設多摩営業所の所長であった丸山正文(以下「飛島建設の丸山」という。)であった。

各社の担当者は,大成建設の大木に対しては,PR紙を提出したり,口頭で受注希望を表明したりして,これに対する同人の反応,すなわち,「受注活動を続けたらよい。」,「他に有力な条件を持つ者がいる。」などの示唆を踏まえて,発注される工事について受注活動を継続するか受注活動を中断するかなどの判断をしていたが,平成12年2月29日に同人が退職した後,被告が同年3月29日に町田市発注工事の入札参加者に対して立入検査を行ったことから,大成建設の中西と松本に対しては,PR紙を提出することが少なくなった。

③ 受注希望者が他の違反行為者にアピールをした場合において,当該他の違反行為者も受注希望を表明したときは,アピールした者とアピールを受けた者との間で,いずれの者の条件が強いかについて話合いを行っていた。アピールを受けた他の違反行為者すべてが受注希望を表明しなかったときは,この段階すなわち入札指名の前の段階で,受注希望者が1社に絞り込まれていた。

b 受注希望者は,前記aのアピールに代えて,又はこれと併せて,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに対して,公社に工事希望票を提出するよう依頼していた。この依頼は,他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンに入札に参加して自社の受注に協力してほしいという趣旨で行われるものであるが,同時に,当該入札の参加者のうち,自社の受注への協力を見込めるゼネコンが占める割合を多くすることにより,自社が受注できる可能性を高めることも目的としていた。

c① 受注希望者は,公社の指名により入札参加者が確定した以降において,必要に応じて,相指名業者に対して,改めて,自社が受注を希望していること又は自社が条件を有していることをアピールし,自社が受注できるよう入札での協力を依頼していた。この依頼は,現場説明会のために相指名業者がそろった際に口頭で行われたり,個別訪問又は電話により行われたりしていた。この時点で,ほかにも受注希望者がいる場合には,受注希望者の間でいずれの条件が強いかを話し合うことにより,受注予定者が決定されていた。

② 条件は,具体的には,ⅰ 当該工事が過去に自社が施工した工事の継続工事であること,ⅱ 自社と特別な関係にある建設コンサルタント業者(以下「ダミコン」という。)が当該工事の調査又は設計の入札に参加していること,ⅲ 当該工事の施工場所又はその近隣で施工実績があること,ⅳ 当該工事の施工場所の近隣に自社の資材置場や営業所等の施設があること,v 自社又は関連会社が当該工事の施工場所の地権者であること(賃借権者であること及び施工場所の近隣の土地の所有権者であることを含む。以下同じ。)等である。

これらの条件の中では,自社が施工した工事の継続工事であることや当該工事の施工場所の地権者であることがそれ以外の条件よりも強い条件であり,その他の条件については強さの順序が明確ではなく,受注希望者間で条件の強弱について話合いが行われ,その結果,受注予定者が決められていた。

なお,当該工事について強い条件を持つJVのメインがいない場合においては,当該工事の施工場所の近くに事業所を有するなどの強い条件を持つ地元業者等とJVを結成したJVのメインが,強い条件を持っていると主張し得ることとなっていた。

③ また,受注希望者間の話合いにおいて,受注希望者の受注希望ないし受注努力の強さなどが反映される場合があった。

④ さらに,発注される工事について,自社に強い条件があり,他社に条件がない場合には,他社に対して直接の受注希望の表明ないし入札における協力の依頼をしなくとも,自社に強い条件があるということを他社が認識していれば,受注予定者とされていた。したがって,当該工事を受注しようとする者は,自社に強い条件があることが他の相指名業者にも明らかであると考える場合には,その相指名業者に対し入札における協力を依頼しないこともあり,他方,自社に条件があることを相指名業者に認めてもらうことが必要と判断した場合には,その条件を相指名業者に認めてもらうよう働きかけていた。

⑤ なお,JVを結成して入札に参加する場合には,JVの受注への協力の依頼,受注予定者を決めるための話合いは,通常,JVのメインの間で行われていた。

d① 受注予定者が決定された場合には,受注予定者が他の違反行為者並びに徳倉建設及びその他のゼネコンのうち相指名業者となった者に対して,入札価格を連絡し,連絡を受けたこれらの者は,受注予定者の入札価格より高い価格で入札していた。また,相指名業者となったこれらの者は,経験的に,発注工事と同等の過去の工事の入札結果等を勘案して積算することにより予定価格を推計できることから,受注予定者から入札価格の連絡がなくても,受注予定者の受注を妨げないであろう価格を比較的容易に予測し得たので,そのような価格で入札していた。

このような入札価格の連絡を受けることにより,指名を受けた違反行為者は,受注予定者を知ることもあった。

② 入札価格の連絡・確認方法は一様ではなく,ⅰ 受注予定者が相指名業者の入札価格を決めた上で連絡する方法,ⅱ 受注予定者が相指名業者の積算価格を問い合わせて自社の入札価格より高い価格であることを確かめ,その積算価格に基づき入札するよう依頼する方法,ⅲ 相指名業者が自社の入札価格を受注予定者に連絡し,受注予定者が異議を述べなければそのままの価格で入札する方法等がとられていた(以下,「入札価格の連絡・確認」というときは,これら等の方法によるものを指す。)。

③ なお,JVを結成して入札に参加する場合には,入札価格の連絡・確認は,通常,JVのメイン間で行われていた。

④ 公社は,予定価格を下回る入札がなかった場合には,入札日において3回まで入札を行っているため,受注予定者は,3回分の入札価格を連絡することがあった。

(3)  原告植木組の番号2の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号2の物件について,Aランクの単独施工工事として,平成10年2月12日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10社を指名して,同年3月9日に入札を実施した。

指名業者は,違反行為者7社(原告植木組,大豊建設,CKプロパティー,クボタ建設,佐田建設,加賀田組及び白石)及びその他のゼネコン3社であった。

イ 原告植木組は,平成8年に多摩営業所を開設した後,多摩地区において受注したことがなく,受注実績を作りたかったため,番号2の物件の受注を希望していた。

ウ 原告植木組は,公社が番号2の物件の入札予定を公表したころ,その他のゼネコンである大末建設に対して,自社が同物件の受注を希望している旨を伝え,また,その他のゼネコンである大日本土木に対して,工事希望票の提出を依頼した。

エ 公社が指名を行った後,入札までに,原告植木組は,指名を受けたゼネコン各社に対して,自社が番号2の物件の受注を希望している旨を伝えた。

オ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告植木組が番号2の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,原告植木組の入札価格よりも高い価格で入札した結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告植木組のみであったので,同原告が落札した。

(4)  原告みらい建設の番号13の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号13の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成10年5月21日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年6月22日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者3社(住友建設,大成建設及び大豊建設)及びその他のゼネコン7社であった。

イ 住友建設(本件対象期間終了後,三井住友建設に吸収合併された。)は,番号13の物件の施工場所の近隣において施工実績があることなどから,同物件の受注を希望していた。

