東京高等裁判所 平成20年(行コ)250号 判決 2008年10月30日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録1記載の土地に係る平成14年度の固定資産税賦課処分のうち4万9497円を超える部分及び都市計画税賦課処分のうち1万0607円を超える部分を取り消す。
3 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録2記載の土地に係る平成14年度の固定資産税賦課処分のうち87万0024円を超える部分及び都市計画税賦課処分のうち18万6434円を超える部分を取り消す。
4 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録3記載の土地に係る平成14年度の固定資産税賦課処分及び都市計画税賦課処分を取り消す。
5 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録1記載の土地に係る平成15年度の固定資産税賦課処分のうち4万4751円を超える部分及び都市計画税賦課処分のうち9589円を超える部分を取り消す。
6 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録2記載の土地に係る平成15年度の固定資産税賦課処分のうち78万2827円を超える部分及び都市計画税賦課処分のうち16万7748円を超える部分を取り消す。
7 処分行政庁が控訴人に対し平成18年7月10日付けでした,原判決別紙物件目録3記載の土地に係る平成15年度の固定資産税賦課処分及び都市計画税賦課処分を取り消す。
8 訴訟費用は,第一,二審を通じて被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,原判決別紙物件目録1から3までに記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の所有者である控訴人がこれらの土地に係る平成14年度及び平成15年度の固定資産税賦課処分及び都市計画税賦課処分(以下,これらを併せて「本件各処分」という。)につき,同目録1記載の土地(以下「本件土地1」という。),同目録2記載の土地(以下「本件土地2」という。)それぞれの一部及び同目録3記載の土地(以下「本件土地3」という。)の全部が地方税法348条2項3号に規定する境内地に当たり非課税とされるべきであるにもかかわらず,固定資産税及び都市計画税が課されたのは違法であるとして,本件各処分のうち当該境内地に当たるとする部分に係る部分の取消しを求める事案である。原審は,いずれの請求も棄却した。
2 前提事実,争点及び当事者の主張の要旨は,原判決の該当部分について次のとおり補正するほか,その「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1前提事実」,「2 争点」及び「3 当事者の主張の要旨」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 5頁6行目の「境内地」を「地方税法348条2項3号に規定する境内地」に,17行目の「までの建物」を「までの部分に建物」にそれぞれ改める。
(2) 6頁5行目の「⑧までの」を「⑧までの部分に」に,同じく「⑦まで」を「⑦までの部分」に,13行目の「⑧」を「⑧の部分」にそれぞれ改める。
(3) 7頁14行目の「あること」の次に「(そもそも宗教団体は,古来よりその宗教の教義を広め,儀式行事を行い,多くの信者を教化育成するために広大な土地と大きな建物を必要としてきた。この事実は歴史的にみて明らかである。しかも,その土地建物はあくまでも宗教団体の目的実現のために所有するものであって,例え土地建物の客観的な交換価値が高く,売却により高額な利益を得られたとしても,その利益を得るために宗教団体が土地建物を売却することはない。このような土地建物,とりわけ都心の一等地に存する宗教施設について,客観的交換価値に即して計算された固定資産税等が賦課されるとなると,収益事業を営まない宗教団体は課税負担に耐えきれず立ち退きを余儀なくされることになり,宗教団体の布教活動は制限され,また,信者の信仰の自由をも侵害する結果となる。そこで,地方税法は,固定資産税の賦課が間接的に宗教団体の存立を脅かし,ひいては個人の信仰の自由を侵害することのないように,境内建物及び境内地を非課税としたのである。)」を,同じく「考慮すると,」の次に「同号の非課税要件の解釈については,宗教団体の布教活動の自由,関係する信者の信教の自由を侵害しないようにしなければならず,」を,同じく「場合とは,」に次に「当該宗教法人の目的実現のために使用する場合を広く指すと解すべきである。」を,16行目の「ではない」の次に「(この要件が置かれた趣旨は,宗教法人が布教等の名目で実質的に事業の用に供している場合を除外するためと解すべきである。)。そのような限定解釈をすると,宗教活動そのものではないが,宗教活動のために必要なことに供している場合に課税されることになって,宗教団体の布教活動の自由,関係する信者の信教の自由を侵害する結果となってしまう」を,21行目の「のであり,」の次に「本件各土地の工事が開始される前は,墓地の分譲のため,あるいは関係者の駐車場等や墓地移設改修工事のための建物敷地として使用していたのであるから,」を,22行目の「は,」の次に「本件各土地が控訴人の目的実現のために使用されていたことは明らかである。」をそれぞれ加える。
