東京高等裁判所 平成20年(行コ)39号 判決 2008年9月10日
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人a
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人aに対してした平成10年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額1404万0682円,納付すべき税額マイナス5万6959円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人aに対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額3444万4889円,納付すべき税額マイナス9889円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年11月26日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人aに対してした平成13年分の所得税の決定処分(ただし,同税務署長が平成15年11月26日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
3 控訴人b
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人bに対してした平成10年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額4215万2607円,納付すべき税額マイナス34万5966円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人bに対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額5805万3461円,納付すべき税額マイナス726万3154円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人bに対してした平成12年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額5530万円,納付すべき税額マイナス137万3400円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(4) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人bに対してした平成13年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額5530万円,納付すべき税額マイナス123万6500円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(5) 渋谷税務署長が平成15年9月3日付けで控訴人bに対してした平成14年分の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額7905万円,納付すべき税額マイナス170万0110円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
4 控訴人c
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人cに対してした平成10年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額1561万7083円,納付すべき税額マイナス11万7097円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が平成15年10月28日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人cに対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額476万9267円,納付すべき税額マイナス24万9000円をそれぞれ超える部分並びにこれに伴う重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人cに対してした平成12年分の所得税の決定処分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(4) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人cに対してした平成13年分の所得税の更正処分のうち,給与所得額1274万円,雑所得額0円,納付すべき税額マイナス12万9900円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年11月26日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)並びにこれに伴う重加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
5 控訴人d
(1) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人dに対してした平成10年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額77万8084円,給与所得額8421万1510円,納付すべき税額マイナス3105万8013円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人dに対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額2億0321万8553円,納付すべき税額マイナス7564万0753円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(3) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人dに対してした平成12年分の所得税の更正処分のうち,利子所得額0円,給与所得額1億6930万円,納付すべき税額マイナス5072万6624円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)並びにこれに伴う重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(4) 渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人dに対してした平成13年分の所得税の更正処分のうち,不動産所得額マイナス8247万2324円,利子所得額0円,給与所得額1億6930万円,納付すべき税額マイナス2970万2528円をそれぞれ超える部分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした減額更正処分後のもの)及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(5) 