ウ 住友建設は,番号13の物件について,大成建設の大木に対して,自社が受注を希望している旨を告げた。

また,住友建設は,公社が同物件の入札予定を公表した後,大豊建設及び松村組並びにいずれもその他のゼネコンである森本組及び大木組に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,住友建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,住友建設は原告みらい建設とJVを組んだ。

オ 住友建設は,入札までに,指名を受けたJVのメイン各社に対して,自社が番号13の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で住友建設・原告みらい建設JVが番号13の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインが,住友建設・原告みらい建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した結果,同JVが落札した。

(5)  原告清水建設の番号21の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号21の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成10年8月6日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年9月14日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者4社(原告清水建設,大林組,西松建設及び奥村組)及びその他のゼネコン6社であった。

イ 原告清水建設は,ダミコンが番号21の物件の調査設計作業の入札参加者として指名されたこと及び同物件の施工場所の近隣において施工実績を持つことから,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告清水建設又は安藤建設は,公社が番号21の物件の入札予定を公表した後,松村組及びその他のゼネコンである森本組に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告清水建設及び安藤建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告清水建設と安藤建設は,JVを組んだ。

オ 原告清水建設は,入札までに,指名を受けた奥村組に対して,自社が番号21の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告清水建設・安藤建設JVが番号21の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告清水建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告清水建設・安藤建設JVの入札価格よりも高く予定価格を上回る価格で入札した結果,同JVが落札した。

(6)  原告馬淵建設の番号27の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号27の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成11年2月12日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年3月23日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者5社(原告馬淵建設,大豊建設,JFE工建,松村組及び原告青木あすなろ建設),徳倉建設,その他のゼネコン2社及び地元業者2社であった。

イ 原告馬淵建設は,平成7年ころに地元業者である石井工務店とJVを組んで公社発注の下水道工事を施工した実績があったところ,番号27の物件がこの下水道に下水管をつなげる工事であるため,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告馬淵建設は,大成建設の大木や飛島建設の丸山に対して,自社が番号27の物件の受注を希望している旨伝えた。また,石井工務店と,公社が同物件の入札予定を公表する前から同物件が発注されたら両社でJVを組もうという話をしていた。

エ 原告馬淵建設は,松村組,原告青木あすなろ建設,JFE工建及び大豊建設並びにいずれもその他のゼネコンである村本建設及び若築建設に対し,自社が同物件の受注を希望している旨を伝えた上で,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告馬淵建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

オ 公社が指名を行った後,原告馬淵建設は石井工務店とJVを組んだ。

カ 原告馬淵建設は,入札までに,指名を受けた大豊建設及び徳倉建設に対して,自社が番号27の物件の受注を希望している旨を伝え,指名を受けたゼネコン各社との間で,入札価格の連絡・確認をした。

キ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告馬淵建設・石井工務店JVが番号27の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

ク 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告馬淵建設・石井工務店JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする2組のJVは,原告馬淵建設の依頼を受け,原告馬淵建設・石井工務店JVの入札価格を上回った。

この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告馬淵建設・石井工務店JVのみであったので,同JVが落札した。

(7)  原告清水建設の番号38の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号38の物件について,AAランクの共同施工工事として,平成11年5月13日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年6月14日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者3社(原告清水建設,奥村組及び鉄建建設)及びその他のゼネコン7社であった。

イ 原告清水建設と安藤建設は,番号21の物件をJVを組んで受注した実績があったところ,番号38の物件は番号21の物件である立坑工事から発進するシールド工事であったため,両社でJVを組んで番号38の物件を受注することを希望していた。

ウ 原告清水建設と安藤建設は,公社が番号38の物件の入札予定を公表した後,いずれもその他のゼネコンである若築建設,東急建設,森本組,西武建設,日産建設及び古久根建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告清水建設及び安藤建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告清水建設と安藤建設はJVを組んだ。

オ 原告清水建設及び安藤建設は,入札までに,指名を受けた鉄建建設に対して,自社が番号38の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けた奥村組との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告清水建設・安藤建設JVが番号38の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインが,原告清水建設・安藤建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した結果,原告清水建設・安藤建設JVが落札した。

(8)  原告青木あすなろ建設の番号42の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号42の物件について,ACランクの共同施工工事として,平成11年6月17日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年7月19日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者4社(原告青木あすなろ建設,原告小田急建設,加賀田組,原告みらい建設),その他のゼネコン4社及び地元業者2社であった。

イ 原告青木あすなろ建設は,番号42の物件の調査設計作業を受注した建設コンサルタントであるアイ・エヌ・エーからの依頼により,工法の検討書の作成を手伝ったので,同物件の受注を希望していた。

ウ 原告青木あすなろ建設は,加賀田組並びにいずれもその他のゼネコンである古久根建設及び池田建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告青木あすなろ建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告青木あすなろ建設は,地元業者である岡三建設とJVを組んだ。

オ 原告青木あすなろ建設は,入札までに,指名を受けた加賀田組,原告小田急建設及び原告みらい建設並びにその他のゼネコンである京王建設との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告青木あすなろ建設・岡三建設JVが番号42の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告青木あすなろ建設との間で入札価格の連絡・確認をしたとおり,原告青木あすなろ建設・岡三建設JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格は,原告青木あすなろ建設・岡三建設JVの入札価格を上回った。

この結果,1回目の入札において,原告青木あすなろ建設・岡三建設JVの入札価格は最低であったが,予定価格を上回ったところ,2回目の入札において,予定価格を下回ったのは同JVのみであったので,同JVが落札した。

(9)  原告小田急建設の番号58の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号58の物件について,ACランクの共同施工工事として,平成12年4月13日付け工事発往予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月15日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者5社(原告小田急建設,JFE工建,株木建設,佐田建設及び加賀田組),徳倉建設,その他のゼネコン3社及び地元業者1社であった。

イ 佐田建設は,番号58の物件の施工場所が自社の営業所に近く,同物件の施工場所の近隣において施工実績を持つため,同物件の受注を希望していた。

ウ 佐田建設は,公社が番号58の物件の入札予定を公表する前に,株木建設及び加賀田組並びにいずれもその他のゼネコンである森本組及び勝村建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,佐田建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,佐田建設は,番号22の物件でJVを組んで受注した実績がある堺産業とJVを組んだ。

オ 佐田建設は,入札までに,指名を受けた加賀田組及びその他のゼネコンである森本組との間で,入札価格の連絡・確認をした。

カ 原告小田急建設を含む指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で佐田建設・堺産業JVが同物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,佐田建設・堺産業JVの入札価格よりも高く予定価格を上回る価格で入札したが,原告小田急建設は,佐田建設が番号58の物件について条件を持つことを知りながら,佐田建設・堺産業JVの入札価格よりも50万円低い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする1組のJVの入札価格は,予定価格を上回った。

この結果,原告小国急建設・タカラや土木興業JVが落札した。

(10)  原告坂田建設の番号59の物件に係る個別的受注調整

ア 公社は,番号59の物件について,ABランクの共同施工工事として,平成12年4月20日付け工事発注予定表により入札予定を公表し,10組のJVの構成員となるべき事業者を指名して,同年5月29日に入札を実施した。

