東京高等裁判所 平成21年(ラ)1670号 決定 2009年10月15日
抗告人
甲野一郎
相手方
有限会社Y
同代表者代表取締役
乙山二郎
主文
1 原決定を取り消す。
2 東京地方裁判所が平成21年7月23日付けでなした不動産引渡命令(同庁平成21年(ヲ)第11314号)を取り消す。
3 本件不動産引渡命令申立て(東京地方裁判所平成21年(ヲ)第11314号)を却下する。
4 本件手続費用は相手方の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「執行抗告状」(写し)及び「再執行抗告理由書」(写し。ただし,添付書類を除く。)記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 本件執行抗告の理由は,原決定が原審「執行抗告理由書」記載の執行抗告理由を判断することなく,原執行抗告を却下したことが不適法であるとするもののようである。一件記録によれば,原決定は,その「理由」の「第2 執行抗告の理由」において,前記「執行抗告理由書」の第1項冒頭部分及び第2項の記載に基づき,執行抗告の理由の主張整理をしたこと,原決定がその上で,その「理由」の「第3 当裁判所の判断」において,前記主張は,執行抗告の理由とはなり得ないものと判断したことが認められる。しかしながら,前記「執行抗告の理由」が不動産引渡命令の要件には直接関係がないとしても,そのことから直ちに(殊に,前記「執行抗告の理由」1は,不動産引渡命令申立手続の違法を主張するものとも解されることをも考慮すると),原執行抗告が「民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたもの」と断ずることは困難である。そうとすると,原執行抗告を却下した原決定は不相当というべきであり,取消しを免れない。
2 そこで,さらに進んで,抗告人の申し立てた原執行抗告について判断する。
(1)一件記録によれば,次の事実が認められる。
ア 相手方は,平成21年4月2日付けで東京地方裁判所に対し,東京地方裁判所平成20年(ケ)第1422事件に関する入札書を相手方代表者名義で提出した。同代表者名下には会社名が**建設株式会社と判読し得る印影(以下「本件株式会社印」という。)がある。
イ 東京地方裁判所は,同月14日,相手方に対し,売却許可決定をした。
ウ 相手方は,同月15日付け委任状により,株式会社Aの不動産競売担当丁田三郎(以下「丁田」という。)に対し,原決定別紙物件目録記載物件の売却交渉を委任したところ,同委任状の代表者名下の印影は,会社名が有限会社Yと判読される。
エ 抗告人は,前記売却許可決定に対して執行抗告をしたが,同執行抗告は,同年6月26日棄却された。
オ 東京地方裁判所の同年7月13日付け代金納付期限通知書が同月15日相手方に送達された。
カ 丁田は,同月16日,東京地方裁判所に対し,同人が相手方の「代理の者」である旨,固定資産税評価証明書を送信する旨,登録免許税額の教示を願う旨,不動産引渡命令申立書の添削を求める旨等を記載し,固定資産税評価証明書,不動産引渡命令申立書草稿を添付したファクシミリを送信し,株式会社Aは,担当者を戊沢として,同日,東京地方裁判所に対し,固定資産税評価証明書を添付して,評価証明書送信書をファクシミリ送信した。
キ 相手方は,同月22日,不動産引渡命令申立書を提出して,本件物件の所有者有限会社B(東京地方裁判所平成21年(ヲ)第11313号)並びに抗告人及び丙川花子(東京地方裁判所平成21年(ヲ)第11314号)に対し,不動産引渡命令を申し立てた。各申立書は相手方代表者自らがその名義で行った形式がとられており,同人名下に本件株式会社印があり,電話090<以下略>担当丁田の記載がある。同日付け売却代金・登録免許税等納付書(買受人の電話として090<同上>とある。)の印影も同様である。
ク 東京地方裁判所は,同月23日,前記各事件につき不動産引渡命令を発した。相手方名義で同日提出された同正本の受書,同年9月10日提出された同正本の送達証明申請書,執行文付与の申立書並びに執行文付不動産引渡命令正本及び送達証明書の受書の相手方代表者名下には本件株式会社印がある。
ケ 丁田は,同年8月4日付け「書類送付のご案内」と題する文書を同封して,調査者を前記戊沢とする付郵便送達の上申書・調査報告書を送付し(封書の差出人として株式会社Aのゴム判が押されている。),これが同月5日,東京地方裁判所に到達した。東京地方裁判所は,同日,丙川花子に対し,不動産引渡命令正本を付郵便の方法で送達した。
コ 前記戊沢が同年8月24日,東京地方裁判所に対し,相手方名義の記録閲覧謄写委任状及び職員(社員)証明書(本件株式会社印によるもの。)を提出して,基本事件の記録閲覧・謄写をした。
(2)以上の事実によれば,本件不動産引渡命令申立ては,相手方の従業員でもない,株式会社A所属の丁田なる者が,書類作成事務を行ったに止まらず,裁判所の許可を受けないまま,自ら代理の者と称して行ったものであることが明らかである。そうすると,弁護士法72条及び民事執行法13条を潜脱する違法があるというべきであって,違法な申立てに基づきなされた本件不動産引渡命令は取消しを免れない。よって,原執行抗告は理由がある。
第3 結論
よって,原決定及び本件不動産引渡命令を取り消した上で,本件不動産引渡命令申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 南敏文 裁判官 野山宏 裁判官 棚橋哲夫)