(4) 8頁1行目と2行目の間に次のとおり加える。
ウ 日本人は,欧米のような礼拝よりも,祭りや葬式,墓参りを介して宗教との関わりを持つことが多く,とりわけ墓地には法要のために親族一同が訪れるから,墓地があることによって多くの人に宗教法人に慣れ親しんでもらうことができる。その意味で,墓地の販売は宗教の教義を広めるための最初の一歩ということができる。墓地販売のために使用していたαビルは宗教の教義を広めるために使用していた建物であり,その敷地は境内地に当たる。
また,そもそも社会通念上境内地と認識される土地がその隅から隅まで宗教の教義を広め,儀式行事を行い,信者を教化育成することに使用されているとは限らず,例えば,僧侶が通る道もあれば,庭園,山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地もあれば,寺院関係者の駐車場として使用される場所もあれば,密接な縁故がある土地もある,本件土地2は,僧侶が通行し,寺院関係者が駐車場として使用していたものであり,宗教法人がその目的を実現するために必要な土地であるのであるから,境内地に当たるというべきである。
さらに,他の境内地と一体である土地の上に墓地移設改修工事のための建物が建築された場合,工事のための建物は儀式行事等の遂行に支障のない場所に建てるのが通常であることを考えると,当該土地について,いまだ儀式行事等を積極的に行っていなかったという点だけをとらえ,他の境内地と一体化していることを無視して境内地ではないと評価することは誤りである。本件土地3は,これが貸地であったときは出入り自由ではなかったが,貸借関係が終了し出入り自由となったことから他の境内地と一体化しており,その上に墓地の移設改修工事のための建物が建築されたのであるから,本件土地3が境内地といえることは明らかである。
(5) 10頁17行目の「まで」を「までの部分」に,18行目の「⑧」を「⑧の部分」にそれぞれ改める。
第3当裁判所の判断
1 判断の基礎となる事実関係について
判断の基礎となる事実関係は,原判決の該当部分について次のとおり補正するほか,その「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1 認定事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 11頁14行目の「までの」を「までの部分に」に,16行目の「③の」を「③の部分に存在した」に,同じく「26日ころ」を「26日」に,同じく「①の」を「①の部分に存在した」に,17行目の「12日ころ」を「12日」に,同じく「②及び④の」を「②及び④の部分に存在した」に,同じく「解体された」を「取り壊されて,本件土地2は更地となった。」に,21行目の「までの」を「までの部分に」にそれぞれ改める。
(2) 12頁1行目の「⑦の」を「⑦の部分に存在した」に,同じく「⑤の」を「⑤の部分に存在した」に,2行目の「⑥の」を「⑥の部分に存在した」に,3行目の「⑧の」を「⑧の部分に存在した」に,5行目の「原告」から「工事等」までを「控訴人から発注を受けた(仮称)β再開発計画基盤整備工事等」に,6行目の「建物の跡地」を「部分あたり」にそれぞれ改め,16行目の「することと」を削り,17行目の「そして」を「また」に,18行目の「建築されることとなったところ,」を「建築された。これらの」に,同じく「建築工事の」から19行目の「である」までを「建築工事は,平成15年6月に完成し,同月18日,定期借地権を設定するスキームを含めた事業計画全体のコーディネート等を担当したAから,次のような内容を含む計画概要のプレスリリースが行われた」にそれぞれ改める。
(3) 13頁10行目の「寺院」から11行目末尾までを「平成13年度において,本件各土地に地目を宅地として固定資産税及び都市計画税が賦課され,控訴人はその納税をした。(弁論の全趣旨)」に改める。
2 地方税法348条2項3号等について
(1) 地方税法348条2項3号は,宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法3条に規定する境内地に対しては,固定資産税を課することができない旨規定し,また,地方税法702条の2第2項は,市町村は,同法348条2項の規定により固定資産税を課することができない土地に対しては,都市計画税を課することができない旨規定している。