指名業者によるJV結成後のメインは,違反行為者5社(原告坂田建設,鉄建建設,淺沼組,クボタ建設及び冨士工),その他のゼネコン3社及び地元業者2社であった。

イ 原告坂田建設は,当時の多摩営業所長が着任した後,公社から1年程度の間指名されていなかったことから,番号59の物件の受注を希望していた。

ウ 原告坂田建設は,公社が番号59の物件の入札予定を公表したころ,冨士工及びその他のゼネコンである若築建設に対して,工事希望票の提出を依頼した。

依頼を受けたゼネコン各社は,原告坂田建設が同物件の受注を希望していることを認識した上で,工事希望票を提出した。

エ 公社が指名を行った後,原告坂田建設は,平井工業株式会社(以下「平井工業」という。)とJVを組んだ。

オ 原告坂田建設は,入札までに,指名を受けた淺沼組,クボタ建設及び冨士工に対して,自社が番号59の物件の受注を希望している旨を伝え,また,冨士工並びにいずれもその他のゼネコンである若築建設及び村本建設に対して,入札してもらう価格を連絡した。

カ 指名を受けたゼネコン各社は,以上の過程で原告坂田建設・平井工業JVが番号59の物件の受注を希望していることを認識し,それに異議を唱えなかった。

キ 指名を受けたゼネコン各社のうちJVのメインは,原告坂田建設から連絡を受けたとおり,原告坂田建設・平井工業JVの入札価格よりも高い価格で入札した。

なお,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格は,原告坂田建設・平井工業JVの入札価格を上回った。

この結果,入札価格が予定価格を下回ったのは原告坂田建設・平井工業JVのみであったので,同JVが落札した。

(11)  受注結果

33社は,本件基本合意に基づき,本件対象期間中の公社発注の特定土木工事72物件のうち31物件を落札受注した。31物件は,件数では,公社発注の特定土木工事の約43.1パーセント,落札金額では合計200億7575万4000円のうち113億0914万1000円(約56.3パーセント)を占める。

工事の格付けでみると,AAが,件数にして81.8パーセント,落札金額にして93.5パーセント,ABが,件数にして80.0パーセント,落札金額にして81.6パーセント,ACが,件数にして31.3パーセント,落札金額にして32.8パーセント,Aが,件数にして16.7パーセント,落札金額にして19.6パーセントとなっている。

(12)  まとめ

原告らを含む33社は,本件基本合意に基づき,共同して,公社発注の特定土木工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,公社発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,同法7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為である。

第4原告らの主張

1  原告植木組(第21号事件)

(1)  原告植木組は,他の33社との間において公社発注の特定土木工事について談合の基本合意をしたことはなく,また,指名競争入札において相指名業者との間で個別談合をしたこともない。

(2)  基本合意について

本件審決は,本件基本合意の当事者は33社であり,その他ゼネコン46社は協力者であるとしている。しかし,33社とゼネコン46社は本来的に競争事業者であるから,33社が談合組織を作ったときに他のゼネコン46社が33社の決定した受注予定者に一方的に協力し,自己が受注を希望したときは,談合組織の協力を得ることは期待しないなどという片務的な行動をすることはあり得ない。しかも,33社と他のゼネコン46社の行為には全く差がない。被審人33社の基本合意という事実は不合理な事実認定である。

(3)  実質的競争制限について

本件審決は,本件基本合意によって競争の実質的制限が成立する理由として,①その他ゼネコン46社が基本合意の当事者である33社が受注できるよう協力していたこと,②本件基本合意の当事者である33社とその他ゼネコン46社,被審人徳倉建設を合計すると,市場への全参加者数のうち相当程度を占めていたこと,③地元業者が多数いたが,その協力や競争回避もある程度期待できたこと,④競争の実質制限が成立するためには,必ずしも,基本合意の当事者ないし協力者が当該市場における全事業者のすべてまたは大部分を占め,あるいは受注が予想される物件のすべて又は大部分について基本合意に基づく受注予定者及び価格を左右する状況になっている必要はないことを挙げている。

しかし,地元業者の競争回避を期待することはできなかった。本件審決は,地元業者が競争を回避することがある程度期待できる理由として,地元業者を含め公社発注の特定土木工事の入札に参加する業者は,いわゆる指名稼ぎのため,受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないとしているが,そうしたことを裏付ける証拠はない。また,本件審決は地元業者が競争を回避することを期待できる理由として,地元業者が受注予定者の要請でJVを組むことにより受注の恩恵を受けることがあったとしているが,ゼネコンと地元業者がJVを組むことは当然予定されていることなので,地元業者がJVを期待して33社との競争を回避することはあり得ない。地元業者が競争を回避する行動をとったことを裏付ける証拠はない。

本件審決は,本件基本合意により競争制限効果が具体的に生じていると認められる物件は31件で,金額ベースで56.3パーセントとしているが,受注件数でみるとその比率は43パーセントである。基本合意の当事者が40パーセント程度の物件しか落札していない場合に,競争制限があるとはいえない。

(4)  個別物件の課徴金対象性の有無について

本件審決は,番号2の物件につき競争制限効果が生じたとしているが,原告植木組は,番号2の物件の入札において受注予定者に決定されたことはないし,また,34社及びその他のゼネコンの協力を受けたこともない。番号2の物件は放線の下水道築造工事であり,手間がかかる上,予定価格が2億4505万2000円と低額であることから広域総合建設業者が受注を希望しない物件であり,相指名業者が入札を希望しないものであった。そのため,原告植木組は,談合による受注予定者となってはいないし,入札額についての価格調整行為をしたことはない。番号2の物件を落札したのは,この工事がほとんど利益のない工事であり,相指名業者が受注の意欲を示さなかったため,価格競争により結果的に原告植木組が落札したに過ぎない。

2  原告みらい建設,同馬淵建設,同坂田建設(第27号事件)

(1)  本件基本合意について

本件審決は,33社が本件基本合意の当事者であり,その他のゼネコン46社は本件基本合意の当事者でないとするが,33社と46社との行為態様には差がないのであり,46社が当事者でないとすれば,33社も本件基本合意の当事者との認定はできないはずである。また,本件審決は33社が基本合意をしたことの直接証拠として33社の担当者の供述を挙げるが,46社のうち24社の担当者も33社の担当者と同様の供述をしているのである。そもそも,46社が一方的に33社に協力するのみで,33社から協力を受けることはないというのはあり得ない。本件審決の判断は,明らかに経験則に反し,現実から乖離した認定である。

入札談合における基本合意は,本来,いつ,誰が誰と,どこで,どのような態様で合意したかが主張,立証されなければならないのに,本件審決はそのような立証なしに,単に,本件対象期間内に受注実績があったとの一事をもって33社が本件基本合意の当事者であったとするもので実質的証拠はない。