渋谷税務署長が平成15年9月3日付けで控訴人dに対してした平成14年分の所得税の更正処分のうち,不動産所得額マイナス4345万1268円,利子所得額0円,給与所得額1億9305万円,納付すべき税額マイナス1485万0376円をそれぞれ超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
6 控訴人株式会社e(以下「控訴人e社」という。)
(1) 本郷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人e社に対してした平成10年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(2) 本郷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人e社に対してした平成10年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(3) 本郷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人e社に対してした平成11年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(4) 本郷税務署長が平成15年11月26日付けで控訴人e社に対してした平成11年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした同期間分の減額納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算税の各変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(5) 本郷税務署長が平成15年11月26日付けで控訴人e社に対してした平成12年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした同期間分の減額納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算税の各変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(6) 本郷税務署長が平成15年11月26日付けで控訴人e社に対してした平成12年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした同期間分の減額納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算税の各変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(7) 本郷税務署長が平成15年11月26日付けで控訴人e社に対してした平成13年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし,同税務署長が同日付けで同控訴人に対してした同期間分の減額納税告知処分後並びに重加算税及び不納付加算税の各変更決定処分後のもの)をそれぞれ取り消す。
(8) 本郷税務署長が平成15年11月26日付けで控訴人e社に対してした平成13年7月から同年12月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
(9) 本郷税務署長が平成15年3月14日付けで控訴人e社に対してした平成14年1月から同年6月までの期間分の納税告知処分並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定処分をそれぞれ取り消す。
第2事案の概要
1 本件事案の概要は,次のとおり補正し,後記2のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁1行目の「公簿公社債等運用投資信託」を「公募公社債等運用投資信託」に改める。
(2) 原判決11頁24行目の「2700万ドル」を「2700万米ドル」に改める。
2 当審における控訴人らの主張
(1) EB債1取引
ア 控訴人e社は,EB債1の利息をfLPS及びgU/Tの銀行口座に入金し,fLPSの銀行口座に入金された利息は,現在,hU/T,i及びjU/Tの銀行口座に入金されている。これらの各法主体の銀行口座に入金された利息は,当該銀行口座の名義人に帰属し,d家族に帰属するものではない。これらの利息はd家族に流出しておらず,また,d家族はこれらの銀行口座に入金された利息を各法主体の機関の行為を無視して流用しているわけではなく,当該銀行口座はd家族の借用口座ではない。
イ gU/T,hU/T及びjU/Tはいずれも投資信託であるから,その収入は,所得税法13条1項ただし書により,受益者であるd家族には帰属しない。
ウ 仮にEB債1の利息がd家族に帰属するとしても,EB債1の利率21.25%は経済的合理性のある適正利率であるから,当該利息は,全額が利子所得に当たり,その一部がd家族に対する役員報酬に該当するものではない。
エ EB債1の利息は上記アの各法主体が受領したものであるから,仮にこのことによりd家族に直接課税されるとしても,各法主体の各期の損益を通算した期間損益が課税の対象となり,EB債1の受取利息だけを取り出して課税することはできない。
(2) EB債2取引