そして,宗教法人法3条は,境内地とは,同条2号から同条7号までに掲げるような宗教法人の同法2条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいうと規定し,同条2号は,同条1号に掲げる本殿,拝殿,本堂,会堂,僧堂,僧院,信者修行所,社務所,庫裏,教職舎,宗務庁,教務院,教団事務所その他宗教法人の上記目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。)を,同条3号は,参道として用いられる土地を,同条4号は,宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田,仏供田,修道耕牧地等を含む。)を,同条5号は,庭園,山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地を,同条6号は,歴史,古記等によって密接な縁故がある土地を,同条7号は,前各号に掲げる建物,工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地をそれぞれ掲げている。宗教法人法が境内地についてこうした定義を置いたのは,境内地の著しい模様替をする場合やその用途変更をする場合,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成する目的以外の目的のために境内地を供する場合には,宗教法人の規則に定めがあるときはその定められた手続を履行し,これがないときは同法19条の規定によることを求めるほか,信者その他の利害関係人にこれらの行為をすることを公告すべきことなどを規定し(同法23条4号,5号,52条2項7号),これらに反してした行為を無効とする(同法24条)ためである。そして,このようにして宗教法人法が境内地を保護している趣旨は,宗教法人が宗教法人として存立する上で境内地が必要不可欠なものであるからと考えられ,そうすると,同法3条にいう「宗教法人の・・・目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地」とは,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない土地を意味するものと解すことができる。
以上によれば,地方税法348条2項3号により固定資産税を課することができない土地(境内地)というには,①宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない土地であって,②宗教法人が専らその本来の用に供するものであることを要することとなる。
(2) ところで,日本国憲法20条は信教の自由を保障するとともに,その1項後段において「いかなる宗教団体も,国から特権を受け,又は政治上の権力を行使してはならない。」と,3項において「国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と,89条において「公金その他の公の財産は,宗教上の組織若しくは団体の使用,便益若しくは維持のため,・・・これを支出し,又はその利用に供してはならない。」として,いわゆる政教分離にかかわる規定を置いている。そして,これらの政教分離規定の基礎となり,その解釈の指導原理となる政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ,そのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁参照)。
そうすると,日本国憲法秩序の下で制定され,施行されている国家又はその機関と宗教とのかかわり合いにかかわる法律の規定の解釈に当たっては,日本国憲法の趣旨に沿い,そもそも日本国憲法が政教分離規定を設けるに当たり,国家と宗教との完全な分離を理想とし,国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたものと解すべきであること(上記判決参照)にかんがみて,国家又はその機関と宗教との過度のかかわり合いをもたらさないよう,国家又はその機関の非宗教性ないし宗教的中立性をより確保できるような解釈をすることが要請されているものと考えられる。
(3) 他方,地方税法342条に規定する固定資産税は,土地,家屋等の資産価値に注目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税と解される(最高裁昭和47年1月25日第三小法廷判決・民集26巻1号1頁,最高裁昭和59年12月7日第二小法廷判決・民集38巻12号1287頁参照)。もっとも,このように固定資産税は所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税と解すべきではあるが,その課税客体たる固定資産自体を処分してその税負担をまかなうことが本来的なものとして予定されていると解することは困難であることにかんがみても,一般に固定資産を基礎として種々の経済的活動が行われ(直接に生産活動等に使用される場合もあれば,住居として使用されるなどして日々の生産活動等を支える場合もあろう。),その結果収益が生じることを期待できることに注目して,そうして得られるであろう収益をもって税負担をまかなうことが想定されているものと解すべきである。