(2)  本件基本合意による競争の実質的制限について

本件審決は,33社を当事者とする本件基本合意によって,その他46社や地元業者が競争事業者として存在するにもかかわらず,本件取引分野において競争の実質的制限が成立しているとしているが,そのような認定は明らかに誤りである。

ア 地元業者における競争回避的状況の存在について

本件審決は,地元業者は指名稼ぎのためだけに工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないこと,受注予定者の要望によりJVを組むことにより受注の恩恵にあずかることなどから,常に落札を目指して受注予定者とされた違反行為者に対し競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に応じて協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することがある程度期待できる状況にあったとしているが,こうした認定は極めて不当である。

まず,指名稼ぎの点については,地元業者が指名稼ぎをすることを示す証拠はない。逆に,地元業者が採算度外視ともいうべき激しい低価格競争を仕掛けてでも受注を目指してくる存在であるという供述証拠は多数ある。また,本件市場においてはアウトサイダーである地元業者は72物件のうちの約半数を占める32物件を受注しているのである。

地元業者がJVを組むことは本件市場においては当然予定されていることであり,地元業者がJV結成の要請を期待して33社との競争を回避することはあり得ない。

本件審決は本件対象期間中少なくとも20物件については競争回避行動がみられ,少なくとも8物件(番号6,7,27,31,39,44,64,67)については受注予定者とされた違反行為者からの協力依頼に応じて,受注に協力したとしているが,これについては証拠がない。特に,被審人34社が協力を依頼したとされる地元業者の供述は1つも審判に提出されていない。本件市場において競争が実質的に制限されていたとはいえない。

イ 市場支配について

本件基本合意の参加者及び協力者の割合は,本件審決の認定においても,全競争事業者のうち51.9パーセントないし47.9パーセントでしかない。そして,本件基本合意により競争制限効果が具体的に生じたのは,72物件中31物件に過ぎず,わずか43.05パーセントである。また,金額ベースでも56.3パーセントでしかない。結局,33社は物件数で72物件中41物件,金額ベースで43.7パーセントの物件について競争の結果落札できなかったのである。

このような事実からすると,33社が本件基本合意により市場を支配したということはできない。上記程度の割合で市場支配を認めた前例はない。

本件審決は,競争を実質的に制限しているかどうかを判断する基準としての市場を支配を何ら考慮せず,不当である。

(3)  具体的な課徴金対象性の有無について

ア 原告みらい建設(番号13の物件)

本件審決は,三井住友建設と原告みらい建設のJVが落札した番号13の物件について課徴金の対象となると認定している。しかし,原告みらい建設は三井住友建設が番号13の物件について受注調整をしたかどうかは知らないが,原告みらい建設は受注調整に関与していないから課徴金を課せられる理由はない。

原告みらい建設は本件基本合意の当事者とはいえない。原告みらい建設の担当者は本件基本合意の内容やその具体的な実施方法を知らなかったのである。仮に,番号13の物件につき受注調整が行われていたとしても,原告みらい建設は,JVのサブであり,同物件の受注活動はメインである三井住友建設が行っていたものであるから,原告みらい建設は受注調整には関与していない。

イ 原告馬淵建設(番号27の物件)

本件審決は,原告馬淵建設と石井工務店のJVが落札した番号27の物件について,課徴金の対象となると認定しているが,これは誤った認定である。同物件について受注調整行為が行われたとする,又は,競争制限効果が具体的に生じたと認めるべき具体的証拠は存在しない。

本件審決は,番号27の物件については,原告馬淵建設の多摩営業所長のA及び他の相指名業者の担当者の供述等から,同物件については受注調整が行われたと認定しているが,本件審決が摘示している証拠からは,他の入札参加者との間において原告馬淵建設が落札できるように協力するとの合意が成立したと認定することはできない。番号27の物件については,原告馬淵建設以外の相指名業者のいずれについても原告馬淵建設の落札に協力したことを認定しうるだけの証拠はなく,競争制限効果が具体的に生じたと認めることはできない。

ウ 原告坂田建設(番号59の物件)

本件審決は,原告坂田建設と平井工業のJVが落札した番号59の物件について,課徴金の対象となると認定しているが,これは誤った認定である。同物件について受注調整行為が行われたとする,又は,競争制限効果が具体的に生じたと認めるべき具体的証拠は存在しない。

本件審決は,地元業者2社が原告坂田建設の落札に協力したことを認めるに足りる証拠はないとしながら,この地元業者をメインとする2組のJVの入札価格が予定価格を上回っていることをもって,地元業者が競争的行動をとったものとは認められないとしているが,原告坂田建設の担当者は地元業者が落札を目指して入札してくるものと予想して厳しい積算をしているのであるから,地元業者をメインとする2組のJVの入札価格が予定価格を上回ったとしても,それはあくまでも結果であり,原告坂田建設と地元業者との間に何らの意思の連絡もなかった以上,その間に受注調整行為の存在を認定することはできない。したがって,番号59の物件は課徴金の対象とならない。

3  原告小田急建設(第33号事件)

本件審決は,①原告小田急建設を含む33社による基本合意の存在を認めた点について実質的証拠がないこと,②33社による本件基本合意について競争の実質的制限が認められるための重要な根拠事実と位置付けられている,地元業者が受注を回避することがある程度期待できる状況にあったと認めている点について実質的証拠がないこと,③基本合意により市場支配がもたらされていなくても競争の実質的制限が成立していると判断した点は法律の規定に反していること,④原告小田急建設が談合に関与した実質的証拠がないのに原告小田急建設の談合への関与を認めた上で課徴金の納付を命じていることが明らかであって,本件審決は取消しを免れない。

(1)  本件基本合意の実質的証拠がないこと

ア 被審人33社とその他46社を峻別しているが,証拠から認められる33社と46社との行為態様には全く差違が認められない。46社が本件基本合意の当事者でないのなら,33社も本件合意の当事者と認定することはできない。33社の担当者の供述と同趣旨の供述が46社にも存在するのである。本件対象期間中に46社が受注していないことのみを根拠に33社が本件基本合意の当事者であり,46社はそうではないと認定するのは恣意的であり,著しく誤っている。46社は一方的に33社に協力するのみで,33社から協力を受けることはなかったというがそのようなことは経験則に反する。

イ 本件審決は,本件基本合意の存在を認めるための間接事実として,受注調整を行ったことを認定しているが,番号2の物件などについては受注調整が行われたことを認めるべき実質的証拠はない。

(2)  地元業者の協力,競争回避について

本件審決は,地元業者は,いわゆる指名稼ぎのために受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないこと,地元業者も受注予定者の有する条件について認識し得る物件があったこと,地元業者が受注予定者の要請によりJVを組むことにより,受注の恩恵にあずかることがあったことを根拠に,地元業者は常に落札を目指して受注予定者とされた違反行為者に対して競争を挑んでくるとは限らず,受注予定者の依頼に応じて協力したり,自主的に高めの価格で入札して競争を回避することがある程度期待できる状況にあったというが,そのようなことを認めるべき証拠はない。地元業者は72物件のうち64件について33社に対し競争を挑んでいるのである。

