東京高等裁判所 平成21年(行コ)121号 判決 2009年8月19日
控訴人
医療法人X会
代表者理事長
A
訴訟代理人弁護士
山下俊夫
福田浩久
被控訴人
国
代表者法務大臣
森英介
処分行政庁
中央労働委員会
指定代理人
B他4名
被控訴人補助参加人
全国一般労働組合長崎地方本部
長崎地区合同支部
代表者執行委員長
乙山次郎
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 中央労働委員会が,中労委平成18年(不再)第39号不当労働行為再審査申立事件につき,平成19年9月19日付けでした命令を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,控訴人が,①その経営するX会病院(以下「本件病院」という。)の看護助手であって,被控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)の下部織であるX会病院分会の分会長であるC(以下「C」という。)に対して,本件病院施設内に組合旗を設置したことを理由として平成16年10月22日に停職3か月(停職期間は賃金は不支給とされる。)の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)をしたこと,②補助参加人からの平成16年10月12日付け団体交渉(以下「本件事前団体交渉」という。)の申入れに応じなかったこと(以下「本件事前団体交渉拒否」という。)につき,中労委によって,上記①(本件懲戒処分)が労働組合法(以下「労組法」という。)7条3号の不当労働行為に,上記②(本件事前団体交渉拒否)が同条2号所定の不当労働行為にそれぞれ当たるとされ,バックペイ及び文書手交を命ずる内容の救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発せられたことから,本件救済命令を不服として,その取消しを求めた事案である。
原判決は,本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に,本件事前団体交渉拒否は同条2号の不当労働行為にそれぞれ当たると判断し,これを認めた本件救済命令が違法であるとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。
控訴人は,これを不服として,控訴した。
2 事案の概要の詳細は,当審における当事者の主張を後記3のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
ア 本件懲戒処分について,控訴人に何らの不当労働意思はなく,また,これがあったことを裏付ける客観的事実も存在しないのであるから,支配介入の不当労働行為が成立しないことは明白である。
イ 控訴人においては,就業規則・労働協約・個別的労働契約のいずれにおいても,労働者に懲戒処分を科す場合に,当該労働者あるいは労働組合と事前に協議等することは必要とされていない。本件において,組合側には本件懲戒処分がなされるまでに団体交渉を行うことを求める法的権利はなく,控訴人側にはこのような団体交渉に応ずるべき法的義務はなかった。したがって,本件事前団体交渉拒否は不当労働行為に当たらない。
(2) 被控訴人及び補助参加人の主張
ア 原判決の認定した本件組合旗設置に至る経緯,平成16年度夏期一時金に関する団体交渉,本件組合旗設置とその後の状況,本件組合旗設置による影響等,本件懲戒処分に至る経緯,本件以外の組合旗等設置事例などの事実関係によれば,A理事長就任後の労使関係においては,補助参加人(組合)及びC分会長に対する控訴人の嫌悪を十分推認することができ,本件懲戒処分が不当労働行為に当たることは明らかである。
イ 本件事前団体交渉拒否が不当労働行為に当たることについては,原審で主張したとおりである。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提となる事実並びに関係各証拠及び弁論の趣旨により認められる事実は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の「1 認定事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決21頁1行目の前に,次のとおり加える。
「コ 補助参加人は,平成16年10月18日,控訴人を被申立人として,前記カのとおり,控訴人が本件組合旗設置等を理由にCに対して懲戒処分を科すことを前提に弁明を求めたこと,前記ク,ケのとおり,控訴人が補助参加人からの本件事前団体交渉申入れに応じなかったこと等が不当労働行為に当たると主張して,長崎県労委に本件初審申立てをした。」
(2) 同21頁1行目の冒頭の「コ」を「サ」に,25行目冒頭の「サ」を「シ」に改める。
2 争点に対する判断
(1) 本件懲戒処分が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか
当裁判所も,本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず,控訴人がこれについて懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが,本件懲戒処分(停職3か月,その間,賃金不支給,本件病院敷地内立入禁止)は,懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり,また,前記認定の事実関係からすると,A理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから,本件懲戒処分は,補助参加人及び補助参加人による組合活動に対する嫌悪を主たる動機として,補助参加人の下部組織の分会長であるCに対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり,本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。
その理由の詳細は,以下のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の2(1)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決26頁8行目の「本件懲戒処分は,」の前に「前記認定事実によれば,控訴人は平成16年2月以降前件団体交渉拒否事件に係る不当労働行為を行っており,補助参加人に対し同年6月9日付けでD前理事長時代に締結された事前協議についての労使協定等を同年9月15日をもって解約する旨通告し,同年7月27日に従業員に配布した「従業員の皆様へ 夏季賞与(ボーナス)について」と題するビラに組合旗に関して組合活動を揶揄し蔑視する記載をし,同年10月22日に本件懲戒処分をした直後からCの立入りを監視し阻止するために6名ものガードマンを雇って配置したというのであり,これらの事実関係からすると,A理事長に交替した後の労使関係において,控訴人が補助参加人(組合)及び補助参加人による組合活動を嫌悪していたことが十分に推認され,」を加える。
(2) 本件事前団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか
組合員に対する懲戒処分の基準及び手続は,労働条件その他の待遇に関する事項であり,義務的団体交渉事項に該当するところ,前記認定の事実関係からすると,本件病院敷地内に組合旗を設置したことを理由とする懲戒処分については,処分の基準が不明確であり,同様の処分の先例もなかったのであるから,懲戒処分に関して事前協議を行う旨の労使協定が存在しなくても,控訴人は補助参加人(組合)からの本件事前団体交渉の申入れに応じなければならない義務があり,いかなる懲戒処分をするかがまだ決定していないことや懲戒処分後に団体交渉に応じることをもって団体交渉拒否を正当化することはできないというべきである。したがって,本件事前団体交渉拒否は労組法7条2号に当たるものである。
3 結論
以上によれば,本件懲戒処分が労組法7条3号の不当労働行為に,本件事前団体交渉拒否が同条2号の不当労働行為にそれぞれ当たるとした本件救済命令が違法であるということはできず,控訴人の本件請求は理由がない。
よって,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却する。
(裁判長裁判官 小林克巳 裁判官 山﨑まさよ 裁判官 林俊之)