そうすると,地方税法348条2項3号が宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法3条に規定する境内地に対しては固定資産税を課することができない旨規定しているのは,①宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない土地(同条の規定する境内地)であって,②専らその本来の用に供されるものは,宗教法人本来の目的である宗教活動に専ら使用されるものであり,その性質上これが経済的活動の基礎となって収益が生じることを通常期待できず,固定資産税の負担を期待することが可能な程度の担税力を実質的に認めることができないので,これを課税の対象から除外したものと解することができる。その結果,そうした境内地を有する宗教法人はこれに対する固定資産税の課税を免れ,その結果,宗教活動の基盤を維持しやすくなって,宗教法人の布教活動の自由,関係する信者の信教の自由の保障に資することになるが(その限りにおいて,これらの自由を実質的に保障したもの〔乙1の解説〕ということもできよう。),これは,これらの自由を積極的に保障する趣旨で宗教法人を優遇しようとしたものではなく,以上のような観点に出たものと解すべきであり,そのように解することが国家又はその機関の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとした日本国憲法の趣旨にも沿うものということができる。
よって,宗教法人法3条に規定する境内地との要件は,同法の解釈上,既に説示したように,①宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない土地の意味と解すべきであるが,地方税法348条2項3号において別途付加された②専らその本来の用に供されるものとの要件は,以上のような観点から考えるべきであって,そうすると,この要件は,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教法人の本質的な活動のために専ら使用されるものであることを意味するものと解すべきである(以上に説示したところに加え,同項各号に掲げる固定資産が当該各号に掲げる目的以外の目的に使用される場合に固定資産税を課することを定めた同条3項の規定が存することに照らしても,「専らその本来の用に供する」との要件は,宗教法人が布教等の名目で実質的に事業の用に供する場合を除外するために置かれたものであって,そうした場合を除き,宗教法人の目的実現のために使用する場合は広くこの要件に当たると解すべきであるとの控訴人の所論がおよそ失当であることは明らかである。)。
(4) また,外形的事実からはうかがい知ることのできない宗教法人内部の主観的な意図にまで立ち入らないと地方税法348条2項3号の要件該当性が判断できないこととしたのでは,固定資産税の賦課を理由に,市町村及び都(特別区の存する区域における場合。同法734条1項,736条1項)が宗教法人内部の活動に容かいする余地を生み出すことになり,宗教に対する圧迫、干渉等となるなど国家と宗教の過度のかかわり合いが招来されるおそれが強く,ひいては信教の自由を妨げることになりかねない。既に説示した日本国憲法の趣旨に加え,宗教法人法84条が「国及び公共団体の機関は,宗教法人に対する公租公課に関係がある法令を制定し,若しくは改廃し,又はその賦課徴収に関し境内建物,境内地その他の宗教法人の財産の範囲を決定し,若しくは宗教法人について調査をする場合その他宗教法人に関して法令の規定による正当の権限に基く調査,検査その他の行為をする場合においては,宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し,信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。」と規定している趣旨にかんがみても,地方税法348条2項3号の要件該当性の判断は,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にこれを行うべきである。具体的には,対象地の実際の使用状況について,賦課期日に加え,賦課期日以前の状態をも踏まえて認められる外形的,客観的事実関係に基づき,一般の社会通念に照らして,賦課期日現在において同号の要件が認められるか否かを判断すべきであり,また,そうすることをもって足りるものと解するのが相当である。
3 本件各土地について
以上の観点に基づき,本件各土地が平成14年度の賦課期日(平成14年1月1日)及び平成15年度の賦課期日(平成15年1月1日)において,地方税法348条2項3号に規定する境内地に該当したといえるか否かについて,以下,検討する。
(1) 本件土地1について
ア 前記認定事実に加え,証拠(甲9,10,19,22,乙9の2・3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 本件土地1上に控訴人が建築して所有していたαビルは,その構造が鉄骨造陸屋根地下1階地上7階建であり,その種類が事務所及び店舗であった。控訴人は,平成2年ころから平成13年8月28日ころまで,αビルを第三者に賃貸していた。
(イ) 控訴人は,αビルを第三者に賃貸する傍ら,平成9年春ころから,控訴人が管理及び運営する「γ」という墓地の販売をするための「インフォメーションギャラリー」をαビルの1階に設け,墓地の分譲販売を複数の石材業者に担当させていた。控訴人は,仏教徒であれば,宗旨及び宗派を問わずこの墓地を分譲販売し,また,分譲販売をするに当たり檀家になることを要件としていなかった。