(3)  競争の実質的制限と市場支配について

ア 競争の実質的制限がされたというためには市場支配をもたらすことが必要であるが,本件審判は市場支配という観点を無視して競争の実質的制限を認めており,競争の実質的制限の解釈を誤っている。

入札談合においては,入札に参加する可能性のある者のほとんどすべてを含んでの談合の合意をしない限り,その合意は受注予定者及び受注価格を決めるという効果を発揮しない。

本件審決は,本件基本合意の当事者及び協力者の割合は,全競争事業者のうち51.9パーセントないし47.9パーセントとしている。しかし,これは競争事業者である地元業者を74社に限定したもので,正しい割合が算出されているとはいえない。33社及びその他46社と同等の格付けを有し,間違いなく競争事業者であったと評価できる地元業者105社を基準として計算すると,本件基本合意の当事者及び協力者の占める割合は,43.2パーセントとなり,実際に入札に参加した地元業者165社を基準として計算すれば32.6パーセントとなる。こうしたことからすると,市場全体としてみれば,33社の合意により受注予定者とされた者であっても残り半数を超える競合事業者と競争しなければならない。このような状態では市場支配という状態に至っているとはいえない。

また,本件審決によっても,本件基本合意により競争制限効果が具体的に生じたとされるのは,72物件中31物件に過ぎず,わずか43.5パーセントである。落札金額ベースでも56.3パーセントに過ぎない。

さらに,落札率が80パーセント台の3物件については34社及び46社以外の地元業者と競合していたことは明らかであり,受注調整がない場合と同じ競争状態が生じている。

仮に,33社を参加者とする本件基本合意が存在したとしても,当該合意により33社が本件基本合意により市場を支配した,あるいは,市場を支配できる状態をもたらしたと評価できないことは明らかである。

(4)  原告小田急建設落札勿件における競争制限効果について

本件審決は,原告小田急建設が落札した番号58の物件につき本件基本合意による競争制限効果が生じているとしているが,これについては実質的証拠がない。原告小田急建設は受注調整に関与していない。他の入札参加者の応札による反射的効果としての競争制限効果が認められたとしても,受注調整に関与していない原告小田急建設に課徴金の納付を命ずる理由にならない。原告小田急建設は番号58の物件を受注する意欲があり,受注調整に関与することなく落札した。

被告は,平成12年3月29日,町田市が発注する土木一式工事,建築一式工事,舗装工事の入札参加業者に対し,不当な取引制限を行っているおそれがあるとして審査を開始した。原告小田急建設にも立ち入り調査が行われた。その結果,同日以降は,町田市が発注する土木一式工事,建築一式工事,舗装工事の入札参加業者は談合行為を取り止めたとされている。この入札参加業者には,番号58の物件の入札に参加したJVのサブである株式会社加藤組,亜東コンスト株式会社,堺産業株式会社,株式会社北神建設,株式会社タカラヤ土木興業,高尾建設株式会社の6社が含まれている。番号58の物件はその直後の平成12年5月15日に入札の行われた工事であるところ,仮に本件基本合意が存在したとしても,同年3月29日に審査が開始され,原告小田急建設にも立ち入り調査がされ,さらに,JVのサブ6社が談合行為を取り止めたという事情からすると,番号58の物件の入札時期においては町田市関係の物件につきあえて受注調整が行われるなどということは通常考えられず,本件基本合意の存在が認められたとしても,そこから直ちに番号58について受注調整が行われた事実を推認することはできない。

4  原告清水建設及び原告青木あすなろ建設

(1)  本件基本合意の存在について

本件審決は,原告清水建設及び同青木あすなろ建設を含むゼネコン33社が本件基本合意を行ったとする一方,その他のゼネコン46社と徳倉建設(以下,これらを「47社」ともいう。)は本件基本合意の当事者でないとしている。そして,その根拠として,33社が本件基本合意をした直接証拠があるとして供述証拠等を掲げている。

しかし,独占禁止法3条に該当するというためには,「相互にその事業活動を拘束し,又は遂行する」という行為が存在しなければならない(独占禁止法2条6項)。そして,その行為が「相互にその事業活動を拘束する」ものでなければならない以上,単に,各々の事業者が自らの意思でその行動を決定しているに過ぎない場合などには,このような相互拘束性は認められず,独占禁止法3条違反は成立しない。

本件審決が掲げる直接証拠は,上記のような相互拘束性を裏付けるものではなく,むしろ,本件において各ゼネコンは独自の自由な意思により,入札方針を決定していることを裏付けるものとなっている。本件審決のいう直接証拠は被告のいう本件基本合意を証明するものではない。

本件審決自体,47社に関して本件審決のいう直接証拠と同様の趣旨の記載がある証拠が数多くあるにもかかわらず,47社を本件基本合意の当事者とは認めていない。もし,本件審決のいう直接証拠が基本合意なるものの存在やそれへの参加を認定できるものであれば,47社についても本件基本合意の当事者とせざるを得ない。それをしていないことは本件審決のいう直接証拠による認定ができないことを示している。

本件審決が,33社を独占禁止法3条に違反する基本合意の当事者と認定している根拠は,結局,本件対象期間内に落札,受注したという事実だけということになるが,そのような事実のみで33社が基本合意の当事者であるということはできない。

(2)  本件基本合意による実質的競争制限について

ア 本件取引分野である公社発注の特定土木工事の分野には,違反行為者とされたゼネコン33社や協力者とされるゼネコン47社のほかに,こうした違反行為や協力と無縁の地元業者が,上記ゼネコンと同様Aランクに格付けられた者だけで74社,Aランクに格上げされて指名された地元業者も含めると106社存在している。これら地元業者がいずれも発注者から指名されて入札に参加していたという状況において,全競争者の一部に過ぎないゼネコンだけで本件取引分野における競争を実質的に制限することはできない。

イ 本件審決は,地元業者については競争回避をある程度期待できる状況にあったとしているが,「ある程度期待できる」というだけでは競争を実質的に制限しているとはいえない。

ウ 本件審決は,地元業者を含め,公社発注の特定土木工事の入札に参加する業者は,いわゆる指名稼ぎのために受注を希望しない場合であっても工事希望票を提出して指名を受けることが少なくないから競争回避を期待できるという。しかしながら,その根拠として掲げられた供述証拠はゼネコン担当者の数人が自社の入札行動について述べたというものであり,肝心の地元業者の内心を述べたものではなく,その他上記のような指名稼ぎを裏付ける供述は存在しない。むしろ,地元業者が採算を度外視して低価格競争を仕掛けてでも受注を目指してくるという供述証拠は多数ある。事業者は指名を受けることを望んで工事希望票を提出し,発注者から指名を受けたら受注を目指すのが自然であって,わざわざ受注の機会を放棄して受注を避けるようなことは営利企業としてはあり得ない。実際,本件市場においては,アウトサイダーである地元業者は,72物件のうちの半数近い32物件もの工事をゼネコンとの競争に打ち勝って受注しているのである。

