東京高等裁判所 平成21年(ラ)1414号 決定 2009年9月28日
抗告人(原審相手方)
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相手方(原審申立人)
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主文
本件抗告を棄却する。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は,原審判を取り消し,本件を東京家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めるというものであり,その理由は,別紙「抗告理由書」記載のとおりである。
第2事案の概要
1 本件は,妻である相手方(昭和49年×月×日生)が,夫である抗告人(昭和46年×月×日生)に対し,婚姻費用の分担金として,毎月20万円の支払を求めた事案である。
なお,当事者間には長男(平成17年×月×日生)があり,相手方と同居している。
2 原審は,抗告人に対し,平成20年×月から平成21年×月までの間の婚姻費用分担金の未払金合計額50万円及び同年×月から当事者の別居解消又は離婚に至るまでの婚姻費用分担金月額17万円を相手方に対して支払うよう命じたところ,これを不服とする抗告人が本件即時抗告を申し立てた。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人は相手方に対し,原審判が認めた婚姻費用分担額の支払をすべきであると判断した。その理由は,原審判の理由の「第2 当裁判所の判断」1から5まで(原審判1頁21行目から4頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 抗告人は,平成21年×月×日付けで課長職に昇格し,超過勤務手当が支給対象外となった上,賞与も昨今の世界的不況の影響により大幅に減額となっていると主張するところ,確かに,抗告人が同日付けで課長職に昇格し,超過勤務手当が支給対象外となったことは上記引用に係る原審判が認定するとおりであり,また,乙第9号証の1及び第11号証によれば,抗告人の×月期の賞与は,平成20年は129万円であったのが,平成21年は79万円となったことが認められるが,抗告人の収入が平成17年以降平成20年まで毎年増加していたことは上記原審判が認定するとおりであり,平成21年のベース給月額が増加していることは抗告人の自認するところであって,抗告人が課長職に昇格していることにも照らすと,抗告人の平成21年の年収が平成20年のそれよりも減少するのかどうか,減少するとして,いくら減少するのかは予測が困難であって,平成21年の年収額を推計することができないから,婚姻費用分担額は,平成20年分の年収に基づいて算定するほかないというべきである。
3 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 一宮なほみ 裁判官 田川直之 始関正光)
(別紙)
抗告理由書
平成21年×月×日
東京高等裁判所 御中
抗告人代理人弁護士 A
抗告人は,次のとおり抗告理由を陳述する。
1 原審判は,「相手方(抗告人)の年収が平成20年に比し200万円減少するとの主張はにわかに採用することができず,その他,相手方(抗告人)の年収が減少することを裏付ける的確な証拠はないというべきである。」として,「相手方(抗告人)の収入は,平成20年の年収相当額である約1080万円と認めるのが相当である。」と審判している。
しかしながら,抗告人は,平成21年×月×日付で課長職に昇格はしたものの,原審判が認定しているとおり,「超過勤務手当が支給対象外となった」ものであって,次に述べるとおりこれだけで約131万円の減収となるものであり,また賞与も昨今の世界的不況の影響により本年×月に支給された賞与は,昨年×月の賞与の約61%に大幅に減額となっている。
2 これを明らかにするために,昨年1年間(平成20年)の毎月の給与額及び×月と×月のボーナス(業績給)支給額,及び本年1月から最新月までの毎月の給与額と×月のボーナス(業績給)支給額とを一覧表にまとめたものが,別紙「2008年/2009年給与及び業績給明細」である。
また,その証拠として,昨年12か月分の給与月額につき給与明細表を乙8号証の1ないし12として,また昨年のボーナス(業績給)につき一時金/業績給明細を乙9号証の1及び2として,それぞれ提出する。
さらに,本年×月分及び×月分の給与月額につき乙10号証の1及び2(1月分から×月分までの書証は乙2の1ないし5として提出済み)として,また本年×月支給のボーナス(業績給)につき乙11として,それぞれ提出する。
3 而して,別紙「2008年/2009年給与及び業績給明細」を見れば明らかなとおり,本年(2009年)×月以降の月額ベース給は55万円であって昨年(2008年)のそれとは月額2万円前後の差しかなく年間で20万円程度多いにすぎない。
他方,超過勤務手当(第1休日勤務手当及び第2休日勤務手当)は,昨年(2008年)の合計は204万1519円であるのに対し,本年(2009年)×月分までの合計は73万0566円であり(×月分以降はゼロである),その差は131万0953円であり(さらに翌年の2010年には全くゼロとなる。),実質的にはその差額分だけ減収になることは明瞭である。
また,ボーナス(業績給)については,昨年(2008年)×月には129万円であったのに対し本年(2009年)×月には50万円も減額の79万円というほぼ4割近い減収となっている。
これは,昨年秋以来の世界的不況の影響により,○○といえども人員削減,経費削減等の構造改革を進めなければ生き残れない状況になっているためである(乙12)。
したがって,本年×月のボーナス(業績給)も,良くても本年×月の昨年比と同程度の割合しか期待できない経済状況であって,昨年より4割減の40万円程度の減額となることは必至の情勢にある。
なお,一昨年(2007年)×月のボーナス(業績給)は124万円であって(乙13),昨年(2008年)×月は,アメリカ金融界の不況はしりを反映して約14%も減額されている。
4 以上により,昨年と本年との年収を比較すると,ベース給月額では年額20万円程度増額するものの,ボーナス(業績給)では90万円(×月の確定した50万円減及び×月の40万円減の見込み)程度減額となる見込みであり,さらに超過勤務手当が約131万円減額となるので,本年(2009年)の年収額は差引約200万円の減収となることは明らかである。
しかるときは,抗告人の年収は880万円程度であると認むべきであり,これに相手方の年収を約147万円(原審判認定)として,表11の算定表にあてはめれば,婚姻費用月額は「12~14万円」のゾーンに入るべきものとなる。
5 したがって,原審判は,抗告人の年収の認定を誤り,その結果婚姻費用月額の認定を誤ったものであって,取消しを免れない。
よって,本件を東京家庭裁判所に差し戻し適正な婚姻費用を認定されんことを求める。
別紙「2008年/2009年給与及び業績給明細」は省略した。