(ウ) 控訴人は,平成13年8月28日までに,αビルの賃借人から同ビルの明渡しを受け,同年11月22日ころ,同ビルの解体工事を開始した。
(エ) 平成14年1月3日当時,αビルは解体され,本件土地1付近は建設工事現場の一角であった。
(オ) 平成15年1月4日当時,本件土地1付近は建設工事現場の一角であった。
イ 以上の事実に基づき判断する。
この点,控訴人は,平成9年春ころからαビルの1階において墓地の永代使用等の案内をして,自ら使用していたことを理由に,平成13年8月28日には本件土地1が地方税法348条2項3号に規定する境内地になったと主張している。しかし,控訴人は,宗旨及び宗派を問わず,また,檀家になることも要件とせずに石材業者に墓地の分譲販売をさせるためにαビルの1階を使用していたのであって,このことが信者を教化育成することにどれだけの効果があったのか疑問であることはおくとしても,一般の社会通念に照らして,こうした活動をするために使用していたαビルが宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な控訴人にとって本来的に欠くことのできないものであり,そのため,その敷地であった本件土地1も同様の意味で控訴人にとって本来的に欠くことのできない土地であったと認めることは困難である(墓地の分譲販売が控訴人の宗教活動として本質的なものであるとはにわかに認められないが,その点はおくとしても,同ビルでなければ墓地の分譲販売ができないという理由は思い当たらないから,同ビルが控訴人のこの活動〔宗教活動〕にとって本来的に欠くことができないものであったということはできない。)。また,そのことをもって,同ビルが宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教法人の本質的な活動のために専ら使用されたということもできないのであって(むしろ外形的には,一定の収益を得ることが期待できるような経済的活動が行われていたとも見える状況にあったといえ,その性質上これが経済的活動の基礎となり収益が生じることを通常期待できない活動が行われていたものとは到底いえない。),その後,αビルから賃借人が全員退去し,完全に控訴人が自己使用できる状態になったからといって,平成13年8月28日に本件土地1が地方税法348条2項3号に規定する境内地になったと認めることは不可能である。
そして,その後,αビルが解体されたものの,平成14年1月及び平成15年1月当時,本件土地1付近は建設工事現場の一角にすぎず,それ以上に本件土地1が将来どのような目的で使用されるものであるかが外形的,客観的に判然とする状態にあったとは認められないことに照らせば(控訴人は,平成14年1月1日及び平成15年1月1日当時,本件土地1は復興計画に基づき宗教施設を建設中の土地であったと主張しているが,本件証拠上,定期借地権を設定するスキームを含めた事業計画全体が公にされたのは,建築工事が完成した後の平成15年6月18日のことである〔乙11〕とまでしか認められず,それ以前の平成14年あるいは平成15年の1月1日当時,本件土地1が宗教法人法3条1号に列挙されているような建物又は工作物を建設中の土地であることが外形的,客観的に明らかな状況にあったと認めるに足りる証拠はない。),そのころ,控訴人自身が本件土地1を地方税法348条2項3号に規定する境内地として使用する意図をもって業者に建設工事をさせていたとしても,平成14年度の固定資産税賦課期日及び平成15年度の固定資産税賦課期日において,本件土地1が同号に規定する境内地に該当したと認めることはできない。
(2) 本件土地2について
ア 前記認定事実のほか,証拠(甲19)によれば,次の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,本件土地2を第三者に賃貸し,本件土地2上には平成6年3月31日ころまでに4棟の建物が存在していた。その後,控訴人は,賃借人との間の賃貸借契約をすべて解約し,平成13年6月12日までにそれらの建物はすべて取り壊されて,本件土地2は更地になった。
(イ) 本件土地2は,更地とされた後,控訴人の檀家用駐車場がいっぱいとなるような場合の駐車スペースや控訴人の職員・出入り業者の駐車スペースとして使用されていたほか,近くに住んでいた僧侶の通路として使用されていた。
(ウ) 平成14年1月3日当時,本件土地2付近は,建設工事現場の一角であった。
(エ) 平成15年1月4日当時,本件土地2はその一部が建設途中の建物の敷地とされており,本件土地2付近は全体として建設工事現場の一角であった。
イ 以上の事実に基づき判断する。
この点,控訴人は,本件土地2が更地となった平成13年6月12日ころ,遅くとも控訴人において宗教行事が行われ本件土地2が駐車場として使用された同年7月21日には,本件土地2が地方税法348条2項3号に規定する境内地になったと主張している。しかし,従来,賃貸借により第三者が建物敷地として使用してきた本件土地2が更地となって,駐車場として使用されたり,また,僧侶の通路として使用されたりしたとしても,そのことをもって,一般の社会通念に照らして,これが宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な控訴人にとって本来的に欠くことのできない土地となったとは認められない(Bの陳述書〔甲19〕によれば,従来は檀家用駐車場がいっぱいとなった場合には近くの有料駐車場を使っていたというのであるから,むしろ,本件土地2が控訴人にとって上のような意味で本来的に欠くことのできない土地ではなかったことが明らかである。)。本件土地2が同日までに地方税法348条2項3号に規定する境内地となったと認めることはできない。