エ 本件審決は,地元業者が受注予定者の要請によりJVを組むことにより,受注の恩恵にあずかることを期待して競争を回避することがあるというが,ゼネコンと地元業者がJVを組むことは当然予定されていることであり,また,地元業者がJV組成を期待して競争を回避するということはなかった。

オ 本件審決は,競争の実質的制限を肯定する根拠として,実際の落札状況を掲げ,本件基本合意により競争制限効果が具体的に生じていると認められる物件は,72物件中31物件(43.1パーセント),金額ベースで全物件の56.3パーセントであるとする。しかし,落札状況をみる際に着目すべきは具体的競争制限効果が生じた受注件数であり,受注金額を判断の基礎とするのは相当でない。受注金額については,例えば1件だけ飛び抜けて大型の案件があったような場合正確な状況が反映されないからである。そして,本件審決においても本件基本合意の当事者は市場全体の4割程度の物件しか本件基本合意によって受注できていない。物件数において半数にも及ばない物件しかコントロールしていないのに,市場全体を支配したということはできない。本件審決は,「その意思で,ある程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することができる状態をもたらしているか否か」という観点から判断するかのようであるが,そのような広範かつ曖昧な判断は許されない。

(3)  個別物件の課徴金対象性について

ア 原告清水建設の受注物件(番号21の物件)

本件審決は,原告清水建設は,入札までに,指名を受けた被審入奥村組に対して,自社が番号21の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡,確認をしたなどとしているが,供述調書には入札価格の連絡,確認をしたなどという事実は一切記載されていない。

また,他のゼネコンが原告清水建設の有利な条件を認識していたと認定するが,それを裏付ける証拠はない。

原告清水建設が落札,受注した番号21の物件について本件審決がいうような受注調整は行われていないし,競争制限効果が生じているという本件審決の認定は誤りである。

イ 原告清水建設の受注物件(番号38の物件)

本件審決は,原告清水建設及び安藤建設は,入札までに指名を受けた被審人鉄建建設に対して,自社が番号38の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けた被審人奥村組との間で,入札価格の連絡,確認をしたとしているが,他の指名業者である五洋建設,間組,フジタ,大日本土木ら4社をメインとするJVについて原告清水建設・安藤建設JVから協力を求められたとの具体的な認定はなく,証拠も存在しない。また,原告清水建設がその受注物件につき,自らの入札価格をすべての相指名業者に連絡したり,すべての指名業者に入札価格の指示をしたということについても具体的な証拠はない。相指名業者の入札状況は,経済合理性に合致し,競争の結果である。相指名業者が原告清水建設の受注に協力したことを認める証拠はない。

原告清水建設が落札,受注した番号38の物件について本件審決がいうような受注調整は行われていないし,競争制限効果が生じているという本件審決の認定は誤りである。

ウ 原告青木あすなろ建設の受注物件(番号42の物件)

本件審決は,原告青木あすなろ建設は,入札までに指名を受けた加賀田組,原告小田急建設,原告みらい建設及びその他のゼネコンである京王建設との間で,入札価格の連絡,確認をしたと認定しているが,これを認めるべき証拠はない。地元業者が競争回避行動をとったことはない。

原告青木あすなろ建設が落札,受注した番号42の物件について本件審決がいうような受注調整は行われていないし,競争制限効果が生じているという本件審決の認定は誤りである。

第5当裁判所の判断

1  本件審決が認定した前記事実のうち,「1 多摩地区におけるゼネコン等」,「2 公社が発注する工事」については,原告らも実質的にはこれを争わず,また,本件審決が上記各事実につき引用する各証拠についてその信用性につき特に疑念を差し挟むべき事情は認められないから,実質的な証拠があると認められる。

2  本件審決が認定した前記事実のうち,「3 違反行為等」の「(1)背景事情」については,本件審決がこれにつき引用する各証拠についてその信用性につき特に疑念を差し挟むべき事情は認められないから,実質的な証拠があると認められる。

3  本件審決が認定した前記事実のうち,「3 違反行為等」の「(2)本件基本合意」について

本件審決が「(2)本件基木合意」を認定した証拠として引用している各証拠のうち,真柄建設東京支店営業部長(前・大成建設多摩営業所長)大木正毅の各供述調書(査共98,99,110),大成建設土木営業本部営業部営業担当部長中西豊の供述調書(査共289),大成建設多摩営業所次長松本洋一の各供述調書(査共201,231,323),飛島建設東京土木支店多摩営業所副所長Bの供述調書(査共195),株木建設東京支店多摩営業所長田中穂積の供述調書(査共3),大木建設多摩営業所課長Cの供述調書(査共5),真柄建設多摩営業所長Dの供述調書(査共54),馬淵建設多摩営業所長Aの供述調書(査共66)には,いずれも,本件審決が認定したように,公社発注の土木工事物件につき,大成建設多摩営業所長大木正毅,飛島建設多摩営業所長丸山正文らを調整役として,各ゼネコン間で受注調整が行われてきたことが具体的に供述されており,また,本件審決が引用する他の証拠もこれと符合しているのであり,「(2)本件基本合意」の項に認定された事実については実質的証拠があると認められる。

4  本件審決が認定した前記事実のうち,「3 違反行為等」の「(3)ないし(10)の各個別的受注調整」について

(1)  原告植木組の番号2の物件に係る個別受注調整

元植木組多摩営業所長廣瀬純一の供述調書(査共73,167),加賀田組東京支店第一営業部主任Eの供述調書(査共162)には,本件審決が認定した原告植木組の番号2の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告植木組は,番号2の物件の入札において受注予定者に決定されたことはないし,また,34社及びそのたゼネコンの協力を受けたことも,入札額についての価格調整行為をしたことはなく,番号2の物件の工事を落札したのは価格競争の結果である旨主張するが,上記各証拠に前記基本合意に関する事実をも考慮すると,原告植木組の主張は理由がない。

(2)  原告みらい建設の番号13の物件に係る個別受注調整

大本組東京支店多摩営業所長Fの供述調書(査共62),住友建設多摩営業所長Gの供述調書(査共136),大豊建設多摩営業所長Hの供述調書(査共164),日東大都工業土木営業本部第二営業部次長Iの供述調書(査共349)には,本件審決が認定した原告みらい建設の番号13の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告みらい建設は,番号13の物件についてはJVのサブであったので受注調整には関与していない旨主張するが,原告みらい建設が本件基本合意の当事者であることや前記各証拠によれば,原告みらい建設も受注調整に関与していたと認めるのが相当であり,原告みらい建設の上記主張は理由がない。

