東京高等裁判所 平成21年(ラ)399号 決定 2009年4月28日
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
1 抗告人A及び抗告人B
原審判主文2(1)を取り消し,本件を東京家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求める。抗告の理由は,別紙即時抗告申立書1記載のとおりである。
2 抗告人C(以下,「相手方C」という。)
原審判主文2を取り消し,本件を東京家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求める。抗告の理由は,別紙即時抗告申立書2記載のとおりである。
第2事案の概要等
本件は,被相続人Dの遺産分割事件であるところ,原審において,平成17年(家)第4989号遺産分割申立事件(甲事件),平成20年(家)第299号寄与分を定める処分申立事件(乙事件)及び平成20年(家)第300号寄与分を定める処分申立事件(丙事件)の3件が併合して審理されて,原審判がされたが,そのうち甲事件について不服があるとして,抗告人A及び抗告人B並びに相手方Cが抗告した。なお,抗告人A及び抗告人Bは,乙事件及び丙事件については,不服申立てをしていないので,両事件は当審における審判の対象とならない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,被相続人の遺産は,原審判主文2項のとおり分割するのが相当であると判断する。その理由は,原審判の「理由」欄記載のとおり(5を除く。)であるから,これを引用する。
2 当審における主張
(1) 抗告人A及び抗告人B
相手方Cの受けた特別受益について
ア 送金ないし交付による金銭的援助
(ア) 相手方Cは,反訴状と題する書面において,甲第2号証に記載された援助のうち582万2000円及び甲第16号証に記載された援助のうち364万4334円を受領したことを認めているにもかかわらず,原審判はこれと反する認定(5頁24行目から6頁1行目)をしている。これは,自白に反する認定である。
(イ) 相手方Cは,陳述書(乙1)において,「免許取得費用として50万円を受けた記憶がある」と記載されているにもかかわらず,原審判はこれと反する認定をしている。
(ウ) 抗告人Aが作成した手書きメモ(甲19)は,振込金受取書(甲3)と符合しており,また同手書きメモ(甲17)は,振込金受取書(甲45)と符合しているものである。したがって,抗告人Aが作成した手書きメモの記載内容をすべて真実とした事実認定をすべきである。
イ 年金保険料はすべて被相続人が負担したもので,相手方Cに年金受給権を取得させるために,23年間継続的に行ったものであるから,生計の資本としての贈与に該当する。
ウ 被相続人は,相手方Cの長男Eを約15年間養育していたものであるから,相手方Cの特別受益を認めるべきである。
(2) 相手方C
ア 相手方Cの受けた特別受益について
原審判は,相手方Cに対する送金の出捐者が被相続人であると安易に認定し,628万5000円の特別受益を受けたと認定している。しかし,振込依頼書(甲3の2~34,45の4~28)の名義が,抗告人Aの別名であるA1の名義であることからすれば,抗告人Aが出捐者とみるのが相当である。また,送金の出捐者を被相続人と決めつけた根拠に,抗告人Aのa株式会社からの給与が平成5年以降減額されていることが挙げられているが,抗告人Aが実兄の遺族恩給を受け続けてきたことが全く考慮されていないのは不当である。よって,相手方Cが628万5000円の特別受益を受けたことはない。
イ 分割方法について
原審判は,代償分割によることを否定しているが,理由がない。原審判は,原審判別紙遺産目録1,2記載の土地建物全体について,共有物分割によって解決するのが妥当だとしているが,これは,紛争の解決を後訴に譲るのみで,何ら解決にはならないばかりか,当事者双方の希望にも反するものである。
3 当事者の主張に対する判断
(1) 抗告人A及び抗告人Bの主張について
ア 上記2(1)ア(ア)の点について,遺産分割事件は,職権探知主義が採用されているから,自白に反する認定であるとの主張自体理由がない。そして,相手方Cの受けたとする582万2000円及び364万4334円について,相手方Cの反訴状と題する書面の記載は,計算上の誤りを指摘したものにすぎないというべきである。また,同(イ)の点についても,同様に,相手方Cが認めたものということはできない。同(ウ)の点については,抗告人Aが作成した手書きメモ(甲17,19)は,一部振込金受取書(甲45)と符合している部分もあるが,このことから,すべての記載につき証明力があるとはいえない。以上いずれについても裏付けとなる客観的証拠がないものについては,特別受益があったという証明がないというのが相当であり,抗告人A及び抗告人Bの主張は理由がない。
イ 同イの点について,保険料本人負担分(保険料の半額)を被相続人が負担していたことを認めるに足りる証拠はないばかりか,仮に負担していたとしても,その金額からすると,生計の資本とはいえず,抗告人A及び抗告人Bの主張は理由がない。
ウ 同ウの点については,特別受益として持戻しの対象となるのは,共同相続人に対する贈与のみであるから,その親族に対して贈与があったことにより共同相続人が間接的に利益を得たとしても,これは特別受益には該当しないものであり,これが実質的に共同相続人に対する贈与に当たると認められる場合にのみ,当該相続人に対する特別受益となるものというべきである。本件においては,被相続人の相続人ではない相手方Cの長男Eに対する養育費用の支払は,被相続人が現実にEを養育していたことにかんがみれば,実質的に相手方Cへの生前贈与に当たると認めることはできない。したがって,抗告人A及び抗告人Bの主張は理由がない。
(2) 相手方Cの主張について
ア 上記2(2)アの点については,一件記録によれば,抗告人A自身が,個々の援助の詳細な内容や経緯を覚えていないこと,子に対して援助を行う場合は,両親協議の上で,世帯主である夫(被相続人)から支出されるのが一般的であること,生活の援助をするについて,抗告人Aが夫(被相続人)を差し置いて,又は内緒で行う必要性が認められないこと,被相続人の方が抗告人Aより所得総額が多かったことからすると,相手方Cに対する送金の出捐者が被相続人であると認められるものであり,振込依頼書(甲3の2~34,45の4~28)の名義が,抗告人Aの別名であるA1の名義であること及び抗告人Aが遺族年金を受領していたことは,上記認定を覆すに足りない。
イ 同イの点については,代償分割は,代償金の支払能力があることが要件である(最高裁平成12年9月7日第一小法廷決定・家裁月報54巻6号66頁)ところ,一件記録によれば,抗告人Aは,代償金を一括して支払う資力がないことが認められ,さらに抗告人A及び抗告人Bが即時一括による代償分割を希望しないことも考慮すると,代償分割を採用することはできない。
4 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大橋寛明 裁判官 辻次郎 佐久間政和)
<以下省略>