ア 控訴人e社は,EB債2の利息をhU/T及びkの銀行口座に入金した。これらの各法主体の銀行口座に入金された利息は,当該銀行口座の名義人に帰属し,控訴人d及び控訴人bに帰属するものではない。これらの利息は同控訴人らに流出しておらず,また,同控訴人らはこれらの銀行口座に入金された利息を各法主体の機関の行為を無視して流用しているわけではなく,当該銀行口座は同控訴人らの借用口座ではない。
イ hU/Tは投資信託であるから,その収入は,所得税法13条1項ただし書により,受益者である同控訴人らには帰属しない。
ウ EB債2の利息は上記アの各法主体が受領したものであるから,仮にこのことにより同控訴人らに直接課税されるとしても,各法主体の各期の損益を通算した期間損益が課税の対象となり,EB債2の受取利息だけを取り出して課税することはできない。
(3) lローン
ア mは,lローンの利息をlの銀行口座に入金した。この利息は,当該銀行口座の名義人であるlに帰属し,控訴人c及び控訴人aに帰属するものではない。
イ nU/Tは投資信託であるから,その収入は,所得税法13条1項ただし書により,受益者である同控訴人らには帰属しない。
ウ 仮に同控訴人らに直接課税されるとしても,lローンに係る各法主体(l,o,p及びnU/T)の各期の損益を通算した期間損益が課税の対象となり,lローンの受取利息だけを取り出して課税することはできない。
エ lローンの利率11%は適正利率であるから,lローンに係る支払利息は,全額が控訴人e社の損金に算入されるべきである。仮に11%が適正利率でないとしても,lローンの担保であるα不動産等がいわゆる担保割れしていること等を考慮すれば,適正利率は8.4095%であるから,この限度での支払利息は,控訴人e社の損金に算入されるべきである。
(4) 匿名組合取引
ア q社は,匿名組合分配金をr社の銀行口座に入金した。この分配金は,当該銀行口座の名義人であるr社に帰属し,控訴人dに帰属するものではない。
イ jU/Tは投資信託であるから,その収入は,所得税法13条1項ただし書により,受益者である控訴人dには帰属しない。
ウ 仮に控訴人dに直接課税されるとしても,匿名組合取引に係る各法主体(r社及びjU/T)の各期の損益を通算した期間損益が課税の対象となり,匿名組合取引による収益だけを取り出して課税することはできない。
(5) sファンド取引
投資信託の満期前買取行為は,広く行われていた適法な節税行為であるから,sファンド取引を否認することはできない。
(6) 結婚披露宴関連費用
控訴人aの結婚披露宴関連費用の一部は,結婚披露宴の出席者の多数が控訴人e社の取引関係者であったこと等に照らせば,控訴人e社の交際費に該当する。
(7) 重加算税賦課決定
EB債1取引,EB債2取引,lローン及び匿名組合取引は,いずれも控訴人らが経理処理したとおりの内容であり,また,控訴人らには「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装」するとの故意はなかった。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人bの本件訴えのうち,渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで同控訴人に対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額1936万0300円を超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)の各取消しを求める部分は不適法であり,同控訴人のその余の本件請求及びその余の控訴人らの本件請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決41頁25行目及び42頁3行目の各「f」を「fLPS」に改める。
(2) 原判決54頁12行目から13行目にかけての「購入資金の調達」を「賃貸業等」に改める。
(3) 原判決57頁末行から58頁1行目にかけての「単に当時広く行われていたことから適法な行為であるとはいえないことは明らかであって」を「当時,sファンドを償還日前に証券会社に譲渡した場合には,値上がり益に対する所得税15%及び地方税5%に相当するものとして,受益者が買取請求した日における値上がり益の20%を特別控除額として控除されていた(甲55,乙276,288)ところであり,証券会社以外の第三者にsファンドを譲渡する場合であっても,譲渡を受けた第三者がsファンドの償還を受ける際に値上がり益の20%を源泉徴収されることを考慮せずに譲渡代金が定められることが一般的であったとは考え難い。しかし,本件のsファンド取引は,控訴人e社が償還を受ける際に値上がり益の20%を源泉徴収されることを考慮せずに,控訴人dが控訴人e社に対し譲渡当時の基準価格そのままの代金でsファンドを譲渡したものであって,このような代金でのsファンドの譲渡が当時広く行われていたとは認めることができない。したがって」に改める。
(4) 原判決59頁4行目末尾に「なお,控訴人aの結婚式及び結婚披露宴を企画運営した業者の請求書(甲107の1・2)は控訴人d個人あてに交付されており,控訴人aの結婚披露宴が控訴人e社の主催により執り行われたとの事実を認めるに足りる証拠はない。」を加える。
2 当審における控訴人らの主張について
(1) 控訴人らは,当審においても,EB債1,EB債2及びlローンの各利息並びに匿名組合取引における匿名組合分配金はいずれも入金先の銀行口座の名義人に帰属し,d家族に帰属するものではないと主張する。しかし,先に引用の原判決の理由説示のとおり,これらの各取引の実体は,次のとおりであったと認めることができる。
ア EB債1取引
控訴人dは,控訴人e社が保有するtの株式を譲渡した場合に多額の譲渡益が発生することを懸念し,あらかじめ控訴人e社に欠損を発生させてこれを蓄積することにより,tの株式を譲渡した場合における譲渡所得課税を回避し,控訴人e社に欠損を発生させるために同控訴人から流出する金銭は,控訴人d又はd家族が実質的に支配する海外法人等に留保して,その支配下に置くことを計画した。そして,控訴人dは,控訴人e社ができるだけ利率を高く設定したEB債1を発行することとして,その名義上の購入者となるfLPS,gU/T等を設立し,また,d家族とEB債1取引との関係が明らかにならないよう,これらの海外法人等とd家族との間に別の海外法人等(u,hU/T,jU/T,vLPS,i)を介在させた上,平成10年2月27日及び同年3月6日,d家族の資金により,fLPS,gU/T等が名義人となって,控訴人e社が発行したEB債1を購入した。その後,控訴人e社は,fLPS,gU/T等の銀行口座にEB債1の利息を入金した。fLPS,gU/T,u,hU/T,jU/T,vLPS及びiは,いずれも控訴人d又はd家族が実質的に支配する名義人にすぎなかった。