(3)  原告清水建設の番号21の物件に係る個別受注調整

清水建設土木東京支店西東京営業所副所長Jの供述調書(査共111),森本組多摩営業所長Kの供述調書(査共92),奥村組多摩営業所長Lの供述調書(査共137),M東京支店営業部部長(元熊谷組東京支店多摩営業所副所長)Nの供述調書(査共181)には,本件審決が認定した原告清水建設の番号21の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告清水建設は,本件審決は原告清水建設が,入札までに指名を受けた奥村組に対して,自社が番号21の物件の受注を希望している旨を伝え,また,指名を受けたJVのメイン各社との間で,入札価格の連絡,確認をしたとか,他のゼネコンが原告清水建設の有利な条件を認識していたと認定するが,こうしたことを裏付ける証拠はないと主張するが,上記査共137,181により奥村組に受注希望を伝えたことや指名を受けたJVのメイン各社との間で入札価格の連絡,確認をしたことが認められ,原告清水建設の上記主張は理由がない。

(4)  原告馬淵建設の番号27の物件に係る個別受注調整

馬淵建設多摩営業所長Aの供述調書(査共139),松村組多摩営業所長Oの供述調書(査共84),元村本建設東京支店西東京営業支店営業部長Pの供述調書(査共91)には,本件審決が認定した原告馬淵建設の番号27の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告馬淵建設は,同物件につき受注調整行為が行われたとする証拠はない旨主張するが,上記各証拠及び原告馬淵建設が本件基本合意の当事者であることを考慮すると,番号27に係る個別受注調整に関する事実は優に認定できる。

(5)  原告清水建設の番号38の物件に係る個別受注調整

清水建設土木東京支店西東京営業所副所長Jの供述調書(査共111),奥村組多摩営業所長Lの供述調書(査共137),森本組多摩営業所長Kの供述調書(査共92)には,本件審決が認定した原告清水建設の番号38の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告清水建設は,同原告が落札,受注した番号38の物件について本件審決がいうような受注調整は行われていない旨主張するが,上記各証拠及び原告清水建設が本件基本合意の当事者であることからすると,原告清水建設の上記主張は理由がない。

(6)  原告青木あすなろ建設の番号42の物件に係る個別受注調整

小松建設多摩営業所長Qの供述調書(査共240),前加賀田組多摩営業所長笠原三司の供述調書(査共72),小田急建設営業本部多摩営業所長Rの供述調書(査共145)には,本件審決が認定した原告青木あすなろ建設の番号42の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告青木あすなろ建設は,同原告が落札,受注した番号42の物件について本件審決がいうような受注調整は行われていない旨主張するが,上記各証拠及び原告青木あすなろ建設が本件基本合意の当事者であることからすると,原告青木あすなろ建設の上記主張は理由がない。

(7)  原告小田急建設の番号58の物件に係る個別受注調整

佐田建設東京支店西東京営業所長Sの供述調書(査共352),前加賀田組多摩営業所長笠原三司の供述調書(査共72),株木建設東京支店多摩営業所長田中穂積の供述調書(査共81),森本組多摩営業所長Kの供述調書(査共92)には,本件審決が認定した原告小田急建設の番号58の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

(8)  原告坂田建設の番号59の物件に係る個別受注調整

坂田建設東京支店多摩営業所長T供述調書(査共324),冨士工多摩支店次長Uの供述調書(査共6),若築建設東京支店多摩営業所長の供述調書(査共93)には,本件審決が認定した原告坂田建設の番号59の物件に係る個別受注調整に関する事実に沿う供述が記載されており,同事実につき本件審決が引用している他の証拠も併せ考慮すると上記事実については実質的証拠があると認めるのが相当である。

原告坂田建設は,原告坂田建設と平井工業のJVが落札した番号59の物件について,受注調整行為が行われたとする具体的証拠は存在しないと主張するが,上記各証拠に原告坂田建設が本件基本合意の当事者であることを考慮すると,前記受注調整の事実が認められる。

5  本件審決が認定した前記事実のうち「3 違反行為等」の「(11)受注結果」については弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

6  原告らの主張について

(1)  本件基本合意

原告らは,いずれも,本件審決は,本件基本合意の当事者は33社であり,その他ゼネコン46社は協力者であるとしているが,33社と46社の行為態様には差がなく,46社が当事者でないのであれば,原告らを含む33社も本件基本合意の当事者と認めることはできない旨主張する。

しかしながら,前記のとおり原告らを含む33社が基本合意の当事者であることについては前記のとおり実質的証拠があるし,本件審決が46社について本件基本合意の当事者と認めなかったからといって,33社についても本件基本合意の当事者であることにつき実質的証拠がないということはできない。

なお,本件審決は,その他ゼネコン46社については,受注調整への関与状況からみると,一部の者が受注予定者とされた違反行為者からの協力依頼に応じて受注予定者の受注に協力しているのみであって,本件対象期間中,公社発注の特定土木工事でその他のゼネコン46社が本件基本合意に基づいて落札,受注したと認められる物件はなく,また,自社が受注意欲や関連性を有するときは他の違反行為者が協力すべきことについての相互の認識,認容を認めるに足りる証拠がないから,その他のゼネコン46社は本件基本合意の当事者であるとまでは認めることができないとしているのであって,その他のゼネコン46社については具体的な落札,受注との関係で証拠が十分でなかったというのであるから,本件審決がその他のゼネコン46社につき本件基本合意の当事者と認定していないからといって,33社も本件基本合意の当事者と認定できないということはできない。

また,原告みらい建設,同馬淵建設及び同坂田建設は,入札談合における基本合意は,本来,いつ,誰と誰が,どこで,どのような態様で合意したか主張,立証される必要があるが,本件においてそのような立証がないから本件基本合意を認めることはできない旨主張するが,受注調整に関する合意はさまざまな態様で行われ得るものであり,かつ,多数の者が関与するものであるところ,事の性質上基本合意の書面が作成されることはないのであるから,業者の担当者の行動,受注の経緯,その地域における業者の従前の行動や残された断片的な文書等から業者間に受注調整の合意がされていることが認定できれば足りるのであり,基本合意がいつ,誰と誰が,どこで,どのような態様で合意したかまで具体的に主張,立証する必要があるとはいえないから,上記各原告らの主張は理由がない。

(2)  実質的競争制限

原告らは,本件取引分野においては,競争者としてその他ゼネコン46社のほか,地元業者多数が存在するから本件基本合意により競争の実質的制限は成立してない旨主張する。

課徴金納付の要件である独占禁止法7条の2の「不当な取引制限」は「事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」(同法2条6項)が,独占禁止法の目的が「不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進」(同法1条)することにあることにかんがみると,「競争を実質的に制限する」というためには一定の取引分野における競争を完全に排除し,価格等を完全に支配することまでは必要なく,一定の取引分野における競争を減少させ,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に価格等を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすことで足りるというべきである(参照・東京高等裁判所昭和28年12月7日判決・高民集6巻13号868頁)。

そこで検討するに,本件審決が認定した事実によれば,多摩地区においては,33社のほか公社の入札資格を有するゼネコンが47社(その他のゼネコン46社に徳倉建設を加えた数)あるほか,本件対象期間に入札に参加した地元業者が165社あるが,33社は,本件対象期間内に公社が発注した物件72件のうち31物件を落札受注し,これは件数では約43.1パーセント,落札金額では約56.3パーセント(200億7575万4000円のうち113億0914万1000円)を占め,特に,工事の格付けでみると,AAが,件数にして81.8パーセント,落札金額にして93.5パーセント,ABが,件数にして80.0パーセント,落札金額にして81.6パーセント,ACが,件数にして31.3パーセント,落札金額にして32.8パーセント,Aが,件数にして16.7パーセント,落札金額にして19.6パーセントとなっているというのであり,33社の落札受注量は相当程度大きいということができる。