そして,平成14年1月及び平成15年1月当時,本件土地2付近は建設工事現場の一角にすぎず,同月当時には本件土地2の一部が建設途中の建物の敷地とされていたものの,それ以上に本件土地2が将来どのような目的で使用されるものであるかが外形的,客観的に判然とする状態にあったとは認められないことは本件土地1について説示したところと同様であり(平成14年あるいは平成15年の1月1日当時,本件土地2が宗教法人法3条1号に列挙されているような建物又は工作物を建設中の土地であることが外形的,客観的に明らかな状況にあったと認めるに足りる証拠はない。),そのころ,控訴人自身が本件土地2を地方税法348条2項3号に規定する境内地として使用する意図をもって業者に建設工事をさせていたとしても,平成14年度の固定資産税賦課期日及び平成15年度の固定資産税賦課期日において,本件土地2が同号に規定する境内地に該当したと認めることはできない。
(3) 本件土地3について
ア 前記認定事実に加え,証拠(甲15,19,24,乙9の2・3,10)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 控訴人は,本件土地3を第三者に賃貸し,本件土地3上には平成6年3月31日ころまでに4棟の建物が存在していた。その後,控訴人は,賃借人との間の賃貸借契約をすべて解約し,平成10年6月ころまでにそれらの建物はすべて取り壊された。
(イ) Aは,平成8年7月ころ,控訴人から発注を受けた(仮称)β再開発計画基盤整備工事等のために本件土地3上に事務所を設置した。平成9年3月ころまでには,本件土地3とその南側にある控訴人の墓所との間のさくが取り払われて,同事務所と控訴人の墓所の間で自由に行き来ができるような状態となった。もっとも,本件土地3と墓所との間は,平成12年に至っても,その境界線が明確に分かる状態であった(このことは,平成12年に撮影された航空写真〔甲15〕から認められる。)。
(ウ) 平成14年1月3日当時,本件土地3付近は建設工事現場の一角であった。
(エ) 平成15年1月4日当時,本件土地3付近は建設工事現場の一角であった。
イ 以上の事実に基づき判断する。
この点,控訴人は,遅くとも平成10年6月ころまでには,本件土地3は他の境内地と一体として人の出入りが自由な状態になっていたから,地方税法348条2項3号に規定する境内地になったと主張している。確かに,以上によれば,同月ころまでには本件土地3全体と控訴人の墓所との間で自由に行き来ができる状態となっていたものと認められる。しかし,だからといって,そのことをもって,一般の社会通念に照らして本件土地3が宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない土地となったということはできないし,宗教の教義を広め,儀式行事を行い,及び信者を教化育成するという宗教法人の本質的な活動のために専ら使用されるものとなったともいえないことは多言を要しない(このことは,本件土地3の一部にAの事務所が設置されたとしても同様であることは既に説示したところから明らかである。)。
そして,平成14年1月及び平成15年1月当時,本件土地3付近は建設工事現場の一角にすぎず,それ以上に本件土地3が将来どのような目的で使用されるものであるかが外形的,客観的に判然とする状態にあったとも認められないことは本件土地1及び2について説示したところと同様であり(控訴人は,平成14年1月1日及び平成15年1月1日当時,本件土地3は復興計画に基づき受付施設の敷地及び参道として整備中の土地であったと主張しているが,平成14年あるいは平成15年の1月1日当時,本件土地3が宗教法人法3条1号に列挙されているような建物又は工作物を建設中の土地であり,あるいは,同条2号から7号までに掲げるような土地として整備中の土地であることが外形的,客観的に明らかな状況にあったと認めるに足りる証拠はない。),そのころ,控訴人自身が本件土地3を地方税法348条2項3号に規定する境内地として使用する意図をもって業者に建設工事をさせていたとしても,平成14年度の固定資産税賦課期日及び平成15年度の固定資産税賦課期日において,本件土地3が同号に規定する境内地に該当したと認めることはできない。
4 以上の次第で,本件各土地はいずれも,平成14年度及び平成15年度のいずれの賦課期日においても,地方税法348条2項3号に規定する境内地に該当したとはいえず,そうすると,本件各処分はいずれも適法である。したがって,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきである。
第4結論
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 園部秀穗 裁判官 小海隆則)