イ EB債2取引
控訴人e社が平成12年9月5日に発行したEB債2の購入者であるhU/T(受益者は控訴人d及び控訴人b)は上記アのとおりd家族が実質的に支配する名義人にすぎず,同月22日に発行したEB債2の購入者であるk(控訴人dが受益者であるjU/Tの子会社)もd家族が実質的に支配する名義人にすぎず,また,EB債2の購入資金は,fLPSの銀行口座に入金されたEB債1の中途償還金の一部が控訴人e社からu等を経由して,hU/T及びkに移動したものである。
ウ lローン
控訴人e社は,平成11年11月2日付けで,mにα不動産等を20億円余で売却して,23億円余の譲渡損を計上した。mは,平成12年1月31日,lから25億円を利率年11%で借り入れたが,lローンの実体は,w4兄弟がmに利率年3.2%で25億円を融資し,両者の間に控訴人dが実質的に支配する海外法人等(l,o,p,nU/T)を介在させることにより,当初はmが,控訴人e社がmを吸収合併した後は同控訴人がlローンの利息の名目で年11%の割合による金銭を支出し,w4兄弟に対する利息分等を控除した年7.58%の割合による金額に相当する利益を控訴人c及び控訴人aに供与したものである。
エ 匿名組合取引
q社は,平成13年3月27日mからα不動産等を購入し,翌28日,r社を出資者として同不動産等の賃貸営業に係る匿名組合契約を締結した。q社及びr社も控訴人dが実質的に支配するものであり,r社の出資金(q社のα不動産等の購入資金に充てられた。)は,控訴人e社がEB債1の中途償還金としてfLPSの銀行口座に入金した金銭の一部がu,jU/Tを経由してr社に移動したものである。その後,q社がr社の銀行口座に匿名組合契約に係る分配金を入金した。このような匿名組合取引は控訴人dが計画したものであり,r社は上記のとおり控訴人dが実質的に支配する名義人にすぎなかった。
(2) EB債1取引,EB債2取引,lローン及び匿名組合取引の実体は以上のとおりであって,控訴人dが,課税を免れるため,自己又はd家族が実質的に支配して意のままになる多数の海外法人等を介在させた上,EB債取引,lによる融資及び匿名組合取引の外形を作り出したものであって,EB債1,EB債2及びlローンの利息並びに匿名組合契約に係る分配金の入金先はいずれも控訴人d又はd家族の名義人にすぎず,同控訴人又はd家族がその収益を享受しているものと認めることができる。これらの利息及び分配金がd家族のいずれの名義の銀行口座にも入金されていないことは,実際の入金先が同控訴人又はd家族に実質的に支配されている名義人にすぎないことに照らして,上記認定を左右するものではない。
(3) 控訴人らは,gU/T,hU/T,jU/T及びnU/Tはいずれも投資信託であるから,所得税法13条1項ただし書により,その収入は受益者であるd家族には帰属しない旨,及び課税に当たってはEB債1取引,EB債2取引,lローン及び匿名組合取引に関与した各海外法人等の損益を通算すべきである旨を主張するが,EB債1取引,EB債2取引,lローン及び匿名組合取引の実体は上記のとおりであり,これらの取引に関与した各海外法人及び投資信託は名義人にすぎず,これらの取引による収益は直接d家族に帰属するものであるから,同項ただし書が適用される余地はなく,各海外法人等の損益を通算すべきものでもない。また,控訴人らは,EB債1の年21.25%の利息は全額利子所得に当たりd家族に対する役員報酬に該当しない旨主張するが,EB債1取引の実体はd家族の控訴人e社に対する融資であり,年21.25%の利率が通常の融資における適正利率を上回ることは明らかであるから,適正利率を超過する部分は控訴人e社のd家族に対する役員報酬に当たるものというべきである。控訴人らの上記主張は,いずれも採用することができない。
控訴人らは,lローンの利率年11%は適正利率であり,そうでないとしても年8.4095%が適正利率であるから,控訴人e社の支払利息又はそのうち年8.4095%の割合による部分は,同控訴人の損金に算入されるべきであると主張する。しかし,lローンの実体は上記(1)ウのとおりであって,平成14年1月24日の控訴人e社の利息名目の支出のうち年7.58%に相当する部分は控訴人c及び控訴人aに対する利益供与であり,また,同日の時点ではw4兄弟が控訴人e社からの利息の受け皿となっていたxU/Tの受益権を同控訴人に譲渡していたから,年3.2%に相当する部分は,同控訴人に環流しており,w4兄弟に対する利息ではない。したがって,同控訴人の上記名目的な支払利息を同控訴人の損金と認めることはできない。
(4) 控訴人らは各重加算税賦課決定処分が違法である旨主張するが,控訴人らがEB債1取引,EB債2取引,lローン及び匿名組合取引について,真実の法律関係が明らかになることを回避するため,多数の名義人を介在させて形式的な取引の外形を作り出したことは,上来説示のとおりである。したがって,控訴人らは,「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装」したものというべきである。
3 以上によれば,控訴人bの本件訴えのうち,渋谷税務署長が平成15年3月14日付けで同控訴人に対してした平成11年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額1936万0300円を超える部分及びこれに伴う重加算税賦課決定処分(ただし,同税務署長が平成15年9月3日付けで同控訴人に対してした変更決定処分後のもの)の各取消しを求める部分は不適法であるから却下すべきであり,同控訴人のその余の本件請求及びその余の控訴人らの本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川善則 裁判官 菊池洋一 裁判官 德増誠一)