また,その他ゼネコン46社は本件基本合意の当事者とまでは認めることができないが,多摩地区に営業所を置くゼネコンは古くから土木工事を担当する営業責任者をメンバーとする三多摩建友会と称する組織に参加し,いわゆる埼玉土曜会事件を機に三多摩建友会が解散した後も,ゼネコンの営業担当者については名簿が作成され,定期的に懇親会が設けられていたばかりか,多摩地区において事業活動を行うゼネコン各社は,三多摩建友会時代と同様,工事の入札に当たり,受注意欲を持つ者や発注される工事との関連性を持つ者がある場合には,受注意欲や関連性を尊重することによって競争を避けることが望ましいとの意識を有し,受注予定者とされた違反行為者の求めに応じて工事希望票を提出し,あるいは,受注予定者から入札価格の連絡,確認をされたり,受注予定者が受注できるよう受注予定者よりも高い価格で入札することによって受注予定者が受注できるよう協力していたのであるから,その他ゼネコン46社は,時と場合によっては,本件基本合意の当事者である33社に協力する存在となることもあったといえる。なお,前記認定の個別受注状況からすると,本件基本合意の当事者がその他ゼネコンの受注に協力することもあったとみるのが自然である。

そして,本件基本合意の具体的実施方法は,入札指名前の段階で受注希望者を1社に絞り込み,その後,受注希望者は,他の違反行為者やその他のゼネコンに対し,公社に工事希望票を提出するよう依頼し,入札に参加して受注に協力する者を募り,自社が受注できる可能性を高めた上,公社の指名により入札参加者が確定した以降において必要に応じて話し合いをして受注予定者となり,他の者は受注予定者が落札するような入札をするというのであって,その他のゼネコンや地元業者が存在することを考慮すると市場を完全に支配できるものとはいえないが,競争を相当程度制限することが可能なものといえる。

以上によれば,33社による本件基本合意は競争を減少させ,特定の事業者又は事業者集団がその意思で,ある程度自由に価格等を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらしたということができるから,本件においては,不当な取引制限があったと認めることができる。したがって,原告らの上記主張は理由がない。

(3)  個別物件の課徴金対象性について

ア 原告植木組の番号2の物件

原告植木組は番号2の物件については,受注調整行為をしていないから,課徴金対象性がない旨主張するが,前記のとおり受注調整行為があったと認められるから,原告植木組の上記主張は理由がない。

イ 原告みらい建設の番号13の物件

原告みらい建設は,番号13の物件についてはJVのサブで,受注調整行為をしていないから,課徴金を課せられる理由はない旨主張するが,原告みらい建設は,本件基本合意の当事者であるから,JVのサブとはいえ,番号13番の物件を受注した原告みらい建設が受注調整行為について関与していないとみるのは不自然であり,原告みらい建設の上記主張は理由がない。

ウ 原告馬淵建設の番号27の物件

原告馬淵建設は,同物件につき受注調整行為がされ,また,競争制限効果が生じたとは認められないから,課徴金を課すことはできない旨主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,番号27の物件については,地元業者2社がJVのメインとして入札に参加したが,原告馬淵建設の依頼に応じ同原告の落札に協力したから,競争制限効果が具体的に生じたということができ,課徴金対象性を否定することはできない。

エ 原告坂田建設の番号59の物件

原告坂田建設は,同物件につき受注調整行為がされておらず,また,競争制限効果が生じてはおらず,原告坂田建設の受注は競争の結果であり課徴金対象性はない旨主張する。

しかしながら,前記認定の事実によれば,指名された10組のJVのメインは違反行為者5社,その他のゼネコン3社,地元業者2社で,原告坂田建設は,他の違反行為者とその他のゼネコン3社は原告坂田建設の受注に協力し,協力しなかったのは地元業者2社だけで,その2社が予定価格を上回ったことで,原告坂田建設が落札することになったのであるから,競争制限効果は生じたというべきである。

したがって,原告坂田建設の上記主張は理由がない。

オ 原告小田急建設の番号58の物件

原告小田急建設は,受注調整に関与しておらず,他の入札参加者の応札による反射的効果としての競争制限効果が認められたとしても,受注調整に関与していない原告小田急建設に課徴金の納付を命ずることはできない旨主張する。

なるほど,前記認定の事実によれば,原告小田急建設は,番号58の物件につき基本合意の当事者の1人である佐田建設と堺産業のJVが受注調整を経て落札するところを,受注調整の経過を認識した上で,同JVよりも50万円低い価格で落札したというのであり,その意味では本件基本合意の他の当事者と協議して落札したというのではないが,原告小田急建設は本件基本合意の当事者であること,受注調整の経過を認識し,受注調整の成果を利用して落札したといえることからすると,課徴金納付を免れることはできないというべきである。

カ 原告清水建設の番号21の物件

原告清水建設は,番号21の物件につき受注調整行為をしていない旨主張するが,前記認定事実によれば,番号21の物件については違反行為者4社とその他ゼネコン6社が入札に参加したものの,原告清水建設が落札するようその他の入札参加者が協力したというのであるから,受注調整行為もあったし,競争制限効果も生じたことは明らかであり,同原告の主張は理由がない。

キ 原告清水建設の番号38の物件

原告清水建設は,番号38の物件につき受注調整行為をしていない旨主張するが,前記認定事実によれば,番号38の物件については違反行為者3社とその他ゼネコン7社が入札に参加したものの,原告清水建設が落札するようその他の入札参加者が協力したというのであるから,受注調整行為もあったし,競争制限効果も生じたことは明らかであり,同原告の主張は理由がない。

ク 原告青木あすなろ建設の番号42の物件

原告青木あすなろ建設は,番号42の物件につき受注調整行為をしておらず,競争制限効果も生じていない旨主張するが,前記認定事実によれば,番号42の入札参加者は,違反行為者4社,その他のゼネコン4社,地元業者2社であり,原告青木あすなろ建設以外の違反行為者3社及びその他のゼネコン4社は原告青木あすなろ建設に協力し,地元業者2社が予定価格を上回ったため,同原告が落札受注したのであるから,受注調整行為が行われ,かつ,その影響は大きいといえるから,競争制限効果も生じたというべきであり,同原告の上記主張は理由がない。

7  以上によれば,本件基本合意の存在,本件基本合意により競争が実質的に制限されること,原告らによる個別的受注調整の存在及び競争制限効果の発生についていずれも実質的証拠があると認められるから,本件審決の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がない。

よって,原告らの本件請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 倉吉敬 裁判官 山本博 裁判官 小林元二 裁判官 山口信恭 裁判官 石垣陽介)

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